【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1が開示する補修装置は、ランスを傾動機構により傾倒させて先端部(ランスヘッド)に設けられた噴射ノズルの高さを加減できるので、前記噴射ノズルの高さを加減するランスの操作に作業者の労力を要しない。このように、ランスの操作をどんどん自動化していくと好ましく思えるが、前記自動化が進むとどうしても補修装置が大型化したり、高価になったりして、様々なコークス炉に導入し難くなる問題が出てくる。また、作業者がランスの傾倒角度を細やかに操作して、噴射ノズルの高さを微調整できることが望まれる。これから、ランスを傾倒自在に一点支持して作業者が操作する補修作業が好まれて利用されている。
【0006】
ランスを傾倒自在に一点支持する補修作業では、支点は作業足場に置いた専用の支持具や高所作業台の手摺として与えられる。いずれも、ランスに与えられる支点は、先端部からランス本体の大部分をコークス炉に挿入する関係から、基端部に偏って設けられる。このため、前記先端部から支点までのモーメントが大きくなり、作業者のランスを傾倒させる労力が大きくなる問題がある。この点、ランスが短かったり、一重管であったりすれば、前記モーメントはそれほど大きくならないが、ランスが長くなったり、冷却を考慮した二重管、三重管になったりすると、前記モーメントによる作業者の負担が無視できない。
【0007】
ランスが長くなったり、二重管、三重管になったりしてモーメントが大きくなると、ランスの先端部に設けた噴射ノズルを目標の炉壁に接近させて、きちんと停止させる操作が難しくなり、噴射ノズルの高さを微調整できる利点が損なわれてしまう問題が出てくる。また、モーメントに対抗しながらランスを細かく操作しようとすると、ランスの行き過ぎる傾きを無理に抑えようとしてかえってランスがふらついたり、先端部から支点までが振動したりして、ランスを安定して操作できなくなり、やはり噴射ノズルの高さを微調整できる利点が損なわれてしまう問題を招く。
【0008】
このように、ランスを傾倒自在に一点支持して作業者が前記ランスを操作する補修作業は、ランスに掛かるモーメントが様々な問題をもたらしている。ランスが長尺にならざるを得ない現状を鑑みれば、モーメントそのものをなくすことはできない。そこで、長尺なランスのモーメントがもたらす問題を解決するべく、ランスを傾倒自在に一点支持して作業者が前記ランスを操作する補修作業に際して、ランスの操作を補助する、すなわちランスの先端部を下げるために前記ランスの支点から基端部の間を持ち上げる場合、ランスに掛かる勢いを減殺し、またランスの先端部を上げるために前記ランスの支点から基端部の間を押し下げる場合、ランスの押し下げに必要な力を補填できるランス操作補助装置を開発するため、検討した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
検討の結果開発したものが、チューブからロッドを上方に向けて突出させるシリンダ
の下端部を、作業足場に置いて作業者が踏むアンカーに対して、連結部材により姿勢自在に連結して構成され、シリンダは、ランスに少なくとも上方から係合する係合部をロッドに設け、チューブの
上方にある前室の前給排口にレギュレータを設け、前記レギュレータを介して前給排口から前室に加圧媒体を給排し、チューブの
下方にある後室の後給排口から前記後室に加圧媒体を自然給排するランス操作補助装置である。作業足場は、ランスを操作する作業者が立つ足場を意味し、作業者がアンカーを安定して踏み続けることのできる平面があれば足り、例えばコークス炉窯に面する作業床や高所作業台である。
【0010】
本発明のランス操作補助装置は、ランスの傾倒に際するランスの勢いの減殺や力の補填を、レギュレータが加圧媒体を自動給排して伸長又は縮退するシリンダのロッドにより実現する。ランス操作補助装置は、作業足場に置いたアンカーを作業者が踏みつけて位置固定し、前記アンカーに対して姿勢自在に支持されたシリンダから上方に向けて伸長又は縮退するロッドに設けた係合部を、支点から基端部の間(基端部含む。以下、同じ)でランスに少なくとも上方から係合する。係合部は、ランスの傾倒を妨げなければ、ランスを把持するクランプから構成してもよい。作業者は、支点とシリンダとの間に立ってもよいし、シリンダより基端部寄り、すなわち支点との間にシリンダを挟んで立ってもよい。
【0011】
シリンダは、加圧媒体を問わず、液圧シリンダ又は気圧シリンダのいずれも利用できるが、工場等では加圧媒体として空気(圧縮空気)が供給されていることから、空気圧シリンダ(エアシリンダ)が好適である。液圧シリンダは、給排がいずれも加圧媒体である。エアシリンダは、例えばピストンを押す圧縮空気を前室に給排し、大気(加圧されていない空気)を後室に給排する。これから、エアシリンダについては、後室に給排する大気(加圧されていない空気)も、本発明の加圧媒体の一種とみなす。レギュレータは、チューブの前給排口に直接設けるほか、前記前給排口に接続される加圧媒体の供給経路に介在させてもよい。自然給排は、チューブの後室の後給排口が開放され、加圧媒体が流入及び流出が自由であることを意味する。シリンダは、ランスの傾倒に応じてロッドを伸長又は縮短させながら、連結部材の働きにより、アンカーに対する姿勢(垂直面又は水平面内の傾き)を変化させる。
【0012】
連結部材は、アンカーに対してチューブを姿勢自在にする、すなわちチューブの姿勢を自在に変化させることのできる可撓部材(ワイヤー、ベルト等)又は屈曲部材(チェーン、シャックル、ユニバーサルジョイント等)の一つ又は組み合わせから構成される。係合部は、ランスとロッドとを着脱自在にする接続部材で、ロッド途中に設けてもよいが、通常ロッドの先端部に設けられ、持ち上がるランスに少なくとも上方から係合できればよく、フック(鉤)のほか、ランスの傾倒を妨げなければ、ランスを把持するクランプでもよい。
【0013】
アンカーは、作業足場に置いて作業者が踏みつけることにより、連結部材を介してシリンダの浮き上がりを防止する部分で、作業者が安定して踏みつけることができれば、構成部材の素材や全体構成又は全体構造を問わない。これから、本発明に利用されるアンカーは、耐熱性が要求される場合、もちろん金属板又は金属パイプから構成されることになるが、それほど耐熱性が要求されない場合(作業床や高所作業台はそれほど熱くならない)、樹脂板又は樹脂パイプや木製の平板又は棒材でも構わない。また、後述するように、2部材から構成されるアンカーであれば、金属板又は金属パイプや耐熱性を備えた樹脂板又は樹脂パイプを組み付けて構成してもよい。
【0014】
作業者は、加圧媒体を給排するレギュレータに設定圧力を設定し、補修作業を開始する。レギュレータの設定圧力は、加圧媒体の供給側(一次側)に対する供給先(二次側)の圧力で、本発明ではシリンダの前室の加圧媒体の圧力にあたる。すなわち、シリンダの前室の加圧媒体の圧力が設定圧力を上回ると、レギュレータを通して前室の加圧媒体が排出され、逆に前記前室の加圧媒体の圧力が設定圧力を下回るとレギュレータを通して加圧媒体が前室へ供給される。これにより、シリンダは、前室の加圧媒体の圧力が設定圧力になるようにロッドを伸縮させ、前記ロッドの伸縮を上回るランスの姿勢変化を抑制する。
【0015】
ランスの先端部を下げる場合、作業者がランスの支点から基端部の間を持ち上げる。シリンダは、ランスに少なくとも上方から係合部を係合させているため、ロッドがランスに引き上げられてピストンを上昇させ、前室の加圧媒体を圧縮する。こうして圧縮された前室の加圧媒体は、レギュレータの設定圧力を超えると、レギュレータを通して前室から排出される。同時に後室へ加圧媒体が流入するが、前記後室への加圧媒体の流入はピストンの上昇を特に妨げない。しかし、前室からの加圧媒体の排出は、ピストンが上昇する際の抵抗となる。こうして、レギュレータを通して前室からの加圧媒体の排出がランスの上昇に対する抵抗になり、ランスの支点から基端部の間を持ち上げる際にランスに掛かる勢いを減殺する。
【0016】
「加圧媒体の排出がランスの上昇に対する抵抗にな」るとは、ロッドを引き上げるランスの上昇に比べてロッドの伸長が遅れ気味であることを意味する。このように、ロッドの伸長がランスの引き上げに比べて遅延していると、シリンダとアンカーとを結ぶ連結部材は緊張したままとなり、作業者に踏まれたアンカーがランスに従って連れ上がりすることを防止できる。このとき、アンカーに掛かる負荷は、ランスを持ち上げる力ではなく、ランスの先端部から支点までの長さに比例するモーメントに対抗する力であり、ランスを操作する前のアンカーを作業者が踏んで安定にランスを支持できていれば、そのまま作業者の踏む力だけでアンカーを押さえ込むことができる。
【0017】
ランスの先端部を上げる場合、作業者がランスの支点から基端部の間を押し下げる。係合部がランスに上方から係合しているだけであれば、前記ランスの支点から基端部がロッドを引き上げようとしていた負荷が低下するため、前記負荷の低下に応じてロッドを縮短してピストンを下降させ、前室の加圧媒体を膨張させる。係合部がランスを把持していれば、前記ランスの支点から基端部と共にロッドを縮短してピストンを下降させ、前室の加圧媒体を膨張させる。膨張した前室の加圧媒体がレギュレータの設定圧力を下回ると、レギュレータを通して外部の供給源から新たな加圧媒体が供給される。同時に後室から加圧媒体が流出するが、前記加圧媒体の後室からの流出はピストンの下降を特に妨げない。前室への加圧媒体の流入は、ピストンの下降を促す力となる。こうして、レギュレータを通して前室へ流入する加圧媒体がロッドの縮短を助け、ランスの支点から基端部の間を押し下げる際に必要な力を補填する。
【0018】
ランスの支点から基端部の間を押し下げてロッドを縮短させる場合、前室へ加圧媒体を供給してピストンを強制的に押し下げることから、ランスの下降に遅れることなくロッドの縮短が追随する。このように、ロッドの縮短がランスの押し下げに遅れることなく追随していると、シリンダとアンカーとを結ぶ連結部材は緊張したままとなり、係合部がランスから外れてランスの支点から基端部の間を押し下げる際に必要な力を補填する働きを損ねる虞がなくなる。このとき、アンカーに掛かる負荷は、ランスを持ち上げる力ではなく、ランスの先端部から支点までの長さに比例するモーメントに対抗する力であり、ランスを操作する前のアンカーを作業者が踏んで安定にランスを支持できていれば、そのまま作業者の踏む力だけでアンカーを押さえ込むことができる。
【0019】
アンカーは、作業足場に置いて作業者が踏みつけ、連結部材を介してシリンダを姿勢自在に位置固定できれば、構成又は構造を問わないが、連結部材を接続する本体部と、前記本体板に交差する補助部とを一体にした構成にすると、ランスに対して身体を斜めに開く作業者が、自然な足の開きに応じて、例えば右足で本体部を踏み、左足で補助部を踏み分けることができる。また、本体部の端部に、前記本体部に直交する補助部を一体にしたアンカーとすれば、補助部を軸として本体部を上方に持ち上げ、前記補助部を滑らせて持ち上げたままの本体部を水平旋回させる、すなわちアンカーの向きを容易に変更できる。
【0020】
アンカーは、単一部材で構成される場合や、上述のように、本体部及び補助部の2部材から構成される場合でも、各部材の作業足場に向いた下面が平坦面、反対の上面が凸面であることが望ましい。作業者は、補修作業の間、負荷の掛かるアンカーを踏み続ける必要がある。平坦面であるアンカーの下面は、アンカーを作業足場に安定して置けるようにする。また、凸面であるアンカーの上面は、例えば作業者が踵又は爪先を作業足場に接地して前記踵又は爪先を軸に足を倒すように押し付けたり、土踏まずが跨ぐように足全体で押し付けたりできるようにし、作業者が長時間にわたってアンカーを踏みやすくする。アンカーの上面は、凸面であれば、段差があっても、全体に円滑面であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のランス操作補助装置は、アンカーにより作業足場に対して姿勢自在に位置固定したシリンダの前室へレギュレータにより加圧媒体を自動給排させることにより、ランスを傾倒自在に一点支持して作業者が前記ランスを操作する補修作業に際し、先端部を下げるために支点から基端部の間を持ち上げるランスに掛かる勢いを減殺し、また先端部を上げるために支点から基端部の間を押し下げるランスの前記押し下げに必要な力を補填して、ランスを操作する作業者の労力を大きく減らす効果をもたらす。また、シリンダは、ロッドの係合部をランスに少なくとも上方から常に係合しているので、ランスの支点から基端部の間がモーメントにより持ち上がることが抑制でき、作業者によるランスの細かな傾倒操作がやりやすくなる効果をもたらす。
【0022】
シリンダを姿勢自在に位置固定するアンカーは、連結部材を接続する本体部と補助部とを交差させて構成することにより、作業者が踏みつける部位を増やし、アンカーを踏む作業者の姿勢に自由度を与え、例えばランスの傾倒操作がしやすい姿勢を作業者に取らせることもできるようにする。また、アンカーは、下面を平坦面とし、上面を凸面とすることにより、作業足場に安定して置き、かつ作業者が踏みやすくなり、アンカーを踏む作業者の負担を軽減する。これから、前記本体部及び補助部の下面が平坦面、上面が凸面であれば、作業者がどのような姿勢を取ろうとも、長時間にわたって安定してアンカーを踏み続けることができるようになる。