(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5809496
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月11日
(54)【発明の名称】固体ロケットモータ
(51)【国際特許分類】
F02K 9/95 20060101AFI20151022BHJP
F02K 9/36 20060101ALI20151022BHJP
F02K 9/18 20060101ALI20151022BHJP
【FI】
F02K9/95
F02K9/36
F02K9/18
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-200641(P2011-200641)
(22)【出願日】2011年9月14日
(65)【公開番号】特開2013-60915(P2013-60915A)
(43)【公開日】2013年4月4日
【審査請求日】2014年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】反野 晴仁
(72)【発明者】
【氏名】山口 一郎
【審査官】
橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】
特表平11−503802(JP,A)
【文献】
実開昭48−096304(JP,U)
【文献】
特開昭62−271950(JP,A)
【文献】
米国特許第04999997(US,A)
【文献】
特開平03−054350(JP,A)
【文献】
特開昭57−153946(JP,A)
【文献】
特公昭38−002401(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力容器と、
前記圧力容器内に中空状をなして設けられ、外面から内孔面に向けて形成された点火通路を有する固体推進薬と、
前記固体推進薬の少なくとも内孔面を覆う隔膜部材と、
前記圧力容器頭部の隔壁に設けられた点火器と、
前記隔壁内にて前記点火通路と連通する連通孔と、を備え、
前記点火器の作動による点火薬の燃焼ガスが前記連通孔を通して前記点火通路の頭部側から尾部側へ順次伝達して前記固体推進薬の内孔面に点火することを特徴とする固体ロケットモータ。
【請求項2】
前記圧力容器内に中空状をなして設けられた第1パルス推進薬と、
前記圧力容器の頭部中央に設けられ、前記第1パルス推進薬を点火する点火装置と、を備え、
前記固体推進薬は、第2パルス推進薬として前記第1パルス推進薬より頭部側に設けられ、
前記点火器は、前記圧力容器頭部の隔壁にて前記点火装置周囲に形成され前記連通孔を介して前記点火通路と連通する点火用燃焼室を有することを特徴とする請求項1記載の固体ロケットモータ。
【請求項3】
前記点火通路は前記固体推進薬に穿設された円孔であることを特徴とする請求項1または2記載の固体ロケットモータ。
【請求項4】
前記点火通路は、内孔が複数の光芒を有する星型に形成された前記固体推進薬の切欠部分であることを特徴とする請求項1または2記載の固体ロケットモータ。
【請求項5】
前記隔膜部材は、前記固体推進薬の内孔面に沿って隔膜が延び、当該隔膜の少なくとも頭部側端部に加硫接着により一体をなした保持具を介して前記圧力容器に取り付けられており、
前記保持具は、前記隔膜との加硫接着部分が後方に向かって延びた断面凸状をなしていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の固体ロケットモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体ロケットモータに関するものであり、詳しくは固体ロケットモータの推進薬点火構造に関する。
【背景技術】
【0002】
固体ロケットモータは、圧力容器、ノズル、推進薬、及び点火装置を主要な構成要素としている。推進薬に点火する点火装置は、一般的には、主装薬と当該主装薬に点火する点火器を備えた小型の固体モータ(点火モータ)をなしている。
さらに、固体ロケットモータとしては、単一の圧力容器内に2以上の推進薬が隔膜又は隔壁等により区画して設けられたパルスロケットモータが開発されている。これは、容易に燃焼を停止、再点火することが困難な固体ロケットモータにおいて、異なるタイミングでの燃焼を実現できるという利点がある。
【0003】
具体的には、フィラメント・ワインディング法(Filament Winding)による炭素繊維・エポキシ樹脂組成物からなる圧力容器の尾部側にパルス1(以下、第1パルスという)の推進薬(以下、第1パルス推進薬という)が、頭部側にパルス2(以下、第2パルスという)の推進薬(以下、第2パルス推進薬という)が設けられ、これらの推進薬との間にバリヤ絶縁体(以下、隔膜という)が配置された構成の2パルスロケットモータが開発されている(特許文献1参照)。
【0004】
当該特許文献1の2パルスロケットモータでは、第2パルス推進薬の頭部側の中央に、例えば発泡剤でできている爆薬粒支持体(以下、支持体という)が配置されている。また、第2パルスの点火装置は、第2パルス推進薬の頭部側にある円環状チャンバ内に発火装置爆薬粒(以下、主装薬という)が保持され、当該円環状チャンバから圧力容器内へ連通した複数のノズルポートが設けられて構成されている。
【0005】
そして、第2パルス点火時には、爆管等(以下、点火器という)で主装薬に点火し、その高温ガスを円環状チャンバからノズルポートを通して支持体に衝突させ、支持体を溶融させる。この過程中で第2パルス推進薬が着火し、隔膜を破断して、第2パルスが開始されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平11−503802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ロケットモータの推進薬に点火するには、点火装置の主装薬に十分な燃焼面積が必要である。また、2パルスロケットモータにおいては、第2パルス推進薬へ点火する際に、第2パルス点火装置の主装薬の火炎が第2パルス推進薬と隔膜の間に容易に達することが必須であるため、第2パルス推進薬と隔膜の間に円環状の一定の空間を必要とするが、第1パルス燃焼時には燃焼圧力により当該空間を構造的に維持出来ないことから、従来は、当該空間に瞬間的に燃焼する材料で構成した支持体を設置している。上記特許文献1では、第2パルス推進薬を燃焼させるために、まず第2パルス用の点火装置の主装薬を燃焼させ、その燃焼ガスで支持体を瞬時に溶融させ、当該支持体の溶融後に生じる空間である第2パルス推進薬と隔膜の間の円環状の狭間に燃焼ガスを導き、燃焼ガスが接する隔膜を順次剥離させ、その過程で燃焼ガスに露出する第2パルス推進薬の表面積が順次拡大していくことで第2パルス推進薬に点火している。そして、第2パルスにおける十分な初期推力を得るには第2パルス推進薬の燃焼初期(点火完了後)に十分な燃焼面積を確保する必要がある。
【0008】
しかし、上記特許文献1のように、支持体を設けると、その分部品点数が増加したり、重量増加を招いたり、コストの増加等を招き好ましくない。また、支持体を設ける分、第2パルス推進薬の量が減り推進薬マスレシオ(以下、マスレシオという)が悪化するという問題もある。
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、容易な構成で固体推進薬の点火を可能として部品点数の削減、軽量化、コスト低減を実現するとともに、十分な初期推力を得ることのできるパルスロケットモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、請求項1の固体ロケットモータでは、圧力容器と、前記圧力容器内に中空状をなして設けられ、外面から内孔面に向けて形成された点火通路を有する固体推進薬と、前記固体推進薬の少なくとも内孔面を覆う隔膜部材と、前記圧力容器
頭部の隔壁に設けられ
た点火通路の頭部に位置する点火器と、
前記隔壁内にて前記点火通路と連通する連通孔と、を備え、前記点火器の作動による点火薬の燃焼ガスが
前記連通孔を通して前記点火通路の頭部側から尾部側へ順次伝達して前記固体推進薬の内孔面に点火することを特徴としている。
【0010】
請求項2の固体ロケットモータでは、請求項1において、前記圧力容器内に中空状をなして設けられた第1パルス推進薬と、前記圧力容器の頭部中央に設けられ、前記第1パルス推進薬を点火する点火装置と、を備え、前記固体推進薬は、第2パルス推進薬として前記第1パルス推進薬より頭部側に設けられ、前記点火器は、前記圧力容
器頭部
の隔壁にて前記点火装置周囲に形成され
前記連通孔を介して前記点火通路と連通する点火用燃焼室を有することを特徴としている。
【0011】
請求項3の固体ロケットモータでは、請求項1または2において、前記点火通路は前記固体推進薬に穿設された円孔であることを特徴としている。
請求項4の固体ロケットモータでは、請求項1または2において、前記点火通路は、内孔が複数の光芒を有する星型に形成された前記固体推進薬の切欠部分であることを特徴としている。
【0012】
請求項5の固体ロケットモータでは、請求項1から4のいずれかにおいて、前記隔膜部材は、前記固体推進薬の内孔面に沿って隔膜が延び、当該隔膜の少なくとも頭部側端部に加硫接着により一体をなした保持具を介して前記圧力容器に取り付けられており、前記保持具は、前記隔膜との加硫接着部分が後方に向かって延びた断面凸状をなしていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
上記手段を用いる本発明によれば、内孔面が隔膜部材で覆われた中空状の固体推進薬に、外面から内孔面に向けて点火通路を形成し、点火器は当該点火通路内に燃焼ガスを送ることで当該固体推進薬に点火する。
このように固体推進薬に点火通路を形成することで、点火時における燃焼面積を拡大することができる。また、当該点火通路は隔膜部材により内孔側が閉じられた空間であり、点火器から燃焼ガスを送り込むことで、点火通路内の圧力が上昇することから、点火モータ(点火装置の主装薬)を用いることなく、容易に固体推進薬に点火することができる。
【0014】
したがって、従来のように支持体を設けたり、主装薬を備えた点火装置等を用いることなく、点火薬の燃焼ガスから直接的に第2パルス推進薬に点火することができ、支持体や点火装置の主装薬を設けない分、部品点数は減り、軽量化も図られ、コストも低減する。また、従来支持体を設けていた部分にも第2パルス推進薬を充填できることからマスレシオを向上させることもできる。
【0015】
また、当該点火通路内で生じた燃焼ガスは隔膜部材を剥離させつつ固体推進薬の内孔面を燃焼させることとなり、燃焼初期に点火通路から固体推進薬の表面に亘って十分な燃焼面積を得ることができ、これにより十分な初期推力を得ることができる。つまり、点火通路の形状、数、長さ等を調整することで、必要な初期推力を容易に得ることができる。
以上のことから、容易な構成で固体推進薬への点火を可能として部品点数の削減、軽量化、コスト低減を実現するとともに、十分な初期推力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る固体ロケットモータの全体構成を示す縦断面図である。
【
図5】点火通路の第1変形例を示す要部拡大縦断面図である。
【
図6】点火通路の第2変形例を示す要部拡大横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1〜4を参照すると、
図1には本発明の一実施形態に係る固体ロケットモータの全体構成を示す縦断面図、
図2には
図1の要部拡大縦断面図、
図3には隔膜部材の一部切欠斜視図、及び
図4には
図2の頭部拡大縦断面図がそれぞれ示されている。
図1に示す固体ロケットモータ1は、外殻をなす圧力容器2の尾部にノズル4が設けられている。当該固体ロケットモータ1は2パルスロケットモータであり、圧力容器2の内部には、中空状の固体燃料である第1パルス推進薬6が尾部側に、同じく中空状の固体燃料である第2パルス推進薬8が頭部側に設けられている。第2パルス推進薬8は、内孔面及び尾部端面が隔膜部材10に覆われている。また、圧力容器2の頭部には第1パルス推進薬6に点火するための点火装置12、及び第2パルス推進薬8に点火するための点火器14がそれぞれ設けられている。
【0018】
詳しくは、圧力容器2は、2分割方式の金属モータケースであり、同径の略筒形状をなした頭部側ケース2aと尾部側ケース2bとが同軸上に連結されて構成されている。頭部側ケース2a及び尾部側ケース2bは、頭部側ケース2aの尾部側開口縁と尾部側ケース2bの頭部側開口縁とが複数のボルトにより締結されている。当該圧力容器2の材料としてはチタン、マルエージング鋼、D6AC鋼、クロムモリブデン鋼等が用いられるのが好ましい。また、当該圧力容器2の外周は外部インシュレータ16により覆われている。
【0019】
第1パルス推進薬6は、先に燃焼する第1パルス用の固体推進薬であり、圧力容器2の軸方向(以下、単に軸方向という)に延びた中空円筒形状をなしている。当該第1パルス推進薬6は尾部側ケース2b内に尾部側断熱材18(
図2)を介して設けられている。当該第1パルス推進薬6の内孔は、軸方向中央部から頭部側にかけて断面が複数の光芒を有する星型をなして燃焼面積を増大させている。また、当該第1パルス推進薬6は、コンポジット推進薬である。なお、第1パルス推進薬の内孔は全域を断面円形としてもよいし、星型等の光芒断面を軸方向中央部から後方等、任意の位置に形成して構わない。
【0020】
第2パルス推進薬8は、後に燃焼する第2パルス用の固体推進薬であり、軸方向に延びた中空円筒形状をなしている。
図2に詳しく示すように、当該第2パルス推進薬8は頭部側ケース2a内に頭部側断熱材20を介して設けられている。当該第2パルス推進薬8の内孔断面は円形をなしている。当該第2パルス推進薬8はコンポジット推進薬である。
また、第2パルス推進薬8には、頭部側の外面、即ち圧力容器頭部の隔壁2c部分に対応する部分、から内孔面に向かって斜めに点火孔(点火通路)22が穿設されている。当該点火孔22は円孔であり、周方向に4〜16個程度形成されている。
【0021】
隔膜部材10は、断熱性を有するEPDMゴムからなる隔膜24が、両端に設けられた隔膜保持金具26a、26b(保持具)を介して圧力容器2に取り付けられている。
図2、3に詳しく示すように、隔膜24は、第2パルス推進薬8の内孔面に沿って軸方向に円筒状に延びた内面部24aと、内面部24aの尾部側端部から尾部側に傾斜しつつ径方向外側に拡がった端面部24bとからなる略漏斗状をなしている。また、隔膜24は、内面部24aから端面部24bへの屈曲部分が他の部分よりも構造的に脆弱な脆弱部24cとして形成されている。当該脆弱部24cは所定値以上の燃焼圧を受けると破断するような強度に予め設定されている。なお、脆弱部24cの位置はこれに限られるものではない。
【0022】
隔膜保持金具26a、26bはそれぞれ環状をなしており、頭部側の隔膜保持金具26aには頭部側の面に、尾部側の隔膜保持金具26bにおいては外周面に、それぞれ周方向に沿って間隔をあけて複数のボルト穴28a、28bが形成されている。隔膜部材10は、これらのボルト穴28a、28bをボルトで締結することで圧力容器2に取り付けられている。なお、隔膜保持金具26a、26bは、気密性及び耐熱性の点で金属であることが好ましいが、同程度の気密性及び耐熱性を備えていればFRP等からなる保持具としても構わない。
【0023】
ここで、隔膜24と頭部側の隔膜保持金具26aの取り付け構造については
図4に詳しく示されており、当該頭部側の隔膜保持金具26aには、尾部側に向けて縮小した断面凸状の凸部30aが形成されている。そして、当該凸部30aが軸方向に延びる隔膜の内面部24aの頭部側部分に入り込んでおり、当該凸部30aと隔膜の内面部24aとが加硫接着により一体をなしている。
【0024】
尾部側の隔膜保持金具26bについては、
図2に示すように、内方に向けて縮小した断面凸状をなす凸部30bが形成されている。そして、当該凸部30bが、径方向に延びる隔膜の端面部24bの尾部側部分に入り込んでおり、当該凸部30bと隔膜の端面部24bとが加硫接着により一体をなしている。そして、当該端面部24bは、第1パルス推進薬6と第2パルス推進薬8と直接接触して、両者を区画している。
【0025】
点火装置12は、圧力容器2の頭部中央をなす隔壁2cの軸心部分に取り付けられ、第2パルス推進薬8の内孔内、即ち隔膜部材10の内面部24a内方にて、尾部側に向けて突出している。当該点火装置12は、内部に図示しない点火薬、主装薬、及び安全装置が設けられた小型の固体モータをなしており、第1パルス開始時には安全装置を介して点火薬を燃焼させ、当該燃焼ガスにより主装薬の燃焼を生起させ、当該主装薬の燃焼ガスが点火装置12の尾部先端部分から噴射されることで、第1パルス推進薬の点火を行うものである。なお、点火薬としては例えばボロン硝石、主装薬としては例えばHTPB推進薬を用いるのが好ましい。
【0026】
一方、第2パルス推進薬8に点火するための点火器14は、隔壁2cにて点火装置12の周囲に環状に形成された点火用燃焼室32内に設けられている。点火器14は上記点火装置12のような主装薬は備えておらず、点火薬及び安全装置から構成されている。点火用燃焼室32には、隔壁2cを貫通し第2パルス推進薬8の点火孔22と連通する連通孔34が、当該点火孔22と対応した数形成されている。当該点火器14は、第2パルス開始時には、安全装置を介して点火薬を燃焼させ、燃焼ガスを点火用燃焼室32から各連通孔34を通して各点火孔22内に送ることで、第2パルス推進薬8に点火するものである。なお、点火器14の点火薬は上記点火装置12の点火薬と同様にボロン硝石を用いるのが好ましい。
【0027】
以下、このように構成された本発明に係る固体ロケットモータの作用について説明する。
第1パルスについては、上述したように点火装置12内部の点火薬、主装薬が燃焼し、当該点火装置12から噴射された燃焼ガスにより第1パルス推進薬6を点火する。第1パルス推進薬6は内孔面から燃焼していき、この燃焼ガスはノズル4を通って大気中に噴射される。これにより固体ロケットモータ1は第1パルスによる推進力を得る。
【0028】
このとき、第2パルス推進薬8は、両端の隔膜保持金具26a、26bから隔膜24に至って一体構成をなす隔膜部材10により覆われていることで、点火装置12からの燃焼ガスや第1パルス推進薬6の燃焼ガスが侵入することはない。特に、第2パルス推進薬8の頭部側には点火孔22が形成されているが、当該点火孔22より軸心側には隔膜部材10頭部側の隔膜保持金具26aの凸部30aが延びていることから、燃焼ガスから受ける圧力は十分な強度を備える金属の隔膜保持金具26aにより受け止められ、隔膜部材10や第2パルス推進薬8が変形することはない。そして、第1パルス推進薬6の全てが燃焼し終えることで、第1パルスは終了する。
【0029】
第2パルスは、任意のタイミングで点火器14の安全装置を介して点火薬を燃焼させ、その燃焼ガスを点火用燃焼室32から各連通
孔34を通して、点火孔22内に送る。点火孔22は隔膜部材10により内孔側が閉じられた空間であることから、燃焼ガスが送り込まれることで、点火孔22内の体積が十分に小さいため、点火孔22内の圧力が上昇し、点火モータを用いることなく、第2パルス推進薬8への点火がなされる。点火孔22内で生じた燃焼ガスは隔膜部材10を剥離させつつ、第2推進薬の内孔面から尾部端面に沿って燃焼が進行する。隔膜24は、第2パルス推進薬8に対して膨張し圧力容器2の内方側に変形して、他の部分より脆弱な脆弱部24cにて破断する。これにより、第2パルス推進薬8の燃焼ガスがノズル4を通って大気中に噴射されて、当該第2パルスが開始される。
【0030】
このとき、第2パルスの初期推力は第2パルス推進薬の各点火孔22、内孔面、及び尾部側端面の面積に応じたものとなる。そして、第2パルス推進薬8が全て燃焼することで、第2パルスは終了する。
以上のように、本実施形態における固体ロケットモータ1においては、第2パルス推進薬8に点火孔22を形成したことで、当該点火孔22の内周面積分、点火時における燃焼面積を拡大することができる。また、当該点火孔22は隔膜部材10により内孔側が閉じられた空間であり、点火器14から燃焼ガスを送り込むことで、点火孔22内の圧力が上昇することから、点火モータを用いることなく、容易に第2パルス推進薬8に点火することができる。
【0031】
したがって、従来のように支持体を設けたり、点火装置12が備えている主装薬を用いることなく、点火薬の燃焼ガスから直接的に第2パルス推進薬8に点火することができ、支持体や主装薬を設けない分、部品点数は減り、軽量化も図られ、コストも低減する。また従来支持体を設けていた部分にも第2パルス推進薬8を充填できることからマスレシオを向上させることもできる。
【0032】
また、当該点火孔22内で生じた燃焼ガスは隔膜部材10を剥離させつつ第2パルス推進薬8の内孔面及び尾部側端面を燃焼させることとなり、第2パルス開始時に点火孔22から第2パルス推進薬8の表面に亘って十分な燃焼面積を得ることができ、これにより十分な初期推力を得ることができる。また、本実施形態の点火孔22は円孔であり、第2パルス推進薬8に容易に形成することができる。そして、点火孔22の形状、数、長さ等を調整することで、必要な初期推力を容易に得ることができる。
【0033】
さらに、点火孔22を形成することで第2パルス推進薬8の頭部側範囲の剛性が低下したとしても、点火孔22の軸心側に位置する隔膜部材10の頭部側は金属の隔膜保持具26aによって圧力容器2に取り付けられていることから、第1パルス時の燃焼圧は金属の隔膜保持具26aで受け止められる。これにより、第2パルス推進薬8の頭部側範囲の強度を確保でき、当該部分の変形や破断を防ぐことができる。
【0034】
以上で本発明に係る固体ロケットモータの実施形態についての説明を終えるが、実施形態は上記実施形態に限られるものではない。
例えば、上記実施形態における点火孔22のような点火通路の形状、数、長さ等はこれに限られるものではない。
ここで、
図5には点火通路の第1変形例の要部縦断面図が、
図6には点火通路の第2変形例の要部横断面図が、それぞれ示されている。なお、上記実施形態と同じ要素については同じ符号を付している。
【0035】
第1変形例としては、
図5のように、第2パルス推進薬8’に、点線で示した上記実施形態の点火孔22よりも尾部側に長く延ばした点火孔22’が穿設されている。なお、点火孔22’を長く延ばしたことに伴い、当該点火孔22’と連通するよう連通孔34’の位置や形状も変化している。このように、点火孔22’を長くすることで、点火時における燃焼面積が拡大することとなり、第2パルス推進薬8’に点火し易くなるとともに、初期推力を大きくすることができる。
【0036】
第2変形例としては、
図6のように、点線で示した上記実施形態の円孔の点火孔22に代えて、第2パルス推進薬8”の内孔において周方向の複数箇所(
図6では7箇所)を外面から内孔面に亘って矩形に切り欠いた複数の光芒を有する星型として、当該光芒の各切欠部40を点火通路としている。このように、点火通路を光芒の切欠部40とすることで、点火時における燃焼面積を円孔よりさらに拡大することができ、さらなる点火性の向上及び初期推力の向上を図ることができる。なお、当該断面形状、即ち切欠部の形状は矩形に限られるものではなく、例えば切欠部を三角形とした星型断面にしても構わない。
【0037】
さらに、図示しないが、点火通路における他の変形例としては、点火通路の数を増やして燃焼面積を拡大してもよい。
また、第1パルス推進薬6及び第2パルス推進薬8の搭載量等は上記実施形態で示したものに限られるものではなく、用途に応じて適宜設定されるものである。
また、上記実施形態では、固体ロケットモータ1は2パルスロケットモータであるが、これに限られるものではなく、1つの固体推進薬からなる固体ロケットモータや、3つ以上の固体推進薬を備えたマルチパルスロケットモータにも本発明を適用することは可能である。
【0038】
また、上記実施形態では、点火器14は環状の点火用燃焼室32に臨んで設けられているが、点火器の構成はこれに限られるものではない。例えば上記実施形態と同様の点火用燃焼室内に、環状に亘って点火薬を配設させる構成としても構わない。
また、上記実施形態では、隔膜24は第2パルス推進薬8に沿って内面部24aから端面部24bに亘って延びているが、当該隔膜24は少なくとも第2パルス推進薬8の内孔面に沿って延びて当該第2パルス推進薬8を覆っていればよい。例えば圧力容器内に第1パルス推進薬と第2パルス推進薬とを区画する内壁が形成されている場合等は、第2パルス推進薬の内周面に沿って延びる内面部のみの隔膜とする。そして、当該隔膜の両端に隔膜保持金具を設け、前端側の隔膜保持金具は圧力容器の頭部の隔壁に、後端側の隔膜保持金具は第1パルス推進薬及び第2パルス推進薬を区画する内壁にそれぞれ取り付けるものとする。
【符号の説明】
【0039】
1 固体ロケットモータ
2 圧力容器
4 ノズル
6 第1パルス推進薬
8、8’、8” 第2パルス推進薬
10 隔膜部材
12 点火装置
14 点火器
22、22’ 点火孔(点火通路)
24 隔膜
24a 内面部
24b 端面部
24c 脆弱部
26a、26b 隔膜保持金具(保持具)
30a、30b 凸部
32 点火用燃焼室
34 連通孔
40 切欠部(点火通路)