(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記車両の旋回状態から目標ロール状態を算出する目標ロール状態算出手段を備え、前記力調整手段は、前記車体のロール状態が前記目標ロール状態に近づくように、前記力発生装置の力を調整することを特徴とする請求項1に記載の車両運動制御装置。
車両の旋回中に旋回状態に応じた目標前後加速度に基づいて車両に制動力を発生させ車体にピッチ方向の姿勢変化をさせるブレーキ装置を有する車両に用いられ、前記車両の車体と複数の車輪との間に、前記車体と前記各車輪との間の力を調整可能な複数の力発生装置をそれぞれ介装してなるサスペンション制御装置であって、前記ブレーキ装置により旋回中のピッチ方向の姿勢変化を実行中に、前記目標前後加速度に基づく推定ピッチレイトを考慮して前記車体のピッチを抑制するように前記車両の旋回状態から目標ピッチ状態を算出し、前記車体のピッチ状態を前記目標ピッチ状態に近づけるように、前記力発生装置の発生する力を調整することを特徴とするサスペンション制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態による車両運動制御装置を、例えば4輪自動車に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0013】
ここで、
図1ないし
図7は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は車両のボディを構成する車体で、該車体1の下側には、例えば左,右の前輪2(一方のみ図示)と左,右の後輪3(一方のみ図示)とが設けられている。
【0014】
4,4は左,右の前輪2側と車体1との間に介装して設けられた前輪側のサスペンション装置で、該各サスペンション装置4は、左,右の懸架ばね5(以下、ばね5という)と、該各ばね5と並列になって左,右の前輪2側と車体1との間に設けられた左,右の減衰力調整式ショックアブソーバ6(以下、減衰力可変ダンパ6という)とにより構成されている。減衰力可変ダンパ6は、本発明の構成要件である力発生装置(より具体的には、ピッチモーメント発生手段、ロール抑制手段)の一部を構成するものである。
【0015】
なお、本実施の形態では、力発生装置として減衰力調整式ショックアブソーバを用いて説明するが、周知のエアサスペンション、油圧アクティブサスペンション、油圧スタビライザ装置等の車体と車輪の間に設けたシリンダ装置でも本発明を実現することは可能であり、また、車体と車輪間に直動式のリニアモータや回転式のモータを用いた電磁サスペンション装置や電磁式スタビライザを用いても実現可能である。要するに本発明の力発生装置は、車輪と車体の間に直接力を与えることができる装置であれば、他の形態のものであってもよい。この力発生装置と後述のコントローラ16で本発明のサスペンション制御装置を構成する。
【0016】
7,7は左,右の後輪3側と車体1との間に介装して設けられた後輪側のサスペンション装置で、該各サスペンション装置7は、左,右の懸架ばね8(以下、ばね8という)と、該各ばね8と並列になって左,右の後輪3側と車体1との間に設けられた左,右の減衰力調整式ショックアブソーバ9(以下、減衰力可変ダンパ9という)とにより構成されている。減衰力可変ダンパ9は、本発明の構成要件である力発生装置(より具体的には、ピッチモーメント発生手段、ロール抑制手段)の一部を構成するものである。
【0017】
ここで、各サスペンション装置4,7の減衰力可変ダンパ6,9は、減衰力調整式の油圧緩衝器を用いて構成される。そして、この減衰力可変ダンパ6,9には、その減衰力特性をハードな特性(硬特性)からソフトな特性(軟特性)に連続的に調整するため、減衰力調整バルブ、ソレノイド等からなるアクチュエータ(図示せず)が付設されている。なお、減衰力調整用のアクチュエータは、減衰力特性を必ずしも連続的に変化させる構成である必要はなく、2段階または3段階以上で断続的に調整する構成であってもよい。また、減衰力可変ダンパ6,9は、減衰力を切換えることができればよく、空圧ダンパや電磁ダンパであってもよい。
【0018】
10は車体1に設けられたロールレイト検出手段としてのジャイロ等からなるロールレイトセンサで、該ロールレイトセンサ10は、例えば車両のステアリング操作に伴って旋回走行時等に発生する左,右方向の横揺れ振動を検出し、その検出信号を後述のコントローラ16に向けて出力する。なお、ロールレイト検出手段は、車両の横揺れ(ロール角またはロールレイト)を検出できればよく、左,右方向に離間して設けられた2つの上下加速度センサの差分を積分する等の構成であってもよい。
【0019】
11は車体1に設けられたピッチレイト検出手段としてのジャイロ等からなるピッチレイトセンサで、該ピッチレイトセンサ11は、例えば車両の加,減速時等に発生する前,後方向の揺れ振動を検出し、その検出信号を後述のコントローラ16に出力する。なお、ピッチレイト検出手段は、ピッチレイトを検出できればよく、前,後方向に離間して設けられた2つの上下加速度センサの差分を積分して求めるものや、車輪の回転速度の変動分から求めるもの等の構成であってもよい。
【0020】
12は車体1に設けられたヨーレイト検出手段としてのジャイロ等からなるヨーレイトセンサで、該ヨーレイトセンサ12は、例えば車両の重心回りに発生する自転方向の振動等を検出し、その検出信号を後述のコントローラ16に出力する。なお、1つの3次元ジャイロで前述のロールレイトセンサ10、ピッチレイトセンサ11およびヨーレイトセンサ12を兼ねる構成としてもよく、少なくとも前記3つのセンサのうち2つのセンサを兼ねる構成としてもよい。
【0021】
13は車体1側に設けられた操舵角センサで、該操舵角センサ13は、車両の運転者が旋回走行時等にハンドルをステアリング操作するときの操舵角(後述の前輪舵角δ
fに該当する)を検出し、その検出信号を後述のコントローラ16に出力するものである。また、車速センサ14は、例えば車両の走行速度(後述の車速Vに該当する)を検出し、その検出信号をコントローラ16に出力する。
【0022】
15は車体1に搭載されたブレーキ液圧制御装置で、該ブレーキ液圧制御装置15は、後述のGVC制御部41および目標液圧算出部47等と共に制動力制御手段を構成している。ブレーキ液圧制御装置15は、車両のドライバによるブレーキペダルの操作と後述するコントローラ16からの制御信号(制動信号)とに従ってブレーキ液圧を発生させると共に、このブレーキ液圧を増加、保持または減少させる制御を行う。各前輪2側と各後輪3側のディスクブレーキ等からなるホイールシリンダ(いずれも図示せず)は、ブレーキ液圧制御装置15により可変に制御されたブレーキ液圧が供給されると、該当する車輪(各前輪2と各後輪3のいずれか)に制動力を付与することにより、車輪毎の減速制御を実行するものである。なお、本実施の形態では、油圧で制動力を発生するブレーキ
装置を例としているが、電動モータにより制動力を発生するブレーキ装置にあっては、ブレーキ液圧制御装置15は、ブレーキ力制御装置となり、制御電流を求めるものとなる。
【0023】
16はマイクロコンピュータ等により構成される制御手段としてのコントローラで、該コントローラ16は、
図2に示すように入力側がロールレイトセンサ10、ピッチレイトセンサ11、ヨーレイトセンサ12、操舵角センサ13および車速センサ14等に接続され、出力側が減衰力可変ダンパ6,9のアクチュエータ(図示せず)およびブレーキ液圧制御装置15等に接続されている。
【0024】
コントローラ16は、
図2に示すように、相対速度推定部17、ロールレイト補正部18、ロール抑制部19、ゲイン乗算部20、積分部21、符号判別部22、乗算部23、ピッチ制御部24、限界領域判断部30、第1,第2の重み係数乗算部36,37、加算部38、減衰力マップ演算部39、電流ドライバ40、GVC制御部41、目標液圧算出部47、ピッチレイト推定部48および最大値選択部49等を含んで構成されている。
【0025】
ここで、コントローラ16の相対速度推定部17は、ロールレイトセンサ10からの検出信号に基づき各輪の減衰力可変ダンパ6,9における上,下方向の伸縮速度を相対速度として、推定演算により求めるものである。また、ロールレイト補正部18は、ロールレイトセンサ10で検出したロールレイトに対し、
図2中に示す非線形ゲインのマップを参照して補正ロールレイト(GdAy)を算出する。この補正ロールレイト(GdAy)は、ロールレイトの検出値(dAy)が大きくなると、
図2中の非線形ゲインマップに従って大きく設定される。
【0026】
ロールレイト補正部18は、車体1の旋回状態から求める目標ロール状態を算出する目標ロール状態算出手段を、次のロール抑制部19と共に構成している。この場合、ロール状態とは、ロール角またはロールレイトの状態として定義される。ロール抑制部19は、ロールレイト補正部18から出力された補正ロールレイト(GdAy)に対してゲイン(図示せず)を乗算し、ロール抑制制御を行うために各輪側の減衰力可変ダンパ6,9における目標減衰力を算出する。
【0027】
また、コントローラ16のピッチ制御部24側では、ロール感を向上させるピッチ制御を行うため、ロールレイトセンサ10で検出したロールレイト(例えば、右回転を正とした値)に対し、ゲイン乗算部20でゲイン「Kpitch」を乗算する。符号判別部22では、積分部21によりロールレイトを積分して求めたロール角の符号(例えば、右ロールを正、左ロールを負とする)を判別する。乗算部23は、その符号をゲイン乗算部20からのロールレイトと乗算することにより、ロールを増加する場合は、常にダイブ状態(頭下がりのピッチ)、ロールが減少する場合は、常にスクオット状態(頭上がりのピッチ)となるように目標ピッチレイトを補正値として演算する。
【0028】
ゲイン乗算部20、積分部21、符号判別部22および乗算部23は、本発明の構成要件である目標ピッチ状態算出手段の一部(目標ピッチレイト算出手段)を構成している。これにより、車体1のロールレイトの大きさに応じて線形または非線形に増大するように車体1のピッチレイトの目標値である目標ピッチレイトが補正値として算出される。
【0029】
ピッチ制御部24は、FF制御部25、差演算部26、FB制御部27、加算部28および目標減衰力算出部29を含み、本発明の構成要件である目標ピッチ状態算出手段を構成している。前記FF制御部25は、目標ピッチレイトの補正値が入力されると、下記の数1〜数3式による演算を行い、フィードフォワード制御による目標ピッチモーメントを算出する。この場合、ピッチ状態とは、ピッチレイトまたはピッチ角の状態として定義される。
【0030】
差演算部26は、後述の最大値選択部49から出力されるピッチレイト信号(即ち、ピッチレイトセンサ11で検出した実ピッチレイトの信号と、後述のピッチレイト推定部48で推定演算されたピッチレイトの推定値信号のうち大きい方の信号)と前記目標ピッチレイトの補正値との差を、目標値に対する誤差として演算する。
【0031】
次のFB制御部27は、差演算部26からの信号(目標値に対する誤差)に従ってフィードバック制御による目標ピッチモーメントを算出する。FF制御部25は、ピッチモーメントからピッチレイトまでの特性を2次の振動モデルとしてモデル化し、伝達関数を算出し、その逆特性を利用した制御器である。ここで、ピッチ運動の運動方程式は下記の数1式より求められる。但し、Q:ピッチ角 Ix:ピッチ慣性 Kx:ピッチ剛性 Cx:ピッチ減衰係数 Mx:ピッチモーメントである。
【0033】
この数1式によりピッチモーメントからピッチレイトまでの伝達関数は、下記の数2式となり、これによって、ピッチモーメントからピッチレイトまでの伝達関数は、下記の数3式として求められる。
【0036】
FB制御部27はPID制御器として、前記の誤差に応じて目標ピッチモーメントを出力するように構成してもよいし、現代制御理論等で構成してもよく、特に制御則に対して限定されるものではない。ピッチ制御部24は、前述の如く差演算部26により目標ピッチレイトの補正値と前記ピッチレイト信号との差を、目標値との誤差として演算し、加算部28では、FF制御部25とFB制御部27でそれぞれ算出した目標ピッチモーメントを加算し、その値を目標ピッチモーメントとして目標減衰力算出部29に出力する。
【0037】
即ち、ピッチ制御部24における加算部28は、FF制御部25で算出した目標ピッチモーメントとFB制御部27で算出した目標ピッチモーメントとを加算して、その値を目標ピッチモーメントMp として後段の目標減衰力算出部29に出力する。ピッチ制御部24の目標減衰力算出部29は、このときの目標ピッチモーメントが入力されることにより、車体1側でのロール感を向上するためのピッチ制御による目標減衰力を算出する。
【0038】
目標減衰力算出部29は、
図3に示すように目標ピッチモーメントMp が入力されると、これに従って各車輪(即ち、左,右の前輪2、後輪3)の目標減衰力を振り分けるように演算する。即ち、目標減衰力算出部29のブロック29Aでは、目標ピッチモーメントMp を4分割して各輪に等配分する。次のブロック29Bでは、等配分されたモーメント(Mp /4)を前輪2側の重心点までの距離lfで割り算することにより右側前輪2の目標減衰力F
FRを算出する。ブロック29Cでは、等配分されたモーメント(Mp /4)を前輪2側の重心点までの距離lfで割り算することにより左側前輪2の目標減衰力F
FLを算出する。
【0039】
一方、目標減衰力算出部29のブロック29Dでは、前輪2側と後輪3側とで目標減衰力を逆向きに設定するため「−1」を掛算し、次のブロック29Eでは、等配分されたモーメント(Mp /4)を後輪3側の重心点までの距離lrで割り算することにより右側後輪3の目標減衰力F
RRを算出する。ブロック29Fでは、等配分されたモーメント(Mp /4)を後輪3側の重心点までの距離lrで割り算することにより左側後輪3の目標減衰力F
RLを算出する。
【0040】
次に、車両走行時のタイヤが常用領域(線形領域)からの限界領域(非線形領域)に達したか否かを判断する限界領域判断部30について説明する。この限界領域判断部30は、車両モデル部31、偏差演算部32、絶対値演算部33および第1,第2のヨーレイト用マップ演算部34,35を含んで構成され、車両運動判断手段を構成するものである。
【0041】
この場合、限界領域判断部30の車両モデル部31は、操舵角センサ13で検出した操舵角の信号(前輪舵角δf )と車速センサ14で検出した車速Vの信号とに基づいて、下記の数4式による線形車両モデルのヨーレイトγを推定演算する。ここで、Vは車速(m/s)、Aはスタビリティファクタ(S
2/m
2)、δf は前輪舵角(rad)、Lはホイールベース(m)である。
【0043】
偏差演算部32は、実際にヨーレイトセンサ12で検出した実ヨーレイトと、車両モデル部31で推定演算したヨーレイトγとの差を演算し、その絶対値を絶対値演算部33で差ヨーレイトΔγとして算出する。第1のヨーレイト用マップ演算部34は差ヨーレイトΔγに基づいて第1のヨーレイト用重み係数Grをマップ演算するものであり、第1のヨーレイト用重み係数Grは、
図2中に示すように差ヨーレイトΔγが小さいときには、例えば「1」より小さい値に設定され、差ヨーレイトΔγが大きくなると漸次増加して、例えば「1」または「1」よりも大きい値に設定される。
【0044】
第2のヨーレイト用マップ演算部35は、差ヨーレイトΔγに基づいて第2のヨーレイト用重み係数Gpをマップ演算するものであり、第2のヨーレイト用重み係数Gpは、
図2中に示すように差ヨーレイトΔγが小さいときには、例えば「1」または「1」より大きい値に設定され、差ヨーレイトΔγが大きくなると漸次減少して、例えば「0」または「0」に近い値に設定される。即ち、第2のヨーレイト用重み係数Gpは、第1のヨーレイト用重み係数Grが漸次増大するときには、逆に漸次小さくなって「0」に近づく値に設定され、第1のヨーレイト用重み係数Grが漸次減少するときには、例えば「1」またはこれよりも大きな値に設定されるものである。
【0045】
これにより、限界領域判断部30は、車両モデル部31で推定演算したヨーレイトγと実ヨーレイトとの偏差である差ヨーレイトΔγが大きくなったときには、車両走行時のタイヤが常用領域(線形領域)から非線形領域、つまり限界領域が近い状態にあると判断し、この場合にはロール抑制部19側での制御に重みを与えるように第1のヨーレイト用重み係数Grを大きくし、ピッチ制御部24側での制御を相対的に小さくするため、第2のヨーレイト用重み係数Gpを「0」または「0」に近づけるように小さくする。
【0046】
第1の重み係数乗算部36は、ロール抑制部19から各輪側の減衰力可変ダンパ6,9に出力するロール抑制制御(安定性向上制御)を行うための目標減衰力に対し、前記第1のヨーレイト用重み係数Grを乗算し、安定性向上用の目標減衰力に対する重み付けを行う。第2の重み係数乗算部37は、ピッチ制御部24から各輪側の減衰力可変ダンパ6,9に出力するピッチ制御(ロール感向上制御)を行うための目標減衰力に対し、前記第2のヨーレイト用重み係数Gpを乗算し、ロール感向上用の目標減衰力に対する重み付けを行うものである。
【0047】
このように、車両運動判断手段を構成する限界領域判断部30は、車両モデル部31で推定したヨーレイトとヨーレイトセンサ12で検出した実ヨーレイトの差を、差ヨーレイトΔγとして算定し、この差ヨーレイトΔγを各制御の重みを算出する第1,第2のヨーレイト用マップ演算部34,35に入力して第1,第2のヨーレイト用重み係数Gr,Gpを求める。第1の重み係数乗算部36では、ロール抑制部19で算出した目標減衰力と第1のヨーレイト用重み係数Grを乗算し、タイヤの限界領域等に合わせて補正した第1の目標減衰力を算出する。第2の重み係数乗算部37では、ピッチ制御部24で算出した目標減衰力と第2のヨーレイト用重み係数Gpを乗算し、同じく限界領域等に合わせて補正した第2の目標減衰力を算出する。これにより、第1の目標減衰力(安定性向上制御)と第2の目標減衰力(ロール感向上制御)との制御割合が切替えられる。
【0048】
加算部38は、前述の如くタイヤの限界領域等に合わせて重み付けし補正した第1の重み係数乗算部36による目標減衰力と第2の重み係数乗算部37による目標減衰力とを加算し、これを最終的な目標減衰力として減衰力マップ演算部39に出力する。減衰力マップ演算部39は、このように算出した目標減衰力と相対速度推定部17による各減衰力可変ダンパ6,9の相対速度とに従って、予め記憶しておいたダンパの特性マップより制御電流の指令値をマップ演算により算出する。
【0049】
次に、電流ドライバ40は、減衰力マップ演算部39から出力された電流の指令値に基づいて減衰力可変ダンパ6,9のアクチュエータに出力すべき目標減衰力に対応した電流値の制御を行うものである。そして、各車輪(左,右の前輪2と左,右の後輪3)側の減衰力可変ダンパ6,9は、前記アクチュエータに供給された電流値(電流指令値)に従って減衰力特性がハードとソフトの間で連続的に、または複数段で可変に制御される。電流ドライバ40は、減衰力マップ演算部39等と共に本発明の構成要件である力調整手段を構成するものである。
【0050】
次に、G−Vectoring制御(以下、GVC制御部41という)により、ブレーキ液圧制御装置15に出力すべき目標液圧の算出を行う制動力制御手段について説明する。GVC制御部41は、微分部42、ゲイン乗算部43およびフィルタ部44を含んで構成されている。GVC制御部41の前段には、横加速度演算部45と前段フィルタ部46とが設けられている。
【0051】
ここで、横加速度演算部45は、操舵角センサ13で検出した操舵角の信号と車速センサ14で検出した車速の信号とに基づいて、車両モデル部31と一緒に下記のように横加速度Ay を推定して演算する。この横加速度Ay は、車両の線形モデルを仮定し、動特性を無視すると、数5の式で求めることができる。但し、Vは車速(m/s)、Aはスタビリティファクタ(S
2/m
2)、δf は前輪舵角(rad)、Lはホイールベース(m)である。
【0053】
このように算出した横加速度Ay に対して、前段フィルタ部46では、動特性を再現するためのフィルタ処理を行う。即ち、車両モデル部31から出力される信号は、ハンドルが操舵されてから車体1にロールが発生するまでの動特性を無視した信号となる。このため、前段フィルタ部46は、この場合の動特性を近似したローパスフィルタ「LPF」によってダイナミクスを再現するものである。
【0054】
GVC制御部41の微分部42は、横加速度演算部45から前段フィルタ部46を介して出力される推定値としての横加速度Ay を微分して横加加速度を算出する。ゲイン乗算部43は、算出された横加加速度に対してゲイン「dAy2Ax」を乗算し、次のフィルタ部44でローパスフィルタ「LPF」を用いたフィルタ処理を行うことにより、目標前後加速度を求める。
【0055】
次に、目標液圧算出部47は、GVC制御部41から出力される目標前後加速度に基づいて目標とすべき液圧値を算出し、この液圧値に対応した液圧をブレーキ液圧制御装置15によって発生させる。GVC制御部41および目標液圧算出部47等からなる制動力制御手段は、ブレーキ液圧制御装置15に出力すべき目標液圧の算出を前述の如く行うことにより、横加速度と前後加速度とが連成したGVC制御を実現することができる。
【0056】
一方、ピッチレイト推定部48は、GVC制御部41から出力される目標前後加速度に従って車体1に発生するピッチレイトの推定処理を行う。次に、最大値選択部49は、ピッチレイト推定部48によるピッチレイトの推定値と、ピッチレイトセンサ11で検出した実ピッチレイトの信号値とのうち、値の大きい方を最大値として選択し、この最大値をピッチ制御部24に出力する。このため、ピッチ制御部24では、前記最大値と目標ピッチレイトとに基づいてロール感を向上するためのピッチ制御による目標減衰力を算出することができる。
【0057】
本実施の形態による車両運動制御装置は、上述の如き構成を有するもので、次に、コントローラ16による車体1の姿勢制御処理について説明する。
【0058】
まず、GVC制御部41は、車両モデルと車両ダイナミクスを考慮するための前段フィルタ部46でLPF(ローパスフィルタ)により算出した推定横加速度を微分部42で微分して横加加速度を算出する。そして、ゲイン乗算部43でゲインを乗算し、フィルタ部44でLPF処理することにより目標前後加速度を算出する。目標液圧算出部47は、GVC制御部41で算出した目標前後加速度から目標の液圧を算出し、ブレーキ液圧制御装置15によって各車輪側のホイールシリンダ(ディスクブレーキ)に液圧を発生させる。このように制御することで横加速度と前後加速度が連成したGVC制御が実現できる。
【0059】
次に、ロール抑制制御について説明する。各車輪(左,右の前輪2と左,右の後輪3)側の減衰力可変ダンパ6,9と、コントローラ16内のロールレイト補正部18、ロール抑制部19、第1の重み係数乗算部36、加算部38、目標減衰力算出部29および電流ドライバ40からなる車両の安定性向上制御手段は、ロールレイトセンサ10で検出したロールレイトに対しロールレイト補正部18で補正ロールレイトを算出し、ロール抑制部19では、ロール抑制制御を行うために補正ロールレイトに基づいて各輪側の減衰力可変ダンパ6,9における目標減衰力を算出する。
【0060】
また、コントローラ16内のゲイン乗算部20、積分部21、符号判別部22および乗算部23からなる目標ピッチレイト算出手段は、車体1のロールレイトの大きさに応じて線形または非線形に増大するように車体1のピッチレイトの目標値である目標ピッチレイトを算出する。そして、ピッチ制御部24は、車体1側でのロール感を向上するためのピッチ制御による目標減衰力を算出する。これにより、各車輪(左,右の前輪2、後輪3)側に設けた減衰力可変ダンパ6,9の減衰力特性は、前記目標ピッチレイトとなるように可変に制御され、車体1に対してロール感向上のためのピッチモーメントを発生させる制御を行う。
【0061】
この場合、最大値選択部49は、ピッチレイト推定部48によるピッチレイトの推定値と、ピッチレイトセンサ11で検出した実ピッチレイトの信号値とのうち、値の大きい方を最大値として選択し、この最大値をピッチ制御部24の差演算部26にピッチレイト信号として出力する。このため、ピッチ制御部24では、前記最大値と目標ピッチレイトとに基づいてロール感を向上するためのピッチ制御による目標減衰力を算出することができる。
【0062】
GVC制御部41によって車体1側に発生するピッチレイトは、通常は目標ピッチレイトよりも大きくなる。しかし、GVC制御部41によって車体1側に発生するピッチを考慮して各車輪の減衰力可変ダンパ6,9の減衰力特性を、前述の如く最大値選択部49およびピッチ制御部24等を介して制御することにより、ピッチ制御部24から出力される各車輪(即ち、左,右の前輪2、左,右の後輪3)の目標減衰力の信号は、ピッチ抑制を行う制御信号として働き、前下がりロールとするために減衰力を小さくしていた前輪側での旋回外輪と後輪側での旋回内輪の減衰力を高めるように作用させることができる。
【0063】
即ち、GVC制御部41によって車体1側に発生するピッチを予測し、その値とロールレイトから算出される目標ピッチレイトを比較し、GVC制御部41によって発生するピッチレイトが大きい場合にはピッチを抑えるように制御する。これにより、各輪の減衰力を高い状態に設定し、操舵によるロール挙動とGVCによるピッチ挙動を抑制することができる。このように、GVCに協調したロール制御とすることにより、必要以上の前下がりピッチやロールの抑制不足を解消することができる。この結果、ロール抑制とピッチ抑制を積極的に行うことができるため、車両の安定性を向上させることができる。
【0064】
一方、限界領域判断部30は、車両モデル部31で推定したヨーレイトと実ヨーレイトとの差を差ヨーレイトΔγとして算定し、車両の限界状態を差ヨーレイトΔγにより判断する制御を行う。即ち、この差ヨーレイトΔγを第1,第2のヨーレイト用マップ演算部34,35に入力して第1,第2のヨーレイト用重み係数Gr,Gpを求め、第1の重み係数乗算部36では、ロール抑制部19で算出した目標減衰力と第1のヨーレイト用重み係数Grを乗算し、タイヤの限界領域に合わせて補正した第1の目標減衰力を算出する。また、第2の重み係数乗算部37では、ピッチ制御部24で算出した目標減衰力と第2のヨーレイト用重み係数Gpを乗算し、同じく限界領域に合わせて補正した第2の目標減衰力を算出する。
【0065】
これにより、車両走行時のタイヤが常用領域である線形領域にある間は、ロールレイトに応じて目標ピッチレイトを算出するピッチ制御部24側の制御を優先させ、この目標ピッチレイトとなるように各輪側の目標減衰力を可変に制御することで、ロールレイトとピッチレイトを比例関係とすることができる。この結果、コーナーにおいてダイブさせながら進入し、スクオット状態でコーナーから抜け出るというスムーズとされるコーナーリングの姿勢を得ることが出来、ロール感が向上される。
【0066】
これに対し、タイヤの路面グリップ状態が悪い限界領域(即ち、非線形領域)では、第2の重み係数乗算部37により第2のヨーレイト用重み係数Gpを「0」またはこれに近づけるように演算し、ピッチ制御部24で算出した目標減衰力を第2のヨーレイト用重み係数Gpで小さくするように補正する。これにより、ロール抑制部19で算出した目標減衰力に重みを与え、ロール抑制制御量を大きくすることで、ロールレイトに比例してロールを抑制するように減衰力を発生させることができ、ロール抑制を積極的に行うことによって車両の安定性を向上することができる。
【0067】
ここで、目標ピッチ状態値切替え手段としてのモードSW62について説明する。運転者が例えば手動によりモードSW62を切り替える。例えば、ノーマルモードからスポーツモードに切替えると、ゲイン乗算部20のゲイン「Kpitch」とロール抑制部19のゲイン(図示せず)が切り替わる。このように、目標ピッチ状態の値を切替えるゲインと、ロール抑制のためのゲインを切替えることで、目標ピッチ状態の値を切替えることが可能となる。
【0068】
かくして、第1の実施の形態によれば、走行時のタイヤの常用領域ではロール感向上に重みを置いて制御し、限界領域ではロール感よりも車両の安定性を重視してロール抑制に重みを置くことにより、車両の運転状況に応じて最適な制御を実行するようにしている。これにより、限界領域での車体1の安定性を向上することができる。また、常用領域ではピッチとロールの挙動に理想的な関連性を持たせることができ、走行中のドライバフィーリング(ロール感)を向上することができる。
【0069】
しかも、GVC制御部41によって車体1側に発生するピッチを考慮して各車輪の減衰力可変ダンパ6,9の減衰力特性を制御することにより、ピッチ制御部24から出力される各車輪(即ち、左,右の前輪2、後輪3)の目標減衰力の信号は、ピッチ抑制を行う制御信号として働き、前下がりロールとするために減衰力を小さくしていた前輪側での旋回外輪と後輪側での旋回内輪の減衰力を高めるように作用させることができる。この結果、ロール抑制とピッチ抑制を積極的に行うことができるため,車両の安定性を向上させることができる。
【0070】
このように、ピッチとロールの理想的な連成を実現しながら、ロール、ピッチ挙動を低減することができる。しかも、GVC制御部41で発生するピッチ挙動、操舵によるロール挙動を低減することにより、タイヤの理想状態に近い状態を保持できるため、ロールステア、バンプステアの低減を図り、タイヤの力を最大限利用でき、車両の運動性能を向上することができる。
【0071】
本発明者等は、本発明の効果を検証するため、上下,並進運動及びヨー,ロール,ピッチ運動を解析可能なフルビークルモデルを用いてシミュレーションを実施し、
図4〜
図7に示す下記のような試験結果を得た。なお、車両運動計算には、CarSim(登録商標)を用い、減衰力可変ダンパ、ブレーキ液圧制御装置とコントローラについては、Matlab/Simulink(登録商標)を用いてモデル化した。ビークルモデルのパラメータには後輪駆動の大型セダンを想定した値を設定した。シミュレーション条件は、セミアクティブサスペンションが過渡旋回にて効果を発揮することから、単純な過渡旋回タスクである一定角度までランプ的に操舵するように設定した。車速は60km/hで、操舵角は180degである。
【0072】
図4中に示す特性線50は、車両の操舵時における操舵角(deg)の変化を示し、特性線51は、本発明(第1の実施の形態)が適用された車両の横加速度の変化特性を示している。特性線51Aは、例えば車両操舵時に減衰力調整を行っていない標準車両(以下、比較例1という)の横加速度の変化特性を示している。特性線51,51Aを比較すると、本発明の方が比較例1よりも車両旋回時の横加速度が小さく抑えられている。
【0073】
また、
図4中に実線で示す特性線52,53,54,55は、本発明が適用された車両の右前輪(FR),左前輪(FL),右後輪(RR),左後輪(RL)における減衰力特性を、それぞれの減衰力可変ダンパ6,9のアクチュエータに出力する電流値により示している。これに対し、特性線52A,53A,54A,55Aは、前述した比較例1(標準車両)による右前輪(FR),左前輪(FL),右後輪(RR),左後輪(RL)の減衰力特性を、それぞれの電流値により示している。
【0074】
二点鎖線で示す特性線52B,53B,54B,55Bは、例えばセミアクティブサスペンションを搭載した車両(以下、比較例2という)による右前輪(FR),左前輪(FL),右後輪(RR),左後輪(RL)の減衰力特性を、それぞれの電流値により示している。一点鎖線で示す特性線52C,53C,54C,55Cは、例えばセミアクティブサスペンションを搭載し、かつGVC制御を行うようにした車両(以下、比較例3という)による右前輪(FR),左前輪(FL),右後輪(RR),左後輪(RL)の減衰力特性を、それぞれの電流値により示している。
【0075】
また、点線で示す特性線52D,53D,54D,55Dは、例えば車両操舵時に減衰力調整を行ってはいないが、GVC制御は行うようにした車両(以下、比較例4という)による右前輪(FR),左前輪(FL),右後輪(RR),左後輪(RL)の減衰力特性を、それぞれの電流値により示している。比較例4では減衰力の調整を行わないため、特性線52D,53D,54D,55Dは、電流値が零となっている。
【0076】
次に、実線で示す特性線56は、本発明が適用された車両の操舵時におけるロールレイトの特性を示し、特性線56Aは、比較例1のロールレイト特性を示している。二点鎖線で示す特性線56Bは、比較例2のロールレイト特性であり、一点鎖線で示す特性線56Cは、比較例3のロールレイト特性であり、点線で示す特性線56Dは、比較例4のロールレイト特性である。
【0077】
また、実線で示す特性線57は、本発明が適用された車両の操舵時におけるロール角の特性を示し、特性線57Aは、比較例1によるロール角の特性を示している。二点鎖線で示す特性線57Bは、比較例2によるロール角の特性であり、一点鎖線で示す特性線57Cは、比較例3によるロール角の特性であり、点線で示す特性線57Dは、比較例4によるロール角の特性である。
【0078】
図4中に示す特性線52〜55により、例えば比較例3(セミアク+GVC制御)の特性線52C,53C,54C,55Cで減衰力をハードにしていない箇所でも、本発明ではハードな特性としており、特性線56に示す特性からも本発明がロールレイトを最も小さく抑えていることが分かる。
【0079】
図5中に実線で示す特性線58は、本発明が適用された車両の操舵時におけるロール角の特性を示し、特性線58Aは、比較例1によるロール角の特性を示している。二点鎖線で示す特性線58Bは、比較例2によるロール角の特性であり、一点鎖線で示す特性線58Cは、比較例3によるロール角の特性であり、点線で示す特性線58Dは、比較例4によるロール角の特性である。また、実線で示す特性線59は、本発明が適用された車両の操舵時におけるピッチ角の特性を示し、特性線59Aは、比較例1によるピッチ角の特性を示している。二点鎖線で示す特性線59Bは、比較例2によるピッチ角の特性であり、一点鎖線で示す特性線59Cは、比較例3によるピッチ角の特性であり、点線で示す特性線59Dは、比較例4によるピッチ角の特性である。
【0080】
次に、
図6中に実線で示す特性線60は、本発明が適用された車両の操舵時におけるロール角とピッチ角の関係を示し、特性線60Aは、比較例1によるロール角とピッチ角の関係を示している。二点鎖線で示す特性線60Bは、比較例2によるロール角とピッチ角の関係であり、一点鎖線で示す特性線60Cは、比較例3によるロール角とピッチ角の関係であり、点線で示す特性線60Dは、比較例4によるロール角とピッチ角の関係である。
【0081】
特性線60からも分かるように、本発明ではGVCによる減速制御によりピッチが発生しているが、特性線60Cの比較例3(セミアク+GVC制御)および特性線60Dの比較例4(GVCのみ)よりもピッチの発生を抑制できており、減速していない特性線60Bの比較例2(セミアクのみ)とほぼ同等レベルまでピッチを低減できている。また、ロール角とピッチ角の関係も維持できている。
【0082】
さらに、
図7中に実線で示す特性線61は、本発明が適用された車両の操舵時におけるロールレイトとピッチレイトの関係を示し、特性線61Aは、比較例1によるロールレイトとピッチレイトの関係を示している。二点鎖線で示す特性線61Bは、比較例2によるロールレイトとピッチレイトの関係であり、一点鎖線で示す特性線61Cは、比較例3によるロールレイトとピッチレイトの関係であり、点線で示す特性線61Dは、比較例4によるロールレイトとピッチレイトの関係である。本発明の特性線61と比較例1〜4の特性線61A〜61Dとを較べても分かるように、本発明ではロールレイトとピッチレイトの関係を良好に維持しつつ,ロールレイトとピッチレイトを最も小さくできている。
【0083】
従って、第1の実施の形態によれば、ピッチとロールの理想的な連成を実現しながらロール、ピッチ挙動を低減することができる。しかも、GVC制御部41で発生するピッチ挙動、操舵によるロール挙動を低減することにより、タイヤの理想状態に近い状態を保持できるため、ロールステア、バンプステアの低減を図り、タイヤの力を最大限利用でき、車両の運動性能を向上することができる。
【0084】
この結果、車両の状況に応じてロール感の向上と安定性の向上とを適切に切替えて実現することができ、車両の乗り心地と操縦安定性をトータルで高めることができる。そして、常用領域では車体1側のロール感を向上でき、限界領域では安定性を重視した制御を行うことができ、両性能を両立させることができる。また、この場合の制御は、ロジックを切替えるのではなく、既存のロジックのゲインや入力信号を大きくするように構成することで、両性能の両立化を図ることができ、制御途中での不連続な切替えがなく、スムーズな制御を実現することができる。
【0085】
なお、前記第1の実施の形態では、ロールレイトセンサ10でロールレイトを検出し、ピッチレイトはピッチレイトセンサ11を用いて検出する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば車体に取付けた上,下方向の加速度センサを用いて、ロールレイト、ピッチレイトを算出してもよい。また、ダンパの相対速度は車高センサの微分値により求める構成としてもよいし、例えばばね下側とばね上側とにそれぞれ取付けた上,下方向の加速度センサによる検出値から相対加速度を算出し、この値を積分することで算出してもよく、特に算出方法を限定する必要はないものである。
【0086】
次に、
図8は本発明の第2の実施の形態を示し、第2の実施の形態の特徴は、ロールレイトセンサやピッチレイトセンサを使わずに、サスペンション制御等を行うシステムを簡素化する構成としたことにある。なお、第2の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0087】
図中、71は第2の実施の形態で採用した制御手段としてのコントローラで、該コントローラ71は、入力側がヨーレイトセンサ12、操舵角センサ13、車速センサ14等に加えて、横加速度検出手段としての横加速度センサ72および前後加速度検出手段としての前後加速度センサ73に接続されている。コントローラ71の出力側は、左,右の前輪2側に設けた減衰力可変ダンパ6と左,右の後輪3側に設けた減衰力可変ダンパ9とのアクチュエータ(図示せず)、ブレーキ液圧制御装置15等に接続されている。
【0088】
コントローラ71は、第1の実施の形態で述べたコントローラ16と同様に、相対速度推定部17、ロールレイト補正部18、車両モデル部31、偏差演算部32、絶対値演算部33、第1,第2のヨーレイト用マップ演算部34,35、第1,第2の重み係数乗算部36,37、加算部38、減衰力マップ演算部39、電流ドライバ40、GVC制御部41および目標液圧算出部47等を含んで構成されている。
【0089】
しかし、
図8に示すように、コントローラ71は、下記のロール用ゲイン乗算部74、ロール用フィルタ部75、ロール用微分部76、ロール抑制部77、絶対値演算部78、微分部79、ピッチ用ゲイン乗算部80、差演算部81、ピッチ演算部82、ゲイン乗算部83,84、フィルタ部85、微分部86、ピッチ用ゲイン乗算部87、ピッチ用フィルタ部88、微分部89、絶対値演算部90,91、差演算部92、第1,第2のピッチレイト用マップ演算部93,94、第1,第2のピッチレイト用重み係数乗算部95,96、加算部97および限界領域判断部98のフィルタ部99等を含んで構成されている点で、第1の実施の形態とは異なっている。
【0090】
GVC制御部41は、第1の実施の形態と同様に、微分部42、ゲイン乗算部43およびフィルタ部44を含んで構成されている。しかし、この場合のGVC制御部41は、微分部42において、横加速度センサ72により検出した横加速度を微分し、横加加速度を算出する。ゲイン乗算部43は、算出した横加加速度にゲインを乗算し、フィルタ部44でLPF処理することで目標前後加速度とする。次の目標液圧算出部47は、算出した目標前後加速度から目標の液圧を算出し、ブレーキ液圧制御装置15によって液圧を発生させる。このように制御することで横加速度と前後加速度が連成したGVC制御を実現することができる。
【0091】
次に、ロール用ゲイン乗算部74は、横加速度センサ72により検出した横加速度に対して、横加速度に対するロール角の関係により算出したロール角/横加速度ゲイン「Kay2roll」[deg/(m/s
2)]を乗算することでロール角を算出する。しかし、このままでは横加速度が発生してからロール角が発生するまでの動特性を無視したかたちとなるため、次のロール用フィルタ部75で、動特性を近似したLPF処理を行うことによってダイナミクスを再現する。
【0092】
次に、ロール用微分部76は、ロール抑制制御を行うため、上記のように算出したロール角を微分し、ロールレイトを算出する。このロール用微分部76で算出したロールレイトが大きい場合には、操舵速度が速くロールオーバ発生の可能性が高い。このため、次のロールレイト補正部18は、前記ロールレイトが大きい場合には安定性を重視して見かけ上ロールレイトを大きくする非線形ゲインを用いて、補正ロールレイトを算出する。
【0093】
ロール抑制部77は、前記補正ロールレイトが入力されると、これにゲイン「Kantroll」を乗算し、ロールを抑制する制御を行うためにロール抑制用の目標減衰力を算出する。第1の重み係数乗算部36は、第1の実施の形態と同様に構成され、ロール抑制部77から各輪側の減衰力可変ダンパ6,9に出力するロール抑制制御(安定性向上制御)を行うための目標減衰力に対し、第1のヨーレイト用重み係数Grを乗算し、安定性向上用の目標減衰力に対する重み付けを行うものである。
【0094】
絶対値演算部78は、ロール用フィルタ部75から出力される信号(推定ロール角)の絶対値を求め、微分部79は推定ロール角の絶対値を微分し、次のゲイン乗算部80では、これにゲイン「roll2pitch」を乗算することにより目標ピッチレイトを算出する。
【0095】
また、図示は省略するが、モードSWによりゲイン乗算部80のゲイン「roll2pitch」とロール抑制部77のゲイン「Kantroll」を切替えることにより車両状態を切替えることができる。
【0096】
次に、差演算部81では、最大値選択部49から出力されるピッチレイトの最大値と前記目標ピッチレイトの差分を差ピッチレイトとして算出する。次のピッチ演算部82とゲイン乗算部83とは、差演算部81による差ピッチレイトからFF制御により、ピッチ方向のダイナミクスを考慮した上で、目標ピッチレイトとなるように各輪の目標減衰力を算出する。この場合、ピッチ演算部82は、前記差ピッチレイトを積分してゲイン「Kpitch」を乗算する。ゲイン乗算部83は、前記差ピッチレイトにゲイン「Kantpitch」を乗算する。
【0097】
一方、ゲイン乗算部84は、前後加速度センサ73により検出した前後加速度に対して、前後加速度に対するピッチ角の関係により算出したピッチ角/前後加速度ゲイン「Kax2pitch」[deg/(m/s
2)]を乗算することで推定ピッチ角を算出する。しかし、このままでは前後加速度が発生してからピッチ角が発生するまでの動特性を無視したかたちとなるため、次のピッチ用フィルタ部85で、動特性を近似したLPF処理を行うことによってダイナミクスを再現する。次の微分部86は、前記推定ピッチ角を微分して第1の推定ピッチレイトを算出する。第1の推定ピッチレイトの信号は、相対速度推定部17と最大値選択部49とに出力される。
【0098】
また、前記GVC制御部41から出力される目標前後加速度に対して、ピッチ用ゲイン乗算部87は、ピッチ角/前後加速度ゲイン「Kax2pitch」を乗算し、次のピッチ用フィルタ部88は、動特性を近似したLPF処理を行うことによってダイナミクスを再現し、GVC推定ピッチ角を算出する。次の微分部89は、前記GVC推定ピッチ角を微分して第2の推定ピッチレイトを算出する。第2の推定ピッチレイトは、GVC推定ピッチレイトの信号として最大値選択部49に出力される。
【0099】
最大値選択部49は、前記第1の推定ピッチレイトと第2の推定ピッチレイト(GVC推定ピッチレイト)の信号値とのうち、値の大きい方を最大値として選択し、この最大値を差演算部81に出力する。このため、ピッチ制御部(即ち、ピッチ演算部82とゲイン乗算部83)では、前記最大値と目標ピッチレイトとに基づいてロール感を向上するためのピッチ制御による目標減衰力を算出することができる。
【0100】
但し、目標ピッチレイトよりも前記最大値(GVCと前後加速度によって発生するピッチレイト)が大きい場合には、ピッチを小さくすることが目標となる。そこで、絶対値演算部90では目標ピッチレイトの絶対値を求め、他の絶対値演算部91では、前記最大値(推定ピッチレイト)の絶対値を求める。次の差演算部92では、絶対値演算部90,91から出力される絶対値の差uを算出する。
【0101】
第1のピッチレイト用マップ演算部93は、前記絶対値の差uに基づいて第1のピッチレイト用重み係数G1をマップ演算する。即ち、第1のピッチレイト用重み係数G1は、
図8のマップ演算部93中に示すように前記絶対値の差uがマイナス(負の値)のときには、例えば「1」より小さい値に設定され、前記絶対値の差uが零以上で、プラス(正の値)に大きくなると漸次増加して、例えば「1」または「1」よりも大きい値に設定される。
【0102】
第2のピッチレイト用マップ演算部94は、前記絶対値の差uに基づいて第2のピッチレイト用重み係数G2をマップ演算するものである。第2のピッチレイト用重み係数G2は、
図8のマップ演算部94中に示すように前記絶対値の差uがプラス(正の値)のときには、例えば「1」より小さい値に設定され、前記絶対値の差uが零以下となり、マイナス(負の値)で大きくなると漸次増加して、例えば「1」または「1」よりも大きい値に設定される。即ち、第2のピッチレイト用重み係数G2は、第1のピッチレイト用重み係数G1が漸次増大するときに、漸次小さくなって「0」に近づく値に設定され、第1のピッチレイト用重み係数G1が漸次減少するときには、例えば「1」またはこれよりも大きな値に設定されるものである。
【0103】
第1のピッチレイト用重み係数乗算部95は、ピッチ演算部82から各輪側の減衰力可変ダンパ6,9に出力する目標減衰力の信号に対し、前記第1のピッチレイト用重み係数G1を乗算し、ピッチ発生用の目標減衰力に対する重み付けを行うものである。第2のピッチレイト用重み係数乗算部96は、ゲイン乗算部83から各輪側の減衰力可変ダンパ6,9に出力する目標減衰力の信号に対し、前記第2のピッチレイト用重み係数G2を乗算し、ピッチ抑制用の目標減衰力に対する重み付けを行うものである。
【0104】
次の加算部97は、前述の如く最大値(GVCと前後加速度によって発生するピッチレイト)と目標ピッチレイトとの絶対値の差uに従って重み付けするように補正した第1のピッチレイト用重み係数乗算部95による目標減衰力と、前記第2のピッチレイト用重み係数乗算部96による目標減衰力とを加算し、これを第2の重み係数乗算部37に出力する。
【0105】
このように第2の実施の形態では、GVC制御に対応したピッチ制御部を、絶対値演算部78、微分部79、ゲイン乗算部80、差演算部81、ピッチ演算部82、ゲイン乗算部83、他のゲイン乗算部84、フィルタ部85、微分部86、ピッチ用ゲイン乗算部87、ピッチ用フィルタ部88、微分部89、最大値選択部49、絶対値演算部90,91、差演算部92、ピッチレイト用マップ演算部93,94、ピッチレイト用重み係数乗算部95,96および加算部97等により構成している。
【0106】
差演算部92では、絶対値演算部90,91から出力される絶対値の差uを算出し、絶対値の差uがプラスの場合には、目標ピッチレイトがGVCと前後加速度によって発生するピッチレイトよりも大きいため、前記ピッチレイト用マップ演算部93,94、ピッチレイト用重み係数乗算部95,96および加算部97によりピッチダイナミクスを考慮したピッチを発生させる制御項を活かしてピッチを発生することができる。
【0107】
一方、前記絶対値の差uがマイナスの場合には、前記目標ピッチレイトよりもGVC制御部41による推定ピッチレイト(または、前後加速度によって発生するピッチレイト)が大きいため、ピッチを抑制させる制御項を活かしピッチを抑制する制御を行うことができる。
【0108】
次に、車両走行時のタイヤが常用領域(線形領域)からの限界領域(非線形領域)に達したか否かを判断する限界領域判断部98について説明する。この限界領域判断部98は、第1の実施の形態で述べた限界領域判断部30と同様に車両運動判断手段を構成し、車両モデル部31、偏差演算部32、絶対値演算部33および第1,第2のヨーレイト用マップ演算部34,35を含んでいる。しかし、この場合の限界領域判断部98は、車両モデル部31と偏差演算部32との間に、動特性を近似したLPF処理を行うことによってダイナミクスを再現するフィルタ部99が設けられている。
【0109】
即ち、車両モデル部31、フィルタ部99、偏差演算部32、絶対値演算部33および第1,第2のヨーレイト用マップ演算部34,35等からなる限界領域判断部98は、第1の実施の形態で述べた限界領域判断部30と同様に、偏差演算部32および絶対値演算部33で求めた差ヨーレイトΔγを第1,第2のヨーレイト用マップ演算部34,35に入力して第1,第2のヨーレイト用重み係数Gr,Gpを求める。
【0110】
そして、第1の重み係数乗算部36では、ロール抑制部77で算出した目標減衰力と第1のヨーレイト用重み係数Grを乗算し、タイヤの限界領域に合わせて補正した第1の目標減衰力を算出する。また、第2の重み係数乗算部37では、加算部97から出力される目標減衰力と第2のヨーレイト用重み係数Gpを乗算し、同じく限界領域に合わせて補正した第2の目標減衰力を算出する。これにより、ロール抑制制御とピッチ制御との制御量を差ヨーレイトΔγに応じて調整するものである。
【0111】
また、相対速度推定部17では、微分部76で算出したロールレイトと他の微分部86で算出したピッチレイトと車両諸元とにより幾何学的関係を利用して各輪の相対速度を推定する。加算部38では、このように算出したロール抑制制御量とピッチ制御量とを足し合わせて各輪の目標減衰力を算定する。この目標減衰力と推定した相対速度とに基づいて、減衰力マップ演算部39では、予め記憶しておいた減衰力特性(減衰力―電流値―相対速度)から指令電流値を算出する。電流ドライバ40は、算出した電流値に相当する電流を減衰力可変ダンパ6,9のアクチュエータに出力し、それぞれの減衰力特性を可変に制御する。
【0112】
かくして、このように構成される第2の実施の形態でも、第1の実施の形態と同様に、車両の状況に応じてロール感の向上と安定性の向上を適切に行うことにより、車両の乗り心地と操縦安定性をトータルで高めることができる。特に、第2の実施の形態では、ロールレイトセンサやピッチレイトセンサを使わずに、横加速度センサ72、前後加速度センサ73、ヨーレイトセンサ12、操舵角センサ13および車速センサ14からの検出信号に基づいて車体1の姿勢制御を実施することができる。
【0113】
これにより、省センサ化を図ることができ、コストを低減し、システムを簡素化することができる。また、ヨーレイトセンサ12、操舵角センサ13、車速センサ14、横加速度センサ72、前後加速度センサ73で検出した信号に基づいてコントローラ71で演算した減衰力可変ダンパ6,9に対する指令電流により制御を行うため、ロール感の向上と限界領域での安定性改善を実現可能となる。
【0114】
しかも、GVCによって発生するピッチを考慮してサスペンション制御を行うことにより、通常はGVC制御部41によって発生するピッチレイトが目標ピッチレイトより大きいため、ピッチ制御はピッチ抑制制御として働き、前下がりロールとするために減衰力を小さくしていた前輪の旋回外輪と後輪の旋回内輪の減衰力を高めるように作用させることができる。よって、ロール抑制とピッチ抑制を積極的に行うことができるため、車両の安定性を向上させることができる。
【0115】
ここで、横加速度,前後加速度はそれぞれセンサ72,73を用いて検出したが、前後加速度は車速を微分して算出してもよいし、エンジントルクやモータトルク、制動トルクなどの制駆動力から算出してもよい。横加速度についても第1の実施の形態のように操舵角と車速から車両モデルを用いて算出してもよく、特に算出方法については限定されるものではない。
【0116】
次に、
図9および
図10は本発明の第3の実施の形態を示し、第3の実施の形態の特徴は、車体の姿勢制御を行うアクチュエータがセミアクティブサスペンション(例えば、減衰力調整式の油圧緩衝器)ではなく、自ら推力を発生可能なアクティブサスペンションを用いる構成としたことにある。なお、第3の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0117】
図中、101は本実施の形態で採用した制御手段としてのコントローラで、該コントローラ101は、第1の実施の形態で述べたコントローラ16とほぼ同様に構成され、入力側がロールレイトセンサ10、ピッチレイトセンサ11、ヨーレイトセンサ12、操舵角センサ13および車速センサ14等に接続されている。さらに、コントローラ101の入力側には、横加速度検出手段としての横加速度センサ72、複数の車高センサ102が接続され、これらの車高センサ102は、左,右の前輪2側と左,右の後輪3側とでそれぞれ個別に車高を検出するものである。
【0118】
また、コントローラ101の出力側は、左,右の前輪2側と左,右の後輪3側とに設けられた後述の電磁ダンパ112と、ブレーキ液圧制御装置15等とに接続されている。この場合のコントローラ101は、出力側が自ら推力を発生可能なアクティブサスペンション(後述の電磁ダンパ112)等に接続されている点で、第1の実施の形態とは異なっている。
【0119】
ここで、コントローラ101は、FF制御部103、ロール角算出部104、FB制御部105、加算部106、ゲイン乗算部20、符号判別部107、乗算部23、ピッチ制御部108、限界領域判断部30、第1,第2の重み係数乗算部109,110、各輪の電磁ダンパ制御量算出部111、GVC制御部41、目標液圧算出部47、最大値選択部49、ピッチ用ゲイン乗算部87、ピッチ用フィルタ部88および微分部89等を含んで構成されている。
【0120】
このうち、ゲイン乗算部20、乗算部23、限界領域判断部30、GVC制御部41、目標液圧算出部47、最大値選択部49は、第1の実施の形態と同様に構成されている。また、ピッチ用ゲイン乗算部87、ピッチ用フィルタ部88および微分部89は、第2の実施の形態でも説明したように、前記GVC制御部41から出力される目標前後加速度に従ってGVC推定ピッチレイトを算定し、これを最大値選択部49に出力する。
【0121】
最大値選択部49は、ピッチレイトセンサ11から出力される実ピッチレイトと前記GVC推定ピッチレイトの信号値とのうち、値の大きい方を最大値として選択し、この最大値をピッチ制御部108の差演算部26に出力する。これにより、ピッチ制御部108では、前記最大値と目標ピッチレイトとに基づいてロール感を向上するためのピッチ制御による目標減衰力を算出することができる。
【0122】
112は車両の各輪側に設けられる複数(例えば、4個)の電磁ダンパで、これらの電磁ダンパ112は、例えば左,右の前輪2と左,右の後輪3側とにそれぞれ設けられたシリンダ装置であるアクティブサスペンションにより構成されている。各電磁ダンパ112は、各車輪側で車体1を上,下方向に昇降させるような推力を、各輪の電磁ダンパ制御量算出部111からの制御信号に従って発生するものである。
【0123】
コントローラ101のFF制御部103は、横加速度センサ104から出力される車体1の横加速度信号に基づいて、ロール抑制制御を行うための目標ロールモーメントを算出し、これを加算部106に出力する。加算部106では、FF制御部103で算出した目標ロールモーメントと後述のFB制御部105で算出した目標ロールモーメントとを加算して補正し、その補正値を目標ロールモーメントとして後段の第1の重み係数乗算部109に出力する。
【0124】
コントローラ101のロール角算出部104は、各車高センサ102から出力される車高信号に基づいて車体1のロール角を演算により求める。フィードバック制御を行うFB制御部105は、ロールレイトセンサ10からのロールレイトとロール角算出部104によるロール角とに基づいて、ロール抑制制御を行うための目標ロールモーメントを算出し、これを前述の加算部106を介して第1の重み係数乗算部109に対して出力する。
【0125】
符号判別部107は、第1の実施の形態で述べた符号判定部22と同様に、ロール角の符号(例えば、右ロールを正、左ロールを負とする)を判別する。乗算部23は、その符号をゲイン乗算部20からのロールレイトと乗算することにより、ロールを増加する場合は、常にダイブ状態(頭下がりのピッチ)、ロールが減少する場合は、常にスクオット状態(頭上がりのピッチ)となるように目標ピッチレイトを補正値として演算する。
【0126】
コントローラ101のピッチ制御部108は、第1の実施の形態で述べたピッチ制御部24とほぼ同様に、FF制御部25、差演算部26、FB制御部27、加算部28を含んで構成されている。そして、ピッチ制御部108は、FF制御部25で算出した目標ピッチモーメントとFB制御部27で算出した目標ピッチモーメントとを加算部28で加算し、これをロール感向上用の目標ピッチモーメントとして第2の重み係数乗算部110に出力する。
【0127】
第1の重み係数乗算部109は、加算部106から各輪の電磁ダンパ制御量算出部111に出力するロール抑制制御(安定性向上制御)用の目標ロールモーメントに対して、第1のヨーレイト用マップ演算部34から出力される第1のヨーレイト用重み係数Grを乗算し、安定性向上用の目標ロールモーメントに対する重み付けを行う。第2の重み係数乗算部110は、ピッチ制御部108から各輪の電磁ダンパ制御量算出部111に出力するピッチ制御(ロール感向上制御)用の目標ピッチモーメントに対して、第2のヨーレイト用マップ演算部35から出力される第2のヨーレイト用重み係数Gpを乗算し、ロール感向上用の目標ピッチモーメントに対する重み付けを行うものである。
【0128】
次に、各輪の電磁ダンパ制御量算出部111は、
図10に示すように、ブロック111A〜111D,111F,11G,111I,111J,111L,111Mと演算部111E,111H,111K,111Nとを含んで構成され、各車輪(即ち、左,右の前輪2と左,右の後輪3)に対して目標ピッチモーメントと目標ロールモーメントとを振り分けるための演算を実行する。
【0129】
即ち、各輪の電磁ダンパ制御量算出部111は、各車輪側に振り分けられた目標ピッチモーメントと目標ロールモーメントとに対応する目標推力FR,FL,RR,RLを、各車輪側の電磁ダンパ112で発生できるように電磁ダンパ制御量を算出し、算出した制御量(目標推力FR,FL,RR,RL)分の制御信号を各電磁ダンパ112に個別に出力するものである。
【0130】
ここで、電磁ダンパ制御量算出部111のブロック111Aでは、目標ピッチモーメントMp を4分割して各輪に等配分する。次のブロック111Bでは、等配分されたピッチモーメント(Mp /4)を右前輪2側の重心点までの距離lfで割り算する。ブロック111Cでは、目標ロールモーメントMr を4分割して各輪に等配分する。次のブロック111Dでは、等配分されたロールモーメント(Mr /4)をトレッドの半分(lwf/2)で割り算する。そして、演算部111Eは、ブロック111Bからの出力値(Mp /4lf)とブロック111Dからの出力値(Mr /2lwf)とを加算して右前輪2側における目標推力FRを求める。
【0131】
また、次のブロック111Fでは、等配分されたピッチモーメント(Mp /4)を左前輪2側の重心点までの距離lfで割り算する。ブロック111Gでは、等配分されたロールモーメント(Mr /4)をトレッドの半分(lwf/2)で割り算する。そして、演算部111Hは、ブロック111Fからの出力値(Mp /4lf)に対しブロック111Gからの出力値(Mr /2lwf)を減算して左前輪2側における目標推力FLを求める。
【0132】
一方、電磁ダンパ制御量算出部111のブロック111Iでは、等配分されたピッチモーメント(Mp /4)を右後輪3側の重心点までの距離lrで割り算する。ブロック111Jでは、等配分されたロールモーメント(Mr /4)をトレッドの半分(lwr/2)で割り算する。そして、演算部111Kは、ブロック111Jからの出力値(Mr /2lwr)に対しブロック111Iからの出力値(Mp /4lr)を減算することにより右側後輪3の目標推力RRを算出する。
【0133】
また、ブロック111Lでは、等配分されたピッチモーメント(Mp /4)を右後輪3側の重心点までの距離lrで割り算する。ブロック111Mでは、等配分されたロールモーメント(Mr /4)をトレッドの半分(lwr/2)で割り算する。そして、演算部111Nは、ブロック111Lからの出力値(Mp /4lr)とブロック111Mからの出力値(Mr /2lwr)とを加算して符号を負(マイナス)に設定することにより左後輪3側の目標推力RLを算出する。
【0134】
かくして、このように構成される第3の実施の形態でも、第1,第2の重み係数乗算部109,110で目標ロールモーメントと目標ピッチモーメントとに対して重み付けを行うことにより、第1の実施の形態と同様に、車両の状況に応じてロール感の向上と安定性の向上を適切に行うことができ、車両の乗り心地と操縦安定性をトータルで高めることができる。
【0135】
特に、第3の実施の形態では、電磁ダンパ制御量算出部111で各車輪側の目標推力FR,FL,RR,RLを算出し、その目標値に応じて電磁ダンパ112(アクティブサスペンション)に推力を発生させることで、ロールレイトに比例したピッチレイトを発生させることができ、車体1の回転軸を安定化させ、ロール感の向上を図ることができる上に、安定性の向上化も図ることができる。
【0136】
なお、前記第3の実施の形態では、
図10に示す電磁ダンパ制御量算出部111のブロック111A,111Cで目標ロールモーメントと目標ピッチモーメントを各輪に等配分する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばロールモーメントとピッチモーメントの釣り合い式より、この式を満足する各輪制御量を求める構成としてもよいものである。
【0137】
また、前記第1〜第3の実施の形態では、GVC制御部41および目標液圧算出部47等によって制動力制御手段を構成する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばGVC制御の他に、ドライバ分、ナビ協調分も考慮に入れて制御する制動力制御手段を含む構成としてもよい。
【0138】
また、前記第1〜第3の実施の形態では、車両走行時のタイヤが限界領域にあるか否かを実ヨーレイトと推定ヨーレイトの差によって判断し、ロール感を向上するピッチ制御と安定性を向上するロール抑制制御の制御割合を変更する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、その後のタイヤが限界領域に達することが推定できる場合(限界状態と判断したとき)は、予め、ロール感を向上するピッチ制御より安定性を向上するロール抑制制御の制御割合を大きくする制御を行ってもよい。
【0139】
一方、第1,第3の実施の形態では、ロールレイトとピッチレイトとをそれぞれセンサを用いて検出する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば車体に取付けた3個以上の上,下方向加速度センサを用いてロールレイトとピッチレイトとを算出してもよい。
【0140】
また、第1,第2の実施の形態で用いている相対速度は、車高センサの微分値でもよいし、例えばばね下側の加速度センサとばね上側の加速度センサの検出値から相対加速度を算出し、この値を積分することで算出してもよい。また、フラットな路面であれば、ばね下の動きがほぼゼロと見做せるため、ばね上側の加速度センサの検出値を積分したばね上速度を相対速度としてもよい。また、第2の実施の形態では、操舵角と車速から推定した横加速度を用いたが、横加速度センサの値を用いてもよい。特に、その他の信号についても、その算出方法が限定されるものではない。
【0141】
次に、上記の実施の形態に含まれる発明について記載する。即ち、本発明によれば、
車両の旋回状態の値に乗ずるゲインを変化させることにより前記目標ピッチ状態
の値を変更する手段を備えている。これにより、制御ロジックを切り替えるのではなく、既存のロジックのゲインや入力信号を大きくするように構成することで、不連続な切り替えがなくスムーズな制御を実現することができる。
【0142】
また、本発明によれば、車
両の旋回状態か
ら目標ロール状態を算出する目標ロール状態算出手段を備え、力調整手段は、前記車体のロール状態が前記目標ロール状態に近づくように、力発生装置の力を調整する構成としている。これにより、ピッチとロールの理想的な連成を実現しながらロール、ピッチ挙動を低減することができる。
【0143】
例えば、GVCで発生するピッチ挙動、操舵によるロール挙動の低減により、タイヤの理想状態に近い状態を保持できるため(ロールステア、バンプステアの低減)、タイヤの力を最大限利用でき運動性能を向上できる。また、本発明によれば、
前記車体のピッチ方向の揺れによるピッチレイトを検出するピッチレイト検出手段を備え、前記目標ピッチ状態算出手段は、前記ピッチレイト検出手段からのピッチレイトと前記目標前後加速度に基づく推定ピッチレイトのうち、値の大きい方に基づいて前記目標ピッチ状態を算出し、前記力発生装置は緩衝器であって、前記力調整手段により減衰力を調整する構成としている。さらに、目標前後加速度は、車両の操舵による横加加速度に応じて算出される構成としている。
【0144】
なお、本発明の実施の形態を以上に説明したが、本発明の技術思想は、旋回中に車両に制動力を発生させ車体にピッチ方向の姿勢変化をさせるブレーキ装置を有する車両に用いられる車両運動制御装置であって、前記車両の旋回状態に応じて算出された目標前後加速度に基づき、所定のブレーキ力を発生するように前記ブレーキ装置を制御するブレーキ制御装置と、前記車両の車体と複数の車輪との間にそれぞれ介装され、前記車体と前記各車輪との間の力を調整可能な複数の力発生装置と、を備え、前記目標前後加速度に基づく推定ピッチレイトを考慮して
前記車体のピッチを抑制するように前記車両の旋回状態から目標ピッチ状態を算出し、
前記車体のピッチ状態を前記目標ピッチ
状態に近づけるように、前記力発生装置の発生する力を調整することを特徴としている。即ち、前記車両の車体と複数の車輪との間に、減衰力調整式ショックアブーバやエアサスペンション、油圧アクティブサスペンション、電磁サスペンション等の車体と各車輪との間の力を調整可能な複数の力発生装置を設けて、理想的なピッチ状態、すなわち目標ピッチに近づけるように、力発生装置の発生する力を調整する発明である。また、さらには、前記技術思想に加え、ロールの発生についても理想的なロール状態、すなわち目標ロールに近づけるように、制御するものである。これにより、理想的なピッチ状態、ロール状態を得ることができ、操縦安定性を高めることが可能となる。