特許第5809580号(P5809580)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5809580
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月11日
(54)【発明の名称】印刷用塗工紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/82 20060101AFI20151022BHJP
   D21H 19/38 20060101ALI20151022BHJP
   D21H 19/58 20060101ALI20151022BHJP
【FI】
   D21H19/82
   D21H19/38
   D21H19/58
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-27315(P2012-27315)
(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公開番号】特開2013-163873(P2013-163873A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田村 善博
【審査官】 中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−257576(JP,A)
【文献】 特開2010−053474(JP,A)
【文献】 特開2007−270375(JP,A)
【文献】 特表2009−515001(JP,A)
【文献】 特開2006−037312(JP,A)
【文献】 特開平10−008397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00− 1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00− 9/00
D21H11/00−27/42
D21J 1/00− 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙上の両面に顔料を含有する塗工層を少なくとも2層塗設してなる枚葉オフセット印刷機用両面印刷塗工紙において、基紙上両面各々の最表塗工層に隣接する塗工層が炭酸カルシウムを含有し、該炭酸カルシウムの体積基準粒度分布において粒子径1.0μm以上の頻度が3%体積以下、粒子径0.2μm以下の頻度が15体積%超であり、該炭酸カルシウムの含有量が最表塗工層に隣接する塗工層の全顔料固形分に対して80質量%以上であり、且つ基紙上両面各々の最表塗工層および最表塗工層に隣接する塗工層が、ガラス転移温度−20℃以上20℃未満のラテックスを含有することを特徴とする枚葉オフセット印刷機用両面印刷塗工紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷機に用いる両面の印刷用塗工紙に関する。特に、枚葉紙を使用したオフセット印刷で従来問題となっているグロスゴースト(後刷りした印刷面に先刷りした印刷面の画像に相当する模様が現れる現象をいう。)を軽減する両面の印刷用塗工紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チラシ、パンフレット、カタログ等の商業印刷物や、書籍、雑誌等の出版印刷物を印刷する場合の現在主力となっている印刷方式はオフセット印刷である。オフセット印刷機には、枚葉紙を印刷する枚葉機と、巻き取り紙を印刷する通称オフ輪機と呼ばれるものがある。
【0003】
枚葉機で使用されるインキとして酸化重合タイプのインキを使用し、用紙の両面を同一工程で印刷する両面機と呼ばれるタイプも存在する。しかしながら、一般的には、用紙の片面を印刷し、その印刷後に印刷面のインキが乾燥した後に用紙を反転させて反対面を印刷する。反対面のインキが乾燥したら、断裁、製本等の後工程作業を行い製品化する。
【0004】
枚葉機で両面印刷する場合に特有の印刷トラブルとしてグロスゴーストがある。グロスゴーストとは後刷りした印刷面に先刷りした印刷面の画像に相当する模様が現れる現象をいう。先刷りした印刷面のインキが後刷りした印刷面のインキと重なり接することで後刷りインキの乾燥に影響を与え、結果として後刷りした印刷面の画像部において、先刷りした印刷面の画像部と接する部分に光沢差が発生し、後刷りした印刷面の画像部に模様が浮き出てしまう現象である(例えば、非特許文献1参照)。グロスゴーストは、印刷物の美観を著しく損なってしまい、結果的に商品価値を低下させてしまう。
【0005】
グロスゴーストを軽減させる従来方法としては、印刷機側の印刷作業操作により調整する方法が取られている(例えば、非特許文献1および2参照)。例えば、後刷りした印刷面の乾燥に影響しないように先刷りした印刷面のインキの乾燥を促進させる方法である。この方法では、先刷りした印刷面がインキセットした状態に達した段階で「風入れ」と呼ばれる作業を行うことで新鮮な空気を用紙の間に導入し、インキ中の油成分の酸化重合を促進させてインキの乾燥を速める。また、後刷りした印刷面がインキセットした状態に達した段階で「風入れ」作業を行うこともある。インキセットした状態とは、印刷面のインキの表面を指で触れても指にはインキが付着しないが、強く擦ったりするとインキが取れてしまうインキの乾燥途中の段階であって、完全にインキが乾燥し硬化している状態に達していない状態をいう。
【0006】
また、グロスゴーストを目立たなくするための従来方法としては、「ベタ面先刷り」という手法が知られている(例えば、非特許文献1および2参照)。「ベタ面先刷り」とは、用紙の表面と裏面に印刷する画像を考慮して、ベタ部分若しくは色彩の濃い部分の面積が広い画像またはベタ部分若しくは色彩の濃い部分が多数存在する画像を印刷する面を先に印刷する方法である。
【0007】
しかしながら、印刷機側の印刷作業操作による対応では、印刷オペレーターの作業量を増大させ、また、これらの対応を行ってもグロスゴーストを防げるかどうかは印刷をしてみないと分からないという問題点がある。グロスゴーストが発生した場合には、刷り直しまたは値引きによる損失や納期の遅れが生じる場合もあり、印刷会社の生産性を大きく低下させてしまう。以上のことから、グロスゴースト軽減に対して用紙による対応が求められているが、用紙による対応は十分に満足できる方法が未だに存在しない現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】東京洋紙協同組合、[online]、Q&A/印刷豆知識/枚葉印刷でおこりやすいトラブル/グロスゴースト、[平成24年1月30日検索]、インターネット<URL:http://www.tykk.com/tykk/q_and_a/mame/maiyo/index.html>
【非特許文献2】照井義行著、「オフセット印刷ブック 印刷の知識と技術の継承」、株式会社印刷出版研究所、平成19年9月20日発行、p.153
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般的な印刷用塗工紙は、白紙光沢のレベルにより低い方から、マット紙、ダル紙、グロス紙に分類される。しかしながら、視認性や鮮鋭性の点で、マット紙であっても印刷光沢については高くなる印刷用塗工紙が求められている場合が多い。ましてやグロス紙で印刷光沢の低い印刷用塗工紙は商品性が著しく損なわれる。また、連続した印刷を行うには印刷用塗工紙の表面のピッキング強度(以下、「表面強度」と記載する)が強いことが求められる。
【0010】
グロスゴーストは、両面印刷後に先刷りした印刷面のインキが後刷りした印刷面のインキに重なり接することで後刷りした印刷面のインキの乾燥に影響を与え、結果として後刷りした印刷面の画像部において、先刷りした印刷面の画像部と重なり接する位置に光沢差が発生する現象であるため、用紙側でインキ乾燥を速くする必要がある。しかしながら、一般的にインキの乾燥が速いと印刷光沢は低下する場合がほとんどであり、印刷光沢を低下させないことも求められる。また印刷用塗工紙は、通常は大量の枚数を連続して印刷する。連続して印刷中、印刷用塗工紙の表面強度が弱い場合に塗工紙表面からピッキングしたダストが印刷機の版胴やブランケット胴に付着し、印刷品質を低下させることがある。そのために版胴やブランケット胴の清掃作業が頻繁となり、印刷用塗工紙の表面強度を低下させないことが印刷作業性の点で求められる。また印刷用塗工紙には、いずれの面から先刷りを開始してもグロスゴーストが発生しないことも求められる。
【0011】
本発明の目的は、オフセット印刷の枚葉機で両面印刷する場合に特有の印刷トラブルであるグロスゴーストを抑制でき、かつ印刷光沢および表面強度を低下させない印刷用塗工紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上述した問題点を解決するために、鋭意検討した結果、基紙上の両面に顔料を含有する塗工層を少なくとも2層塗設してなる印刷用塗工紙において、基紙上両面各々の最表塗工層に隣接する塗工層が炭酸カルシウムを含有し、該炭酸カルシウムの体積基準粒度分布において粒子径1.0μm以上の頻度が3体積%以下、粒子径0.2μm以下の頻度が15体積%超であり、該炭酸カルシウムの含有量が最表塗工層に隣接する塗工層の全顔料固形分に対して80質量%以上であり、且つ基紙上両面各々の最表塗工層および最表塗工層に隣接する塗工層が、ガラス転移温度−20℃以上20℃未満のラテックスを含有する印刷用塗工紙により、印刷光沢および表面強度が低下することなく、グロスゴーストを抑制できることを見出した。
【0013】
本発明の好ましい態様としては、基紙上の両面に顔料を含有する塗工層を少なくとも2層塗設してなる枚葉オフセット印刷機用両面印刷塗工紙であって、基紙上両面各々の最表塗工層に隣接する塗工層が炭酸カルシウムを含有し、該炭酸カルシウムの体積基準粒度分布において粒子径1.0μm以上の頻度が3体積%以下、粒子径0.2μm以下の頻度が15体積%超であり、該炭酸カルシウムの含有量が最表塗工層に隣接する塗工層の全顔料固形分に対して80質量%以上であり、且つ基紙上両面各々の最表塗工層および最表塗工層に隣接する塗工層がガラス転移温度−20℃以上20℃未満のラテックスを含有することを特徴とする枚葉オフセット印刷機用両面印刷塗工紙である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、オフセット印刷の枚葉機で両面印刷する場合に特有の印刷トラブルであるグロスゴーストを抑制でき、かつ印刷光沢および表面強度を低下させない印刷用塗工紙を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の印刷用塗工紙について詳細に説明する。
【0016】
本発明は、基紙上の両面に、顔料を含有する塗工層を少なくとも2層塗設してなる印刷用塗工紙において、基紙上両面各々の最表塗工層に隣接する塗工層が炭酸カルシウムを含有し、該炭酸カルシウムの体積基準粒度分布において粒子径1.0μm以上の頻度が3体積%以下、粒子径0.2μm以下の頻度が15体積%超であり、該炭酸カルシウムの含有量が最表塗工層に隣接する塗工層の全顔料固形分に対して80質量%以上であり、且つ基紙上各々の最表塗工層および最表塗工層に隣接する塗工層がガラス転移温度−20℃以上20℃未満のラテックスを含有する印刷用塗工紙である。これにより、枚葉オフセット印刷機で両面印刷する場合に特有の印刷トラブルであるグロスゴーストを抑制することができ、かつ印刷光沢および表面強度が低下しない。
【0017】
本発明において、最表塗工層とは、基紙を基準として最も外側に位置する塗工層をいう。また、最表塗工層に隣接する塗工層とは、該最表塗工層に接するかつ基紙側に位置する塗工層をいう。本発明の印刷用塗工紙は、基紙上の両面に塗工層を塗設してなるため、最表塗工層および最表塗工層に隣接する塗工層は、基紙の両面に各々存在する。
【0018】
本発明において、最表塗工層に隣接する塗工層は、顔料として少なくとも1種が炭酸カルシウムである。最表塗工層に隣接する塗工層が含有する炭酸カルシウムは、体積基準粒度分布において粒子径1.0μm以上の頻度が3体積%以下、粒子径0.2μm以下の頻度が15体積%超である。最表塗工層に隣接する塗工層が含有する炭酸カルシウムの含有量は、最表塗工層に隣接する塗工層中の全顔料固形分に対して80質量%以上である。炭酸カルシウムが上記粒度分布特性を有し且つ上記含有量の範囲であると、後述のラテックスと相まって印刷光沢および表面強度が低下せずにグロスゴーストの発生が抑制できる。
【0019】
最表塗工層に隣接する塗工層が含有する炭酸カルシウムの体積基準粒度分布において、粒子径1.0μm以上の頻度が3体積%超または粒子径0.2μm以下の頻度が15体積%以下であるとグロスゴーストが抑制できない。また、最表塗工層に隣接する塗工層が含有する炭酸カルシウムの含有量が、最表塗工層に隣接する塗工層中の全顔料固形分に対して80質量%未満である場合にもグロスゴーストが抑制できない。
【0020】
本発明において、炭酸カルシウムの体積基準粒度分布の調整は粉砕とふるい分けによって行うことができる。粉砕の方法は乾式粉砕法と湿式粉砕法に大別される。乾式粉砕法は、平均粒子径が数μm程度までの粉砕や湿式粉砕の前段階の粗粉砕として用いるのに適している。乾式粉砕法の装置として、代表的にはジョークラッシャー、ハンマークラッシャー、コーンクラッシャー、ローラーミル、ピンミル、ボールミル、ジェットミル等が挙げられる。湿式粉砕法は、乾式粉砕よりもさらに細かく粉砕を行うのに適しており、攪拌ディスクあるいはピン付ローターが設けられた粉砕室内に粉砕用のビーズを充填し、攪拌ディスクやピン付ローターを高速回転させながら材料のスラリーを通過させ行われる。湿式粉砕法の装置として、代表的にはアイメックス社、アシザワ・ファインテック社、三井鉱山社、ホソカワミクロン社等の製品が挙げられ、縦型と横型がある。湿式粉砕法は本発明に用いられる炭酸カルシウムの粒度分布を最終的に調整する方法として適している。ふるい分けは、メッシュにより行うことができる。
【0021】
湿式粉砕法において粉砕を進めると、相対的に、粒子径1.0μm以上の頻度が減少して粒子径1.0μm以上の頻度が3体積%以下となり、粒子径0.2μm以下の頻度が増加して粒子径0.2μm以下の頻度が15体積%超となる。粉砕を進める途中にふるい分けすることによって、本発明の体積基準粒度分布を有する炭酸カルシウムを得ることができる。
【0022】
また、湿式粉砕機の粉砕室の形状および材質、粉砕用ビーズの形状、材質および充填率、攪拌部材の形状、材質および回転速度、分散剤の種類および添加量は、適宜適切な条件を選択することができる。
【0023】
粉砕用ビーズの材質としては、アルミナビーズ、ジルコニアビーズ、ジルコニア・シリカ系セラミックビーズ等が高比重、高硬度、高耐久性の面で優れており、高性能なガラスビーズを用いることもできる。ビーズ粒子の大きさは直径0.1mm以上5.0mm以下の範囲のものが好適に使用される。比較的粗粒の炭酸カルシウムには粗めのビーズを、より細かくするためには微細なビーズを用いると効率が良い場合がある。
【0024】
分散剤は、炭酸カルシウムの表面に吸着して炭酸カルシウムの濡れを促進し、電荷的反発や高分子構造の立体障害によって炭酸カルシウムの凝集と沈降を阻害し、炭酸カルシウムのスラリーを安定化させる作用がある。代表的なものとしてポリアクリル酸アルカリ塩、縮合リン酸塩、ポリビニルアルコール等が挙げられる。湿式粉砕が進むと新たに出現した炭酸カルシウム表面に新たな分散剤の吸着が必要となるため、分散剤を予め余剰に添加したり、湿式粉砕の途中で追加したりする場合がある。
【0025】
本発明において塗工層に用いられる炭酸カルシウムは、天然に産出された石灰石原鉱を粉砕して得られる重質炭酸カルシウムが好ましい。水酸化カルシウムを化学反応させて得られる軽質炭酸カルシウムをさらに粉砕したり、炭酸カルシウム成分が十分に含まれる貝殻のような生物由来の材料を粉砕したりして使用することも可能である。
【0026】
本発明において炭酸カルシウムの粒度分布は、レーザー回折・散乱法の粒度分布測定装置で得られた粒度分布である。一般に粒度分布とは、スラリーや粉体のような粒子の集合体について特定の粒子径範囲にある頻度を%で表したものである。頻度の基準としては体積基準または個数基準等があり、本発明にかかる粒度分布は体積基準である。レーザー回折・散乱法では、レーザーを粒子に照射した際の粒子の大きさ依存する散乱光の特性をその測定原理に用い、体積分布に応じた信号を検出、演算処理して粒度分布を求める。代表的な測定装置には、日機装社(Microtrac.Inc)製の装置が挙げられる。
【0027】
本発明における炭酸カルシウムの体積基準粒度分布は、先ず炭酸カルシウムのスラリーからスポイト等で採取したサンプルを蒸留水またはイオン交換水で希釈、分散した後、レーザー回折・散乱法の粒度分布測定装置の測定用セルに適量を滴下し測定される。測定装置より得られた体積基準粒度分布から、粒子径1.0μm以上と粒子径0.2μm以下の頻度をそれぞれ求めることができる。
【0028】
本発明において、ガラス転移温度は、示差走査熱量計、例えばEXSTAR 6000(セイコー電子社製)、DSC220C(セイコー電子工業社製)、DSC−7(パーキンエルマー社製)等で測定して求めることができ、ベースラインと吸熱ピークの傾きとの交点をガラス転移温度とする。
【0029】
本発明において、ラテックスとは樹脂の液状分散体であり、重合可能な単量体から乳化重合法など公知の製造方法を用いることにより製造することができる。例えば、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン−アクリロニトリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル−塩化ビニル樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、エチレン−塩化ビニル樹脂、イソプレン樹脂、クロロプレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、尿素樹脂、アルキッド樹脂等、およびこれら樹脂をグラフト的、ブロック的に組み合わせた重合体等の合成樹脂、並びに天然ゴム等の液状分散体が挙げられる。なお、本発明において、例えば酢酸ビニル樹脂とは、酢酸ビニルを主体とした樹脂状の重合体を指し、これには単独重合体のみならず、酢酸ビニルを主体に、他の1種以上の単量体を共重合したものも含まれる。最表塗工層のラテックスは、層強度の点でスチレン−ブタジエン樹脂のラテックスが好ましい。さらに、最表塗工層に隣接する塗工層のラテックスもスチレン−ブタジエン樹脂のラテックスが好ましい。
【0030】
ラテックスのガラス転移温度は、例えばスチレン、メタクリル酸メチル、プロピレン、アクリル酸等のホモポリマーとしてガラス転移温度の高い単量体と、例えばエチレン、ブタジエン、塩化ビニル等のホモポリマーとしてガラス転移温度の低い単量体とを、重合時の添加数量を組み合わせることによって調整することができる。また、ラテックスの粒子径は、乳化重合の乳化剤の形成するミセルサイズ、ラジカルの連鎖移動剤の添加量を調整することによって制御することができる。
【0031】
本発明において、最表塗工層および最表塗工層に隣接する塗工層が含有するラテックスはガラス転移温度が−20℃以上20℃未満である。最表塗工層中および最表塗工層に隣接する塗工層中のラテックスのガラス転移温度がこの範囲から外れると、印刷用塗工紙の印刷光沢または表面強度が低下する。さらに場合によってはグロスゴーストも発生する。
【0032】
本発明において、最表塗工層および最表塗工層に隣接する塗工層がラテックスを含有し、ラテックスのガラス転移温度が前記の範囲であり、最表塗工層に隣接する塗工層が炭酸カルシウムを含有し、炭酸カルシウムが前記粒度分布特性および前記含有量範囲であることによって、グロスゴーストを抑制でき、かつ印刷光沢および表面強度を低下させない印刷用塗工紙を得ることができる。
【0033】
後刷りされる側の塗工層において、本発明にかかる最表塗工層および最表塗工層に隣接する塗工層であるとグロスゴーストを抑制でき、かつ印刷光沢および表面強度を低下させない印刷用塗工紙となる。しかしながら、常に後刷りする面が限定された印刷用塗工紙では印刷現場の作業性が著しく低下する。従って、本発明において、かかる最表塗工層および最表塗工層に隣接する塗工層は基紙上の両面に設けることが好ましい。また、グロスゴーストが枚葉オフセット印刷で顕著に発生するため、本発明の好ましい態様として、本発明の印刷用塗工紙は、枚葉オフセット印刷機にて両面印刷される枚葉オフセット印刷機用両面印刷塗工紙として用いることが好適である。
【0034】
本発明において、基紙は、LBKP、NBKP等の化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CGP等の機械パルプ、および古紙パルプ等の各種パルプを含み、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン等の各種填料、サイズ剤、定着剤、歩留り剤、紙力増強剤等の各種配合剤を必要に応じて配合して抄造された紙であり、酸性、中性、アルカリ性のいずれかでも抄造できる。
【0035】
本発明において、基紙は、サイズ液によりサイズプレス処理を行っても、あるいは行わなくても構わない。サイズ液には、例えばデンプンやポリビニルアルコールなど公知の表面サイズ剤を含有することができる。
【0036】
本発明において、基紙の抄紙方法における抄紙機として、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、コンビネーション抄紙機、円網抄紙機、ヤンキー抄紙機など製紙業界で公知の抄紙機を適宜使用できる。
【0037】
基紙のISO白色度に関しては何ら制限されるものではないが、白色度84%以上であることが好ましい。
【0038】
本発明において、最表塗工層に隣接する塗工層と基紙との間に1層以上のその他塗工層を設けることができる。
【0039】
本発明において、最表塗工層またはその他塗工層(ただし、最表塗工層に隣接する塗工層を除く。)が含有する顔料は、特に限定されるものではなく、従来公知の顔料を使用することができる。例えば、各種カオリン、クレー、タルク、炭酸カルシウム、サチンホワイト、リトポン、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、水酸化アルミナ、プラスチック顔料など挙げられ、印刷用塗工紙に顔料として一般に用いられるものを適宜用いることができ、また複数種を併用することができる。
【0040】
本発明において、最表塗工層を塗設する方法は、特に限定されない。例えば、ゲートロールやシムサイザー等のフィルムトランスファーコーター、エアーナイフコーター、ロッドコーター、ブレードコーター、ダイレクトファウンテンコーター等の各種方式を適宜使用することができる。好ましくは、ブレードコーターやエアーナイフコーターである。
【0041】
本発明において、最表塗工層に隣接する塗工層が含有する顔料は、本発明にかかる炭酸カルシウム以外は特に限定されるものではなく、従来公知の顔料を合わせて使用することができる。例えば、各種カオリン、クレー、タルク、サチンホワイト、リトポン、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、水酸化アルミナ、プラスチック顔料など挙げられる。印刷用塗工紙に顔料として一般に用いられるものは適宜自由に併用してもよい。
【0042】
本発明において、最表塗工層に隣接する塗工層またはその他塗工層(ただし、最表塗工層を除く。)を塗設する方法は、特に限定されない。例えば、ゲートロールやシムサイザー等のフィルムトランスファーコーター、エアーナイフコーター、ロッドコーター、ブレードコーター、ダイレクトファウンテンコーター等の各種方式を適宜使用することができる。好ましくは、ブレードコーターである。最表塗工層に隣接する塗工層またはその他塗工層(ただし、最表塗工層を除く。)の片面あたりの塗工固形分質量は5g/m以上17g/m以下が好ましい。最表塗工層に隣接する塗工層の片面あたりの塗工固形分質量は、前記の範囲であれば、両面の各々において同じであっても異なっていても構わない。この範囲であれば、基紙の表面の凹凸の影響を軽減し、平滑性が向上することができる。
【0043】
本発明において、最表塗工層または最表塗工層に隣接する塗工層は、ラテックス以外に従来公知のバインダーを併用することができる。本発明に用いることができるバインダーとしては、通常のデンプン、酸化デンプン、リン酸エステル化デンプン、酵素変性デンプンやそれらをフラッシュドライして得られる冷水可溶性デンプン等のデンプン類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、ユリアまたはメラミン−ホルマリン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミドポリアミン−エピクロルヒドリン等の水溶性合成物、ワックス、カゼイン、大豆蛋白等の天然物およびこれらをカチオン化したもの等が挙げられる。これを単独でラテックスと併用しても構わない。また、これらから複数種を併用してもよい。
【0044】
前記のその他塗工層は、バインダーとして上記ラテックスまたは上記の従来公知のバインダーから適宜1種以上選択し含有することができる。
【0045】
本発明において、それぞれの塗工層は、一般的に塗工紙を製造する上で用いられる各種助剤や添加剤を配合して構わない。例えば、増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ソーダ、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の水溶性高分子、珪酸塩等が挙げられる。さらに必要に応じて塗工層は、分散剤、pH調整剤、潤滑剤、消泡剤、耐水化剤、界面活性剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤等を配合して構わない。
【0046】
本発明における印刷用塗工紙は、基紙およびそれぞれの塗工層を設けた各々段階でスーパーカレンダーやソフトカレンダーで処理することができる。特に、最表塗工層を塗設・乾燥後はカレンダー処理することが好ましい。
【0047】
本発明の印刷用塗工紙はオフセット印刷に適し、枚葉オフセット印刷機で両面印刷する場合に用いられる印刷用塗工紙に好適である。また本発明の印刷用塗工紙は、少なくとも一方の印刷面または一方の印刷面の部分的領域を、インクジェット方式による印刷または電子写真方式による印刷など各種印刷方式に用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例により本発明をより具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。配合に記載される質量部は全て固形分量あるいは実質成分量の値である。
【0049】
各実施例および各比較例の印刷用塗工紙は、下記の内容に従って作製した。
【0050】
<基紙の作製>
基紙として、以下のような配合で1質量%パルプスラリーを調成し、長網抄紙機で坪量76g/mの塗工用基紙を抄造した。
(基紙配合)
ECF漂白されたLBKP(濾水度440mlcsf) 70質量部
ECF漂白されたNBKP(濾水度490mlcsf) 30質量部
軽質炭酸カルシウム 6.0質量部
市販カチオン化デンプン 1.0質量部
市販カチオン系ポリアクリルアミド歩留り向上剤 0.030質量部
【0051】
<炭酸カルシウムの調製>
炭酸カルシウムとして、市販の天然の石灰石をジョークラッシャー、ハンマークラッシャー、ローラーミルによって平均粒子径30μm程度までに粗粉砕して、これに水と市販のポリアクリル酸アルカリ塩タイプの分散剤を加えて攪拌し、固形分約75質量%の予備分散スラリーを用いた。この予備分散スラリーをアシザワ・ファインテック社製湿式粉砕機(横型、円柱型粉砕室の寸法:直径約0.5m、長さ約1.3m)を用いてさらに粉砕処理した。ビーズは直径約1mmのジルコニア製を、充填率83容積%、流量は約15リットル/分とした。粉砕処理において、体積基準粒度分布を測定しながらパス回数変更とメッシュによるふるい分けとによって、下記A〜Iの炭酸カルシウムを調製した。体積基準粒度分布は、日機装社製マイクロトラック9320−X100によって測定し、各頻度を算出した。
【0052】
炭酸カルシウムA:
粒子径1.0μm以上の頻度0体積%/粒子径0.2μm以下の頻度39体積%
炭酸カルシウムB:
粒子径1.0μm以上の頻度1体積%/粒子径0.2μm以下の頻度32体積%
炭酸カルシウムC:
粒子径1.0μm以上の頻度3体積%/粒子径0.2μm以下の頻度21体積%
炭酸カルシウムD:
粒子径1.0μm以上の頻度3体積%/粒子径0.2μm以下の頻度16体積%
炭酸カルシウムE:
粒子径1.0μm以上の頻度3体積%/粒子径0.2μm以下の頻度14体積%
炭酸カルシウムF:
粒子径1.0μm以上の頻度5体積%/粒子径0.2μm以下の頻度17体積%
炭酸カルシウムG:
粒子径1.0μm以上の頻度20体積%/粒子径0.2μm以下の頻度17体積%
炭酸カルシウムH:
粒子径1.0μm以上の頻度20体積%/粒子径0.2μm以下の頻度10体積%
炭酸カルシウムI:
粒子径1.0μm以上の頻度50体積%/粒子径0.2μm以下の頻度0体積%
【0053】
<最表塗工層に隣接する塗工層用塗工液の調製>
炭酸カルシウム 配合部数は表1に記載
カオリン(1級カオリン:平均粒子径1.3μm) 配合部数は表1に記載
スチレン−ブタジエン系ラテックス(ガラス転移温度は表1に記載) 9.0質量部
ポリビニルアルコール(完全ケン化、重合度400) 3.0質量部
ステアリン酸カルシウム系潤滑剤 0.4質量部
印刷適性向上剤(水溶性変性ポリアミン系樹脂) 0.3質量部
【0054】
上記、固形分質量部で配合し、pH9.8となるように水酸化ナトリウムで調整し、ブレード塗工用にはB型粘度500〜2000mPa・s程度になるように水で調整し最表塗工層に隣接する塗工層用塗工液とした。
【0055】
<最表塗工層用塗工液の調製>
カオリン(1級カオリン:平均粒子径1.3μm) 60質量部
中空顔料(市販ポリスチレン系有機中空顔料:平均粒子径1μm、中空率50体積%)
9.5質量部
炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム:平均粒子径0.8μm) 30.5質量部
スチレン−ブタジエン系ラテックス(ガラス転移温度は表1に記載) 14質量部
ポリビニルアルコール(完全ケン化、重合度400) 1.2質量部
ステアリン酸カルシウム系潤滑剤 0.4質量部
印刷適性向上剤(水溶性変性ポリアミン系樹脂) 0.4質量部
蛍光染料 0.5質量部
青顔料 0.05質量部
合成消泡剤 0.2質量部
【0056】
上記、固形分質量部で配合し、pH9.8となるように水酸化ナトリウムで調整し、エアーナイフ塗工用にB型粘度10〜30mPa・s程度になるように水で調整し最表塗工層用塗工液とした。
【0057】
<印刷用塗工紙の作製>
各実施例および比較例1〜10の印刷用塗工紙は以下のようにして製造した。
上記のようにして製造した基紙の両面に、最表塗工層に隣接する塗工層の塗工液をブレードコーター方式の塗工装置を用いて塗設し、乾燥して最表塗工層に隣接する塗工層を設けた塗工紙を得た。片面あたりの塗工固形分質量は10.0g/mとした。得られた該塗工紙の最表塗工層に隣接する塗工層上の両面に最表塗工層の塗工液をエアーナイフコーター方式の塗工装置を用いて塗設し、乾燥して最表塗工層を設けた。片面あたりの塗工固形分質量は6.0g/mとした。得られた塗工紙をオフラインでソフトカレンダー装置により仕上げ処理し、印刷用塗工紙を製造した。
【0058】
比較例11および12の印刷用塗工紙は以下のようにして製造した。
上記のようにして製造した基紙の両面に、最表塗工層に隣接する塗工層の塗工液をブレードコーター方式の塗工装置を用いて塗設し、乾燥して最表塗工層に隣接する塗工層を設けた塗工紙を得た。片面あたりの塗工固形分質量は16.0g/mとした。得られた外塗工紙に最表塗工層を設けることなく、オフラインでソフトカレンダー装置により仕上げ処理し、印刷用塗工紙を製造した。
【0059】
印刷用塗工紙の評価は以下の方法で行った。
【0060】
<グロスゴーストの評価>
枚葉機(三菱重工社製ダイヤ3H−4)を用い、平版オフセットプロセスインキを使用して4色印刷を行った。印刷する画像は、先刷り用として文字、図形、写真画像を印刷しそのまま用紙を積み重ねた。24時間後、反対面に後刷り用として面積を広くしたベタ画像および平網画像を印刷し、そのまま用紙を積み重ねた。24時間後、後刷りのベタ画像および平網画像に先刷り画像に起因するグロスゴーストを以下の6段階で目視評価を行った。評価基準を以下に示す。本発明においては、4以上を発明の対象とした。
6:グロスゴーストが認められない。
5:グロスゴーストが斜光観察で僅かに認められる。
4:グロスゴーストが斜光観察で認められる。
3:グロスゴーストがベタ画像に僅かに認められる。
2:グロスゴーストがベタ画像に認められる。
1:グロスゴーストがよりはっきりと認められる。
【0061】
<印刷光沢の評価>
RI印刷機(明製作所社製)を用い、枚葉オフセットプロセスインキのマゼンタインキ(DIC製、スペースカラーフュージョンG ST)0.3mlをローラーで練り、試験片にベタ印刷を施した後、一昼夜室温にて放置し、JIS Z8741の方法3に準じて角度60°−60°反射率で印刷光沢を評価した。評価基準を以下に示す。本発明においては、4以上を発明の対象とした。
5:印刷光沢が51.0%以上。
4:印刷光沢が44.0%以上51.0%未満。
3:印刷光沢が37.0%以上44.0%未満。
2:印刷光沢が30.0%以上37.0%未満。
1:印刷光沢が30.0%未満。
【0062】
<表面強度の評価>
RI印刷機(明製作所社製)を用い、タックバリュー20の墨インキにより印刷を行った。また、給水ロールで印刷サンプルを湿らした直後にタックバリュー20の墨インキにより印刷を行った。両方の印刷面についてピッキングの程度を以下の4段階で評価し、異なる評価の場合は劣る方を優先した。評価基準を以下に示す。本発明においては、3以上を発明の対象とした。
4:ピッキングが判別できない。
3:ピッキングが僅かに判別できる。
2:ピッキングが判別できる。
1:ピッキングがよりあきらかに判別できる。
【0063】
実施例1〜12、比較例1〜12の評価結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
本発明に相当する実施例1〜12は、グロスゴーストが抑制され、印刷光沢および耐刷性の低下も認められないことが分かる。一方、単層である比較例11と比較例12では、ガラス転移温度が本発明の範囲内であっても範囲外であっても、グロスゴーストは抑制されるが、印刷光沢および耐刷性の両方を満足させることができない。2層であっても、最表塗工層に隣接する塗工層の全顔料固形分に対して本発明にかかる炭酸カルシウムが80質量%未満である比較例1はグロスゴーストの点で不十分であり、体積基準粒度分布において炭酸カルシウムの頻度が本発明に相当しない比較例2〜6、および最表塗工層または最表塗工層に隣接する塗工層が含有するラテックスのガラス転移温度が本発明にかかる範囲に相当しない比較例7〜10は、本発明にかかる効果の全てを満足することができない。