(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カルボン酸フェニルエステルと無水トリメリット酸類とをエステル交換反応させて無水トリメリット酸フェニルエステル類を製造するに際し、カルボン酸アルカリ金属塩触媒の存在下に芳香族炭化水素溶媒中において反応させることを特徴とする無水トリメリット酸フェニルエステル類の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の無水トリメリット酸フェニルエステルの製造方法は、カルボン酸フェニルエステルと無水トリメリット酸類をエステル交換反応するのに際し、触媒としてカルボン酸アルカリ金属塩を用い、芳香族炭化水素溶媒中において反応させることを特徴とする。
上記製造方法において、目的とする無水トリメリット酸フェニルエステルは、下記一般式(1)で表される。
( 式中、Aはn価の単核又は多核フェノール類から水酸基を除いた残基を表し、R
4はアルキル基、アルコキシル基又はフェニル基を表し、dは0又は1〜3の整数を示し、nは1〜4の整数を示す。)
式中、Aはn価の単核又は多核フェノール類から水酸基を除いた残基を表し、具体的にはAは単核又は多核フェノール類からn個のフェノール性水酸基を除去してなる単核又は多核のフェニル核の残基を表す。好ましくは、Aは、1〜3価のモノフェニル類残基、2〜4価のビスフェニルもしくはビフェニル類残基、3〜4価のトリスフェニル類残基、4価のテトラキスフェニル類残基である。特に好ましいAは、2価のモノフェニル類残基、ビスフェニル類残基もしくはビフェニル類残基である。
【0012】
また、式中、R
4で表されるアルキル基としては、好ましくは炭素原子数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素原子数5〜10の環状のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素原子数5〜6のシクロアルキル基である。具体的には例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、sec−ブチル、t−ブチル、イソブチル、シクロヘキシル、シクロペンチル等が挙げられる。これらには、例えばフェニル基、アルコキシル基、ハロゲン、酸素原子(環状エーテル基)等の置換基を有していてもよく、また、式中、R
4で表されるフェニル基にも炭素原子数1〜4のアルキル基及び/又はアルコキシル基が1〜3程度置換していてもよい。
また、式中、R
4で表されるアルコキシル基としては、好ましくは炭素原子数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシル基、炭素原子数5〜10の環状のアルコキシル基であり、より好ましくは炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基、炭素原子数5〜6のシクロアルコキシ基である。具体的には例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、シクロヘキシルオキシ、シクロペンチルオキシ等が挙げられる。これらには、例えばフェニル基、アルコキシル基、ハロゲン、酸素原子(環状エーテル基)等の置換基を有していてもよい。
【0013】
本発明の製造方法において上記無水トリメリット酸フェニルエステルの原料であるカルボン酸フェニルエステルとしては、本発明の製造方法により無水トリメット酸類とエステル交換反応が可能なカルボン酸エステル基を有するものであれば、特に制限はないが、例えば、下記一般式(2)で表される。
(式中、A、nは一般式(1)のそれと同じであり、R
3は水素原子、飽和炭化水素基又はフェニル基を表す。)
式中、R
3で表される飽和炭化水素基としては、直鎖状、分岐鎖状又は環状の飽和炭化水素基であり、これらの飽和炭化水素基にはフェニル基が置換してもよく、メトキシ等のアルコキシル基が置換している等のエーテル基を有していてもよい。
【0014】
直鎖状又は分岐鎖状飽和炭化水素基の好ましい炭素原子数は1〜10、より好ましくは1〜4であり、環状飽和炭化水素基の好ましい炭素原子数は5〜10、より好ましくは5〜6である。また、直鎖状、分岐鎖状又は環状の1級又は2級のアルキル基が好ましく、具体的には、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基等が挙げられる。また、フェニル基にはアルキル基やアルコキシル基が置換していてもよい。しかしながらR
3としては、エステル交換反応において離脱生成するR
3基にカルボキシル基が結合したカルボン酸(R
3COOH)が、無水トリメリット酸類よりも沸点が低いことが反応操作上好ましいので、R
3としては炭素原子数が大き過ぎるものは好ましくない。
このような、カルボン酸フェニルエステルは、その製法については、特に制限はなく従来公知の方法、例えば無水酢酸等のカルボン酸無水物の過剰量を用いて酢酸等のカルボン酸エステルとする方法、硫酸、又はp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒の存在下にカルボン酸やハロゲン化アシルを反応させる方法等のフェノール類のカルボン酸エステルの製造方法を用いることができる。
【0015】
具体的には、例えば、下記一般式(3)〜(5)
(式中、R3は一般式(2)のそれと同じであり、Yはハロゲン原子を表す。)
に示すようなカルボン酸無水物、カルボン酸又はハロゲン化アシルと一般式(6)で表される芳香族ヒドロキシ類を原料として、公知のエステル化方法により得ることができる。
(式中、A、nは一般式(1)のそれと同じである。)
【0016】
一般式(6)で表される芳香族ヒドロキシ類としては、好ましくは、ヒドロキシ基の置換数nが1〜3のモノフェニル類、nが2〜4のビスフェニル類又はビフェニル類、nが3〜4のトリスフェニル類、nが4のテトラキスフェニル類であり、中でもn=2のモノフェニル類及びnが2〜4のビスフェニル類又はビフェニル類が好ましい。これらのうち、nが2であるモノフェニル類、ビスフェニル類又はビフェニル類、換言すればベンゼンジオール類、ビスフェノール類又はビフェノール類が特に好ましく、これらは例えば下記一般式(7)で表される。
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立してアルキル基、アルコキシル基、芳香族炭化水素基、ハロゲン基を表し、a、bはそれぞれ独立して0又は1〜4の整数を示し、cは0又は1の整数を示し、Xは単結合又は2価の結合基を表す。)
【0017】
上記式において、R
1、R
2で表されるアルキル基としては、好ましくは炭素原子数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素原子数5〜10の環状のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素原子数5〜6のシクロアルキル基であり、具体的には例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、sec−ブチル、t−ブチル、イソブチル、シクロヘキシル、又はシクロペンチル等が挙げられる。これらのアルキル基には、例えばフェニル基、アルコキシル基、ハロゲン、又は酸素原子(環状エーテル基)等の置換基を有していてもよい。
また、アルコキシル基としては、好ましくは炭素原子数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシル基、炭素原子数5〜10の環状のアルコキシル基であり、より好ましくは炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素原子数5〜10のシクロアルキル基であり、具体的には例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、シクロヘキシルオキシ、シクロペンチルオキシ等が挙げられる。これらのアルコキシル基には、例えばフェニル基、アルコキシル基、ハロゲン、又は酸素原子(環状エーテル基)等の置換基を有していてもよい。
【0018】
また、芳香族炭化水素基としては、好ましくはフェニル基、ナフチル基、フェニルオキシ基等の炭素原子数6〜10の芳香族炭化水素基等が挙げられる。これらの芳香族炭化水素基には、例えばアルキル基、アルコキシル基、ハロゲン基等の置換基を有していてもよい。
また、ハロゲン基としては、好ましくは、塩素、臭素、又はフッ素等が挙げられる。
【0019】
また、aが2以上の場合、R
1はそれぞれ同一でも違っていてもよく、bが2以上の場合、R
2はそれぞれ同一でも違っていてもよい。
水酸基の結合位置については、cが0のとき1,4−位又は1,3−位が好ましく、cが1のとき4,4’−位、2,2’−位又は2,4’−位が好ましく、4,4’−位が特に好ましい。
a,bはそれぞれ独立して0又は1〜4の整数を表す。好ましくは0又は1〜3であり、特に好ましくは0、1又は2である。
Xは、単結合又は2価の結合基を示す。好ましい2価の結合基は有機基であり、具体的には、例えば酸素原子(−O−)、硫黄原子(−S−)、スルホニル基(−SO2−)、カルボニル基(−CO−)、もしくはアルキレン基又はアルキレン基が結合していてもよい芳香族炭化水素基又はアルケニレン基等が挙げられる。
【0020】
アルキレン基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のアルキレン基であり、具体的には、例えば1,2−エタンジイル、1,3−プロパンジイル、メチレン、1,1−エタンジイル、2,2−プロパンジイル、1,1−シクロヘキサンジイル、又は1,4−シクロヘキシレン等が挙げられる。
1,1−エタンジイル、2,2−プロパンジイル、1,1−シクロヘキサンジイル等のアルキルデン基は下記式で表される。
(式中、R
5及びR
6はそれぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を表し、両方がアルキル基の場合、互いに結合して環を形成してもよい。)
R
5及びR
6の両方がアルキル基であることが好ましく、アルキル基としては、R
1及びR
2のそれと同じであり、メチル基、エチル基、イソプロピル基等の炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましい。
また、R
5及びR
6の両方もしくは片方が1級又は2級アルキル基であることが好ましい。
また、芳香族炭化水素基としては、具体的には、例えば1,4−フェニレン、1,3−フェニレン、4,4’−ビフェニレン、2,2’−ビフェニレン等が挙げられる。これらの芳香族炭化水素基には、例えばアルキル基やアルコキシル基の置換基を有していてもよい。また、アルキレン基が結合していてもよい芳香族炭化水素基として、具体的には、例えば1,3−ジイソプロピルベンゼン−α,α’−ジイル、1,4−ジイソプロピルベンゼン−α,α’−ジイル、又は1,4−ジメチルベンゼン−α,α’−ジイル等が挙げられる。また、アルケニレン基としては、具体的には、例えばビニレン等が挙げられる。
【0021】
このような一般式(7)で表される芳香族ジオール類としては、具体的には例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ビフェノール、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、3−メチル−4,4’’−ジヒドロキシ−p−ターフェニル、3−イソプロピル−4,4’’−ジヒドロキシ−p−ターフェニル、3,5−ジメチル−4,4’’−ジヒドロキシ−p−ターフェニル、3,3’’’−ジメチル−4,4’’’−ジヒドロキシ−p−クォーターフェニル、3,3’’’−ジイソプロピル−4,4’’’−ジヒドロキシ−p−クォーターフェニル、1,4−ビス{1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル}ベンゼン、1,3−ビス{1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル}ベンゼン、1−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン、1−(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン、4,4’−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−1,1’−ビシクロヘキサン−3,3’−ジエン、4,4’−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)−1,1’−ビシクロヘキサン−3,3’−ジエン等が挙げられる。
【0022】
従って、一般式(7)で表される芳香族ジオール類と、例えば一般式(3)〜(5)のカルボン酸類より得られる、一般式(2)で表されるカルボン酸フェニルエステルとしては、例えば下記一般式(8)で表される。
(式中、R
1、R
2、a、b、c及びXは、一般式(7)のそれと同じであり、R
3は一般式(2)のそれと同じである。)
エステル基(R
3COO基)の結合位置については、一般式(7)の水酸基の結合位置と同じであり、cが0のとき1,4−位又は1,3−位が好ましく、cが1のとき4,4’−位、2,2’−位又は2,4’−位が好ましく、4,4’−位が特に好ましい。
また、無水トリメリット酸類としては、例えば下記一般式(9)で表される。
(式中、R
4及びdは一般式(1)のそれと同じである。)
【0023】
上記一般式(9)において、式中、R
4で表されるアルキル基、アルコキシル基及びフェニル基としては、具体的には一般式(1)のR
4のアルキル基、アルコキシル基及びフェニル基と同じである。また、dは好ましくは0である。従って、一般式(9)で表される好ましい無水トリメリット酸類としては、無水トリメリット酸(無置換体)である。
従って、上記一般式(8)で表されるカルボン酸フェニルエステルと一般式(9)で表される無水トリメリット酸類から、本発明の製造方法により得られる一般式(1)で表される無水トリメリット酸フェニルエステルは、例えば下記一般式(10)で表される。
(式中、R
1、R
2、a、b、c及びXは一般式(7)のそれと同じであり、R
4及びdは一般式(1)のそれと同じである。)
無水トリメリット酸エステル基(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ基)の結合位置については、一般式(7)の水酸基の結合位置と同じであり、cが0のとき1,4−位又は1,3−位が好ましく、cが1のとき4,4’−位、2,2’−位又は2,4’−位が好ましく、4,4’−位が特に好ましい。
【0024】
このような一般式(10)で表される本発明の製造方法に係る目的物である無水トリメリット酸フェニルエステル類としては、具体的には例えば、1,4−ビス(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)ベンゼン、1,3−ビス(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)−3,3’−ジメチルビフェニル、ビス{4−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)フェニル}メタン、2,2−ビス{4−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)フェニル}プロパン、1,1−ビス{4−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)フェニル}エタン、1,1−ビス{4−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)フェニル}シクロヘキサン、1,1−ビス{4−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)フェニル}−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス{4−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)フェニル}フルオレン、3−メチル−4,4’’−ジ(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)ターフェニル、3−イソプロピル−4,4’’−ジ(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)ターフェニル、3,5−ジメチル−4,4’’−ジ(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)ターフェニル、3,3’’’−ジメチル−4,4’’’−ジ(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)クォーターフェニル、1,3−ビス[1−{4−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)フェニル}−1−メチルエチル]ベンゼン、1−{4−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)−3−メチルフェニル}−4−{4−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)フェニル}−1−シクロヘキセン、4,4’−ビス{4−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)−3−メチルフェニル}−1,1’−ビシクロヘキサン−3,3’−ジエン等が挙げられる。
【0025】
本発明の無水トリメリット酸フェニルエステルの製造方法においては、カルボン酸フェニルエステルと無水トリメリット酸類を原料とし、エステル交換反応するに際し、触媒として、カルボン酸アルカリ金属塩を用い、芳香族炭化水素溶媒中で反応を行う。
触媒として用いるカルボン酸アルカリ金属塩を形成するアルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩が挙げられる。反応速度が高い理由でナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩が好ましく、特に、ナトリウム塩、リチウム塩が好ましい。
また、カルボン酸アルカリ金属塩を形成するカルボン酸としては、脂肪族又は芳香族のモノカルボン酸、ジカルボン酸又は多価カルボン酸等が挙げられる。好ましいカルボン酸成分としては、モノカルボン酸又はジカルボン酸であり、特にモノカルボン酸が好ましい。
カルボン酸の好ましい炭素原子数(カルボキシル基の炭素含む)としては1〜30であり、より好ましくは1〜10であり、特に好ましくは1〜5である。
カルボン酸からカルボキシル基を除いた基を構成する炭化水素基としては、鎖状、分岐鎖状又は環状の飽和炭化水素基や不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられ、これらの炭化水素基には、例えば脂肪族基や芳香族基等の置換基を有していてもよい。
【0026】
従って、カルボン酸アルカリ金属塩としては、具体的には例えば、飽和脂肪族モノカルボン酸アルカリ金属塩として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ステアリン酸又はシクロヘキサンカルボン酸等のアルカリ金属塩が、不飽和脂肪族モノカルボン酸アルカリ金属塩として、アクリル酸、クロトン酸等のアルカリ金属塩が、飽和脂肪族ジカルボン酸アルカリ金属塩として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸又はアジピン酸等のアルカリ金属塩が、不飽和脂肪族ジカルボン酸アルカリ金属塩として、マレイン酸、フマル酸等のアルカリ金属塩が、芳香族モノカルボン酸アルカリ金属塩として、安息香酸、ナフトエ酸等のアルカリ金属塩が、芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩として、フタル酸、テレフタル酸等のアルカリ金属塩が挙げられる。これらのうち、好ましくは飽和脂肪族カルボン酸アルカリ金属塩であり、特に、酢酸アルカリ金属塩、プロピオン酸アルカリ金属塩等の炭素原子数1〜5程度の脂肪族カルボン酸アルカリ金属塩が好ましい。
【0027】
本発明の製造方法における、カルボン酸アルカリ金属塩の使用量は、原料のカルボン酸フェニルエステル中のエステル基に対し、好ましくは0.005〜10モル%の範囲、より好ましくは0.01〜5モル%の範囲、さらに好ましくは0.05〜3モル%の範囲、特に好ましくは0.1〜2.5モル%の範囲である。ここで、モル%とはモル%=(触媒のモル数/エステル基のモル数)×100で定義される数値である。エステル基のモル数は(原料カルボン酸フェニルエステルのモル数×分子内のエステル基数)である。従って、一般式(8)で表されるカルボン酸フェニルエステルに対しては、好ましくは0.01〜20モル%の範囲、より好ましくは0.02〜10モル%の範囲、さらに好ましくは0.1〜6モル%の範囲、特に好ましくは0.2〜5モル%の範囲である。
【0028】
本発明の製造方法においては、反応に際し、反応溶媒を用い、溶媒としては芳香族炭化水素溶媒を使用する。溶媒の物性としては沸点が190℃以上であることが好ましく、230℃以上であることがより好ましい。芳香族炭化水素溶媒としては、好ましくは多環式芳香族炭化水素溶媒、縮合環式芳香族炭化水素溶媒、芳香族基にエーテル基が直接結合した芳香族エーテル溶媒及び芳香族系熱媒であり、本願の効果を損なわない範囲で環上にアルキル基、アルコキシル基、ハロゲン等の置換基が有していてもよく、具体的には、例えば、多環式の芳香族炭化水素溶媒としてビフェニル、ターフェニル等が、縮合環式の芳香族炭化水素溶媒としてジイソプロピルナフタレン等のアルキル置換ナフタレン類等が、芳香族基にエーテル基が直接結合した芳香族エーテル溶媒としてアニソール、ジフェニルエーテル、ジ−p−トリルエーテル等の置換又は無置換のフェニルエーテル等が、芳香族系の熱媒としてサームエスシリーズ(新日鐵化学社製)等が挙げられる。
より好ましくは、置換又は無置換のジフェニルエーテル類、ジ(フェノキシ)ベンゼン類、ビフェニル類、ターフェニル類等の分子内にベンゼン環を2つ又は3つ有する芳香族炭化水素溶媒、もしくは、アルキル置換ナフタレン類等のナフタレン環を1つ有する芳香族炭化水素溶媒である。上記のより好ましい芳香族炭化水素溶媒の置換基としてはメチル基やプロピル基等のアルキル基又はメトキシ基等のアルコキシル基が挙げられ、炭素原子数としては1〜4程度が好ましく、置換数としては1〜3程度が好ましい。
溶媒の使用量は、原料カルボン酸フェニルエステル類の溶解度、融点、置換基、構造等により適切な量は異なり一概には言えないが、好ましくはカルボン酸フェニルエステル1重量部に対し0.5〜40重量部の範囲、さらに好ましくは1〜20重量部の範囲、特に好ましくは2〜10重量部の範囲である。本発明の製造方法においては、カルボン酸フェニルエステル類と無水トリメリット酸類のエステル交換反応を、カルボン酸アルカリ金属塩触媒を上記添加量範囲において用い、前記芳香族炭化水素溶媒中で反応を行うことにより、その理由は明確ではないが、目的物選択率が向上し、オリゴマー等の副生物の生成も抑制され、容易に高純度の目的物が高収率で得られる。
【0029】
また、本発明の製造方法において、無水トリメリット酸類の使用量は、カルボン酸フェニルエステル中のエステル基に対し、通常1モル倍以上、好ましくは1〜5モル倍の範囲、特に好ましくは1.3〜1.7モル倍の範囲である。ここで、エステル基に対する無水トリメリット酸類の使用モル倍は(無水トリメリット酸類モル数/エステル基のモル数)である。従って、一般式(8)で表される2価のカルボン酸フェニルエステルに対しては、無水トリメリット酸類の使用量は、通常2モル倍以上、好ましくは2〜10モル倍の範囲、特に好ましくは2.6〜3.4モル倍の範囲である。
エステル交換反応の温度は、通常、100〜300℃の範囲、好ましくは150〜270℃の範囲、より好ましくは190〜250℃の範囲、特に好ましくは200〜230℃の範囲である。
また、生成するカルボン酸を留出させながら反応することが好ましいので、エステル交換反応で生成するカルボン酸が原料の無水トリメリット酸類よりも沸点が低いカルボン酸であることが好ましい。
【0030】
反応圧は常圧下、加圧下又は減圧下のいずれでもよいが、常圧ないし減圧下が好ましく、例えば、生成するカルボン酸の沸点に応じて反応圧力を調整すればよい。
反応溶媒と原料のカルボン酸フェニルエステルの組み合わせによってはカルボン酸の留出に伴い、反応液から反応溶媒も留出する可能性もあるが、その場合は適宜反応系に溶媒を追加してもよい。
反応方法については、特に制限されるものではないが、例えば、不活性雰囲気下に反応容器に原料のカルボン酸フェニルエステル、無水トリメリット酸類、カルボン酸アルカリ金属塩及び溶媒を仕込み、攪拌下に昇温して、生成したカルボン酸を留出させながら反応を完結させる。また、反応終了後、反応溶液から目的物を分離精製する方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、反応液をそのまま冷却もしくは貧溶媒を加えて冷却して析出した結晶を濾別することで粗製ないし高純度の目的物を得ることができる。さらに必要であれば、再結晶・濾過することで高純度品を得ることができる。
また、例えば、上記精製操作で結晶化させる前に、目的物が溶解した溶媒を濾過して無機塩を濾別するか、あるいは、水洗することで無機塩等の金属分をさらに低減させた高純度品を得ることもできる。
水と接触させた際、一部又は全部の酸無水物基が開環してカルボン酸を生成しても、加熱処理又は無水酢酸等の酸無水物と反応させる等により目的物にもどすことができる。
【0031】
実施例
(参考例1)
温度計、還流器及び撹拌翼を取り付けた3Lの四つ口フラスコに無水酢酸675.0g(6.6モル)2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン342.0g(1.5モル)を仕込み、撹拌下に130℃まで昇温した後、撹拌下に同温度でさらに2.5時間反応を行った。
反応終了後、トルエン703gを加えて冷却した後、水を加えて撹拌し水洗を行った。
その後、水層を分離除去して得られた油層からトルエンを蒸留して除去した後、ヘプタン937gを添加して晶析、濾過して、純度99.4%(高速液体クロマトグラフィー分析による)の2,2−ビス(4−アセトキシフェニル)プロパン(以下BPA−DAと称する)の結晶を得た。
【0032】
(実施例1)
撹拌機、温度計、ディーンスターク、還流冷却器をつけた300ml四つ口フラスコを窒素置換した後、参考例1で得られたBPA−DA25.0g(0.080モル)、無水トリメリット酸46.2g(0.241モル)、酢酸リチウム0.25g(対BPA−DA:4.7モル%)、ジフェニルエーテル54.5gを仕込んだ。
その後、常圧窒素気流下で210℃まで昇温し、撹拌下に210℃を保ちながら7時間反応を行った。反応は、常圧窒素気流下で生成した酢酸を留出させながら行われた。210℃に昇温して4時間後及び7時間後の反応液を採取し、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により分析した。表1に結果を表示する。
目的物(ジ無水トリメリット酸エステル)である2,2−ビス{4−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)フェニル}プロパンの反応選択率は96.7%であった。
【0033】
(比較例1及び比較例2)
実施例1の溶媒のジフェニルエーテルに替えて表1に記載の溶媒をそれぞれ54.5g使用した以外は実施例1と同様の操作で反応させた。210℃に昇温してから4時間後及び7時間後の反応液のGPC分析結果を表1に示す。
【0034】
(比較例3)
実施例1のジフェニルエーテル溶媒を用いずに無溶媒で行った以外は実施例1と同様の操作で反応させた。210℃に昇温してから4時間後及び7時間後の反応液のGPC分析結果を表1に示す。
【0035】
(実施例2〜4)
実施例1の酢酸リチウムに替えて表2に記載の触媒を、それぞれBPA−DAに対して4.7モル%を使用した以外は実施例1と同様の操作で反応させた。210℃に昇温してから4時間後及び7時間後の反応液のGPC分析結果を表2に示す。
【0036】
(比較例4)
実施例1の酢酸リチウム触媒を用いずに無触媒で行なった以外は実施例1と同様の操作で反応させた。210℃に昇温してから4時間後及び7時間後の反応液のGPC分析結果を表2に示す。
【0037】
(比較例5)
実施例1の酢酸リチウム触媒に替えて水酸化カリウムを0.25g使用した以外は実施例1と同様の操作で反応させた。210℃に昇温してから4時間後及び7時間後の反応液を採取し、GPCで分析した分析結果を表2に示す。
【0038】
【表1】
※選択率は、GPCの面積百分率で計算した。
※モノエステル体はジアセテートのアセテート部分のうち一方のみがエステ
ル交換して無水トリメリット酸エステルとなった化合物を表し、反応率は
ジアセテートの反応率を表す。
【0039】
【表2】
※選択率は、GPCの面積百分率で計算した。
※モノエステル体はジアセテートのアセテート部分のうち一方のみがエステ
ル交換して無水トリメリット酸エステルとなった化合物を表し、反応率は
ジアセテートの反応率を表す。
【0040】
(実施例5及び実施例6)
酢酸リチウムに替えて酢酸ナトリウムをそれぞれBPA−DAに対して4.7モル%を使用し、ジフェニルエーテル54.5gに替えて表3に記載の溶媒をそれぞれ55g使用した以外は実施例1と同様に反応させた。210℃に昇温してから7時間後及び12時間後の反応液のGPC分析結果を表3に示す。
【0041】
(実施例7)
BPA−DAに替えて4,4’−ジ(アセトキシ)ビフェニルを21.6g、酢酸リチウムに替えて酢酸ナトリウムを0.2g、ジフェニルエーテルを142.6g使用し、反応温度を230℃にした以外は実施例1と同様に反応させた。230℃に昇温してから7時間後及び12時間後の反応液のGPC分析結果を表3に示す。
目的物である4,4’−ビス(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−5−イルカルボニルオキシ)ビフェニルの反応選択率は98.4%であった。
【表3】
※選択率はGPCの面積百分率で計算した。
※モノエステル体はジアセテートのアセテート部分のうち一方のみがエステ
ル交換して無水トリメリット酸エステルとなった化合物を表し、反応率は
ジアセテートの反応率を表す。
表1〜3の実施例及び比較例の結果によれば、本発明の実施例は、比較例
の方法よりオリゴマー等の副生物の生成が少なく、目的物の反応選択率が
高い。