【文献】
KITADA, Takahiro, TANAKA, Fumiya, TAKAHASHI, Tomoya, MORITA, Ken, and ISU, Toshiro,GaAs/AlAs coupled multilayer cavity structures for terahertz emission devices,Applied Physics Letters,米国,2009年 9月,Vol.95, No.11,pp.111106-1 - 111106-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記共振器構造は、GaAs層からなる活性層およびAlAs層からなる非活性層の積層からなるフォトニック結晶と、GaAs層およびAlAs層の積層からなる反射鏡を備えた複合フォトニック結晶構造である、
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の光発生装置。
前記フォトニック結晶における前記GaAs層および前記AlAs層の有効膜厚の比は、前記GaAs層:前記AlAs層=1:1であり、前記反射鏡における前記GaAs層および前記AlAs層の有効膜厚の比は、前記GaAs層:前記AlAs層=1:4であり、前記フォトニック結晶と前記反射鏡で有効膜厚の比が異なることを特徴とする請求項7に記載の光発生装置。
前記共振器構造は、前記入力部が前記傾斜した角度で前記第1入射光および前記第2入射光を入力したことにより、構造性複屈折が引き起こされ、その結果として異なる値を有するようになった前記s偏光の共振周波数および前記p偏光の共振周波数の差分に相当する周波数を有する光を出力する、
ことを特徴とする請求項3に記載の光発生装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明にかかる光発生装置および光発生方法の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
[第1実施形態]
(テラヘルツ光発生装置1の全体構成)
まず、本発明の第1実施形態に係るテラヘルツ光発生装置1(特許請求の範囲における「光発生装置」に相当)の構成について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、テラヘルツ光発生装置1の構成概要図である。
図1に示すように、テラヘルツ光発生装置1は、レーザ発振部10,11(特許請求の範囲における「入力部」に相当)、共振器構造12、および温度調節器13(特許請求の範囲における「温度調節部」に相当)を主に備えて構成される。レーザ発振部10,11は、入射光をミラー14やレンズ15を介して共振器構造12に入力するものである。共振器構造12は、レーザ発振部10,11より入力した入射光を増強して出力光として出力するものである。
【0023】
レーザ発振部10,11が共振器構造12に入射する入射光は、第1入射光および第2入射光の二つの入射光である。2つの入射光は互いに異なる偏光状態を有し、例えば第1入射光がs偏光状態であり且つ第2入射光がp偏光状態であっても良く、または第1入射光がp偏光状態であり且つ第2入射光がs偏光状態であっても良い。なお、第1実施形態では、第1入射光がs偏光状態であり、且つ第2入射光がp偏光状態であることとし、レーザ発振部10がs偏光状態の第1入射光を共振器構造12に入射し、且つレーザ発振部11がp偏光状態の第2入射光を共振器構造12に入射することとする。
【0024】
レーザ発振部10,11は、共振器構造12における主面に垂直の方向から傾斜した角度で、第1入射光および第2入射光を共振器構造12に入力する。
図2には、レーザ発振部10,11が角度をつけて第1入射光および第2入射光を共振器構造12に入力する様子がイメージされている。レーザ発振部10,11は、共振器構造12における主面12aに垂直の方向である方向D1に対して角度θだけ傾斜した方向である方向D2で、第1入射光および第2入射光を入力する。第1実施形態において、レーザ発振部10,11は、第1入射光および第2入射光を等角度で傾斜して入射させるとともに、当該傾斜角度θは0°〜90°の範囲において調整される。
【0025】
レーザ発振部10,11が角度をつけてs偏光状態の第1入射光およびp偏光状態の第2入射光を共振器構造12に入力すると、共振器モードの発生する周波数(以下、「共振周波数」ともいう。共振周波数は周波数の一つの値を指すことに限られることなく、共振器モードを発生させるある程度の幅をもつ周波数帯であっても良い。)にずれが発生する。
図3、4にはこれが波長に対する透過率としてイメージされている。
図3には、レーザ発振部10,11が共振器構造12における主面12aに垂直にs偏光状態の第1入射光およびp偏光状態の第2入射光を入力した場合が、グラフG1およびG2で表示されている。s偏光状態の第1入射光のグラフG1における共振周波数は波長H1(例えば1064nm)に相当する周波数であり、p偏光状態の第2入射光のグラフG2における共振周波数は波長H2(例えば1064nm)に相当する周波数である。また、
図4には、レーザ発振部10,11が共振器構造12における主面12aに15°だけ角度をつけてs偏光状態の第1入射光およびp偏光状態の第2入射光を入力した場合が、グラフG3およびG4でそれぞれ表示されている。s偏光状態の第1入射光のグラフG3における共振周波数は波長H3に相当する周波数であり、p偏光状態の第2入射光のグラフG4における共振周波数は波長H4に相当する周波数である。
図3に示されるように、垂直入射の場合は、s偏光とp偏光との間に共振周波数のずれは生じない。つまり、波長H1と波長H2は一致している。したがって、
図3においてはグラフG1およびG2が重なって表示されている。一方、15°傾斜して入射した場合には、共振周波数のずれが発生しており、
図4においては、当該ずれが符号Z1で表示されている。また、
図4において、グラフG3はグラフG1からシフトされ、共振周波数の波長が波長H1から波長H3にシフトされたことを表し、グラフG4はグラフG2からシフトされ、共振周波数の波長が波長H2から波長H4にシフトされたことを表す。なお、
図3、4は後述の構成例3において、共振器構造12として単純フォトニック結晶123を採用し、入射角度θをそれぞれ0°、15°とした場合である。また、後述するが、第1実施形態のテラヘルツ光発生装置1の出力光は、後述の温度調節を施さない場合には、
図4に示したずれZ1に相当する周波数を有する。
【0026】
レーザ発振部10,11により共振器構造12に入力される2つの入射光は、互いに異なる周波数を有する。例えば、s偏光状態の第1入射光の周波数は、レーザ発振部10の傾斜角度θに応じたs偏光の共振周波数と一致し、p偏光状態の第2入射光の周波数は、レーザ発振部11の傾斜角度θに応じたp偏光の共振周波数と一致する。具体的に、
図4の例において15°傾斜して入射した場合に、s偏光に対しては波長H3でその透過率がピークとなっており、s偏光状態の第1入射光は波長H3に相当する周波数を有する。また、p偏光に対しては波長H4でその透過率がピークとなっており、p偏光状態の第2入射光は波長H4に相当する周波数を有する。なお、後述の構成例1〜3のそれぞれの場合において15°傾斜して入射した場合に、構成例1の単純共振器の場合は波長H4が1060.85nmであり、構成例2の複合フォトニック結晶の場合は波長H4が1060.4nmであり、構成例3の単純フォトニック結晶の場合は波長H4が1060.15nmであった。しかし、実際には装置設計の便宜を図り、後述するような温度調節を行い、s偏光状態の第1入射光が
図5に示す波長H5に相当する周波数を有するように、且つp偏光状態の第2入射光が
図5に示す波長H6(例えば1064nm)に相当する周波数を有するように制御する。
図5は、
図4のような状況において、温度調節により共振周波数に変化が発生する様子を示す図である。s偏光状態の第1入射光の周波数をv1(波長H5に相当する周波数)とし、p偏光状態の第2入射光の周波数をv2(波長H6に相当する周波数)とした場合に、出力光の周波数はその差分の|v1―v2|である。
【0027】
ここで、温度調節器13について詳細に説明する。入射角度θを大きくすると、共振器モードの周波数が高周波数側に移動してしまう。これを表したのが上述の
図3および
図4である。そこで、温度調節器13が、移動してしまった共振周波数を元の共振周波数に戻すため、共振器構造12に温度調節を施して屈折率を制御する。これにより、s偏光状態の第1入射光の共振周波数およびp偏光状態の第2入射光の共振周波数を制御し、両方の共振周波数のうち何れか一方が一定となるように制御される。第1実施形態においては、p偏光状態の第2入射光の共振周波数が、入射角度がゼロの状態(垂直入射の状態)の共振周波数に戻って一定となるように制御される。
図5にはそれが矢印でイメージされており、温度調節を施した後に、s偏光状態の第1入射光の共振周波数は波長H3から波長H5に変化されている。また、p偏光状態の第2入射光の共振周波数(波長H4に相当する周波数)は温度調節により波長H6に変化されている。なお、波長H6は、垂直入射時の共振周波数(波長H1およびH2に相当する周波数、
図3、4参照)と一致またはその近傍の波長である。そして、このような温度調節後は、
図5にて符号Z2で表示される波長の差分に相当する周波数の差分が、第1実施形態のテラヘルツ光発生装置1の出力光の周波数となる。なお、上述した通り、温度調節を施さない場合には、
図4、5にて符号Z1で表示される波長の差分に相当する周波数の差分が、第1実施形態のテラヘルツ光発生装置1の出力光の周波数となる。
【0028】
このときの温度調節の範囲は、例えば220K〜390Kの範囲である。なお、温度調節の範囲は、使用する共振器構造によって、つまり共振器構造の膜数、膜厚、材料によって変化する。なお、屈折率の温度依存性を下記の式(1)および(2)に示す。式(1)は共振器構造12がGaAsからなる部分を含む場合に、当該部分における屈折率の温度依存性を示す。また、式(2)は共振器構造12がAlAsからなる部分を含む場合に、当該部分における屈折率の温度依存性を示す。なお、式(1)および(2)において、nは屈折率を示し、Tは共振器構造12の温度を示す。
【数1】
【数2】
【0029】
なお、下記の参考文献1は、温度調節により周波数制御を行う技術に関する参考文献である。
<参考文献1> J. Talghader and J. S. Smith, Appl. Phys. Lett. 66, 335, 1995
【0030】
図1に戻り、共振器構造12は、上記のv1の周波数を有するs偏光状態の第1入射光をシグナル光として、且つ上記のv2の周波数を有するp偏光状態の第2入射光をポンプ光としてレーザ発振部10,11よりそれぞれ入力し、両入射光の周波数の差分、つまり|v1―v2|に相当する周波数を有する出力光をアイドラー光として出力する。つまり、共振器構造12は、レーザ発振部10,11が上記傾斜した角度θでs偏光状態の第1入射光をシグナル光として、且つp偏光状態の第2入射光をポンプ光として入力したことにより、構造性複屈折が引き起こされ、その結果として異なる値を有するようになったs偏光の共振周波数およびp偏光の共振周波数の差分に相当する周波数を有する光を出力する。第1実施形態では、下記の構成例1〜3により、共振器構造12がテラヘルツ領域の光をアイドラー光として出力することとなる。
【0031】
以下、複数種類の共振器構造12を利用した第1実施形態のテラヘルツ光発生装置1の構成例について説明する。
【0032】
(構成例1)
最初の構成例は、共振器構造12として単純共振器を採用した場合である。
図6は、この場合の単純共振器121の概念図である。
図6に示されるように、単純共振器121は、GaAs層からなる欠陥層と、GaAs層およびAlAs層の積層からなる反射鏡(DBR: Distributed BraggReflector)を備えた構造を有する。
【0033】
単純共振器121におけるパラメータをまとめると以下の通りである。
1.DBRにおけるGaAs層について、
膜厚:99.09nm
層数:17層
屈折率:3.588(波長:1064nm)
2.DBRにおけるAlAs層について、
膜厚:65.73nm
層数:17層
屈折率:2.989(波長:1064nm)
3.欠陥層のGaAs層について、
膜厚:2391.7nm
層数:1層
屈折率:3.588(波長:1064nm)
4.DBRにおける周期数:前後それぞれ17周期ずつ、合計34周期
5.合計結晶長:7995.24nm
【0034】
このような構造の単純共振器121を備えたテラヘルツ光発生装置1を用いて所望のテラヘルツ領域の出力光を発生させる手順を
図7のフローチャートに示す。最初に、用途に応じて発生させたいテラヘルツ波の周波数を決定する(ステップS1)。次に、共振器構造12の種類を決定する(ステップS2)。本構成例においては単純共振器121が決定されたとする。
【0035】
次に、発生させたいテラヘルツ波の周波数に応じて、s偏光状態の第1入射光(シグナル光)およびp偏光状態の第2入射光(ポンプ光)の入射角度θを決定する(ステップS3)。入射角度θは発生させたい光の周波数によって決定されるものであり、
図8は単純共振器121が共振器構造12として決定された場合に、入射角度θと発生させたい光の周波数の関係を示す。
図8に示されるように、例えば0.31THzの光を発生させたい場合には、入射角度θを65°と決定することができる。
【0036】
図7に戻り、次の手順として、ポンプ光の周波数および強度、シグナル光の周波数および強度、そして単純共振器121の温度を決定する(ステップS4)。上記例のように、例えば0.31THzの光を発生させたい場合に、ポンプ光の周波数を約281.95THz(波長:1064nm)として一定に保ち、その強度は1MW/cm2と決定する。なお、変換効率を考慮すると、できれば高い強度の方が望ましい。また、シグナル光の周波数は281.95THz−差周波(発生させたい光の周波数)で決定することが出来るため、約281.64THzと決定する。シグナル光の強度については、ポンプ光の強度と同程度か、それ以下の強度とする。また、単純共振器121の温度は、
図9に示されるように、例えば0.31THzの光を発生させるために入射角度θを65°と決定した場合に、絶対温度として340Kと決定することができる。温度調節によりポンプ光の周波数が上記の約281.95THz(波長:1064nm)として一定に保たれる。
【0037】
以上により、所望の0.31THzの光が発生される。
図10は、このときの変換効率を示す。
図10に示されるように、入射角度θを65°とし、且つ340Kで単純共振器121を温度調節した場合に、そのときの変換効率は2.1e‐006%である。他の周波数範囲での結果を参酌すると、入射角度θを大きくするにつれ、変換効率は高くなり、65°付近で変換効率の最大値が現れる。なお、
図10では最大の変換効率が2.1e‐006%と表示されているが、これは、現在のすぐに使用可能なレーザ光源の性能を考慮し、閉じ込め効果を弱めたためであり、条件を変えることにより、より高い変換効率の値を得ることができる。
【0038】
本構成例の優れた点は、1.素子の薄さ、2.発生周波数が可変であること、3.高出力の連続光源となり得ること、が一例として挙げられる。素子、つまり共振器構造12の薄さにおいては、従来知られているものと比べると3桁のオーダーで薄いものになっている。また、変換効率は厚さの2乗に比例して上昇するので、それを加味すると、本構成例の装置が比類ない性能を有した装置であることがいえる。ここで、非特許文献3の装置は、その構成が本構成例の装置と全く異なるため比較の対象にならないものの、共振器構造の薄さだけにおいては、本構成例と同程度のオーダーのものであると考えられる。同文献では未だ変換効率の議論に達してさえいないので、本構成例の装置との間で変換効率の比較をすることはできない。しかし、本発明者の知見では、入射光の強度や素子の厚さ等の条件を同等なものにした場合に、本構成例の方が変換効率の面で比べ物にならないほど優れていると考えられる。
【0039】
更に、発生周波数や入射光の周波数が可変であることは、テラヘルツ波の応用に非常に有利に働く。これは非特許文献2の疑似位相整合や非特許文献3の2重共振器にはない性能であり、両文献の技術に比べて、本構成例の方が応用に適した装置であるといえる。
【0040】
また、変換効率は入射光強度に比例するので、連続光より尖頭値が高いパルス光の方が変換効率の数値は高くなる。そのため、多くの研究(例えば、上記の非特許文献1〜3)でパルス光における変換効率を計算しているが、パルス光の周波数領域分解能は連続光のそれに劣るので、例えば吸収スペクトル等を得る時には精度が劣る。非線形光学効果を用いた波長変換技術で連続光のテラヘルツ発生の試みを行った文献は非常に少ないため、本明細書では、仕方なく、パルス光との比較を行う。パルス光の場合に比べて、第1実施形態における変換効率の数値そのものが劣るのは、仕方のないことである。
【0041】
ここで、フォトミキシング(例えば、上記の非特許文献5)における出力は周波数が高くなるにつれてオーダー単位で低下するが、第1実施形態における出力は0.5−3.0THzの周波数領域でもそれほど低下しない。また、発生するテラヘルツ光の線幅は、ポンプ光・シグナル光の線幅とほぼ同等のオーダーとなると考えられる。第1実施形態における構成例ではGHzオーダーの線幅を想定してはいるものの、現在kHzやMHzの連続光源も市販されているため、それに合わせた設計で、変換効率の更なる上昇が望める。また、現在の構成例でも、GHz以下の線幅の光源を入射させると、ほぼ同じオーダーの線幅の光が発生できる。また、共振器構造12の構造の相違(下記の構成例2や3で示すように構造そのものの違いや、成長面の差異)によっても、変換効率の値が上記示した値より高くなる場合がある。
【0042】
(構成例2)
次の構成例は、共振器構造12として複合フォトニック結晶構造122を採用した場合である。
図11は、この場合の複合フォトニック結晶構造122の概念図である。
図11に示されるように、複合フォトニック結晶構造122は、GaAs層からなる活性層およびAlAs層からなる非活性層の積層からなるフォトニック結晶と、GaAs層およびAlAs層の積層からなる反射鏡(DBR)を備えた構造を有する。
【0043】
複合フォトニック結晶構造122におけるパラメータをまとめると以下の通りである。
1.DBRにおけるGaAs層について、
膜厚:79.18nm
層数:14層
屈折率:3.382(波長:1064nm、温度:200K)
2.DBRにおけるAlAs層について、
膜厚:92.49nm
層数:14層
屈折率:2.895(波長:1064nm、温度:200K)
3.フォトニック結晶におけるGaAs層について、
膜厚:72.53nm
層数:13層
屈折率:3.382(波長:1064nm、温度:200K)
4.フォトニック結晶におけるAlAs層について、
膜厚:84.72nm
層数:12層
屈折率:2.895(波長:1064nm、温度:200K)
5.DBRにおける周期数:前後それぞれ14周期ずつ、合計28周期
6.合計結晶長:6766.01nm
【0044】
このような構造の複合フォトニック結晶構造122を備えたテラヘルツ光発生装置1を用いて所望のテラヘルツ領域の出力光を発生させる手順は、
図7のフローチャートに示した通りである。最初に、用途に応じて発生させたいテラヘルツ波の周波数を決定する(ステップS1)。次に、共振器構造12の種類を決定する(ステップS2)。本構成例においては複合フォトニック結晶構造122が決定されたとする。
【0045】
次に、発生させたいテラヘルツ波の周波数に応じて、s偏光状態の第1入射光(シグナル光)およびp偏光状態の第2入射光(ポンプ光)の入射角度θを決定する(ステップS3)。入射角度θは発生させたい光の周波数によって決定されるものであり、
図12は複合フォトニック結晶構造122が共振器構造として決定された場合に、入射角度θと発生させたい光の周波数の関係を示す。
図12に示されるように、例えば1.55THzの光を発生させたい場合には、入射角度θを67°と決定することができる。
【0046】
図7に戻り、次の手順として、ポンプ光の周波数および強度、シグナル光の周波数および強度、そして複合フォトニック結晶構造122の温度を決定する(ステップS4)。上記例のように、例えば1.55THzの光を発生させたい場合に、ポンプ光の周波数を約281.95THz(波長:1064nm)として一定に保ち、その強度は1MW/cm2と決定する。なお、変換効率を考慮すると、できれば高い強度の方が望ましい。また、シグナル光の周波数は281.95THz−差周波(発生させたい光の周波数)で決定することが出来るため、約280.4THzと決定する。シグナル光の強度については、ポンプ光の強度と同程度か、それ以下の強度とする。また、複合フォトニック結晶構造122の温度は、
図13に示されるように、例えば1.55THzの光を発生させるために入射角度θを67°と決定した場合に、絶対温度として380Kと決定することができる。温度調節によりポンプ光の周波数が上記の約281.95THz(波長:1064nm)として一定に保たれる。
【0047】
以上により、所望の1.55THzの光が発生される。
図14は、このときの変換効率を示す。
図14に示されるように、入射角度θを67°とし、且つ380Kで複合フォトニック結晶構造122を温度調節した場合に、そのときの変換効率は6e‐005%である。他の周波数範囲での結果を参酌すると、入射角度θを大きくするにつれ、変換効率は高くなり、67°付近で変換効率の最大値が現れる。なお、
図14では最大の変換効率が6e‐005%と表示されているが、これは、現在のすぐに使用可能なレーザ光源の性能を考慮し、閉じ込め効果を弱めたためであり、条件を変えることにより、より高い変換効率の値を得ることができる。なお、本構成例の優れた点については、上記構成例1で述べたことと同様のことがいえるので、記載を省略する。
【0048】
(構成例3)
次の構成例は、共振器構造12として単純フォトニック結晶123を採用した場合である。
図15は、この場合の単純フォトニック結晶123の概念図である。
図15に示されるように、単純フォトニック結晶123は、GaAs層からなる活性層およびAlAs層からなる非活性層の積層からなるフォトニック結晶を備えた構造を有する。
【0049】
単純フォトニック結晶123におけるパラメータをまとめると以下の通りである。
1.フォトニック結晶におけるGaAs層について、
膜厚:74.74nm
層数:70層
屈折率:3.588(波長:1064nm)
2.フォトニック結晶におけるAlAs層について、
膜厚:87.31nm
層数:69層
屈折率:2.989(波長:1064nm)
3.合計結晶長:11256.19nm
【0050】
このような構造の単純フォトニック結晶123を備えたテラヘルツ光発生装置1を用いて所望のテラヘルツ領域の出力光を発生させる手順は、
図7のフローチャートに示した通りである。最初に、用途に応じて発生させたいテラヘルツ波の周波数を決定する(ステップS1)。次に、共振器構造12の種類を決定する(ステップS2)。本構成例においては単純フォトニック結晶123が決定されたとする。
【0051】
次に、発生させたいテラヘルツ波の周波数に応じて、s偏光状態の第1入射光(シグナル光)およびp偏光状態の第2入射光(ポンプ光)の入射角度θを決定する(ステップS3)。入射角度θは発生させたい光の周波数によって決定されるものであり、
図16は単純フォトニック結晶123が共振器構造として決定された場合に、入射角度θと発生させたい光の周波数の関係を示す。
図16に示されるように、例えば3THzの光を発生させたい場合には、入射角度θを85°と決定することができる。
【0052】
図7に戻り、次の手順として、ポンプ光の周波数および強度、シグナル光の周波数および強度、そして単純フォトニック結晶123の温度を決定する(ステップS4)。上記例のように、例えば3THzの光を発生させたい場合に、ポンプ光の周波数を約281.95THz(波長:1064nm)として一定に保ち、その強度は1MW/cm2と決定する。なお、変換効率を考慮すると、できれば高い強度の方が望ましい。また、シグナル光の周波数は281.95THz−差周波(発生させたい光の周波数)で決定することが出来るため、約278.95THzと決定する。シグナル光の強度については、ポンプ光の強度と同程度か、それ以下の強度とする。また、単純フォトニック結晶123の温度は、
図17に示されるように、例えば3THzの光を発生させるために入射角度θを85°と決定した場合に、絶対温度として420Kと決定することができる。温度調節によりポンプ光の周波数が上記の約281.95THz(波長:1064nm)として一定に保たれる。
【0053】
以上により、所望の3THzの光が発生される。
図18は、このときの変換効率を示す。
図18に示されるように、入射角度θを85°とし、且つ420Kで単純フォトニック結晶123を温度調節した場合に、そのときの変換効率は3.9e‐005%である。他の周波数範囲での結果を参酌すると、入射角度θを大きくするにつれ、変換効率は高くなり、85°付近で変換効率の最大値が現れる。なお、
図18では最大の変換効率が3.9e‐005%と表示されているが、これは、現在のすぐに使用可能なレーザ光源の性能を考慮し、閉じ込め効果を弱めたためであり、条件を変えることにより、より高い変換効率の値を得ることができる。なお、本構成例の優れた点については、上記構成例1で述べたことと同様のことがいえるので、記載を省略する。
【0054】
(第1実施形態の作用および効果)
続いて、第1実施形態にかかるテラヘルツ光発生装置1の作用および効果について説明する。第1実施形態のテラヘルツ光発生装置1では、GaAs/AlAs共振器構造12を用いてテラヘルツ波を発生させている。共振器構造12に角度をつけて光を入射すると、角度が大きくなるにつれて透過率スペクトルはシフトするが、s偏光とp偏光でそのシフトする周波数の幅に差が生じてくる(
図3参照)。これは、周期的薄膜構造が起こす構造性複屈折のために生じる現象と捉えられ、偏光によって有効屈折率が変化するためと考えられる。そのとき、それぞれの偏光の透過率スペクトルに合わせた2つの周波数の光を入射させることによって、共振器構造の内部で光電場が増強され、強い差周波発生(DFG:Difference Frequency Generation)を生じさせることができる。生じた差周波はテラヘルツ領域に達し、上記で述べたようにその変換効率も高い。なお、第1実施形態において入射光の強度がMW/cm2オーダーでの連続光発生であることを考慮すれば、第1実施形態による変換効率は従来の技術(特に入射光の強度がGW/cm2オーダーの場合)に比べて非常に優れているといえる。更に、入射角度θとともに差周波の周波数も変化するため(
図8、
図12、
図16参照)、第1実施形態のテラヘルツ光発生装置1は周波数可変のテラヘルツ光源として活用することが可能である。
【0055】
また、単純共振器121の合計結晶長が8.0μmであり、複合フォトニック結晶構造122の合計結晶長が6.9μmであり、単純フォトニック結晶123の合計結晶長が11.26μmであることからわかるように、第1実施形態のテラヘルツ光発生装置1における共振器構造12の結晶長は長くても数十μm程度である。したがって、装置全体の小型化が達成でき、第1実施形態のテラヘルツ光発生装置1は汎用性の高いテラヘルツ光源として適用されることができる。
【0056】
また、第1実施形態では、レーザ発振部10,11が等角度で第1入射光および第2入射光を共振器構造12に入射し、温度調節器13が共振器構造12に温度調節を施している。これにより、s偏光の共振周波数およびp偏光の共振周波数が制御され、両方の共振周波数のうち何れか一方が一定となるように制御される。また、温度調節は比較的容易な制御手法といえるので、装置構成の利便性を向上させることができる。
【0057】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態は第1実施形態の構成例2と共通点が多く、差異点としては、反射鏡におけるGaAs層およびAlAs層の膜厚が異なることである。より具体的には、第2実施形態では、反射鏡におけるGaAs層およびAlAs層の有効膜厚の比が、GaAs層:AlAs層=1:4である。これに対して、第1実施形態の構成例2では、反射鏡におけるGaAs層およびAlAs層の有効膜厚の比が、GaAs層:AlAs層=1:1である。以下、第1実施形態の構成例2との共通点についてはなるべく説明を省略し、差異点を中心に説明する。
【0058】
すなわち、第1実施形態の構成例2におけるGaAs層およびAlAs層の有効膜厚の比は、以下の通りである。なお、有効膜厚は、膜厚に屈折率を乗じた値である。
1.DBR部分において
GaAs層の有効膜厚=79.18×3.382=267.8
AlAs層の有効膜厚=92.49×2.895=267.8
GaAs層およびAlAs層の有効膜厚の比=267.8:267.8=1:1
2.フォトニック結晶部分において
GaAs層の有効膜厚=72.53×3.382=245.3
AlAs層の有効膜厚=84.72×2.895=245.3
GaAs層およびAlAs層の有効膜厚の比=245.3:245.3=1:1
【0059】
一方で、第2実施形態では、
図1の共振器構造12として第1実施形態の構成例2と同様に複合フォトニック結晶構造を採用しているが、DBR部分における膜厚が異なる。
図19は、第2実施形態の複合フォトニック結晶構造124の概念図である。
図19に示されるように、複合フォトニック結晶構造124は、GaAs層からなる活性層およびAlAs層からなる非活性層の積層からなるフォトニック結晶と、GaAs層およびAlAs層の積層からなる反射鏡(DBR)を備えた構造を有する。
【0060】
複合フォトニック結晶構造124におけるパラメータをまとめると以下の通りである。
1.DBRにおけるGaAs層について、
膜厚:31.00nm
層数:30層
屈折率:3.382(波長:1064nm、温度:200K)
2.DBRにおけるAlAs層について、
膜厚:145.00nm
層数:30層
屈折率:2.895(波長:1064nm、温度:200K)
3.フォトニック結晶におけるGaAs層について、
膜厚:74.50nm
層数:45層
屈折率:3.382(波長:1064nm、温度:200K)
4.フォトニック結晶におけるAlAs層について、
膜厚:87.00nm
層数:44層
屈折率:2.895(波長:1064nm、温度:200K)
5.DBRにおける周期数:前後それぞれ30周期ずつ、合計60周期
6.合計結晶長:17740.5nm
【0061】
したがって、第2実施形態におけるGaAs層およびAlAs層の有効膜厚の比は、以下の通りである。
1.DBR部分において
GaAs層の有効膜厚=31.00×3.382=104.8
AlAs層の有効膜厚=145.00×2.895=419.8
GaAs層およびAlAs層の有効膜厚の比=104.8:419.8=1:4
2.フォトニック結晶部分において
GaAs層の有効膜厚=74.50×3.382=252.0
AlAs層の有効膜厚=87.00×2.895=251.9
GaAs層およびAlAs層の有効膜厚の比=252.0:251.9=1:1
【0062】
以上で示したように、第2実施形態では、フォトニック結晶部分においてはGaAs層およびAlAs層の有効膜厚が一致しているものの、DBR部分におけるGaAs層およびAlAs層の有効膜厚は比率1:4で異なる。
【0063】
GaAs層の有効膜厚とAlAs層の有効膜厚を異ならせることで、つまりGaAs層およびAlAs層の有効膜厚の比率を異ならせることで、p偏光の透過ピークとs偏光の透過ピークの周波数差Δω(
図4、5におけるZ1、Z2に相当)を変えることができる。
図20はこれを示しており、同図(A)の横軸のXは有効膜厚の比率を示し、縦軸はΔωを示す。なお、Xは以下の数式で表現される値である。
X=AlAs層の有効膜厚/(GaAs層の有効膜厚+AlAs層の有効膜厚)
【0064】
図20(A)で示されるように、有効膜厚の比率が1:1であるX=0.5の場合(同図(B)、第1実施形態の構成例2の場合)には、大きい値(1.07THz)の差周波が得られ、有効膜厚の比率が1:4であるX=0.8の場合(同図(C)、第2実施形態)には、小さい値(0.3THz)の差周波が得られる。なお、
図20(B)、(C)において、グラフG7、9はs偏光の透過率スペクトルを示し、グラフG8、10はp偏光の透過率スペクトルを示す。なお、
図20において、Xは有効膜厚の比を示しているが、屈折率を乗じない膜厚の比でも同じようなΔωの挙動を示すので、以下の説明においては、有効膜厚の比を単に膜厚比と記載する。
【0065】
図21は、第1実施形態の構成例2の場合と第2実施形態の場合とで、透過率スペクトルの違いを説明するための図である。同図(A)は第1実施形態の構成例2の場合を示し、同図(B)は第2実施形態の場合を示す。どちらもフォトニック結晶(PC)は、1:1の膜厚比で構成し、Δωは最大のものを使用している。しかし、DBRにおいては、同図(A)の第1実施形態の構成例2の場合は1:1の膜厚比であり、同図(B)の第2実施形態では、例えば1:4など、一方が厚いものを使用している。なお、同図において、G11、13、15、17、19、21はs偏光の透過率スペクトルを示し、グラフG12、14、16、18、20、22はp偏光の透過率スペクトルを示す。
【0066】
同図(A)に示す第1実施形態の構成例2の場合では、p偏光のPCピーク波長w1でDBRが高反射率であり(p偏光のPCピーク波長w1がグラフG14の凹部の中心部に対応、つまりフォトニックバンドギャップの中心部に対応)、且つs偏光のPCピーク波長w2でもDBRが高反射率であり(s偏光のPCピーク波長w2がグラフG13の凹部の中心部に対応、つまりフォトニックバンドギャップの中心部に対応)、p偏光およびs偏光ともに同程度の反射率をもつDBRとなっている。一方で、同図(B)に示す第2実施形態の場合では、p偏光のPCピーク波長w3でDBRが高反射率であり(p偏光のPCピーク波長w3がグラフG20の凹部の中心部に対応、つまりフォトニックバンドギャップの中心部に対応)、且つs偏光のPCピーク波長w4ではDBRが低反射率であり(s偏光のPCピーク波長w4がグラフG19の凹部の中心部に対応しない、つまりフォトニックバンドギャップの中心部に対応しない)、p偏光のみ閉じ込め効果が高いDBRとなっている。結果として、複合フォトニック結晶にすると、同図(A)の第1実施形態の構成例2の場合では、同図(A)の最下段に示すように、p偏光の半値幅h1、およびs偏光の半値幅h2の差|h1−h2|が大きい一方、同図(B)の第2実施形態の場合では、同図(B)の最下段に示すように、p偏光の半値幅h3、およびs偏光の半値幅h4の差|h3−h4|が小さい。なお、半値幅(full width at half maximum、FWHM)は、透過ピークのピーク値の0.5倍となる波長(周波数)の差を指す値である。
【0067】
図22は、第2実施形態において、低角度入射時と高角度入射時の動作を示した図である。同図(A)は低角度入射時の場合を示し、同図(B)は高角度入射時の場合を示す。同図(A)の低角度入射においては、p、s偏光ともにPCピーク波長(w5、w6)がDBRの高反射部分にあるので、ともに高反射率DBRとなっている。一方、同図(B)の高角度入射においては、p偏光のPCピーク波長w7に対するDBRは高反射率、s偏光のPCピーク波長w8に対するDBRは低反射率となっている。第1実施形態の構成例2では、角度が大きくなるにつれて、p偏光の閉じ込め効果の減少とs偏光の閉じ込め効果の増加が生じる可能性があり、s偏光しか上手く利用できないおそれがあったが、第2実施形態では、GaAs層とAlAs層の膜厚比に調整を加えたことで、角度が大きくなっても、適切な半値幅を保つことができ、結果として、低角度においても高角度においてもちょうどいい半値幅を保つことができる。なお、同図において、G23、25、27、29、31、33はs偏光の透過率スペクトルを示し、グラフG24、26、28、30、32、34はp偏光の透過率スペクトルを示す。
【0068】
このような構造の複合フォトニック結晶構造124を備えたテラヘルツ光発生装置1を用いて所望のテラヘルツ領域の出力光を発生させる手順は、
図7のフローチャートに示した通りである。最初に、用途に応じて発生させたいテラヘルツ波の周波数を決定する(ステップS1)。次に、共振器構造12の種類を決定する(ステップS2)。本実施形態においては複合フォトニック結晶構造124が決定されたとする。
【0069】
次に、発生させたいテラヘルツ波の周波数に応じて、s偏光状態の第1入射光(シグナル光)およびp偏光状態の第2入射光(ポンプ光)の入射角度θを決定する(ステップS3)。入射角度θは発生させたい光の周波数によって決定されるものであり、
図23は複合フォトニック結晶構造124が共振器構造として決定された場合に、入射角度θと発生させたい光の周波数の関係を示す。
図23に示されるように、例えば1.2THzの光を発生させたい場合には、入射角度θを40°と決定することができる。なお、第2実施形態では、入射角度が大きくなるにつれて、p偏光の透過率スペクトルとs偏光の透過率スペクトルの差(Δω)が大きくなるので、その分発生周波数も大きくなる。
【0070】
図7に戻り、次の手順として、ポンプ光の周波数および強度、シグナル光の周波数および強度、そして複合フォトニック結晶構造124の温度を決定する(ステップS4)。上記例のように、例えば1.2THzの光を発生させたい場合に、ポンプ光の周波数を約281.95THz(波長:1064nm)として一定に保ち、その強度は1MW/cm2と決定する。なお、変換効率を考慮すると、できれば高い強度の方が望ましい。また、シグナル光の周波数は281.95THz−差周波(発生させたい光の周波数)で決定することが出来るため、約280.85THzと決定する。シグナル光の強度については、ポンプ光の強度と同程度か、それ以下の強度とする。また、複合フォトニック結晶構造124の温度は、
図24に示されるように、例えば1.2THzの光を発生させるために入射角度θを40°と決定した場合に、絶対温度として290Kと決定することができる。温度調節によりポンプ光の周波数が上記の約281.95THz(波長:1064nm)として一定に保たれる。なお、第2実施形態では、入射角度が大きくなるにつれて透過率スペクトルのシフトが大きくなるので、その分試料温度を変える必要がある。
【0071】
以上により、所望の1.2THzの光が発生される。
図25は、このときの変換効率を示す。
図25に示されるように、入射角度θを40°とし、且つ290Kで複合フォトニック結晶構造124を温度調節した場合に、そのときの変換効率は1.8e‐003%である。
図14に示した第1実施形態の構成例2の結果と比較すると、2桁以上の変換効率の向上が達成されていることが分かる。
図26は、第1実施形態の構成例2における変換効率と、第2実施形態のそれを比較して示すための図である。グラフG35は第1実施形態の構成例2における変換効率を示し、グラフG36は第2実施形態における変換効率を示す。全ての入射角度において、第2実施形態の変換効率が第1実施形態の構成例2のそれより高いことが分かる。なお、表示上の便宜のため、
図26ではlogスケールで変換効率を示している。
【0072】
図27は、第1実施形態の構成例2における半値幅と、第2実施形態のそれを比較して示すための図である。グラフG37は第1実施形態の構成例2におけるp偏光の半値幅を示し、グラフG38は第1実施形態の構成例2におけるs偏光の半値幅を示し、グラフG39は第2実施形態におけるp偏光の半値幅を示し、グラフG40は第2実施形態におけるs偏光の半値幅を示す。グラフG39および40で示される第2実施形態の場合は、両偏光とも、理想の半値幅としている0.01[nm]近くで、最大でも0.055[nm]である。一方、グラフG37および38で示される第1実施形態の構成例2の場合は、s偏光の半値幅が0.01[nm]となるのは入射角度70°付近であるが、この場合のp偏光の半値幅は0.35[nm]まで増加している。
【0073】
図28は、
図27の半値幅比較を表示の便宜上logスケールで表示した図である。
図27と対応させるために、グラフの符号を同じ数字としている。
図28で示すように、第1実施形態の構成例2の場合は、入射角度が大きくなるにつれ、p偏光とs偏光の半値幅の差が大きくなっていく(グラフG37’およびG38’参照)。一方で、第2実施形態の場合は、入射角度が大きくなっても、p偏光とs偏光の半値幅の差が小さい(グラフG39’およびG40’参照)。このように、半値幅の差が一定であることにより、より高角度でもp偏光、s偏光ともに結晶内部に入射することが可能となり、テラヘルツ波発生に寄与することが出来る。更に、p偏光とs偏光の半値幅が小さいことから、結晶内部の電場増強効果が高く、変換効率の上昇が望める。
【0074】
図29は、第2実施形態と、他の技術との性能比較を示すための図である。
図29における比較対象の他の技術は、例えばGaAs疑似位相整合の場合は下記の参考文献2に記載されている技術をいう。また、例えばGaP疑似位相整合の場合は下記の参考文献3に記載されている技術をいう。なお、下記の参考文献2および3の例は、最近の論文の中でも最も変換効率の高いものの例示である。
<参考文献2> Joseph E. Schaar,et al. “Terahertz Sources Basedon Intracavity Parametric Down-conversion in Quasi-Phase-Matched GarlliumArsenide,” IEEE Jounal Topics InQuantum Electronics, vol. 14, No. 2, 2008
<参考文献3> Eliot B.Petersen, et al. “Efficientparametric terahertz generation in quasi-phase-matched GaP through cavityenhanced difference-frequency genaration,” Appl. Phys. Lett. 98, 121119, 2011
【0075】
参考文献2および3の技術と、第2実施形態を比較すると、変換効率および出力強度では第2実施形態の方が確かに劣っている。しかし、ここで注目すべき点は、参考文献2および3の技術ではパルス応答における変換効率および出力強度であり、第2実施形態では連続光源における変換効率および出力強度であることである。一般的に変換効率はパルス応答の方が連続光源に比べて強くなる傾向にあるので、第2実施形態における変換効率および出力強度が参考文献2および3の技術におけるそれらに比べて、単純に劣っているとは言い難い。また、参考文献2および3の技術においては、連続光源における変換効率および出力強度が計算できない点にも注目すべきである。これに対して、第2実施形態では、市場でよりニーズが高い連続光源に対する変換効率および出力強度が計算できている。
【0076】
現在、連続光源に対する論文自体があまりないため、敢えて連続光源との比較を行うならカスケードレーザとの比較になる。しかし、下記の参考文献4に示されるように、カスケードレーザは、常温の場合、出力強度が300nW程度で、周波数を可変しているとは言い難い。つまり、第2実施形態で達成できている出力強度向上および周波数可変の効果をカスケードレーザでは期待できない。しかも、上記の非特許文献4に示されるように、最も重要と言われている0.5~3THzの領域を、カスケードレーザでは例えば10Kの低温化でしか高強度出力できないという問題点がある。これに対して、第2実施形態では、低温状態でしか動作できないといった制限はない。
<参考文献4> Mikhail A.Belkin, et al. “Room temperature terahertz quantum cascade laser source basedon intracavity difference-frequency generation,” Appl. Phys. Lett. 92, 201101,2008
【0077】
また、参考文献2および3における結晶自体はどちらも6mm程度であるが、共振器をつけることで変換効率を上げているので、共振器の大きさを素子長としている。一方で、第2実施形態では、結晶自体が共振器のようなものなので、光学系が小さくなることが期待できる。
【0078】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明が上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0079】
例えば、上記実施形態においては、テラヘルツ領域の光の発生を一例としているが、本発明の思想はこれに限定されることなく、テラヘルツ以外の領域の光の発生にも本発明を適用することができる。
【0080】
また、上記実施形態においては、レーザ発振部10,11が等角度で第1入射光および第2入射光を共振器構造12に入射しているが、これに限らず、第1入射光の入射角度と第2入射光の入射角度とが異なっていてもかまわない。入射角度を異ならせることにより、s偏光およびp偏光の共振周波数を異ならせることができ、結果的に出力光の周波数を変化させることができる。
【0081】
また、上記実施形態においては、共振器構造12の例として、単純共振器121、複合フォトニック結晶構造122、および単純フォトニック結晶123を挙げているが、これに限らず、例えば非特許文献3に記載の2重共振器も本発明の方式を当てはまることが出来る構造である。
【0082】
また、上記実施形態においては、説明の便宜上、共振器構造12の材料をGaAsやAlAsに限定しているが、これに限らず、例えばZnTe−MgTe、MgSe−ZnTe、CdTe−MgTe、InGaP/GaAs、GaAs/InGaAs、GaAs/Ge、GaAs/AlGaAs等、一般に多層構造作製のため格子整合出来る材料で、反転対称性が破れた結晶構造を有する物質であれば良い。
【0083】
また、上記実施形態においては、説明の便宜上、第1入射光がs偏光状態であり、且つ第2入射光がp偏光状態であることとしているが、これに限らず、例えば、第1入射光がp偏光状態であり、且つ第2入射光がs偏光状態であっても良い。
【0084】
ここで、本実施形態における光学系について、より詳細に説明する。なお、以下の内容は第1実施形態および第2実施形態に共通する内容である。すなわち、
図1に示したような光学系を例えば
図30に示すようにファイバを用いた光学系として構成することもできる。この光学系では、
図1のミラー14およびレンズ15の代わりに、偏波保持ファイバ16およびファイバアレイ17を備えて構成される。この場合の装置構成例としては、例えばレーザ発振部10,11におけるレーザ光源は、TOPTICA社のTA proという製品を用いることができる。この場合の発生波長域は1035〜1085nmであり、発生強度は1000mWであり、線幅は0.1〜1MHz(typical linewidth.、,5μs)である。または、同製品において、1060〜1083nmの発生波長域、2000mWの発生強度、0.1〜1MHz(typical linewidth.、,5μs)の線幅を有するものを用いても良い。更に、Nova Wave社の製品として、発生波長域1064nm、発生強度2000mW、線幅100kHz未満の製品であるSFL−PMを用いても良い。また、偏波保持ファイバ16およびファイバアレイ17に対しては、1060〜1080nm波長域のものを用い、p偏光s偏光を同時伝送できる偏波保持ファイバを用いても良い。
【0085】
また、
図1に示したような光学系を例えば
図31に示すように偏光ビームスプリッタを用いた光学系として構成することもできる。この光学系では、
図1のミラー14の代わりに、偏光ビームスプリッタ18を備えて構成される。この場合の装置構成例としては、例えばレーザ発振部10,11におけるレーザ光源は、上記のファイバを用いた光学系で用いたものと同じものを用いることができる。また、偏光ビームスプリッタ18としては、シグマ光機社のPBS−HPシリーズ、またはNewport社の05BC15PH.9を用いることができる。また、レンズ15としては、シグマ光機社のNYTLシリーズまたはNYDLシリーズを用いることができる。