(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の7トンクラスの油圧ショベルは40〜55kWのエンジンを搭載している。このエンジン出力は、排ガス規制では37≦P<56の出力レンジに分類され、2013年以降の欧州の排ガス規制ではSTAG IIIBに対応することが必要となり、今まで以上に排ガスの成分(NOx,PM)を低減するための周辺機器が必要となる。具体的には、例えばコモンレールシステム(CRS)、EGRバルブ(EGR)、マフラフィルタ(DPF)の装着が必要となり、構造が複雑でコストアップとなる。また、エンジン周辺機器(CRS, EGR, DPF)の故障の発生リスクが高まる。
【0007】
本発明の目的は、7トンクラスでありながら、構造が複雑で高価なエンジン周辺機器が付属しないエンジンの搭載を可能とし、かつ従来の作業機性能を保持した7トンクラスの油圧ショベルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、7トンクラスの油圧ショベルにおいて、エンジンの出力を、7トンクラスの油圧ショベルの現行出力である40〜55kWよりも小さい34〜36.4
kWに設定し、コントロールバルブをブームシリンダ及びアームシリンダ
のロッド側にそれぞれ接続する
ロッド側配管のサイズを、7トンクラスの油圧ショベルの現行サイズである
1/2インチよりも大きく設定し
、コントロールバルブをブームシリンダ及びアームシリンダのボトム側にそれぞれ接続するボトム側配管のサイズを、7トンクラスの油圧ショベルの現行サイズである1/2〜5/8インチの5/8インチよりも大きく設定する。
【0009】
エンジン出力を34〜36.4
kWに設定した場合、排ガス規制では18≦P<37の出力レンジに分類され、欧州の排ガス規制ではSTAGE IIIBより1ランク下のSTAGE IIIAに該当する。このため2013年以降も、欧州の排ガス規制に対して、今まで通りの周辺機器を用いて対応することができる。
【0010】
また、エンジンの出力を現行出力よりも低い34〜36.4kWに設定すると、エンジン出力の余裕率(エンジン出力馬力に対するポンプ消費馬力の余剰分のエンジン出力に対する比率)は減少する。しかし、欧州では高地でかつ高温となる地域が少なく、使用環境を欧州に限定することで、一般的な数値より低い余裕率の設定が可能となる。また、油圧ポンプには消費(吸収)馬力を設定した一定値以下に保持する馬力制御機能が付加されており、余裕率の設定根拠には、油圧ポンプの吐出圧が急峻に変動した際の馬力制御機能の動特性の遅れによる油圧ポンプの負荷過多の吸収がある。本発明では、油圧ポンプの吐出圧の急峻な変動は、掘削動作時のブームシリンダやアームシリンダの負荷圧の変動等が主な原因であるということに着目し、コントロールバルブをブームシリンダ及びアームシリンダにそれぞれ接続する
ロッド側配管のサイズを、7トンクラスの油圧ショベルの現行サイズである
1/2インチよりも大きく設定し
、コントロールバルブをブームシリンダ及びアームシリンダのボトム側にそれぞれ接続するボトム側配管のサイズを、7トンクラスの油圧ショベルの現行サイズである1/2〜5/8インチの5/8インチよりも大きく設定した。これにより管路圧損によるエネルギロスが減少するため、余裕率の低減分が補正され、余裕率が低減しても、従来の作業機性能を保持することが可能となる。
【0011】
好ましくは、前記コントロールバルブを前記ブームシリンダ及び前記アームシリンダ
のロッド側及びボトム側にそれぞれ接続する
前記ロッド側及びボトム側配管のサイズは、それぞれ、3/4インチである。
【0012】
また、好ましくは、前記エンジンの出力は35
kWである。
【0013】
また、本発明は、前記複数の油圧アクチュエータは右左の履帯を駆動する右左の走行モータを更に含み、好ましくは、前記コントロールバルブを前記右左の走行モータにそれぞれ接続する
走行配管のサイズを、前記7トンクラスの油圧ショベルの現行サイズである1/2インチよりも大きく設定する。これにより走行モータの負荷圧が瞬時に高くなる場合にブームシリンダ及びアームシリンダの場合と同様、余裕率の低減分が補正され、余裕率が低減しても、従来の作業機性能を保持することが可能となる。
【0014】
好ましくは、前記コントロールバルブを前記右左の走行モータにそれぞれ接続する
走行配管のサイズは、それぞれ、5/8インチである。
【0015】
また、好ましくは、前記油圧ポンプの消費馬力を前記7トンクラスの油圧ショベルの現行消費馬力と同等に設定する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、7トンクラ
ス油圧ショベルにおいて、欧州排ガス規制をSTAGE IIIAレベルでクリアし、複雑な周辺機器(CRS, EGR, DPF)を使わないエンジンを採用することが可能となり、コストアップを抑え、しかも、余裕率が低減しても、従来の作業機性能を保持することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
〜構成〜
図1は、本発明の一実施の形態に係わる7トンクラスの油圧ショベルの油圧駆動装置を示すシステム構成図である。
【0019】
7トンクラスの油圧ショベルの油圧駆動装置は、ディーゼルエンジン1と、このエンジン1によって駆動される油圧ポンプ2と、油圧ポンプ2の吐出圧油により駆動されるブームシリンダ4、アームシリンダ5、バケットシリンダ6、右走行モータ7、左走行モータ8、旋回モータ9、ブレードシリンダ10、スイングシリンダ11を含む複数の油圧アクチュエータと、油圧ポンプ2から複数の油圧アクチュエータに供給される圧油の流れを制御する複数の制御スプールを内蔵したコントロールバルブ3と、コントロールバルブ3に接続され、複数のアクチュエータからの戻り油をドレンタンク12に還流させる戻り回路13とを備えている。
【0020】
油圧ポンプ2は2つの吐出ポートP1,P2と1つの容量制御機構(斜板)2aを備えたスプリットフローポンプであり、2つの吐出ポートP1,P2は供給配管14,15を介してコントロールバルブ3に接続され、コントロールバルブ3は配管4a,4b、配管5a,5b、配管6a,6b、配管7a,7b、配管8a,8b、配管9a,9b、配管10a,10b、配管11a,11bを介してそれぞれのアクチュエータ4〜11に接続されている。
【0021】
コントロールバルブ3は、ブームシリンダ4の駆動時、油圧ポンプ2の2つの吐出ポートP1,P2の吐出油が合流してブームシリンダ4に供給され、アームシリンダ5の駆動時も、同様に、油圧ポンプ2の2つの吐出ポートP1,P2の吐出油が合流してアームシリンダ
5に供給されるように構成されている。また、コントロールバルブ3は、右走行モータ7の駆動時は油圧ポンプ2の一方の吐出ポートP1の吐出油が右走行モータ7に供給され、左走行モータ8の駆動時は油圧ポンプ2の他方の吐出ポートP2の吐出油が右走行モータ7に供給されるように構成されている。更に、コントロールバルブ3は、ブームシリンダ4、アームシリンダ5、右走行モータ7、左走行モータ8以外の油圧アクチュエータ6,9〜11の駆動時は油圧ポンプ2の2つの吐出ポートP1,P2のいずれか一方の吐出油が各アクチュエータに供給されるように構成されている。
【0022】
油圧ポンプ2は、容量制御機構(斜板)2aの容量(斜板の傾転角)を制御することで2つの吐出ポートP1,P2から吐出される圧油の流量(吐出流量)を制御するポンプ制御装置21を備えている。ポンプ制御装置21は、吐出ポートP1の吐出圧が導入される第1トルク制御ピストン22aと、吐出ポートP2の吐出圧が導入される第2トルク制御ピストン22bと、油圧ポンプ2の最大吸収トルクを設定するバネ23とを有し、油圧ポンプ2の2つの吐出ポートP1,P2の平均吐出圧(P1p+P2p
)/2
がバネ23の付勢力によって定まる所定圧力Paを超えると、平均吐出圧が上昇するにしたがって油圧ポンプ2の斜板2aの容量を小さくするように制御する。第1及び第2トルク制御ピストン22a,22bは、油圧ポンプ2の吸収トルクがバネ23によって設定された最大吸収トルクを超えないように油圧ポンプ2の斜板の容量を制限制御するトルク制御装置22を構成する。
【0023】
図2は、トルク制御装置22(第1及び第2トルク制御ピストン22a,22b)のトルク制御線図である。トルク制御線図では縦軸は容量qである。縦軸を吐出流量Qに置き換えると、馬力制御線図となる。
【0024】
図2において、2つの吐出ポートP1,P2の平均吐出圧がPa以下であるときは、トルク制御装置22は動作しない。この場合、油圧ポンプ2の斜板2aの容量は、トルク制御装置22の制限を受けることなく、図示しない流量制御機構により、操作レバー装置の操作量(要求流量)に応じて、油圧ポンプ2が持つ最大容量qmaxまで増加可能である。
【0025】
2つの吐出ポートP1,P2の平均吐出圧がPaを超えるとトルク制御装置22は動作し、平均吐出圧が上昇するにしたがって油圧ポンプ2の傾転角(容量)を特性線TP1,TP2に沿って減らすよう制限制御する。
【0026】
特性線TP1,TP2はバネ23によって設定された最大吸収トルクに対応しており、吸収トルク一定曲線(双曲線)を近似するよう設定されている。これにより油圧ポンプ2は平均吐出圧が上昇するにしたがって特性線TP1,TP2に沿って油圧ポンプ2の最大容量を減らすことで、油圧ポンプ2の吸収トルクがバネ23によって設定された最大吸収トルク以下となるよう制御される。
【0027】
ここで、特性線TP1,TP2は、油圧ポンプ2の最大吸収トルクがエンジン1の出力トルクTELAよりも小さく設定されており、トルク制御装置22は油圧ポンプ2の吸収トルクがTELAを超えないように制御する。これにより油圧ポンプ2の吐出ポートP1に係わるアクチュエータと吐出ポートP2に係わるアクチュエータが同時に駆動された場合にも、油圧ポンプ2の吸収トルクはエンジン1の出力トルクTELA以下となり、エンジンストールが防止される。
図2において、TELBは従来の7トンクラスの油圧ショベルに搭載されるエンジンの出力トルクを示している(後述)。
【0028】
図3は、7トンクラスの油圧ショベルの外観を示す図である。
【0029】
図3において、油圧ショベルは、上部旋回体300と、下部走行体301と、フロント作業機302とを備え、上部旋回体300は下部走行体301上に旋回可能に搭載され、フロント作業機302は、上部旋回体300の先端部分にスイングポスト303を介して上下及び左右方向に回動可能に連結されている。下部走行体301は左右の履帯310,311を備え、かつトラックフレーム304の前方に上下動可能な排土用のブレード305を備えている。上部旋回体300はキャビン(運転室)300aを備え、キャビン300a内にフロント作業機及び旋回用の操作レバー装置309a,309b(一方のみ図示)や走行用の操作レバー/ペダル装置309c,309d(一方のみ図示)などの操作手段が設けられている。フロント作業機302はブーム306、アーム307、バケット308をピン結合して構成されている。
【0030】
上部旋回体300は下部走行体301に対して旋回モータ9によって旋回駆動され、フロント作業機302は、スイングポスト303をスイングシリンダ11(
図1参照)により回動することで水平方向に回動し、下部走行体301の右左の履帯310,311は右左の走行モータ7,8によって回転駆動され、ブレード305はブレードシリンダ10により上下に駆動される。また、ブーム306、アーム307、バケット308は、それぞれ、ブームシリンダ4、アームシリンダ5、バケットシリンダ6を伸縮することにより上下方向に回動する。
【0031】
図4は、従来の7トンクラスの油圧ショベルの一般的な仕様を示す表形式で示す図である。
図4に示す仕様は、ブームがオフセットタイプではなくシングルタイプであり、アタッチメントとしてバケットを備えた標準タイプの場合のものである。なお、
図4において、1/2インチは1.27cm、5/8インチは1.59cm、3/8インチは0.95cmである。
【0032】
本願明細書では、標準タイプの油圧ショベルにおいて、
図4に示すように車体重量が6300〜8500
kg、バケットサイズが0.28〜0.33m
3、最大掘削半径が6300〜7700mm、最大掘削深さが3800〜4700mm、最大掘削高さが6700〜7800mmであるものを7トンクラスの油圧ショベルと定義する。
【0033】
図4に示すように、従来技術の7トンクラスの油圧ショベルは40〜55kWのエンジンを搭載している。
【0034】
図5は各国の排ガス規制を示す図である。排ガス規制はエンジンの出力レンジ毎に規定されており、欧州の場合、37≦P<56の出力レンジでは、2013年1月1日以降の排ガス規制はSTAGE IIIBへと強化される。なお、18≦P<37の出力レンジ(Pはエンジン出力)では、排ガス規制は2013年以降もSTAGE IIIAレベルのままである。
【0035】
従来技術の7トンクラスの油圧ショベルは40〜55kWのエンジンを搭載していた。このエンジン出力は排ガス規制では37≦P<56の出力レンジに分類され、2013年以降の欧州の排ガス規制ではSTAG IIIBに対応することが必要となり、今まで以上に排ガスの成分(NOx,PM)を低減するための周辺機器が必要となる。具体的には例えばコモンレールシステム(CRS)、EGRバルブ(EGR)、マフラフィルタ(DPF)が必要となり、構造が複雑でコストアップとなる。また、エンジン周辺機器(CRS, EGR, DPF)の故障の発生リスクが高まる。
【0036】
本発明では、油圧ショベルに搭載するエンジン1の出力を現行出力である40〜55kWよりも小さい34〜36.4
kWに設定し、特に本実施の形態では36kWに設定する。これは、
図5の排ガス規制では18≦P<37の出力レンジに分類され、欧州の排ガス規制ではSTAGE IIIBより1ランク下のSTAGE IIIAに該当する。このため2013年以降も、欧州の排ガス規制に対して、今まで通りの周辺機器を用いて対応することができる。
【0037】
また、本実施形態では、油圧ポンプ2の消費(吸収)馬力は、従来技術の7トンクラスの油圧ショベルに通常搭載される油圧ポンプと同等に設定する。
【0038】
更に、コントロールバルブ3からブームシリンダ4、アームシリンダ5への配管4a,4b,5a,5bに関しては、
図4に示した従来技術の7トンクラスの油圧ショベルに用いられているホースサイズより規格で一回り大きく設定する。具体的には、
図6に示す仕様で構成する。すなわち、
ブームシリンダ4のロッド側配管4aのサイズ:3/4インチ(1.91cm);
ブームシリンダ4のボトム側配管4bのサイズ:3/4インチ(1.91cm);
アームシリンダ5のロッド側配管5aのサイズ:3/4インチ(1.91cm);
アームシリンダ5のボトム側配管5bのサイズ:3/4インチ(1.91cm)。
【0039】
また、コントロールバルブ3から右左走行モータ7,8への配管7a,7b,8a,8bに関しても、
図4に示した従来技術の7トンクラスの油圧ショベルに用いられているホースサイズより大きく設定する。具体的には、
図6に示す仕様で構成する。すなわち、
右走行モータ7の配管7a,7bのサイズ:5/8インチ(1.59cm);
左走行モータ8の配管8a,8bのサイズ:5/8インチ(1.59cm)。
【0040】
次に、本実施の形態の作用(エンジンの出力レンジを1ランク下げても7トンクラスの油圧ショベルとして成り立つ理由)を機能1及び機能2に分けて説明する。
〜機能1〜
前述したように、本実施の形態では、エンジン1の出力を欧州排ガス規制でSTAGEIIIAに該当する36kWに設定する。一方、油圧ポンプ2の消費(吸収)馬力(バネ23の設定)を従来技術と同等に設定する。
【0041】
本実施の形態では、エンジン1の出力を従来よりも低い36kWに設定したにも係わらず、油圧ポンプ2の消費馬力は従来と同等に設定した結果、
図2に示したようにエンジン出力馬力に対するポンプ消費馬力の余剰分(特性線TP1,TP2とエンジン出力トルクTELA,TELB)との距離)が従来技術よりも減少する。
【0042】
図7は、従来技術と本実施の形態(本発明)とにおけるエンジン出力馬力に対するポンプ消費馬力の余剰分の変化をグラフで示す図である。
【0043】
エンジン出力馬力に対するポンプ消費馬力の余剰分のエンジン出力に対する比率を余裕率と定義すると、一般的に従来の7トンクラスの油圧ショベルでは下記のように設定されている。
【0044】
余裕率:20〜30%
本実施の形態では、エンジン1の出力を従来よりも低い36kWに設定したにも係わらず、油圧ポンプ2の消費馬力は従来と同等に設定した結果、上記余裕率は減少し、15〜20%の範囲に設定される。
【0045】
本来、余裕率は使用環境の変化によるエンジン出力の低下を想定して油圧ポンプの負荷がそれを上回ることがないように設定される。
【0046】
従来の一般的な油圧ショベルにおける想定される使用環境を下記に示す。
【0047】
(a)高地での使用
(b)高温環境での使用(吸気温度上昇)
(c)粗悪燃料の想定
(d)燃料温度の上昇
一般的に余裕率を設定する場合は、上記(a)〜(d)が併行して同時に発生する環境を想定する。
【0048】
それに対し、本実施の形態(本発明)では、使用環境を欧州に限定することで、上記(a)と、(b)及び(c)の両立の度合いが低いと想定した(欧州では高地でかつ高温となる地域が少ない)。この想定により、一般的な数値より低い余裕率の設定が可能
となる。
〜機能2〜
また、余裕率の設定根拠には油圧ポンプの動特性の遅れによる油圧ポンプの負荷過多の吸収がある。
【0049】
図8は、従来技術におけるエンジン出力馬力とポンプ消費馬力の時間変化を示す図であり、
図9は、本実施の形態(本発明)におけるエンジン出力馬力とポンプ消費馬力の時間変化を示す図である。
【0050】
油圧ポンプ2は、前述したように、油圧ポンプ2の吸収トルクをバネ23によって設定した最大吸収トルク以下となるよう制御するトルク制御装置22を備えており、このトルク制御装置22により、消費(吸収)馬力を設定した一定値(
図9の特性線TP1,TP2に対応する消費馬力)以下に保持する馬力制御機能が付加されている。ここで、油圧ポンプ2の吸収トルクをτ、油圧ポンプ2の消費馬力(ポンプ消費(吸収)馬力)をJ
pで表すと、これらの関係は次のように表せる。
【0051】
τ=(π/2)*P*q
J
p∝τ
P:油圧ポンプ2の吐出圧
q:油圧ポンプ2の容量
油圧ポンプ2の吐出圧が急峻に上昇した場合、トルク制御装置22の制御機能の応答遅れにより油圧ポンプ2の容量が下がらず、油圧ポンプ2の吸収馬力が設定したポンプ消費(吸収)馬力以上になる状態が想定される。このような油圧ポンプ2の吐出圧の急峻な変動は、掘削動作時のブームシリンダ4やアームシリンダ5の負荷圧の変動により特に生じやすい。その理由は、ブームシリンダ4とアームシリンダ5は他の油圧アクチュエータに比べて大きな流量を必要とするアクチュエータであり、油圧ポンプ2の2つの吐出ポートP1,P2の吐出油の合流により駆動されるからである。また、走行モータ7,8の要求流量はブームシリンダ4やアームシリンダ5に比べれば少ないため、それぞれ1つの吐出ポートP1又はP2の吐出油で駆動されるが、走行起動時に負荷圧が瞬時に高くなる場合があり、その場合は油圧ポンプ2の吐出圧が急峻に変動することがある。
【0052】
本実施の形態(本発明)では、エンジン1の出力馬力に対してポンプ消費(吸収)馬力が過渡的に制御値に対して上昇した分を許容できる余裕率が、従来技術よりも減少している。
【0053】
一方、本実施の形態(本発明)では、前述したようにブームシリンダ4、アームシリンダ5、走行モータ7,8への配管4a,4b,5a,5b,7a,7b,8a,8bのサイズを一般的な使用サイズに対して大きく設定している。
【0054】
油圧ホース(配管)のサイズには規格があり、ブームシリンダ4及びアームシリンダ5の回路のように従来技術に対して1サイズ上の太さの配管を設定した場合は、管路断面積は約2倍となる。これにより管路圧損によるエネルギロスは従来技術に対して1/2(=50%)になる。すなわち、管路断面積をA、管路圧損によるエネルギロスをJ
hで表すと、これらhの関係は次のように表せる。
【0055】
Q=c*A*ΔP(管路粘性流れと仮定)
Jh∝Q*ΔP=1/(c*A)*Q2
Q:管路通過流量
ΔP:管路圧損
c:粘性流れのパラメータ
油圧ポンプ2からドレンタンク1
2までのブームシリンダ4、アームシリンダ5の回路での配管の構成比率は20〜30%であり、上記のエネルギロスJhの低減率は全体の10%(=50%*20%)程度となり、
図9に示すように余裕率の低減分が補正され、油圧ポンプ2の消費(吸収)馬力の過渡的な上昇がエンジン1の出力馬力以下に抑えられる。
【0056】
油圧ポンプ2からドレンタンク1
2までの走行モータ7,8の回路の配管についても同様であり、走行モータ7,8の配管7a,7b,8a,8bを一般的なサイズより大きく設定することで、管路圧損によるエネルギロスJhが低減し、余裕率の低減分が補正され、油圧ポンプ2の消費(吸収)馬力の過渡的な上昇がエンジン1の出力馬力以下に抑えられる。
【0057】
以上のように構成することで、7トンクラ
ス油圧ショベルにおいて、欧州排ガス規制をSTAGE IIIAレベルでクリアし、複雑な周辺機器(CRS, EGR, DPF)を使わないエンジンを採用することが可能となり、コストアップを抑え、しかも、従来の作業機性能を保持することが可能となる。
【0058】
なお、本実施の形態では,エンジン1の出力を36
kWに設定したが、37
kW未満であれば、36
kWよりも大きくてもよい。この場合もエンジンは、排ガス規制では18≦P<37の出力レンジに分類されるため、欧州の排ガス規制ではSTAGE IIIAに該当し、2013年以降も、欧州の排ガス規制に対して、今まで通りの周辺機器を用いて対応することができる。
【0059】
また、エンジン1の出力の下限については、34
kW以上であれば、エンジン1の出力を36
kWに設定した場合とほぼ同等の作用により余裕率低減分を補正し、従来の作業
性能
を保持することができる。
【0060】
更に、ブームシリンダ4,アームシリンダ5、走行モータ7,8の配管サイズも3/4インチ或いは5/8インチに限られるものではなく、余裕率低減分を補正できるサイズであれば、それ以外のサイズであってもよい。
【0061】
また、本実施例では、ブームシリンダ4及びアームシリンダ5だけでなく、走行モータ7,8の配管7a,7b,8a,8bも一般的な使用サイズよりも大きく設定したが、走行モータ7,8の個々の要求流量はブームシリンダ4及びアームシリンダ5に比べて少なく管路圧損も小さいため、一般的なサイズの配管を用いてもよい。