(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が大きく、寿命が長いなどの特徴を有しているため、ビデオカメラ等の家電製品や、ノート型パソコン、携帯電話機等の携帯型電子機器などの電源として用いられている。最近では、該リチウムイオン電池は、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)などに搭載される大型電池にも応用されている。
【0003】
リチウムイオン電池は、充電時には正極からリチウムがイオンとして抜け出して負極へ移動して吸蔵され、放電時には逆に負極から正極へリチウムイオンが戻る構造の二次電池であり、その高いエネルギー密度は正極材料の電位に起因することが知られている。
【0004】
リチウムイオン電池の正極活物質としては、スピネル構造をもつリチウムマンガン酸化物(LiMn
2O
4)のほか、層構造をもつLiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2などのリチウム金属複合酸化物が知られている。例えばLiCoO
2は、リチウム原子層とコバルト原子層が酸素原子層を介して交互に積み重なった層構造を有しており、充放電容量が大きく、リチウムイオン吸蔵脱蔵の拡散性に優れているため、現在、市販されているリチウムイオン電池の多くがLiCoO
2などの層構造を有するリチウム金属複合酸化物である。
【0005】
LiCoO
2やLiNiO
2など、層構造を有するリチウム金属複合酸化物は、一般式LiMeO
2(Me:遷移金属)で示される。これら層構造を有するリチウム金属複合酸化物の結晶構造は、空間群R−3m(「−」は通常「3」の上部に付され、回反を示す。以下、同様。)に帰属し、そのLiイオン、Meイオン及び酸化物イオンは、それぞれ3aサイト、3bサイト及び6cサイトを占有する。そして、Liイオンからなる層(Li層)とMeイオンからなる層(Me層)とが、酸化物イオンからなるO層を介して交互に積み重なった層構造を呈することが知られている。
【0006】
このような層構造を有するリチウム金属複合酸化物としては、現在のところLiCoO
2が主流であるが、Coが高価であるため、最近、Liを過剰に添加して、Coの含有量を低減したリチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物(“OLO”などとも称される)が注目されている。
【0007】
リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物として知られている「xLi
2MnO
3−(1-x)LiMO
2系固溶体(M=Co、Niなど)」は、LiMO
2構造とLi
2MnO
3構造との固溶体である。Li
2MnO
3は高容量であるが、電気化学的に不活性である。その一方、LiMO
2は電気化学的に活性であるが、その理論容量は小さい。そこで、両者を固溶体化して、Li
2MnO
3の高容量を引き出しつつ、LiMO
2の電気化学的に高活性な性質を利用するねらいで、「xLi
2MnO
3−(1-x)LiMO
2系固溶体(M=Co、Niなど)」を作製したところ、実際に高容量を得ることができることが報告されている。具体的には、4.5V以上で充電すると、LiCoO
2の実効容量160mAh/gに対し、200〜300mAh/g程度まで実効容量が向上することが知られている。
【0008】
この種のリチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物に関しては、特許文献1において、3種の遷移金属を含む酸化物の結晶粒子からなり、前記結晶粒子の結晶構造が層構造であり、前記酸化物を構成する酸素原子の配列が立方最密充填である、Li[Li
x(A
PB
QC
R)
1-x]O
2(式中、A、BおよびCはそれぞれ異なる3種の遷移金属元素、−0.1≦x≦0.3、0.2≦P≦0.4、0.2≦Q≦0.4、0.2≦R≦0.4)で表される正極活物質が開示されている。また、その製造方法として、共沈する際に、水溶液中に不活性ガスである窒素やアルゴンなどをバブリングして溶存酸素を除去するか、または還元剤をあらかじめ水溶液中に添加しておき、共沈で得られた複合酸化物と水酸化リチウムを乾式で混合し、一気に1000℃まで昇温し、その温度で混合物を10時間焼成し、焼成が終了した後に温度を下げるときは、一度700℃で5時間アニールした後、除冷する方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、Li
zNi
1-wM
wO
2(但し、MはCo、Al、Mg、Mn、Ti、Fe、Cu、Zn、Gaからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の金属元素であり、0<w≦0.25、1.0≦z≦1.1を満たす。)で表されるリチウム金属複合酸化物の粉末に関し、該リチウム金属複合酸化物の粉末の一次粒子と該一次粒子が複数集合して形成された二次粒子とから構成され、該二次粒子の形状が球状または楕円球状であり、該二次粒子の95%以上が20μm以下の粒子径を有し、該二次粒子の平均粒子径が7〜13μmであり、該粉末のタップ密度が2.2g/cm
3以上であり、窒素吸着法による細孔分布測定において平均40nm以下の径を持つ細孔の平均容積が0.001〜0.008cm
3/gであり、該二次粒子の平均圧壊強度が15〜100MPaであることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質が開示されている。また、その製造方法として、Niおよび金属M(但し、MはCo、Al、Mg、Mn、Ti、Fe、Cu、Zn、Gaからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の金属元素である。)を含み、タップ密度が1.7g/cm
3以上の金属複合水酸化物を作製する工程1と、Niおよび金属Mの合計原子数に対するLiの原子数の比が1.0〜1.1となるように工程1で得られた金属複合水酸化物と水酸化リチウムを秤量し、混合して混合物を得る工程2と、工程2で得られた混合物を室温より昇温速度0.5〜15℃/minで450〜550℃まで昇温し、その到達温度で1〜10時間保持して1段目の焼成を行い、その後さらに昇温速度1〜5℃/minで650〜800℃まで昇温して、その到達温度で0.6〜30時間保持して2段目の焼成を行った後、炉冷して非水系電解質二次電池用正極活物質を得る工程3と、を有する非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法が開示されている。
【0010】
また、特許文献3においては、式Li
1+xNi
αMn
βCo
γO
2(式中、xは約0.05〜約0.25の範囲であり、αは約0.1〜約0.4の範囲であり、βは約0.4〜約0.65の範囲であり、γは約0.05〜約0.3の範囲である)で表されるリチウム金属複合酸化物が開示されている。また、その製造方法として、所望のモル非の金属塩を精製水などの水性溶媒中に溶解させ、次に、Na
2CO
3および/または水酸化アンモニウムを加えることなどによって、溶液のpHを調整して、所望の量の金属元素を有する金属炭酸塩を沈殿させ、沈殿した金属炭酸塩を溶液から分離し、洗浄し、乾燥させて、粉末を形成し、乾燥後、回収した金属炭酸塩粉末、Li原料を混合して約400℃〜800℃に熱処理し、さらに約700℃〜1200℃の温度で焼成することにより得る製造方法が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明が下記実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明が提案するリチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物の製造方法は、上述のように、所定のリチウム金属複合酸化物(「リチウム金属複合酸化物A」と称する)と、リチウム化合物とを混合し、焼成してリチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物(「本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物」と称する)を得る工程を備えた製造方法である。
この際、前記リチウム金属複合酸化物Aは、本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物を製造する一連の工程で作製することもできるし、また、本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物を製造する一連の工程とは別の一連の工程で作製することもできる。さらにまた、他者が作製したリチウム金属複合酸化物Aを使用することもできる。これらの中で、本実施形態では、本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物を製造する一連の工程のなかで、前記リチウム金属複合酸化物Aを作製する方法について説明する。
【0021】
<本製造方法>
本実施形態の一例に係るリチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物の製造方法(「本製造方法」と称する)は、一般式Li
1+xM
1-xO
2(−0.15以上0.15以下、Mは、Mnを必ず含み、Ni、Co、Al、Mg、Ti、Fe及びNbからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む。)における前記「Li元素」及び「M元素」の原料を含む原料組成物を焼成して、リチウム金属複合酸化物Aを得る<第1工程>と、第1工程で得られたリチウム金属複合酸化物Aと、リチウム化合物とを混合し、焼成して本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物を得る<第2工程>と、を備えた製造方法である。
【0022】
この際、前記第1工程又は第2工程又はこれら両方の工程は、それぞれ1回だけ実施してもよいし、また、2回以上実施してもよい。
【0023】
原料から一連の工程でリチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物を直接製造するのではなく、本製造方法のように、第1工程では、Li
1+xM
1-xO
2(xが−0.15以上0.15以下)で示されるリチウム金属複合酸化物Aを作製し、その後の第2工程で、当該リチウム金属複合酸化物Aとリチウム化合物とを混合して焼成して本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物を得るようにしたことにより、前記第1工程では、リチウム金属複合酸化物の結晶成長を促して、最終的に得られるリチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物の一次粒子径を大きくすることができ、例えばタップ密度を高めることができるなど、粉体特性を調整することができるようになった。他方、第2工程では、リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物の化学組成や結晶構造を調整することができ、例えば本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物をリチウムイオン電池の正極活物質材料として用いた場合の充放電効率を高めることができるようになった。
【0024】
<製造物としての本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物>
本実施形態で製造する本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物は、一般式Li
1+xM
1-xO
2(x=0.10以上0.33以下、Mは、Mnを必ず含み、Ni、Co、Al、Mg、Ti、Fe及びNbからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む。)で表わされる、層構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる粉体である。
【0025】
ここで、前記の「層構造を有するリチウム金属複合酸化物」とは、リチウム原子層と遷移金属原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層構造を有するリチウム金属複合酸化物粒子である。
また、前記のように「リチウム金属複合酸化物からなる粉体」と言っても、例えば不純物としてSO
4を1.0重量%以下、その他の元素をそれぞれ0.5重量%以下であれば含んでいてもよい。この程度の量であれば、本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物の特性にほとんど影響しないと考えられるからである。
【0026】
上記一般式中の「x」は、0.10以上0.33以下、中でも0.11以上或いは0.30以下、その中でも特に0.12以上或いは0.30以下であるのがさらに好ましい。
「x」が0.10以上であれば、例えば本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物をリチウムイオン電池の正極活物質材料として用いた場合に、好ましい充放電容量を得ることができ、0.33以下であれば、好ましい電気化学的活性を得ることができる。
【0027】
上記一般式中の「M」は、Mnを必ず含み、且つ、Ni、Co、Al、Mg、Ti、Fe及びNbからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素を含んでいればよい。例えば、Mn−Ni、Mn−Co、Mn−Al、Mn−Mg、Mn−Ti、Mn−Fe、Mn−Nb、Mn−Ni−Co、Mn−Ni−Al、Mn−Ni−Mg、Mn−Ni−Ti、Mn−Ni−Fe、Mn−Ni−Nb、Mn−Ni−Co−Al、Mn−Ni−Co−Mg、Mn−Ni−Co−Ti、Mn−Ni−Co−Fe、Mn−Ni−Co−Nbなどの組み合わせからなる「M」を例示することができる。但し、これらに限定するものではなく、例えばさらにAl、Mg、Ti、Fe及びNbの何れか1種又は2種以上を前記の組合せにさらに組合せることも可能である。
【0028】
中でも、M元素中のMn含有量は20〜90質量%、中でも40質量%以上或いは90質量%以下、その中でも50質量%以上或いは80質量%以下を占めることが好ましい。
また、M元素中のNi含有量は0〜80質量%、中でも20質量%以上或いは70質量%以下、その中でも20質量%以上或いは50質量%以下を占めることが好ましい。
また、M元素中のCo含有量は0〜80質量%、中でも20質量%以上或いは70質量%以下、その中でも20質量%以上或いは50質量%以下を占めることが好ましい。
【0029】
なお、上記一般式において、酸素量の原子比は、便宜上「2」と記載しているが、多少の不定比性を有してもよい。
【0030】
<第1工程>
第1工程では、一般式Li
1+xM
1-xO
2で示される前記リチウム金属複合酸化物Aにおける「Li元素」及び「M元素」を含む原料、例えばリチウム原料、マンガン原料、ニッケル原料、コバルト原料などの原料を秤量して混合し、必要に応じて粉砕し、必要に応じて造粒し、焼成し、必要に応じて熱処理し、必要に応じて解砕し、さらに必要に応じて分級して、リチウム金属複合酸化物Aを得るようにすればよい。
【0031】
(原料)
リチウム原料としては、例えば水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、硝酸リチウム(LiNO
3)、LiOH・H
2O、酸化リチウム(Li
2O)、その他脂肪酸リチウムやリチウムハロゲン化物等を挙げることができる。中でもリチウムの水酸化物塩、炭酸塩、硝酸塩が好ましい。
マンガン原料は、特に限定するものではない。例えば炭酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、二酸化マンガンなどを用いることができ、中でも炭酸マンガン、二酸化マンガンが好ましい。その中でも、電解法によって得られる電解二酸化マンガンが特に好ましい。
【0032】
ニッケル原料は、特に限定するものではない。例えば炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、オキシ水酸化ニッケル、水酸化ニッケル、酸化ニッケルなどを用いることができ、中でも炭酸ニッケル、水酸化ニッケル、酸化ニッケルが好ましい。
コバルト原料は、特に限定するものではない。例えば塩基性炭酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、オキシ水酸化コバルト、水酸化コバルト、酸化コバルトなどを用いることができ、中でも、塩基性炭酸コバルト、水酸化コバルト、酸化コバルト、オキシ水酸化コバルトが好ましい。
その他のM元素の原料、すなわち、Al、Mg、Ti、Fe及びNbの原料としては、これら元素の酸化物、水酸化物、炭酸化物などを用いることができる。
【0033】
また、原料中にホウ素化合物を配合してもよい。ホウ素化合物を配合することにより焼成を促進させることができる。
ホウ素化合物としては、ホウ素(B元素)を含有する化合物であればよく、例えばホウ酸或いはホウ酸リチウムを使用するのが好ましい。ホウ酸リチウムとしては、例えばメタ硼酸リチウム(LiBO
2)、四硼酸リチウム(Li
2B
4O
7)、五硼酸リチウム(LiB
5O
8)及び過硼酸リチウム(Li
2B
2O
5)等の各種形態のものを用いることが可能である。
【0034】
(混合)
原料の混合方法としては、水や分散剤などの液媒体を加えてスラリー化させて混合する湿式混合方法を採用するのが好ましい。なお、後述するスプレードライ法を採用する場合には、得られたスラリーを湿式粉砕機で粉砕するのが好ましい。但し、乾式粉砕してもよい。
【0035】
(造粒)
造粒方法は、前工程で混合された各種原料が分離せずに造粒粒子内で分散していれば湿式でも乾式でもよい。
造粒方法としては、押し出し造粒法、転動造粒法、流動造粒法、混合造粒法、噴霧乾燥造粒法、加圧成型造粒法、或いはロール等を用いたフレーク造粒法でもよい。但し、湿式造粒した場合には、焼成前に充分に乾燥させることが必要である。
乾燥方法としては、噴霧熱乾燥法、熱風乾燥法、真空乾燥法、フリーズドライ法などの公知の乾燥方法によって乾燥させればよく、中でも噴霧熱乾燥法が好ましい。噴霧熱乾燥法は、熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー)を用いて行なうのが好ましい(本明細書では「スプレードライ法」と称する)。
ただし、共沈法により得られた造粒粉を用いることも可能である。共沈法としては、原料を溶液に溶解した後、pHなどの条件を調整して沈殿させることにより、異なる元素が共存する複合水酸化物の製法を例示できる。
【0036】
(焼成)
第1工程における焼成は、焼成炉にて、大気雰囲気下、酸素ガス雰囲気下、酸素分圧を調整した雰囲気下、或いは二酸化炭素ガス雰囲気下、或いはその他の雰囲気下において焼成すればよい。中でも、酸素濃度20%以上の雰囲気で焼成するのが好ましい。
【0037】
焼成温度は、800℃より高く、1500℃未満の温度(:焼成炉内の焼成物に熱電対を接触させた場合の温度を意味する。)、好ましくは810℃以上或いは1300℃以下、より好ましくは820℃以上或いは1100℃以下の温度とするのが好ましい。
焼成時間は、0.5時間〜300時間保持するように焼成するのが好ましい。
【0038】
焼成炉の種類は特に限定するものではない。例えばロータリーキルン、静置炉、その他の焼成炉を用いて焼成することができる。
【0039】
(熱処理)
焼成後の熱処理は、結晶構造の調整が必要な場合に行うのが好ましい。
熱処理は、大気雰囲気下、酸素ガス雰囲気下、酸素分圧を調整して雰囲気下などの酸化雰囲気の条件で熱処理を行ってもよい
また、このような熱処理は、焼成後に室温まで冷却させた後、加熱するようにしてもよいし、また、焼成に引き続き、常温までの降温速度を1.5℃/min以下にするようにして、熱処理を行ってもよい。
【0040】
(解砕)
焼成後若しくは熱処理後の解砕は、必要に応じて行えばよい。
この際の解砕方法としては、一次粒子径を低減しない手段を選択するのが好ましい。具体的には、オリエントミル解砕や乳鉢を使用した解砕などを挙げることができる。
また、低速および中速回転粉砕機などを用いて解砕してもよい。例えば、1000rpmほどの回転数を有する回転粉砕機が挙げられる。低速および中速回転粉砕機によって解砕すれば、粒子どうしが凝集していたり、焼結が弱かったりする部分を解砕することができ、しかも粒子に歪みが入るのを抑えることができる。
但し、上記解砕方法に限定する訳ではない。
焼成後の分級は、凝集粉の粒度分布調整とともに異物除去という技術的意義があるため、好ましい大きさの目開きの篩を選択して分級するのが好ましい。
【0041】
(リチウム金属複合酸化物A)
第1工程で作製するリチウム金属複合酸化物Aは、一般式Li
1+xM
1-xO
2(x=−0.15以上0.15以下、Mは、Mnを必ず含み、Ni、Co、Al、Mg、Ti、Fe及びNbからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む。)で表わされるリチウム金属複合酸化物であればよく、層構造を有するリチウム金属複合酸化物であるのが好ましい。
【0042】
上記一般式において、xは−0.15以上0.15以下であるのが好ましく、中でも−0.05以上或いは0.10以下、その中でも0.00以上或いは0.05以下であるのが好ましい。
上記一般式において、xが−0.15以上0.15以下の範囲であれば、リチウム金属複合酸化物の一次粒子径を十分に大きくすることができると共に、この範囲のリチウム金属複合酸化物Aにリチウム化合物を加えて焼成することで、好ましい電池特性を実現できるリチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物を製造することができる。
【0043】
(リチウム金属複合酸化物Aの一次粒子径及びタップ密度)
リチウム金属複合酸化物Aの一次粒子径は0.7μm以上であるのが好ましく、中でも0.8μm以上或いは5.0μm以下、その中でも0.9μm以上或いは3.0μm以下であるのが特に好ましい。
リチウム金属複合酸化物Aの一次粒子径が0.7μm以上であれば、最終的に得られる本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物の一次粒子径を1.0μm以上とすることができる。
リチウム金属複合酸化物Aの一次粒子径を上記範囲に調整するには、遷移金属の組成比率(例えば、M中に含まれる遷移金属元素比、Li:M比等の組成比率)や原料粒度や焼成条件などによって調整することができる。特に焼成温度を高めることにより一次粒子径を大きくすることができる。
【0044】
リチウム金属複合酸化物Aのタップ密度は1.3g/cm
3以上であるのが好ましく、中でも1.3g/cm
3以上或いは3.0g/cm
3以下、その中でも1.4g/cm
3以上或いは2.9g/cm
3以下であるのが特に好ましい。
リチウム金属複合酸化物Aのタップ密度が1.3g/cm
3以上であれば、最終的に得られる本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物のタップ密度を1.9g/cm
3以上とすることができる。
リチウム金属複合酸化物Aのタップ密度を上記範囲に調整するには、遷移金属の組成比率(例えば、M中に含まれる遷移金属元素比、Li:M比等の組成比率)や原料粒度や焼成条件などによって調整することができる。特に焼成温度を高めることによりタップ密度を大きくすることができる。
【0045】
<第2工程>
第2工程では、前記第1工程で得られたリチウム金属複合酸化物Aと、リチウム化合物とを混合し、焼成し、必要に応じて熱処理し、必要に応じて解砕し、さらに必要に応じて分級して、本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物を得るようにすればよい。
【0046】
(リチウム化合物)
リチウム化合物としては、リチウムを含む化合物であれば特に限定するものではない。中でも水酸化リチウム又は炭酸リチウムを用いるのが好ましい。
【0047】
(混合)
リチウム金属複合酸化物Aと、リチウム化合物との混合方法は、リチウム金属複合酸化物Aの一次粒子径を低減しないような方法を採用するのが好ましい。
具体的には、例えばボールミル、SCミル、ミキサーなどの混合方法を挙げることができる。但し、これらの混合方法に限定されるものではない。
【0048】
(焼成)
第2工程における焼成は、焼成炉にて、大気雰囲気下、酸素ガス雰囲気下、酸素分圧を調整した雰囲気下、或いは二酸化炭素ガス雰囲気下、或いはその他の雰囲気下において焼成すればよい。中でも、酸素濃度20%以上の雰囲気で焼成するのが好ましい。
【0049】
第2工程の焼成温度(最高到達温度)は、前記第1工程の焼成温度(最高到達温度)よりも高温であるのが好ましい。中でも、第1工程の焼成温度よりも10℃〜200℃だけ高温であるのが好ましく、その中でも20℃以上或いは180℃以下だけ高温であるのが好ましく、その中でも30℃以上或いは170℃以下だけ高温であるのが好ましく、その中でも40℃以上或いは150℃以下だけ高温であるのがさらに好ましく、その中でも100℃以下だけ高温であるのがさらに好ましい。
具体的には、900〜1200℃の温度(:焼成炉内の焼成物に熱電対を接触させた場合の温度を意味する。)、好ましくは950℃以上或いは1200℃以下、より好ましくは1000℃以上或いは1100℃以下の温度であるのが好ましい。
焼成時間は、0.5時間〜300時間保持するように焼成するのが好ましい。
この際、遷移金属が原子レベルで固溶し単一相を示す焼成条件を選択するのが好ましい。
焼成炉の種類は特に限定するものではない。例えばロータリーキルン、静置炉、その他の焼成炉を用いて焼成することができる。
【0050】
(熱処理)
焼成後の熱処理は、結晶構造の調整が必要な場合に行うのが好ましい。
熱処理は、大気雰囲気下、酸素ガス雰囲気下、酸素分圧を調整して雰囲気下などの酸化雰囲気の条件で熱処理を行ってもよい。
また、このような熱処理は、焼成後に室温まで冷却させた後、加熱するようにしてもよいし、また、焼成に引き続き、常温までの降温速度を1.5℃/min以下にするようにして、熱処理を行ってもよい。
【0051】
(解砕)
焼成後若しくは熱処理後の解砕は、必要に応じて行えばよい。
この際の解砕方法としては、一次粒子径を低減しない手段を選択するのが好ましい。具体的には、オリエントミル解砕や乳鉢を使用した解砕などを挙げることができる。
また、低速および中速回転粉砕機などを用いて解砕してもよい。例えば、1000rpmほどの回転数を有する回転粉砕機が挙げられる。低速および中速回転粉砕機によって解砕すれば、粒子どうしが凝集していたり、焼結が弱かったりする部分を解砕することができ、しかも粒子に歪みが入るのを抑えることができる。
但し、上記解砕方法に限定する訳ではない。
焼成後の分級は、凝集粉の粒度分布調整とともに異物除去という技術的意義があるため、好ましい大きさの目開きの篩を選択して分級するのが好ましい。
【0052】
<一次粒子径>
本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物の一次粒子径は、本製造方法により、1.0μm以上とすることができる。中でも1.1μm以上あるいは5.0μm以下、その中でも1.2μm以上或いは4.9μm以下とすることができる。
本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物の一次粒子径を1.0μm以上にすることにより、電極としての体積エネルギー密度を十分に高めることができる。
【0053】
一次粒子径は、SEM(走査電子顕微鏡)を使用し、得られたSEM画像からランダムに粒子を複数個、例えば10個選び、その一次粒子の短径を測定し、その測定した長さを縮尺より換算し、平均値を一次粒子径とした。
【0054】
本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物の一次粒子径を上記範囲に調整するには、本製造方法において、遷移金属の組成比率(例えば、M中に含まれる遷移金属元素比、Li:M比等の組成比率)や原料粒度や焼成条件などによって調整するようにすればよい。例えば焼成温度を高めることにより、本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物の一次粒子径を大きくすることができる。
【0055】
<タップ密度>
本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物のタップ密度(「T.D.」とも称する)は、本製造方法により、1.9g/cm
3以上とすることができ、中でも2.0g/cm
3以上或いは4.4g/cm
3以下、その中でも2.1g/cm
3以上或いは4.3g/cm
3以下とすることができる。
本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物のタップ密度が1.9g/cm
3以上であれば、電極としての体積エネルギー密度を有効に高めることができる。
タップ密度は、例えば、振とう比重測定器を用いて、試料をガラス製メスシリンダーに入れて、所定のストロークで所定回数タップした場合の粉体充填密度を測定して求めることができる。
【0056】
このようなタップ密度を得るためには、本製造方法において、第1工程で得られるリチウム金属複合酸化物Aの粉体特性に起因してタップ密度を高めることができる。ただし、このような方法に限定されるものではない。
【0057】
<平均粒径(D50)>
本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物のレーザー回折散乱式粒度分布測定法により求められる平均粒径(D50)は、本製造方法により、1μm〜60μm、中でも2μm以上或いは59μm以下、その中でも特に3μm以上或いは58μm以下とすることができる。
本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物のD50が1μm〜60μmであれば、電極作製上の観点から好都合である。
【0058】
本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物のD50を上記範囲に調整するには、本製造方法において、出発原料のD50の調整、焼成温度或いは焼成時間の調整、或いは、焼成後の解砕によるD50の調整をするのが好ましい。但し、これらの調整方法に限定されるものではない。
【0059】
なお、複数の一次粒子がそれぞれの外周(粒界)の一部を共有するようにして凝集し、他の粒子と孤立した粒子を、本発明では「二次粒子」又は「凝集粒子」という。
ちなみに、レーザー回折散乱式粒度分布測定法は、凝集した粉粒を一個の粒子(凝集粒子)として捉えて粒径を算出する測定方法であり、平均粒径(D50)は、50%体積累積粒径、すなわち体積基準粒度分布のチャートにおいて体積換算した粒径測定値の累積百分率表記の細かい方から累積50%の径を意味する。
【0060】
<比表面積(SSA)>
本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物の比表面積(SSA)は、本製造方法により、0.1〜3.0m
2/g、中でも0.2m
2/g以上或いは2.9m
2/g以下、その中でも特に0.3m
2/g以上或いは2.8m
2/gm以下とすることができる。
本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物の比表面積(SSA)が0.1〜3.0m
2/gであれば、レート特性の観点から好ましい。
本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物の比表面積(SSA)を上記範囲に調整するには、本製造方法において、焼成条件(温度、時間、雰囲気など)や焼成後の解砕強度(解砕機回転数など)を調整すればよい。但し、この方法に限定されるものではない。
【0061】
(XRD測定)
本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物は、本製造方法により、結晶構造XRD(X線回折)の回折パターンにおいて、2θ=20〜22°の範囲におけるメインピークの強度が、2θ=16〜20°の範囲におけるメインピークの強度に対して4.0%未満、好ましくは3.0%未満、中でも好ましくは2.0%未満とすることができる。
【0062】
ここで、2θ=20〜22°の範囲におけるメインピークとは、2θ=20〜22°の範囲に存在するピークのうちの最大強度のピークの意味であり、2θ=16〜20°の範囲におけるメインピークとは、2θ=16〜20°の範囲に存在するピークのうちの最大強度のピークの意味である。
【0063】
本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物において、2θ=20〜22°の範囲におけるメインピークは、Li
2MnO
3構造に起因するピークであると推察されるため、かかるピークの強度が、2θ=16〜20°の範囲におけるメインピーク、すなわち層状構造に起因するピークの強度に対して4.0%未満であるということは、Li
2MnO
3構造が殆どない単相構造若しくはそれに近い構造であると推察される。
【0064】
このような特徴を有する本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物を製造するには、例えば、固溶体正極を直接生成させるのではなく、本製造方法のように、最初のステップとして、リチウム金属複合酸化物Aを作製し、その後、リチウム金属複合酸化物Aとリチウム化合物を混合して焼成する方法を挙げることができる。
【0065】
<結晶子サイズ>
本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物の結晶子サイズ、すなわちリートベルト法による測定方法(詳しくは、実施例の欄に記載)により求められる結晶子サイズは、本製造方法により、50nm以上とすることができ、中でも50nm以上或いは300nm以下、その中でも51nm以上あるいは290nm以下とすることができる。
【0066】
ここで、「結晶子」とは、単結晶とみなせる最大の集まりを意味し、XRD測定を行いリートベルト解析を行なうことにより求めることができる。
複数の結晶子によって構成され、SEM(例えば3000倍)で観察した際、粒界によって囲まれた最も小さな単位の粒子を、本発明では「一次粒子」という。したがって一次粒子には単結晶及び多結晶が含まれる。
かかる観点から、本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物の結晶子サイズは50nm以上であれば、一次粒子をより大きくすることができ、電極としての体積エネルギー密度をより一層高めることができる。
【0067】
結晶子サイズを上記範囲に調整するには、本製造方法において、遷移金属の組成比率(例えば、M中に含まれる遷移金属元素比、Li:M比等の組成比率)や原料粒度や焼成条件などによって調整するようにすればよい。例えば焼成温度を高めることにより結晶子サイズを大きくすることができる。
【0068】
<特性・用途>
本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物は、必要に応じて解砕・分級した後、必要に応じて他の正極材料を混合して、リチウム電池の正極活物質として有効に利用することができる。
例えば、本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物と、カーボンブラック等からなる導電材と、テフロン(登録商標)バインダー等からなる結着剤とを混合して正極合剤を製造することができる。そしてそのような正極合剤を正極に用い、負極には例えばリチウムまたはカーボン等のリチウムを吸蔵・脱蔵できる材料を用い、非水系電解質には六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)等のリチウム塩をエチレンカーボネート−ジメチルカーボネート等の混合溶媒に溶解したものを用いてリチウム二次電池を構成することができる。但し、このような構成の電池に限定する意味ではない。
【0069】
本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物を正極活物質として備えたリチウム電池は、特に電気自動車(EV:Electric Vehicle)やハイブリッド電気自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)に搭載するモータ駆動用電源として用いるリチウム電池の正極活物質の用途に特に優れている。
なお、「ハイブリッド自動車」とは、電気モータと内燃エンジンという2つの動力源を併用した自動車であり、プラグインハイブリッド自動車も包含する。
また、「リチウム電池」とは、リチウム一次電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー電池など、電池内にリチウム又はリチウムイオンを含有する電池を全て包含する意である。
【0070】
<語句の説明>
本明細書において「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0071】
次に、実施例及び比較例に基づいて、本発明について更に説明する。但し、本発明が以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0072】
<比較例1>
組成がLi
1.15Ni
0.58Mn
0.27O
2となる様に、炭酸リチウムと、電解二酸化マンガンと、水酸化ニッケルとを秤量し、水を加えて混合攪拌して固形分濃度10wt%のスラリーを調製した。
得られたスラリー(原料粉500g)に、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩(サンノプコ(株)製 SNディスパーサント5468)を前記スラリー固形分の6wt%添加し、湿式粉砕機で1200rpm、20分間粉砕して平均粒径(D50)を0.5μm以下として粉砕スラリーを得た。
得られた粉砕スラリーを、熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製「i−8」)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量12kg/hr、乾燥塔の出口温度100℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。造粒粉の平均粒径(D50)は15μmであった。
【0073】
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、昇温速度1.3℃/minにて950℃まで昇温し、950°で20時間維持した。その後、降温速度1.3℃/minにて700℃まで降温し、700°で10時間維持した後、降温速度1.3℃/minにて常温まで冷却した。得られた粉を解砕し、再度、静置式電気炉を用いて、大気中で昇温速度1.3℃/minにて950℃まで昇温し、950°で20時間維持した後、降温速度1.3℃/minにて700℃まで降温し、700°で10時間維持した後、降温速度1.5℃/minにて常温まで冷却した。その後、得られた粉を解砕し、目開き53μmの篩にて分級を行い、篩下粉を回収して、リチウムマンガンニッケル含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
得られたリチウムマンガンニッケル含有複合酸化物粉末(サンプル)の化学分析を行った結果、Li
1.17Ni
0.56Mn
0.27O
2であることが確認された。
【0074】
<実施例1>
組成がLi
1.06Ni
0.47Mn
0.47O
2となる様に、炭酸リチウムと、電解二酸化マンガンと、水酸化ニッケルを秤量し、水を加えて混合攪拌して固形分濃度10wt%のスラリーを調製した。
得られたスラリー(原料粉500g)に、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩(サンノプコ(株)製 SNディスパーサント5468)を前記スラリー固形分の6wt%添加し、湿式粉砕機で1200rpm、20分間粉砕して平均粒径(D50)を0.5μm以下として、粉砕スラリーを得た。
得られた粉砕スラリーを、熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製「i−8」)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量12kg/hr、乾燥塔の出口温度100℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。造粒粉の平均粒径(D50)は15μmであった。
【0075】
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中で昇温速度1.5℃/minにて700℃まで昇温し、700°で20時間維持した。その後、降温速度1.5℃/minにて常温まで冷却した。次に、再び静置式電気炉を用いて、大気中で昇温速度1.5℃/minにて1000まで昇温し、1000°で30時間維持した後、降温速度1.5℃/minにて常温まで冷却した。こうして得られた焼成粉を解砕し、目開き53μmの篩にて分級を行い、篩下リチウム金属複合酸化物粉を回収した。
回収した篩下リチウム金属複合酸化物粉の化学分析を行った結果、Li
1.06Ni
0.47Mn
0.47O
2であることが確認された。
また、篩下リチウム金属複合酸化物粉の一次粒子径は0.9μmであり、タップ密度は1.6g/cm
3であった。
【0076】
次に、回収した篩下リチウム金属複合酸化物粉に、目的組成Li
1.13Mn
0.45Ni
0.42O
2となるように、炭酸リチウムを添加し、ボールミルを用いて混合を1時間行った。得られた混合粉を、静置式電気炉を用いて、大気中で昇温速度1.3℃/minにて1050℃まで昇温し、1050°で20時間維持した後、降温速度1.3℃/minにて常温まで冷却した。こうして得られた焼成粉を解砕し、目開き53μmの篩にて分級を行い、篩下粉を回収してリチウムマンガンニッケル含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
得られたリチウムマンガンニッケル含有複合酸化物粉末(サンプル)の化学分析を行った結果、Li
1.13Ni
0.45Mn
0.42O
2であることが確認された。
また、得られたリチウムマンガンニッケル含有複合酸化物粉末(サンプル)の一次粒子径は1.2μmであり、タップ密度は2.2g/cm
3であった。
【0077】
<実施例2>
実施例1と同様にリチウム金属複合酸化物粉を作製し、同様に篩下リチウム金属複合酸化物粉を得た。得られた篩下リチウム金属複合酸化物粉の化学分析を行った結果、Li
1.06Ni
0.47Mn
0.47O
2であることが確認された。得られたリチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)の一次粒子径は0.9μmであり、タップ密度は1.6g/cm
3であった。
【0078】
次に、前記篩下リチウム金属複合酸化物粉に、目的組成Li
1.14Mn
0.43Ni
0.43O
2となるように炭酸リチウムを添加した以外は、実施例1と同様にリチウムマンガンニッケル含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
得られたリチウムマンガンニッケル含有複合酸化物粉末(サンプル)の化学分析を行った結果、Li
1.14Mn
0.43Ni
0.43O
2であることが確認された。
また、得られたリチウムマンガンニッケル含有複合酸化物粉末(サンプル)の一次粒子径は1.6μmであり、タップ密度は2.5g/cm
3であった。
【0079】
<実施例3>
組成がLi
1.06Mn
0.47Ni
0.33Co
0.14O
2となる様に、炭酸リチウムと、電解二酸化マンガンと、水酸化ニッケルと、オキシ水酸化コバルトを秤量して混合した以外、実施例1同様にして篩下リチウム金属複合酸化物粉を回収した。
回収した篩下リチウム金属複合酸化物粉の化学分析を行った結果、Li
1.06Mn
0.47Ni
0.33Co
0.14O
2であることが確認された。
また、篩下リチウム金属複合酸化物粉の一次粒子径は0.8μmであり、タップ密度は1.4g/cm
3であった。
【0080】
次に、前記篩下リチウム金属複合酸化物粉に、目的組成Li
1.14Mn
0.43Ni
0.30Co
0.13O
2となるように炭酸リチウムを添加した以外は、実施例1と同様にリチウムマンガンニッケル含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
得られたリチウムマンガンニッケル含有複合酸化物粉末(サンプル)の化学分析を行った結果、Li
1.14Mn
0.43Ni
0.30Co
0.13O
2であることが確認された。
また、得られたリチウムマンガンニッケル含有複合酸化物粉末(サンプル)の一次粒子径は1.5μmであり、タップ密度は2.2g/cm
3であった。
【0081】
<実施例4>
組成がLi
1.06Mn
0.37Ni
0.33Co
0.14Al
0.10O
2となる様に、炭酸リチウムと、電解二酸化マンガンと、オキシ水酸化コバルトと、水酸化アルミニウムと、水酸化ニッケルとを秤量して混合した以外、実施例1同様にして篩下リチウム金属複合酸化物粉を回収した。
回収した篩下リチウム金属複合酸化物粉の化学分析を行った結果、Li
1.06Mn
0.37Ni
0.33Co
0.14Al
0.10O
2であることが確認された。
また、篩下リチウム金属複合酸化物粉の一次粒子径は1.1μmであり、タップ密度は2.0g/cm
3であった。
【0082】
次に、前記篩下リチウム金属複合酸化物粉に、目的組成Li
1.14Mn
0.34Ni
0.30Co
0.13Al
0.09O
2となるように炭酸リチウムを添加した以外は、実施例1と同様にリチウムマンガンニッケル含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
得られたリチウムマンガンニッケル含有複合酸化物粉末(サンプル)の化学分析を行った結果、Li
1.14Mn
0.34Ni
0.30Co
0.13Al
0.09O
2であることが確認された。
また、得られたリチウムマンガンニッケル含有複合酸化物粉末(サンプル)の一次粒子径は1.5μmであり、タップ密度は2.1g/cm
3であった。
【0083】
<一次粒子径の測定>
一次粒子径は、SEM(走査電子顕微鏡HITACHI S‐3500N)を使用し、加速電圧20kV、倍率5000倍にて観察し、印刷した写真からランダムに粒子を10個選び、定規でその一次粒子の短径を測定した。その測定した長さを縮尺より換算し、平均値を一次粒子径とした。
【0084】
<タップ密度(T.D.)の測定>
実施例及び比較例で得られたサンプル(粉体)50gを150mlのガラス製メスシリンダーに入れ、振とう比重測定器((株)蔵持科学器械製作所製KRS‐409)を用いてストローク60mmで540回タップした時の粉体充填密度(T.D.)を求めた。
【0085】
<50%積算径(D50)の測定>
実施例及び比較例で得られたサンプル(粉体)の粒度分布を次のようにして測定した。
レーザー回折粒度分布測定機用試料循環器(日機装株式会社製「Microtorac ASVR」)を用い、サンプル(粉体)を水溶液に投入し、40mL/secの流速中、40wattsの超音波を360秒間照射した後、日機装株式会社製レーザー回折粒度分布測定機「HRA(X100)」を用いて粒度分布を測定し、得られた体積基準粒度分布のチャートからD50を求めた。
なお、測定の際の水溶液には60μmのフィルターを通した水を用い、溶媒屈折率を1.33、粒子透過性条件を反射、測定レンジを0.122〜704.0μm、測定時間を30秒とし、2回測定した平均値を測定値として用いた。
【0086】
<比表面積(SSA)の測定(BET法)>
実施例及び比較例で得られたサンプル(粉体)の比表面積(SSA)を次のようにして測定した。
先ず、サンプル(粉体)0.5gを流動方式ガス吸着法比表面積測定装置MONOSORB LOOP(ユアサアイオニクス株式会社製「MS‐18」)用ガラスセルに秤量し、前記MONOSORB LOOP用前処理装置にて、30mL/minのガス量にて5分間窒素ガスでガラスセル内を置換した後、前記窒素ガス雰囲気中で250℃10分間、熱処理を行った。その後、前記MONOSORB LOOPを用い、サンプル(粉体)をBET一点法にて測定した。
なお、測定時の吸着ガスは、窒素30%:ヘリウム70%の混合ガスを用いた。
【0087】
<リートベルト法による結晶子サイズの測定>
Cu‐Kα線を用いたX線回折装置(ブルカー・エイエックスエス(株)製D8ADVANCE)を使用して、実施例及び比較例で得られたサンプル(粉体)の粉末X線回折測定を行った。この際、FundamentalParameterを採用して解析を行った。回折角2θ=15〜120°の範囲より得られたX線回折パターンを用いて、解析用ソフトウエアTopas Version3を用いて行った。
【0088】
結晶構造は、空間群R3−mの三方晶(Trigonal)に帰属され、その3aサイトは、Li、3bサイトにMn、Co、Ni、及び過剰なLi分xにより占有され、そして6cサイトはOに占有されていると仮定し、酸素の席占有率(Occ.)及び等方性温度因子(Beq.;isotropic temperature factor)を変数とし、Rwp<5.0、GOF<1.3まで精密化を行った。
【0089】
なお、上記のRwpおよびGOFは以下の式により求められる値である(参照:「粉末X線解析の実際」(社)日本分析化学X線分析研究懇談会編.朝倉書店発行.2002年2月10日.p107の表6.2)。
Rwp=[Σ
iwi{yi−fi(x)
2}/Σ
iwiyi
2]
1/2
Re=[(N−P)/Σ
iwiyi
2]
1/2
GOF=Rwp/Re
但し、wiは統計的重み、yiは観測強度、fi(x)は理論回折強度、Nは全データ点数、Pは精密化するパラメータの数を示している。
【0090】
精密化の手順としては、酸素のz座標および席占有率を変数とした状態で、以下の(1)〜(3)の操作を順番に行った。
【0091】
(1)3bサイトの等方性温度因子のみを変数として精密化。
(2)6cサイトの等方性温度因子のみを変数として精密化。
(3)3aサイトの等方性温度因子のみを変数として精密化。
【0092】
上記(1)〜(3)の手順は、各変数が変動しなくなるまで繰り返し行なった。その後、酸素のz座標および席占有率を固定値に戻し、結晶子サイズ(Gauss)と結晶歪み(Gauss)を変数とした状態で、数値の変動がなくなるまで繰り返し精密化を行ない、結晶子サイズ(Gauss)を求めた。
【0093】
その他、測定・Rietveld法解析に使用した機器仕様・条件等は以下の通りである。
Sample disp(mm):Refine
Detector:PSD
Detector Type:VANTEC−1
High Voltage:5616V
Discr.Lower Level:0.45V
Discr.Window Width:0.15V
Grid Lower Level:0.075V
Grid Window Width:0.524V
Flood Field Correction:Disabled
Primary radius:250mm
Secondary radius:250mm
Receiving slit width:0.1436626mm
Divergence angle:0.3°
Filament Length:12mm
Sample Length:25mm
Receiving Slit Length:12mm
Primary Sollers:2.623°
Secondary Sollers:2.623°
Lorentzian,1/Cos:0.01630098Th
【0094】
Det.1 voltage:760.00V
Det.1 gain:80.000000
Det.1 discr.1 LL:0.690000
Det.1 discr.1 WW:1.078000
Scan Mode:Continuous Scan
Scan Type:Looked Coupled
Spinner Speed:15rpm
Divergence Slit:0.300°
Start:15.000000
Time per step:1s
Increment:0.01460
♯steps:7152
Generator voltage:35kV
Generator current:40mA
【0095】
<XRD強度比の計算>
上記のようにして得られたX線回折パターンを用いて、解析用ソフトウエアEVA Version11.0.0.3を用いて、Kα2およびバックグラウンド除去を行った。除去を行ったX線回折パターンを用いて、2θ=20〜22°の範囲におけるメインピークのピーク強度と、2θ=16〜20°の範囲におけるメインピークのピーク強度を計測し、下記計算式より、表2に示した「XRD強度比」を算出した。
XRDのピーク強度比={(2θ=20〜22°の範囲におけるメインピーク強度)/(16〜20°の範囲におけるメインピーク強度)}×100
【0096】
<電極の作製方法>
実施例・比較例で得られたリチウムマンガンニッケル含有複合酸化物粉末(サンプル)89wt%と、導電助材としてのアセチレンブラック5wt%と、結着材としてのPVDF6wt%とを混合し、NMP(N−メチルピロリドン)を加えてペースト状に調整した。このペーストを厚さ15μmのAl箔集電体に塗布し、70℃、120℃で乾燥させた。その後、20MPaの圧力でプレスを3度施して正極シートを作製した。
【0097】
<電極密度の評価方法>
上記で得られた正極シートの面積と、マイクロメータ(MITUTOYO MDC-30)を用いて測定した正極シートの厚みをかけて正極シート体積を求めた。次に、正極シートの重量からAl箔の重量を差し引いて正極自体の重量を求めた。正極自体の重量を正極シート体積で除算して電極密度を求めた。
なお、表2には比較例1の電極密度を100とした相対値(指標)を示した。
【0098】
<評価用セルの作製方法>
上記で得られた正極シートをφ13mmの大きさに切り出して正極とし、200℃、6時間乾燥させた。一方、リチウム金属をφ15mmの大きさに切り出して負極とし、正極と負極の間に、カーボネート系の混合溶液に、LiPF
6を1mol/Lになるように溶解させた電解液を含浸させたセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム)を置き、2032型コイン電池(電気化学評価用セル)を作製した。
【0099】
(1サイクルの充放電容量)
上記のようにして準備した、2032型コイン電池を用いて次に記述する方法で1サイクルの充放電容量と充放電効率を求めた。すなわち、正極中の正極活物質の含有量から、25℃にて0.2C電流値で、4.9Vまで一定電流値で充電し(CC充電)、4.9Vに達した後、一定電圧値で充電した(CV充電)ときの容量から活物質の総充電容量(mAh/g)を求めた。休止時間を10minとし、次に0.2C電流値で2.0Vまで一定電流値で放電した時の容量から活物質の初期放電容量(mAh/g)を求めた。
【0100】
(体積エネルギー密度指標の算出方法)
初期放電容量(mAh/g)に、上記のようにして測定された電極密度(g/cm
3)を乗ずることにより体積エネルギー密度指標(mAh/cm
3)を算出した。
体積エネルギー密度指標=(初期放電容量)×(電極密度)
なお、表2には比較例1の電極密度を100とした相対値(指標)を示した。
【0101】
<充電レート特性の評価>
上記のようにして測定された充電容量より、充電レート特性指標、すなわち充電受入性の指標を算出し、表2に示した。
このようにして算出された充電レート特性指標が小さければ、充電時のレート特性、すなわち充電受入れ性が良好であると評価することができる。この指標により、正極活物質のレート特性が良好であることが推測される。
充電レート特性指標=(CV充電時の容量)/(総充電容量)×100
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
(考察)
上記実施例のように、先ずは、Li
1+xM
1-xO
2におけるxの範囲が−0.15〜0.15の範囲において、一次粒子径を大きく成長させておき、次に、リチウム化合物を加えて焼成してリチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物を作製したところ、リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物(OLO)の一次粒子径を十分に大きくすることができ、タップ密度を高めることができ、電極としての体積エネルギー密度を高めることができた。しかも、電極密度が向上したにもかかわらず、充電の受入れ性は同等以上であるため、良好なレート特性、特に良好な充電レート特性を有することが分かった。
また、
図6に見られるように、上記実施例1〜4は、比較例に比べて、CV充電領域の長さの差からも、充電受け入れ性に優れ、レート特性が良好であることが分かった。
【0105】
また、結晶構造XRD(X線回折)の回折パターンにおいて、2θ=20〜22°の範囲にピークが存在すると、充電時に結晶構造が変化するため1サイクルの充放電効率が低くなると予想される。そこで、最終的に得られる本リチウム過剰型層状リチウム金属複合酸化物に関しては、2θ=20〜22°の範囲にピークが存在しないことが好ましく、少なくとも、2θ=20〜22°の範囲におけるメインピークの強度が、2θ=16〜20°の範囲におけるメインピークの強度に対して4.0%未満であるのが好ましいと考えられる。
【0106】
なお、上記実施例4は、一般式Li
1+xM
1-XO
2おいて、MとしてCo、Alのみを含む組成からなるものであるが、イオン半径や化学的安定性の点で、Co、Alと、Ni、Mg、Ti、Fe及びNbとは共通する性質を有している。よって、MとしてMg、Ti、Fe及びNbからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む場合も、上記実施例4で得たサンプルと同様の効果を得ることができるものと考えられる。