【実施例】
【0022】
次に、本実施形態に従い作製したリチウムイオン二次電池20の実施例について説明する。なお、比較のために作製した比較例のリチウムイオン二次電池についても併記する。
【0023】
(実施例1)
実施例1では、設計容量が4Ahのリチウムイオン二次電池20を作製した。すなわち、難燃化剤のホスファゼン化合物(株式会社ブリヂストン製、商品名ホスライト(登録商標)、固体状、分解温度250℃以上)とPVDFとを溶解させたNMP溶液に酸化アルミニウムを分散させ分散溶液を調製した。この分散溶液を正極合剤層W2の表面に塗布した。このとき、分散溶液の塗布量を調整することで、正極合剤に対する難燃化剤の配合割合を調整した。下表2に示すように、実施例1では、難燃化剤の配合割合を1wt%に調整した。また、設計容量が20Ah、50Ah、90Ahのリチウムイオン二次電池20についても、各設計容量に対応するように電極群6の直径を調整し(表1参照)、同様の手順でそれぞれ作製した。
【0024】
【表2】
【0025】
(実施例2〜実施例6)
表2に示すように、実施例2〜実施例6では、難燃化剤の配合割合を変える以外は実施例1と同様にして、設計容量が4Ah、20Ah、50Ah、90Ahのリチウムイオン二次電池20をそれぞれ作製した。すなわち、難燃化剤の配合割合は、実施例2では2wt%、実施例3では3wt%、実施例4では5wt%、実施例5では6wt%、実施例6では8wt%にそれぞれ調整した。
【0026】
(比較例1〜比較例3)
表2に示すように、比較例1では、正極合剤層の表面に難燃化剤層を形成しない以外は実施例1と同様にして、設計容量が4Ah、20Ah、50Ah、90Ahのリチウムイオン二次電池をそれぞれ作製した。また、比較例2および比較例3では、難燃化剤を8wt%を超える配合割合としたこと以外は実施例1と同様にして、設計容量が4Ah、20Ah、50Ah、90Ahのリチウムイオン二次電池をそれぞれ作製した。すなわち、難燃化剤の配合割合を、比較例2では10wt%、比較例3では15wt%にそれぞれ調整した。
【0027】
(試験1)
各実施例および比較例のリチウムイオン二次電池のうち、設計容量が4Ahおよび90Ahのリチウムイオン二次電池についてそれぞれ放電試験を行い、放電容量を評価した。放電試験は、0.2CA、5CAおよび10CAの放電電流で3.0Vまでの放電容量を測定した。正極合剤に対する難燃化剤の割合と、比較例1のリチウムイオン二次電池の放電容量を100%としたときの、実施例1〜6および比較例2、3の放電容量比との関係を、設計容量毎に、
図2および
図3のグラフにそれぞれ示す。
【0028】
図2、
図3に示すように、0.2CAの放電電流で放電容量を測定した場合、難燃化剤層が形成された実施例1〜6および比較例2、3では、設計容量が4Ahおよび90Ahのいずれについても放電容量比が90%以上を示し、固体難燃化剤量が増加しても放電容量が維持された。これは、難燃化剤層が多孔化されて形成されたことで、充放電時にリチウムイオンが正負極板間を十分に移動でき、電池性能が確保されたためと考えられる。
【0029】
これに対して、5CAの放電電流で放電容量を測定した場合、固体難燃化剤量が8wt%以下の実施例1〜6のリチウムイオン二次電池では、設計容量が4Ahおよび90Ahのいずれについても放電容量比が80%以上を示したが、固体難燃化剤量が8wt%を超える比較例2、3では、放電容量比が70%以下を示した。また、10CAの放電電流で放電容量を測定した場合、固体難燃化剤量が5wt%以下の実施例1〜4のリチウムイオン二次電池では、設計容量が4Ahおよび90Ahのいずれについても放電容量比が85%以上を示したが、固体難燃化剤量が6wt%以上の実施例5、6のリチウムイオン二次電池では、固体難燃化剤量が増加するにつれ放電容量比が次第に減少した。さらに、固体難燃化剤量が10wt%以上の比較例2、3のリチウムイオン二次電池では、放電容量比が25%以下となり、大幅に減少した。このことから、固体難燃化剤量が同じ場合、放電電流が大きいほどリチウムイオンの移動抵抗が大きくなることが判った。これは、固体難燃化剤が高率放電のような速い反応に対して正負極板間のリチウムイオンの移動抵抗となるため、放電容量比が低下したものと考えられる。
【0030】
また、リチウムイオン二次電池の設計容量の違いを考えると、設計容量4Ahのものと比較して設計容量90Ahのものでは、放電電流を大きくするほど、容量低下の大きくなることが判った。さらに、設計容量20Ah、50Ahのリチウムイオン二次電池についても同様の結果を示し、設計容量4Ahのものと90Ahのものとの中間的な結果となることを確認している。従って、固体難燃化剤量を8wt%以下とすることで、設計容量が4Ah以上の非水電解液電池において高率放電時の容量低下を抑制することが期待できる。
【0031】
(試験2)
各実施例および比較例のリチウムイオン二次電池について、過充電試験を行い、電池表面の破裂・発火の有無を確認した。過充電試験では、電池中央部に熱電対を配置し、各リチウムイオン二次電池を0.5CAの電流値で充電し続けた。過充電における破裂・発火の有無を下表3に示す。なお、表3において、矢印を表記した欄は、その上の欄と同じ結果であることを示す。
【0032】
【表3】
【0033】
表3に示すように、難燃化剤層が形成されていない比較例1の電池では、いずれの設計容量の電池においても、過充電試験により破裂・発火が認められた。これに対して、難燃化剤層が形成された実施例1〜6および比較例2、3の電池のうち、設計容量が4Ahの電池では、固体難燃化剤量が1wt%以上含まれれば、破裂・発火しないことが確認された。また、設計容量が20Ahおよび50Ahの電池では、固体難燃化剤量が2wt%以上、設計容量が90Ahの電池では、固体難燃化剤量が3wt%以上含まれれば、破裂・発火しないことが確認された。この結果から、過充電試験における安全性を確保するためには、設計容量が大きい電池ほど固体難燃化剤量が多く必要になることが判明した。これは、設計容量の大きい電池ほど、充放電時にエネルギーが大きく、放熱性が悪化するためと考えられる。
【0034】
(作用等)
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池20の作用等について説明する。
【0035】
本実施形態では、電極群6を構成する正極板の正極合剤層W2の表面に、難燃化剤としてホスファゼン化合物が含有された難燃化剤層W6が形成されている。このホスファゼン化合物は、電池異常時等の高温環境下の所定温度で分解する。難燃化剤層W6が正極合剤層W2の表面に形成されることで、ホスファゼン化合物が正極活物質の近傍に存在することとなる。このため、リチウムイオン二次電池20が異常な高温環境下に曝されたときや電池異常が生じたときに、正極活物質の熱分解反応やその連鎖反応で電池温度が上昇すると、ホスファゼン化合物が分解する。これにより、電池構成材料の燃焼が抑制されるため、リチウムイオン二次電池20の電池挙動を穏やかにし、安全性を確保することができる。
【0036】
また、本実施形態では、難燃化剤層W6に含まれる難燃化剤を正極合剤に対して8質量%以下に設定した。また、難燃化剤層W6はリチウムイオン透過性を有し、多孔化されている。このため、通常の電池使用時(充放電)時に正負極板間のリチウムイオンの移動抵抗が低減し、リチウムイオンが正負極板間を十分に移動することができる。従って、大型(設計容量が4Ah以上)の非水電解液電池において、電池性能を確保することができ、高率放電時の容量低下を抑制することができる。更に、難燃化剤層W6が正極合剤層W2の表面に形成されているため、正極合剤層W2では、電極反応を生じさせる正極活物質の配合割合が確保されるので、リチウムイオン二次電池20の容量や出力を確保することができる。
【0037】
更に、本実施形態では、難燃化剤として80℃以下の温度環境で固体のホスファゼン化合物が用いられている。このため、通常の電池使用時にはホスファゼン化合物が固体の状態で難燃化剤層W6として保持され、非水電解液中に溶出することがないので、リチウムイオン二次電池20の電池性能を確保することができる。
【0038】
なお、本実施形態では、設計容量が4Ah、20Ah、50Ah、90Ahのリチウムイオン二次電池20をそれぞれ例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、設計容量が90Ahを超える電池において、過充電試験における安全性を確保することを考慮すれば難燃化剤の配合割合が3wt%以上に制限されるものの、難燃化剤の配合割合を8wt%以下とすることで、高率放電時の容量低下を抑制することが期待できる。
【0039】
また、本実施形態では、正極合剤層W2の表面、すなわち、正極板の両面に難燃化剤層W6を形成する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、負極板やセパレータW5に形成するようにしてもよい。すなわち、難燃化剤層W6が、正極板、負極板およびセパレータW5の少なくとも1つの片面または両面に形成されていればよい。更に、本実施形態では、バインダとしてPVDFを用いて難燃化剤層W6を形成させる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、難燃化剤層W6を形成可能であればいかなるバインダを用いてもよい。
【0040】
更に、本実施形態では、難燃化剤層W6の形成時に、造孔剤として酸化アルミニウムを配合する例を示したが、本発明は、用いる造孔剤に制限されるものではない。また、本実施形態では、難燃化剤層W6が多孔化されている例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、通常の充放電時にリチウムイオンが通過可能であれば、難燃化剤層W6が多孔化されていなくてもよい。
【0041】
また更に、本実施形態では、難燃化剤層W6に含まれる難燃化剤の正極合剤に対する割合を1wt%以上に設定する例を示した(実施例1〜実施例6)。難燃化剤の配合割合が1wt%に満たないと熱分解反応による温度上昇を抑制することが難しくなり、反対に、難燃化剤の配合割合が8wt%超えると、リチウムイオン移動抵抗が大きくなり、高率放電時の容量や出力を低下させることとなる。難燃化剤の配合割合が増加するほど、高率放電時の容量が低下することを考慮すれば、難燃化剤の配合割合を1〜8wt%の範囲とすることが好ましい。また、過充電時における安全性の確保を考慮すれば、設計容量が20Ah以上の電池では固体難燃化剤量が2wt%以上、設計容量が90Ah以上の電池では固体難燃化剤量が3wt%以上含まれることが好ましい。
【0042】
更にまた、本実施形態では、難燃化剤としてホスファゼン化合物を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、所定温度で分解し活物質の熱分解反応やその連鎖反応による温度上昇を抑制することができるものであればよい。また、ホスファゼン化合物についても本実施形態で例示した化合物以外の化合物を用いることも可能である。
【0043】
また、本実施形態では、設計容量が4Ahの円筒形リチウムイオン二次電池20を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、電池容量が4Ahを超える大型のリチウムイオン二次電池に適用することができる。また、本実施形態では、正極板、負極板を捲回した電極群6を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、矩形状の正極板、負極板を積層した電極群としてもよい。更に、電池形状についても、円筒形以外に角型等としてもよいことはもちろんである。また、正極活物質や負極活物質の種類、非水電解液の組成等についても特に制限されるものではない。
【0044】
更に、本実施形態では、有底円筒状の電池容器7を用いたリチウムイオン二次電池20を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、無底円筒状の電池容器を用いてもよい。電池容器に無底円筒状のものを用いた場合、2つの開口を2つの蓋体で封止すればよい。このとき、2つの蓋体の中心に穴を形成し、正極外部端子および負極外部端子を構成する2本の極柱をそれぞれ2つの蓋体の穴に嵌め込み軸芯に挿入してもよい。
【0045】
また更に、本実施形態では、正極活物質に、層状結晶構造を有するマンガンニッケルコバルト複酸リチウム粉末、スピネル結晶構造を有するマンガン酸リチウム粉末のいずれかを用いる例を示したが、本発明で用いることのできる正極活物質としてはリチウム遷移金属複合酸化物であればよい。また、本発明はリチウムイオン二次電池に制限されるものではなく、非水電解液を用いた非水電解液電池に適用できることはいうまでもない。