特許第5809904号(P5809904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中部美化企業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5809904-フラップゲート 図000006
  • 特許5809904-フラップゲート 図000007
  • 特許5809904-フラップゲート 図000008
  • 特許5809904-フラップゲート 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5809904
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月11日
(54)【発明の名称】フラップゲート
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/44 20060101AFI20151022BHJP
【FI】
   E02B7/44
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-207763(P2011-207763)
(22)【出願日】2011年9月22日
(65)【公開番号】特開2013-68015(P2013-68015A)
(43)【公開日】2013年4月18日
【審査請求日】2014年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】591003541
【氏名又は名称】中部美化企業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(72)【発明者】
【氏名】堀川 弘之
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 韓国登録特許第10−0835335(KR,B1)
【文献】 実開昭62−072334(JP,U)
【文献】 特開2001−065720(JP,A)
【文献】 特開2000−328545(JP,A)
【文献】 特開2010−001619(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3167300(JP,U)
【文献】 実開昭60−186330(JP,U)
【文献】 実開昭60−151926(JP,U)
【文献】 実開昭58−006824(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/20− 8/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川側へ開口する排水孔を備えた壁面に取り付けられ、前記排水孔の上側の前記壁面にヒンジ結合されて前記排水孔に対して前後へ揺動可能な吊り下げ部材と、その吊り下げ部材の下端に連結されて前記排水孔を開閉可能な扉体とを備えたフラップゲートであって、
前記壁面と前記吊り下げ部材とのヒンジ結合位置を前後方向へ調整可能とし、
前記扉体における前記排水孔と反対側の外面に、前記吊り下げ部材が連結されて前記ヒンジ結合位置よりも前記排水孔と反対側へ突出するバランス部材を一体に固着すると共に、前記扉体と前記バランス部材との比重を互いに異ならせて、前記バランス部材の比重をa、体積をc、前記扉体の比重をb、体積をdとした場合に、以下の式(1)の関係が成り立つようにそれぞれの比重及び体積を決定することで、前記河川の水位が前記扉体に達しない状態では、前記扉体と前記バランス部材とを合わせた重心位置が前後方向で前記ヒンジ結合位置よりも前記排水孔側に位置して前記扉体を前記排水孔を開口させる傾斜姿勢とし、前記河川の水位が前記扉体の下端より上方に達する状態では、前記扉体を前記傾斜姿勢へ付勢するモーメントよりも前記バランス部材により前記モーメントと逆方向に働くモーメントの方を上回らせて、前記扉体を前記排水孔を閉塞する起立姿勢とすることを特徴とするフラップゲート。
【数1】
【請求項2】
前記吊り下げ部材と前記バランス部材とをヒンジ結合したことを特徴とする請求項1に記載のフラップゲート。
【請求項3】
前記吊り下げ部材と前記バランス部材とのヒンジ結合位置を前後方向へ調整可能としたことを特徴とする請求項2に記載のフラップゲート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川の増水時や満潮時に排水孔からの逆流を防止するフラップゲートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からフラップゲートは、扉体の一方を吊り下げて片側方向にのみに揺動可能な構造で、内水の水位が高いときは、水圧によって扉体を押し開いて排水する一方、扉体外側の河川の増水時や満潮時には水圧で扉体を閉塞するものが知られている。
しかしながら、このようなフラップゲートでは、内水を排出することを可能とするものの、雑物の堆積や流木等が扉体と排水孔との隙間に混入した場合には、閉塞が不完全になることで河川から内水へ逆流するという問題があった。
【0003】
これに対し、浮扉体を連結する側面くの字状に曲折したアームが、下流側に位置する支点を中心に揺動可能に設けられ、下流の水位が堤内側水位の所定の水位に達すると、支点を中心とする浮力モーメントが、浮扉体とアームとの合計重量によるモーメントより大きくなることによって、浮心位置が支点よりも前方(開口縁部側)に位置して浮扉体を閉塞する樋門・樋管ゲート(フラップゲート)が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−164541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のフラップゲートでは、扉体と開口縁部との隙間に異物が混入した場合であっても、扉体による閉塞が完全に行われるものの、浮扉体が開いた状態で設置した場合や、河川の水位が滞留していたり、水位上昇が緩やかな場合には、浮扉体が閉塞しないといった問題が生じていた。
【0006】
そこで、本発明は、異物が混入した場合や排水の少ない場合であっても扉体が開き易く、水位が滞留していたり、水位上昇が緩やかな場合であっても扉体が閉塞することを可能とするフラップゲートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、河川側へ開口する排水孔を備えた壁面に取り付けられ、前記排水孔の上側の前記壁面にヒンジ結合されて前記排水孔に対して前後へ揺動可能な吊り下げ部材と、その吊り下げ部材の下端に連結されて前記排水孔を開閉可能な扉体とを備えたフラップゲートであって、
前記壁面と前記吊り下げ部材とのヒンジ結合位置を前後方向へ調整可能とし、
前記扉体における前記排水孔と反対側の外面に、前記吊り下げ部材が連結されて前記ヒンジ結合位置よりも前記排水孔と反対側へ突出するバランス部材を一体に固着すると共に、前記扉体と前記バランス部材との比重を互いに異ならせて、前記バランス部材の比重をa、体積をc、前記扉体の比重をb、体積をdとした場合に、以下の式(1)の関係が成り立つようにそれぞれの比重及び体積を決定することで、前記河川の水位が前記扉体に達しない状態では、前記扉体と前記バランス部材とを合わせた重心位置が前後方向で前記ヒンジ結合位置よりも前記排水孔側に位置して前記扉体を前記排水孔を開口させる傾斜姿勢とし、前記河川の水位が前記扉体の下端より上方に達する状態では、前記扉体を前記傾斜姿勢へ付勢するモーメントよりも前記バランス部材により前記モーメントと逆方向に働くモーメントの方を上回らせて、前記扉体を前記排水孔を閉塞する起立姿勢とすることを特徴とする。
【数1】
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のフラップゲートにおいて、前記吊り下げ部材と前記バランス部材とをヒンジ結合したことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のフラップゲートにおいて、前記吊り下げ部材と前記バランス部材とのヒンジ結合位置を前後方向へ調整可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1に記載の発明によれば、異物が混入する場合や排水の少ない場合であっても扉体が開き易く、また、河川の水位が滞留していたり、水位の上昇が緩やかな場合であっても扉体で確実に閉塞することが可能である。他にも、現場状況に応じて扉体の前後位置を調整できる。
また、請求項2に記載の発明によれば、重心位置とヒンジ結合との距離を近づけることが可能であるから、扉体の初期の開き角度を大きく設けることが可能である。
更に、請求項に記載の発明によれば、ヒンジの位置が調整可能なので扉体の初期の開き角度、若しくは、扉体の閉まり始めの高さの調整が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)は、フラップゲートの平面の構成を示す説明図であり、(b)は、側面の構成を示す説明図である。
図2】(a)は、フラップゲートが閉じた状態を示す説明図であり、(b)は、フラップゲートが開いた状態を示す説明図である。
図3】(a)(b)は、扉体の変更例を示す説明図である。
図4】フラップゲートの変更例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1(a)は、フラップゲート1の全体の構成を示したもので、図1(b)は、側面図を示したものである。
まず初めに、本発明のフラップゲート1は、図2に示すように、河川側へ開口する排水孔21を備えた壁面20に取り付けられ、この排水孔21の上側の壁面にヒンジ15で結合されて排水孔21に対して前後(図1(b)及び図2の左側を前方とする)へ揺動可能な吊り下げ部材7と、その吊り下げ部材7の下端に連結されて排水孔21を開閉可能な扉体2とを備えた構成である。
【0013】
このうち、扉体2は、比重約0.74の繊維強化発泡ウレタン(FFU−74)等の合成樹脂からなる四角形の板材で、図1(b)に示すように、水位23側(扉体2の後方側)周縁にはクロロプレンゴムからなる止水ゴム12が貼着されており、閉塞時には排水孔21を閉塞し、水が流下することを防止する構造である。
一方、扉体2の水位22側(扉体2の前方側)には、左右の吊り金具4,4を介して比重約7.93のステンレスで逆L字状に形成されるバランス部材3が表面に取り付けられている。
【0014】
そして、バランス部材の比重をa、体積をc、扉体の比重をb、体積をdとした場合に、以下の式(1)の関係が成り立つようにそれぞれの比重及び体積を決定している。
【数1】
【0015】
次に、ヒンジ15において、取付プレート8には、長手方向左右に吊り金具11,11が設けられており、この吊り金具11には、円柱形状の吊り棒9を挿入可能とする孔が穿設されている。また、吊り下げ部材7先端の一方にも、吊り棒9を挿入可能とする孔が穿設されている。そして、吊り下げ部材7先端の一方の孔と吊り金具11の孔とに吊り棒9を挿入することで、取付プレート8に対して吊り下げ部材7先端の一方を揺動可能としている。
なお、吊り棒9の両端には、吊り棒9が吊り金具11や吊り下げ部材7から抜ける事を防止する割りピン10,10が挿入されている。
【0016】
一方、ここでは、吊り下げ部材7,7と、バランス部材3とにおいてもヒンジ16で結合されている。
このヒンジ16において、扉体2の吊り金具4には、円柱形状の吊り棒5を挿入可能とする孔が穿設されている。また、吊り下げ部材7先端の他方にも、吊り棒5を挿入可能とする孔が穿設されている。そして、吊り下げ部材7先端の他方の孔と吊り金具4の孔とに吊り棒5を挿入することで、扉体2に対して吊り下げ部材7先端の他方を揺動可能としている。
すなわち、ヒンジ15とヒンジ16とにより、揺動箇所を2箇所とするダブルヒンジが採用されている。なお、吊り棒5の両端にも、吊り棒5が吊り金具4や吊り下げ部材7からの抜けを防止する割りピン6,6が挿入されている。
【0017】
以上の如く構成されたフラップゲート1により、水位23の水が、排水孔21から扉体2前方の河川の水位22へと流下する過程について説明する。
まず初めに、図2(a)に示すように、水位22が扉体2に達しない状態では、扉体2の重心位置とバランス部材3の重心位置とを合わせた重心位置Gが、前後方向でヒンジ16の吊り棒5の位置より後方の排水孔21側に位置するため、吊り棒5を中心とした時計回り方向のモーメントが発生する。よって、扉体2は、排水孔21を開口させる傾斜姿勢となり、水位23側の水が水位22側へと流下する。
【0018】
ここで、扉体2とバランス部材3とでは比重が異なることから、扉体2の重心位置とバランス部材3の重心位置とが重なり合った状態の水平方向の重心位置Gは、バランス部材3の断面一次モーメントをSy1、体積をA1、比重をB1とし,扉体2の断面一次モーメントをSy2、体積をA2、比重をB2とした場合に、下記の関係式から求められる。
【数2】
【0019】
この場合、水位22が扉体2に達しない状態の重心が、水位22が扉体2の下端より上方に達する状態の重心より低く、しかも、その差が大きい程に扉体2の初期の傾斜姿勢(角度)が大きくなることから、水位22が上昇する時に扉体2の起立姿勢時に生じる回転モーメントを大きくすることが可能である。
【0020】
その後、図2(b)に示すように、水位22が扉体2の下端より上方に達する状態では、扉体2の水中重量が少なくなるため、時計回り方向のモーメントが減少して、比重の大きいバランス部材3によって発生する反時計回り方向のモーメントの方が大きくなるため、扉体2が反時計方向に回転する。よって、扉体2が排水孔21を閉塞する起立姿勢となる。
そして、水位22が更に上昇すると、水位22の水が扉体2を押圧することから、扉体2で排水孔21周縁がより強固に閉塞され、水位23側の水が水位22側へと流下することがない。
【0021】
このように構成されるフラップゲート1は、壁面と吊り下げ部材とのヒンジ結合位置を前後方向へ調整可能とし、扉体2における排水孔21と反対側の外面に、吊り下げ部材7が連結されてヒンジ結合位置よりも排水孔21と反対側へ突出するバランス部材3を一体に固着すると共に、扉体2とバランス部材3との比重を互いに異ならせて、バランス部材3の比重をa、体積をc、扉体2の比重をb、体積をdとした場合に、上記の式(1)の関係が成り立つようにそれぞれの比重及び体積を決定する。
それにより、河川の水位22が扉体2に達しない状態では、扉体2とバランス部材3とを合わせた重心位置Gが前後方向でヒンジ15の位置よりも排水孔21側に位置して扉体2を排水孔21を開口させる傾斜姿勢とし、河川の水位22が扉体2の下端より上方に達する状態では、扉体2を傾斜姿勢へ付勢するモーメントよりもバランス部材3によりモーメントと逆方向に働くモーメントの方を上回らせて、扉体2を排水孔21を閉塞する起立姿勢とする。これにより、異物が混入した場合や排水の少ない場合であっても扉体2が開き易く、また、河川の水位22が滞留していたり、水位の上昇が緩やかな場合であっても扉体2で確実に閉塞することが可能である。
【0022】
なお、本発明のフラップゲートの構成は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、水位の変動により、扉体が前後に回転して開閉を行うものであれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で必要に応じて適宜変更することができる。
例えば、バランス部材3の形状は、必ずしも逆L字状である必要はなく、適宜変更可能である。
【0023】
他にも、ヒンジ結合は、揺動箇所が一箇所のシングルヒンジを採用しても良く、適宜変更可能である。すなわち、吊り金具4と吊り下げ部材7の下方端部とを一体に形成し、吊り金具11に対して吊り下げ部材7の上方端部を揺動可能とする構成である。その結果、扉体2の揺動軌跡が一定の円弧を描くことにより、排水孔21を閉塞する際には、扉体2が排水孔21の摩擦の影響を受けることがない。
【0024】
また、扉体2の形状は、必ずしも四角形である必要はなく、図3(a)に示す円形状の板材や、図3(b)に示す下側が半円形状の板材としても良い。更に、排水孔21を閉塞し、水の流下を制御する形状であれば他の形状に変更しても良く、適宜変更可能である。
【0025】
他にも、吊り金具11に穿設される孔は、図4に示すように、吊り棒9の貫通孔を前後方向の長孔25とすると共に、吊り棒5の貫通孔を前後方向の長孔28に変更しても良く、適宜変更可能である。
従って、壁面20と吊り下げ部材7とのヒンジ15の位置を、長孔25により前後方向へ調整可能とすることにより、現場状況に応じて扉体2の前後位置を調整できる。この場合、ヒンジ15の位置調整及び固定は、取付プレート8表面の長手方向左右にボルト26頭部を溶接し、このボルト26上に螺合されるナット27,27で、吊り棒9を挟み込んで、ナット27,27のネジ送りで吊り棒9を前後移動させて行う。
【0026】
更に、吊り下げ部材7とバランス部材3とのヒンジ16の位置を、長孔28により前後方向へ調整可能とすることにより、重心位置とヒンジ16との距離を近づけることも可能であるから、ヒンジ16の位置が調整可能なので扉体2の初期の開き角度、若しくは、扉体の閉まり始めの高さの調整が可能である。この場合、ヒンジ16の位置調整及び固定は、吊り金具4内側に溶接したナット30にボルト29を前方から螺合させ、ボルト29の回転によるネジ送りで吊り棒5を後方へ押圧して行う。
【符号の説明】
【0027】
1・・フラップゲート、2・・扉体、3・・バランス部材、4・・吊り金具、5・・吊り棒、6・・割りピン、7・・吊り下げ部材、8・・取付プレート、9・・吊り棒、10・・割りピン、11・・吊り金具、12・・止水ゴム、15・・ヒンジ(取付プレート側)、16・・ヒンジ(吊り金具側)、20・・壁面、21・・排水孔、22・・水位(扉体の前方側)、23・・水位(扉体の後方側)、25・・長孔(取付プレート側)、26・・ボルト(取付プレート側)、27・・ナット、28・・長孔(吊り金具側)、29・・ボルト(吊り金具側)、30・・ナット。
図1
図2
図3
図4