特許第5810109号(P5810109)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 京セラドキュメントソリューションズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5810109-定着装置及びそれを備えた画像形成装置 図000002
  • 特許5810109-定着装置及びそれを備えた画像形成装置 図000003
  • 特許5810109-定着装置及びそれを備えた画像形成装置 図000004
  • 特許5810109-定着装置及びそれを備えた画像形成装置 図000005
  • 特許5810109-定着装置及びそれを備えた画像形成装置 図000006
  • 特許5810109-定着装置及びそれを備えた画像形成装置 図000007
  • 特許5810109-定着装置及びそれを備えた画像形成装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5810109
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月11日
(54)【発明の名称】定着装置及びそれを備えた画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20151022BHJP
【FI】
   G03G15/20 515
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-21926(P2013-21926)
(22)【出願日】2013年2月7日
(65)【公開番号】特開2014-153487(P2014-153487A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100085501
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 静夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128842
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 温
(74)【代理人】
【識別番号】100134821
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 信行
(72)【発明者】
【氏名】石井 智士
(72)【発明者】
【氏名】谷田 啓一
【審査官】 中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−287461(JP,A)
【文献】 特開2011−191348(JP,A)
【文献】 特開平05−323811(JP,A)
【文献】 特開2010−096823(JP,A)
【文献】 特開2004−286840(JP,A)
【文献】 特開2013−033107(JP,A)
【文献】 特開2007−171694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体の搬送速度と略等速で回動可能な無端状の定着ベルトと、
該定着ベルトの内側に配置され輻射熱によって前記定着ベルトを加熱する加熱手段と、
前記定着ベルトの内側に配置され前記定着ベルトの内周面と摺動する保持部材と、
前記定着ベルトを挟んで前記保持部材に所定の圧力で圧接されることで前記定着ベルトとの間に定着ニップ部を形成するとともに前記定着ベルトに回転駆動力を付与する加圧ローラーと、
を備え、前記定着ニップ部に記録媒体を挿通させて記録媒体上に担持された未定着トナー像を定着する定着装置において、
前記定着ベルトは、前記加熱手段によって発熱する発熱層と、前記定着ベルトの内周面に積層され前記保持部材と摺動する摺動層と、を含み、前記摺動層は、多数の孔部と、各孔部の間に形成される網目部分とを有する平面視網目形状であり、
前記孔部の一辺を0.3〜2mm、前記網目部分の幅を0.1〜1mmとした
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記定着ベルトは、前記発熱層と前記摺動層との間に前記加熱手段の輻射熱を吸収する熱吸収層が積層されており、前記孔部は前記熱吸収層に達するように形成されることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記孔部は、前記定着ベルトの幅方向及び周方向にマトリクス状に配列されており、幅方向または周方向に隣接する前記孔部の列を所定ピッチ分だけ幅方向または周方向にずらした千鳥状のパターンに形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記孔部は、平面視円形状に形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の定着装置。
【請求項5】
前記孔部の周縁部を面取り形状若しくは曲面形状とすることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の定着装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の定着装置を備えた画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱した定着ベルトと加圧部材とで形成される定着ニップ部に、未定着トナー画像を担持した用紙を挿入して未定着トナーを加熱、溶融し、用紙に定着するベルト定着方式の定着装置、及びそれを備えた電子写真方式を用いる画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を用いた従来の画像形成装置においては、用紙を加熱するための加熱部材を、加熱ローラーに代えて発熱源からの輻射熱を吸収して発熱する無端状の定着ベルトとし、定着ベルトとこれに圧接される加圧部材とで形成される定着ニップ部に未定着トナー画像を担持した用紙を挿通することによって用紙にトナーを定着するベルト定着方式が開発されている。
【0003】
このベルト定着方式では、定着ニップ部を形成する定着ローラー対の少なくとも一方のローラーを加熱ローラーとし、この定着ニップ部に未定着トナー画像を担持した用紙を挿通することによって用紙にトナーを定着する熱ローラー定着方式に比べ、熱容量を小さくしてウォームアップ時間を短縮するとともに、消費電力を低減することができる。
【0004】
定着ベルトの駆動方法としては、無端状の定着ベルトの回転軸方向の両端にフランジ状のエンドキャップ部材を固定し、エンドキャップ部材に形成されたギアを介して定着ベルトを駆動する構成や、無端状の定着ベルトの内側のニップ部下流位置に配置された張架ローラーによって定着ベルトを駆動する構成等が知られている。
【0005】
しかし、上述したような定着ベルトを直接駆動する方法では、定着ベルトの内側に配置したエンドキャップ部材や張架ローラー等の押圧部材を回転させる必要があるため、ニップ部の形状や幅を自由に設定することが困難であった。
【0006】
また、一般的にニップ幅を広くする方法として、大径の加圧ローラーを用いる方法や、加圧ローラー表面のゴム厚を増加させるか、或いはゴム硬度を低下させる方法、加圧ローラーの押圧力を高める方法等が知られている。しかし、加圧ローラーの大径化は定着装置の大型化やコストアップを招き、ゴム厚の増加はウォームアップ時間の延長を招くおそれがあった。また、ゴム硬度の低下は温度による外径変化が大きくなるため搬送性の低下を招き、耐久性も低下する。さらに加圧ローラーの押圧力の上昇は、ローラー表面の撓み量の過多による搬送性の低下や定着フレーム補強によるコストアップに繋がる。
【0007】
そこで、定着ベルトの内側に保持部材を配置し、定着ベルトの外側から保持部材に加圧ローラーを圧接するとともに、加圧ローラーと定着ベルトの外面との摩擦力により保持部材と定着ベルトの内面とを摺動させて定着ベルトを回転駆動させる摺動ベルト定着方式が考案されている。
【0008】
例えば特許文献1には、定着ベルトとベルト内部に備えた輻射熱源(ハロゲンヒーター)と、摺動面を有する保持部材と、加圧ローラーとを備え、加圧ローラーを回転駆動させることで、定着ベルトと加圧ローラーとのニップ部において定着ベルトと保持部材とを摺動させながら定着ベルトを従動回転させる定着装置が開示されている。
【0009】
上述したような摺動ベルト定着方式においては、定着ベルトを円滑に回転駆動させるために、定着ベルトと保持部材との摺動性を確保する必要がある。そこで、特許文献2には、定着ベルトの保持部材と摺動する側(内周面)に摺動面を形成する摺動層を設けることにより、ベルト内周面の耐摩耗性及び滑り性を向上させた定着ベルトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−29394号公報
【特許文献2】特開2004−286840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2に記載の定着ベルトは、ポリアミドイミド樹脂またはポリイミド樹脂から成る摺動層を有しているが、ポリアミドイミド樹脂またはポリイミド樹脂は熱吸収率及び熱伝導率が低いため、ハロゲンヒーターの輻射熱による金属層(発熱層)の加熱性能が十分ではなかった。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑み、定着ベルト内部に配置される加熱部材の輻射熱による加熱性能を維持しつつ、定着ベルトと保持部材との摺動性能も確保できる定着装置及びそれを備えた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明の第1の構成は、無端状の定着ベルトと、加熱手段と、保持部材と、加圧ローラーと、を備え、定着ニップ部に記録媒体を挿通させて記録媒体上に担持された未定着トナー像を定着する定着装置である。定着ベルトは、記録媒体の搬送速度と略等速で回動可能である。加熱手段は、定着ベルトの内側に配置され輻射熱によって定着ベルトを加熱する。保持部材は、定着ベルトの内側に配置され定着ベルトの内周面と摺動する。加圧ローラーは、定着ベルトを挟んで保持部材に所定の圧力で圧接されることで定着ベルトとの間に定着ニップ部を形成するとともに定着ベルトに回転駆動力を付与する。定着ベルトは、加熱手段によって発熱する発熱層と、定着ベルトの内周面に積層され保持部材と摺動する摺動層と、を含み、摺動層は、多数の孔部が形成された平面視網目形状である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の構成によれば、定着ベルトの内部に配置された加熱手段の輻射熱が、定着ベルトの摺動層に形成された孔部を通過して発熱層に到達する。そして、熱伝導率の低い摺動層によって輻射熱が妨げられることなく、発熱層を効率良く発熱させることができる。その結果、摺動層によって定着ベルトの内面と保持部材との摺動性を長期間に亘って維持するとともに、加熱手段による加熱効率も維持することができる。従って、定着装置のウォームアップ時間の短縮及び消費電力の低減の効果をより一層高めることができ、定着ベルトの耐用年数も長くなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る定着装置13が搭載されたカラープリンター100の概略断面図
図2】定着装置13の側面断面図
図3】定着装置13に用いられる定着ベルト21の積層構造を示す部分断面図
図4】定着ベルト21を摺動層47側から見た部分平面図
図5】定着ベルト21の摺動層47の網目形状の他のパターンを示す部分平面図であり、定着ベルト21の周方向(図5の上下方向)に隣接する孔部47aの列を一列おきに半ピッチ分ずつ幅方向(図5の左右方向)にずらした千鳥状のパターンを示す図
図6】定着ベルト21の摺動層47の網目形状の他のパターンを示す部分平面図であり、孔部47aの形状を円形にしたパターンを示す図
図7】定着ベルト21の摺動層47の網目形状の他のパターンを示す部分断面図であり、摺動層47に形成される孔部47aの周縁部47bを面取り形状としたパターンを示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の定着装置13が搭載された画像形成装置の構成を示す模式断面図である。ここでは画像形成装置の一例として、タンデム方式のカラープリンターについて示している。カラープリンター100本体内には4つの画像形成部Pa、Pb、Pc及びPdが、搬送方向上流側(図1では右側)から順に配設されている。これらの画像形成部Pa〜Pdは、異なる4色(マゼンタ、シアン、イエロー及びブラック)の画像に対応して設けられており、それぞれ帯電、露光、現像及び転写の各工程によりマゼンタ、シアン、イエロー及びブラックの画像を順次形成する。
【0017】
これらの画像形成部Pa〜Pdには、各色の可視像(トナー像)を担持する感光体ドラム1a、1b、1c及び1dが配設されており、さらに駆動手段(図示せず)により図1において時計回り方向に回転する中間転写ベルト8が各画像形成部Pa〜Pdに隣接して設けられている。これらの感光体ドラム1a〜1d上に形成されたトナー像が、各感光体ドラム1a〜1dに当接しながら移動する中間転写ベルト8上に順次一次転写されて重畳された後、二次転写ローラー9の作用によって記録媒体の一例としての用紙P上に二次転写され、さらに、定着装置13において用紙P上に定着された後、カラープリンター100本体より排出される。感光体ドラム1a〜1dを図1において反時計回り方向に回転させながら、各感光体ドラム1a〜1dに対する画像形成プロセスが実行される。
【0018】
トナー像が転写される用紙Pは、カラープリンター100の本体下部に配置された用紙カセット16内に収容されており、給紙ローラー12a及びレジストローラー対12bを介して二次転写ローラー9と後述する中間転写ベルト8の駆動ローラー11とのニップ部へと搬送される。中間転写ベルト8には誘電体樹脂製のシートが用いられ、継ぎ目を有しない(シームレス)ベルトが主に用いられる。また、二次転写ローラー9の下流側には中間転写ベルト8表面に残存するトナー等を除去するためのブレード状のベルトクリーナー19が配置されている。
【0019】
次に、画像形成部Pa〜Pdについて説明する。回転自在に配設された感光体ドラム1a〜1dの周囲及び下方には、感光体ドラム1a〜1dを帯電させる帯電器2a、2b、2c及び2dと、各感光体ドラム1a〜1dに画像情報を露光する露光装置5と、感光体ドラム1a〜1d上にトナー像を形成する現像装置3a、3b、3c及び3dと、感光体ドラム1a〜1d上に残留した現像剤(トナー)等を除去するクリーニング部7a、7b、7c及び7dが設けられている。
【0020】
パソコン等の上位装置から画像データが入力されると、先ず、帯電器2a〜2dによって感光体ドラム1a〜1dの表面を一様に帯電させ、次いで露光装置5によって画像データに応じて光照射し、各感光体ドラム1a〜1d上に画像データに応じた静電潜像を形成する。現像装置3a〜3dには、それぞれマゼンタ、シアン、イエロー及びブラックの各色のトナーを含む二成分現像剤が所定量充填されている。なお、後述のトナー像の形成によって各現像装置3a〜3d内に充填された二成分現像剤中のトナーの割合が規定値を下回った場合にはトナーコンテナ4a〜4dから各現像装置3a〜3dにトナーが補給される。この現像剤中のトナーは、現像装置3a〜3dにより感光体ドラム1a〜1d上に供給され、静電的に付着することにより、露光装置5からの露光により形成された静電潜像に応じたトナー像が形成される。
【0021】
そして、一次転写ローラー6a〜6dにより一次転写ローラー6a〜6dと感光体ドラム1a〜1dとの間に所定の転写電圧で電界が付与され、感光体ドラム1a〜1d上のマゼンタ、シアン、イエロー及びブラックのトナー像が中間転写ベルト8上に一次転写される。これらの4色の画像は、所定のフルカラー画像形成のために予め定められた所定の位置関係をもって形成される。その後、引き続き行われる新たな静電潜像の形成に備え、一次転写後に感光体ドラム1a〜1dの表面に残留したトナー等がクリーニング部7a〜7dにより除去される。
【0022】
中間転写ベルト8は、上流側の従動ローラー10と、下流側の駆動ローラー11とに掛け渡されており、駆動モーター(図示せず)による駆動ローラー11の回転に伴い中間転写ベルト8が時計回りに回転を開始すると、用紙Pがレジストローラー対12bから所定のタイミングで駆動ローラー11とこれに隣接して設けられた二次転写ローラー9とのニップ部(二次転写ニップ部)へ搬送され、中間転写ベルト8上のフルカラー画像が用紙P上に転写される。トナー像が転写された用紙Pは定着装置13へと搬送される。
【0023】
定着装置13に搬送された用紙Pは、定着ベルト21及び加圧ローラー23(図2参照)により加熱及び加圧されてトナー像が用紙Pの表面に定着され、所定のフルカラー画像が形成される。フルカラー画像が形成された用紙Pは、複数方向に分岐した分岐部14によって搬送方向が振り分けられる。用紙Pの片面のみに画像を形成する場合は、そのまま排出ローラー対15によって排出トレイ17に排出される。
【0024】
一方、用紙Pの両面に画像を形成する場合は、定着装置13を通過した用紙Pは一旦排出ローラー対15方向に搬送され、用紙Pの後端が分岐部14を通過した後に排出ローラー対15を逆回転させるとともに分岐部14の搬送方向を切り換えることで、用紙Pの後端から反転搬送路18に振り分けられ、画像面を反転させた状態で二次転写ニップ部に再搬送される。そして、中間転写ベルト8上に形成された次の画像が二次転写ローラー9により用紙Pの画像が形成されていない面に転写され、定着装置13に搬送されてトナー像が定着された後、排出トレイ17に排出される。
【0025】
図2は、本発明の一実施形態に係る定着装置13の側面断面図である。図2に示すように、定着装置13は、図2において反時計回り方向に回動する無端状の定着ベルト21と、定着ベルト21に内接する保持部材22と、定着ベルト21を介して保持部材22に圧接され、図2において時計回り方向に回転する加圧ローラー23と、定着ベルト21の内部に配置されるハロゲンヒーター25と、を含む構成である。
【0026】
定着ベルト21は、保持部材22及び保持部材22の反対側において定着ベルト21に内接する断面視アーチ形状の支持部材(図示せず)に巻き掛けられ、所定の張力が与えられる。なお、支持部材に代えて、定着ハウジング(図示せず)の内面から突出して定着ベルト21の幅方向両端部に内接する円弧状のフランジ部を配置しても良い。
【0027】
また、定着ベルト21の表面に接するようにサーミスター(図示せず)が設けられている。このサーミスターにより定着ベルト21の温度を検知し、ハロゲンヒーター25をON/OFFすることによって定着温度の制御を行う。ここでは定着ベルト21の表面温度を140℃に設定している。
【0028】
また、定着ベルト21の幅方向(図2の紙面と垂直な方向)の寸法は、定着ニップ部Nを通過する最大の用紙幅よりも広く設定されている。これにより、定着ベルト21は用紙サイズに係わらず用紙全面を覆うことができるため、保持部材22及び加圧ローラー23への未定着トナーの付着を防止できる。
【0029】
保持部材22は、定着ベルト21を介して加圧ローラー23と当接することで、用紙を挿通させる定着ニップ部Nを形成する。ここでは定着ニップ幅を12mmとしている。保持部材22の材質としては、液晶ポリマー等の耐熱性樹脂等が用いられる。また、定着ベルト21との接触面(摺動面)の摺動負荷を低減するために、PTFEシート等のフッ素樹脂系のコート層が形成されている。なお、コート層の内側にシリコーンゴム等の弾性層を配置しても良い。
【0030】
加圧ローラー23は、例えば芯金23aの外側に弾性層23bが設けられている。芯金23aの両端部には加圧ローラー23の圧力を調整する圧調整機構(図示せず)が配置されており、片側200N、計400Nの定着荷重が加えられている。本実施形態では、直径20mmの鉄製の芯金23aの外側に、弾性層23bを構成する厚さ5mmの発泡シリコーンゴム層が設けられた外径30mmの加圧ローラー23を用いている。加圧ローラー23は図示しない駆動モーターにより、時計回り方向に周速300mm/secで回転駆動される。なお、加圧ローラー23の表面は離型性を高めるために厚さ50μmのPFAチューブで被覆されている。
【0031】
用紙搬送方向(図2の下から上方向)に対し定着ニップ部Nの下流側には、定着ベルト21から用紙を分離する分離板35と、分離板35を支持する分離板ホルダー37とが配置されている。
【0032】
図3は、本実施形態の定着装置13に用いられる定着ベルト21の積層構造を示す部分断面図であり、図4は、定着ベルト21を摺動層47側から見た部分平面図である。なお、図3の上側面が加圧ローラー23に接触するベルト外面、図3の下側面が保持部材22に接触するベルト内面であり、図4は定着ベルト21を図3の下方向から見た状態を示している。
【0033】
定着ベルト21は、外面側から順に、離型層40、弾性層41、発熱層(基材層)43、熱吸収層45、摺動層47の5層が積層された構成である。
【0034】
離型層40は、定着ベルト21への溶融トナーの付着を抑制するための層である。離型層40としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等のフッ素系樹脂が用いられ、塗料の塗布やチューブを被せることによって形成されている。PFAチューブであれば10〜50μm、フッ素樹脂塗料であれば10〜30μm程度の厚さが適当である。ここでは厚さ30μmのPFAチューブを用いている。
【0035】
弾性層41は、定着ニップ部Nを通過する用紙上の未定着トナー像を包み込んでソフトに定着することにより、画像の高画質化を図るための層である。弾性層41としては、厚さ100〜1000μm程度のシリコーンゴム層が適当である。ここでは厚さ200μmのシリコーンゴム層を設けている。
【0036】
発熱層43は、定着ベルト21の基材として機能するとともに、ハロゲンヒーター25の熱によって発熱する。発熱層43としては、ニッケル、ステンレス等の金属をメッキ、又は圧延処理した厚さ30〜50μmの金属層が用いられる。
【0037】
熱吸収層45は、ハロゲンヒーター25からの輻射熱を吸収して発熱層43に伝達し、且つ発熱層43で発生した熱を逃がさないようにして定着ベルト21の表面の温度を均一に保持するための層である。熱吸収層45を設けることで、発熱層43の加熱効率が高くなるため、ウォームアップ時間の短縮及び消費電力の低減の効果を有する。
【0038】
熱吸収層45としては、シリカやアルミナ、酸化マグネシウム等の金属酸化物の粉末をフィラーとして配合して熱伝導率を高めたシリコーンゴムや、アルミ、銅、ニッケル等の熱伝導率の高い金属で構成され、これらをチューブ状に成型したものを被覆する、或いはメッキするなどして設けられている。熱吸収層45は、シリコーンゴムのように弾性がある材料であれば良いが、金属で構成した場合、肉厚を厚くし過ぎるとベルトの硬度が上がり、トナーを溶融するのに必要なニップ量が得られなくなってしまう。したがって、熱吸収層45の厚さは、5〜500μm、望ましくは10〜100μmとする。
【0039】
摺動層47は、定着ベルト21の内面と保持部材22との摺動性を高めることにより定着ベルト21を円滑に回動させるとともに、定着ベルト21内面の摩耗を抑制するための層である。摺動層47としては、摺動性および耐摩耗性に優れたポリイミド樹脂やポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素系樹脂等が用いられる。
【0040】
本実施形態の定着装置13に用いる定着ベルト21の構成としては、例えば、厚さ40μmのニッケル電鋳を発熱層43とし、発熱層43の表面に弾性層41として厚さ200μmのシリコーンゴム層を積層する。一方、発熱層43の裏面に熱吸収層45として厚さ20μmの熱吸収塗料(オキツモ社製)を塗布する。そして、弾性層41を厚さ30μmのPFAチューブ製の離型層40で被覆し、熱吸収層45の上に厚さ15μmのポリアミドイミド製の摺動層47を形成した内径40mmの無端状ベルトが挙げられる。
【0041】
図4に示すように、定着ベルト21の内面側から見ると、摺動層47は表面から熱吸収層45に達する多数の孔部47aが定着ベルト21の幅方向(図4の左右方向)及び周方向(図4の上下方向)にマトリクス状に配列された平面視網目形状であり、孔部47aから熱吸収層45が露出している。この構成により、定着ベルト21の内部に配置されたハロゲンヒーター25の輻射熱が、定着ベルト21の摺動層47の孔部47aを通過して熱吸収層45に直接吸収される。その結果、熱伝導率の低い摺動層47によって妨げられることなく、熱吸収層45が効率良く輻射熱を吸収することができ、発熱層43も効率良く加熱される。そして、熱伝導率が高い金属製の発熱層43から熱が拡散し、弾性層41および定着ベルト21の外表面を構成する離型層40が均一に加熱される。
【0042】
これにより、摺動層47によって定着ベルト21の内面と保持部材22との摺動性を長期間に亘って維持するとともに、ハロゲンヒーター25の輻射熱による発熱層43の加熱効率(熱吸収層45の熱吸収効率)も維持することができる。従って、定着装置13のウォームアップ時間の短縮及び消費電力の低減の効果をより一層高めることができ、定着ベルト21の耐用年数も長くなる。
【0043】
孔部47aの大きさ及び形状については特に制限はないが、定着ベルト21の内面の総面積に対する孔部47aの面積の割合が小さくなるにつれて熱吸収層45の熱吸収効率が低下する。熱吸収層45の熱吸収効率を考慮すると、定着ベルト21の内面の総面積に対する孔部47aの面積の割合を50%以上とすることが好ましい。
【0044】
一方、孔部47aの面積の割合が大きくなるにつれて摺動層47の網目部分(額縁部)が細くなるため、摺動層47の強度が低下する。また、個々の孔部47aが大きくなると孔部47aの周縁部47bが保持部材22に引っ掛かり易くなる。従って、摺動層47の強度と熱吸収層45の熱吸収効率とを両立させるためには、摺動層47の孔部47aの一辺を0.3〜2mm、網目部分(額縁部)の幅を0.1〜1mmとすることが好ましい。
【0045】
摺動層47に孔部47aを形成する方法としては、溶融状態のポリイミド樹脂やポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素系樹脂を型枠に流し込んで成型するか、或いはシート状に成形した後に打ち抜き加工を施すことにより、網目状のシートを作製する。作製された網目状のシートを定着ベルト21の内面に積層することにより、孔部47aを有する摺動層47が積層される。
【0046】
図5及び図6は、定着ベルト21の摺動層47の網目形状の他のパターンを示す部分平面図である。図5は、定着ベルト21の周方向(図5の上下方向)に隣接する孔部47aの列を一列おきに半ピッチ分ずつ幅方向(図5の左右方向)にずらした千鳥状のパターンとなっている。図5のようなパターンとすることで、定着ベルト21の周方向に見たとき、摺動層47が直線状に並ぶことがなく、熱吸収層45が露出する孔部47aが必ず存在することとなる。その結果、図4のパターンに比べて定着ベルト21の熱分布をより均一化させることができる。
【0047】
なお、ここでは定着ベルト21の周方向に隣接する孔部47aの列を半ピッチ分ずつ幅方向にずらした千鳥状のパターンとしたが、定着ベルト21の幅方向に隣接する孔部47aの列を半ピッチ分ずつ周方向にずらした千鳥状のパターンとしても良い。また、孔部47aの列をずらすピッチも半ピッチ分に限らず、任意に設定可能である。
【0048】
図6は、摺動層47の孔部47aの形状を円形にしたパターンである。孔部47aを円形にすることで、保持部材22と摺動層47との摺動面における孔部47aの周縁部47b(図3参照)の引っ掛かりが少なくなる。その結果、摺動層47の摺動性能が向上し、定着ベルト21をより円滑に回動させることができる。
【0049】
図7は、定着ベルト21の摺動層47の網目形状のさらに他のパターンを示す部分断面図である。図7に示すパターンでは、摺動層47に形成される孔部47aの周縁部47bを面取り形状としている。これにより、図6のパターンと同様に保持部材22と摺動層47との摺動面における周縁部47bの引っ掛かりが少なくなる。また、周縁部47bは面取り形状に代えて曲面形状(R形状)としてもよい。
【0050】
その他本発明は、上記各実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上記各実施形態で示した定着ベルト21、加圧ローラー23等の構成は好ましい一例であり、本発明の目的を達成可能な他の構成を採用することもできる。
【0051】
例えば、熱吸収層45は必須の構成要素ではなく、発熱層43の内面に網目形状の摺動層47を直接積層する構成であっても良い。また、ハロゲンヒーター25に代えて、電磁誘導によって発熱層43を加熱する誘導加熱部等の他の加熱手段を設けても良い。
【0052】
また、本発明の定着装置は図1に示したタンデム式のカラープリンターに限らず、デジタル複合機やカラー複写機、アナログ方式のモノクロ複写機、或いはモノクロプリンターやファクシミリ等の、摺動ベルト定着方式を用いた種々の画像形成装置に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、定着ベルトの内側に保持部材を配置し、定着ベルトの外側から保持部材に加圧ローラーを圧接するとともに、加圧ローラーと定着ベルトの外面との摩擦力により保持部材と定着ベルトの内面とを摺動させて定着ベルトを回転駆動させる摺動ベルト定着方式の定着装置に利用可能である。本発明の利用により、定着ベルト内部に配置される加熱部材の輻射熱による加熱性能と、定着ベルトと保持部材との摺動性能とを両立できる定着装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0054】
13 定着装置
21 定着ベルト
22 保持部材
23 加圧ローラー
25 ハロゲンヒーター(加熱手段)
40 離型層
41 弾性層
43 発熱層
45 熱吸収層
47 摺動層
47a 孔部
47b 周縁部
100 カラープリンター(画像形成装置)
N 定着ニップ部
P 用紙(記録媒体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7