【実施例】
【0075】
実施例1:キマーゼに特異的に結合するRNAアプタマーの作製(1)
キマーゼに特異的に結合するRNAアプタマーはSELEX法を用いて作製した。SELEXはEllingtonらの方法(Ellington and Szostak,Nature 346,818−822,1990)及びTuerkらの方法(Tuerk and Gold,Science 249,505−510,1990)を参考にして行った。標的物質としてNHS−activated Sepharose 4 Fast Flow(GEヘルスケア社製)の担体に固相化したキマーゼ(Human Skin、Calbiochem社製)を用いた。担体へのキマーゼの固相化方法はGEヘルスケア社の仕様書に沿って行った。固相化量は、固相化前のキマーゼ溶液と固相化直後の上清をSDS−PAGEにより調べることで確認した。SDS−PAGEの結果、上清からはキマーゼのバンドは検出されず、使用したキマーゼのほぼ全てがカップリングされたことが確認された。約167pmolのキマーゼが約3μLの樹脂に固相化されたことになる。
【0076】
最初のラウンドで用いたRNA(40N)は、化学合成によって得られたDNAをDuraScribe
TMT7 Transcription Kit(Epicentre社製)を用いて転写して得た。この方法によって得られたRNAはピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフルオロ化されたものである。DNA鋳型としては、以下に示す40ヌクレオチドのランダム配列の両端にプライマー配列を持った長さ70ヌクレオチドのDNAを用いた。DNA鋳型とプライマーは化学合成によって作製した。
【0077】
DNA鋳型:5’−GCGGCCGCTCTTCTATGNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNGAATTCCTACCGT−3’(配列番号1)
プライマーFwd:5’−TAATACGACTCACTATAGGGACGGTAGGAATTC−3’(配列番号2)
プライマーRev:5’−GCGGCCGCTCTTCTATG−3’(配列番号3)
【0078】
DNA鋳型(配列番号1)中のNの連続は任意の組み合わせの40個のヌクレオチド(40N:それぞれのNは、A、G、C又はTである)であり、得られるアプタマー独特の配列領域を生じる。プライマーFwdはT7 RNAポリメラーゼのプロモーター配列を含んでいる。最初のラウンドで用いたRNAプールのバリエーションは理論上10
14であった。
【0079】
キマーゼが固相化された担体にRNAプールを加え、30分室温で保持した後、キマーゼに結合しないRNAを取り除くために、溶液Aで樹脂を洗浄した。ここで溶液Aは145mM 塩化ナトリウム、5.4mM 塩化カリウム、1.8mM 塩化カルシウム、0.8mM 塩化マグネシウム、20mM トリス(pH7.6)の混合溶液である。キマーゼに結合したRNAは、溶出液として溶液Bを加えて95℃で10分間熱処理を行い、その上清から回収した。ここで溶液Bは7M Urea、3mM EDTA、100mM Tris−HCl(pH6.6)の混合液である。回収されたRNAはRT−PCRで増幅し、DuraScribe
TMT7 Transcription Kitで転写して次のラウンドのプールとして用いた。以上を1ラウンドとし、同様の作業を複数回繰り返し行った。SELEX終了後、PCR産物をpGEM−T Easyベクター(Promega社製)にクローニングし、大腸菌株DH5α(Toyobo社製)をトランスフォーメーションした。シングルコロニーからプラスミドを抽出後、DNAシーケンサー(3130xl Genetic Analyzer、ABI社製)でクローンの塩基配列を調べた。
【0080】
SELEXを8ラウンド行った後に44クローンの配列を調べたところ、配列に収束が見られた。それらクローンの一部の配列を配列番号4〜20に示す。そのうち、配列番号4で表される配列は6配列存在した。配列番号5は2配列存在した。配列番号6〜20で表される配列は1配列であった。配列番号6と8は配列中の一塩基のみが異なる。配列番号4、13、及び14の配列には配列番号21で表される共通配列が含まれていた。配列番号21で表される共通配列は44クローン中9クローンに含まれていた。これらの配列の二次構造をMFOLDプログラム(M.Zuker,Nucleic Acids Res.31(13),3406−3415,2003)を用いて予測したところ、共通配列の部分がよく似たループ構造となった。配列番号4、5、12〜14、18で表される配列のアプタマーの二次構造予測を
図1に示す。配列番号21で表される共通配列を丸(○)で囲った。
【0081】
以下にそれぞれのヌクレオチド配列を示す。特に言及がなければ、以下に挙げられる個々の配列は、5’から3’の方向で表すものとし、プリン塩基(A及びG)は2’−OH体であり、ピリミジン塩基(U及びC)は2’−フルオロ修飾体である。また、配列中のN(N
1、N
2)はA、G、C、Uのうちの任意のヌクレオチドを示し、X(X
1、X
2)は共にA、もしくは共にGを示す。
【0082】
配列番号4:
GGGACGGUAGGAAUUCGUCCAUUCUACAGAUAGAGAUAAAGUAGAAUUUAACAAAACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号5:
GGGACGGUAGGAAUUCCCACUUGUCUUUGAGGCAAGAAAUUGUAUUCCGAAGAAGCAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号6:
GGGACGGUAGGAAUUCUACGGUCUGUGUGAAAUUGAAACACACAAAGAACAAUAGACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号7:
GGGACGGUAGGAAUUCACCUUUCCAAUUGUGAAAGAAACACAAAAAGAAAUGACAUCAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号8:
GGGACGGUAGGAAUUCUACGGUCUGUGUGAAAUUGAAACACACAAAGAACAAUAAACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号9:
GGGACGGUAGGAAUUCCCGAAAAGCAACAAGCUUGCUAAAAUGAUUCCGAAAAAACACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号10:
GGGACGGUAGGAAUUCCGCCGCCUAAAAAACGACGAUAUUACAGAAACGUCAAAUACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号11:
GGGACGGUAGGAAUUCCCGACACGAAAUGUGUGAUUAAUUCCGAACAACAAAGUAACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号12:
GGGACGGUAGGAAUUCGCCGUCAACGUUACAUAAUGUAUAUACCAGGGUAACUAAACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号13:
GGGACGGUAGGAAUUCCGCAACCAUCCCGUAACUAUGGUUAGAUAGAGUUAAAAACCAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号14:
GGGACGGUAGGAAUUCUCGUUCCUGACAGCAUUUGAGAUAGAUUUAAACAAACGCACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号15:
GGGACGGUAGGAAUUCCCAGAAAAUAAAUUCCGAAGAAAACAACAAUUUUUGCAAACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号16:
GGGACGGUAGGAAUUCCCAUGACUGAAAAACGUCAGUAAAAUCCGAAAAUCAUAUCAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号17:
GGGACGGUAGGAAUUCCGUUCGCAGAAACGAACUUUUAAAAAAUGUACGUGGGAGCACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号18:
GGGACGGUAGGAAUUCGAACGACAAAUUAUAGAACUUCGUUUGACAUUCCACACCACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号19:
GGGACGGUAGGAAUUCCCACUGCAAUUCAGCAGAAAAAAUUCCGAAAAACACACACCAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号20:
GGGACGGUAGGAAUUCAAAAUCAGCUGAUUUGUAAUUUUUUUACACAGGCAAAACACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号21:
X
1GAUAGAN
1N
2UAAX
2【0083】
8ラウンドまで行った上記SELEXを同様の条件で継続し、11ラウンド目に93クローンの配列を調べた。それらクローンの一部の配列を配列番号22〜27に示す。8ラウンド後の配列と同配列であったものとして、配列番号4で表される配列が22配列、配列番号14で表される配列が4配列存在した。これは配列番号21で表される共通配列が濃縮されたことを意味する。また、配列番号5で表される配列が1配列存在した。その他に、配列番号22で表される配列が3配列、配列番号23及び24で表される配列は2配列存在した。配列番号25〜27で表される配列は1配列であった。配列番号22と11は配列中の一塩基のみが異なる。配列番号26と4は配列中の一塩基のみが異なる。配列番号21で表される共通配列は93クローン中35クローンに含まれていた。11ラウンドで新しく出現した配列中では、配列番号25、及び26の配列に配列番号21で表される共通配列が含まれていた。配列番号22〜27で表される配列のアプタマーの二次構造予測を
図2に示す。配列番号21で表される共通配列の部分を丸(○)で囲った。それらは
図1同様、全て特徴的なループ構造となった。
【0084】
以下にそれぞれのヌクレオチド配列を示す。特に言及がなければ、以下に挙げられる個々の配列は、5’から3’の方向で表すものとし、プリン塩基(A及びG)は2’−OH体であり、ピリミジン塩基(U及びC)は2’−フルオロ修飾体である。
【0085】
配列番号22:
GGGACGGUAGGAAUUCCCGACACAAAAUGUGUGAUUAAUUCCGAACAACAAAGUAACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号23:
GGGACGGUAGGAAUUCAUAUGUACUCCGUCCUGACAAAAUGUCAAUGACAAACGUUCAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号24:
GGGACGGUAGGAAUUCCCUUCAUAGUAGAAUGUUGGUUUCUACAAAAGCGACAAGCAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号25:
GGGACGGUAGGAAUUCAGCUGACUCCAAUGCACACGUAGAUAGAGUUAAAACGUUGCAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号26:
GGGACGGUAGGAAUUCGUCGAUUCUACAGAUAGAGAUAAAGUAGAAUUUAACAAAACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号27:
GGGACGGUAGGAAUUCCGUCAUCGGUUGCAAAUUGAAAAUACAAAACAAGGACAACCAUAGAAGAGCGGCCGC
【0086】
上記8ラウンドのSELEXの後、標的物質としてHeparin Sepharose 6 Fast Flow(GEヘルスケア社製)の担体に固相化したキマーゼ(Human Skin、Calbiochem社製)を用いて、さらにSELEXを継続した。キマーゼ溶液を担体に加え、室温で30分保持することで、キマーゼを担体に固相化した。固相化量は、固相化前のキマーゼ溶液と固相化直後の上清をSDS−PAGEにより調べることで確認した。SDS−PAGEの結果、上清からはキマーゼのバンドは検出されず、使用したキマーゼのほぼ全てが固相化されたことが確認された。約100pmolのキマーゼが約3μLの樹脂に固相化されたことになる。
【0087】
11ラウンド目のプールをクローニングし、79クローンの配列を決定した。それらクローンの一部の配列を配列番号28〜34に示す。上記8ラウンド後の配列と同配列であったものとして、配列番号4で表される配列が9配列、配列番号19で表される配列が1配列存在し、上記11ラウンド後の配列と同配列であったものとして、配列番号27で表される配列が2配列存在した。その他に、配列番号28で表される配列が4配列、配列番号29で表される配列が2配列存在した。配列番号30〜34で表される配列は1配列であった。配列番号30と31は配列中の一塩基のみが異なる。配列番号32は配列番号31が一塩基欠失した配列である。配列番号21で表される共通配列は79クローン中14クローンに含まれていた。11ラウンドで新しく出現した配列中では、配列番号30〜32、及び34の配列に配列番号21で表される共通配列が含まれていた。配列番号28〜34で表される配列のアプタマーの二次構造予測を
図3に示す。配列番号21で表される共通配列の部分を丸(○)で囲った。配列番号21で表される共通配列の部分は、配列番号34で表されるクローン以外、全て
図1同様の特徴的なループ構造となった。
【0088】
以下に配列番号28〜34で表されるそれぞれのヌクレオチド配列を示す。特に言及がなければ、以下に挙げられる個々の配列は、5’から3’の方向で表すものとし、プリン塩基(A及びG)は2’−OH体であり、ピリミジン塩基(U及びC)は2’−フルオロ修飾体である。
配列番号28:
GGGACGGUAGGAAUUCAAUUUCUUUCUAUUCUCACCUGAGUAUAUCAGGCACAGUACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号29:
GGGACGGUAGGAAUUCACGACCGCCCAAAAAAUGGUGACAUUUUAGAAACACCGAACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号30:
GGGACGGUAGGAAUUCGUCCCUCUUGUCUAUUUUGCAGAUAGACUUAAAGCAAACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号31:
GGGACGGUAGGAAUUCGUCCCUCAUGUCUAUUUUGCAGAUAGACUUAAAGCAAACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号32:
GGGACGGUAGGAAUUCGUCCUCAUGUCUAUUUUGCAGAUAGACUUAAAGCAAACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号33:
GGGACGGUAGGAAUUCCUGUCUUUUCCCACGCAACAAAUUACAGAGCUUUGCAAAACAUAGAAGAGCGGCCGC
配列番号34:
GGGACGGUAGGAAUUCUGCCGCAACCCAAUGAAAACGAAGAUAGAGAUAAAUCGAACAUAGAAGAGCGGCCGC
【0089】
配列番号4〜20と22〜34で表される核酸のキマーゼに対する結合活性を表面プラズモン共鳴法により評価した。測定にはGEヘルスケア社製のBiacore T100を用いた。センサーチップにはストレプトアビジンが固定化されているSAチップを用いた。これに、5’末端にビオチンが結合している16ヌクレオチドのPoly dTを1500RU程度結合させた。リガンドとなる核酸は、3’末端に16ヌクレオチドのPoly Aを付加し、TとAのアニーリングによりSAチップに固定化した。流速20μL/minで核酸を20μLインジェクトし、約1000RUの核酸を固定化した。アナライト用のキマーゼは0.2μMに調製し、20μLインジェクトした。ランニングバッファーには溶液Aを用いた。
【0090】
測定の結果、測定した全ての配列がキマーゼと結合することがわかった(表1)。しかし、ネガティブコントロールとして用いた40ヌクレオチドのランダム配列を含む1ラウンド目に使用した核酸プール(40N)もキマーゼと弱い結合活性を示すことがわかった。そこで、表1では40Nよりも結合活性が高いアプタマーを++、40Nと同等のものを+で示した。また、配列番号12及び13で表されるアプタマーがキマーゼと結合する様子を示すセンサーグラムを
図4に示す。
配列番号21で表される共通配列の有無にかかわらず、40Nよりも結合活性が高いものと、40Nと同等なものが存在した。この共通配列を含む配列番号4、13、14、25、26、30は40Nよりも結合活性が高かったが、同様の共通配列を含む配列番号31、32、34は40Nと同等であった。配列番号21の配列中に含まれるN
1N
2はGA、GU、UU、CUでよいことがわかった。配列番号21の配列中に含まれるX
1とX
2は共にAでよいことがわかった。
【0091】
【表1】
【0092】
表1:キマーゼに対する結合活性。“++”はネガティブコントロールの40Nよりも有意にキマーゼに結合するもの、“+”はネガティブコントロールの40Nと同程度の結合のものを表す。ここで40Nとは40ヌクレオチドのランダム配列を含む、1ラウンド目に使用した核酸プールのことである。
【0093】
実施例2:キマーゼに特異的に結合するRNAアプタマーの作製(2)
ランダム配列が30ヌクレオチドでプライマー配列が実施例1で用いたものと異なる鋳型を用いて、実施例1と同様のSELEXを行った。SELEXの標的物質としてNHS−activated Sepharose 4 Fast Flow(GEヘルスケア社製)の担体に固相化したキマーゼ(recombinant、SIGMA社製)を用いた。使用した鋳型とプライマーの配列を以下に示す。DNA鋳型とプライマーは化学合成により作製した。
【0094】
DNA鋳型:5’−TCACACTAGCACGCATAGGNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNCATCTGACCTCTCTCCTGCTCCC−3’(配列番号35)
プライマーFwd:5’−TAATACGACTCACTATAGGGAGCAGGAGAGAGGTCAGATG−3’(配列番号36)
プライマーRev:5’−TCACACTAGCACGCATAGG−3’(配列番号37)
【0095】
DNA鋳型(配列番号35)中のNの連続は任意の組み合わせの30個のヌクレオチド(30N:それぞれのNは、A、G、C又はTである)であり、得られるアプタマー独特の配列領域を生じる。プライマーFwdはT7 RNAポリメラーゼのプロモーター配列を含んでいる。最初のラウンドで用いたRNAプールのバリエーションは理論上10
14であった。
【0096】
キマーゼが固相化された担体にRNAプールを加え、30分室温で保持した後、キマーゼに結合しないRNAを取り除くために、溶液Cで樹脂を洗浄した。ここで溶液Cは145mM 塩化ナトリウム、5.4mM 塩化カリウム、1.8mM 塩化カルシウム、0.8mM 塩化マグネシウム、20mM トリス(pH7.6)、0.05% Tween20の混合溶液である。キマーゼに結合したRNAは、溶出液として溶液Dを加えて室温で10分間攪拌することで回収した。ここで溶液Dとは、溶液Cに6Mグアニジン塩酸塩を加え、pH7.6に調製したものである。溶出操作は3回行った。回収されたRNAはRT−PCRで増幅し、DuraScribe
TMT7 Transcription Kitで転写して次のラウンドのプールとして用いた。以上を1ラウンドとし、同様の作業を複数回繰り返し行った。SELEX終了後、PCR産物をpGEM−T Easyベクター(Promega社製)にクローニングし、大腸菌株DH5α(Toyobo社製)をトランスフォーメーションした。シングルコロニーからプラスミドを抽出後、DNAシーケンサー(3130xl Genetic Analyzer、ABI社製)でクローンの塩基配列を調べた。
SELEX8ラウンド終了後に配列を調べたところ、まだ配列に収束は見られなかった。そこで、競合剤として2mg/mLのへパリンを加えて11ラウンドまで進めた。40クローンの配列を決定したところ、収束が見られ、40クローンすべての配列に配列番号21で表される共通配列が含まれていた。これらのクローンの一部の配列を配列番号38〜48に示す。配列番号38で表される配列は6配列存在し、配列番号39で表される配列は2配列存在した。配列番号40〜48は1配列存在した。
配列番号38〜40、43、48で表される配列のアプタマーの二次構造予測を
図5に示す。
図5中、配列番号21で表される共通配列は丸(○)で囲んだ。配列番号21で表される共通配列の多くは
図1で示したものと同様の特徴的なループ構造を形成した。
【0097】
以下に配列番号38〜48で表されるそれぞれのヌクレオチド配列を示す。特に言及がなければ、以下に挙げられる個々の配列は、5’から3’の方向で表すものとし、プリン塩基(A及びG)は2’−OH体であり、ピリミジン塩基(U及びC)は2’−フルオロ修飾体である。
【0098】
配列番号38:
GGGAGCAGGAGAGAGGUCAGAUGGAUAGAGUUAAGAUCUGGCUGGCGCAUUAGCCUAUGCGUGCUAGUGUGA
配列番号39:
GGGAGCAGGAGAGAGGUCAGAUGGUUACGGAUAGAGUUAAGGUAACGGUACGGCCUAUGCGUGCUAGUGUGA
配列番号40:
GGGAGCAGGAGAGAGGUCAGAUGAACGGAUAGAGCUAAGAGUUCGUCAGAGGGGCCUAUGCGUGCUAGUGUGA
配列番号41:
GGGAGCAGGAGAGAGGUCAGAUGGUGAGAUAGAGUUAAACACCACAAUAGUAGCCUAUGCGUGCUAGUGUGA
配列番号42:
GGGAGCAGGAGAGAGGUCAGAUGCGUGAUCGUGCAAGGCGGAUAGAGUUAAGGCCUAUGCGUGCUAGUGUGA
配列番号43:
GGGAGCAGGAGAGAGGUCAGAUGAUGCCAAGAUAGAUUUAAAUGGCGUUUGGGCCUAUGCGUGCUAGUGUGA
配列番号44:
GGGAGCAGGAGAGAGGUCAGAUGUUAGACCAAAGCAUAGGAGAUAGAGUUAAACCUAUGCGUGCUAGUGUGA
配列番号45:
GGGAGCAGGAGAGAGGUCAGAUGGACCACCGAUGGGCAAGAUAGAGUUAAAUGCCUAUGCGUGCUAGUGUGA
配列番号46:
GGGAGCAGGAGAGAGGUCAGAUGGGACAGAUAGAGUUAAAGUCCGUUACGUGGCCUAUGCGUGCUAGUGUGA
配列番号47:
GGGAGCAGGAGAGAGGUCAGAUGGUGAUAGAUAGAGUUAAAAUCGCUGAAUGGCCUAUGCGUGCUAGUGUGA
配列番号48:
GGGAGCAGGAGAGAGGUCAGAUGUGAAGAUAGAGAUAAAUCACAUACAGUCGGCCUAUGCGUGCUAGUGUGA
【0099】
配列番号38〜48で表される核酸のキマーゼに対する結合活性を表面プラズモン共鳴法により評価した。配列番号38〜48の評価においては、測定は実施例1で示した方法と同様の方法を用いて測定した。ランニングバッファーには溶液Cを用いた。測定の結果を表2に示す。
配列番号38〜48で表される核酸は30Nよりも有意にキマーゼに結合するアプタマーであることが示された。共通配列である配列番号21に含まれるX
1及びX
2は共にAもしくは、共にGでよいことがわかった。これら共通配列に含まれるN
1N
2はGU、GC、GA、UUでよいことがわかった。
【0100】
【表2】
【0101】
表2:キマーゼに対する結合活性。“++”はネガティブコントロールの30Nよりも有意にキマーゼに結合するものを表す。ここで30Nとは30ヌクレオチドのランダム配列を含む、1ラウンド目に使用した核酸プールのことである。
【0102】
実施例3:合成基質を用いたキマーゼ阻害活性の測定
配列番号4〜20、22〜34、38〜48で表される核酸がキマーゼの酵素活性を阻害するかどうかを、下記の方法により評価した。キマーゼの基質としてキモトリプシン様プロテアーゼの標準基質である4アミノ酸ペプチドAla−Ala−Pro−Pheを含むSuc−Ala−Ala−Pro−Phe−MCA(ペプチド研究所社製)を選択した。ここでSucは保護基であるスクシニル基、MCAは4−メチルクマリル−7−アミド基であり、フェニルアラニンのC末端側が切断されるとAMC(7−アミノ−4−メチルクマリン)が遊離する。このAMCの蛍光を検出することで、キマーゼの酵素活性を測定することができる。アッセイには、96ウェルプレート(F16 Black Maxisorp Fluoronunc、Nunc社製)を用い、反応液量を100μLとし、溶液Cの緩衝液中で実施した。まず、核酸は溶液C中に0.0027〜2μMの濃度に段階希釈したものを、50μLずつ用意した。そこに、溶液C中に調製した1mMの基質を10μL添加した後、プレートをマイクロプレートリーダーSpectraMax190(モレキュラーデバイス社製)にセットし、37℃で5分間保温した。一方で、0.05μg(もしくは0.005μg)のキマーゼ(recombinant、SIGMA社製)を溶液C中に希釈したものを40μL用意し、37℃で5分間保温した。核酸及び基質からなる混合液に、キマーゼ溶液を加えて、酵素反応を開始させた。反応溶液中の最終キマーゼ濃度は16.7nM(もしくは1.67nM)、最終基質濃度は100μMである。反応液を含むプレートを、マイクロプレートリーダーSpectraMax190(モレキュラーデバイス社製)にセットし、37℃で5分間(もしくは30分間)、蛍光強度の変化を経時的に測定した(励起波長 380nm、検出波長 460nm)。キマーゼ活性により、基質から放出されるAMCの蛍光増加の線形近似を求め、その傾きの値を初速度(V
max)とした。コントロールとして、30Nもしくは40N(30個もしくは40個の連続したヌクレオチド;Nは、A、G、C又はTである)の核酸プールを用いた場合(ネガティブコントロール)、及び既知のキモトリプシン様セリンプロテアーゼ阻害剤であるキモスタチンを用いた場合(ポジティブコントロール)において、同様に処理し測定を行った。核酸、阻害剤を含まない場合の反応初速度(V
0)を酵素活性100%とし、各被験物質の阻害率を次式を用いて算出した。
阻害率(%)=(1−V
max/V
0)×100
酵素活性を50%阻害するのに要する阻害剤の濃度(IC
50)を求めた。その結果を表3に示す。
【0103】
【表3】
【0104】
表3:キマーゼに対する阻害活性(IC
50)。“>0.5”は0.5μMまで濃度範囲で阻害活性が見られなかったことを示す。IC
50値は2〜3回測定の平均値を示す。
【0105】
ネガティブコントロールである30Nもしくは40Nは阻害活性を示さなかった(IC
50>0.5μM)。また、ポジティブコントロールであるキモスタチンのIC
50値は0.1μM〜0.2μMの値を示した。
以上の結果より、表3に記載されたアプタマーの多くはキマーゼに対する阻害活性を示した。特に0.1μM以下のIC
50値を示したアプタマーは優れた阻害効果を示したと言える。配列番号21で表される共通配列を含むアプタマーは全て阻害活性示した。またこの結果から、これら共通配列に含まれるX
1、X
2は共にAもしくは、共にGでよく、N
1N
2はGA、GU、GC、UU又はCUのどれでもよいことが示された。
【0106】
実施例4:アプタマーの短鎖化
配列番号4、12、13、14で表されるアプタマーの短鎖化を行った。配列番号4、13、14で表されるアプタマーは配列番号21で表される共通配列を含む。配列番号12はこの共通配列を含まないアプタマーである。短鎖化した配列を配列番号49〜57に示す。配列番号49、51、55〜57で表されるアプタマーの二次構造予測を
図6に示す。
図6中、配列番号21で表される共通配列を丸(○)で囲った。
【0107】
以下に配列番号49〜57で表されるそれぞれのヌクレオチド配列を示す。特に言及がなければ、以下に挙げられる個々の配列は、5’から3’の方向で表すものとし、プリン塩基(A及びG)は2’−OH体であり、ピリミジン塩基(U及びC)は2’−フルオロ修飾体である。
【0108】
配列番号49:
(配列番号4で表されるクローンを共通配列を含む29ヌクレオチドの長さに短鎖化した配列)
GGUUCUACAGAUAGAGAUAAAGUAGAACC
配列番号50:
(配列番号4で表されるクローンを共通配列を含む35ヌクレオチドの長さに短鎖化した配列)
GGCAUUCUACAGAUAGAGAUAAAGUAGAAUUUAAC
配列番号51:
(配列番号12で表されるクローンを45ヌクレオチドの長さに短鎖化した配列)
CGUUACAUAAUGUAUAUACCAGGGUAACUAAACAUAGAAGAGCGG
配列番号52:
(配列番号12で表されるクローンを26ヌクレオチドの長さに短鎖化した配列)
CCGUAUAUACCAGGGUAACUAAACGG
配列番号53:
(配列番号13で表されるクローンを共通配列を含む42ヌクレオチドの長さに短鎖化した配列)
GGGUAACUAUGGUUAGAUAGAGUUAAAAACCAUAGAAGACCC
配列番号54:
(配列番号13で表されるクローンを共通配列を含む36ヌクレオチドの長さに短鎖化した配列)
UAACUAUGGUUAGAUAGAGUUAAAAACCAUAGAAGA
配列番号55:
(配列番号13で表されるクローンを共通配列を含む29ヌクレオチドの長さに短鎖化した配列)
CUAUGGUUAGAUAGAGUUAAAAACCAUAG
配列番号56:
(配列番号13で表されるクローンを共通配列を含む23ヌクレオチドの長さに短鎖化した配列)
GGGUUAGAUAGAGUUAAAAACCC
配列番号57:
(配列番号14で表されるクローンを共通配列を含む27ヌクレオチドの長さに短鎖化した配列)
GCAUUUGAGAUAGAUUUAAACAAACGC
【0109】
配列番号49〜57の核酸は全て化学合成により作製した。
これらの核酸がキマーゼと結合するかどうかを、表面プラズモン共鳴法により評価した。測定には、GEヘルスケア社製のBiacore T100を用い、以下に示す方法で測定を行った。CM5チップのセンサーチップ表面に、アミンカップリングキットを使用し、約4000RUのキマーゼ(recombinant、SIGMA社製)を固定化した。流速20μL/minで、アナライトとして0.3μMに調製した核酸を20μLインジェクトした。ランニングバッファーには溶液Cを用いた。測定の結果を表4に示す。評価方法は実施例1と同様である。
その結果、配列番号52以外の核酸がコントロールの40Nよりも有意にキマーゼに結合するアプタマーであることが示された(表4)。配列番号13、55、56で表されるアプタマーがキマーゼと結合する様子を示すセンサーグラムを
図7に示す。
【0110】
また、キマーゼ阻害活性の測定は、実施例3と同様の方法で行った。それぞれのIC
50値を表4に示す。
配列番号52以外の核酸に強い阻害活性が認められた(表4)。配列番号51と52の結果より、共通配列を含まない配列番号12で表されるアプタマーは45ヌクレオチドに短鎖化したものでは活性を維持しているが、26ヌクレオチドに短鎖化したものでは活性が消失することがわかった。
一方で、配列番号56の結果より、共通配列を含む配列番号13で表されるアプタマーはより短い23ヌクレオチドの長さまで短鎖化できた。これは、配列番号21で表される共通配列がキマーゼに対する結合及び阻害活性に重要であることを示している。
また、配列番号49と57も阻害活性を示したことより、共通配列に含まれるN
1N
2はGUに限らないこと、
図6の配列番号56のステム構造に含まれる配列はステム構造を維持する限り特に限定されないことが示された。
これらのアプタマーはキマーゼ阻害剤として使用可能であると考えられる。
【0111】
【表4】
【0112】
表4:キマーゼに対する結合活性と阻害活性(IC
50)。“++”はネガティブコントロールの40Nよりも有意にキマーゼに結合するもの、“+”はネガティブコントロールの40Nと同程度の結合のものを表す。ここで40Nとは40ヌクレオチドのランダム配列を含む、実施例1で使用した1ラウンド目の核酸プールである。“>1”は1μMまでの濃度範囲で阻害活性が見られなかったことを示す。IC
50値は2〜3回測定の平均値を示す。
【0113】
ネガティブコントロールである40Nは1μMまでの濃度範囲で阻害活性を示さなかった(IC
50>1μM)。また、ポジティブコントロールであるキモスタチンのIC
50値は0.1μM〜0.2μMの値を示した。
以上の結果より、表4に含まれる配列番号52以外の核酸はキマーゼに対する阻害活性を示した。特に0.1μM以下のIC
50値を示した核酸は優れた阻害効果を示したと言える。
【0114】
実施例5:短鎖化したアプタマーの塩基の置換、欠損の効果
配列番号56で表されるアプタマーに変異、欠損を導入し、結合活性及び阻害活性に対する影響を調べた。配列を配列番号58〜68に示す。
【0115】
以下に配列番号58〜68で示される各アプタマーのヌクレオチド配列を示す。特に言及がなければ、以下に挙げられる個々の配列は、5’から3’の方向で表すものとし、ヌクレオチドにおける括弧はそのリボースの2’位の修飾を示し(例えば、U(F)と表記する場合、ウラシルのリボースの2’位がFで修飾されることを示す)、Fはフッ素原子を示す。
【0116】
配列番号58:
(配列番号56で表されるクローンの共通配列に含まれる13個の核酸塩基をランダムに配置した配列)
GGGU(F)U(F)GAAGAU(F)AU(F)U(F)AAAGAAC(F)C(F)C(F)
配列番号59:
(配列番号56で表されるクローンの共通配列に含まれるN
2を置換した配列)
GGGU(F)U(F)AGAU(F)AGAGAU(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
配列番号60:
(配列番号56で表されるクローンの共通配列に含まれるN
2を置換した配列)
GGGU(F)U(F)AGAU(F)AGAGC(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
配列番号61:
(配列番号56で表されるクローンの共通配列に含まれるN
1を置換した配列)
GGGU(F)U(F)AGAU(F)AGAU(F)U(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
配列番号62:
(配列番号56で表されるクローンの共通配列に含まれるX
1及びX
2を置換した配列)
GGGU(F)U(F)GGAU(F)AGAGU(F)U(F)AAGAAC(F)C(F)C(F)
配列番号63:
(配列番号56で表されるクローンの共通配列以外に含まれる塩基配列を置換した配列)
GC(F)U(F)AC(F)AGAU(F)AGAGU(F)U(F)AAAGU(F)AGC(F)
配列番号64:
(配列番号56で表されるクローンの共通配列以外に含まれる塩基配列を置換した配列)
GU(F)C(F)AC(F)AGAU(F)AGAGU(F)U(F)AAAGU(F)GAC(F)
配列番号65:
(配列番号56で表されるクローンの共通配列以外に含まれる塩基配列を一部置換させ、一部欠損させた配列)
GGC(F)AGAU(F)AGAGU(F)U(F)AAAGC(F)C(F)
配列番号66:
(配列番号56で表されるクローンの共通配列に含まれるプリン塩基をピリミジン塩基に置換した配列)
GGGU(F)U(F)AGAU(F)CGAGU(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
配列番号67:
(配列番号56で表されるクローンの共通配列に含まれるプリン塩基をピリミジン塩基に置換した配列)
GGGU(F)U(F)AGAU(F)ACAGU(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
配列番号68:
(配列番号56で表されるクローンの共通配列に含まれるプリン塩基をピリミジン塩基に置換した配列)
GGGU(F)U(F)AGAU(F)AGUGU(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
【0117】
配列番号58〜68の核酸は全て化学合成により作製した。これらの核酸がキマーゼと結合するかどうかについて、実施例4と同様にして、表面プラズモン共鳴法により評価した。キマーゼに対する阻害活性の測定は、実施例3と同様に行った。測定結果を表5に示す。
その結果、表5に含まれる核酸のうち配列番号59〜65の核酸が強い結合力と阻害活性を保持していることがわかった。
【0118】
配列番号58は、結合活性、阻害活性共に、実施例1や2で用いた40N/30Nと同程度まで低下したことから、配列番号21で表される共通配列がキマーゼに対する結合及び阻害活性に重要であることが示された。またこの結果より、これ以降の実施例(実施例5〜9)においては、短鎖化したアプタマーのネガティブコントロールとして配列番号58を用いることにした。
配列番号59〜61の結果より、共通配列に含まれるN
1及びN
2は任意のヌクレオチドであってよいが、好ましくはGU、GA、GC、UUであることが示された。配列番号62の結果より、X
1及びX
2は任意のヌクレオチドであってよいが、好ましくはAまたはGであり、より好ましくは共にAもしくは共にGであることが示された。
配列番号63〜65の結果より、共通配列以外に含まれるステム構造の塩基対配列は(例:
図6の配列番号56)、ステム構造を保つ限り任意のヌクレオチドであってよく、長さは3塩基対以上が好ましいことが示された。
配列番号66〜68の結果より、共通配列に変異を導入すると活性が低下することから、共通配列の重要性が改めて示された。
【0119】
【表5】
【0120】
表5:キマーゼに対する結合活性と阻害活性(IC
50)。結合活性において、“++”はネガティブコントロールである配列番号58よりも有意にキマーゼに結合するもの、“+”はネガティブコントロールである配列番号58と同程度の結合のものを表す。阻害活性において、“>1”は1μMまでの濃度範囲で阻害活性が見られなかったことを示す。IC
50値は2回測定の平均値を示す。
【0121】
配列番号58は1μMまでの濃度範囲で阻害活性を示さなかった(IC
50>1μM)。また、ポジティブコントロールであるキモスタチンのIC
50値は0.1μM〜0.2μMの値を示した。以上の結果より、表5に記載のあるアプタマーのうち、配列番号59〜65で表されるアプタマーはキマーゼに対する強い阻害活性(IC
50<0.1μM)を有していることがわかる。
【0122】
実施例6:短鎖化したアプタマーの改変1
配列番号56で表されるアプタマーのヌクレアーゼ耐性を高めるために、末端修飾した改変体、配列中のプリン塩基のリボースの2’位にO−メチル基あるいはF修飾を導入した改変体、その他に、ホスホロチオエートを導入した改変体を作製した。配列を配列番号56(1)〜56(14)、56(17)〜56(19)に示す。また、配列番号56で表されるアプタマーの共通配列に含まれるピリミジンヌクレオチドの修飾(2’−F;リボース2位のF修飾)を天然型(2’−OH)に置換した改変体を作製し、修飾の必要性について評価した。それらの配列を配列番号56(15)、56(16)に示す。
【0123】
以下にそれぞれのヌクレオチド配列を示す。特に言及がなければ、以下に挙げられる個々の配列は、5’から3’の方向で表すものとし、ヌクレオチドにおける括弧はそのリボースの2’位の修飾を示し、Fはフッ素原子、MはO−メチル基を示す。また、各配列末端におけるidTはinverted−dTによる修飾を示し、PEGは40kDaの分岐型ポリエチレングリコールによる修飾を示す。配列中におけるsはヌクレオチド同士を結合するリン酸基がホスホロチオエート化されたことを示す。
【0124】
配列番号56(1):
(配列番号56で表されるクローンの両末端にidT修飾を導入した配列)
idT−GGGU(F)U(F)AGAU(F)AGAGU(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(2):
(配列番号56で表されるクローンの共通配列以外の配列のうち三か所に修飾を導入した配列)
G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AGAU(F)AGAGU(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
配列番号56(3):
(配列番号56で表されるクローンの共通配列以外の配列のうち二か所に修飾を導入した配列)
GGGU(F)U(F)AGAU(F)AGAGU(F)U(F)AAAA(M)A(M)C(F)C(F)C(F)
配列番号56(4):
(配列番号56で表されるクローンの共通配列のうち一か所に修飾を導入した配列)
GGGU(F)U(F)AGAU(F)A(M)GAGU(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
配列番号56(5):
(配列番号56で表されるクローンの共通配列のうち二か所に修飾を導入した配列)
GGGU(F)U(F)AGAU(F)AGAGU(F)U(F)A(M)A(M)AAAC(F)C(F)C(F)
配列番号56(6):
(配列番号56で表されるクローンの共通配列のうち一か所に修飾を導入した配列)
GGGU(F)U(F)AG(M)AU(F)AGAGU(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
配列番号56(7):
(配列番号56で表されるクローンの共通配列のうち一か所に修飾を導入した配列)
GGGU(F)U(F)AGA(M)U(F)AGAGU(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
配列番号56(8):
(配列番号56で表されるクローンの共通配列のうち一か所に修飾を導入した配列)
GGGU(F)U(F)AGAU(F)AG(M)AGU(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
配列番号56(9):
(配列番号56で表されるクローンの共通配列のうち一か所に修飾を導入した配列)
GGGU(F)U(F)AGAU(F)AGA(M)GU(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
配列番号56(10):
(配列番号56で表されるクローンの共通配列のうち一か所に修飾を導入した配列)
GGGU(F)U(F)A(M)GAU(F)AGAGU(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
配列番号56(11):
(配列番号56で表されるクローンの共通配列のうち一か所に修飾を導入した配列)
GGGU(F)U(F)AGAU(F)AGAGU(F)U(F)AAA(M)AAC(F)C(F)C(F)
配列番号56(12):
(配列番号56で表されるクローンの共通配列のうち一か所に修飾を導入した配列)
GGGU(F)U(F)AGAU(F)AGAG(M)U(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
配列番号56(13):
(配列番号56で表されるクローンの共通配列のうち一か所に修飾を導入した配列)
GGGU(F)U(F)AGAU(F)AG(F)AGU(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
配列番号56(14):
(配列番号56で表されるクローンの共通配列のうち一か所に修飾を導入した配列)
GGGU(F)U(F)AGAU(F)AGA(F)GU(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
配列番号56(15):
(配列番号56で表されるクローンの9番目のヌクレオチドU(F)をUに置換した配列)
GGGU(F)U(F)AGAUAGAGU(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
配列番号56(16):
(配列番号56で表されるクローンの15番目のヌクレオチドU(F)をUに置換した配列)
GGGU(F)U(F)AGAU(F)AGAGU(F)UAAAAAC(F)C(F)C(F)
配列番号56(17):
(配列番号56で表されるクローンの末端にPEGとidT修飾を導入した配列)
PEG−GGGU(F)U(F)AGAU(F)AGAGU(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(18):
(配列番号56で表されるクローンの共通配列のうち一か所のリン酸基をホスホロチオエート化した配列)
GGGU(F)U(F)sAGAU(F)AGAGU(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
配列番号56(19):
(配列番号56で表されるクローンの共通配列のうち一か所のリン酸基をホスホロチオエート化した配列)
GGGU(F)U(F)AsGAU(F)AGAGU(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)
【0125】
配列番号56(1)〜56(19)の核酸は全て化学合成により作製した。これらの核酸がキマーゼと結合するかどうかを、実施例4と同様にして、表面プラズモン共鳴法により評価した。結果を表6に示す。
その結果、配列番号56(8)、56(10)、56(13)、56(14)以外の核酸は、ネガティブコントロールである配列番号58よりも有意にキマーゼに対する結合活性を示した。
【0126】
キマーゼに対する阻害活性の測定は、実施例3と同様の方法で行った。IC
50値を表6に示した。配列番号56(8)、56(10)、56(13)、56(14)以外の核酸は、阻害活性の強弱はあるものの、これらのアプタマーに阻害活性があることがわかった。IC
50値を比較すると、配列番号56(1)〜56(7)、56(11)、56(12)の阻害活性は配列番号56とほぼ同程度に保持されていた。一方で配列番号56(9)、56(15)、56(16)、56(17)の阻害活性は配列番号56と比べて減弱し、配列番号56(8)、56(10)、56(13)、56(14)の阻害活性は消失することが示された。さらに、配列番号56(18)、56(19)の阻害活性は配列番号56よりも向上することが示された。
配列番号56(1)、56(17)の結果より、末端修飾による活性の影響は少ないことがわかった。配列番号56(2)、56(3)の結果より、ステム配列の修飾による活性の影響はないことが示された。共通配列に含まれるヌクレオチドに関しては、56(4)〜56(7)、56(11)、56(12)のように修飾しても阻害活性を保持できた場合と、配列番号56(8)、56(9)、56(10)、56(13)、56(14)のように、修飾により阻害活性が低下(あるいは消失)した場合があった。
【0127】
以上より、配列番号56で表されるアプタマーは安定性を向上させるため、少なくとも一つのヌクレオチドに修飾を導入したものであってもよいことがわかった。ヌクレオチドの修飾としては、2’−O−メチル修飾以外にも、例えば2’−アミノ修飾などが挙げられる。
一方で配列番号56(15)、56(16)の結果より、配列番号56で表されるクローンの共通配列に含まれるヌクレオチド修飾体(U(F))のうちいずれか(9番目もしくは15番目)を天然型のリボヌクレオチド(U)にすると阻害活性が低下することがわかった。一般に、修飾体が含まれることでアプタマーのヌクレアーゼ耐性は向上する。したがって、共通配列に含まれるピリミジンヌクレオチド(配列番号56で表されるクローンの9番目と15番目のU)の少なくともどちらか一方は修飾体であることが好ましい。
また、配列番号56(8)、56(9)、56(10)、56(13)、56(14)の結果より、配列番号56で表されるクローンの共通配列に含まれる天然のプリン塩基のうち、6番目のA、11番目のG、12番目のAは修飾を導入すると阻害活性が低下するため、少なくともひとつは天然のリボヌクレオチドであることが好ましい。
その他に、配列番号56(18)、56(19)の結果より、糖残基の修飾以外にリン酸基の修飾として、少なくとも一か所にホスホロチオエートを導入すると阻害活性が向上することが分かった。
【0128】
【表6】
【0129】
表6:キマーゼに対する結合活性と阻害活性(IC
50)。結合活性において、“++”はネガティブコントロールの配列番号58よりも有意にキマーゼに結合するものを示し、“+”はネガティブコントロールの配列番号58と同程度に結合するものを示す。“n.d.”は未測定を表す。“>1”は1μMまでの濃度範囲で阻害活性が見られなかったことを示す。IC
50値は2回測定の平均値を示す。
【0130】
ネガティブコントロールである配列番号58は1μMまでの濃度範囲で阻害活性を示さなかった(IC
50>1μM)。また、ポジティブコントロールであるキモスタチンのIC
50値は0.1μM〜0.2μMの値を示した。
【0131】
以上の結果より、表6に含まれる核酸のうち、特に0.1μM以下のIC
50値を示したものは、キマーゼに対する強い阻害活性を有し、キマーゼ阻害剤として使用可能であることが示された。
【0132】
実施例7:短鎖化したアプタマーの改変2
実施例6の結果を踏まえて、配列番号56で表されるアプタマーのさらなる改変を行った。2’−O−メチル基の導入、様々な末端修飾、ホスホロチオエートの導入、リボヌクレオチドのDNAへの置換等について検討した改変体、またそれらの組み合わせによる改変体を作製した。配列を配列番号56(20)〜56(47)、61(1)、69、69(1)、69(2)、70〜74、74(1)、75〜77、77(1)、77(2)、78〜82に示す。
【0133】
以下にそれぞれのヌクレオチド配列を示す。特に言及がなければ、以下に挙げられる個々の配列は、5’から3’の方向で表すものとし、大文字はRNAを示し、小文字はDNAを示す。ヌクレオチドにおける括弧はそのリボースの2’位の修飾を示し、Fはフッ素原子、MはO−メチル基を示す。また、各配列末端におけるidTはinverted−dTによる修飾を示し、PEGは40kDaの分岐型ポリエチレングリコールによる修飾を示し、Choはコレステロールによる修飾を示し、Bはビオチンによる修飾を示す。Peptide1はPhe−CysがC末端側で、Peptide2はCys−PheがN末端側で、それぞれジスルフィド結合を介して核酸の5’末端に結合していることを示す。配列中におけるsはヌクレオチド同士を結合するリン酸基がホスホロチオエート化されたことを示す。
【0134】
配列番号56(20):
G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)A(M)U(F)A(M)GAGU(F)U(F)A(M)A(M)AA(M)A(M)C(F)C(F)C(F)
配列番号56(21):
G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)
配列番号56(22):
G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)sAG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)
配列番号56(23):
G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AsG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)
配列番号56(24):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AGAU(F)AGAGU(F)U(F)AAAA(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(25):
idT−GGGU(F)U(F)AG(M)A(M)U(F)A(M)GAGU(F)U(F)AAAAAC(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(26):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(27):
PEG−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(28):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AsG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(29):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)sAsG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(30):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AGA(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(31):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)AU(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(32):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AGAU(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(33):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AsGA(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(34):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AsG(M)AU(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(35):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AsGAU(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(36):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AGsAU(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(37):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AsGsAU(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(38):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)sAsGAU(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(39):
PEG−GG(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(40):
idT−GG(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(41):
idT−GG(M)G(M)U(F)U(F)AsG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(42):
Cho−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(43):
Peptide1−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(44):
Peptide2−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(45):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−PEG
配列番号56(46):
B−idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(47):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT−B
配列番号56(48):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)ccc−idT
配列番号56(49):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)aG(M)AU(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(50):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)aU(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(51):
B−idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)aU(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号56(52):
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AgaU(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号61(1):
G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)A(M)U(F)A(M)GAU(F)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)
配列番号69:
PEG−A(M)A(M)A(M)G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号69(1):
idT−A(M)A(M)A(M)G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AsG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号69(2):
idT−A(M)A(M)A(M)G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号70:
idT−G(M)G(M)G(M)ttAG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)U(F)U(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号71:
idT−G(M)G(M)G(M)U(F)U(F)AG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)tU(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)C(F)C(F)C(F)−idT
配列番号72:
idT−G(M)G(M)G(M)ttAG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)tU(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)ccc−idT
配列番号72(1):
idT−G(M)G(M)G(M)ttAG(M)aU(F)A(M)GAG(M)tU(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)ccc−idT
配列番号72(2):
idT−G(M)G(M)G(M)ttAsG(M)aU(F)A(M)GAG(M)tU(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)ccc−idT
配列番号72(3):
idT−G(M)G(M)G(M)ttAG(M)A(M)U(F)A(M)GAgtU(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)ccc−idT
配列番号72(4):
idT−G(M)G(M)G(M)ttAG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)tU(F)aA(M)A(M)A(M)A(M)ccc−idT
配列番号72(5):
idT−G(M)G(M)G(M)ttAG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)tU(F)A(M)aA(M)A(M)A(M)ccc−idT
配列番号72(6):
idT−G(M)G(M)G(M)ttAG(M)A(M)U(F)A(M)GAG(M)tU(F)A(M)A(M)aA(M)A(M)ccc−idT
配列番号72(7):
idT−G(M)G(M)G(M)ttAG(M)aU(F)A(M)GAG(M)tU(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)ccc−PEG
配列番号72(8):
B−idT−G(M)G(M)G(M)ttAG(M)aU(F)A(M)GAG(M)tU(F)A(M)A(M)A(M)A(M)A(M)ccc−idT
【0135】
配列番号56(20)〜56(52)、61(1)、69、69(1)、69(2)、70〜72、72(1)〜72(8)の核酸は全て化学合成により作製した。これらの核酸がキマーゼと結合するかどうかについて、実施例4と同様にして、表面プラズモン共鳴法により評価した。結果を表7に示す。
その結果、すべての核酸(一部、未測定である核酸は除く)はネガティブコントロールよりも有意にキマーゼに結合した。
キマーゼに対する阻害活性の測定は、実施例3と同様に行った。IC
50値を表7に示す。その結果、表7に含まれる核酸のすべてに強い阻害活性が認められた。
配列番号56(27)および56(45)の結果より、例えばPEGのような末端修飾は5’末端、3’末端のいずれであってもよいことが示された。
また配列番号56(43)、56(44)、56(46)、および56(47)の結果より、末端修飾としては、実施例6で示したidTやPEG以外にペプチド、アミノ酸、あるいはビオチンなどの化合物であってもよいことがわかった。
さらに配列番号56(26)と69(2)、56(27)と69、そして56(28)と69(1)の結果より、idTやPEGのような末端修飾はポリヌクレオチド鎖を介して結合させても阻害活性に影響がないことがわかった。このようなスペーサーとしては、任意のポリヌクレオチド鎖以外に、例えばアルキル型スペーサーを用いてもよい。
また一部のF体をDNA体にすることで阻害活性が向上することが分かった。
【0136】
【表7】
【0137】
表7:キマーゼに対する結合活性と阻害活性(IC
50)。結合活性において、“++”はネガティブコントロールの配列番号58よりも有意にキマーゼに結合するものを示す。“n.d.”は未測定を表す。IC
50値は2回測定の平均値を示す。
【0138】
ネガティブコントロールである配列番号58は1μMまでの濃度範囲で阻害活性を示さなかった(IC
50>1μM)。また、ポジティブコントロールであるキモスタチンのIC
50値は0.1μM〜0.2μMの値を示した。
【0139】
以上の結果より、表7に含まれるすべての核酸はキマーゼに対する強い阻害活性を有し、キマーゼ阻害剤として使用可能であることが示された。
【0140】
以上、実施例1から7の結果をまとめると、キマーゼ阻害剤として有効なアプタマーは、特に以下の条件の一つ以上を満足するようなアプタマーであるといえる。
(1)配列番号21で表される共通配列(X
1GAUAGAN
1N
2UAAX
2)を含む。
(2)共通配列に含まれるピリミジンヌクレオチドは、天然型ヌクレオチドであってよいが、好ましくは一部のピリミジンヌクレオチドが修飾ヌクレオチドまたはDNAである。
(3)N
1N
2は任意のヌクレオチドであってよいが、好ましくはGU、GA、GC、UU、CU又はGTである。
(4)X
1及びX
2は任意のヌクレオチドであってよいが、好ましくは同一または異なって、AまたはGであり、より好ましくは共にA、もしくは共にGである。
(5)ステム構造の塩基対配列(例:
図6の配列番号56)は、ステム構造を保つ限り任意のヌクレオチドであってよいが、好ましくは長さが3塩基対以上である。
(6)一部のヌクレオチド(配列番号56において、6番目のA、11番目のG、12番目のA)を除き、各ヌクレオチドは部分的に修飾されているか、または部分的にDNAに置換されている。
(7)末端修飾が導入されている。
(8)ヌクレオチド間のリン酸基の一部が、ホスホロチオエート化されている。
【0141】
実施例8:アンジオテンシンIを基質として用いたキマーゼ阻害活性の測定
本発明の核酸の阻害活性についてさらに評価するため、キマーゼの天然基質であるアンジオテンシンIを用いて、下記の方法によりキマーゼの酵素活性を測定した。アンジオテンシンIはキマーゼによりアンジオテンシンIIに変換され、その際にペプチド断片であるHis−Leuが遊離する。このペプチドHis−Leuはo−フタルアルデヒドにより蛍光誘導体化されるため、その蛍光強度を定量的に測定することが可能である。
アッセイにおける酵素反応の溶液量は50μLとし、溶液Cの緩衝液中で実施した。まず、0.3〜0.75ngのキマーゼ(recombinant、(SIGMA社製)もしくはnative(Calbiochem社製))を溶液C中に希釈したものを5μL用意した。ここでrecombinantとは酵母を用いて発現させたキマーゼであり、nativeとはヒト皮膚肥満細胞から精製したキマーゼである。核酸は溶液C中に0.0027〜2μMの濃度で段階希釈したものを、25μLずつ用意した。キマーゼ溶液5μLと核酸溶液25μLを混和し、37℃で5分間保温した。一方で、溶液C中に調製した125mMアンジオテンシンI(ペプチド研究所社製)を20μL用意し、37℃で5分間保温した。キマーゼ及び核酸からなる混合液に、アンジオテンシンI溶液を加えて、酵素反応を開始させた。反応溶液中の最終キマーゼ濃度は0.2〜0.5nM、最終基質濃度は50μMである。37℃で90分間反応させた後、氷冷した30%トリクロロ酢酸溶液を25μL添加し、反応を停止させた。混合液全体を4℃、14000rpmで10分間遠心し、その上清30μLを次の蛍光誘導化反応に用いた。
上記の上清30μLを96ウェルプレート(ブラック、Costar社製)に加え、各ウェルに対し、メタノールに溶解した2% o−フタルアルデヒド(SIGMA社製)溶液15μLと、0.3M NaOH溶液170μLを混和し、室温に10分間放置した。その後、3M HCl溶液を25μL添加し、反応を停止させた。プレートをマイクロプレートリーダーSpectraMax190(モレキュラーデバイス社製)にセットし、励起波長355nm、蛍光波長460nmの条件で蛍光強度を測定した。
【0142】
なお、コントロールとして、配列番号58を用いた場合(ネガティブコントロール)、及び既知のキモトリプシン様セリンプロテアーゼ阻害剤であるキモスタチンを用いた場合(ポジティブコントロール)で同様に処理し測定を行った。各条件において、反応時間0分における蛍光強度をブランクとした。キマーゼ酵素反応において、核酸を添加するかわりに溶液Cを同量添加した場合に検出される蛍光強度を100%とし、各被験物質の阻害率を次式を用いて算出した。
阻害率(%)=[1−{(被験物質の蛍光強度−被験物質のブランクの蛍光強度)/(被験物質を含まない場合の蛍光強度−被験物質を含まない場合のブランクの蛍光強度)}]×100
【0143】
酵素活性を50%阻害するのに要する阻害剤の濃度(IC
50)を求めた。その結果を表8に示す。
【0144】
【表8】
【0145】
表8:アンジオテンシンIを基質として用いた場合のキマーゼに対する阻害活性(IC
50)。IC
50は一回測定の値を示す。
【0146】
ネガティブコントロールとして用いた配列番号58は阻害活性を示さなかった(IC
50>1μM)。また、ポジティブコントロールであるキモスタチンのIC
50値は0.35〜0.5μM(Native)、0.45〜0.6μM(Recombinant)の値を示した。PEG結合アプタマーの活性はPEGが結合していないアプタマーと比べて相対的に低い。これはPEG(分子量約40,000)がアプタマー(分子量約10,000)よりも大きいために起こることで、一般的によく見られる現象である。PEGを結合することでin vivoでの薬物体内動態が大きく改善されるので、in vitroで薬効が多少低下してもin vivoで効果を示すことが期待できる。
【0147】
以上の結果より、表8に含まれるすべての核酸は、天然の基質であるアンジオテンシンIを用いた場合でもキマーゼに対する強い阻害活性を有するため、アンジオテンシンが関与する各種疾患の予防および/または治療薬として期待される。
【0148】
実施例9:正常ヒト肺線維芽細胞(Normal Human Lung Fibroblast:NHLF)を用いたLTBP−1分解阻害活性の測定
キマーゼは線維症を引き起こす重要な因子の一つであるTGF−βの活性化に深く関係している。TGF−β活性化の過程において、キマーゼはLTBP−1を分解することにより、細胞外マトリックス中に潜在型として存在するlatent TGF−βを遊離させ、さらに、latent TGF−βを活性型TGF−βへ変換させる反応にも関与することが示唆されている。本発明に係わる核酸が、キマーゼによるLTBP−1分解に対する阻害活性を有するかどうかを下記に示す方法で評価した。
凍結保存されたNHLF細胞(Cambrex Bio Science社製)を37℃のwater bathにて急速融解後、培地(10%FBS/F−12)に懸濁した。遠心分離(1200rpm、5分)後、上清を除去し,細胞を培地に再懸濁した。培地で全量を10mLとして、細胞培養用シャーレに移して37℃、5%CO
2存在下で培養した。顕微鏡にて細胞の形態及び増殖状態を観察し、コンフルエントの状態になったところで無血清培地(0.2%BSA/F−12)に交換した。培地交換から2日後に培養上清を採取し、分注して−30℃で凍結保存した。
用時解凍したNHLF培養上清40μLをチューブに分注し、溶液Cで50μMに希釈した核酸溶液を5μLずつ添加した。ポジティブコントロールとしてはキモスタチンを溶液Cで希釈したものを用い、同様に添加した。ネガティブコントロールとしては溶液Cのみを用い、同様に添加した。次に、溶液E(溶液C+0.1%BSA、0.05%アジ化ナトリウム)で100ng/mLに希釈したキマーゼを5μL添加した。反応溶液中の最終キマーゼ濃度は10ng/mL(0.33nM)、最終核酸濃度は5μMであった。コントロールとして、キマーゼを添加しないチューブを作製した。ピペッティングの後37℃で1時間インキュベーションし、等量の電気泳動用Lysis bufferと混合して反応を終了した。次に示すウェスタンブロッティングにより、サンプル中のLTBP−1を検出した。
Lysis bufferと混合したサンプルを3分間煮沸し、5〜20%アクリルアミドゲルに10μLのサンプルをアプライして電気泳動した。泳動終了後、ニトロセルロースフィルターにトランスファーした後、フィルターを5%スキムミルク、50mM Tris−HCl(pH8.0)、0.05%アジ化ナトリウムでブロッキングした。フィルターを2%BSA、PBS、0.05%アジ化ナトリウムで2μg/mLに希釈した抗LTBP−1モノクローナル抗体と室温で一晩反応させた。フィルターを3回洗浄し、2次抗体溶液(HRP標識抗マウスIgG抗体を0.1%BSA/PBSに10000倍希釈)と室温で2時間インキュベーションした。フィルターを5回洗浄し、化学発光基質で検出を行った。
各被験物質の阻害活性の有無はLTBP−1のバンドの濃さおよび位置(分子量)で判定した。分析は3回に分けておこなった。キマーゼ不添加のウェルのバンドを陽性対照(+)、ネガティブコントロールのウェルのバンドを陰性(−)とし、各被験物質のウェルのバンドから阻害活性の有無を目視で判定した。ウェスタンブロッティングによる分析結果を
図8に、阻害活性の判定結果を表9に示す。
【0149】
【表9】
【0150】
表9:LTBP−1分解に対する阻害活性の有無。“+”はコントロールにおけるLTBP−1のバンドと同程度の濃さのバンドが検出されたもの、“−”はネガティブコントロールのようにLTBP−1のバンドが明確に検出されなかったものを表す。
【0151】
配列番号58は阻害活性を示さなかった(−)。また、ポジティブコントロールであるキモスタチンは阻害活性を示した(+)。表9に含まれる配列番号58以外のアプタマーすべてに、LTBP−1分解に対する阻害活性が認められた。
以上の結果より、本発明に係わるアプタマーはキマーゼによるLTBP−1分解を阻害することが分かった。従って、例えば線維症のようにTGF−βの活性化が関与する各種疾患の予防および/または治療に使用可能であることが示された。