(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図を用いて詳細に説明する。
本実施形態では、大型の円環形状の加熱対象物を加熱及び冷却して焼入れするための旋回型焼入装置の例を用いて説明する。
【0017】
[ワーク]
まず本発明の加熱対象であるワークについて説明する。
加熱対象のワークは、鋼材のような焼入可能な材料からなり、表面側のみが加熱されるものであっても、内部まで加熱されるものであってもよく、ワークの表面の一部には加熱される面からなる被加熱領域が、一方向に略一定形状で延びて設定されている。特に被加熱領域の両側縁間の距離である幅に比べ、被加熱領域Hの全長が長いワーク形状のものに適用するのが好適である。ここで一方向とは、有端のワークの場合、両端間に延びる直線、波線、曲線等に沿う方向であり、環形状のワークの場合、環形状に沿う方向である。
【0018】
ワークの形状は任意であるが、被加熱領域が誘導加熱されたときに、被加熱領域の幅方向における一方の縁側と他方の縁側とで熱膨張による変形量が異なる形状のワークに適している。例えば被加熱領域と直交する断面形状において、被加熱領域の一方の縁側と他方の縁側とで大きく形状が異なるような場合には、被加熱領域の両縁側で誘導加熱されたときの熱膨張による変形量が異なる。
【0019】
本実施形態のワークWは、
図1に示すように、円環形状を有し、断面形状が基部W1と基部W1から内側に突出する突出部W2とを備える。突出部W2は内側に向けて逆方向に傾斜する傾斜面W3を有しており、この傾斜面W3に無端状の被加熱領域Hが設定されている。このワークWは直径が1m以上、ここでは3m以上の円環形状を有した大型の旋回輪や大型の軸受などを構成する外輪の例である。
【0020】
[熱処理装置]
次に、本実施形態の熱処理装置について説明する。
【0021】
熱処理装置10は、
図2乃至
図4に示すように、ワークWを支持する治具100と、ワークWを搬入及び搬出する搬入搬出セクション300と、治具100を吊り下げて搬送する搬送機構200と、治具100に載置されたワークWを回転させつつ加熱する加熱セクション400と、加熱セクション400の下方に設けられた冷却セクション500と、搬入搬出セクション300とは反対側に設けられた部品交換セクション600と、各セクションを駆動するための電気設備と、を備える。
【0022】
治具100は、
図4に示すように、ワークWを載置するワーク支持部110と、ワーク支持部110の中央に設けられた中央構造部130とを備える。ワーク支持部110は、放射方向に延びる複数の放射架台111の先端側に放射方向に沿って配置された相対移動手段としての回転ローラ112を備える。回転ローラ112は中央構造部130へ入力される駆動力で回転駆動可能である。ワークWは各回転ローラ112を回転させることで環形状に沿って移動可能である。
【0023】
搬入搬出セクション300は、
図2及び
図3に示すように、搬入搬出位置P1でワークWを治具100のワーク支持部110に載置し、吊り下げ位置P2へ移動させて治具100を吊り下げ位置P2に精度よく配置できる構造となっている。
【0024】
搬送機構200は、
図2及び
図3に示すように、各セクションの上方に配設された搬送レール210と、搬送レール210に沿って移動する搬送ローダ部220とを有する。搬送ローダ220は、
図4に示すように治具100の中央構造部130に連結可能で、連結した状態で治具100を吊り下げて搬送する構造を有する。搬送ローダ220には回転駆動手段246が設けられており、搬送ローダ220が治具100の中央構造部130に連結することで、回転駆動手段246により治具100の各回転ローラ112が回転駆動可能となる。
【0025】
加熱セクション400は、
図2及び
図3に示すように、治具100を所定位置に配置した状態で、治具100に載置されたワークWを回転させつつ均一に加熱するように本発明を適用した構造となっている。詳細は後述する。
【0026】
冷却セクション500は、
図3に示すように、加熱セクション400の下方に設けられ、治具100を下降して配置した状態で、ワークWを回転させつつ冷却ジャケット520か冷却液を供給して冷却する構造を有する。
【0027】
部品交換セクション600は、
図2及び
図3に示すように、部品交換治具620に加熱セクション400や冷却セクション500の部品を支持させて搬送し、各セクションの部品を交換できる構造を有している。
【0028】
電気設備は、全セクションに給電可能に構成されており、全セクションの各動作部位を制御及び操作するための操作部710が設けられている。操作部710は
図5に示すようなタッチパネルが設けられ、各セクションのための情報を入力したり、動作を監視することが可能となっている。操作部710のメインメニューには、
図5に示すように、各セクションのモニタ、機種選択、加熱条件設定、測定データ、パラメータを入力したり表示したりする画面が選択できるようになっている。
【0029】
この操作部710には、
図6に示すように作業者が容易に持ち運びできる携帯端末器701を備える。この携帯端末器701は操作部710と同じ操作ができるように、各セクションのモニタ、機種選択、加熱条件設定、測定データ、パラメータを入力したり表示したりする画面が選択できるようになっている。この携帯端末器701は熱処理装置10の周囲の複数位置に設けられた接続部にケーブル702を介して有線で接続することで使用することができる。
ここでは熱処理装置10の複数の位置に接続部が設けられているため、作業者が熱処理装置10の様々な場所で操作部710の操作パネルまで移動せずに、各種の入力や操作を行うことができる。またケーブル702により有線で接続するため、高周波を用いて熱処理を行う装置であっても、通信障害を防止して正常に操作することができる。
【0030】
[加熱セクションの全体構成]
加熱セクション400は、
図7に示すように、治具100の放射架台111を下から支持し周方向の移動を規制する治具保持機構410と、治具100に載置されたワークWを加熱する複数の加熱部450と、を備える。治具保持機構410及び加熱部450は、治具100の中心であるワークWの回転中心Cに対して周囲に複数設けられている。ここでは治具100の互いに隣接する放射架台111間にワークWの加熱位置P3が設けられており、各加熱部450は加熱位置P3に対応するように配設されている。
【0031】
[加熱部]
各加熱部450は、
図7及び
図8に示すように、ワークWの表面位置を検出する位置検出手段480と、各加熱位置P3で治具100上に載置されたワークWの被加熱領域Hに対向配置される加熱コイル451と、電気設備の一部からなり加熱部450の各部を制御すると共に加熱コイル451に高周波電力を給電するための給電設備700と、加熱コイル451を接続して支持する支持ボックス452と、支持ボックス452を変位及び変向させることでワークWに対する加熱コイル451の相対位置を変位させると共に相対角度を変向させる変位手段460と、変位手段460の動作を制御してワークWと加熱コイル451との相対位置及び相対角度を調整する姿勢制御部490と、給電設備700の一部からなり加熱コイル451に供給される高周波電力を調整するための電力調整手段491と、を備えている。
【0032】
[位置検出手段]
位置検出手段480は、加熱時にワーク表面の位置を検出するものであり、
図7に示すように、各加熱位置P3の上流側に配置されている。本実施形態では2つの加熱位置P3毎に、その上流側に配置される治具100の放射架台111と対応する位置に配置されている。
【0033】
具体的には、各位置検出手段480は、
図9に示すように、加熱冷却架台40の位置検出支柱43上に設けられた位置検出台44に装着されている。各位置検出手段480は、位置検出支柱43に第1進退機構481を介して装着された径方向位置検出具483と、第2進退機構482を介して装着された軸方向位置検出具484とを備える。径方向位置検出具483と軸方向位置検出具484とは互いに直交方向に配設されている。
【0034】
第1及び第2進退機構481,482は、エアーシリンダ等からなる進退用駆動手段485と、進退用駆動手段485のロッド486と平行な複数のガイドロッド487と、を備える。各進退機構481,482は、ロッド486及びガイドロッド487により、各位置検出具483,484の検出方向に沿う倒れが防止されている。
【0035】
径方向位置検出具483及び軸方向位置検出具484は、それぞれワークWの表面に当接して転動可能な耐熱性の接触子488と、接触子488をワークW側に付勢しつつ接触子488の進退量を検出する変化量検出部489とを備える。各変化量検出部489としては、例えばリニアセンサ付エアーシリンダを使用できる。
【0036】
加熱時に被加熱領域Hの温度が高温となるため、被加熱領域H以外の位置に接触子488を当接させて検出する。径方向位置検出具483では、接触子488をワークWの外周面の中間部位に当接させ、ワークWの回転中心Cから放射方向に沿うワークWの表面位置を検出する。軸方向位置検出具484では、接触子を治具100に載置されたワークWの上面の外側部位に当接させ、ワークWの回転中心Cの軸線に沿うワークの表面位置を検出する。
【0037】
加熱時には、各位置検出手段480では、径方向位置検出具483及び軸方向位置検出具484の接触子488をワークWに当接させる。ワークWが回転すると、表面に接した接触子488が転動しつつワークW表面の変位に応じて進退する。例えばワークWの周方向における任意の位置を基準位置とし、接触子488の進退量を測定することで、ワークWの周方向の各位置における基準位置からの変位量が検出される。ワークWが環状体であるため、ワークWが1回転することで元の位置にもどる。
このように接触子488の変位量を変化量検出部489において検出することで、ワークW表面の上下方向の変位及び水平方向の変位が検出され、測定位置を示す信号が出力される。
【0038】
[加熱コイル]
加熱コイル451は、被加熱領域Hの一方向に沿う全長のうちの一部に対向する大きさに形成され、ワークWの全周のうちの加熱位置P3に配置される部位に対向配置される。各加熱部450の加熱コイル451は互いに所定間隔を開けて、被加熱領域Hの全長において均等に配置されている。
加熱コイル451の形状は適宜選択可能であり、平面視においてワークWの加熱部位の弧形状に対応した形状であって、ワークWの縦断面形状に対応した縦断面形状となっている。ここでは複数の加熱コイル451、好ましくは全ての加熱コイル451が同じ形状を有する。
【0039】
例えば、各加熱コイル451は、ワークWの周方向の所定領域において、略一定断面のパイプ状、棒状或いは板状のコイル材料を上下に繰り返し蛇行させた形状としてもよい。具体的には、
図10(a)に示すように、全長で中空部が連続するように角パイプを接合し、両端に冷却液の入口451b及び出口451cを設け、ワークWと対向する部位が複数の屈曲部451dで屈曲したジグザク形状であってもよい。
図10(b)に示すように、ワークWに対向する部位が、断面丸形のパイプ状のコイル材料を複数の湾曲部451eで湾曲させたジグザグ形状であってもよい。
【0040】
被加熱領域Hの内側と外側とで周長が異なるような場合には、加熱コイル451としては、
図10(c)に示すようなものを使用してもよい。この加熱コイル451は、ワークWに対向する部位が角パイプからなり、角パイプをワーク内側及び外側の複数の屈曲部451fと、屈曲部451f間に設けられた屈曲部451gとで屈曲させてジグザク形状に形成したものであってもよい。この加熱コイル451では、回転中心Cから遠い部位における周方向の長さが回転中心Wから近い部位における周方向の長さに比べて長く構成されていてもよい。
【0041】
このような加熱コイル451では、被加熱領域Hをより均一に加熱するためには、加熱コイル451と被加熱領域Hとの間の間隙であるギャップが全体でなるべく均一となるのが望ましい。
そのために被加熱領域Hの形状と加熱コイル451の被加熱領域Hと対向する面の形状とが、なるべく広い範囲で一致するのがよい。また加熱コイル451の被加熱領域Hと対向する面の面積である対向面積が、被加熱領域Hの幅方向においてなるべく均一になるのがよい。さらに被加熱領域Hと直交する断面において、加熱コイル451の被加熱領域Hと対向する面と被加熱領域Hとの間の角度はなるべく小さくするのがよく、好ましくは0度となる。
加熱コイル451の被加熱領域Hと直交する方向の幅は被加熱領域Hの幅と同等にするのがよい。加熱コイル451の幅が狭い場合、複数の加熱コイル451の配置を幅方向にずらすことで被加熱領域Hの全幅により均一に加熱できる。
【0042】
この実施形態の加熱コイル451は、被加熱領域Hと対向する面が被加熱領域Hに対応した形状を有し、被加熱領域Hと直交する幅が被加熱領域Hの幅より若干狭く形成されている。
【0043】
[給電設備]
給電設備700は、
図11に示すように、複数の変成器722と複数の整合器723とインバータ724とインバータ制御部725とスイッチ群726などにより、加熱コイル451毎に設けられる。
インバータ724は、商用電源729からの商用電圧を直流電圧に変換する順変換部724Aと、順変換部724Aから出力された直流電圧を指定の周波数の電圧に変換する逆変換部724Bと、を備えている。
インバータ制御部725は、順変換部724Aを制御する順変換制御部725Aと、逆変換部724Bを制御することにより指定の周波数の電圧を逆変換部724Bから出力させる逆変換制御部725Bと、を備える。複数の逆変換制御部725Bが備えられ、ワークWの誘導加熱開始からの時間に応じてインバータ724から出力される電力の周波数を換えることができる。
スイッチ群726として、複数の整合器723の一つをインバータ24に接続するためにスイッチ726Dが設けられ、複数の整合器723の一つを複数の変成器722の一つに接続するためのスイッチ726B,726Cが設けられ、複数の変成器722の一つを加熱コイル451に接続するためのスイッチ726Aが設けられ、逆変換制御部725Bの一つを逆変換部724Bに接続するスイッチ726Eが設けられる。
ここで、複数の整合器723はそれぞれ異なる容量を備えるコンデンサにより構成されたものであり、複数の変成器722はそれぞれ一次巻線と二次巻線の巻き数及び比が異なるものである。各整合器722にはコンデンサのほかコイルを含んでいてもよい。各変成器722A,722B,722C及び各整合器723A,723B,723C内のスイッチは、各変成器、各整合器のインダクタンス、リアクタンスを調整するためのものであり、切り替え制御部727によって切り替えられる。
【0044】
操作部710は、誘導加熱開始からの時間に伴って、インバータ724から出力される電圧の周波数及び大きさとその周波数に合った整合インピーダンスとして整合器723及び変成器722の組み合わせとを回路設定条件として設定できるように構成されている。こうして、誘導加熱によりワークWの透磁率などの物性値が変化したことを見込んで誘導加熱開始から所定時間経過した際、一旦誘導加熱を停止し、その後直ちに、インバータ724から出力される電圧として別の周波数を用いてその別の周波数に合った整合インピーダンスとして整合器723及び変成器722の組み合わせに交換するように、操作部710に設定することができる。
【0045】
切り替え制御部727は、操作部710に設定されている回路設定条件に従って、誘導加熱開始からの経過時間に伴ってスイッチ群726を選択的に切り替えるものである。これにより、インバータ724から出力される電圧の値及び周波数並びに整合インピーダンスとして整合器723及び変成器722の組み合わせが設定される。
【0046】
以下、具体的に説明すると、例えば、
図5に示す操作部710の入出力画面711のメインメニューにおいて、「加熱条件設定」を選択する。すると、入出力画面711に例えば
図12に示すようなステップデータ設定画面が表示される。このステップデータ設定画面において、ステップ単位で、ステップの時間、ワーク回転速度、加熱コイル毎に接続されるインバータからの出力条件として電力、電圧を設定することができる。また、ある特定のステップにおいて、何れのインバータからも電力が供給されない状態として、インバータからの出力条件として電力、電圧がゼロに設定され、変成器722及び整合器723の組み合わせからなる整合回路の切り替えの選択をすることができる。「整合回路の切替」を選択すると、
図13のような画面が表示され、変成器722及び整合器723の種類を選択することができる。例えば
図13に示されているように、加熱コイル451の番号毎に、変成器を選択するために巻き数を選択するための「MTr電圧選択」の選択肢と、整合器を選択するための「コンデンサ容量」の選択肢と、逆変換制御部の選択肢とが、回路設定条件として表示される。
【0047】
このようにして操作部710における入出力画面711のメインメニューで、加熱条件設定を選択することにより、誘導加熱開始から時間単位で、インバータ724からの出力設定及び整合回路を選択することができる。よって、切り替え制御部727は、操作部710により誘導加熱開始の入力を受けると、操作部710に設定されている回路設定条件に従って、誘導加熱開始からの経過時間毎に、インバータ制御部725の順変換制御部725Aと選択された逆変換制御部725Bによりインバータ724が制御され、指定された周波数の電圧がインバータ724から出力され、さらに、選択された整合器723及び変成器722の組み合わせでその周波数に見合ったインピーダンスの整合がとれる。よって、ワークが誘導加熱により組織変形して透磁率等の物性値が変化しても、操作部710により設定された回路設定条件に従って、切り替え制御部727によりスイッチ群726が切り替えられる。
【0048】
図11に示す給電設備700によれば、操作部710が、加熱コイル451、つまり誘導加熱回路毎に、誘導加熱時間を複数に区分して区分毎に、インバータ724から出力される電圧の周波数の設定情報と、複数の整合器723及び複数の変成器722の選択による組み合わせで構成される整合回路の選択情報と、を回路設定条件として設定することができる。そして、切り替え制御部727が、誘導加熱回路毎に、操作部710で設定された回路設定条件に従って、区分毎に、複数の逆変換制御部725Bの何れかを選択して逆変換部724Bを制御して指定の周波数の電圧を出力すると共に、スイッチ群726により一の整合器723をインバータ724に接続し、この一の整合器723を一の変成器722に接続し、この一の変成器722を加熱コイル451に接続する。よって、誘導加熱によりワークWの組織変化に対応してインピーダンス整合を取り直し、ワークWに誘導電流を流すことができ、所望の温度まで十分給電することができる。
【0049】
また、直径が1m以上の大型の旋回輪や大型の軸受などを構成する外輪のような大きなワークWを走行させながら誘導加熱する際、全体の誘導加熱時間が長時間とならざるを得ない。すると、ワークWが昇温されて組織変化したことで、インピーダンスの整合がとれずに、インバータ724から加熱コイル451に電力が投入されなくなるという問題を解決することもできる。
【0050】
以下、具体的に説明する。
図11に示す回路とは異なり、インバータに一つの整合器と一つの変成器とが順に接続されて変成器に加熱コイルが接続されているとする。つまり、加熱の途中でインバータからの出力の周波数を変えないで比較的短時間で誘導加熱を行ったときのインバータの出力特性を模式的に示すと
図14のようになる。比較的小さいワークでは、
図14から分かるように、誘導加熱の時間の経過に伴って、インバータからの出力インピーダンスが一旦低下して極小値をとったのち、ワークの温度が約700℃〜800℃前後で出力インピーダンスが一定となる。その出力インピーダンスが上昇しなくなったときインバータの出力電圧がピークとなり、その後低下する。よって、それ以降では、インバータからの出力がワークに投入されなくなる。
【0051】
そこで、
図11に示すように、切り替え制御部727により誘導加熱の途中でインバータからの出力の周波数を変えてそれに伴って整合器723及び変成器722の組み合わせをスイッチ群726により切り替える。例えば誘導加熱前半、誘導加熱後半の2つの区分に誘導加熱時間を区分けして、誘導加熱時間単位でインバータ724と加熱コイル451との間で整合をとり、最もふさわしい周波数の値の誘導電流をワークWに流すことができる。ワークWの温度が700℃〜800℃になるとワークの組織変化が生じるため、その温度より低い時間帯で、周波数、整合条件等を切り替えるのが好ましい。以上の説明では誘導加熱時間単位で切り替えを行なっているところ、ワークWの加熱温度を非接触式センサでモニタリングして所定の温度になったら、回路設定条件を変えるようにしてもよい。
【0052】
[変位手段]
変位手段460は、ワークWと加熱コイル451との相対位置を変位させ、且つ、相対角度を変向するものである。
変位手段460は、
図8に示すように、支持ボックス452を上下に変位させる上下変位部462と、支持ボックス452をワークWの回転中心Cからの放射方向に沿って水平方向に変位させる水平変位部463と、支持ボックス452の傾斜を調整する角度変向部492と、を備える。
【0053】
上下変位部462は、加熱冷却架台40上に固定された変位架台42と、変位架台42上に配置された下架台464と、変位架台42に対して下架台464を上下動させる上下駆動機構465とを備える。
上下駆動機構465は、下架台464に固定されて上下方向に配置された変位ガイドロッド466及び縦変位ネジ軸467と、変位架台42に固定されて変位ガイドロッド466を上下動可能に支持する変位軸受468と、変位架台42に固定されたサーボモータ等からなる上下駆動モータ469と、変位架台42に設けられて上下駆動モータ469の回転により縦変位ネジ軸467を上下動させる連結体471とを備える。
【0054】
水平変位部463は、下架台464上にワークWの放射方向に対して略直交方向に配設された第1変位レール472と、第1変位レール472上を移動可能な上架台473と、上架台473を第1変位レール472に沿って移動させる第1変位駆動機構474と、上架台473上にワークWの放射方向に沿って配設された第2変位レール475とを備え、第2変位レール475上に移動可能に支持された支持ボックス452を第2変位レール475に沿って移動させる第2変位駆動機構476とを備える。
【0055】
第1及び第2変位駆動機構474,476は、それぞれサーボモータ等からなる変位駆動モータ477と、変位駆動モータ477と連結されて第1又は第2変位レール472,475に沿って配設され回転駆動される横変位ネジ軸478と、上架台473又は支持ボックス452に設けられて横変位ネジ軸478と螺合した変位突部479とを備える。ワークWの放射方向に対して略直交方向に加熱コイル451を予め位置合わせ可能であれば、第1変位駆動機構474を設けなくてもよい。
【0056】
角度変向部492は、支持ボックス452に設けられており、例えば第1又は第2変位レール472,475に支持された支持ボックス452の下部に対し、支持ボックス452の上部を前側と後側とで異なる高さに上昇又は下降させることで、支持ボックス452の傾斜を変化するようになっている。詳細な図示は省略しているが、支持ボックス452の各位置を上昇又は下降するために、上部及び下部にステップモータにより回動する雄ネジ部を設け、他方に雄ネジ部に螺合する雌ネジ部を設けている。
【0057】
角度変向部492により、支持ボックス452のワークW側とその反対側とで高さを異ならせることで、加熱コイル451を被加熱領域Hの長手方向の一方向に沿う軸周りに変向させることができる。ここで一方向に沿う軸とは、ワークWが直線的な場合、ワークWと平行な軸であり、ワークWが環形状の場合、環形状の接線に平行な軸である。
【0058】
[姿勢制御部]
変位手段460には、位置検出手段480の検出結果に基づいて変位手段460の動作を制御することで、ワークWと加熱コイル451との相対位置及び相対角度を調整する姿勢制御部490が設けられている。この姿勢制御部490は、
図8に示すように、電気設備の操作部710内に組み込まれた状態で設けられており、変位手段460の各駆動機器を制御するように構成されている。
【0059】
この姿勢制御部490では、各位置検出具483,484により測定されたワークWの測定位置を示す信号により、ワークWの変位量と回転駆動モータ255の回転速度に基づいて、各検出位置を通過したワークW表面の各部位が、直後の下流で各加熱部450を通過するタイミングとその位置とが得られる。そのため、各部位が加熱位置P3を通過する際、変位手段460によりその位置に対応するように変位させることで、加熱コイル451の位置をワークWに追従させることが可能となる。
【0060】
ところで、本実施形態のようなワークWの被加熱領域Hを、被加熱領域Hに対して所定ギャップで対向する加熱コイル451により誘電加熱すると、被加熱領域Hの一方の縁側と他方の縁側とで変形量が異なるため、ワークWが不均一に変形する。
図15に実線で示すような常温状態のワークWを回転させつつ、加熱コイル451によりワークWの内周面のc1−d1間の被加熱領域Hを、図中破線で示す内周面の下側を冷却液で冷却しつつ加熱する。すると、被加熱領域Hの昇温と共に、図中に仮想線で示すようにワークWが不均一に熱膨張し、被加熱領域Hの一方の縁側と他方の縁側とで異なる変形量となる。その結果、被加熱領域Hはc2−d2間の位置となる。なお、理解容易のために図では変形を誇張して記載している。
【0061】
このとき、径方向位置検出具483の接触子488は低温時にはワークWの外周面におけるa1を測定し、ワークWが変形することで昇温後にはa2を測定することになる。また軸方向位置検出具484の接触子488は、低温時にはワークWの側周面におけるb1を測定し、昇温後にはb2を測定することになる。そのため、位置検出手段480ではa1,b1として測定されていた測定位置が、昇温後にはa2,b2として測定される。その場合、低温時の測定位置から高温時の測定位置までの変化に対応して、加熱コイル451を変位させて加熱することになる。
【0062】
ところが、ワークWが不均一に変形しているため、実際の被加熱領域Hはc1−d1の位置からc2−d2の位置に変化している。ここでは図からも明らかな通り、a1とa2との間の変化量やb1とb2との間の変化量に比べ、c1とc2との間の変化量やd1とd2との間の変化量は大きい。
【0063】
従って、単に位置検出手段480により測定された測定位置だけに基づいて、各加熱コイル451によりワークWを加熱するとすれば、測定位置にそのまま対応させた図中の仮想線で示すような位置に加熱コイル451が配置され、高温で加熱コイル451と被加熱領域Hとの相対位置が不均一にずれた状態で加熱されることになる。しかも、加熱コイル451との距離が遠い側の被加熱領域Hの上側の縁側は、ワークWの体積が下側の縁側に比べて大きく熱容量が大きい。その結果、被加熱領域Hの下側の縁側では、所望の温度に昇温できたときに上側の縁側では所望の温度まで昇温できないなど、被加熱領域Hを均一に加熱することができなくなる。
【0064】
そこで、本実施形態の熱処理装置10では、このような被加熱領域Hの不均一な昇温を防止するために、ワークWの加熱条件及び加熱期間中の加熱状態に基づいて、加熱コイル451の位置及び傾き角度を調整することで、均一な加熱ができるようにする機能が設けられている。
ここで加熱条件とは、例えばワークWの形状、大きさ、材質、加熱コイル451の形状、対向面積、ワークWの移動速度、加熱コイル451に供給する高周波電力の電圧、電流、周波数、加熱時のワークWの冷却位置、冷却液温度などである。また加熱状態とは、被加熱領域Hの表面温度、加熱経過時間などである。
この姿勢制御部490では、予め設定された加熱条件で加熱コイル451により誘導加熱を開始してから、適宜な加熱状態で、好ましくは予め設定された設定加熱状態で、加熱コイル451の位置及び傾き角度を調整する。これにより被加熱領域Hの全体を出来るだけ均一に加熱することが可能となり、ギャップのずれなどに起因した供給電力に対する加熱効率を向上することができる。
【0065】
具体的には、次のような機能を備えている。
まず、加熱時に各位置検出手段480の検出結果、即ち、被加熱領域H以外の部分で測定された検出結果から得られた測定位置を、少なくともワーク形状に基づいて補正し、補正により得られた補正位置に対応するように変位手段460の動作を制御する機能を有する。
基準位置は、加熱コイル451と被加熱領域Hとの間のギャップが加熱コイル451全体で均一な場合、加熱コイル451の被加熱領域Hに対向する面と被加熱領域Hの表面との間の距離が所定値となる位置であるのがよい。加熱コイル451と被加熱領域Hとの間のギャップが不均一となる場合には、加熱コイル451の被加熱領域Hに対向する面の適宜な地点と被加熱領域Hの地点に対向する地点との間の距離が所定値となる位置とすることができる。
【0066】
本実施形態では、位置検出手段480において、径方向位置検出手段483と軸方向位置検出手段484とでそれぞれ検出された測定位置は基準位置からの位置ずれ量であり、補正位置はこの位置ずれ量を補正した位置ずれ補正量である。この姿勢制御部490では、位置ずれ補正量に対応するように変位手段460の動作を制御している。
【0067】
測定位置を補正するためには、補正係数を用いて測定位置のデータを補正することができ、例えば測定位置を示す信号を補正係数倍することで補正位置を求めることができる。この補正係数は少なくともワーク形状に対応した値となっており、より多くの加熱条件に対応した補正係数とすることで、被加熱領域Hに対してより的確に加熱コイル451を配置することができる。
このような補正係数は経験上で得られたものであってもよい。また加熱条件、設定加熱状態等に基づいて加熱時の設定加熱状態におけるワークWの変形を演算し、位置検出手段480の径方向位置検出手段483及び軸方向位置検出手段484において測定される部位の変形量と、演算により求められる被加熱領域Hの変位量とから補正係数を求めてもよい。さらに姿勢制御部490に予め補正係数を求めるシミュレーション処理のステップを設定しておき、このシミュレーション処理により補正係数を求めてもよい。
このような補正係数は加熱時又は加熱前に入力してもよく、姿勢制御部490に記憶してもよい。
【0068】
この補正係数は低温時と高温時とで異ならせるのがよく、設定加熱状態に達したとき、例えば被加熱領域Hの温度が700度〜800度のような所定温度範囲に到達したとき、或いは加熱開始後所定時間経過したときに、手動又は自動で変更することができる。
【0069】
次に、この実施形態の姿勢制御部490では、加熱期間中に複数の加熱コイル451の一部又は全部の位置を変位させる機能を有する。
姿勢制御部490により制御して変位手段460により各加熱コイル451を変位させることで、複数の加熱コイル451と被加熱領域Hとの対向面積を、被加熱領域の幅方向に変化するように調整する。例えば各加熱コイル451を、加熱期間開始時点ではワークWの被加熱領域Hの幅方向において略同じ位置に配置しておき、所定の加熱状態に達した時点で各加熱コイル451を被加熱領域Hの幅方向における位置を個々に、又は複数組み合わせて変位させる。全ての加熱コイル451を変位させてもよい。
【0070】
複数の加熱コイルの配置や変位量は、経験に基づいて決定してもよい。また被加熱領域Hと各加熱コイル451との間のギャップや加熱期間中のギャップの変化に対応させるように決定してもよく、加熱条件、設定加熱状態等に基づいて加熱時の設定加熱状態におけるワークWの変形を演算して演算結果に対応するように決定してもよい。被加熱領域Hの幅方向における温度分布に対応させて、低温側に加熱コイル451のより多くの面積を配置するように決定してもよい。さらに姿勢制御部490に予め複数の加熱コイル451の配置を決定するシミュレーション処理のステップを設定しておき、このシミュレーション処理により決定することも可能である。ここではシミュレーション処理により被加熱領域Hの幅方向における変形量を求めて、この変形量に対応させるように面積を調整したり、配置に関する蓄積データから選択してもよい。
【0071】
加熱コイル451を加熱期間中に変位させるには、全加熱コイル451のうちの一部の加熱コイル451を縁側にずらして配置してもよい。また予め変位させる配置を設定加熱条件に対応して記憶させ、設定加熱条件に達した段階で手動又は自動で変位させてもよい。
なお、各加熱コイル451の配置を変位させた状態では、互いに異なる加熱コイル451の一部が被加熱領域Hの幅方向における同じ位置に配置され、被加熱領域Hの幅方向における同じ位置を重畳的に加熱する配置とすることも可能である。
これにより、被加熱領域Hの幅方向における複数の加熱コイル451の配置分布を加熱コイル451の変位前と変位後とで異ならせて調整し、誘導加熱の際の発熱量を適切に調整することができる。
【0072】
次に、本実施形態の姿勢制御部490では、支持ボックス452の姿勢を変化させることで、加熱コイル451の被加熱領域Hに対する相対角度である姿勢を調整し、加熱コイル451の被加熱領域Hに対向する面が加熱期間中の被加熱領域Hに沿うように配置させる機能を有する。ここでは加熱期間中に、加熱コイル451の被加熱領域Hに対向する面と被加熱領域Hとの間の角度の差を小さく又は無くすように調整する。加熱コイル451の被加熱領域Hに対向する面と被加熱領域Hとの形状が同じ形状でない場合、姿勢を調整することで、加熱コイル451の被加熱領域Hに対向する面と被加熱領域Hとの間の角度の差をできるだけ小さくするのがよい。
【0073】
加熱コイル451の姿勢の調整量は、経験に基づいて決定してもよい。また被加熱領域Hと各加熱コイル451との間のギャップや加熱期間中のギャップの変化に対応させたり、加熱条件、設定加熱状態等に基づいて、加熱時の設定加熱状態におけるワークWの変形を演算して演算結果に対応するように決定してもよい。被加熱領域Hの幅方向における温度分布に対応させて、低温側で加熱コイル451をより近づけるように決定してもよい。
さらに姿勢制御部490に予め複数の加熱コイル451の姿勢を決定するためのシミュレーション処理のステップを設定しておき、このシミュレーション処理により決定することも可能である。ここではシミュレーション処理により被加熱領域Hの幅方向における変形量を求め、この変形量に対応させるように姿勢の調整量を決定してもよい。
【0074】
加熱コイル451を加熱期間中に変向して姿勢を調整するには、経験に基づいて加熱期間中に姿勢制御部490を操作して行ってもよい。また予め姿勢を設定加熱条件に対応して記憶させ、設定加熱条件に達した段階で手動又は自動で変向させてもよい。
【0075】
本実施形態の姿勢制御部490は、
図16に示すように、ワークWの加熱条件及び設定加熱状態を入力する設定入力部493と、ワークWの加熱条件及び設定加熱状態などに基づいて変位手段の制御量を演算する演算処理部494と、設定入力部493に入力された各種設定値や演算処理部で得られた演算結果を記憶する記憶部495と、被加熱領域Hの加熱状態が設定加熱状態に達したことを判定する加熱状態判定部496と、設定加熱状態に達したときに変位手段460を駆動する駆動制御部497と、を備えている。
ここでは加熱状態として加熱経過時間を用いるが、加熱状態として被加熱領域Hの温度を用いることも可能である。その場合、
図16に破線で示すように、被加熱領域Hの温度を非接触式の温度センサにより検出し、加熱状態判定部496により検出温度が予め設定した温度に到達したことで設定加熱状態を判定してもよい。
【0076】
記憶部495には、加熱開始後に位置検出手段480からの信号に基づき加熱位置P3でのワークWの位置に加熱コイル451を追従させて変位させるためのステップが記憶されている。また加熱条件と、加熱コイル451の被加熱領域Hに対する相対位置及び相対角度を調整するための情報が設定加熱状態と組み合わせて記憶されている。これらは設定入力部493で入力されたものであっても、演算により求めたものでもよい。
【0077】
さらに記憶部495には、シミュレーション処理のための処理ステップ情報が記憶されている。
シミュレーション処理のステップは、加熱条件下で被加熱領域Hが設定加熱状態に達した際の変形状態を演算するためのものであり、その手法は特に限定されるものではない。例えば二次元FEM(Finite Element Method)解析モデルにより熱変形を求めるシミュレーション処理などを採用してもよい。
【0078】
[電力調整手段]
電力調整手段491は、給電設備700の操作部710の一部として設定されている。この電力調整手段491では、複数の加熱コイル451に供給する高周波電力を加熱コイル451毎に別々に調整する。高周波電力の調整は予め設定された設定加熱状態に到達した時点及びそれ以後に、設定加熱状態に対応して設定されている高周波電力に調整してもよい。
この電力調整手段491では、姿勢制御部490により各加熱コイル451と被加熱領域Hとの間の相対位置及び相対角度を調整することと組み合わせて、各加熱コイル451に給電する高周波電力を異ならせることで、複数の加熱コイル451により被加熱領域Hを加熱する。
【0079】
[焼入方法]
次に、このような熱処理装置10を用いてワークWを焼入処理する方法について説明する。
本実施形態の焼入方法では、ワークWに応じて各部を設定する準備工程と、ワークWを搬入して治具100に載置する搬入工程と、ワークWを載置した治具100を搬送する搬送工程と、治具100上のワークWを誘導加熱する加熱工程と、治具100上のワークWを冷却する冷却工程と、焼入れ後のワークWを搬出する搬出工程とを備える。
【0080】
準備工程では、加熱処理対象のワークWの大きさや形状に応じて各部の設定を行う。加熱コイル451のような加熱部450の構成部品を加熱部450に装着するには、
図2及び
図3に示す部品交換セクション600及び部品交換治具620を利用して行うことができる。
【0081】
搬入工程では、
図2及び
図3に示す搬入搬出セクション300で加熱処理対象のワークWを搬入し、治具100に載置して搬送可能な状態にする。
搬入搬出セクション300の搬入搬出位置P1において、治具100にワークWを支持させる。
図4に示すように、ワークWは治具100の複数の回転ローラ112上に、中央構造部130を囲むと共に、一方の端面を下向きにして載置する。その後、ワークWが載置された治具100を吊り下げ位置P2に移動して停止させる。
搬送工程では、
図3及び
図4に示すように、ワークWが載置された治具100を搬送機構200の搬送ローダ部220に接続し、吊り下げて加熱セクション400に搬送する。
【0082】
加熱工程では、
図1及び
図2に示す加熱セクション400で治具100を所定位置に配置し、治具100を上下方向及び周方向の移動を規制して配置することで、治具100上に載置されたワークWを各加熱位置P3に配置し加熱する。
加熱工程では、
図17に示すような加熱処理ステップが実行される。
【0083】
まず加熱処理開始前、入力工程S1にて、設定入力部493から前述のような加熱条件を入力する。この入力は操作部710のタッチパネルや携帯端末器701から入力可能であり、
図5に示すようなメインメニューからそれぞれの項目を選択し、入力可能画面において各種の加熱条件を入力する。このとき予め、ワークWの不均一な変形が大きくなることで、位置検出手段480により測定される測定位置と実際に加熱されたワークWの被加熱領域Hの位置とのずれが大きくなることが予測される単数又は複数の設定加熱状態が設定される。
【0084】
シミュレーション工程S2にて、入力された加熱条件に基づき、演算処理部494で記憶部495に記憶されたシミュレーション処理のステップに基づいてシミュレーション処理を行う。この処理では、各設定加熱状態における補正係数、被加熱領域Hの幅方向における複数の加熱コイル451のそれぞれの配置、各加熱コイル451の傾きを演算し、得られた各演算結果をそれぞれ設定加熱状態に対応させた状態で記憶部495に記憶する。
【0085】
シミュレーション工程S2を行った後、処理開始工程S3にて、ワークWが各加熱位置P3に配置された状態で、回転ローラ112を回転させてワークWを環形状に沿って回転させ、回転駆動部30によりワークWの周速を一定に保つ。このとき回転ローラ112で送り出す機構であるため、各回転ローラ112の回転速度の調整によりワークWの直径に拘わらず容易に所定の周速でワークWを回転できる。また、各回転ローラ112の周面の上側にワークWの直径方向の傾斜、特に外向きに低くなる傾斜が設けられていれば、ワークWを回転させることで、ワークWの調心を行うことができる。
図9に示すように、位置検出具483,484の接触子488をワークWの外周面の中腹と上面とに当接させて測定位置の測定を行う。
図8に示すように、加熱される被加熱領域Hに隣接する下部側に、加熱冷却部440から冷却液を噴射して冷却を開始する。
【0086】
姿勢制御部490により制御して変位手段460を動作させて加熱コイル451を変位させ、ワークWの被加熱領域Hに所定のギャップとなるように加熱コイル451を対向配置する。このとき加熱開始時点では、ワークWの変形と位置検出手段480により測定される測定位置と略一致するため補正係数は1とすることができる。また加熱コイル451が予め被加熱領域Hの幅方向の傾斜に対応する傾斜となるように支持ボックス452に支持されているため、変位手段460の支持ボックス452は略水平状態となっており、加熱コイル451と被加熱領域Hとの相対角度の差はない。さらに、複数の加熱コイル451の配置は全てが被加熱領域Hの幅方向の中心線を中心に配置しておいてもよい。
【0087】
この状態で誘導加熱処理工程S4を開始する。誘導加熱処理工程S4では、ワークWの回転、冷却、測定位置の測定を継続しつつ、加熱コイル451に高周波電力を給電し、被加熱領域Hを誘導加熱する。
各位置検出手段480の径方向位置検出具483及び軸方向位置検出具484の接触子488の変位量を変化量検出部489で検出することで、各加熱位置P3における被加熱領域Hの測定位置が測定されている。そのため各加熱コイル451をワークWに追従させつつ加熱することができる。例えばワークWが治具100の中心から偏心した状態で配置されるなどにより、ワークWが回動する際に径方向に変位しながら旋回するような場合であっても、加熱コイル451をワークWに追従させて加熱することができる。
この誘導加熱処理工程S4では、加熱開始後から加熱状態を継続的に検出しており、加熱開始後からの加熱経過時間を加熱状態として検出している。
【0088】
ワークWが大型であり、周方向に間隔を開けて配置された複数の加熱コイル451により加熱するため、誘導加熱処理工程S4の加熱期間が数分間に及ぶこともある。この加熱期間中には加熱状態やワークWの位置が監視されており、操作部710や携帯端末器701においてモニタ画面等で作業者が確認できる。
このような誘導加熱処理が継続されることで、被加熱領域H及びワークWが昇温される。それと同時にワークWが熱膨張により徐々に不均一に変形する。
【0089】
そして加熱状態判定部496において、加熱状態が設定加熱状態に到達したことが判定されると、演算処理部494では記憶部495に記憶されている設定加熱状態における補正係数に変更される。この補正係数を用いて、位置検出手段480により測定された測定位置が補正されて補正位置が演算される。これにより、設定加熱条件以後の高温状態では、次の設定加熱条件に到達するまでの間、各加熱位置P3における被加熱領域Hの位置を補正位置と見なして追従動作が行われる。即ち、姿勢制御部490により補正位置の変化に対応するように変位手段460の動作が制御されて、加熱コイル451と被加熱領域との相対位置が安定に維持される。
【0090】
また、加熱状態が設定加熱状態に到達したことが判定されると、演算処理部494では、記憶部495に記憶されている設定加熱状態における各加熱コイル451の傾きとなるように、姿勢制御部490により変位手段460の動作が制御される。ここでは、角度変向部492において、支持ボックス452の上部を前側と後側とで異なる高さに上昇又は下降させることで、加熱コイル451の被加熱領域Hに対向する面の傾斜角度を設定加熱状態における各加熱コイル451の傾きの角度に調整される。
例えば
図18に示すように、設定加熱状態に到達するまでの間は各加熱コイル451が図中に実線で示すような傾きで配置されている。設定加熱状態に到達した後は、ワークWの不均等な変形により被加熱領域Hの傾斜が変化するため、この変化に対応するように、図中の仮想線で示すように角度θで傾斜を変化させ、各加熱コイル451と被加熱領域Hとの間のギャップをより均一にする。
そして設定加熱条件以後の高温状態では、次の設定加熱条件に到達するまでの間、この角度が維持される。
【0091】
さらに加熱状態が設定加熱状態に到達したことが判定されると、演算処理部494では、記憶部495に記憶されている複数の加熱コイル451の配置となるように、姿勢制御部490により変位手段460の動作が制御される。ここでは、被加熱領域の幅方向の縁側、特に上部の縁側が例えばワークWの不均等な変形により各加熱コイル451から離間する方向に変位するため、誘導加熱による発熱量が中間部分等に比べて低下し易いなどの理由により、被加熱領域Hの表面温度にむらが生じて中間部分よりも温度が低くなり易い。
そのため、
図19に実線で示すように、設定加熱状態に到達する前には被加熱領域Hの幅方向における複数の加熱コイル451の位置が同等に配置されていたところを、図中の仮想線で示すように、一部の加熱コイル451の位置を被加熱領域Hの縁側にずらして配置する。必要により、複数の加熱コイル451の全部を縁側にすらして配置してもよい。これにより、被加熱領域Hの幅方向における加熱コイル451の対向面積の分布を調整し、被加熱領域Hの低温側がより多い対向面積となるように各加熱コイル451を配置し、低温側の発熱量をより大きくする。
そして、設定加熱条件以後の高温状態では、次の設定加熱条件に到達するまでの間この角度が維持される。
【0092】
このような制御を1回又は複数回繰り返すことで、加熱完了状態まで誘導加熱処理工程S4を行い、被加熱領域Hの全体を均一に加熱する。被加熱領域Hの温度が所望の温度に到達したとき、或いは、所定の加熱時間が終了したとき、誘導加熱処理工程S4を終了する。
【0093】
誘導加熱処理工程S4が終了した後、冷却工程では、搬送ローダ部220により治具100を下降させ、冷却セクション500に治具100上のワークWを配置し、ワークWを回転させながら、複数位置に設けられた冷却ジャケット520からワークWに多量の冷却液を噴射し、ワークW全体を冷却する。ここでは、加熱セクション400の下方に冷却セクション500が設けられているため、加熱後短時間の間に冷却が開始される。これによりワークWの所望の焼入処理が行われる。
ワークWの被加熱領域Hの温度が十分に低下した段階で冷却工程を終了する。
【0094】
その後、焼入されたワークWは治具100と共に搬送ローダ部220に吊り下げられ、搬入搬出セクション300に搬送されて、ワークWの焼入処理が完了する。
【0095】
以上のような熱処理装置10及びその加熱方法によれば、ワークWが誘導加熱されたときに、加熱領域Hの一方の縁側と他方の縁側とで変形量が異なり、これにより位置検出手段480により検出される測定位置の誤差が大きくなっても、測定位置を少なくともワーク形状に基づいて補正して、ワークWと加熱コイル451との相対位置を調整するので、被加熱領域H全体を均一に所望の温度まで昇温することができる。
【0096】
ここでは姿勢制御部490が、測定位置と補正係数から補正位置を演算する演算処理部494を備え、演算処理部494において、予め設定されたシミュレーション処理により、ワークWを実施予定の加熱条件で加熱処理した場合の補正係数を求めている。そのため補正係数を決定する準備が不要であり、ワークWを加熱するための準備の装置や手間を簡略化できる。
【0097】
測定位置は基準位置からの位置ずれ量であり、補正位置は位置ずれ量を補正した位置ずれ補正量であり、姿勢制御部490は、位置ずれ補正量をなくすように変位手段460の動作を制御している。そのため測定位置及び補正位置を示すデータを簡素化でき、位置検出手段480により測定位置を測定する構成や変位手段460により加熱コイル451を補正位置に移動させる構成を簡素化できる。また処理速度も向上でき、加熱コイル451をより短い時間で適切な位置に配置して効率よく被加熱領域Hを加熱できる。
【0098】
補正位置は、測定位置を少なくともワーク形状に対応した補正係数により補正した位置となっている。そのため補正位置を容易に演算できる。
姿勢制御部490は、加熱期間中に被加熱領域Hが予め定めた設定加熱状態に達したときに補正係数を変更する。これによりワークWの不均一な変形量が昇温するほど大きくなるのであっても、加熱コイル451を適切な位置に配置できる。
【0099】
なお、上記実施形態は本発明の範囲内において適宜変更可能である。
例えば、上記では位置検出手段480により検出される測定位置を補正すると共に、被加熱領域Hの幅方向における複数の加熱コイル451の配置分布を調整したり、加熱時の被加熱領域Hに沿うように加熱コイル451の角度を調整して配置しているが、加熱コイル451の配置分布や角度の調整をせずに、位置検出手段480により検出される測定位置をより適切に補正することで、被加熱領域の不均一な加熱状態のむらを小さくして均一化を図ることは可能である。
上記では加熱コイル451に対してワークWを回転させることで加熱コイル451とワークWとを相対移動させる例について説明したが、加熱コイル451を回転させることで相対移動させることも可能である。