特許第5810412号(P5810412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5810412
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月11日
(54)【発明の名称】非アミノ有機酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/46 20060101AFI20151022BHJP
   C08G 63/16 20060101ALI20151022BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20151022BHJP
【FI】
   C12P7/46ZBP
   C08G63/16
   C08G69/26
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-540537(P2011-540537)
(86)(22)【出願日】2010年11月11日
(86)【国際出願番号】JP2010070121
(87)【国際公開番号】WO2011059031
(87)【国際公開日】20110519
【審査請求日】2013年10月2日
(31)【優先権主張番号】特願2009-259806(P2009-259806)
(32)【優先日】2009年11月13日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-1497
(73)【特許権者】
【識別番号】000005968
【氏名又は名称】三菱化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 誠
(72)【発明者】
【氏名】小林 倫子
(72)【発明者】
【氏名】城戸 大助
(72)【発明者】
【氏名】小池 砂奈恵
【審査官】 鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/026349(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0122892(US,A1)
【文献】 J. Appl. Microbiol., 2006, Vol.100, No.6, p.1348-1354
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/00−7/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクロース含有水溶液を、加熱工程後のスクロース分解率が14%以下になるように加熱し、得られたスクロース含有水溶液と窒素源及び無機塩を含む反応液を混合し、得られた混合液をスクロースをコハク酸に変換することのできるコリネ型細菌に作用させてコハク酸を生成・蓄積させ、該コハク酸を採取することを特徴とするコハク酸の製造方法。
【請求項2】
加熱されるスクロース含有水溶液がpH6.0以上14.0以下の水溶液である、請求項1に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項3】
前記コリネ型細菌が、ラクテートデヒドロゲナーゼ活性が非改変株と比較して低減するように改変された微生物である、請求項1又は2に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項4】
前記コリネ型細菌が、さらに、ピルビン酸カルボキシラーゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変された微生物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法によりコハク酸を製造する工程、及び前記工程で得られたコハク酸を重合する工程を含む、コハク酸含有ポリマーの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法によりコハク酸を製造する工程、及び前記工程で得られたコハク酸を原料としてコハク酸誘導体を合成する工程を含む、コハク酸誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を使用してコハク酸などの非アミノ有機酸を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コハク酸などの非アミノ有機酸を発酵により生産する場合、通常、Anaerobiospirillum属、Actinobacillus属等の嫌気性細菌が用いられている(特許文献1及び2、非特許文献1)。嫌気性細菌を用いる場合は、生産物の収率が高いが、その一方では、増殖するために多くの栄養素を要求するために、培地中に多量のCSL(コーンスティープリカー)などの有機窒素源を添加する必要がある。これらの有機窒素源を多量に添加することは培地コストの上昇をもたらすだけでなく、生産物を取り出す際の精製コストの上昇にもつながり経済的でない。
【0003】
また、コリネ型細菌のような好気性細菌を好気性条件下で一度培養し、菌体を増殖させた後、集菌、洗浄し、静止菌体として酸素を通気せずに非アミノ有機酸を生産する方法も知られている(特許文献3及び4)。この場合、菌体を増殖させるに当たっては、有機窒素の添加量が少なくてよく、簡単な培地で十分増殖できるため経済的ではあるが、非アミノ有機酸の生成量、生成濃度、及び菌体当たりの生産速度の向上、製造プロセスの簡略化等、改善の余地があった。
特許文献5ではスクロース(ショ糖)を酸でグルコースとフルクトースに分解し、これを炭素源として用いてコハク酸発酵を行う方法が開示されている。
特許文献6ではスクロース(ショ糖)を加熱滅菌した後に、これを炭素源としてコハク酸発酵を行う方法が開示されている。
非特許文献2ではスクロース(ショ糖)、窒素源及び無機塩を同時に混合した溶液を加熱処理した後に、これを炭素源としてコハク酸発酵を行う方法が開示されている。
しかし、加熱後のスクロースの分解率を14%以下になるように加熱すること、及び該スクロース含有溶液と窒素源及び無機塩を含む反応液を混合した後に、該スクロース溶液を炭素源として用いた非アミノ酸の製造方法については開示がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,143,834号公報
【特許文献2】米国特許第5,504,004号公報
【特許文献3】特開平11−113588号公報
【特許文献4】特開平11−196888号公報
【特許文献5】米国特許公開2007−122892号
【特許文献6】国際公開第2005/026349号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】International Journal of Systematic Bacteriology (1999), 49,207−216
【非特許文献2】Journal of Applied Microbiology (2006),100,1348−1354
【発明の概要】
【0006】
本発明の課題は、微生物を使用したコハク酸などの非アミノ有機酸の製造方法において、その生産効率を向上させることにある。
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、スクロース含有水溶液を、加熱後のスクロース分解率が14%以下になるように加熱して得られたスクロース含有水溶液を炭素源として用いることにより、コハク酸などの非アミノ有機酸の対糖収率が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)スクロース含有水溶液を、加熱工程後のスクロース分解率が14%以下になるように加熱し、得られたスクロース含有水溶液と窒素源及び無機塩を含む反応液を混合し、得られた混合液を微生物またはその処理物に作用させて非アミノ有機酸を生成・蓄積させ、該非アミノ有機酸を採取することを特徴とする非アミノ有機酸の製造方法。
(2)加熱されるスクロース含有水溶液がpH6.0以上14以下の水溶液である、(1)に記載の非アミノ有機酸の製造方法。
(3)前記微生物が、ラクテートデヒドロゲナーゼ活性が非改変株と比較して低減するように改変された微生物である、(1)又は(2)に記載の非アミノ有機酸の製造方法。
(4)前記微生物が、さらに、ピルビン酸カルボキシラーゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変された微生物である、(1)〜(3)のいずれかに記載の非アミノ有機酸の製造方法。
(5)非アミノ有機酸がコハク酸である、(1)〜(4)のいずれかに記載の非アミノ有機酸の製造方法。
(6)(5)に記載の方法によりコハク酸を製造する工程、及び前記工程で得られたコハク酸を重合する工程を含む、コハク酸含有ポリマーの製造方法。
(7)(5)に記載の方法によりコハク酸を製造する工程、及び前記工程で得られたコハク酸を原料としてコハク酸誘導体を合成する工程を含む、コハク酸誘導体の製造方法。
【0009】
本発明の方法によれば、コハク酸などの非アミノ有機酸を効率よく生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
本発明の非アミノ有機酸の製造方法は、スクロース含有水溶液を、加熱工程後のスクロース分解率が14%以下になるように加熱し、得られたスクロース含有水溶液と窒素源及び無機塩を含む反応液を混合し、得られた混合液を微生物またはその処理物に作用させて非アミノ有機酸を生成・蓄積させ、該非アミノ有機酸を採取することを特徴とする。
【0012】
本発明において、非アミノ有機酸はアミノ酸以外の有機酸を意味する以外特に限定はないが、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、クエン酸、イソクエン酸、2−オキソグルタル酸、シス−アコニット酸およびピルビン酸が好ましく、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸などのジカルボン酸がより好ましく、コハク酸が特に好ましい。
【0013】
まず、本発明の方法のスクロース含有水溶液加熱工程について説明する。
この工程では、加熱工程後のスクロース分解率が14%以下になるようにスクロース含有水溶液を加熱する。ここで「スクロース分解率」とはスクロースがグルコースとフルクトースに分解される割合をいう。スクロース分解率は好ましくは10%以下である。
加熱工程の条件については、加熱工程後のスクロース分解率が14%以下になる限り特段の制限は無いが、加熱工程の温度、圧力及び時間並びに加熱工程前のスクロース含有水溶液のpH及び窒素含有量等の条件を制御することにより上記分解率が達成される。その中でも、加熱工程が殺菌処理を兼ねることが好ましい。液化炭酸ガスを混合したり、超音波処理を行ってもよく、膜処理を行ってもよい。加熱工程は、回分操作でもよいし、連続操作でもよい。
加熱工程の温度は、特段の制限はないが、通常60℃以上、好ましくは100℃以上であり、一方、通常160℃以下、好ましくは140℃以下である。加熱工程温度をこの範囲にすることにより、殺菌の点で好ましい。
加熱工程の圧力は、特段の制限はないが、通常0.1MPa以上、好ましくは0.2MPa以上であり、一方、通常0.6MPa以下、好ましくは0.5MPa以下である。加熱工程の圧力をこの範囲にすることにより、殺菌の点で好ましい。
加熱工程の時間は、特段の制限はないが、通常1分以上、好ましくは3分以上であり、一方、通常120分以下、好ましくは20分以下である。加熱工程の時間をこの範囲にすることにより、殺菌の点で好ましい。
加熱工程前のスクロース含有水溶液の濃度は、特段の制限はないが、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上であり、一方、通常85重量%以下、好ましくは80重量%以下、より好ましくは75重量%以下である。加熱工程前のスクロース含有水溶液の濃度をこの範囲にすることにより、スクロース含有水溶液の加熱殺菌効率、スクロース含有水溶液の液量適正化のため、好ましい。
加熱工程前のスクロース含有水溶液のpHは、通常6.0以上、好ましくは6.3以上、より好ましくは6.6以上、さらに好ましくは6.8以上、特に好ましくは7.0以上であり、一方、通常14.0以下、好ましくは13.0以下、より好ましくは12.0以下、さらに好ましくは11.0以下、特に好ましくは10.0以下、殊更に好ましくは9.0以下である。加熱工程前のスクロース含有水溶液のpHをこの範囲にすることにより、加熱工程後のスクロース分解率が抑制されるため、好ましい。
加熱工程前のスクロース含有水溶液の窒素含有量は、炭素含有量100重量あたり、通常5%以下、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下、特に好ましくは1%以下である。加熱工程前のスクロース含有水溶液の窒素含有量を5%以下とすることにより、スクロース並びにスクロースの分解物であるグルコース又はフルクトースと、窒素含有化合物との反応が抑制されるために好ましい。
【0014】
次に、非アミノ有機酸製造工程について説明する。この工程では、スクロース加熱工程
で得られた加熱スクロース水溶液と窒素源及び無機塩を含む反応液を混合し、得られた混合液をスクロースを非アミノ有機酸に変換することのできる微生物を作用させて非アミノ有機酸を製造する。
ここで使用される微生物は、コリネ型細菌(Coryneform Bacterium)、バチルス(Bacillus)属細菌、リゾビウム(Rhizobium)属細菌、エシェリヒア(Escherichia)属細菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌又はサクシノバチルス(Succinobacillus)属細菌、アナエロビオスピリラム(Anaerobiospirillum)属、アクチノバチルス(Acinobacillus)属、糸状菌、酵母が好ましく、この中ではコリネ型細菌及び酵母がより好ましい。
エシェリヒア属細菌としてはエシェリヒア・コリなどが挙げられ、ラクトバチルス属細菌としてはラクトバチルス・ヘルヴェチカスなどが挙げられ(J Appl Microbiol, 2001, 91, p846−852、バチルス属細菌としては、バチルス・ズブチリス、バチルス・アミロリケファシエンス、バチルス・プミルス、バチルス・ステアロサーモフィルス等が挙げられ、リゾビウム属細菌としては、リゾビウム・エトリ(Rhizobium etli)などが挙げられ、酵母としては、例えば、サッカロミセス属(Saccaromyces)、シゾサッカロミセス属(Shizosaccaromyces)、カンジダ属(Candida)、ピキア属(Pichia)、クルイウェロマイセス属(Kluyveromyces)およびチゴサッカロミセス属(Zygosaccharomyces)などに属する酵母が挙げられる。
【0015】
サッカロミセス属(Saccaromyces)に属する酵母としては、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ウバラム(S.uvarum)、サッカロミセス・バイアヌス(S.bayanus)等が用いられる。
【0016】
シゾサッカロミセス属(Shizosaccaromyces)に属する酵母としては、例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等が挙げられる。
【0017】
カンジダ属(Candida)に属する酵母としては、例えば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・ソノレンシス(C.sonorensis)およびカンジダ・グラブラタ(C.glabrata)等が挙げられる。
【0018】
ピキア属(Pichia)に属する酵母としては、例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ピキア・スティピィス(P.stipiis)等が挙げられる。
【0019】
クルイウェロマイセス属(Kluyveromyces)に属する酵母としては、クルイウェロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、クルイウェロマイセス・マルキシアヌス(K.marxianus)およびクルイウェロマイセス・サーモトレランス(K.thermotolerans)等が挙げられる。
【0020】
チゴサッカロミセス属(Zygosaccharomyces)に属する酵母としては、チゴサッカロミセス・バイリイ(Zygosaccharomyces baili)およびチゴサッカロミセス・ロウキシ(Z.rouxii)等が挙げられる。
【0021】
コリネ型細菌は、これに分類されるものであれば特に制限されないが、コリネバクテリウム属に属する細菌、ブレビバクテリウム属に属する細菌又はアースロバクター(Arthrobacter)属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、マイクロコッカス(Micrococcus)属に属する細菌などが挙げられ、このうち好ましくは、コリネバクテリウム属又はブレビバクテリウム属に属するものが挙げられ、更に好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)又はブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)に分類される細菌が挙げられる。
【0022】
非アミノ有機酸製造工程で用いるコリネ型細菌の親株の特に好ましい具体例としては、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP−1497)、同MJ−233 AB−41(FERM BP−1498)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス ATCC6872、コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC31831、及びブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869等が挙げられる。なお、ブレビバクテリウム・フラバムは、現在、コリネバクテリウム・グルタミカムに分類される場合もあることから(Lielbl, W., Ehrmann, M., Ludwig, W. and Schleifer, K. H., International Journal of Systematic Bacteriology, 1991, vol. 41, p255−260)、本発明においては、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株、及びその変異株MJ−233 AB−41株はそれぞれ、コリネバクテリウム・グルタミカムMJ−233株及びMJ−233 AB−41株と同一の株であるものとする。ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233は、1975年4月28日に通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所(現独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター 〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託番号FERM P−3068として寄託され、1981年5月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、FERM BP−1497の受託番号で寄託されている。
【0023】
非アミノ有機酸製造工程では、非アミノ有機酸を生産できる微生物であれば、上記微生物の野生株だけではなく、UV照射やNTG処理等の通常の変異処理により得られる変異株、細胞融合もしくは遺伝子組み換え法等の遺伝学的手法により誘導される組み換え体等も用いられる。
上記の組み換え体としては、各非アミノ有機酸について生合成酵素遺伝子の発現強化や分解酵素遺伝子の発現低下等、公知の方法によって得られたものが用いられる。具体的には、例えば、コハク酸製造方法においては、ピルビン酸カルボキシラーゼ活性が非改変型と比べて増強するように遺伝子改変されたものや、ラクトデヒドロゲナーゼ活性が非改変型と比べて低減するように遺伝子改変されたもの等が挙げられる。
【0024】
ピルビン酸カルボキシラーゼ(以下、「PC」、あるいは「pc」とも呼ぶ)活性が非改変型と比べて増強するように遺伝子改変された細菌は、例えば、特開平11−196888号公報に記載の方法と同様にして、pc遺伝子をプラスミドにより宿主細菌中で高発現させることにより構築することができる。また、相同組換えによって染色体上に組み込んでもよいし、プロモーター置換によってpc遺伝子の発現を増強することもできる。形質転換は、例えば、電気パルス法(Res. Microbiol., Vol.144, p.181−185, 1993)等によって行うことができる。具体的なpc遺伝子としては、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のpc遺伝子(Peters−Wendisch, P.G. et al. Microbiology, vol.144 (1998) p915−927)などを用いることができる。また、pc遺伝子は、該コリネバクテリウム・グルタミカム由来のpc遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA、または該遺伝子の塩基配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNAであって、PC活性を有するタンパク質をコードするDNAも好適に用いることができる。
さらに、コリネバクテリウム・グルタミカム以外のコリネ型細菌、または他の微生物又は動植物由来のpc遺伝子を使用することもできる。特に、以下に示す微生物または動植物由来のpc遺伝子は、その配列が既知(以下に文献を示す)であり、上記と同様にしてハイブリダイゼーションにより、あるいはPCR法によりそのORF部分を増幅することによって、取得することができる。
ヒト [Biochem.Biophys.Res.Comm., 202, 1009−1014, (1994)]
マウス[Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 90, 1766−1779, (1993)]
ラット[GENE, 165, 331−332, (1995)]
酵母;サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)
[Mol.Gen.Genet., 229, 307−315, (1991)]
シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)
[DDBJ Accession No.; D78170]
バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)
[GENE, 191, 47−50, (1997)]
リゾビウム・エトリ(Rhizobium etli)
[J.Bacteriol., 178, 5960−5970, (1996)]
【0025】
「PC活性が増強される」とは、PC活性が野生株又は親株等の非改変株に対して、単位菌体重量あたり好ましくは1.5倍以上、より好ましくは3.0倍以上増加していることをいう。
PC活性が増強されたことは、公知の方法、例えば、J.Bacteriol.,158,55−62,(1984)に記載の方法によりPC活性を測定することによって確認することができる。pc遺伝子や具体的な導入方法としては、特開2008−259451号に記載のものが用いられる。
【0026】
また、ラクトデヒドロゲナーゼ(以下、「LDH」と称することがある)活性が非改変型と比べて低減するように遺伝子改変されたもとしては、例えば、特開平11−206385号公報に記載されている相同組換えによる方法、あるいは、sacB遺伝子を用いる方法(Schafer,A.et al.Gene 145 (1994) 69−73)等で染色体上のLDH遺伝子を破壊することによって構築することができる。なお、「LDH活性が低減された」とは、非改変株と比較してLDH活性が低下していることをいう。LDH活性は完全に消失していてもよい。LDH活性が低下したことは、公知の方法(L..Kanarek, et al.,J.Biol.Chem.239,4202(1964)等)によりLDH活性を測定することによって確認することができる。
【0027】
さらに、本発明の製造方法で用いられる微生物は、上記PC活性の増強、または、PC活性の増強およびLDH活性の低下に加えて、アセテートキナーゼ(以下、「ACK」とも呼ぶ)、ホスフォトランスアセチラーゼ(以下、「PTA」とも呼ぶ)、ピルベートオキシダーゼ(以下、「POXB」とも呼ぶ)およびアセチルCoAハイドロラーゼ(以下、「ACH」とも呼ぶ)からなる群より選ばれる1種類以上の酵素の活性が低減するように改変された細菌であってもよい。
【0028】
PTAとACKはいずれか一方を活性低下させてもよいが、酢酸の副生を効率よく低減させるためには、両方の活性を低下させることがより好ましい。
「PTA活性」とは、アセチルCoAにリン酸を転移してアセチルリン酸を生成する反応を触媒する活性をいう。「PTA活性が低減するように改変された」とは、PTA活性が、非改変株、例えば野生株よりも低くなったことをいう。PTA活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、PTA活性は完全に消失していてもよい。PTA活性が低下したことは、例えば、Klotzsch, H. R., Meth Enzymol. 12, 381−386(1969)等に記載の方法により、PTA活性を測定することによって確認することができる。
【0029】
「ACK活性」は、アセチルリン酸とADPから酢酸を生成する反応を触媒する活性をいう。「ACK活性が低減するように改変された」とは、ACK活性が、非改変株、例えば野生株よりも低くなったことをいう。ACK活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、ACK活性は完全に消失していてもよい。ACK活性が低下したことは、Ramponiらの方法(Ramponi G., Meth. Enzymol. 42,409−426(1975))により、ACK活性を測定することによって確認することができる。
【0030】
なお、コリネバクテリウム・グルタミカム(ブレビバクテリウム・フラバムに分類されるものも含む)においては、Microbiology. 1999 Feb;145 (Pt 2):503−13に記載されているように、両酵素はpta−ackオペロン(GenBank Accession No. X89084)にコードされているため、pta遺伝子を破壊した場合は、PTA及びACKの両酵素の活性を低下させることができる。
【0031】
PTAおよびACKの活性低下は、公知の方法、例えば、相同組換えを利用する方法やsacB遺伝子を用いる方法(Schafer, A. et al. Gene 145 (1994) 69−73)に従ってこれらの遺伝子を破壊することによって行うことができる。具体的には、特開2006−000091号公報に開示された方法に従って行うことができる。pta遺伝子およびack遺伝子としては、上記GenBank Accession No. X89084の塩基配列を有する遺伝子のほか、宿主染色体上のpta遺伝子およびack遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性を有する遺伝子を用いることもできる。ここで、相同組換えを起こす程度の相同性とは、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。また、上記遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNA同士であれば、相同組換えは起こり得る。
【0032】
「POXB活性」は、ピルビン酸と水から酢酸を生成する反応を触媒する活性をいう。「POXB活性が低減するように改変された」とは、POXB活性が、非改変株、例えば野生株よりも低くなったことをいう。POXB活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。「低下」には活性が完全に消失した場合も含まれる。POXB活性は、Chang Y. ,et al.,.J.Bacteriol.151,1279−1289(1982)等に記載の方法により、活性を測定することによって確認することができる。
【0033】
POXB活性の低下は、公知の方法、例えば、相同組換えを利用する方法やsacB遺伝子を用いる方法(Schafer, A. et al. Gene 145 (1994) 69−73)等に従ってpoxB遺伝子を破壊することにより行うことができる。具体的には、WO2005/113745号公報等に開示された方法に従って行うことができる。poxB遺伝子としては、例えば、GenBank Accession No.Cgl2610(GenBank Accession No.BA000036の2776766−2778505番目の相補鎖)の塩基配列を有する遺伝子が挙げられるが、宿主細菌の染色体DNA上のpoxB遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性を有していればよいため、該配列の相同遺伝子も使用することができる。ここで、相同組換えを起こす程度の相同性とは、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。また、上記遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNA同士であれば、相同組換えは起こり得る。
【0034】
「ACH活性」は、アセチルCoAから酢酸を生成する反応を触媒する活性をいう。「ACH活性が低減するように改変された」とは、ACH活性が、非改変株、例えば野生株よりも低くなったことをいう。ACH活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。尚、「低下」には活性が完全に消失した場合も含まれる。ACH活性は、例えば、Gergely,J., et al., (1952) J.Biol.Chem. 198 p323−334、Veit,A., et al., (2009) J.Biotechnol. 140(1−2):75−83等に記載の方法により測定することが出来る。
【0035】
ACH活性の低下は、公知の方法、例えば、相同組換えを利用する方法やsacB遺伝子を用いる方法(Schafer, A. et al. Gene 145 (1994) 69−73)に従ってach遺伝子を破壊することによって行うことができる。具体的には、WO2005/113744号公報等に開示された方法に従って行うことができる。ach遺伝子としては、例えば、GenBank Accession No.Cgl2569(GenBank Accession No.BA000036の2729376−2730917番目の相補鎖)の塩基配列を有する遺伝子が挙げられるが、宿主細菌の染色体DNA上のach遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性を有していればよいため、該配列の相同遺伝子も使用することができる。ここで、相同組換えを起こす程度の相同性とは、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。また、上記遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNA同士であれば、相同組換えは起こり得る。
【0036】
なお、非アミノ有機酸製造工程に用いられる微生物は、上記PC活性の増強、または、PC活性の増強およびLDH活性の低下に加え、上記改変のうちの2種類以上の改変を組み合わせて得られる細菌であってもよい。
好ましい微生物としては、例えば、日本国特開2008−259451号公報に記載されているブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDH株、国際公開第2010/003728号等に記載のアルコールデヒドロゲナーゼをコードするADH1及びADH2遺伝子が破壊され、グリセロール3リン酸デヒドロゼナーゼをコードするGPD1遺伝子が破壊され、並びにホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、フマラーゼ遺伝子、NADH型フマル酸リダクターゼ遺伝子及びリンゴ酸輸送タンパク質遺伝子が導入された組換え酵母菌株であるSUC−200(MATA ura3−52 leu2−112 trp1−289 adh1::lox adh2::lox gpd1::Kanlox, overexpressing PCKa,MDH3,FUMR,FRDg and SpMAE1)等が挙げられる。
以上、非アミノ有機酸がコハク酸の場合に使用できる組換え微生物について説明したが、コハク酸以外の非アミノ有機酸を生産する微生物も数多く知られており、そのような公知の微生物を用いてコハク酸以外の非アミノ有機酸を製造することもできる。
【0037】
上記のような微生物を非アミノ有機酸の製造に用いる場合、寒天培地等の固体培地で斜面培養した微生物を直接非アミノ有機酸生産反応に用いても良いが、微生物を予め液体培地で培養(種培養)したものを用いるのが好ましい。種培養に用いる培地は、上記微生物の培養に用いられる通常の培地を用いることができる。例えば、硫酸アンモニウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム等の無機塩からなる組成に、肉エキス、酵母エキス、ペプトン等の天然栄養源を添加した一般的な培地を用いることができる。
【0038】
上記微生物を増殖させて非アミノ有機酸生成反応に用いる菌体を得るための培養は、通常、コリネ型細菌であれば、生育至適温度である25℃〜35℃の範囲、より好ましくは25℃〜30℃、特に好ましくは約30℃で、通気、攪拌し酸素を供給しながら行う。培養時間は一定量の菌体が得られる時間であればよいが、通常、6〜96時間である。生育至適温度は、非アミノ有機酸の生産に用いられる条件において最も生育速度が速い温度のことを言う。
【0039】
また、より非アミノ有機酸の製造に適した菌体の調製方法として、特開2008−259451号公報に記載の炭素源の枯渇と充足を短時間で交互に繰り返すように培養を行う方法も用いることができる。
種培養後の菌体は、遠心分離、膜分離等によって回収した後に、非アミノ有機酸生成反応に用いてもよい。本発明では、非アミノ有機酸の製造に用いられる微生物として、その菌体の処理物を使用することもできる。菌体の処理物としては、例えば、上記方法で培養、集菌した菌体をアクリルアミド、カラギーナン等で固定化した固定化菌体、菌体を破砕した破砕物、その遠心分離上清、又はその上清を硫安処理等で部分精製した画分等が挙げられる。
【0040】
かくして得られる微生物をスクロース加熱工程で得られた加熱スクロース水溶液と窒素源及び無機塩を含む反応液との混合液と反応させることによって非アミノ有機酸を製造する。
非アミノ有機酸生成反応に用いられる上記加熱スクロースの使用濃度は特に限定されないが、バッチ条件下では、非アミノ有機酸の生成を阻害しない範囲で可能な限り高くするのが有利であり、通常、5.0〜30%(W/V)、好ましくは10〜20%(W/V)の範囲内で反応が行われる。また、反応の進行に伴うスクロースの減少にあわせ、特段の制限はないが、例えば0.1〜10%(W/V)となるように加熱スクロースの追加添加を行っても良い。
【0041】
上記加熱スクロース水溶液を添加する窒素源及び無機塩を含む反応液としては、特に限定されず、例えば、上記微生物を培養するための培地であってもよいし、リン酸緩衝液等の緩衝液であってもよい。ここで、窒素源としては、本細菌が資化してコハク酸等を生成させうる窒素源であれば特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩が用いられる。また、ビオチン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加する。また、反応時の発泡を抑えるために、培養液には市販の消泡剤を適量添加しておくことが望ましい。
得られたスクロース含有水溶液と窒素源及び無機塩を含む反応液を混合する方法としては、特段の制限はなく、攪拌等の公知の方法で混合すればよい。又、上記調整した微生物を同時に作用させても、スクロース含有水溶液と窒素源及び無機塩を含む反応液を混合した後に作用させてもよい。
【0042】
窒素源及び無機塩を含む反応液又はスクロース含有水溶液と窒素源及び無機塩を含む反応液の混合液には、例えば上記した加熱スクロース、窒素源、無機塩などのほかに、炭酸イオン、重炭酸イオン又は二酸化炭素ガス(炭酸ガス)を含有させることが好ましい。炭酸イオン又は重炭酸イオンは、中和剤としても用いることのできる炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウムなどから供給されるが、必要に応じて、炭酸若しくは重炭酸又はこれらの塩或いは二酸化炭素ガスから供給することもできる。
【0043】
炭酸又は重炭酸の塩の具体例としては、例えば炭酸マグネシウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム等が挙げられる。そして、炭酸イオン、重炭酸イオンは、1〜500mM、好ましくは2〜300mM、さらに好ましくは3〜200mMの濃度で添加する。二酸化炭素ガスを含有させる場合は、溶液1L当たり50mg〜25g、好ましくは100mg〜15g、さらに好ましくは150mg〜10gの二酸化炭素ガスを含有させる。
スクロース含有水溶液と窒素源及び無機塩を含む反応液の混合液には、上記の微生物を含んでいてもよい。
【0044】
スクロース含有水溶液と窒素源及び無機塩を含む反応液の混合液のpHは、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等を添加することによって調整することができる。本反応におけるpHは、特段の制限はないが、耐酸性が弱い微生物においては、通常、pHは5以上、好ましくはpH6以上、一方、通常12以下、好ましくは10以下、より好ましくは9.5以下がより好ましいので、反応中も必要に応じて反応液のpHはアルカリ性物質、炭酸塩、尿素などによって上記範囲内に調節する。
一方、糸状菌や酵母菌のように耐酸性が強い微生物を用いる場合は、本反応におけるpHは、通常pH1以上、より好ましくは1.5以上、特に好ましくは2以上、一方、通常5以下、好ましくは4以下、特に好ましくは3.5以下とすることが好ましい。
【0045】
上記非アミノ有機酸生成反応は、用いる微生物の生育至適温度より2〜20℃高い温度、好ましくは7〜15℃高い温度で、具体的には、37〜45℃、好ましくは39〜45℃、より好ましくは39〜43℃、特に好ましくは39〜41℃の範囲で行うとよい。反応の時間は1〜168時間が好ましく、3〜72時間がより好ましい。非アミノ有機酸の生産反応の間、常に37〜45℃である必要はないが、全反応時間の50%以上、好ましくは80%以上の時間、上記温度範囲にすることが望ましい。
【0046】
反応に用いる菌体の量は、特に規定されないが、1〜700g/L、好ましくは10〜500g/L、さらに好ましくは20〜400g/Lが用いられる。反応は、通気、攪拌して行ってもよいが、通気せず、酸素を供給しない嫌気的雰囲気下で行ってもよい。ここで言う嫌気的雰囲気下は、例えば容器を密閉して無通気で反応させる、窒素ガス等の不活性ガスを供給して反応させる、二酸化炭素ガス含有の不活性ガスを通気する等の方法によって得ることができる。
【0047】
以上のような反応により、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸等の非アミノ有機酸が反応液中に生成、蓄積する。反応液中に蓄積した非アミノ有機酸は、常法に従って、反応液より採取することができる。具体的には、例えば、遠心分離、ろ過等により菌体等の固形物を除去した後、イオン交換樹脂等で脱塩し、その溶液から結晶化あるいはカラムクロマトグラフィーにより精製するなどして、各非アミノ有機酸を採取することができる。
【0048】
非アミノ有機酸がコハク酸である場合、上記本発明の方法によりコハク酸を製造した後に、得られたコハク酸を用いてコハク酸誘導体を製造することができる。ここで、コハク酸誘導体としては、コハク酸塩、無水コハク酸、無水マレイン酸、コハク酸エステル、コハク酸イミド、1,4−ジアミノブタン、コハク酸ニトリル、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン(NMP)、N−エチルピロリドン(NEP)、1,4−ブタンジオール(1,4−B)、テトラヒドロフラン(THF)、γ−ブチロラクトン(GBL)、ポリテトラメチンエーテルグリコール(PTMG)などが挙げられる。例えば、コハク酸を水素化することによって、1,4−ブタンジオールを製造することができる。1,4−ブタンジオールは、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、テトラヒドロフラン(溶媒)、N−メチルピロリドンやN−ビニルピロリドンの前駆体であるγ−ブチロラクンの原料等に用いられる。
【0049】
さらに、本発明の製造方法により製造されたコハク酸を原料として重合反応を行うことによりコハク酸含有ポリマーを製造することができる。近年、環境に配慮した工業製品が数を増す中、植物由来の原料を用いたポリマーに注目が集まってきており、特に、本発明において製造されるコハク酸は、ポリエステルやポリアミドといったポリマーに加工されて用いる事が出来る。コハク酸含有ポリマーとして具体的には、ブタンジオールやエチレングリコールなどのジオールとコハク酸を重合させて得られるコハク酸ポリエステル、ヘキサメチレンジアミンなどのジアミンとコハク酸を重合させて得られるコハク酸ポリアミドなどが挙げられる。
【0050】
また、本発明の製造法により得られるコハク酸または該コハク酸を含有する組成物は食品添加物や医薬品、化粧品などに用いることができる。またフマル酸または該フマル酸を含有する組成物は、食品添加物、不飽和ポリエステル樹脂、紙用サイズ剤等に用いることができ、リンゴ酸または該リンゴ酸を含有する組成物は、食品添加物、化粧品、消臭剤、洗剤、染色剤等に用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0052】
<加熱処理後のスクロース分解率が14%以下のスクロース水溶液の発酵評価>
スクロース500gを蒸留水に溶かし、1000mLにメスアップしたスクロース水溶液を硫酸あるいは水酸化カリウム水溶液で所定のpHに調整し、121℃、20分加熱滅菌し、分解率の異なるスクロース水溶液を得た。加熱滅菌後のスクロース残存率(100×加熱後スクロース濃度/加熱スクロース濃度)を表1に示す。また、グルコース水溶液およびフルクトース水溶液はグルコースおよびフルクトース500gをそれぞれ蒸留水に溶かし、1000mLにメスアップし、120℃、20分加熱滅菌した。
【0053】
100mLの種培養培地(尿素:4g、硫酸アンモニウム:14g、リン酸1カリウム:0.5g、リン酸2カリウム0.5g、硫酸マグネシウム・7水和物:0.5g、硫酸第一鉄・7水和物:20mg、硫酸マンガン・水和物:20mg、D−ビオチン:200μg、塩酸チアミン:200μg、酵母エキス:1g、カザミノ酸:1g、及び蒸留水:1000mLの培地100mL)を500mLの三角フラスコにいれ、120℃、20分加熱滅菌した。これを室温まで冷やし、グルコース水溶液またはフルクトース水溶液または分解率の異なるスクロース水溶液を4mL、無菌濾過した5%カナマイシン水溶液を50μL添加し、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC/ΔLDH株(特開2005−95169)を接種して16時間30℃にて種培養した。
【0054】
得られた全培養液を5000rpm、7分の遠心分離により集菌し、菌体懸濁培地(硫酸マグネシウム・7水和物:1g、硫酸第一鉄・7水和物:40mg、硫酸マンガン・水和物:40mg、D−ビオチン:400μg、塩酸チアミン:400μg、リン酸一アンモニウム:0.8444g、リン酸二アンモニウム:0.758g、塩化カリウム:0.1491g、硫酸アンモニウム66g、及び蒸留水:1000mL)にOD660の吸光度が80になるように懸濁した。4ml反応器に前記の菌体懸濁液0.5mlに、基質溶液(グルコース水溶液またはフルクトース水溶液または分解率の異なるスクロース水溶液:400mL、炭酸マグネシウム:194.2g、及び蒸留水:470mL)0.5mLを加えて、20%炭酸ガス80%窒素雰囲気下、39℃で25.5時間または43時間反応させた。
【0055】
反応後、12000rpm、5分で遠心分離し、上清のコハク酸濃度を分析した結果、表1に示されるように、加熱処理後のスクロース分解率が14%以下のスクロース水溶液を用いると、消費糖当たりのグルタミン酸の収率には変化は見られなかったが、消費糖当たりのコハク酸の収率は増加した。
【0056】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の方法によりコハク酸などの非アミノ有機酸を効率よく製造することができる。コハク酸は、ポリエステル、ポリアミド等のポリマー、特に生分解性ポリエステルの原料として、また、食品、医薬品、その他化学品の合成原料として有用である。