特許第5810548号(P5810548)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5810548太陽電池用複合膜付き透明基板およびその製造方法
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  • 特許5810548-太陽電池用複合膜付き透明基板およびその製造方法 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5810548
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月11日
(54)【発明の名称】太陽電池用複合膜付き透明基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/068 20120101AFI20151022BHJP
【FI】
   H01L31/06 300
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-35807(P2011-35807)
(22)【出願日】2011年2月22日
(65)【公開番号】特開2012-174899(P2012-174899A)
(43)【公開日】2012年9月10日
【審査請求日】2013年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148219
【弁理士】
【氏名又は名称】渡會 祐介
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和彦
(72)【発明者】
【氏名】米澤 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】日向野 怜子
(72)【発明者】
【氏名】泉 礼子
【審査官】 森江 健蔵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−305945(JP,A)
【文献】 特開平10−326903(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/040065(WO,A1)
【文献】 特開2012−089629(JP,A)
【文献】 特開2011−077306(JP,A)
【文献】 特開2011−129288(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/046397(WO,A1)
【文献】 特開昭63−066929(JP,A)
【文献】 特開平01−154444(JP,A)
【文献】 特開平08−102227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/068
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と二酸化錫からなる透明電極膜の間に、透明膜を有する太陽電池用複合膜付き透明基板であって、
透明膜が、酸化物粒子と、シリコンのアルコキシドと硝酸触媒を含むノンポリマー型バインダー、または2−アルコキシエタノール、β-ジケトンおよびアルキルアセテートからなる群より選択される少なくとも1種のノンポリマー型バインダーを含み、酸化物粒子とノンポリマー型バインダーとの質量比が、(10:22)〜(12:10)である透明膜用組成物から形成された透光性バインダーを含有し、酸化物粒子が、屈折率が2.0〜2.7で、平均粒径が20〜30nmであり、かつ透明膜の屈折率が1.65〜1.9であり、
屈折率が、n<n<n(式中、nは透明基板の屈折率、nは透明膜の屈折率、およびnは透明電極膜の屈折率を表す)であり、厚さが0.1〜0.4μmであることを特徴とする、太陽電池用複合膜付き透明基板。
【請求項2】
酸化物粒子が、ITO、ZnO、ATOおよびTiOからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1記載の太陽電池用複合膜付き透明基板。
【請求項3】
透明基板、透明膜、および二酸化錫からなる透明電極膜をこの順で有する太陽電池用複合膜付き透明基板の製造方法であって、透明基板上に、酸化物粒子と、シリコンのアルコキシドと硝酸触媒を含むノンポリマー型バインダー、または2−アルコキシエタノール、β-ジケトンおよびアルキルアセテートからなる群より選択される少なくとも1種のノンポリマー型バインダーを含み、酸化物粒子が、屈折率が2.0〜2.7で、平均粒径が20〜30nmであり、酸化物粒子とノンポリマー型バインダーとの質量比が、(10:22)〜(12:10)である透明膜用組成物を、湿式塗工法により塗布して、透明塗膜を形成した後、透明塗膜を有する透明基板を、焼成または硬化して、屈折率が1.65〜1.9であり、厚さが0.1〜0.4μmである透明膜を形成し、さらに、透明膜上に透明電極膜を形成する、太陽電池用複合膜付き透明基板の製造方法。
【請求項4】
明塗膜の焼成温度が、130〜250℃である、請求項3記載の太陽電池用複合膜付き透明基板の製造方法。
【請求項5】
透明膜用組成物の湿式塗工法が、スプレーコーティング法、ディスペンサーコーティング法、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、スリットコーティング法、インクジェットコーティング法、ダイコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、またはグラビア印刷法である、請求項または記載の太陽電池用複合膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2記載の太陽電池用複合膜付き透明基板を含む、太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用複合膜付き透明基板、およびその製造方法に関する。より詳しくは、高い発電効率を有する太陽電池用複合膜付き透明基板、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、環境保護の立場から、クリーンエネルギーの研究開発、実用化が進められており、太陽電池は、エネルギー源である太陽光が無尽蔵であり、無公害である等ことから注目されている。従来、太陽電池には、単結晶シリコンや多結晶シリコンのバルク太陽電池が用いられてきた。
【0003】
一方、アモルファスシリコン等の半導体を用いた、いわゆる薄膜半導体太陽電池(以下、薄膜太陽電池という)は、ガラスまたはステンレススチール等の安価な基板上に、光電変換層である半導体層を必要な量だけ形成する構造である。したがって、薄膜太陽電池は、薄型で軽量、製造コストの安さ、大面積化が容易であること等から、今後の太陽電池の主流になると考えられている。
【0004】
太陽電池における膜形成は、一般にスパッタ法、CVD法等の真空成膜法により行われている。しかし、大型の真空成膜装置を維持、運転するには、多大なコストを必要とするので、膜形成を湿式成膜法に置き換えることで、ランニングコストの大幅な改善が期待される。
【0005】
湿式成膜法による太陽電池向けの透明導電膜としては、導電酸化物超微粒子が分散されたコーティング液をガラス基板の基体上に塗布し、硬化させる薄膜太陽電用透明導電膜の製造方法が開示されている(特許文献1)。
【0006】
しかしながら、上記の製造方法では、スーパーストレート型太陽電池のガラス基板上の透明導電膜のヘーズを高くすることを目的としており、ガラス基板と透明電極膜の界面での反射光を低下されることは考慮されていない。
【0007】
スーパーストレート型太陽電池では、通常、屈折率が約1.5のガラス基板上に、屈折率が約2.0の二酸化錫の透明電極膜が形成され、ガラス基板と透明電極膜の屈折率の差により、ガラス基板からの入射光の一部が反射され、光電変換層に到達する光量が減少し、太陽電池の変換効率が低下している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10―12059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、透明基板側から太陽光が入射する太陽電池において、透明基板に入射した光が、透明基板と透明電極膜の界面で反射することによる太陽電池の変換効率の低下を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下に示す構成によって上記課題を解決した透明基板と透明電極膜の間に、透明膜を有する太陽電池用複合膜付き透明基板、およびその製造方法、ならびにこの複合膜付き基板を用いる太陽電池に関する。
〔1〕透明基板と透明電極膜の間に、透明膜を有する太陽電池用複合膜付き透明基板であって、透明膜が、透光性バインダーを含有し、屈折率が、n<n<n(式中、nは透明基板の屈折率、nは透明膜の屈折率、およびnは透明電極膜の屈折率を表す)であることを特徴とする、太陽電池用複合膜付き透明基板。
〔2〕透明膜の屈折率が、1.5〜1.9である、上記〔1〕記載の太陽電池用複合膜付き透明基板。
〔3〕透明膜の厚さが、0.01〜0.5μmである、上記〔1〕または〔2〕記載の太陽電池用複合膜付き透明基板。
〔4〕透明膜の透光性バインダーが、加熱により硬化するポリマー型バインダーおよび/またはノンポリマー型バインダーを含む、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか記載の太陽電池用複合膜付き透明基板。
〔5〕透明膜が、さらに、ITO、ZnO、ATOおよびTiOからなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物粒子を含む、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか記載の太陽電池用複合膜付き透明基板。
〔6〕透明基板、透明膜、および透明電極膜をこの順で有する太陽電池用複合膜付き透明基板の製造方法であって、透明基板上に、透明膜用組成物を、湿式塗工法により塗布して、透明塗膜を形成した後、透明塗膜を有する透明基板を、焼成または硬化して、透明膜を形成し、さらに、透明膜上に透明電極膜を形成する、太陽電池用複合膜付き透明基板の製造方法。
〔7〕透明導電塗膜の焼成温度が、130〜250℃である、上記〔6〕記載の太陽電池用複合膜付き透明基板の製造方法。
〔8〕透明膜用組成物の湿式塗工法が、スプレーコーティング法、ディスペンサーコーティング法、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、スリットコーティング法、インクジェットコーティング法、ダイコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、またはグラビア印刷法である、上記〔6〕または〔7〕記載の太陽電池用複合膜の製造方法。
〔9〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の太陽電池用複合膜付き透明基板を含む、太陽電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明〔1〕によれば、透明基板に入射した光の、透明基板−透明電極膜界面での反射を抑制することができ、光電変換層への入光量の増加により発電効率が向上した太陽電池を簡便に得ることができる。
【0012】
本発明〔6〕によれば、高額な真空設備を用いずに、透明膜の形成が可能であり、発電効率の高い太陽電池を簡便に、低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】スーパーストレート型太陽電池の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお、%は特に示さない限り、また数値固有の場合を除いて質量%である。
【0015】
〔太陽電池用複合膜付き透明基板〕
本発明の太陽電池用複合膜付き透明基板(以下、複合膜付き透明基板という)は、透明基板と透明電極膜の間に、透明膜を有する太陽電池用複合膜付き透明基板であって、透明膜が、透光性バインダーを含有し、屈折率が、n<n<n(式中、nは透明基板の屈折率、nは透明膜の屈折率、およびnは透明電極膜の屈折率を表す)であることを特徴とする。
【0016】
図1に、本発明の複合膜付き基板を用いるスーパーストレート型太陽電池の断面の模式図を示す。複合膜付き基板10は、透明基板2と透明電極膜4の間に、透明膜3を有する。この透明膜3に、光電変換層5と反射電極膜6が形成され、スーパーストレート型太陽電池1を構成する。太陽光は、透明基板1側から入射する。ここで、nを透明基板の屈折率、nを透明膜の屈折率、およびnを透明電極膜の屈折率したとき、n<n<nであると、透明基板−透明膜界面での反射を抑制することができ、太陽電池の発電効率を向上させることができる。
【0017】
透明基板は、特に限定されず、ガラス基板等が挙げられる。透明電極膜も、特に限定されず、二酸化錫膜等が挙げられる。
【0018】
透明膜は、透光性バインダーを含有し、屈折率が、1.5〜1.9であると、透明基板−透明膜界面での反射の抑制が優れるので、好ましい。また、透明膜の厚さは、0.01〜0.5μmであると、密着性の観点から好ましい。
【0019】
また、透明膜は、2層以上設けることも好ましく、この場合には、透明基板から透明電極膜に向かって、屈折率が徐々に高くなるように形成することが好ましい。
【0020】
《透明膜用組成物》
透明膜は、透明膜用組成物から製造され、透明膜用組成物は、透光性バインダーを含有する。
【0021】
透光性バインダーは、加熱により硬化するポリマー型バインダーおよび/またはノンポリマー型バインダーを含むと、塗布後の硬化が容易であり、密着性の観点から好ましい。ポリマー型バインダーとしては、屈折率が1.3〜1.6の範囲であるアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、アルキッド樹脂、ポリウレタン、アクリルウレタン、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、セルロース、およびシロキサンポリマ等が挙げられる。また、ポリマー型バインダーは、屈折率が1.3〜1.6の範囲であるアルミニウム、シリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデンおよび錫の金属石鹸、金属錯体、金属アルコキシドおよび金属アルコキシドの加水分解体からなる群より選択される少なくとも1種を含むと好ましい。
【0022】
ノンポリマー型バインダーとしては、金属石鹸、金属錯体、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解体、アルコキシシラン、ハロシラン類、2−アルコキシエタノール、β−ジケトン、およびアルキルアセテートなどが挙げられる。また、金属石鹸、金属錯体、または金属アルコキシドに含まれる金属は、アルミニウム、シリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン、錫、インジウムまたはアンチモンであると好ましく、シリコン、チタンのアルコキシド(例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、ブトキシランが、より好ましい。ハロシラン類としては、トリクロロシランが挙げられる。2−アルコキシエタノールとしては、2−n−プロポキシエタノール、2−n−ブトキシエタノール、2−ヘキシルオキシエタノール等が挙げられ、β−ジケトンとしては、2,4−ペンタンジオン、3−イソプロピル−2,4−ペンタンジオン、2,2,−ジメチル−3,5,−ヘキサンジオン等が挙げられ、アルキルアセテートとしては、n−プロピルアセテート、イソプロピルアセテート等が挙げられる。これらポリマー型バインダー、ノンポリマー型バインダーが、加熱により硬化することで、高い密着性を有する透明膜の形成を可能とする。
【0023】
金属アルコキシドを硬化させるときには、加水分解反応を開始させるための水分とともに、触媒として塩酸、硝酸、リン酸(HPO)、硫酸等の酸、または、アンモニア水、水酸化ナトリウム等のアルカリを含有させると好ましく、加熱硬化後に、触媒が揮発し易く、残存しにくい、ハロゲンが残留しない、耐水性に弱いP等が残存しない、硬化後の密着性等の観点から、硝酸がより好ましい。
【0024】
透光性バインダーの含有割合は、後述する分散媒を除く透明膜用組成物:100質量部に対して、10〜90質量部であると好ましく、30〜80質量部であると、より好ましい。10質量部以上であれば、透明基板や透明電極膜と接着力が良好であり、90質量部以下であると成膜時の膜ムラが生じにくい。また、バインダーとして、金属アルコキシドを、触媒として硝酸を用いる場合には、金属アルコキシド:100質量部に対して、硝酸が1〜10質量部であると、バインダーの硬化速度、硝酸の残存量の観点から好ましい。
【0025】
透明膜組成物は、酸化物粒子を含むと好ましく、酸化物粒子は、透明膜中で、光電変換層からの戻り光を光電変換層側へ返す薄膜太陽電池内での光閉じ込め効果が生じさせ、太陽電池の変換効率を向上させ得る。また、酸化物粒子は、透光性、安定性、耐候性の観点からも好ましい。酸化物粒子としては、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物、屈折率:2);ATO(Antimony Tin Oxide:アンチモンドープ酸化錫、屈折率:2);Al、Co、Fe、In、Sn、およびTiからなる群より選ばれる少なくとも種の金属を含有するZnO粉末(屈折率:2);SiO(屈折率:1.45)、TiO(屈折率:2.7);ZrO(屈折率:2)が挙げられ、ITO、ZnO、ATOおよびTiOからなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物粒子を含むと好ましい。また、酸化物粒子の平均粒径は、分散媒中で安定性を保つため、10〜100nmの範囲内であることが好ましく、このうち、20〜60nmの範囲内であると、より好ましい。ここで、平均粒径は、QUANTACHROME AUTOSORB−1による比表面測定によるBET法と用いて測定する。
【0026】
酸化物粒子は、分散媒を除く透明膜用組成物:100質量部に対して、10〜90質量部であると好ましく、20〜70質量部であると、より好ましい。10質量部以上であれば、光電変換層からの戻り光を光電変換層側へ返す効果が期待できる、90質量部以下であると、透明膜自体の強度、および透明膜組成物が透明基板や透明電極膜との接着力を維持する。
【0027】
透明膜組成物は、成膜性を向上させるため、分散媒を含むと好ましい。分散媒としては、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類;トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類やエチレングリコール等のグリコール類;エチルセロソルブ等のグリコールエーテル類等が挙げられる。分散媒の含有量は、良好な成膜性を得るために、透明膜用組成物:100質量部に対して、65〜99質量部であると好ましい。
【0028】
また、透光性バインダーは、使用する他の成分に応じてカップリング剤を加えるのが好ましい。透明基板と透明膜の密着性、および透明膜と透明電極膜の密着性を向上し、さらに、透光性バインダーと酸化物粒子の密着性も向上するためである。カップリング剤としては、シランカップリング剤、アルミカップリング剤及びチタンカップリング剤などが挙げられる。
【0029】
シランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。アルミカップリング剤としては、式(1):
【0030】
【化1】
【0031】
で示されるアセトアルコキシ基を含有するアルミカップリング剤が挙げられる。また、チタンカップリング剤としては、式(2)〜(4):
【0032】
【化2】
【0033】
【化3】
【0034】
【化4】
【0035】
で示されるジアルキルピロリン酸基を有するチタンカップリング剤、また、式(5):
【0036】
【化5】
【0037】
で示されるジアルキルリン酸基を有するチタンカップリング剤が挙げられる。
【0038】
カップリング剤は、透明用組成物:100質量部に対して、0.01〜5質量部であると好ましく、0.1〜2質量部であると、より好ましい。0.01質量部以上であれば、透明基板や透明電極膜との接着力向上や、著しい酸化物粒子分散性の向上効果が見られ、5質量部より多いと、膜ムラが生じやすい。
【0039】
また、透明膜組成物は、使用する成分に応じて、水溶性セルロース誘導体を加えることが好ましい。水溶性セルロース誘導体は、非イオン化界面活性剤であるが、他の界面活性剤に比べて少量の添加でも透明導電性粒子を分散させる能力が極めて高く、また、水溶性セルロース誘導体の添加により、形成される透明膜の透明性も向上する。水溶性セルロース誘導体としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。水溶性セルロース誘導体の添加量は、透明膜用組成物:100質量部に対して、0.2〜5質量部が好ましい。
【0040】
なお、透明電極膜を透明膜用組成物と同様の組成物から形成することも可能であるが、透明電極膜用組成物は、硬化後の透明電極膜の屈折率が、透明膜の屈折率より高くなるように配合する。
【0041】
〔太陽電池用複合膜付き透明基板の製造方法〕
本発明の複合膜付き透明基板の製造方法は、透明基板、透明膜、および透明電極膜をこの順で有する太陽電池用複合膜付き透明基板の製造方法であって、透明基板上に、透明膜用組成物を、湿式塗工法により塗布して、透明塗膜を形成した後、透明塗膜を有する透明基板を、焼成または硬化して、透明膜を形成し、さらに、透明膜上に透明電極膜を形成する。
【0042】
透明基板及び透明電極膜は、上述のとおりである。
【0043】
透明膜用組成物は、上述の所望の成分を、常法により、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドミル、セントリミル、三本ロール等によって混合し、透光性バインダー、場合により酸化物粒子等を分散させ、製造することができる。無論、通常の攪拌操作によって製造こともできる。なお、酸化物粒子を除く成分を混合した後、別途予め分散させた酸化物粒子を含む分散媒と混合すると、均質な透明膜用組成物を得やすい観点から好ましい。
【0044】
まず、透明基板上に上記透明導電膜用組成物を、湿式塗工法により塗布する。ここでの塗布は、焼成後の厚さが、好ましくは0.01〜0.5μmとなるようにする。続いて、この塗膜を、温度20〜120℃、好ましくは25〜60℃で、1〜30分間、好ましくは2〜10分間乾燥する。このようにして透明塗膜を形成する。
【0045】
透明基板上に、透明膜用組成物を、湿式塗工法により塗布する方法は、スプレーコーティング法、ディスペンサーコーティング法、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、スリットコーティング法、インクジェットコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、またはダイコーティング法のいずれかであることが好ましいが、これに限られるものではなく、あらゆる方法を利用できる。
【0046】
スプレーコーティング法は、透明膜用組成物を圧縮エアにより霧状にして基材に塗布する、または分散体自体を加圧し霧状にして基材に塗布する方法であり、ディスペンサーコーティング法は、例えば、透明膜用組成物を注射器に入れ、この注射器のピストンを押すことにより注射器先端の微細ノズルから分散体を吐出させて、基材に塗布する方法である。スピンコーティング法は、透明膜用組成物を回転している基材上に滴下し、この滴下した透明膜用組成物を、その遠心力により基材周縁に拡げる方法であり、ナイフコーティング法は、ナイフの先端と所定の隙間をあけた基材を水平方向に移動可能に設け、このナイフより上流側の基材上に透明膜用組成物を供給して、基材を下流側に向って水平移動させる方法である。スリットコーティング法は、透明膜用組成物を狭いスリットから流出させて基材上に塗布する方法であり、インクジェットコーティング法は、市販のインクジェットプリンタのインクカートリッジに透明膜用組成物を充填し、基材上にインクジェット印刷する方法である。スクリーン印刷法は、パターン指示材として紗を用い、その上に作られた版画像を通して透明膜用組成物を基材に転移させる方法である。オフセット印刷法は、版に付けた透明膜用組成物を、直接基材に付着させず、版から一度ゴムシートに転写させ、ゴムシートから改めて基材に転移させる、透明膜用組成物の撥水性を利用した印刷方法である。ダイコーティング法は、ダイ内に供給された透明膜用組成物を、マニホールドで分配させてスリットより薄膜上に押し出し、走行する基材の表面を塗工する方法である。ダイコーティング法には、スロットコート方式やスライドコート方式、カーテンコート方式がある。
【0047】
最後に、透明塗膜を有する透明基板を、大気中または窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で、好ましくは130〜250℃、より好ましくは180〜220℃の温度で、5〜60分間、好ましくは15〜40分間保持して焼成する。
【0048】
塗膜を有する透明基板の焼成温度を130〜250℃の範囲としたのは、130℃未満では、透明膜において、硬化不足の不具合が生じるからである。また、250℃を越えると、低温プロセスという生産上のメリットを生かせない、すなわち、製造コストが増大し、生産性が低下してしまう。
【0049】
塗膜を有する基材の焼成時間を5〜60分間の範囲としたのは、焼成時間が下限値未満では、透明膜においてバインダー焼成が十分でない不具合が生じるからである。焼成時間が上限値を越えると、必要以上に製造コストが増大して生産性が低下してしまう不具合を生じるためである。
【0050】
さらに、透明膜上に透明電極膜を形成する方法は、特に限定されず、真空成膜法等の公知の方法でよい。
【0051】
以上により、本発明の太陽電池用複合膜付き基板を形成することができる。このように、本発明の製造方法は、透明膜の形成に湿式塗工法を使用することにより、真空蒸着法やスパッタ法などの真空プロセスを可能な限り排除できるため、より安価に透明膜を製造できる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
表1で示す組成(数値は、質量部を示す)になるように、合計が60gで、100cmのガラス瓶中に入れ、直径:0.3mmのジルコニアビーズ(ミクロハイカ、昭和シェル石油製):100gを用いて、ペイントシェーカーで6時間分散することにより、実施例1〜5、比較例2の透明膜組成物を作製した。ここで、バインダーとして用いたSiO結合剤1〜3、ノンポリマー型バインダー1、混合溶媒1は、以下のようにして、作製した。
【0054】
〔SiO結合剤1〕
50cmのガラス製の4つ口フラスコを用い、140gのテトラエトキシシランと、140gのエチルアルコールを加え、攪拌しながら、1.7gの60%硝酸を120gの純水に溶解した溶液を一度に加え、その後50℃で3時間反応させることにより製造した。
【0055】
〔SiO結合剤2〕
500cmのガラス製の4つ口フラスコを用い、85gのテトラエトキシシランと、100gのエチルアルコールを加え、攪拌しながら室温で、0.09gの60%硝酸を110gの純水に溶解した溶液を、チューブポンプを用いて10〜15分の時間をかけて投入した。その後、得られた混合溶液に、あらかじめ混合しておいた45gのアルミニウムトリ−sec−ブトキシドと、60gのエチルアルコールの混合溶液を、チューブポンプを用いて10〜15分の時間をかけて投入した。室温にて30分程度攪拌した後、50℃で3時間反応させることにより製造した。
【0056】
〔SiO結合剤3〕
50cmのガラス製の4つ口フラスコを用い、115gのテトラエトキシシランと、175gのエチルアルコールを加え、攪拌しながら、1.4gの35%塩酸を110gの純水に溶解した溶液を一度に加え、その後45℃で3時間反応させることにより製造した。
【0057】
〔ノンポリマー型バインダー1〕
ノンポリマー型バインダー1には、2−n−ブトキシエタノールと3−イソプロピル−2,4−ペンタンジオンの混合液を、ノンポリマー型バインダー2には、2,2−ジメチル−3,5−ヘキサンジオンとイソプロピルアセテートの混合液(質量比1:1)を用いた。
【0058】
〔混合溶媒1〕
混合溶媒1には、イソプロパノール、エタノール及びN,N−ジメチルホルムアミドの混合液(質量比4:2:1)を用いた。
【0059】
〔実施例1〜3、比較例2、参考例1、2
実施例1〜3、比較例2、参考例1、2の透明膜用組成物を、表1に示す湿式塗工法で、透明基板としての1mm厚のアルカリガラス基板に成膜後、200℃で30分間、大気中で焼成した。表1に、焼成後の透明膜の膜厚を示す。
【0060】
〔屈折率評価〕
屈折率評価については、実施例1〜3、比較例2、参考例1、2に示す透明導電膜用組成物について、光学定数が既知のアルカリガラス基板(1.54)に対して、湿式塗工法(スピンコーティング法、ダイコーティング法、オフセット印刷法)により透明膜を成膜後、200℃で30分焼成することにより、厚さ0.1〜2μmの透明膜を形成した。その膜に対して、分光エリプソメトリー装置(J.A.Woollam Japan(株)製 M−2000)を用いて測定し、透明膜部分についてデータを解析し、光学定数を求めた。解析した光学定数から、633nmの値を屈折率とした。表1に、これらの結果を示す。
【0061】
〔密着性評価〕
密着性評価については、テープテスト(JIS K−5600)に準ずる方法で評価した。屈折率を評価した試料を用いた。透明膜に対してテープを密着させ、剥がした際に、透明膜がはがれたり、めくれあがったりする状態の程度により、優・可・不可の3段階で評価した。テープ側に透明膜が張り付かず、接着テープのみがはがれた場合を優とし、接着テープの剥がれとアルカリガラス基板が露出した状態が混在した場合を可とし、接着テープの引き剥がしによりアルカリガラス基板表面の全面が露出した場合を不可とした。表1に、これらの結果を示す。
【0062】
〔発電特性の評価〕
太陽電池の発電特性の評価を行うために、図1に示すスーパーストレート型太陽電池1を作製した。屈折率の測定に使用した透明基板2の透明膜3上に、マグネトロンインライン式スパッタリング装置を用いるスパッタ法で、表面に凹凸テクスチャを有しかつF(フッ素)ドープされた厚さ:800nmの表面電極膜(SnO膜、屈折率:2.0)を、透明電極膜4として形成した。この透明電極膜4にはレーザー加工法を用いてパターニングすることによりアレイ状とするとともに、それらを電気的に相互接続する配線を形成した。次に透明電極膜4上にプラズマCVD法を用いて、光電変換層5を形成した。この光電変換層5は、この実施例では、透明基板2側から順に、p型a−Si:H(非晶質単価シリコン)、i型a−Si(非晶質シリコン)及びn型μc−Si(微結晶炭化シリコン)、からなる膜を積層して得た。光電変換層5を、レーザー加工法を用いてパターニングした。この光電変換層5上に、スパッタ法により、厚さ:80nmの透明導電層(ZnO層)(図示せず)と、厚さ:200nmのAg膜の反射電極膜6を形成した後、レーザー加工法を用いてパターニングし、スーパーストレート型太陽電池1を作製した。
【0063】
太陽電池セルの評価方法としては、レーザー加工法を用いてパターンニングを実施した加工後の基板にリード線配線を実施し、I−V特性カーブを確認した際の出力特性及び短絡電流密度である(Jsc)の値を、透明膜を形成しなかったこと以外は実施例と同様の製造方法にて得た光電変換層を用い、透明導電膜、導電性反射膜が全てスパッタ法により形成された比較例1の太陽電池セルを100とした際の相対出力評価を行った。表1に、これらの結果を示す。
【0064】
ここで、全てスパッタ法により形成された薄膜太陽電池セルとは、図1に示すように、先ず一方の主面に厚さ50nmのSiO2層(図示せず)が形成されたガラス基板を基板2として準備し、このSiO2層上に表面に凹凸テクスチャを有しかつF(フッ素)ドープされた厚さ800nmの透明電極膜(SnO膜)4を形成した。この透明電極膜4にはレーザー加工法を用いてパターニングすることによりアレイ状とするとともに、それらを電気的に相互接続する配線を形成した。次に透明電極膜4上にプラズマCVD法を用いて、光電変換層5を形成した。この光電変換層2は、この実施例では、基板2側から順に、p型a−Si:H(非晶質単価シリコン)、i型a−Si(非晶質シリコン)及びn型μc−Si(微結晶炭化シリコン)、からなる膜を積層して得た。上記光電変換層5を、レーザー加工法を用いてパターニングした後、スパッタ法により、光電変換層5上に、厚さ80nmの透明導電層(ZnO層)(図示せず)1及び厚さ200nmの反射電極膜(銀電極層)6を順次形成したものである。
【0065】
【表1】
【0066】
表1からわかるように、実施例1〜3のすべてにおいて、屈折率が1.65〜1.85であり、n(1.54)<n<n(2.0)を満たし、Jscが〜4%増加した。また、実施例1〜は、透明膜の密着性も良好であった。これに対して、屈折率が1.40と小さい比較例2では、Jscが5%低下した。透明基板と透明膜の界面で、入社した太陽光が反射したためである、と考えられる。
【0067】
本発明の太陽電池用複合膜付き基板は、湿式塗工法で透明基板上に塗布、焼成することができ、透明基板を通過した光の透明基板−透明電極膜界面での反射光を低減させることができるので、各種太陽電池の光電変換効率の向上に、非常に有用である。
【符号の説明】
【0068】
1 スーパーストレート型太陽電池
2 透明基板
3 透明膜
4 透明電極膜
5 光電変換層
6 反射電極膜
10 複合膜付き透明基板
図1