特許第5811055号(P5811055)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5811055
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月11日
(54)【発明の名称】バッテリシステム制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/14 20060101AFI20151022BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20151022BHJP
   H02H 7/18 20060101ALI20151022BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20151022BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20151022BHJP
【FI】
   H02J7/14 E
   H02J7/14 H
   H02J7/00 S
   H02H7/18
   H01M10/44 P
   H01M10/48 P
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-155287(P2012-155287)
(22)【出願日】2012年7月11日
(65)【公開番号】特開2014-18018(P2014-18018A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2014年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100155789
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(72)【発明者】
【氏名】片山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 成則
【審査官】 赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−234479(JP,A)
【文献】 特開2007−227321(JP,A)
【文献】 特開2011−15516(JP,A)
【文献】 特開2009−106118(JP,A)
【文献】 特開2011−50222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L1/00−3/12,
B60L7/00−13/00,
B60L15/00−15/42,
H01M10/42−10/48,
H02H7/00,
H02H7/10−7/20,
H02J7/00−7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力軸により駆動されて発電する発電機(10)と、前記発電機と並列に接続された電気負荷(42,43)と、前記発電機と並列に接続され前記発電機による発電電力を充電可能な鉛蓄電池(20)と、前記発電機と並列に接続され前記発電機による発電電力及び前記鉛蓄電池の放電電力を充電可能な高出力密度かつ高エネルギ密度の高性能蓄電池(30)と、前記発電機及び前記鉛蓄電池と前記高性能蓄電池との通電及び遮断を切り替える開閉スイッチ(50)と、を備え、前記高性能蓄電池の端子電圧が前記鉛蓄電池の端子電圧よりも低く制御されているバッテリシステムに適用され、
前記高性能蓄電池に流入する充電電流が判定値よりも小さいことを条件として、前記開閉スイッチの通電から遮断への切り替えを許可し、前記鉛蓄電池の内部抵抗が大きいほど前記判定値を小さく設定することを特徴とするバッテリシステム制御装置(80)。
【請求項2】
前記開閉スイッチを通電から遮断へ切り替える要求が発生した場合に、前記充電電流が前記判定値よりも小さくなるように、前記発電機による発電電力を減少させる請求項1に記載のバッテリシステム制御装置。
【請求項3】
前記エンジンの駆動中における前記高性能蓄電池の目標充電量を、前記高性能蓄電池が過放電及び過充電にならない適正範囲内で、且つ前記鉛蓄電池の内部抵抗が大きいほど多く設定する請求項1又は2に記載のバッテリシステム制御装置。
【請求項4】
前記鉛蓄電池の端子電圧と前記高性能蓄電池の端子電圧との電圧差が大きいほど前記充電電流が大きいとみなす請求項1〜3のいずれかに記載のバッテリシステム制御装置。
【請求項5】
前記鉛蓄電池の端子電圧が高いほど前記充電電流が大きいとみなす請求項1〜3のいずれかに記載のバッテリシステム制御装置。
【請求項6】
前記高性能蓄電池の端子電圧が低いほど前記充電電流が大きいとみなす請求項1〜3のいずれかに記載のバッテリシステム制御装置。
【請求項7】
前記バッテリシステムは、前記鉛蓄電池に並列接続されて前記鉛蓄電池から電力供給を受けて駆動するスタータモータ(41)を備え、
前記鉛蓄電池の内部抵抗は、前記スタータモータの駆動時における前記鉛蓄電池の電圧降下量に基づいて算出する請求項1〜6のいずれかに記載のバッテリシステム制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電機、電気負荷、鉛蓄電池及び高性能蓄電池を備えたバッテリシステムの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のように、安価であるが充放電に対する耐久性が低い鉛蓄電池と、高価であるが高出力且つ高エネルギ密度で充放電に対する耐久性が高い高性能蓄電池とを備え、エンジンを走行駆動源とする車両に搭載されるバッテリシステムが提案されている。
【0003】
上記バッテリシステムでは、発電機、電気負荷及び鉛蓄電池と高性能蓄電池とが、低コストの開閉スイッチを介して電気的に接続されている。そして、開閉スイッチの操作により、発電機、電気負荷及び鉛蓄電池と高性能蓄電池とが通電又は遮断に切り替えられ、二つの蓄電池が適切に使いわけられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−80706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、開閉スイッチを用いて発電機、電気負荷及び鉛蓄電池と高性能蓄電池とを電気的に接続すると、発電機又は鉛蓄電池から高性能蓄電池へ大電流が流れやすい。高性能蓄電池に大電流が流れている状態で、発電機、電気負荷及び鉛蓄電池と高性能蓄電池とを遮断すると、高性能蓄電池へ流れていた大電流が鉛蓄電池に吸収され、鉛蓄電池の端子電圧が急上昇する。特に、鉛蓄電池の内部抵抗が大きい場合は、鉛蓄電池の端子電圧の上昇量が大きくなり、鉛蓄電池の端子電圧が電気負荷の耐電圧を超えるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑み、開閉スイッチを介して電気的に接続された鉛蓄電池と高性能蓄電池とを備えたバッテリシステムにおいて、鉛蓄電池と高性能蓄電池とを遮断する場合に、鉛蓄電池の端子電圧の上昇量を抑制可能なバッテリシステム制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、バッテリシステム制御装置であって、エンジンの出力軸により駆動されて発電する発電機と、前記発電機と並列に接続された電気負荷と、前記発電機と並列に接続され前記発電機による発電電力を充電可能な鉛蓄電池と、前記発電機と並列に接続され前記発電機による発電電力及び前記鉛蓄電池の放電電力を充電可能な高出力密度かつ高エネルギ密度の高性能蓄電池と、前記発電機及び前記鉛蓄電池と前記高性能蓄電池との通電及び遮断を切り替える開閉スイッチと、を備え、前記高性能蓄電池の端子電圧が前記鉛蓄電池の端子電圧よりも低く制御されているバッテリシステムに適用され、前記高性能蓄電池に流入する充電電流が判定値よりも小さいことを条件として、前記開閉スイッチの通電から遮断への切り替えを許可し、前記鉛蓄電池の内部抵抗が大きいほど前記判定値を小さく設定する。
【0008】
請求項1に記載の発明は、発電機、電気負荷及び鉛蓄電池と高性能蓄電池とが開閉スイッチを介して接続されるとともに、互いに並列接続されたバッテリシステムに適用される。このようなバッテリシステムでは、高性能畜電池の端子電圧が鉛蓄電池の端子電圧よりも低く制御されているため、発電機及び鉛蓄電池と高性能蓄電池との通電時に、発電機又は鉛蓄電池から高性能蓄電池へ充電電流が流れる。そして、高性能蓄電池へ充電電流が流れている状態で開閉スイッチを通電から遮断へ切り替えると、高性能蓄電池へ流れていた充電電流は鉛蓄電池に吸収される。それゆえ、鉛蓄電池へ流れる電流が増加し、鉛蓄電池の端子電圧が急上昇する。鉛蓄電池の端子電圧の上昇量は、鉛蓄電池の内部抵抗及び鉛蓄電池へ流れる電流の増加量が大きいほど大きくなる。鉛蓄電池の端子電圧の上昇量が大きくなると、鉛蓄電池の端子電圧が電気負荷の耐電圧を超えてしまい、電気負荷が損傷するおそれがある。
【0009】
しかしながら請求項1に記載の発明は、高性能蓄電池に流入する充電電流が判定値よりも小さいことを条件として、開閉スイッチの通電から遮断への切り替えが許可される。そして、この判定値は、鉛蓄電池の内部抵抗が大きいほど小さく設定される。よって、開閉スイッチが通電から遮断へ切り替えられた場合には、内部抵抗が大きいほど鉛蓄電池に吸収される電流は小さくなる。したがって、発電機、電気負荷及び鉛蓄電池と高性能蓄電池とを遮断する場合に、鉛蓄電池の端子電圧の上昇量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係るバッテリシステムの構成を示す概略図。
図2】リチウム蓄電池のSOCの使用領域を示す図。
図3】充電時の鉛蓄電池の端子電圧と内部抵抗の関係を示す図。
図4】MOSスイッチの通電から遮断への切り替えを許可する処理手順を示したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、バッテリシステム制御装置を具現化した各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態にかかるバッテリシステムが搭載される車両は、エンジンを走行駆動源とし、所定の自動停止及び自動再始動条件を満たした場合に、エンジンを自動停止及び自動再始動させるアイドルストップ機能を有する。
【0012】
図1に本実施形態に係るバッテリシステムを示す。本実施形態に係るバッテリシステムは、オルタネータ10(発電機)と、鉛蓄電池20と、リチウム蓄電池30(高性能蓄電池)と、スタータモータ41と、電気負荷42,43と、回路を開閉して電流を通電又は遮断させる各種スイッチを備えている。各種スイッチは、MOSスイッチ50(開閉スイッチ),SMRスイッチ60,リレースイッチ70である。
【0013】
オルタネータ10と、鉛蓄電池20と、スタータモータ41と、電気負荷42とは、互いに電気的に並列接続されている。また、SMRスイッチ60とリチウム蓄電池30とが電気的に接続された直列体と、電気負荷43とは、互いに電気的に並列接続されている。そして、オルタネータ10,鉛蓄電池20,スタータモータ41及び電気負荷42と、SMRスイッチ60及び電気負荷43との間には、MOSスイッチ50が接続されている。
【0014】
オルタネータ10は、クランク軸の回転エネルギにより駆動されて発電する。オルタネータ10のロータがクランク軸により回転されると、ロータコイルに流れる励磁電流に応じてステータコイルに交流電流が誘起される。誘起された交流電流は整流器により直流電流に変換される。そして、ロータコイルに流れる励磁電流をレギュレータが調整することで、発電された直流電流の電圧を設定電圧Vregにしている。また、本実施形態では、車両の回生エネルギによりオルタネータ10を発電させる減速回生を行っている。この減速回生は、車両が減速状態であること、エンジンへの燃料噴射をカットしていること等の条件が成立した時に実施される。オルタネータ10が発電した電力は、電気負荷42,43へ供給されるとともに、鉛蓄電池20及びリチウム蓄電池30へ供給される。
【0015】
鉛蓄電池20は、周知の汎用蓄電池である。一方、リチウム蓄電池30は、鉛蓄電池20と比べて、高出力密度かつ高エネルギ密度であるとともに頻繁な充放電に対する耐性が高い高性能蓄電池である。鉛蓄電池20及びリチウム蓄電池30はどちらも複数の電池セルを直列接続して構成されているが、安価な鉛蓄電池20はリチウム蓄電池30よりも大きな蓄電容量に構成されている。大容量の鉛蓄電池20から大電力を必要とするスタータモータ41へ電力供給することで、リチウム蓄電池30を小容量化し、コストアップを抑制している。
【0016】
また、鉛蓄電池20は、鉛蓄電池20から流出又は流入する電流を検出する電流センサ21と、鉛蓄電池20の端子電圧を検出する電圧センサ22とを備えている。一方、リチウム蓄電池30は、リチウム蓄電池30から流出又は流入する電流を測定する電流センサ31と、リチウム蓄電池30の端子電圧を検出する電圧センサ32を備えている。各センサにより検出された検出値はECU80(バッテリシステム制御装置)に送信される。
【0017】
ECU80は、本実施形態におけるバッテリシステム制御装置であり、CPUとメモリ(ROM、RAM)等からなる周知のマイクロコンピュータとして構成されている。ECU80は、取得した検出値に基づいて鉛蓄電池20及びリチウム蓄電池30のSOC(State of charge:満充電時の充電量に対する実際の充電量の割合)を算出し、鉛蓄電池20及びリチウム蓄電池30のSOCが適正範囲になるようにバッテリシステムを制御する。SOCの適正範囲とは蓄電池が過放電及び過充電にならない範囲のことであり、例えば、鉛蓄電池20のSOCの適正範囲は88%〜92%、リチウム蓄電池30のSOCの適正範囲は35%〜80%になる。ECU80は、鉛蓄電池20及びリチウム蓄電池30が過放電及び過充電とならないように、オルタネータ10の設定電圧Vregを調整するとともに、MOSスイッチ50の作動を制御する。
【0018】
リチウム蓄電池30の電圧特性(開放電圧とSOCとの関係)は、鉛蓄電池20及びリチウム蓄電池30をそれぞれのSOCの適正範囲で使用した場合に、リチウム蓄電池30の端子電圧が鉛蓄電池20の端子電圧よりも低くなるように設定されている。このようなリチウム蓄電池30の電圧特性は、リチウム蓄電池30の正極活物質、負極活物質及び電解液の組み合わせを選定することで実現することができる。例えば、正極活物質はLiCoO2,LiMn204,LiO2,LiFePO4等のリチウム金属複合酸化物から、負極活物質はカーボンやグラファイト、チタン酸リチウム、Si又はSuを含有する合金等から、電解液は有機電解液から選定する。
【0019】
スタータモータ41は、運転手による始動時及び自動再始動時にエンジンを始動させるためのモータである。スタータモータ41の回転軸は、図示しないエンジンのクランク軸と接続されている。スタータモータ41は、運転手による始動時及び自動再始動時に、鉛蓄電池20から電力供給を受けて駆動して、エンジンのクランク軸に初期回転を付与する。
【0020】
電気負荷43は、供給電力の電圧が概ね一定、又は少なくとも所定範囲内で変動するように安定であることが要求される定電圧要求電気負荷である。電気負荷43の具体例としてはナビゲーション装置やオーディオ装置が挙げられる。例えば、供給電力の電圧が一定ではなく大きく変動している場合、あるいは所定範囲を超えて大きく変動している場合には、電圧が瞬時的に最低動作電圧よりも低下するとナビゲーション装置等の作動がリセットする不具合が生じる。そこで、電気負荷43へ供給される電力は、電圧が最低動作電圧よりも低下することのない一定の値に安定していることが要求される。
【0021】
電気負荷42は、電気負荷43及びスタータモータ41以外の一般的な電気負荷である。電気負荷42の具体例としては、ヘッドライト、フロントウインドシールド等のワイパ、空調装置の送風ファン、リヤウインドシールドのデフロスタ用ヒータ等が挙げられる。
【0022】
MOSスイッチ50は、2つのMOSFETからなる半導体スイッチであり、オルタネータ10,スタータモータ41,電気負荷42及び鉛蓄電池20と、電気負荷43及びSMRスイッチ60と、の間に設けられている。よって、SMRスイッチ60を通電(オン)にした状態において、MOSスイッチ50は、オルタネータ10,スタータモータ41,電気負荷42及び鉛蓄電池20と、電気負荷43及びリチウム蓄電池30と、の通電(オン)及び遮断(オフ)を切り替えるスイッチとして機能する。MOSスイッチ50のオン(導通)とオフ(遮断)との切り替えは、ECU80により行われる。
【0023】
また、2つのMOSFETは、寄生ダイオードが互いに逆向きになるように直列に接続されている。そのため、2つのMOSFETをオフさせた場合に、それぞれの寄生ダイオードを通じて電流が流れることを完全に遮断できる。よって、2つのMOSFETをオフにすれば、リチウム蓄電池30から鉛蓄電池20の側に放電されることも、鉛蓄電池20の側からリチウム蓄電池30へ充電されることも回避できる。
【0024】
SMRスイッチ60は、MOSスイッチ50と同様に、2つのMOSFETからなる半導体スイッチであり、MOSスイッチ50及び電気負荷43と、リチウム蓄電池30との間に設けられている。SMRスイッチ60は、MOSスイッチ50がオンにされた状態で、オルタネータ10及び電気負荷42,43とリチウム蓄電池30との通電(オン)及び遮断(オフ)を切り替えるスイッチとして機能する。すなわち、SMRスイッチ60は、バッテリシステムに異常が発生した場合に、バッテリシステムからリチウム蓄電池30を切り離す非常用のスイッチとして機能する。
【0025】
SMRスイッチ60のオン(導通)とオフ(遮断)との切り替えは、ECU80により実施される。SMRスイッチ60は、通常時には、ECU80からオン信号を常時受信することでオン状態に保持される。そして、異常時には、ECU80からオン信号の出力が停止されて、SMRスイッチ60はオフに切り替えられ、リチウム蓄電池30は保護される。異常時の具体例として、オルタネータ10の故障や、オルタネータ10とリチウム蓄電池30とを接続する配線の断線などが挙げられる。
【0026】
リレースイッチ70は、MOSスイッチ50を挟んで両側を接続するバイパス経路71に設けられている。リレースイッチ70は、ノーマリクローズ式の電磁リレーである。リレースイッチ70は、MOSスイッチ50やECU80に異常(故障)が発生した場合に使用される非常時通電手段であり、通常時(非故障時)は、ECU80から励磁電流の入力を受けることでオフ状態になっている。そして、例えばECU80に異常が発生して、MOSスイッチ50にオン信号を出力できなくなるとともに、リレースイッチ70に励磁電流を出力できなくなると、リレースイッチ70がオンに切り替えられる。これにより、バイパス経路71が導通されるので、電気負荷43はバイパス経路71を介して、オルタネータ10及び鉛蓄電池20の少なくとも一方から電力の供給を受けることができる。
【0027】
なお、リチウム蓄電池30と、MOSスイッチ50と、SMRスイッチ60と、リレースイッチ70と、ECU80とは、収納ケースに収容されることで一体化され、電池ユニットUとして構成されている。
【0028】
次に、エンジンの運転状況に応じて、MOSスイッチ50のオンオフを切り替える態様について説明する。なお、上述したように、SMRスイッチ60は通常時にはオン状態に保持されている。
【0029】
定常走行時や加速走行時、アイドル運転時等の非回生の発電時には、リチウム蓄電池30のSOCに応じてMOSスイッチ50のオンオフを切り替える。図2は、リチウム蓄電池30のSOCの使用領域を示している。上限閾値Th1〜下限閾値Th2の範囲は、リチウム蓄電池30のSOCが過放電及び過充電にならない適正範囲である。この上限閾値Th1〜下限閾値Th2の範囲内で、エンジン運転中におけるリチウム蓄電池30の目標SOC(目標充電量)を設定する。なお、上限閾値Th1、下限閾値Th2及び目標SOCは、MOSスイッチ50のハンチング動作を回避するために、SOCの増加時と減少時およびエンジン状態により異なる値となるように設定されている。
【0030】
リチウム蓄電池30のSOCが目標SOCよりも小さい場合には、MOSスイッチ50をオンにする。リチウム蓄電池30の端子電圧が鉛蓄電池20の端子電圧よりも低くなるように制御されていると、オルタネータ10又は鉛蓄電池20からリチウム蓄電池30へ充電される。そして、リチウム蓄電池30のSOCが目標SOCよりも大きくなった場合には、MOSスイッチ50をオフにしてリチウム蓄電池30の充電を禁止させるとともに、リチウム蓄電池30から電気負荷43へ放電させる。この場合、オルタネータ10又は鉛蓄電池20から電気負荷42へ電力が供給される。
【0031】
また、減速回生を行っている時には、MOSスイッチ50をオン状態にする。減速回生時には、リチウム蓄電池30のSOCが目標SOCよりも大きい場合であっても、上限閾値Th1よりも小さい場合には、MOSスイッチ50をオン状態にする。リチウム蓄電池30の端子電圧が鉛蓄電池20の端子電圧よりも低くなるように制御されていると、減速回生による発電電力は、主にリチウム蓄電池30に充電される。そして、リチウム蓄電池30のSOCが上限閾値Th1よりも大きくなった場合には、MOSスイッチ50をオフにしてリチウム蓄電池30の過充電を防止する。したがって、目標SOC〜上限閾値Th1の範囲は、回生発電用のマージンとして使用される。なお、減速回生時の発電電力の一部は、電気負荷42,43により消費されるとともに鉛蓄電池20へ充電される。
【0032】
さらに、アイドルストップ機能による自動停止時には、MOSスイッチ50をオフに切り替える。これにより、電気負荷42は鉛蓄電池20から電力を供給され、電気負荷43はリチウム蓄電池30から電力を供給される。そして、MOSスイッチ50をオフにした状態で、エンジンを自動再始動させる。スタータモータ41とリチウム蓄電池30とは遮断しており、スタータモータ41と鉛蓄電池20とは通電しているので、スタータモータ41は、鉛蓄電池20から電力供給を受けて駆動される。よって、リチウム蓄電池30から大電力を消費するスタータモータ41へ放電されることはなく、リチウム蓄電池30が過放電になることが防止される。また、アイドルストップ機能による自動停止中に、リチウム蓄電池30のSOCが下限閾値Th2より少なくなった場合には、エンジンを再始動させ、MOSスイッチ50をオンにしてリチウム蓄電池30を充電する。
【0033】
ところで、リチウム蓄電池30の端子電圧が鉛蓄電池20の端子電圧よりも低く制御されていると、MOSスイッチ50がオンの時は常に、オルタネータ10又は鉛蓄電池20からリチウム蓄電池30へ充電電流が流れる。リチウム蓄電池30へ充電電流が流れている状態でMOSスイッチ50をオンからオフへ切り替えると、リチウム蓄電池30へ流れていた充電電流は鉛蓄電池20に吸収され、鉛蓄電池20へ流れる充電電流が増加する。
【0034】
充電時の蓄電池の端子電圧は、Vc=Vo+R×Icで表される。Vcは充電時の蓄電池の端子電圧、Voは開放電圧、Rは内部抵抗、Icは充電電流である。開放電圧Voは、蓄電池に電流が流れていない時の電圧である。よって、図3に示すように、充電電流を一定とすると、鉛蓄電池20の端子電圧は、内部抵抗が大きいほど大きくなる。また、内部抵抗を一定とすると、鉛蓄電池20の端子電圧は、充電電流が大きいほど大きくなる。したがって、リチウム蓄電池30へ充電電流が流れている状態でMOSスイッチ50をオンからオフへ切り替えると、鉛蓄電池20の内部抵抗及び鉛蓄電池20へ流れる充電電流の増加量が大きいほど、鉛蓄電池20の端子電圧は大きく上昇する。鉛蓄電池20の端子電圧の上昇量が大きくなると、鉛蓄電池20の端子電圧が電気負荷42,43の耐電圧を超えてしまい、電気負荷42,43が損傷するおそれがある。
【0035】
そこで、リチウム蓄電池30へ流入する充電電流が小さいことを条件として、MOSスイッチ50のオンからオフへの切り替えを許可するようにした。図4に、MOSスイッチ50の通電から遮断への切り替えを許可する処理手順を示す。本処理手順は、1トリップ中にECU80により所定の間隔で繰り返し実行される。
【0036】
まず、S11において、鉛蓄電池20の内部抵抗を算出する。内部抵抗は、鉛蓄電池20の劣化が大きいほど大きくなるとともに、温度が低いほど大きくなる。具体的な内部抵抗の算出方法としては、例えば、スタータモータ41が駆動された時に検出された鉛蓄電池20の電圧降下量に基づいて算出する方法がある。放電時の蓄電池の端子電圧は、Vd=Vo−R×Idで表される。Vdは放電時の蓄電池の端子電圧、Idは放電電流である。放電時の電圧降下量は、内部抵抗と放電電流とから決まる。スタータモータ41の駆動時に鉛蓄電池20からスタータモータ41へ流れる電流はほぼ一定であるから、スタータモータ41の駆動時における鉛蓄電池20の電圧降下量は、鉛蓄電池20の内部抵抗の大きさに依存する。したがって、スタータモータ41の駆動時における鉛蓄電池20の電圧降下量から、鉛蓄電池20の内部抵抗を算出することができる。なお、エンジンの自動停止後に自動再始動するまでは、同じ検出値から、鉛蓄電池20の内部抵抗が算出される。
【0037】
次に、S12において、リチウム蓄電池30へ流入する充電電流が小さいかどうか判定するための判定値Ijを設定する。リチウム蓄電池30へ流入する充電電流の検出値が判定値Ijより小さい場合に、充電電流が小さいとみなす。そこで、鉛蓄電池20の内部抵抗が大きいほどMOSスイッチ50を通電から遮断に切り替えたときに鉛蓄電池20に吸収される電流が小さくなるように、すなわち鉛蓄電池20の内部抵抗が大きい場合であっても鉛蓄電池20の端子電圧の上昇量を抑制するように判定値Ijを設定する。したがって、S11で算出された鉛蓄電池20の内部抵抗が大きいほど、判定値Ijを小さく設定する。
【0038】
さらに、S12において、リチウム蓄電池30へ流入する充電電流が小さいか判定するための別の判定値Vjを設定する。鉛蓄電池20の端子電圧とリチウム蓄電池30の端子電圧との電圧差が大きいほど、鉛蓄電池20からリチウム蓄電池30へ流れる充電電流は大きくなる。すなわち、鉛蓄電池20の端子電圧とリチウム蓄電池30の端子電圧との電圧差が大きいほど、リチウム蓄電池30へ流入する充電電流が大きいとみなすことができる。よって、鉛蓄電池20の端子電圧とリチウム蓄電池30の端子電圧とから算出された電圧差が判定値Vjより小さい場合に、リチウム蓄電池30へ流入する充電電流が小さいとみなす。したがって、判定値Ijと同様に、S11で算出された鉛蓄電池20の内部抵抗が大きいほど、判定値Vjを小さく設定する。
【0039】
続いて、S13において、S11で算出された鉛蓄電池20の内部抵抗が大きいほど、リチウム蓄電池30の目標SOCを高く(目標充電量を多く)設定する。リチウム蓄電池30の端子電圧は、リチウム蓄電池30のSOCと相関があり、SOCが高いほど高くなる。そして、リチウム蓄電池30の端子電圧が高いほど、鉛蓄電池20からリチウム蓄電池30へ流入する充電電流は小さくなる。すなわち、リチウム蓄電池30のSOCが高いほど、鉛蓄電池20からリチウム蓄電池30へ流入する充電電流は小さくなる。
【0040】
続いて、S14において、MOSスイッチ50を通電から遮断へ切り替える要求があるかどうか判定する。要求がない場合は(NO)、そのまま本処理を終了する。要求がある場合は(YES)、S15の処理に進む。
【0041】
S15では、リチウム蓄電池30へ流入する充電電流が、判定値Ijより小さくなるように、オルタネータ10の発電電力を減少させる。
【0042】
続いて、S16では、電流センサ31により、リチウム蓄電池30へ流入する充電電流を検出する。
【0043】
続いて、S17では、電圧センサ22及び電圧センサ32により、鉛蓄電池20の端子電圧及びリチウム蓄電池30の端子電圧を検出する。そして、それぞれの検出値から、鉛蓄電池20の端子電圧とリチウム蓄電池30の端子電圧と電圧差を算出する。
【0044】
続いて、S18では、S16で検出された充電電流がS12で設定した判定値Ijよりも小さいか判定するとともに、S17で算出された電圧差がS12で設定した判定値Vjよりも小さいか判定する。リチウム蓄電30へ流入する充電電流が小さいという条件を満たすかという判定を二つ行うことで、判定の信頼性を高めている。
【0045】
S16で検出された充電電流が判定値Ijより小さく、且つS17で算出された電圧差が判定値Vjより小さい場合には(YES)、S19の処理に進む。それ以外の場合には(NO)、S14の処理に戻り、S18で肯定判定されるまで、S14〜S18の処理を繰り返し実行する。
【0046】
続いて、S19では、MOSスイッチ50を通電から遮断へ切り替える許可がされる。リチウム蓄電池30に流入する充電電流が小さいことを条件として、MOSスイッチ50を通電から切り替える許可がされるので、MOSスイッチ50を通電から遮断へ切り替えた場合に鉛蓄電池20に吸収される電流を小さく制御できる。以上で、本処理を終了する。
【0047】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0048】
・リチウム蓄電池30に流入する充電電流の検出値が判定値Ijよりも小さいこと、及び鉛蓄電池20の端子電圧とリチウム蓄電池30の端子電圧とから算出した電圧差が判定値Vjよりも小さいことを条件として、MOSスイッチ50の通電から遮断への切り替えが許可される。そして、この判定値Ij,Vjは、鉛蓄電池20の内部抵抗が大きいほど小さく設定される。よって、MOSスイッチ50が通電から遮断へ切り替えられた場合には、内部抵抗が大きいほど鉛蓄電池20に吸収される電流は小さくなる。したがって、オルタネータ10、電気負荷42,43及び鉛蓄電池20とリチウム蓄電池30とを遮断する場合に、鉛蓄電池20の端子電圧の上昇量を抑制することができる。
【0049】
・MOSスイッチ50を通電から遮断へ切り替える要求が発生した場合に、オルタネータ10による発電電力を減少させると、オルタネータ10からリチウム蓄電池30へ流れる充電電流が減少する。よって、リチウム蓄電池30へ流入する充電電流が減少し、MOSスイッチ50の通電から遮断への切り替えを許可されやすくできる。
【0050】
・リチウム蓄電池30の目標SOCを高くすると、リチウム蓄電池30のSOCが高い状態(充電量が多い状態)に維持され易くなり、鉛蓄電池20からリチウム蓄電池30へ流入する充電電流が小さくなる。したがって、鉛蓄電池20の内部抵抗が大きいほど、鉛蓄電池20からリチウム蓄電池30へ流入する充電電流を小さく制御することができ、ひいてはMOSスイッチ50を通電から遮断へ切り替えた場合に鉛蓄電池20に吸収される電流を、小さく制御することができる。
【0051】
・リチウム蓄電池30の目標SOCを高くするとともにオルタネータ10の発電電力を減少させることにより、オルタネータ10及び鉛蓄電池20からリチウム蓄電池30へ流入する充電電流を小さく制御することができ、ひいてはMOSスイッチ50を通電から遮断へ切り替えた場合に鉛蓄電池20に吸収される電流を、確実に小さく制御することができる。
【0052】
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。
【0053】
・電流センサ31により検出された検出値と判定値Ijとの比較のみで、リチウム蓄電池30へ流入する充電電流が小さいことを判定してもよい。このようにしても、リチウム蓄電池30へ流入する充電電流が小さいことを判定できる。
【0054】
・鉛蓄電池20の端子電圧とリチウム蓄電池30の端子電圧との電圧差を算出せず、簡易的に、鉛蓄電池20の端子電圧が高いほどリチウム蓄電池30へ流入する充電電流が大きいとみなしてもよい。これにより、リチウム蓄電池30へ流入する充電電流が小さいか判定する処理を簡易化することができる。
【0055】
・鉛蓄電池20の端子電圧とリチウム蓄電池30の端子電圧との電圧差を算出せず、簡易的に、リチウム蓄電池30の端子電圧が低いほどリチウム蓄電池30へ流入する充電電流が大きいとみなしてもよい。これにより、リチウム蓄電池30へ流入する充電電流が小さいか判定する処理を簡易化することができる。
【0056】
・高出力密度かつ高エネルギ密度の高性能蓄電池としてニッケル蓄電池やキャパシタ、AGM(Absorbent Glass Mat)畜電池を採用してもよい。
【0057】
・上記各実施形態では、MOSスイッチ50及びSMRスイッチ60として、PINダイオードやサイリスタから構成される半導体スイッチや、ソリッドステートリレー、電磁リレー等を採用してもよい。
【0058】
・電気負荷42を、電気負荷43と一緒にMOSスイッチ50とSMRスイッチ60との間に接続してもよい。このようにすると、MOSスイッチ50をオフした場合には、リチウム蓄電池30から電気負荷42,43へ電力が供給される。
【0059】
・上記実施形態に係るバッテリシステムは、アイドルストップ機能を有していない車両に搭載されていてもよい。
【符号の説明】
【0060】
10…オルタネータ、20…鉛蓄電池、30…リチウム蓄電池、41…スタータモータ、42…電気負荷、43…電気負荷、50…MOSスイッチ、60…SMRスイッチ、80…ECU。
図1
図2
図3
図4