(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5811246
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月11日
(54)【発明の名称】DC−DCコンバータ
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20151022BHJP
【FI】
H02M3/155 C
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-151351(P2014-151351)
(22)【出願日】2014年7月25日
【審査請求日】2015年2月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102500
【氏名又は名称】SMK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095636
【弁理士】
【氏名又は名称】早崎 修
(72)【発明者】
【氏名】飴井 俊裕
【審査官】
松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−111254(JP,A)
【文献】
特開2013−255304(JP,A)
【文献】
特開2012−135149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次巻線と二次出力巻線を有するトランスと、
一次巻線を励磁する直流電源の低圧側端子と一次巻線との間に直列に接続されたスイッチングトランジスタと、
所定周期でスイッチングトランジスタを開閉制御するドライブ信号をスイッチングトランジスタの制御端子へ出力するドライブ回路と、
トランスの二次側の一対の高圧側出力線と低圧側出力線間の出力電圧に応じてドライブ信号によるスイッチングトランジスタの閉時間を制御し、出力電圧を定電圧制御する定電圧制御回路とを備えたDC−DCコンバータであって、
スイッチングトランジスタの一次巻線との接続側の接続点Aの電圧Vdと、スイッチングトランジスタがスイッチング動作している間の接続点Aの電圧Vdの変動範囲で任意に設定する閾値電圧Vthとを比較する比較回路と、
ドライブ回路から出力されるドライブ信号と非同期で、比較回路が電圧Vdと閾値電圧Vthを比較した極性が、少なくともスイッチングトランジスタが開閉する前記所定周期内に変化しない場合に、能動状態でのスイッチングトランジスタの動作と判定する異常判定回路とを備えたことを特徴とするDC−DCコンバータ。
【請求項2】
一次巻線と一次副巻線と二次出力巻線を有するトランスと、
一次巻線を励磁する直流電源の低圧側端子と一次巻線との間に直列に接続されたスイッチングトランジスタと、
所定周期でスイッチングトランジスタを開閉制御するドライブ信号をスイッチングトランジスタの制御端子へ出力するドライブ回路と、
トランスの二次側の一対の高圧側出力線と低圧側出力線間の出力電圧に応じてドライブ信号によるスイッチングトランジスタの閉時間を制御し、出力電圧を定電圧制御する定電圧制御回路とを備えたDC−DCコンバータであって、
一次副巻線の一端が前記直流電源の低圧側端子又は高圧側端子に接続されており、スイッチングトランジスタがスイッチング動作している間の一次副巻線の他端の電圧Vdの変動範囲で任意に設定する閾値電圧Vthとを比較する比較回路と、
ドライブ回路から出力されるドライブ信号と非同期で、比較回路が電圧Vdと閾値電圧Vthを比較した極性が、少なくともスイッチングトランジスタが開閉する前記所定周期内に変化しない場合に、能動状態でのスイッチングトランジスタの動作と判定する異常判定回路とを備えたことを特徴とするDC−DCコンバータ。
【請求項3】
異常判定回路が能動状態でのスイッチングトランジスタの動作と判定した際に、前記直流入力電源と一次巻線間に接続される非常停止スイッチを開制御する保護回路を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のDC−DCコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電圧を負荷に適した安定した直流電圧へ変換するDC−DCコンバータに関し、更に詳しくは、スイッチングトランジスタの開閉動作によりトランスの一次巻線に流れる電流を断続し、トランスの一次側の直流入力電圧を異なる直流出力電圧に変換してトランスの二次側から出力する絶縁型DC−DCコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
DC−DCコンバータは、直流の入力電圧を異なる直流出力電圧に変換して負荷へ出力するもので、ノート型パソコンなど種々の電気製品内の異なる直流電圧で動作する電子回路毎に備えられ、入力電圧をその電子回路が必要とする安定した直流電圧に変換して出力する。DC−DCコンバータは、その動作原理から、インダクタに流れる電流をスイッチングトランジスタで断続し、直流入力電圧を異なる電圧や極性の直流出力電圧に変換する非絶縁型とトランスで入力電圧を昇降する絶縁型とに分けられるが、直流入力電圧との電位差が大きい出力電圧に変換する変換器として、携帯電話機、携帯音楽プレーヤ等の携帯電子機器の充電器やACアダプタには、絶縁型DC−DCコンバータが採用されている。
【0003】
図4は、この従来の絶縁型DC−DCコンバータの一例のフライバックコンバータ100を示すもので、図中、10aは、直流電源1の高圧側端子、10bは、低圧側端子であり、11aは、トランス11の一次巻線、11bは、トランス11の二次出力巻線である。直流電源10に対してトランス11の一次巻線11aと直列に接続されるスイッチングトランジスタTr1は、例えばFET(電界効果トランジスタ)で構成され、ドライブ回路3からスイッチングトランジスタTr1のゲートに出力されるドライブ信号により開閉制御される。スイッチングトランジスタTr1が閉じ制御(オン制御)され、飽和状態で動作している間は、直流入力電源10からトランス11の一次巻線11aに励磁電流が流れ、スイッチングトランジスタTr1が開制御(オフ制御)されると、閉じ制御期間中に一次巻線11aに流れる励磁電流によりトランス11に蓄積された電力が、二次出力巻線11bから放出される。
【0004】
トランス11の二次側には、整流平滑化回路を構成する整流用ダイオード15と平滑コンデンサ16が設けられ、二次出力巻線11bの出力を整流平滑化して、直流電源1の入力電圧Vinを高圧側出力線20aと低圧側出力線20b間の出力電圧Voに変換して高圧側出力線20aと低圧側出力線20b間に接続する負荷へ出力している。一対の出力線20a、20b間には、その出力電圧Voを負荷の定格に合わせて設定する設定電圧と比較して監視する電圧監視回路12が設けられ、定電圧制御回路を構成するトランス11の二次側の電圧監視回路12と一次側のドライブ回路3とが、フォトカップリングするフォトカプラ発光素子13とフォトカプラ受光素子14により接続されている。
【0005】
電圧監視回路12は、高圧側出力線20aと低圧側出力線20b間の出力電圧Voが設定電圧を越えている限り、フォトカプラ発光素子13を発光制御し、フォトカプラ受光素子14はフォトカプラ発光素子13からの発光を受光すると、ドライブ回路3へ出力電圧Voが設定電圧を超えている状態を示すリミット信号を出力する。トランス11に蓄積される電力に応じて増減する出力電圧Voは、単位時間中のスイッチングトランジスタTr1の閉じ制御時間の増減により制御できるので、ドライブ回路3は、リミット信号でPWM変調やPFM変調してドライブ信号のオンデューティを可変制御し、フォトカプラ受光素子14からリミット信号を受けている間に、スイッチングトランジスタTr1を閉じ制御するドライブ信号のオンデューティを低下させ、リミット信号を受けていない間、オンデューティを増加させる。
【0006】
これにより、例えば、出力電圧Voが設定電圧を超えている場合には、ドライブ回路3からオンデューティを低下させたドライブ信号がスイッチングトランジスタTr1のゲートに出力され、単位時間内のオン制御時間が短縮されるので、出力電圧Voが低下する。逆に、出力電圧Voが設定電圧より低い場合には、オンデューティが増加したドライブ信号がスイッチングトランジスタTr1のゲートに出力され、単位時間内のオン制御時間が延長されるので、出力電圧Voは、設定電圧を超えるまで上昇し、これを繰り返して出力電圧Voは所定の設定電圧に定電圧制御される。
【0007】
一般にこの種のDC−DCコンバータには、過負荷や出力線の短絡などの予期しない異常動作状態になると、負荷の回路が破損したり、火災等の危険があるので、出力電圧の低下や出力電流の異常上昇等を検知して、出力線20a、20bを遮断する保護回路が設けられている(特許文献1、2)。
【0008】
また、トランス11の一次巻線11aと直列にヒューズを接続し、一次巻線11aに流れ電流が所定の電流定格を超えた場合にヒューズで電流を遮断する保護回路を設けたDC−DCコンバータも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−244659号公報
【特許文献2】特開平6−284714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような構成のDC−DCコンバータ100は、落雷など何らかの原因で、ドライブ回路3のPWM変調やPFM変調を行う変調回路等が故障し、スイッチングトランジスタTr1のゲート(ベース)に一定電位のドライブ信号が出力され、スイッチング動作を停止して直流バイアス状態で動作し続ける場合があった。このとき、スイッチングトランジスタTr1は能動状態で動作し、直流電源10から、直列に接続されたトランス11の一次巻線11aとスイッチングトランジスタTr1の抵抗値で決定される電流が流れ続ける。
【0011】
しかしながら、スイッチングトランジスタTr1でのスイッチング損失をできる限り低下させて高効率に入力電圧を直流出力電圧に変換するDC−DCコンバータにおいては、放熱対策を講じたパワーMOSやパワー・トランジスタを用いるシリーズレギュレータと異なり、オン抵抗により発生する熱エネルギーを発散できないので、スイッチングトランジスタTr1が発熱して火災が発生するという重大事故発生の危険があった。
【0012】
一方、スイッチングトランジスタTr1が能動状態で動作していても、負荷による電力消費で出力電圧や出力電流は低下し、異常動作と判定する判定値を超えることがないので、特許文献1、2等に記載の保護回路では、上記異常動作を検知することができず、更に、多くのDC−DCコンバータが電気製品の筐体内に配置されることから、スイッチングトランジスタTr1の異常発熱を外部から目視や感触で検知できず、電気製品の内部から発火するまで異常動作を発見できない恐れがあった。
【0013】
また、トランス11の一次巻線11aと直列にヒューズを接続したDC−DCコンバータであっても、スイッチングトランジスタTr1が能動状態で動作する際に流れる電流は、ヒューズの電流定格を超えず、ヒューズによりその電流を遮断することもできなかった。
【0014】
すなわち、ドライブ回路3の変調回路等が故障して、スイッチングトランジスタTr1を能動状態とするドライブ信号が連続して出力される現象は極めて希であるが、一度そのような故障が生じると、従来のDC−DCコンバータではこれを検知することができず高い確率で火災事故に至るという極めて重大な問題があった。
【0015】
本発明は、このような従来の問題点を考慮してなされたものであり、簡単な回路構成でスイッチングトランジスタTr1の能動状態での異常動作を検知するDC−DCコンバータを提供することを目的とする。
【0016】
また、既存のDC−DCコンバータの構成を変更することなく、能動状態で動作するスイッチングトランジスタTr1が異常発熱する前に直流入力電源からの入力を停止し、火災の発生を未然に防止するDC−DCコンバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の目的を達成するため、請求項1に記載のDC−DCコンバータは、一次巻線と二次出力巻線を有するトランスと、一次巻線を励磁する直流電源の低圧側端子と一次巻線との間に直列に接続されたスイッチングトランジスタと、所定周期でスイッチングトランジスタを開閉制御するドライブ信号をスイッチングトランジスタの制御端子へ出力するドライブ回路と、トランスの二次側の一対の高圧側出力線と低圧側出力線間の出力電圧に応じてドライブ信号によるスイッチングトランジスタの閉時間を制御し、出力電圧を定電圧制御する定電圧制御回路とを備えたDC−DCコンバータであって、スイッチングトランジスタの一次巻線との接続側の接続点Aの電圧Vdと、スイッチングトランジスタがスイッチング動作している間の接続点Aの電圧Vdの変動範囲で任意に設定する閾値電圧Vthとを比較する比較回路と、ドライブ回路から出力されるドライブ信号と非同期で、比較回路が電圧Vdと閾値電圧Vthを比較した極性が、
少なくともスイッチングトランジスタが開閉する前記所定周期内に変化しない場合に、能動状態でのスイッチングトランジスタの動作と判定する異常判定回路とを備えたことを特徴とする。
【0018】
スイッチングトランジスタのインダクタとの接続側の接続点Aの電圧Vdは、スイッチングトランジスタが飽和状態と遮断状態とを繰り返し正常にスイッチング動作している間の変動範囲で変動し、比較回路が電圧Vdと閾値電圧Vthを比較した極性は、スイッチングトランジスタが開閉する所定周期内に変化する。スイッチングトランジスタが能動状態で動作すると、入力電圧Viがほぼ一定で、接続点Aの電圧Vdもほぼ一定の電位を保つので、比較回路が電圧Vdと閾値電圧Vthを比較した極性が、スイッチングトランジスタが開閉する所定周期より長い検出期間Tdであっても変化せず、異常判定回路は、これより、スイッチングトランジスタの正常なスイッチング動作と識別して能動状態の動作を判定できる。
【0019】
請求項2に記載のDC−DCコンバータは、一次巻線と一次副巻線と二次出力巻線を有するトランスと、一次巻線を励磁する直流電源の低圧側端子と一次巻線との間に直列に接続されたスイッチングトランジスタと、所定周期でスイッチングトランジスタを開閉制御するドライブ信号をスイッチングトランジスタの制御端子へ出力するドライブ回路と、トランスの二次側の一対の高圧側出力線と低圧側出力線間の出力電圧に応じてドライブ信号によるスイッチングトランジスタの閉時間を制御し、出力電圧を定電圧制御する定電圧制御回路とを備えたDC−DCコンバータであって、一次副巻線の一端が前記直流電源の低圧側端子又は高圧側端子に接続されており、スイッチングトランジスタがスイッチング動作している間の一次副巻線の他端の電圧Vdの変動範囲で任意に設定する閾値電圧Vthとを比較する比較回路と、ドライブ回路から出力されるドライブ信号と非同期で、比較回路が電圧Vdと閾値電圧Vthを比較した極性が、
少なくともスイッチングトランジスタが開閉する前記所定周期内に変化しない場合に、能動状態でのスイッチングトランジスタの動作と判定する異常判定回路とを備えたことを特徴とする。
【0020】
一次副巻線の直流電源に直接接続していない他端の電圧は、スイッチングトランジスタが飽和状態と遮断状態とを繰り返し正常にスイッチング動作している間の変動範囲で変動し、比較回路が電圧Vdと閾値電圧Vthを比較した極性は、スイッチングトランジスタが開閉する所定周期内に変化する。スイッチングトランジスタが能動状態で動作すると、入力電圧Viがほぼ一定で、一次副巻線の他端の電圧もほぼ一定の電位を保つので、比較回路が電圧Vdと閾値電圧Vthを比較した極性が、スイッチングトランジスタが開閉する所定周期より長い検出期間Tdであっても変化せず、異常判定回路は、これより、スイッチングトランジスタの正常なスイッチング動作と識別して能動状態の動作を判定できる。
【0021】
請求項3に記載のDC−DCコンバータは、異常判定回路が能動状態でのスイッチングトランジスタの動作と判定した際に、前記直流入力電源と一次巻線間に接続される非常停止スイッチを開制御する保護回路を備えたことを特徴とする。
【0022】
異常判定回路がスイッチングトランジスタの能動状態の動作と判定すると、非常停止スイッチが開制御され、直流入力電源からスイッチングトランジスタに流れる電流が停止されるので、能動状態の動作によるスイッチングトランジスタの発熱がなくなる。
【発明の効果】
【0023】
請求項1又は請求項2の発明によれば、ドライブ回路の一部やスイッチングトランジスタ自体が故障し、スイッチングトランジスタが能動状態で動作していても、その能動状態の動作を正常なスイッチング動作と識別して判定できるので、スイッチングトランジスタの発熱の危険を使用者へ伝えたり、DC−DCコンバータの動作を停止するなど、火災発生前に未然に火災事故回避手段を講じることができる。
【0024】
また、スイッチングトランジスタの一次巻線との接続側の接続点Aや一次副巻線のスイッチング動作で電圧変動する他端の電圧Vdを監視するだけで、スイッチングトランジスタの能動状態の動作を検知できるので、既存のDC−DCコンバータに比較回路と異常判定回路を付加するだけで、これまでの保護回路で検知できなかった異常動作を検知できる。
【0025】
請求項3の発明によれば、スイッチングトランジスタが異常に発熱する前に、その発熱を停止させ、火災発生を未然に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本願発明の一実施の形態に係るDC−DCコンバータ1の回路図である。
【
図3】本願発明の他の実施の形態に係るDC−DCコンバータ30の回路図である。
【
図4】従来の絶縁型DC−DCコンバータ100の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一実施の形態に係るDC−DCコンバータは、141Vの直流入力電圧Viを5Vの直流出力電圧Voに変換するフライバック型DC−DCコンバータ1であり、以下、このDC−DCコンバータ1を、
図1と
図2を用いて説明する。
図1は、降圧型DC−DCコンバータ1の回路図であり、
図4に示す従来のDC−DCコンバータ100と比較して明らかなように、DC−DCコンバータ100の基本構成を変更せずに、保護回路2と、直流入力電源10の高圧側端子10aとスイッチングトランジスタTr1間に接続される非常停止スイッチであるスイッチングトランジスタTr2を加えたものである。従って、上述した従来の降圧型DC−DCコンバータ100と主要な回路構成が共通するので、実質的に同一若しくは同様に作用する構成については、同一の番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0028】
直流入力電源10は、100Vの商用交流電源を整流平滑化した直流入力電圧Viが10%程度電圧変動する不安定な電源で、+141Vの高圧側端子10aと0Vの低圧側端子10bの間に、上記スイッチングトランジスタTr2と、トランス11の一次巻線11aと、主スイッチング素子となるスイッチングトランジスタTr1とが直列に接続されることにより、閉回路が形成される。
【0029】
スイッチングトランジスタTr1は、NチャネルFET(電界効果トランジスタ)、スイッチングトランジスタTr2は、PチャネルFETであり、スイッチングトランジスタTr1は、定電圧制御回路の一部を構成するドライブ回路3にゲートが接続し、ドライブ回路3から出力されるドライブ信号によってオン、オフ制御される。また、スイッチングトランジスタTr2は、保護回路2の後述するRSフリップフロップ回路5の出力にゲートが接続し、RSフリップフロップ回路5の出力信号により、オン、オフ制御される。ここで、スイッチングトランジスタTr1、Tr2のオン制御とは、そのスイッチングトランジスタTr1、Tr2を飽和状態としてドレイン−ソース間を閉じ制御することをいい、オフ制御とは、遮断状態としてドレイン−ソース間を開制御することをいう。
【0030】
ドライブ回路3から出力されるドライブ信号は、例えば800nSの固定周期TでHレベルとLレベルの出力を繰り返すパルス信号である。ドライブ回路3からHレベルのドライブ信号がスイッチングトランジスタTr1のゲートに出力されている間は、スイッチングトランジスタTr1がオン制御され、直流入力電源10からトランス11の一次巻線11aに励磁電流が流れる。このオン制御時間中は、整流用ダイオード15の向きが二次出力巻線11bに流れようとする誘導電流の向きと逆であるので、励磁電流によってトランス11のコアが磁化され、電気エネルギーが蓄積される。
【0031】
その後、ドライブ回路3からLレベルのドライブ信号がスイッチングトランジスタTr1のゲートに出力されると、スイッチングトランジスタTr1はオフ制御され、オフ制御時間中に、トランス11のコアに蓄積された電気エネルギーが解放され、二次出力巻線11bから整流用ダイオード15を通して平滑コンデンサ16を充電する充電電流が流れ、平滑コンデンサ16の両端の高圧側出力線20aと低圧側出力線20b間に出力電圧Vo(平滑コンデンサ16の充電電圧)が表れる。
【0032】
この出力電圧Voが負荷の動作電圧である設定電圧となるように、電圧監視回路12とドライブ回路3からなる定電圧制御回路で制御する。出力電圧Voが設定電圧より高い場合には、フォトカプラ受光素子14からリミット信号を受けたドライブ回路3が、内蔵するパルス幅変調回路PWMにより、ドライブ信号の800nSの固定周期T中のHレベルの時間を短縮制御し、オンデューティを低下させたドライブ信号がスイッチングトランジスタTr1のゲートに出力される。その結果、スイッチングトランジスタTr1の単位時間内のオン制御時間が短縮され、出力電圧Voが低下する。逆に、出力電圧Voが設定電圧より低い場合には、オンデューティを増加させたドライブ信号がスイッチングトランジスタTr1のゲートに出力され、単位時間内のオン制御時間が延長されるので、出力電圧Voが上昇し、この制御を繰り返すことによって、出力電圧Voは設定電圧に定電圧制御される。
【0033】
本実施の形態にかかる保護回路2は、
図1、
図2に示すように、スイッチングトランジスタTr1とトランス11の一次巻線11aとの間の接続点Aの電位を監視するために接続点Aに検出用端子Daを接続させた異常判定回路4と異常判定回路4の出力に接続するRSフリップフロップ回路5とを備えている。異常判定回路4とRSフリップフロップ回路5は、高圧側端子10aに接続する定電流回路6と低圧側端子10bの間に接続され、定電流回路6により安定電位に変換される直流入力電源10を電源として動作している。
【0034】
異常判定回路4は、接続点Aの電圧Vdと、スイッチングトランジスタTr1がスイッチング動作している間の電圧Vdの変動範囲で任意に設定する閾値電圧Vthとを比較する図示しない比較回路を備えている。本実施の形態では、接続点Aの電圧Vdが、入力電圧Viの0Vから、+141Vに一次巻線11aと二次出力巻線11bの巻線比に応じて現れる電圧を加えた電圧の間で変動するので、前記閾値電圧Vthを、例えばその間の+20Vに設定している。
【0035】
スイッチングトランジスタTr1が正常にスイッチング動作している間に、比較回路の極性は、少なくとも800nSの固定周期T内に反転する。一方、ドライブ回路3のパルス幅変調回路PWM等が何らかの原因で故障し、スイッチングトランジスタTr1のゲートに出力されるドライブ信号が一定電位となるとスイッチングトランジスタTr1が能動状態で異常動作し、直流入力電圧Viがほぼ一定の電位であるので、接続点Aの電圧Vdも一定電位となり、比較回路の出力の極性は固定周期T内に反転しない。そこで、異常判定回路4は、ドライブ信号の固定周期Tより長い2μsecに設定した検出期間Tdに、比較回路の出力の極性が一度も反転しない場合に、能動状態での異常動作と判定し、通常は「L」レベルの出力を「H」レベルに転じてRSフリップフロップ回路5のセット入力へ出力する。
【0036】
RSフリップフロップ回路5は、「L」レベルのリセット信号が入力された後、異常判定回路4からの「H」レベルのセット信号が入力されるまで、「L」レベルの出力信号をスイッチングトランジスタTr2のゲートへ出力し、スイッチングトランジスタTr2をオン制御し、スイッチングトランジスタTr1のスイッチング動作による通常動作を連続させる。一方、異常判定回路4から「H」レベルのセット信号が入力されると、次に「L」レベルのリセット信号が入力されるまで、「H」レベルの出力信号をスイッチングトランジスタTr2のゲートへ出力し、スイッチングトランジスタTr2をオフ制する。その結果、直流入力電源10からスイッチングトランジスタTr1へ流れる電流が遮断され、能動状態での動作によるスイッチングトランジスタTr1の発熱が停止される。
【0037】
スイッチングトランジスタTr1を能動状態とする故障原因が解決し、スイッチング動作を行う状態となった場合には、RSフリップフロップ回路5に「L」レベルのリセット信号を入力することにより、スイッチングトランジスタTr2をオン制御し、正常動作に復旧させることができる。
【0038】
上述の実施の形態では、スイッチングトランジスタTr1のスイッチング動作で電圧が変動する一次巻線11aの一方側の接続点Aの電圧Vdを閾値電圧Vthと比較しているが、トランス11が副巻線を有するものであれば、直流入力電源10に接続しない副巻線の他端の電圧Vdを閾値電圧Vthと比較して、スイッチングトランジスタTr1の能動状態の異常動作を判定してもよい。
図3は、トランス11が一次副巻線11cを有する本発明の他の実施の形態に係るDC−DCコンバータ30の回路図であり、一次副巻線11cの一端は、直流入力電源10の低圧側端子10bに接続し、他端は異常判定回路4の検出用端子Daに接続している。その他の構成は、DC−DCコンバータ1と同一であるので、図中、同一の番号を付してその説明を省略する。
【0039】
一次副巻線11cの他端に現れる電圧は、一次巻線11aの電圧変動に比例して変動するので、この一次副巻線11cの他端の電位を閾値電圧Vthと比較して、上述した例と同様に、異常判定回路4によって異常を判定することができる。この場合、閾値電圧Vthは、一次巻線11aと一次副巻線11cの巻数比に応じてその変動範囲内で任意に設定する。一次巻線11aに対する一次副巻線11cの巻線位相について、一次副巻線11cの電位の反転の有無が検出できれば足りるので、巻線位相はどちらであってもよい。なお、一次副巻線11cの一端を低圧側端子10bに接続することに代えて、高圧側端子10aに接続してもよい。
【0040】
上述の実施の形態は、フライバック型コンバータで説明したが、自励式フライバックコンバータ、フォワード型コンバータ、プッシュプル方式コンバータ、フルブリッジ方式コンバータなど、他の絶縁型のDC−DCコンバータにも適用できる。
【0041】
また、上述の実施の形態では、スイッチングトランジスタTr1、Tr2として、PチャネルFETやNチャネルFETを用いているが、ドレインとソースの接続を逆にしたNチャネルFETやPチャネルFETとしてもよく、また、バイポーラトランジスタであってもよい。また、異常判定回路4が、スイッチングトランジスタTr1の能動状態の動作と判定した時に、直流入力電源10からスイッチングトランジスタTr1へ流れる電流が遮断できれば、非常停止スイッチと構成はトランジスタに限らない。
【0042】
また、異常判定回路4が、スイッチングトランジスタTr1の能動状態の動作と判定した時に、非常停止スイッチを開制御とともに、若しくは別に、図示しない警報手段を起動させて、警報音や警報表示で、異常動作状態を使用者に伝えても良い。
【0043】
また、上述の実施の形態では、ドライブ信号の異常によりスイッチングトランジスタTr1が能動状態で動作する例で説明したが、スイッチングトランジスタTr1自体の故障や回路素子間の接続異常など他の原因でスイッチングトランジスタTr1が能動状態で動作する場合にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、絶縁型のDC−DCコンバータのスイッチング素子に、トランジスタを用いたDC−DCコンバータに適している。
【符号の説明】
【0045】
1 DC−DCコンバータ
2 保護回路
3 ドライブ回路
4 異常判定回路
10 直流入力電源
11 トランス
11a 一次巻線
11b 二次出力巻線
11c 一次副巻線
12 電圧監視回路(定電圧制御回路)
20a 高圧側出力線
20b 低圧側出力線
30 DC−DCコンバータ
Vi 入力電圧
Vo 出力電圧
Tr1 スイッチングトランジスタ
Tr2 スイッチングトランジスタ(非常停止スイッチ)
Td 検出時間
T ドライブ信号の周期
【要約】
【課題】簡単な回路構成でスイッチングトランジスタTr1の能動状態での異常動作を検知するDC−DCコンバータを提供する。
【解決手段】スイッチングトランジスタの一次巻線との接続側の接続点Aの電圧Vdと、スイッチングトランジスタがスイッチング動作している間の接続点Aの電圧Vdの変動範囲内に設定する閾値電圧Vthとを比較し、電圧Vdと閾値電圧Vthを比較した極性が、スイッチングトランジスタをスイッチング制御するドライブ信号の所定周期より長い検出期間Tdで変化しない場合に、スイッチングトランジスタが発熱する危険のある能動状態での動作と判定する。
【選択図】
図1