特許第5811700号(P5811700)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5811700
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月11日
(54)【発明の名称】発泡性食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23G 3/34 20060101AFI20151022BHJP
【FI】
   A23G3/00 101
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2011-188318(P2011-188318)
(22)【出願日】2011年8月31日
(65)【公開番号】特開2013-48580(P2013-48580A)
(43)【公開日】2013年3月14日
【審査請求日】2014年6月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】390020189
【氏名又は名称】ユーハ味覚糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 喜哉
(72)【発明者】
【氏名】松川 泰治
(72)【発明者】
【氏名】松居 雄毅
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰正
(72)【発明者】
【氏名】山田 一郎
【審査官】 鶴 剛史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−118771(JP,A)
【文献】 特開2011−110008(JP,A)
【文献】 特開2009−278949(JP,A)
【文献】 特開平08−140578(JP,A)
【文献】 特開昭60−237947(JP,A)
【文献】 特開2004−173694(JP,A)
【文献】 特開2012−228205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 3/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS(STN)
CAplus(STN)
FROSTI(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材と、芯材の表面に設けられる発泡性のコーティング層とを含む発泡性食品であって、前記芯材は、炭酸塩0.5〜5重量%、酸0.5〜10重量%及び水分値5重量%以上である保水性食品3〜30重量%を内包するハードキャンディからなり、前記コーティング層は、炭酸塩、酸及び固形脂を含有し、かつ、固形脂含量の厚み方向の濃度勾配を有し、前記コーティング層は、その表面から厚み方向の内側に向けて設けられ、かつ平均固形脂含量が10重量%以上、20重量%未満であるコーティング表層を含み、前記コーティング表層がコーティング層全体の1〜100重量%であることを特徴とする発泡性食品。
【請求項2】
前記コーティング層に含まれる固形脂の上昇融点が50℃以下である請求項1に記載の発泡性食品。
【請求項3】
(1)ハードキャンディ生地により炭酸塩と酸と保水性食品とを包み込み、任意の大きさ及び形状に成型して芯材を得る工程と、
(2)前記芯材に固形脂の溶融液を添加し、前記溶融液が固化する前に、炭酸塩及び酸からなる発泡性成分を降りかける工程と、を有し、
前記(2)の工程を回以上行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の発泡性食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性食品及びその製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
消費者に特に好まれる食感の1つとして、炭酸飲料に代表されるような発泡感がある。最近では、ソフトドリンクや、アルコール飲料だけでなく、お茶に発泡感を持たせた商品も発売されている。これらの、炭酸飲料は暑い夏場に非常に好まれる傾向にある。
【0003】
対照的に、菓子類は水分含量が低い為に、爽快感が得られにくく、菓子類全体の売上は、この時期に特に落ち込んでしまう傾向がある。そのため、売上を落としがちな菓子類に、炭酸飲料様の発泡感を付与することで、夏場でも喜ばれる「新しい」菓子類を創り出そうという試みが数多く提案されてきた。
【0004】
水分含量の低い菓子に発泡感を持たせる方法としては、重曹等の炭酸塩と酸とを組み合わせる方法が一般的で、この手法を取り入れた菓子類の提案として、例えば、グミやキャンディに炭酸塩と酸からなる発泡性成分をまぶしたもの、キャンディやラムネ、ガム中に発泡性成分を分散させたもの、チョコレートやキャンディのセンターに発泡性成分を封入したもの(特許文献1参照)等が挙げられる。このような発泡性を持たせた菓子類は、食べると爽快感、清涼感が得られるため、特に菓子類全体の売上が落ちる夏場でも非常に人気がある。実際に、微弱ながらも持続性のある発泡感を持った「三ツ矢サイダー(商標名)キャンディ」(アサヒフードアンドヘルスケア株式会社)は夏場でも人気を博している。
【0005】
しかしながら、このような発泡感を持たせた菓子類の場合、炭酸塩と酸とが口中で瞬時に反応してしまい、瞬間的な発泡感しか得ることができない。これでは、物足りなさを感じさせてしまう。満足な爽快感、清涼感を付与する為には、より持続的な発泡感が必要である。一方、キャンディやチョコレート等の油脂に発泡性成分を分散させた場合は、持続的な発泡感が得られる。しかしながら、キャンディは、その口溶けの遅さゆえ、微弱な発泡感が単調に続き、十分な爽快感が得られない。また、油脂は、口溶けの速さゆえの強い発泡感を得ることができるが、高温に対する耐久性が低いため、一番訴求される夏場に油染み等の問題が起こり易く、保冷対応が必要となる。そのため、強い発泡感が一定時間以上持続し、かつ夏場の暑さにも耐久性を持った食品が長い間要望されてきた。
【0006】
発泡感が持続し、かつ夏場の耐久性も兼ね備えた食品として、融点55℃以上の高融点油脂中に有機酸粉末と炭酸塩粉末とを分散させ、これを噴霧冷却することにより得られる有機酸と炭酸塩のコーティング物を配合したチューイングガムが提案されている(特許文献2参照)。このガムを噛むと、コーティングが剥がれ、有機酸と炭酸塩とが混ざり合うことにより発泡する。しかしながら、ガムを噛み始めてから発泡するまでの時間が長く、また、有機酸と炭酸塩とが徐々に反応するため、発泡感が弱い。発泡感を高める為に有機酸粉末と炭酸塩粉末とを多量に添加した場合、高融点油脂が口中で溶解しないため、食感、風味が損なわれる。また、キャンディ等の舐めて食べることが主である食品に上記コーティング物を添加しても、高融点油脂が口中で溶解しないため、発泡が起こらない。
【0007】
一方、発泡感を持続させる為に、チョコレート様の低融点油脂中に、炭酸塩等の発泡剤と、有機酸等の発泡助剤とを含ませた油性食品が提案されている(特許文献3参照)。このような油性食品は、咀嚼時に良好な口溶けと、強い発泡感とを感じることが可能であるが、低融点油脂が夏場の高温により溶け出してしまう。つまり、チョコレートの様に体温で容易に溶融する低融点油脂を用いた油性食品は、発泡感には問題ないが、温度変化により油脂が溶融し、油染みが発生するとか、保型性が保てないといった品質劣化が激しくなり、主に夏場に販売される商品として耐久性の点で適さない。
【0008】
また、上昇融点24℃〜40℃の常温固体油脂を用いて造粒することにより得られる、溶解性に優れ、発泡性良好な発泡性粉末飲料が提案されている(特許文献4参照)。例えば、発泡性粉末を含む調整ココアパウダーを攪拌しながら、常温固体油脂の溶融液を噴霧して造粒することにより、発泡性粉末が得られる。しかしながら、この発泡性粉末は顆粒サイズの大きさであるため、口に入れると瞬間的な発泡感しか得られない。発泡性粉末の大きさに比例して、発泡感も持続すると考えられるが、常温固体油脂の溶融液を噴霧するという製造方法の特性上、発泡性粉末を大きくすると、その表面にムラが生じやすい。このようなムラは、外観上の商品価値を損なう。
【0009】
持続的な発泡感を得る為に、中心層となる芯材に炭酸塩と酸とを多層にわたりコーティングする方法も知られている。しかしながら、水系結合液を用いてコーティングを行なった場合、微量の水分でも炭酸塩と酸とが反応してしまい、発泡効果が著しく低下する欠点があった。そのため、水系結合剤に糖類を加え、相対的な水分含量を下げることにより、炭酸塩と酸との反応を抑制しつつコーティングを行なう方法(特許文献5参照)、又は無水の媒体に炭酸塩と酸とを懸濁若しくは溶解したものを噴霧し、乾燥させる方法(特許文献6参照)が提案されている。
【0010】
しかしながら、特許文献5に記載の方法は、粒径が300μm〜4mmと極めて小さい芯材を用いることにより、効率的な乾燥を行なうことが可能な場合にのみ有効であり、キャンディのように粒径が5mmを超える大きな芯材を用いた場合には、乾燥効率が悪化し、炭酸塩と酸との反応が起こり易くなるため、得られる食品の発泡性が低下してしまう。また、特許文献6に記載の方法では、無水の媒体としてエタノール等のアルコールやアセトン等の有機溶媒を使用している。これらは揮発性有機化合物(VOC)であることから、製造環境で人体に対し悪影響を及ぼす恐れがあり、また環境汚染を防ぐためのVOC除去設備が必要であり、設備コスト、運転コストが増加することになり現実的でない。また、VOCは可燃性である為に、厳重な防火対策が必要である等、昨今ではVOCの使用を最小限に留める要望が強い。
【0011】
また、本出願人も、発泡感が持続し、なおかつ耐久性にも優れた発泡性食品を提案している(特許文献7、8参照)。これらの発泡性食品は、キャンディ等からなる芯材の表面に発泡性コーティング層を設けることにより、強い発泡感を付与している。しかしながら、コーティング層の発泡感が強すぎることと、芯材が発泡感を有していないことから、芯材の部分では退屈さを感じてしまう。そのため、芯材にも、何かしら退屈させないための工夫が必要である。
【0012】
例えば、グミキャンディやシロップを内包したハードキャンディが知られている。これらのキャンディは食感や味の広がりという点に関しては、非常に魅力的である。しかしながら、これらのキャンディからなる芯材の表面に、強い発泡感を持つコーティング層を設けても、その刺激性の高さゆえに、コーティング層が終ってしまうと退屈に感じてしまう。
【0013】
ところで、キャンディ生地に二酸化炭素を閉じ込めることで、発泡感をもたせる提案がある(特許文献9、10参照)。これらの特許文献によれば、確かにぷちぷちとした心地良い食感を有するハードキャンディが得られる。しかしながら、このようなハードキャンディも、発泡性コーティング層を設けるための芯材として用いるには、刺激が弱く、芯材の退屈さを解消するには至らない。
つまり、発泡性コーティング層の楽しさ、インパクトに負けないような芯材を持った発泡性食品が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第2968110号明細書
【特許文献2】特開平06−269249号公報
【特許文献3】特開2007−252237号公報
【特許文献4】特開2004−16148号公報
【特許文献5】特開2005−132965号公報
【特許文献6】特開昭53−79040号公報
【特許文献7】特開2009−118771号公報
【特許文献8】特開2011−110008号公報
【特許文献9】特表2002−501727号公報
【特許文献10】国際公開第99/03357号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、強い発泡感が長く持続し、食感と外観とが良好で、高温に対する耐久性に優れ、芯材であるハードキャンディがコーティング層を舐め終わった後に爆ぜることで、最後まで飽きることなく食せる発泡性食品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を解決する為に、先に提出した特許文献8に記載の技術をベースに鋭意研究及び分析を重ねた。その結果、芯材とその表面に設けられる発泡性のコーティング層とを含む発泡性食品において、芯材を特定の組成とすることにより、コーティング層を舐め終わった後に芯材が心地良く爆ぜることを見出し、さらに、コーティング層に発泡性成分及び固形脂を含有させると共に、固形脂含量の厚み方向の濃度勾配を設けることにより、強い発泡感の持続、良好な食感及び外観、並びに高温に対する優れた耐久性が得られることを見出した。即ち本発明者らは、強い発泡が持続した後、芯材が爆ぜることにより、舐め始めてから最後まで飽きることなく食せる発泡性食品を完成させることに成功した。
【0017】
すなわち、本発明の要旨は、
〔1〕芯材と、芯材の表面に設けられる発泡性のコーティング層とを含む発泡性食品であって、芯材は、炭酸塩0.5〜5重量%、酸0.5〜10重量%及び水分値5重量%以上の保水性食品3〜30重量%を内包するハードキャンディからなり、コーティング層は、炭酸塩、酸及び固形脂を含有し、かつ、固形脂含量の厚み方向の濃度勾配を有し、コーティング層は、その表面から厚み方向の内側に向けて設けられ、かつ平均固形脂含量が10重量%以上、20重量%未満であるコーティング表層を含み、コーティング表層がコーティング層全体の1〜100重量%であることを特徴とする発泡性食品、
〔2〕コーティング層に含まれる固形脂の上昇融点が50℃以下である前記〔1〕に記載の発泡性食品、並びに、
〕(1)ハードキャンディ生地により炭酸塩と酸と保水性食品とを包み込み、任意の大きさ及び形状に成型して芯材を得る工程と、(2)前記芯材に固形脂の溶融液を添加し、前記溶融液が固化する前に、炭酸塩及び酸からなる発泡性成分を更に降りかける工程と、を有し、前記(2)の工程を回以上行うことを特徴とする前記〔1〕又は〔2〕に記載の発泡性食品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の発泡性食品は、比較的強い発泡感が持続し、食感及び外観もよく、高温に対する耐久性にも優れ、尚且つ、芯材であるハードキャンディが爆ぜることで最後まで飽きることなく食せるものである。したがって、本発明の発泡性食品を食した場合、すぐに発泡感を感じられるだけでなく、従来品に比べて長い時間、発泡感を楽しめ、さらに、芯材が爆ぜるという刺激的な食感までも楽しむことができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1)発泡性食品
本発明の発泡性食品は、芯材と、芯材の表面に設けられる発泡性のコーティング層とを含み、該芯材は炭酸塩及び酸と共に水分値5重量%以上の保水性食品を内包しており、該コーティング層は炭酸塩、酸及び固形脂からなり、かつ、固形脂含量の厚み方向の濃度勾配を有していることを特徴とする。
【0020】
一般に、ハードキャンディ等の芯材に目的とする成分をコーティングする際には、水飴等の水分を含んだ溶液をバインダとして用いる。しかしながら、炭酸塩と酸とを含む発泡性成分をコーティング成分として用いる際には、水分が存在すると、発泡を伴う反応が起こり、効率よくコーティングを行うことができない。そこで、水分をほとんど含有しない固形脂をバインダに用いることになるが、発泡性成分を固形脂に分散させるだけでは、高温に対する耐久性を確保できない。即ち、高温時に固形脂が溶融し、油染みが生じてしまう。更に、油脂が溶融する為に、コーティングが緩み、コーティング層が剥がれたり、その形状が変形したりすることもある。また、高融点油脂を用いる場合は、耐久性には問題ないが、体温で油脂が溶融しないため、発泡感が得られにくいという問題がある。また、発泡感を有するコーティング層を舐め終わって、味や食感、舐め心地の変化が乏しいハードキャンディに変わると、非常に物足りなさを感じてしまいがちである。
【0021】
これに対し、本発明では、固形脂を用いて発泡性成分を芯材の表面にコーティングする際に、コーティング層中の固形脂含量を厚み方向に濃度勾配をつけることで、前記のような高温に対する耐久性の問題が解消されるか又は顕著に低減される。その結果、舐めたときに、特許文献7に記載の発泡性食品と同等の発泡感を持続的に持たせつつも、高温に対する耐久性がより一層優れた発泡性食品を作ることができる。さらに、コーティング層の表面から内側に向けて設けられるコーティング表層の平均固形脂含量、さらにコーティング表層の量を規定することで、その効果を一層高めることができる。
【0022】
さらに、本発明の発泡性食品の芯材は、炭酸塩と、酸と、水分値5重量%以上である保水性食材と、を内包するハードキャンディである。すなわち、炭酸塩、酸及び前記保水性食品がキャンディ生地により内部に包み込まれた状態になっている。このような芯材においては、芯材内で、保水性食品が含む水により炭酸塩と酸とが反応し、二酸化炭素を発生する。これにより、芯材内部で二酸化炭素による圧力が徐々に高まると考えられる。そして、芯材を舐めることで、ハードキャンディ層の厚みが薄くなると、ハードキャンディ層がその内圧に耐えられなくなり、芯材が心地良い音を立てながら爆ぜる。このような芯材が爆ぜる現象がいつ起こるかわからないため、どきどきした気持ちで芯材を舐め続けることができ、発泡性成分を含まないハードキャンディの単調な退屈さを解消することができる。
【0023】
芯材に用いられるキャンディ生地としては、日本農林規格に定義されているように、水分値が5重量%以下であれば特に限定はなく、例えば、砂糖ベースのキャンディ生地、マルチトール、パラチノース等の糖アルコールベースのノンシュガーキャンディ生地などが挙げられる。
【0024】
芯材中に内包させる炭酸塩としては、食品に使用されるものであれば特に限定されないが、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、セスキ炭酸ナトリウム等が挙げられる。このうち、味の点から、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが好ましい。炭酸塩は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0025】
芯材における炭酸塩の内包量(含有量)は、芯材全量の0.5〜5重量%であり、好ましくは1〜2重量%である。炭酸塩の内包量が5重量%より多いと、炭酸塩が酸と過不足なく反応した際に、二酸化炭素の発生量が多くなりすぎて、芯材自体が自壊してしまうおそれがある。他方、炭酸塩の内包量が0.5重量%より少ないと、芯材が爆ぜる際に、その心地良さを十分に感じられないおそれがある。なお、本発明における「自壊」とは、二酸化炭素の発生量が多くなって、芯材の内圧が高くなりすぎることにより、食せずとも勝手に芯材が爆ぜる現象のことを指す。
【0026】
芯材中に内包させる酸としては、食品に使用される酸味料であれば特に限定されないが、例えば、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、マロン酸、酢酸、アジピン酸、グルコン酸等の有機酸、リン酸等の無機酸等が挙げられる。このうち、味の点から、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸が好ましい。酸は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0027】
芯材における酸の内包量(含有量)は、芯材全量の0.5〜10重量%であり、好ましくは1〜4重量%である。酸の内包量が10重量%より多いと、酸が炭酸塩と過不足なく反応した際に、二酸化炭素の発生量が多くなりすぎて、芯材が自壊してしまうおそれがある。他方、酸の内包量が0.5重量%より少ないと、芯材が爆ぜる際にその心地良さが十分に感じられないおそれがある。
【0028】
芯材中に内包させる保水性食品としては、ソフトキャンディやグミキャンディのように5重量%以上、好ましくは8〜15重量%の水分値を有し、押しつぶしても水が滴らないような食品であれば、特に限定されない。水分値が5重量%未満では炭酸塩と酸との反応が生じ難い。なお、水分値は、減圧乾燥法により測定される値である。
【0029】
芯材における保水性食品の内包量(含有量)は、芯材全量の3〜30重量%であり、好ましくは5〜10重量%である。保水性食品の内包量が3重量%より少ないと、炭酸塩と酸との反応が起こり難い。他方、保水性食品の内包量が30重量%より多いと、保水性食品等を被覆するハードキャンディ層の厚みが薄くなるため、芯材が割れやすくなる。
【0030】
芯材の表面に形成されるコーティング層は、炭酸塩と酸とからなる発泡性成分と、固形脂とを含有し、かつ、固形脂含量の厚み方向の濃度勾配を有する。
【0031】
コーティング層で使用される発泡性成分は、炭酸塩と酸とであり、これらの発泡性成分は、取り扱いやすさの観点から、粉末状であることが好ましい。発泡性成分が粉末状である場合、炭酸塩としては市販品と同程度の平均粒径のものが使用でき、その平均粒径は通常150〜250μm程度であるが、粉砕等によりさらに微粒化してもよい。また、酸としても炭酸塩と同程度の平均粒径のものであればよい。
【0032】
炭酸塩及び酸としては、芯材に含まれる炭酸塩及び酸と同じものを使用できる。コーティング層において、炭酸塩及び酸は、それぞれ、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0033】
炭酸塩と酸とを合計した発泡性成分の含有量は、発泡感をしっかり感じさせ、かつ従来品に見られない程度の発泡感の持続性を発現させる観点から、好ましくはコーティング層全量の10重量%以上、90重量%以下である。
【0034】
発泡性成分中における炭酸塩と酸との混合比としては、発泡可能な比率であればよく、炭酸塩及び酸の種類に応じて適宜設定すればよい。
また、炭酸水素ナトリウム等の水に対する溶解度が低い炭酸塩を用いる場合、口中での溶け残りを抑える観点及び併用する酸が有する酸味を感じ易くする観点から、酸の混合比率は、発泡に必要な反応量に対して10〜15モル%以上高く設定することが好ましい。
【0035】
コーティング層で使用される固形脂としては、特に限定されないが、例えば、ヤシ油、ココアバター、菜種油、大豆油、牛脂、魚油等の各種動植物油脂、それらを水素添加した硬化油等が挙げられる。固形脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
また、強い発泡感を得る為に、固形脂の上昇融点は、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下であることが望ましい。さらに、固形脂の口残りを抑制し、食感を一層向上させる観点から、37℃以下がさらに好ましい。また、固形脂の上昇融点は、さらに高温に対する優れた耐久性を保持する為には、30〜37℃が最も好ましい。
【0036】
本発明の発泡性食品では、複数の層を積層することによりコーティング層を多層構造としてもよく、さらに、多層構造の各層ごとに、その層の目的に合わせて、異なる固形脂を用いても良い。また、多層構造の各層ごとに、その層の目的に合わせて、固形脂と発泡性成分との配合割合を変化させてもよい。
【0037】
コーティング層は、その固形脂含量が厚み方向に変化した濃度勾配を有することを特徴とする。コーティング層における「固形脂含量の厚み方向の濃度勾配」とは、コーティング層をその表面から等間隔の任意の厚みで剥がし採った際の個々の薄層ごとの固形脂含量が変わっているということであり、内から外、もしくは外から内に向かって、固形脂濃度が上昇又は下降するということではない。このような濃度勾配がないと、芯材にグミキャンディ等の水分値の高い保水性食品を含ませた場合に、水分移行により品質が損なわれてしまう。さらに、前記のような濃度勾配がなく、かつ、コーティング層のバインダとして存在する固形脂の含有量が少ない場合には、衝撃等でコーティング層が剥がれやすくなる。
【0038】
コーティング層は、その表面から厚み方向の内側に向けて設けられ、平均固形脂含量が10重量%以上、20重量%未満、好ましくは15重量%以上、20重量%未満であるコーティング表層を含むことが好ましい。これにより、夏場などの高温にさらされた場合でも油染みが生じず、芯材からコーティング層への水分移行により品質が損なわれるおそれがなく、耐久性が優れたものとなる。さらに、固形脂が発泡性成分どうしの結着材として存在することで、コーティング操作によるムラが生じ難くなって外観が向上する。また、外部から衝撃が発泡性食品に加わった場合でも、コーティング層が剥がれにくくなる。
【0039】
本発明において、平均固形脂含量とは、一度の粉掛け操作で形成されたコーティング層の表面から内側にかけての固形脂含量の平均値を意味する。より具体的には、次のようにして、平均固形脂含量およびコーティング層におけるコーティング表層の範囲が決定される。
【0040】
まず、コーティング層表面から厚み方向の内側に向けて、コーティング層を等間隔で削り取ることにより、厚みがほぼ同じである複数の薄層を得る。このとき、削り取る総厚みは特に限定されず、コーティング層の厚みの1〜100%の範囲から適宜選択される。次に、得られた各薄層の固形脂含量を酸分解法により求める。得られた各薄層の固形脂含量の測定値を平均することにより、平均固形脂含量を得る。そして、最も表面側の薄層、最も表面側から2つ目までの薄層、最も表面側から3つ目までの薄層といった順番で固形脂含量又は平均固形脂含量を求め、その値が10重量%以上、20重量%未満の範囲に入るまでの薄層を合わせた層がコーティング表層となる。
【0041】
コーティング層において、前記のような平均固形脂含量を有するコーティング表層の割合は、コーティング層全体の1〜100重量%である。コーティング表層が1重量%より少ないと、発泡性食品の高温に対する耐久性が低下し、高温に晒されて油染みが生じる恐れがある。なお、コーティング表層がコーティング層全体の100重量%である場合は、コーティング層全体がコーティング表層となる。また、コーティング表層がコーティング層全体の1重量%以上、100重量%未満である場合は、コーティング層は、芯材の表面に設けられるコーティング内層と、コーティング内層の表面に設けられるコーティング表層とからなる。この場合、コーティング層におけるコーティング表層の割合は、より好ましくは、1〜10重量%である。コーティング内層の固形脂含量及び平均固形脂含量は、特に限定されない。
【0042】
コーティング層全体の固形脂含量は、好ましくは10〜30重量%、さらに好ましくは15〜25重量%である。これにより、グミキャンディ等の高水分量の保水性食品を芯材に含ませた場合でも、水分移行を防ぐことで品質を良好に保ち易く、また、保型性にも優れたものとすることができる。
【0043】
また、コーティング層中の固形脂含量を、表層に向かうほど低減することで、相対的に固形分である発泡性成分の量を、表層に向かうほど増加させても良い。これにより、固形脂が溶融した際でも表面まで脂染みが生じない。また、コーティング内層とコーティング表層とを含むコーティング層において、コーティング内層の固形脂含量を多くすると、グミキャンディ等の高水分の保水性食品を芯材に含ませても、その固形脂含量ゆえ、芯材からコーティング層への水分移行が起こりにくくなる。そのため、コーティング表層の固形脂含量が少なくても、芯材からの水分移行による炭酸塩と酸との反応が生じることはほとんどない。
【0044】
また、本出願人らは、コーティング層にセルロース誘導体を含有させることで、高温に対する耐久性を一層向上させ、油染みを更に減らせることを見出している。セルロース誘導体の含有量は、法令で定められた添加許容範囲内であれば、上限はない。また、セルロース誘導体としては、液化した固形脂を吸油することができる吸油性を有するものであれば特に限定なく使用できるが、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等が挙げられる。これらの中でも、例えばより高い吸油性を有するという観点から、CMCがより好ましい。
【0045】
コーティング層には、発泡性成分及び固形脂以外の任意成分として、糖類、タンパク質、香料、色素、果汁粉末、野菜粉末、ビタミン類等の食品に添加可能な成分を適宜加えることができる。中でも、さわやかな発泡感を有する食品は、気温の高い夏場に食されることが多いため、キシリトールやエリスリトールのような吸熱性の高い糖類をコーティング層に添加することにより、更に爽快感、清涼感を付与することができる。その際には、目的に応じ、任意の粒子サイズを選ぶことができる。このような任意成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
任意成分が粉末状のものである場合、予め発泡性成分と任意成分とを混合して用いても良い。また、その目的に合わせて、組成の異なる発泡性成分を併用しても、何ら問題はない。
【0046】
コーティング層中における任意成分の添加量は、発泡感等の所望の効果を損なわない量であればよく、特に限定はない。また、コーティング層中における水分量は、発泡性成分を溶解しないような量に調整しておくことが好ましく、具体的にはコーティング層全量の1重量%以下であることが好ましい。
【0047】
本発明の発泡性食品において、芯材の大きさ、コーティング層の厚さ等には、特に制限はなく、目的とする味や食感等に応じて適宜設定することができるが、発泡感の持続性の点から、コーティング層の重量割合(コーティング率)が、発泡性食品全量の5重量%以上であることが好ましい。また、本発明の発泡性食品において、コーティングを何層重ねようが、層の数については特に限定はない。
【0048】
2)発泡性食品の製造方法
本発明の発泡性食品の製造方法は、ハードキャンディ生地により炭酸塩と酸と保水性食品とを包み込み、任意の大きさ及び形状に成型して芯材を得る工程(1)と、工程(1)で得られた芯材に固形脂の溶融液を添加し、前記溶融液が固化する前に、炭酸塩及び酸からなる発泡性成分を更に降りかける工程(2)と、を有し、工程(2)を1回以上行うことを特徴とする。
【0049】
前記のような工程を有することで、本発明の発泡性食品中に含まれる発泡性成分同士の反応を抑えながら、発泡性成分と固形脂とを含有する発泡性のコーティング層を芯材表面上に効率よく形成することができる。
工程(1)及び工程(2)について、以下により詳しく説明する。
【0050】
工程(1)では、芯材を作製する。
常法により炊き上げ、風味付けを行ったハードキャンディ生地に、炭酸塩と酸と保水性食品とを包み込み、任意の大きさ及び形状に成型する。この際には、ハードキャンディ生地の品温を、45℃を超え、65℃以下の範囲にして行うことが望ましい。ハードキャンディ生地の品温が45℃以下では、得られるハードキャンディが硬くなりすぎて、成型された芯材表面にひび割れが生じるおそれがある。ハードキャンディ生地の品温が65℃より高いと、ハードキャンディの形状に成型される前に、ハードキャンディ生地の熱により炭酸塩と酸との反応が始まり、発生した二酸化炭素がハードキャンディ生地から逃げ出してしまうおそれがある。
【0051】
工程(2)では、工程(1)で得られた芯材に発泡性のコーティングを行なう。まず固形脂を溶融させ、固形脂の溶融液を得る。固形脂の溶融温度は、その融点以上であれば特に限定されないが、熱分解を起こし易い炭酸塩(例えば、炭酸水素ナトリウム)を用いる場合は、50℃以下が好ましい。
【0052】
こうして得られる固形脂の溶融液には、炭酸塩と酸とからなる粉末状の発泡性成分を分散させてもよい。この場合、発泡性成分の比率は、取り扱い易い粘度に調整する観点から、固形脂100重量部に対して、好ましくは65重量部以下、さらに好ましくは50重量部以下である。固形脂の溶融液に分散される発泡性成分は、必要であれば、セルロース誘導体等の任意成分の粉体を含んでいてもよい。このように発泡性成分を分散させた油脂を冷却して固化して、発泡性成分を含む固形脂としておき、発泡性食品の製造時に再度溶融させてもよい。
【0053】
次いで、糖衣パン等の攪拌装置内で芯材を回転させながら、固形脂の溶融液を添加し、芯材の表面に接触させる。使用する攪拌装置の大きさ、回転速度等については、芯材の種類、大きさに基づいて適宜決定すればよい。また、芯材と固形脂の溶融液とを接触させる際の温度としては、固形脂の溶融液に流動性があり、かつ固化しない程度の温度であればよく、例えば、固形脂の上昇融点以上、50℃以下が好ましい。この操作により、芯材を中心層とし、その表面上に固形脂の溶融液からなる層が形成される。なお、回転速度によっては、2個以上の芯材を中心層とし、その表面上に固形脂の溶融液からなる層が形成される場合もあるが、本発明ではこのような態様も含まれる。
【0054】
次いで、固形脂の溶融液が固化する前に、炭酸塩及び酸からなる粉末状の発泡性成分を接触させる。接触させる量は、目的と用途によって適宜決めることができる。芯材として用いるハードキャンディの水分含量が高ければ、接触させる発泡性成分の量を減らし、固形脂含量を高めてもよい。この操作により、芯材の表面上に発泡性のコーティング層が形成される。
【0055】
また、発泡性成分を接触させる際に、攪拌装置内で芯材を攪拌しながら行うことで、芯材表面に発泡性成分を均一にいきわたらせてコーティングすることができる。そして、固形脂の溶融液を芯材に添加し、さらに固形脂の溶融液が固化する前に発泡性粉末を接触させる操作を繰り返し行ってもよい。なお、固形脂の溶融液が発泡性成分や任意成分を含む場合には、発泡性成分を接触させる操作を省略してもよく、又は固形脂の溶融液中に含まれる発泡性成分や任意成分の量に応じて、発泡性成分の量を調整しながら、接触させる操作を行ってもよい。
【0056】
また、固形脂の溶融液と発泡性粉末とを芯材に交互に掛けていくのではなく、固形脂のみを目的の重量までコーティングした後、前記と同様に発泡性粉末を接触させる方法でも良い。
【0057】
コーティング層がほぼ目的の大きさ(厚み)に達したら、撹拌装置内の表面がコーティング層により覆われた芯材に対して、固形脂含量が10重量%以上、20重量%未満になる配合で、固形脂の溶融液の添加及び溶融液が固まる前の発泡性成分の接触を行うのが好ましい。これにより、得られた保水性食品のコーティング層の表面に、確実にコーティング表層を形成することができる。
以上の工程により、本発明の発泡性食品が得られる。
【0058】
以上のようにして得られた発泡性食品は、食した場合に、従来品に比べて、発泡を感じる期間が長く持続し、かつ食感や外観が良好で、高温に対する耐久性にも優れる。更には、本発明の発泡性食品は、コーティング層を舐め終わった後も、芯材であるハードキャンディが爆ぜることにより、独特の食感を味わえるので、舐め始めから最後まで退屈することなく食せるという利点を有している。
【0059】
例えば、発泡性粉末を塗布しただけの従来品では、10秒程度で発泡感が消失するのに対し、本発明では、上記のように発泡性粉末を固形脂の溶融液に接触させて製造していることで、発泡感が長時間持続する。
【0060】
また、炭酸塩と酸の粉末を練りこんだキャンディ等の従来品に比べて、本発明の発泡性食品の食感は顕著に相違する。すなわち、前記従来品では、キャンディ部分と比べて、炭酸塩や酸の粉末は口中で溶ける速度が高いため、これらの粉末が溶けた箇所が穴となり、口中のキャンディの感触としてザラツキ感が生じる。
これに対して、上記のような製造方法で得られた本発明の発泡性食品の表面には、発泡性粉末がほぼ均一に配置されているため、口中で溶ける速度は等しくなり、ザラツキ感が顕著に低減されて食感が優れたものとなる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例、試験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下において、「部」及び「%」とあるのは、特に断らない限り、それぞれ「重量部」及び「重量%」を意味する。
【0062】
コーティング層の分析結果を次に記す。
<試験例1>
まず、砂糖60部及び酵素糖化水飴38部をに溶解し、真空釜にて130℃で炊き上げた。更に、クエン酸2部とソーダ香料、青色着色料を少量加えて混合し、球状に成型して、芯材であるハードキャンディ(3g/個)を得た。
別にエリスリトール50部、酒石酸20部、クエン酸10部、重曹20部及び香料少量を混合し、発泡性粉末を得た。次いで固形脂(商品名:メラノ(商標名)NEW−SS7、上昇融点34℃、不二製油(株)製)を50℃の湯煎にかけて溶融させた。なお、表2〜4では、「メラノNEW−SS7」を「メラノ−SS7」と標記する。
【0063】
芯材のハードキャンディ70部を糖衣パンで回転させながら、芯材の表面に固形脂の溶融液を掛け、芯材の表面に均一に行き渡らせた後、固形脂の溶融液が固化する前に、発泡性粉末をかけて芯材の表面に均一に行き渡らせた。再度、固形脂の溶融液を掛け、均一に行き渡らせた後、固形脂の溶融液が固化する前に、発泡性粉末を掛けて均一に行き渡らせた。この際に振り掛けた固形脂と発泡性粉末の量を表1に記載する。これにより、発泡性のコーティング層が全体の6.67%である、サンプル1〜5のソーダ味のキャンディを得た。
【0064】
固形脂が完全に固まるのを待ってから、コーティング層の表面から芯材に向けて、コーティング層を各20%ずつ5層に分けて削り取り、その各層の固形脂含量を分析した。表面から20%までを第1層、21〜40%を第2層、41〜60%を第3層、61〜80%までを第4層、及び81%〜芯材表面までを第5層とした。詳細な結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1の結果より、サンプル1〜5はいずれもコーティング層中の固形脂含量が変化していることから、厚み方向の濃度勾配が生じているといえる。また、(サンプル1)では、第1層〜第2層の平均固形脂含量が19%、第1〜3層の平均固形脂含量が20%となることから、第1層〜第2層がコーティング表層となることがわかる。同様にして、(サンプル2)では固形脂含量が19%である第1層のみ、(サンプル3)では平均固形脂含量が19%である第1層〜第2層、(サンプル4)では平均固形脂含量が18.2%である第1層〜第5層、及び(サンプル5)では平均固形脂含量が19.5%である第1層〜第2層が、それぞれ、コーティング表層となることがわかる。
【0067】
サンプル1〜5のコーティング層は、いずれも発泡感が強く、その発泡感の持続性、食感及び外観に優れたものであり、40℃の保温庫内に3日間放置しても油染みや変形もなく、高温に対する耐久性にも優れていた。
【0068】
(実施例1)
(1)芯材(ハードキャンディ)の作製
強い発泡感が持続し、食感及び外観、高温に対する耐久性の面も優れたソーダ味のキャンディの例である。
まず、砂糖60部、酵素糖化水飴38部を水に溶解し、真空釜にて130℃で炊き上げた。クエン酸2部とソーダ香料、青色着色料を少量添加及び混合し、ハードキャンディ生地を得た。
【0069】
別に、砂糖24部、水飴37部、濃縮ヨーグルト8部、油脂6部及び乳化剤0.4部を混合及び溶解し、水分含有量が5重量%になるまで煮詰めた。これに、ゼラチン2部、フォンダント3部、酸味料0.6部及びアップル香料0.3部をニーダーで混合し、一晩エージングすることにより、ソフトキャンディ生地(保水性食品)を得た。このソフトキャンディ生地の水分値(水分含有量)は8%であった。
【0070】
ハードキャンディ生地93部で、重曹1部、クエン酸1部及び水分値8%のソフトキャンディ5部を包み込み、球状に成型して、芯材であるハードキャンディ(5g/個)を得た。
【0071】
(2)コーティング層の形成
エリスリトール50部、酒石酸20部、クエン酸10部、重曹20部及び香料少量を混合し、発泡性成分の粉末(以下「発泡性粉末」とする)を得た。一方、固形脂(メラノNEW−SS7)を50℃の湯煎にかけて溶融させ、固形脂の溶融液を得た。
【0072】
芯材70部を糖衣パンで回転させながら、芯材表面に固形脂(メラノNEW−SS7)の溶融液1.17部を掛け、均一に行き渡らせた後、固形脂が固化する前に、発泡性粉末3.53部をかけて均一に行き渡らせた(第1コーティング)。次いで、固形脂の溶融液0.05部を掛け、均一に行き渡らせた後、固形脂が固化する前に、発泡性粉末0.25部をかけて均一に行き渡らせた(第2コーティング)。
【0073】
これにより、発泡性のコーティング層が発泡性食品全体の6.67%であり、コーティング層の表面側に平均固形脂肪含量が10重量%以上、20重量%未満であるコーティング表層が形成され、コーティング層全体における固形脂含量が24.6%であるソーダ味の発泡性食品を得た。最終的な組成は表1に示す。
【0074】
得られた発泡性食品は、口中にて激しい発泡感を有し、その発泡感は1分以上持続した。また、舐め心地もよくザラツキ感がなく食感に優れ、良好な外観を有し、かつ40℃の保温庫内に3日間放置しても油染み、変形もなく耐久性にも優れていた。さらに、コーティング層を舐め終わって暫くすると、芯材が口腔内で心地よく爆ぜ、最後まで楽しく食することができた。
【0075】
(実施例2)
芯材に用いられる保水性食品として、ソフトキャンディに代えてグミキャンディを用いる以外は、実施例1と同様にして、芯材であるキャンディを得た。グミキャンディは、砂糖37.5部及び水飴44部を混合及び溶解し、真空釜にて加熱及び濃縮した後、ゼラチン13部、レモン果汁5部、酸味料0.4部及びレモン香料少量を添加及び混合することにより得た。このグミキャンディの水分含有量は15%であった。
次いで、50℃の湯煎にて溶融させた固形脂(メラノNEW−SS7)の溶融液60部に、発泡性粉末40部を分散させた。なお、本実施例で用いられる発泡性粉末は、実施例1と同じものである。
【0076】
芯材70部を糖衣パンで回転させながら、発泡性粉末を分散させた溶融液1.95部を芯材の上に掛け、均一に行き渡らせた後、溶融液が固化する前に、発泡性粉末2.75部をかけて均一に行き渡らせた(第1コーティング)。続いて、発泡性粉末を分散させた固形脂の溶融液0.08部を掛け、均一に行き渡らせた後、溶融液が固化する前に、発泡性粉末0.22部をかけて均一に行き渡らせた(第2コーティング)。これにより、発泡性コーティング層が全体の6.67%であり、そのコーティング層の表面側にコーティング表層が形成されたソーダ味の発泡性食品を得た。
【0077】
得られた発泡性食品は、実施例1の発泡性食品と同様の良好な発泡感、持続性、食感、外観及び耐久性を有していた。また、固形脂をコーティングした後に、発泡性粉末を添加している実施例1と比較して、実施例2では、発泡性粉末の一部を分散させた固形脂をコーティングした後に、残りの発泡性粉末を添加しているため、後から添加する発泡性粉末量が減ることで、コーティングに要する時間を実施例1よりも短くすることができた。
【0078】
(実施例3、4)
芯材であるハードキャンディに内包させる炭酸塩及び酸の内包量を表2に示す割合に変更する以外は、実施例1と同様にして、ソーダ風味の発泡性食品を作製した。実施例3、4で得られた発泡性食品は、発泡感、その持続性ともよく、良好な食感を有し、高温に対する耐久性に優れ、芯材の爆ぜ感も心地良いものであった。
【0079】
(実施例5、6)
発泡性粉末として表2に示す成分を用いる以外は、実施例1と同様にして、キャンディである発泡性食品を得た。得られた発泡性食品は、実施例1と同様の発泡感、持続性、食感、外観及び高温に対する耐久性を有し、芯材の爆ぜ感も心地良いものであった。
【0080】
(実施例7、8)
実施例1と同様にして作製されたソーダ味のハードキャンディを芯材として用い、さらに表2(実施例7)又は表3(実施例8)に示す各成分を用い、実施例1と同様にしてコーティング層を形成し、発泡性食品を得た。
【0081】
実施例7で得られた発泡性食品は、固形脂含量が少ないためか多少のコーティングむらができたものの、発泡感、その持続性ともよく、良好な食感を有し、高温に対する耐久性に優れ、芯材の爆ぜ感も心地良いものであった。
実施例8で得られた発泡性食品は、固形脂含量が多いため、40℃の保温庫内に3日間放置したところ多少コーティング層が緩み柔らかくなったものの、発泡感、その持続性ともよく、良好な食感および外観を有し、高温に対する耐久性にも優れ、芯材の爆ぜ感も心地良いものであった。
【0082】
(実施例9、10)
表3に示す割合で各成分を用い、コーティング層の固形脂含量が表3になるように変更する以外は、実施例1と同様にして、発泡性食品を得た。実施例9で得られた発泡性食品は、実施例1の発泡性食品と同様の優れた発泡感、持続性、食感、外観及び高温に対する耐久性を有し、芯材の爆ぜ感も心地良いものであった。実施例10で得られた発泡性食品は、40℃の保温庫内に3日間放置したところ多少コーティング層が柔らかくなったものの、発泡感、その持続性ともよく、良好な食感及び外観を有し、高温に対する耐久性にも優れ、芯材の爆ぜ感も心地良いものであった。
【0083】
(実施例11、12)
固形脂を、「メラノNEW−SS7、上昇融点34℃」から「商品名:メルバ26、上昇融点28℃、不二製油(株)製」(実施例11)又は「商品名:メラノH−2000、上昇融点40℃、不二製油(株)製」(実施例12)に変更する以外は、実施例1と同様にして発泡性食品を得た。
【0084】
実施例11で得られた発泡性食品は、発泡感、その持続性、食感、外観及び高温に対する耐久性が良好であり、芯材の爆ぜ感も心地良いものであったが、実施例1の発泡性食品と比較すると、コーティング層が柔らかく、強く押すと変形する等取り扱いに注意を要した。また、実施例12で得られた発泡性食品は、発泡感の持続性、食感、外観及び高温に対する耐久性に優れ、芯材の爆ぜ感も心地良いものであったが、実施例1の発泡性食品と比較すると、発泡感が若干弱く感じられた。
【0085】
(実施例13)
固形脂を、「メラノNEW−SS7、上昇融点34℃」から「商品名:メラノSS−400、上昇融点37℃、不二製油(株)製」に変更する以外は、実施例1と同様にして、発泡性キャンディである発泡性食品を得た。得られた発泡性食品は、発泡感が持続し、舐め心地もよく、良好な食感を有し、かつ40℃の保温庫内に3日間放置しても油染み、変形もなく、高温に対する耐久性にも優れていた。
【0086】
(実施例14)
コーティング内層に用いられる固形脂を、「メラノNEW−SS7、上昇融点34℃」から「商品名:メラノSS−400、上昇融点37℃、不二製油(株)製」に変更する以外は、実施例1と同様にして、発泡性食品を得た。得られた発泡性食品は、強い発泡感が持続し、舐め心地もよく、良好な食感及び外観を有し、40℃の保温庫内に3日間放置しても油染みや変形もなく、高温に対する耐久性に優れ、芯材の爆ぜ感も心地良いものであった。
【0087】
(比較例1)
実施例1と同様にして、芯材であるハードキャンディを得た。次に、実施例1と同様にして、発泡性粉末を得た。芯材70部を糖衣パンで回転させながら、発泡性粉末5部を掛け、均一に行き渡らせた。得られた発泡性食品は、実施例1の発泡性食品と同等の激しい発泡感を有するが、発泡感は一瞬(5秒程度)しか持続しなかった。なお、芯材に関しては、心地良い爆ぜ感を有していた。
【0088】
(比較例2)
特許文献7に記載の方法に準じて発泡性食品を得た。すなわち、実施例1と同様にして得られた芯材70部を糖衣パンで回転させながら、その表面に固形脂(メラノNEW−SS7)の溶融液3部を掛け、均一に行き渡らせた。その後、25℃に設定したスポットクーラーにて糖衣パン内を冷却し、溶融液を固化させた。次いで、40℃に設定したヒーターにて糖衣パン内を温め、固形脂の表面が溶融してきたところで、実施例1と同様にして得られた発泡性粉末4部をかけて均一に行き渡らせた。温度をかけた状態で糖衣パンを回転させ続けると固形脂の溶融液が表面に浮き出てくるため、同様に発泡性粉末4部を2回投入した。
【0089】
前記と同様のコーティング工程(固形脂の溶融液を添加するところから、発泡性粉末4部を合計3回投入するまでの工程)をもう一度行ない、発泡性粉末がコーティングされたソーダ味のハードキャンディを得た。このハードキャンディを分析し、固形脂含量を測定したところ、コーティング層に厚み方向の濃度勾配は見られず、その固形脂含量はほぼ均一であった。
【0090】
得られたハードキャンディは、口中にて持続感のある激しい発泡を生じ、舐め心地もよくザラツキ感がなく食感にも優れていた。しかながら、得られたハードキャンディを40℃の保温庫内に3日間放置すると、コーティング層に変形は見られなかったものの、ほんのりと油染みが見られ、高温に対して十分な耐久性を有していないことが分かった。
【0091】
(比較例3〜5)
芯材であるハードキャンディに内包させる炭酸塩及び酸の内包量を表4のように変更して芯材を作製する以外は、実施例1と同様にして、ソーダ風味の発泡性食品を作製した。比較例3、4で得られた発泡性食品は、発泡感、その持続性ともよく、高温に対する耐久性にも優れていた。しかし、芯材であるハードキャンディが爆ぜず、楽しみに欠けたものであった。また、比較例5の配合にて作製した発泡性食品は、炭酸塩及び酸の内包量が多すぎることにより、炭酸塩が分解して多量のガスが発生したせいか、コーティング前の芯材が自然に破裂してしまった。
【0092】
(比較例6)
芯材であるハードキャンディに内包させる保水性食品の水分値を8%から4%に変更して芯材を作製する以外は、実施例1と同様にして、ソーダ風味の発泡性食品を作製した。比較例6で得られた発泡性食品は、保水性食品の水分値が低いことにより炭酸塩と酸との反応が起こらなかったせいか、芯材であるハードキャンディが爆ぜず、楽しみに欠けたものであった。
【0093】
(比較例7、8)
芯材であるハードキャンディに内包させる保水性食品の内包量を表4に示すように変更して芯材を作製する以外は、実施例1と同様にして、ソーダ風味の発泡性食品を作製した。比較例7で得られた発泡性食品は、保水性食品の内包量が少なすぎることに起因して、炭酸塩と酸との反応が起こらなかったせいか、芯材が爆ぜず、楽しみに欠けたものであった。比較例8で得られた発泡性食品は、芯材中の保水性食品の内包量が多過ぎるためか、自壊した。
【0094】
実施例1〜14、比較例1〜8の発泡性食品の組成及びその評価結果を表2〜4にまとめる。表中の発泡性粉末、固形脂含量、粉末含量の数値は重量%である。
なお、表2〜4中の本発明でいうコーティング率は下記計算式より算出された値をいう。
コーティング率(%)=[(X−Y)/X]×100
〔式中、Xは発泡性食品100粒の重量を示す。Yは芯材100粒の重量を示す。〕
また、表中の評価基準は、以下のとおりである。
【0095】
(外観)
◎:コーティングにムラが無く、剥離しない。
○:コーティングにムラが見られるものの、剥離しない。
×:コーティングに激しいムラがあり、剥離する。
【0096】
(爆ぜ感)
◎:キャンディが口腔内で心地良く爆ぜる。
×:キャンディが自壊するか又は口腔内で爆ぜない。
【0097】
(発泡性)
◎:激しく発泡する。
○:穏やかに発泡する。
×:微かに発泡するか又は発泡しない。
【0098】
(持続性)
◎:発泡感が45秒以上持続する。
○:発泡感の持続が、15秒以上、45秒未満である。
×:発泡感の持続が、15秒未満である。
【0099】
(耐久性)
◎:40℃で3日間保存しても、油染み及び変形がない。
○:40℃で3日間保存しても油染み及び変形はないが、力を加えると変形しやすい。
△:40℃で3日間の保存により、ほんのりと油染みが見られ、変形はないが力を加えると変形する。
×:40℃で3日間の保存により、油染み及び変形が発生する。

【0100】
【表2】
【0101】
【表3】

【0102】
【表4】
【0103】
表2〜4の結果から、実施例1〜14で得られた発泡性食品は何れも、比較例1〜8で得られたものに比べ、外観、爆ぜ感、発泡感、この発泡感の持続性、食感及び高温に対する耐久性の全ての項目に優れたものであることがわかる。