特許第5812013号(P5812013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5812013
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月11日
(54)【発明の名称】堆積防止方法および過給機
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20151022BHJP
   F02B 39/00 20060101ALI20151022BHJP
   F02B 39/16 20060101ALI20151022BHJP
【FI】
   C23C26/00 A
   F02B39/00 U
   F02B39/00 D
   F02B39/16 Z
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-553586(P2012-553586)
(86)(22)【出願日】2011年12月26日
(86)【国際出願番号】JP2011080019
(87)【国際公開番号】WO2012098807
(87)【国際公開日】20120726
【審査請求日】2013年4月23日
(31)【優先権主張番号】特願2011-10266(P2011-10266)
(32)【優先日】2011年1月20日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】横山 文彦
【審査官】 深草 祐一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−131727(JP,A)
【文献】 特開2003−277976(JP,A)
【文献】 特開2003−001427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 26/00
F02B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼部と、ノズルと、ハウジングとを含む流路部を備えるタービンと、前記タービンの翼部の回転を利用してエンジンに空気を導入する圧縮機と、を備え、前記エンジンに空気を導入する過給機を用いるコーキングデポジットの堆積防止方法であって、
前記タービンの前記流路部の前記翼部、前記ノズル、前記ハウジングの少なくとも1つの表面に銅(Cu)を含まないニッケル(Ni)からなる被膜を単独膜として設ける被膜工程を有するコーキングデポジットの堆積防止方法。
【請求項2】
エンジンの排気路に設けられた過給機であって、
翼部と、ノズルと、ハウジングを含む流路部を備えるタービンと、
前記タービンの翼部の回転を利用して前記エンジンに空気を導入する圧縮機と、
を備え、
少なくとも前記流路部の表面に銅(Cu)を含まないニッケル(Ni)からなる被膜を単独膜として有する過給機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気路に設けられた過給機のタービンにおける炭素質の堆積物(コーキングデポジット)の発生を防止する堆積防止方法および過給機に関する。
本願は、2011年1月20日に日本に出願された特願2011−10266号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気路に設けられた過給機のタービン(翼部およびハウジング)には、エンジンから排出された排気ガス(気相)に含まれる燃料や潤滑油(エンジン油)等が気化した物質が固着する。そして、タービンの表面(金属)において、付着した有機化合物(燃料や潤滑油)に由来した炭化反応が進行し、燃料や潤滑油に含有される無機化合物(酸化防止剤や清浄分散剤由来)が堆積する。タービンの翼部(インペラ)に炭素質(炭素や炭化した無機物で構成される物質)の堆積物(コーキングデポジット)が生じると、インペラがアンバランスになる。その結果、インペラに振動が発生するとともに、インペラとハウジングのクリアランス量が低下するため、タービンが損傷したり、回転効率が低下する。
【0003】
このように発生したコーキングデポジットをタービンから除去するために、水噴射を行う方法が採られている。しかしながら、このような気相に含まれる物質によって生じるコーキングデポジットは、硬度が高いため、水噴射では高い除去効果を得ることはできない。
【0004】
そこで、タービン(翼部およびハウジング)の表面に何らかの処理を施し、堆積物の発生を予め防止することが考えられる。炭化水素を含有する液体が流通する際に接触する金属表面への炭素の析出を防止する技術として、金属表面にクロム(Cr)をメッキする技術(例えば、特許文献1)が提案されている。特許文献1は、液体中の炭化水素の分解を抑えることで炭素の析出を防止することを目的とし、炭化水素の分解を促進する触媒であるニッケル(Ni)や鉄(Fe)の金属表面への露出を防止するためにCrメッキを施す技術を説明している。
【0005】
また、表面にアルミナ(Al)を被覆する技術(例えば、特許文献2)も提案されている。特許文献2は、酸化反応を抑制し、物体表面からの蒸発、気化を促進することで炭化水素、脂肪酸等の表面への付着を防止することを目的とし、酸化反応を促進する触媒であるマンガン(Mn)、銅(Cu)、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)ではなく、酸化反応を促進しない、Alを被覆する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−146008号公報
【特許文献2】特開昭59−49314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1および2に記載された技術を利用して、金属表面にCrメッキやAlの被覆を施したとしても、上述した気相に含まれる物質によって生じるコーキングデポジットの堆積を防止することはできず、反対にコーキングデポジットの発生を促進する結果となった。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、炭化反応を抑制することで、タービンに生じるコーキングデポジットの発生を防止することが可能な堆積防止方法および過給機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。第1の発明は、翼部と、ノズルと、ハウジングとを含む流路部を備えるタービンと、前記タービンの翼部の回転を利用して前記エンジンに空気を導入する圧縮機と、を備え、エンジンの排気路に設けられた過給機を用いるコーキングデポジットの堆積防止方法である。このコーキングデポジットの堆積防止方法は、前記タービンの前記流路部の翼部、ノズル、およびハウジングの少なくとも1つの表面に銅(Cu)を含まないニッケル(Ni)からなる被膜を単独膜として設ける被膜工程を有する。
【0011】
第2の発明は、エンジンの排気路に設けられた過給機であって、翼部と、ノズルと、ハウジングとを備えるタービンと、タービンの翼部の回転を利用してエンジンに空気を導入する圧縮機と;備える。少なくとも前記流路部の表面に銅(Cu)を含まないニッケル(Ni)からなる被膜を単独膜として有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、炭化反応を抑制することで、タービンに生じるコーキングデポジットの発生を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】コーキングデポジット発生防止システムを説明するための説明図である。
図2】数種の元素の炭化反応における標準自由エネルギー変化を説明するための説明図である。
図3】未処理のダクタイル鋳鉄(FCD)と、FCDに表面処理を施したときのコーキングデポジットの発生量(堆積量)を説明するための説明図である。
図4A】塗料を単体で、Ar雰囲気下、650℃で、120時間放置した場合の結果を説明するための説明図である。
図4B】塗料を単体で、Ar雰囲気下、650℃で、120時間放置した場合の結果を説明するための説明図である。
図5】未処理のFCD、未処理のNi基合金、およびNi基合金に対し、表面処理を施したときのコーキングデポジットの発生量(堆積量)を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。この実施形態に示す寸法、材料および具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能および構成を有する要素には、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
(コーキングデポジット発生防止システム)
図1は、本実施形態にかかるコーキングデポジット発生防止システム100を説明するための説明図である。図1に示すように、コーキングデポジット発生防止システム100は、エンジン110と、過給機120とを含む。コーキングデポジット発生防止システム100は、例えば、巡視艇や漁船等の小、中型船舶に利用される。エンジン110は、4サイクルエンジン(4ストロークエンジン)を例に挙げて説明するが、コーキングデポジット発生防止システム100を、コンテナ船やタンカー等の大型船舶に利用し、エンジン110に2サイクルエンジン(2ストロークエンジン)を採用することもできる。また、コーキングデポジット発生防止システム100を、バイオディーゼル等を燃料とする車両に利用することもできる。
【0016】
エンジン110は、シリンダ110aと、ピストン110bと、吸気弁110cと、排気弁110dと、吸気マニホールド112と、排気マニホールド114とを含む。エンジン110は、吸入、圧縮、燃焼、排気といった4つの行程を通じて、クロスヘッド(図示せず)に連結されたピストン110bが、シリンダ110a内を摺動自在に、図1中の白抜き矢印に示す方向に往復移動する。吸気マニホールド112は、エンジン110に設けられた複数の吸気弁110cそれぞれを通じてシリンダ110aと連通する複数の吸気路を集約する。排気マニホールド114は、エンジン110に設けられた複数の排気弁110dそれぞれを通じてシリンダ110aと連通する複数の排気路を集約する。
【0017】
過給機120は、例えば、舶用の過給機であり、エンジン110の排気マニホールド114の下流の排気路202に設けられ、タービン122と、タービン122と同軸の圧縮機124とを含む。タービン122は、翼部(インペラ)とハウジングとを含む。タービン122の翼部は、排気マニホールド114から排出された排気ガスX1によって回転する。圧縮機124は、このタービン122の翼部の回転を利用し、外部から導入される活性ガス(酸素、オゾン等の酸化剤、または、その混合気(例えば空気))を圧縮して吸気マニホールド112に吸気し、エンジン110への吸気の圧力を高める。こうすることで、エンジン110の出力を向上させることができる。
【0018】
本実施形態の過給機120のタービン122において、翼部、ノズルおよびハウジングを含む流路部の表面には、タービン122の動作温度(例えば、舶用の過給機の場合650℃程度、ガソリン車の過給機の場合1050℃程度、ディーゼル車の過給機の場合850℃程度、トラックの過給機の場合500℃程度)において、炭化反応における標準自由エネルギー変化が−50kJ/mol以上となる元素を含む被膜が設けられている。ここで、炭化反応における標準自由エネルギー変化が−50kJ/mol以上となる元素は、例えば、Ni、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、Fe、コバルト(Co)、タングステン(W)、Pt、金(Au)、Cuから選択された1または複数の元素もしくはその化合物であり、好ましくはNiまたはSiもしくはその化合物であり、より好ましくはNiまたはその化合物である。
【0019】
図2は、数種の元素の炭化反応における標準自由エネルギー変化を説明するための説明図である。標準自由エネルギー変化が0の場合、炭化反応は平衡状態であり、標準自由エネルギー変化が正の(0を上回る)値を示している場合、炭化反応が抑制され(進行し難く)、標準自由エネルギー変化が負(0未満)の値を示している場合、炭化反応が進行しやすい。
【0020】
図2を参照すると、例えば、Ni、Fe、Coは、タービン122の動作温度である650℃において標準自由エネルギー変化が正の値を示すので、炭化反応は進行し難い。一方、例えば、W、Cr、Mn、Alは、タービン122の動作温度である650℃において標準自由エネルギー変化が負の値を示すので、炭化反応は進行しやすい。
【0021】
したがって、タービン122の表面に、炭化反応の標準自由エネルギー変化が0以上である物質を成膜すれば、炭化反応が抑制され、タービン122の表面へのコーキングデポジット(炭素や炭化した金属の堆積物)の発生を防止することができる。
【0022】
なお、図2を参照すると、WやSiは、標準自由エネルギー変化が正の値をとらないが、−50kJ/molを上回っている。したがって、WやSiのような、タービン122の材質と比較して、炭化反応の標準自由エネルギー変化が大きい物質(例えば、標準自由エネルギー変化が−50kJ/mol以上の物質)を成膜すれば、タービン122の表面に何も処理を施さない場合と比較して、炭化反応が抑制され、タービン122の表面へのコーキングデポジット(炭素や炭化した金属の析出物)の発生を防止することができる。
【0023】
(堆積防止方法)
本実施形態にかかる堆積防止方法は、エンジン110の排気路202に設けられた過給機120のタービン122に、炭化反応における標準自由エネルギー変化が−50kJ/mol以上となる元素を含む被膜を設ける(被膜工程)。
【0024】
ここで、被膜工程は、炭化反応における標準自由エネルギー変化が−50kJ/mol以上となる元素を含む塗料を塗布したり、標準自由エネルギー変化が−50kJ/mol以上となる元素を溶射あるいはメッキしたりすることで、タービン122に被膜を設ける工程である。なお、この被膜工程では、元素を溶射して被膜を設けるより、塗料を塗布するあるいは元素をメッキして被膜を設ける方が好ましい。例えば、元素を溶射して被膜を設ける場合、被膜に多くの空孔が形成されるため、その空孔を通じて油が母材(鉄)に触れる可能性がある。すなわち、油と母材とを十分に遮断することが難しい。一方、塗料を塗布するあるいは元素をメッキして被膜を設ける場合には、上記のような空孔は生じないため、油と母材とを完全に遮断することができる。さらに、元素を溶射して被膜を設ける場合、被膜の表面が粗くなるため、表面を平滑化させるために表面研磨等の後処理を必要とする。一方、塗料を塗布するあるいは元素をメッキして被膜を設ける場合には、表面が粗くなることはないため、上記のような後処理は必要ない。また、塗料を塗布する場合、スプレーを使用して塗布してもよく、手作業で塗布してもよい。好ましくは、被膜の表面の粗さをより抑えることができるスプレーを使用する方がよい。
なお、この被膜工程では、翼部と、ノズルと、ハウジングを含む流路部を備えるタービンにおいて、翼部と、ノズルと、ハウジングの少なくとも1つを被膜する。
【0025】
なお、標準自由エネルギー変化が−50kJ/mol以上となる元素を含む塗料を塗布して被膜を設ける場合、塗料を塗布した後にタービン122を動作させると、タービン122の温度は650℃程度となる。そのため、塗料が焼結されて塗料に含まれる元素を含む被膜が形成されることになる。
【0026】
(実施例1)
タービン122のハウジングの材質であるFCD(ダクタイル鋳鉄)に塗料1、2、3を塗布したもの、FCDにNiを成膜したもの、および未処理のFCDを、LO(Lubricating Oil:潤滑油)とFO(Fuel Oil:燃料油)とが8:2で混合された混合試料を気化した雰囲気下、650℃で、120時間放置した。ここで、塗料1、2はAlが分散されたシリコーン系樹脂、塗料3はCuが分散されたシリコーン系樹脂である。
【0027】
図3は、未処理のFCDと、FCDに表面処理を施したときのコーキングデポジットの発生量(堆積量)を説明するための説明図であり、図4Aおよび図4Bは、塗料1および塗料3を単体で、Ar雰囲気下、650℃で、120時間放置した場合の結果を説明するための説明図である。なお、コーキングデポジットの発生量の評価方法は、特開2011−7550号公報に記載された固形物質生成の評価方法を利用した。
【0028】
図3に示すように、未処理のFCDのコーキングデポジットの発生量を1.0とした場合、塗料1では1.3倍、塗料2では1.8倍、塗料3では1.3倍のコーキングデポジットの発生量であり、Niではコーキングデポジットの発生量が0であった。
【0029】
図4Aおよび図4Bを参照すると、塗料1をAr(アルゴン)雰囲気下、650℃で、120時間放置すると、シリコーン樹脂に含まれる有機化合物が揮発し、無機化合物であるAl、Si、Feを含む化合物が生成されることがわかる。つまり、塗料1を塗布した場合、FCDの表面には主に、Al、Si、Feを含む被膜が存在すると考えられる。Alは標準自由エネルギー変化が−50kJ/mol未満であるが、SiとFeによって、コーキングデポジットの発生量が1.3倍程度に抑えられたと推測される。
【0030】
一方、Alが分散されたシリコーン系樹脂である塗料2では、SiがAlによる炭化反応の進行を抑制しきれず、コーキングデポジットの発生量が1.8倍程度に増加したと考えられる。
【0031】
図4Aおよび図4Bを参照すると、塗料3をAr雰囲気下、650℃で、120時間放置すると、シリコーン樹脂に含まれる有機化合物が揮発し、無機化合物であるSi、Fe、Cuを含む化合物が生成されることがわかる。つまり、塗料3を塗布した場合、FCDの表面には主に、Si、Fe、Cuを含む被膜が存在すると考えられる。これらの元素は、標準自由エネルギー変化が−50kJ/mol以上であるため、コーキングデポジットの発生量が1.3倍程度に抑えられたと推測される。
【0032】
図3に示すように、FCDにNiを成膜した場合、コーキングデポジットの発生量は0と著しく低減することができた。図2を参照すると、Niは、標準自由エネルギー変化が30kJ/molと高いため、炭化反応が促進せず、コーキングデポジットがほとんど発生しなかったと推測される。
【0033】
(実施例2)
タービン122のインペラの材質であるNi基合金(例えばINCONEL(登録商標)など)に塗料1、2、3を塗布したもの、および未処理のNi基合金を、LOとFOとが8:2で混合された混合試料を気化した雰囲気下、650℃で、120時間放置した。ここで、塗料1、2はAlが分散されたシリコーン系樹脂、塗料3はCuが分散されたシリコーン系樹脂である。
【0034】
図5は、未処理のFCD、未処理のNi基合金、およびNi基合金に表面処理を施したときのコーキングデポジットの発生量(堆積量)を説明するための説明図である。なお、コーキングデポジットの発生量の評価方法は、上述した実施例1と同様に、特願2009−149668号に記載された固形物質生成の評価方法を利用した。
【0035】
図5に示すように、未処理のFCDのコーキングデポジットの発生量を1.0とした場合、塗料1では0.1倍、塗料2では0.9倍、塗料3では0.2倍、未処理のNi基合金では0.3倍のコーキングデポジットが発生(堆積)した。言い換えると、未処理のFCDのコーキングデポジットの発生量と比較して、未処理のNi基合金および塗料1〜3を塗布したNi基合金のコーキングデポジットの発生量は少なかった。
【0036】
Ni基合金は、標準自由エネルギー変化が大きいNiの合金であるため、Ni基合金の影響で、未処理のNi基合金および塗料1〜3を塗布したNi基合金のコーキングデポジットの発生量が、未処理のFCDと比較して少なくなったと推測される。
【0037】
上述した実施例1、2のように、タービン122の翼部およびハウジングの表面に、SiやNi等の標準自由エネルギー変化が−50kJ/mol以上となる元素を含む被膜を設けることで、タービン122の表面におけるコーキングデポジットの発生を低減することができた。
【0038】
以上に説明したように、本実施形態にかかる堆積防止方法は、炭化反応における標準自由エネルギー変化が−50kJ/mol以上となる元素を含む被膜をタービン122の表面に設けることで、タービン122の表面における炭化反応を抑制し、タービン122に生じるコーキングデポジットの発生を防止することが可能となる。
【0039】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されない。当業者であれば、明細書に記載されている範囲において、各種の変更例または修正例を想到し得ることは明らかであり、それらも当然に本発明の技術的範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、エンジンの排気路に設けられた過給機のタービンにおける炭素質の堆積物(コーキングデポジット)の発生を防止する堆積防止方法および過給機に利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
110 …エンジン
120 …過給機
122 …タービン
124 …圧縮機
202 …排気路
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5