(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5812135
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月11日
(54)【発明の名称】リン酸水素カルシウム微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/32 20060101AFI20151022BHJP
【FI】
C01B25/32 G
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-39911(P2014-39911)
(22)【出願日】2014年2月28日
(62)【分割の表示】特願2009-544604(P2009-544604)の分割
【原出願日】2008年9月8日
(65)【公開番号】特開2014-129233(P2014-129233A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2014年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2007-312892(P2007-312892)
(32)【優先日】2007年12月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000237972
【氏名又は名称】富田製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】服部 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】大西 昇一
(72)【発明者】
【氏名】大久保 彰
(72)【発明者】
【氏名】柚木 正志
(72)【発明者】
【氏名】川本 有洋
(72)【発明者】
【氏名】小西 征則
【審査官】
佐藤 哲
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−118005(JP,A)
【文献】
特許第2700141(JP,B2)
【文献】
特開昭62−287966(JP,A)
【文献】
特開平10−120408(JP,A)
【文献】
特許第3934184(JP,B2)
【文献】
特開昭60−188309(JP,A)
【文献】
特開平06−298505(JP,A)
【文献】
特許第3005883(JP,B2)
【文献】
国際公開第2009/072334(WO,A1)
【文献】
特開昭59−223208(JP,A)
【文献】
特開昭60−036404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00 − 25/46
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第三リン酸カルシウムから式CaHPO4・nH2O(但し、nは、0≦n≦0.5を示す。)で示されるリン酸水素カルシウムの微粒子を製造する方法であって、
(1)第三リン酸カルシウム及び溶媒を含む混合物にリン酸を添加する工程及び
(2)前記リン酸が添加されてなる混合物を熱処理する工程、
を含む、リン酸水素カルシウム微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記(1)の工程において、1)多価有機酸及びその塩ならびに2)ピロリン酸及び縮合リン酸ならびにこれらの塩の少なくとも1種を添加する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記(2)の工程における熱処理温度が55〜95℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記(1)の工程における溶媒が水である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記リン酸水素カルシウムの微粒子において、
(1)前記微粒子の平均2次粒子径が15μm以下であり、
(2)前記微粒子の静的嵩比容積が5mL/g未満であり、
(3)前記微粒子の結晶子径が250Å以下である、
請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なリン酸水素カルシウム微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無水リン酸水素カルシウム(第二リン酸カルシウム:CaHPO
4)及びリン酸水素カルシウム二水和物(第二リン酸カルシウム二水和物:CaHPO
4・2H
2O)は、これまで各種の医薬品原料として用いられていた。特に、無水リン酸水素カルシウムは、かつて賦形剤として利用されていた。その後、成形性、崩壊性等に優れる有機系賦形剤(乳糖、結晶セルロース等)の台頭により、無水リン酸水素カルシウムを賦形剤として利用するケースは減少の一途をたどっていた。
【0003】
ところが、最近ではBSE、GMO(遺伝子変換)等が社会問題化されるようになり、そのような状況下で動物及び植物を原料とする有機系賦形剤の医薬品原料としての安全性及びそのトレーサビリティを疑問視する動きが出始めている。また、かねてより、有機系賦形剤の欠点として挙げられていた主剤(有効成分)との反応性の問題に加え、直接打錠製剤において錠剤硬度や崩壊性の長期安定性に問題があることも明らかになっている。
【0004】
こうした中で、無水リン酸水素カルシウムのような無機系賦形剤の利用が見直され、特に成形性に優れる無水リン酸水素カルシウムの微粒子の開発を目的とした研究開発が各方面で進められている。
【0005】
例えば、特許文献1では、リン酸とアルカリ性カルシウム化合物、またはアルカリ金属リン酸塩とカルシウム化合物とを水媒体中においてクエン酸、酒石酸、エチレンジアミン4酢酸、リンゴ酸およびコハク酸よりなる群から選ばれた1種以上の配位能を有した多価有機酸の存在下に反応させることを特徴とする化学式CaHPO
4・mH
2O(式中、mは0≦m≦2の範囲の数を示す)で示され、電子顕微鏡下で測定した一次粒子が0.1〜1μmの柱状結晶であるリン酸水素カルシウムの製造方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献2では、比表面積が20〜60m
2/g、静的嵩比容積が5ml/g以上、吸油量が1.0ml/g以上であり、電子顕微鏡で測定した一次粒子が0.1〜5μ、その凝集した二次粒子の平均粒子径が2〜10μである下式CaHPO
4・mH
2O(式中mは0≦m≦0.5の範囲の数を示す)で示される鱗片状のリン酸水素カルシウムが開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、リン酸水素カルシウム二水塩を水媒体中において配位能を有する多価有機酸の存在下、60℃以上で水熱処理することを特徴とする鱗片状リン酸水素カルシウムの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3005883号
【特許文献2】特許第2700141号
【特許文献3】特許第3934184号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これら従来技術で得られるリン酸水素カルシウムの微粒子は、ハンドリング性が良好なものとは言えず、また他の粉体との混合性、ひいては成形性も不十分であるという問題がある。
【0010】
従って、本発明の主な目的は、優れた成形性等を備えたリン酸水素カルシウムの微粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、第三リン酸カルシウムを出発原料とし、リン酸水素カルシウムを合成することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記のリン酸水素カルシウム微粒子の製造方法に係る。
1. 第三リン酸カルシウムから式CaHPO
4・nH
2O(但し、nは、0≦n≦0.5を示す。)で示されるリン酸水素カルシウムの微粒子を製造する方法であって、
(1)第三リン酸カルシウム及び溶媒を含む混合物にリン酸を添加する工程及び
(2)前記リン酸が添加されてなる混合物を熱処理する工程、
を含む、リン酸水素カルシウム微粒子の製造方法。
2. 前記(1)の工程において、1)多価有機酸及びその塩ならびに2)ピロリン酸及び縮合リン酸ならびにこれらの塩の少なくとも1種を添加する、前記項1に記載の製造方法。
3. 前記(2)の工程における熱処理温度が55〜95℃である、前記項1に記載の製造方法。
4. 前記(1)の工程における溶媒が水である、前記項1に記載の製造方法。
5. 前記リン酸水素カルシウムの微粒子において、
(1)前記微粒子の平均2次粒子径が15μm以下であり、
(2)前記微粒子の静的嵩比容積が5mL/g未満であり、
(3)前記微粒子の結晶子径が250Å以下である、
前記項1に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリン酸水素カルシウム微粒子は、平均2次粒子径が15μm以下という微粒子でありながら、静的嵩比容積が5mL/g未満という特異な物性を有することから、良好な成形性等を維持しつつ、優れたハンドリング性、混合性等を発揮することができる。
【0014】
また、本発明のリン酸水素カルシウム微粒子は、前記物性とともに、液性pHが中性領域に制御されている場合は、他の薬剤(物質)と併存させる場合にあっても安定性に優れており、変質等がおこりにくい。このため、併存させる物質が制限されず、実質的にあらゆる薬剤(物質)と組み合わせて用いることができる、
【0015】
本発明の製造方法によれば、特に第三リン酸カルシウムを出発原料として用いるので、上記のリン酸水素カルシウム微粒子をより確実かつ効率的に製造することができる。
【発明の概要】
【0017】
本発明のリン酸水素カルシウム微粒子は、式CaHPO
4・nH
2O(但し、nは、0≦n≦0.5を示す。)で示されるリン酸水素カルシウムの微粒子であって、
(1)前記微粒子の平均2次粒子径が15μm以下であり、
(2)前記微粒子の静的嵩比容積が5mL/g未満である、
ことを特徴とする。
【0018】
本発明のリン酸水素カルシウムは、基本的に無水リン酸水素カルシウムであり、前記nは好ましくは0≦n≦0.2である。
【0019】
本発明のリン酸水素カルシウムの結晶系は、例えば単斜晶系のリン酸水素カルシウムが挙げられるが、これらは限定されるものではない。
【0020】
本発明のリン酸水素カルシウム微粒子における平均2次粒子径は、通常15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは8.5μm以下である。例えば、平均2次粒子径1〜10μmの微粒子を好適に採用することができる。平均2次粒子径が15μmを超える場合は成形性(結合性)が低下する。なお、平均2次粒子径の下限値は限定的ではないが、通常は0.5μm程度とすれば良い。
【0021】
本発明のリン酸水素カルシウム微粒子における静的嵩比容積は通常5mL/g未満であり、好ましくは4.8mL/g以下、より好ましくは4.5mL/g以下、最も好ましくは4mL/g以下である。静的嵩比容積の下限値は限定されないが、通常2mL/g程度とすれば良い。従って、例えば静的嵩比容積は通常2〜4mL/gの微粒子を好適に用いることができる。静的嵩比容積が5mL/gを超える場合は、ハンドリング性が低下するほか、他の成分と混合する場合の混合性が低下する。従来技術では、良好な成形性等を維持するためには静的嵩比容積を5mL/g以上に設定する必要があるとされていたが、本発明はそのような技術常識を打破し、静的嵩比容積を5mL/g未満に設定する技術を開発し、それによって良好な成形性を維持しつつハンドリング性又は混合性を高めることに成功したものである。
【0022】
本発明のリン酸水素カルシウムは、その液性pHは通常6〜8の範囲にすれば良いが、好ましくは6.5〜8、より好ましくは6.5〜7.5、最も好ましくは6.7〜7.3である。液性pHを6〜8に設定する場合、本発明微粒子は、混合する薬剤(物質)の種類が制約されず(併存させる薬剤(物質)のpHに関係なく)、実質的にあらゆる成分と安定して混合することが可能となる。
【0023】
本発明リン酸水素カルシウムの結晶子径は、特に制限されず、一般的には300Å以下、好ましくは250Å以下、より好ましくは220Å以下とする。結晶子径の下限値は限定的でないが、通常は100Å程度とすれば良い。従って、例えば100〜220Åの結晶子径を好適に採用することができる。結晶子径を300Å以下の範囲に設定することによって、いっそう良好な凝集性を得ることができ、ひいてはより優れた成形性を得ることができる。
【0024】
リン酸水素カルシウムの微粒子(1次粒子)の形状は特に限定されず、例えば鱗片状、柱状、球状等のいずれであっても良いが、特に鱗片状であることが好ましい。特に前記の結晶子径を300Å以下に制御することで所望の鱗片状粒子を得ることができる。
【0025】
本発明リン酸水素カルシウムの微粒子は、公知のリン酸水素カルシウムの用途と同様の用途に使用することができる。例えば、医薬品、食品、化粧品、肥料等の賦形剤のほか、固結防止剤、その他の各種用途に好適である。使用条件、使用方法等も、公知のリン酸水素カルシウムと同様にすれば良い。
【0026】
本発明リン酸水素カルシウムの微粒子は、成形性に優れている。例えば、錠剤(ペレット状圧粉体)を成形する場合、同じ圧力でも従来の微粒子より高い硬度を得ることができる。より具体的には、重量比で本発明微粒子:ステアリン酸マグネシウム(平均粒径6μm)=99.5:0.5で混合した試料を単発式打錠機にて杵直径:9mm、錠剤重量:300mg、打錠圧:1.0トンで成形して得られた錠剤の硬度(10錠分の平均値)が通常40N以上、好ましくは100N以上、より好ましくは120N以上である。
【0027】
また、本発明リン酸水素カルシウムの微粒子は、酸量がリン酸水素カルシウム自身の表面に由来するものであれば、一般的に0.3〜0.5nm
−2程度の範囲内にあることが好ましいが、不純物等に由来して酸点が発現する場合、酸量は、この範囲を外れても差し支えない。
【0028】
2.リン酸水素カルシウム微粒子の製造方法
本発明のリン酸水素カルシウム微粒子は、特に、本発明の製造方法により好適に得ることができる。すなわち、第三リン酸カルシウムから式CaHPO
4・nH
2O(但し、nは、0≦n≦0.5を示す。)で示されるリン酸水素カルシウムの微粒子を製造する方法であって、
(1)第三リン酸カルシウム及び溶媒を含む混合物にリン酸を添加する工程(添加工程)及び
(2)前記前記リン酸が添加されてなる混合物を熱処理する工程(熱処理工程)、
を含む、リン酸水素カルシウム微粒子の製造方法を好適に採用することができる。
【0029】
添加工程
添加工程では、第三リン酸カルシウム及び溶媒を含む混合物にリン酸を添加する。本発明での最も大きな特徴の1つが第三リン酸カルシウムを出発原料として用いる点にある。かかる原料を用いることにより、良好な成形性を維持しつつ、優れたハンドリング性、混合性等を発揮できるリン酸水素カルシウム微粒子を好適に製造することができる。
【0030】
第三リン酸カルシウムは、化学式Ca
3(PO
4)
2で示される化合物であり、市販品を用いることができる。また、公知の製造方法によって調製されたものを使用することもできる。例えば、カルシウム含有化合物とリン酸化合物とを液相で反応させて得られる第三リン酸カルシウムを用いることができる。より具体的には、酸化カルシウムとリン酸とを水中で反応させることによって得られる第三リン酸カルシウムを使用することもできる。
【0031】
まず、第三リン酸カルシウム及び溶媒を含む混合物を調製する。溶媒としては、第三リン酸カルシウムと反応しないものであれば良く、例えば水のほか、アルコール類等を使用することができる。本発明では、特に溶媒として水を用いることが好ましい。また、上記混合物として、カルシウム含有化合物とリン酸化合物とを液相で反応させて得られる第三リン酸カルシウム含有スラリー又は水分調節したものを上記混合物として使用できる。より具体的には、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム及びカルシウムアルコキシドから選ばれる少なくとも1種のカルシウム含有化合物とリン酸とを水中で反応させることによって得られる第三リン酸カルシウムのスラリーをそのまま又は水分調節したものを前記混合物として用いることができる。前記の混合物中における第三リン酸カルシウムの固形分含有量は特に制限されないが、通常は混合物中10〜50重量%程度の範囲内で適宜調節することができる。
【0032】
次いで、前記混合物にリン酸(H
3PO
4)を添加する。リン酸は、そのまま添加しても良く、また水溶液の形態で添加することもできる。
【0033】
リン酸を添加する際の温度は、一般的に50℃以下の範囲内で適宜調節することができる。
【0034】
添加工程においては、酸(リン酸を除く。)及びその塩の少なくとも1種(媒晶剤)を添加することが好ましい。媒晶剤を添加することによって、得られる微粒子の結晶子径、粒子形状等を制御することができる。特に、より小さな結晶子径の粒子をより確実に得ることが可能となり、より高い成形性を得ることができる。
【0035】
媒晶剤としては、前記のとおり、酸(リン酸を除く。)及びその塩の少なくとも1種を適宜選択して用いることができる。酸は、無機酸としてピロリン酸、縮合リン酸(トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサポリリン酸等)等、有機酸としてクエン酸、酒石酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、リンゴ酸、コハク酸の多価有機酸等が例示される。前記塩としては、これらの酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を用いることができる。本発明では、特に、1)多価有機酸及びその塩ならびに2)ピロリン酸及び縮合リン酸ならびにこれらの塩の少なくとも1種を好適に用いることができる。より好ましくは、例えばクエン酸及びピロリン酸ならびにこれらの塩の少なくとも1種を用いることができる。
【0036】
媒晶剤の添加時期は特に制限されず、リン酸の添加前、添加中又は添加後のいずれであっても良い。特に、得られる微粒子の結晶子径を300Å以下に制御するという見地より、リン酸の添加前に媒晶剤を添加することが望ましい。
【0037】
媒晶剤の添加量は、第三リン酸カルシウムのカルシウムに対する割合として1〜40モル%の範囲とすることが好ましい。かかる範囲内で媒晶剤を添加することによって、より効果的に添加効果を得ることができる。
【0038】
媒晶剤は、そのまま又は溶液として添加することができる。溶液として用いる場合は特に水溶液とすることが好ましい。
【0039】
熱処理工程
熱処理工程では、前記リン酸が添加されてなる混合物を熱処理する。熱処理工程により、第三リン酸カルシウムとリン酸とを反応させてリン酸水素カルシウムを生成させる。
【0040】
熱処理温度は、上記反応が進行する限り特に制限されないが、通常は50℃を超える温度、特に55℃〜95℃、さらには60〜95℃の範囲とすることが好ましい。
【0041】
熱処理工程により得られた生成物は、通常はスラリー状となっているため、必要に応じてろ過、遠心分離等の公知の固液分離方法によって固形分を回収することができる。この場合、固液分離の前後において、必要に応じて水洗することもできる。得られた固形分は、必要に応じて乾燥に供することもできる。乾燥後は、さらに必要に応じて粉砕、分級等の処理を施すこともできる。
【0042】
また、本発明では、必要に応じて、前記の固液分離に先立って前記スラリーをさらに粉砕(湿式粉砕)することにより粒度調整することもできる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0044】
<実施例1>
水酸化カルシウム191gを水に懸濁し、80℃まで昇温させた。ここに85%リン酸水溶液193gを滴下し、そのまま80℃で30分間保持した後、反応を終了させて第三リン酸カルシウムのスラリー(スラリーA)を得た。スラリーAを50℃以下に冷却後、スラリーAに無水クエン酸13.7gを添加した後、85%リン酸水溶液91gを添加し、90℃まで昇温させた。そのまま90℃で1時間保持した後、反応を終了させた。反応生成物をろ過・水洗し、棚式乾燥機にて乾燥させることにより、粉末を得た。得られた粉末を粉末X線回折分析により分析した。その結果を
図1に示す。
図1には、下段:出発物質(スラリーA)、中段:リン酸添加後、上段:生成物(前記粉末)の3つのチャートを示す。この結果からも明らかなように、前記粉末がリン酸水素カルシウムであることが確認された。
なお、
図1のチャートに関する情報(測定条件等)を下記に示す。
(実施例1 リン酸添加後 出発物質)
サンプル名:出発物質
ファイル: .0158
コメント:第3リンCa
測定日:08−Aug−07 15:28
測定者:RINT
X線:Cu K−ALPHAI/40kV/20mA
ゴニオメーター:RINT2000縦型ゴニオメータ
アタッチメント:標準試料ホルダー
フィルタ:使用しない
インシデントモノクロ:
カウンタモノクロメータ:全自動モノクロメータ
発散スリット: “1/2 deg”
散乱スリット: “1/2 deg”
受光スリット: “0.15 mm”
カウンタ:シンチレーションカウンタ
走査モード:連続
スキャンスピード:4.000°/min
スキャンステップ:0.020°
走査軸:2θ/θ
走査範囲:5.000〜70.000°
θオフセット:0.000°
固定角:0.000°
【0045】
<実施例2>
無水クエン酸の添加量を4.6gとしたほかは実施例1と同様に行い、粉末を得た。得られた粉末を粉末X線回折分析により分析した。得られた粉末を実施例1と同様にしてX線回折分析により調べた結果、リン酸水素カルシウムであることが確認された。
【0046】
<実施例3>
無水クエン酸の添加量を22.8gとしたほかは実施例1と同様に行い、粉末を得た。得られた粉末を実施例1と同様にしてX線回折分析により調べた結果、リン酸水素カルシウムであることが確認された。
【0047】
<実施例4>
無水クエン酸の添加量を45.5gとしたほかは実施例1と同様に行い、粉末を得た。得られた粉末を実施例1と同様にしてX線回折分析により調べた結果、リン酸水素カルシウムであることが確認された。
【0048】
<実施例5>
実施例4のろ過・水洗後のスラリーを水に懸濁して湿式粉砕した後、得られたスラリーを棚式乾燥機にて乾燥させることにより、粉末を得た。得られた粉末を実施例1と同様にしてX線回折分析により調べた結果、リン酸水素カルシウムであることが確認された。
【0049】
<実施例6>
実施例1に示したスラリーAにピロリン酸26.6gを添加した後85%リン酸水溶液91gを添加し、90℃まで昇温させた。そのまま90℃で1時間保持した後、反応を終了させた。反応生成物をろ過・水洗し、棚式乾燥機にて乾燥させることにより、粉末を得た。得られた粉末を実施例1と同様にしてX線回折分析により調べた結果、リン酸水素カルシウムであることが確認された。
【0050】
<実施例7>
ピロリン酸の添加量を53.1gとしたほかは実施例6と同様にして同様に行い、粉末を得た。得られた粉末を粉末X線回折分析により分析した。その結果を
図2に示す。
図2には、下段:出発物質(スラリーA)、中段:リン酸添加後、上段:生成物(前記粉末)の3つのチャートを示す。この結果からも明らかなように、前記粉末がリン酸水素カルシウムであることが確認された。
なお、
図2のチャートに関する情報(測定条件等)を下記に示す。
(実施例7 リン酸添加後 出発物質)
多重記録
サンプル名:出発物質
ファイル: .0158
コメント:第3リンCa
測定日:08−Aug−07 15:28
測定者:RINT
X線:Cu K−ALPHAI/40kV/20mA
ゴニオメーター:RINT2000縦型ゴニオメータ
アタッチメント:標準試料ホルダー
フィルタ:使用しない
インシデントモノクロ:
カウンタモノクロメータ:全自動モノクロメータ
発散スリット: “1/2 deg”
散乱スリット: “1/2 deg”
受光スリット: “0.15 mm”
カウンタ:シンチレーションカウンタ
走査モード:連続
スキャンスピード:4.000°/min
スキャンステップ:0.020°
走査軸:2θ/θ
走査範囲:5.000〜70.000°
θオフセット:0.000°
固定角:0.000°
【0051】
<比較例1>
特許第3934184号に記載の実施例3に従ってリン酸水素カルシウムを製造した。
【0052】
<試験例1>
各実施例及び比較例で得られたリン酸水素カルシウムの粉末(試料)について、1)平均2次粒子径、2)粒子外観、3)静的嵩比容積、4)液性pH、5)結晶子径をそれぞれ測定した。その結果を表1〜表3に示す。なお、比較のため、表3には、市販されているリン酸水素カルシウム(市販品A)について同様の測定を実施した結果を併せて示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
なお、各物性の測定方法は、次のとおりである。
【0057】
1)平均2次粒子径
試料を超音波攪拌(周波数400Hz)した後に水中に分散させてレーザー回折法により水溶媒中にて測定を行った。測定装置として「MICROTRAC HRA Model No.9320-X100」Honeywell社製を用いた。
【0058】
2)粒子形状
走査型電子顕微鏡にて観察した。
【0059】
3)静的嵩比容積
試料30gをメスシリンダーに入れ、試料の表面を平らにしたときの容積を測定した。この容積を試料の重量で除して静的嵩比容積とした。
【0060】
4)液性pH
試料2.0gを水50mL(25℃)に懸濁させた液のpHをpH計により測定した。
【0061】
5)結晶子径
まず、NIST(アメリカ国立標準技術研究所)のX線回折用標準試料(640b-Si)のデータを用いて回折角に依存する装置固有の回折線の自然幅を関数近似によって算出した。次いで、試料のX線回折分析を行い、無水リン酸カルシウム(0,2,0)面の半価幅をScherrerの式に代入して結晶子の大きさを算出した。
【0062】
Scherrerの式 D(Å)=K×λ/(β×cosθ)
K:Scherrer定数、λ:Cu管球の波長、β:半価幅、θ:回折角
【0063】
<試験例2>
混合均一性の試験を実施した。直径18cmの球形容器に汎用医薬品成分(製品名「スターマグP」神島化学工業製、酸化マグネシウム)50gを投入し、次いで実施例1又は比較例1で得られたリン酸水素カルシウムを50g入れ、水平面に対して約45°の角度にて60rpmの回転速度で3分間回転させた。その後、容器内の混合粉末の5ヶ所からサンプリングし、各サンプルのCa量及びMg量をICP(VistaPro, Seiko Instruments Inc.)の標準添加法にて測定した。測定したCa量及びMg量から含量比(MgO/CaHPO
4)を算出し、混合均一性を評価した。その結果を表4に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
表4の結果より、比較例1を用いて得られた混合粉末(比較例2)の変動係数が47.2であるのに対し、実施例1を用いて得られた混合粉末(実施例8)の変動係数が9.9と非常に小さく、より均一に混合されていることがわかる。
【0066】
<試験例3>
成形性試験を実施した。下記の表5に示す混合比で混合した試料を単発式打錠機(型式:N−20E型、岡田精工製)にて打錠を行った。打錠条件は、杵直径:9mm、錠剤重量:300mg、打錠圧:1.0トンとした。得られた錠剤の硬度を錠剤硬度計(型式:ポータブルチェッカーPC30、岡田精工製)にて10錠測定し、その平均値を求めた。その結果を表5に示す。
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】
【0069】
表6の結果より、実施例の混合粉末を用いて得られた錠剤は、同じ打錠圧でより高い硬度が得られることがわかる。実施例1〜4では100N以上、特に110N以上、さらには130N以上という高い硬度を発揮することができる。
【0070】
<試験例4>
実施例1で得られたリン酸水素カルシウムの酸量を調べた。その結果を表7に示す。
【0071】
【表7】
【0072】
なお、酸量は、次の手順で測定した。試料約0.1 gを日本ベル製TPD-AT-1型昇温脱離装置の石英セル(内径10 mm)にセットし、O
2(60 cm
3 min
−1,1 atm)流通下、673 K (400℃)まで10K min
−1で昇温し、673 Kで1時間保った。その後、O2を流通させたまま373 K (100℃)まで放冷した後に真空脱気し、100 Torr (1 Torr = 1/760 atm = 133 Pa)のNH
3を導入して30 分間吸着させ、その後、30分間脱気した後に水蒸気処理を行った。水蒸気処理としては,100℃で約25 Torr (約3 kPa)の蒸気圧の水蒸気を導入し、そのまま30分間保ち、30分間脱気,再び30分間水蒸気導入、再び30分間脱気の順に繰り返した。その後、He 0.041mmol s
−1 (298 K, 25℃, 1 atmで60 cm
3 min
−1に相当する)を減圧(100 Torr)を保ちながら流通させ、100℃で30分間保った後に試料床を10 K min
−1で1073 K (800℃)まで昇温し、出口気体を質量分析計(ANELVA M-QA 100F)で分析した(片田, 丹羽, ゼオライト,21, 45 (2004)、 N. Katada and M. Niwa, Catal. Surveys Asia,8, 161 (2004))。測定に際しては、質量数(m/e) 2, 4, 14, 15, 16, 17, 18, 26, 27, 28, 29, 30,31, 32, 44のマススペクトルを全て記録した。終了後に1 mol %-NH
3/He標準ガスをさらにヘリウムで希釈してNH
3濃度0, 0.1, 0.2, 0.3, 0.4 mol %,合計流量が0.041 mmol s
−1となるようにして検出器に流通させ、スペクトルを記録し、アンモニアの検量線を作成して検出器強度を補正した。アンモニア吸着熱の解析は既報(N. Katada, H. Igi, J.-H. Kim and M. Niwa, J.Phys. Chem., B, 101,5969 (1997))の原理で行った。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【
図1】実施例1で得られたリン酸水素カルシウムのX線回折分析の結果を示す図である。
【
図2】実施例7で得られたリン酸水素カルシウムのX線回折分析の結果を示す図である。