特許第5812285号(P5812285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5812285デヒドロゲナーゼまたは対応する基質の測定方法および測定用キット
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  • 特許5812285-デヒドロゲナーゼまたは対応する基質の測定方法および測定用キット 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5812285
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月11日
(54)【発明の名称】デヒドロゲナーゼまたは対応する基質の測定方法および測定用キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/32 20060101AFI20151022BHJP
【FI】
   C12Q1/32
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-524711(P2011-524711)
(86)(22)【出願日】2010年6月21日
(86)【国際出願番号】JP2010060450
(87)【国際公開番号】WO2011013464
(87)【国際公開日】20110203
【審査請求日】2012年12月10日
(31)【優先権主張番号】特願2009-175379(P2009-175379)
(32)【優先日】2009年7月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100066692
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 皓
(74)【代理人】
【識別番号】100072040
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100088926
【弁理士】
【氏名又は名称】長沼 暉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102897
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】野田 健太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 善郎
(72)【発明者】
【氏名】小島 良
【審査官】 鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−335898(JP,A)
【文献】 特開2001−103996(JP,A)
【文献】 三輪一智, 他,グルコース,臨床検査,1978年,vol.22, no.11,p.1232-1261
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−1/70
MEDLINE/CAplus/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デヒドロゲナーゼ、対応する基質および補酵素を用いて反応させて試料中の該デヒドロゲナーゼまたは対応する基質を測定する測定方法において、補酵素としてチオNAD若しくはチオNADPの何れか一方、並びにNAD若しくはNADPの何れか一方を必須成分として用いて反応させ、生成するチオNADHまたはチオNADPHに由来する吸光度の増加を測定することにより、その試料中のデヒドロゲナーゼまたは対応する基質を測定する測定方法。
【請求項2】
用いるNADまたはNADPが、チオNADまたはチオNADPの0.5倍モル数以上である、請求項1記載の測定方法。
【請求項3】
試料中の特定物質から酵素反応によりデヒドロゲナーゼ対応する基質を中間的または最終的に発生させ、そのデヒドロゲナーゼ対応する基質を、請求項1または2に記載の測定方法に付し、中間的または最終的に生成したデヒドロゲナーゼ対応する基質の量に由来して、試料中の特定物質を測定する測定方法。
【請求項4】
デヒドロゲナーゼがグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼであり、対応する基質がグルコース−6−リン酸である、請求項に記載の測定方法。
【請求項5】
酵素反応が複数の酵素反応である、請求項4に記載の測定方法。
【請求項6】
デヒドロゲナーゼがグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼであり、対応する基質がグルコース−6−リン酸であり、特定物質が尿素であり、第一の酵素反応が、試料中の尿素に、試薬由来のATP、マグネシウムイオン、カリウムイオン、炭酸水素イオンとウレアアミドリアーゼとを作用させてADPを中間的に発生させる反応であり、かつ、第二の酵素反応がそのADPに、試薬由来のヘキソキナーゼを作用させてグルコース−6−リン酸を発生させる反応である、請求項5に記載の測定方法。
【請求項7】
デヒドロゲナーゼまたは対応する基質を測定するための測定用キットであって、
デヒドロゲナーゼと対応する基質のうち
測定対象以外の成分を必須成分とし、かつ、
補酵素としてチオNAD若しくはチオNADPの何れか一方、並びに
NAD若しくはNADPの何れか一方
必須成分として含む測定用キット。
【請求項8】
特定物質を測定するための測定用キットであって、
デヒドロゲナーゼと
その補酵素としてチオNAD若しくはチオNADPの何れか一方、並びに
NAD若しくはNADPの何れか一方と、そして
特定物質から酵素反応によりデヒドロゲナーゼ対応する基質を生成するための成分
を必須成分として含む測定用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中のデヒドロゲナーゼまたは対応する基質を測定する方法およびそれに用いるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
血清、血漿等の試料中には、高濃度のデヒドロゲナーゼまたは対応する基質が存在する。臨床化学診断においては、それらを測定するため、補酵素としてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(NADP)を用いることが一般的である。このような方法に用いられるデヒドゲナーゼと基質との組み合わせとしては、乳酸デヒドロゲナーゼと乳酸、グルタミン酸デヒドロゲナーゼとグルタミン酸、アルコールデヒドロゲナーゼとアルコール、グリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼとグリセロール−3−リン酸、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼとグルコース−6−リン酸等が知られている。この場合、その組み合わせのいずれか一方を測定するため、他の一方を、補酵素とともに試薬として用いる。また、それと同様に、試料中の尿素等の特定物質を測定するため、特定物質を試薬により酵素反応させることにより、特定のデヒドロゲナーゼ又は対応する基質を中間的または最終的に発生させ、そのデヒドロゲナーゼ又は対応する基質を上記補酵素とともに反応させ、結果的に特定物質を測定することも幅広く行われている。
【0003】
これらの測定方法においては、最終的にはNADまたはNADPがデヒドロゲナーゼ反応により、還元型であるNADHまたはNADPHに変換され、その結果生ずる紫外線波長域(通常、340nm)における吸光度の上昇に基づいてデヒドロゲナーゼまたは対応する基質を測定する方法を採用することが一般的である。しかし、この場合、紫外線領域で測定するため、測定セルとして簡便なガラスやプラスチックは使えず、高価な石英を用いる必要があり、加えて分析装置として紫外線光源や検出装置を使う必要があり、そのため、分析装置が大型で高価になりやすいという傾向があった。その結果、ドライケミストリーの分野や小さい病院でも測定できる可視分光光度計を用いた装置には適用できなかった。よって、そのような場合に使用できるようにするためには、可視部で、前記したデヒドロゲナーゼまたは対応する基質を測定する方法が望まれている。
【0004】
他方、特許文献1には、グルコース−6−リン酸にグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを反応させる際に、補酵素としてチオNADまたはチオNADPとNADHまたはNADPHとの組み合わせを用いて、酵素サイクリング反応を行わせ、生成する還元型酵素であるチオNADHまたはチオNADPHを400nm付近の可視部の吸光度に基いて、グルコース−6−リン酸を測定する方法が提案されている。しかしながら、この方法は酵素サイクリング反応を用いるものであって、必ずも簡便な測定方法とは言えないものであり、また高濃度の測定対象物を測定するのに適した測定方法とも言えないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−335898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、可視部での吸光度に基く測定が可能で、ドライケミストリーの分野や小さい病院でも測定できる可視分光光度計を用いた装置に適用でき、かつ、高濃度で試料中に存在するデヒドロゲナーゼまたは対応する基質を正確に測定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、例えば特許文献1に記載されているように、酵素サイクリング法により低濃度のデヒドロゲナーゼまたは対応する基質を測定するために用いられている補酵素チオNADまたはチオNADPが酵素反応により可視部の吸光度を変化させるのに注目し、その補酵素を用いて、試料中に高濃度で存在する測定対象を測定する方法について検討した。その結果、高濃度の測定対象を補酵素としてチオNADまたはチオNADPを用いた場合、高濃度領域で直線性が維持されにくく、加えてブランクも高くなることがあり、測定対象を正確に測定できないことが判明した。
本発明者は、試料中のある種の物質をある酵素で除去するため、補酵素としてNADを用いて酵素反応をさせ、次に、その物質を除去した試料を用いてデヒドロゲナーゼ、対応する基質およびチオNADを反応させて可視部領域の吸光度を測定することにより、試料中のデヒドロゲナーゼまたはその対応する基質を測定しようと試みた。ところが、NADとチオNADの添加の順番にかかわらず、試料にデヒドロゲナーゼ、対応する基質、チオNADおよびNADを共存させた単純な構成で可視部領域の吸光度を測定することにより、驚くべきことに、反応ブランクが減少し、検量線の傾きが小さくなり、試料中のデヒドロゲナーゼまたはその対応する基質を正確に測定できることを発見した。その結果、このような構成により、上記の問題が解決され、高濃度領域でもデヒドロゲナーゼまたは対応する基質を正確に測定できることが判明した。
従って、試料中に含まれるデヒドロゲナーゼまたは対応する基質を可視部の吸光度で測定する方法において、補酵素として、チオNADまたはチオNADPとNADまたはNADPの両方を用いることにより、測定対象が高濃度領域でも直線性を維持でき、かつ、検量線のブランクを小さくすることができ、その結果、簡便な可視分光光度計にて測定対象濃度の広い領域で、簡単かつ正確にデヒドロゲナーゼまたは対応する基質を測定する方法を提供できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
従って、本発明は、デヒドロゲナーゼ、対応する基質および補酵素を用いて反応させて試料中の該デヒドロゲナーゼまたは対応する基質を測定する測定方法において、補酵素としてチオNADまたはチオNADPおよびNADまたはNADPとを用いて反応させ、生成するチオNADHまたはチオNADPHに由来する吸光度の増加を測定することにより、その試料中のデヒドロゲナーゼ又は対応する基質を測定する測定方法に関する。
更に、本発明は、試料中の特定物質を酵素反応によりデヒドロゲナーゼまたは対応する基質を中間的または最終的に発生させ、そのデヒドロゲナーゼまたは対応する基質を、上記の測定方法に付し、中間的または最終的に生成したデヒドロゲナーゼまたは対応する基質の量に由来して、試料中の特定物質を測定する測定方法に関する。
更に、本発明は、デヒドロゲナーゼまたは対応する基質を測定するための測定用キットであって、デヒドロゲナーゼと対応する基質のうち測定対象以外の成分を必須成分とし、かつ、補酵素としてチオNADまたはチオNADPとNADまたはNADPとを必須成分として含む測定用キットに関する。
更に、本発明は、特定物質を測定するための測定用キットであって、特定物質から酵素反応によりデヒドロゲナーゼまたは対応する基質に誘導するための成分とそのデヒドロゲナーゼと対応する基質のうち誘導されるもの以外の成分とを必須成分として含み、かつ、補酵素としてチオNADまたはチオNADPとNADまたはNADPとを必須成分として含む測定用キットに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、試料中に含まれるデヒドロゲナーゼまたは対応する基質を可視部の吸光度で測定するにもかかわらず、補酵素として、チオNADまたはチオNADPとNADまたはNADPの両方を用いることにより、測定対象が高濃度領域でも直線性を維持でき、かつ、検量線のブランクを小さくすることができる。その結果、簡便な可視分光光度計にて測定対象濃度の広い領域で、簡単かつ正確に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1、2および3並びに比較例1の方法で尿素窒素を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いられる試料としては、血清、血漿、尿等の生体試料、またはそれらのモデルサンプルが好ましい。
本発明の測定対象は、試料中のデヒドロゲナーゼまたは対応する基質であり、また、酵素反応により中間的または最終的にデヒドロゲナーゼまたは対応する基質を発生させることができる試料中の特定物質である。
本発明においては、デヒドロゲナーゼ酵素反応を行う際、補酵素としてチオNADまたはチオNADPおよびNADまたはNADPの両方を存在させて反応させる。チオNADまたはチオNADPとNADまたはNADPとの組み合せはいずれでもよいが、チオNADとNADとの組み合せ、あるいはチオNADPとNADPとの組み合せが好ましい。
以下、チオNADまたはチオNADPを、チオNAD(P)と略記することがある。また、NADまたはNADPを、NAD(P)と略記することがある。
本発明においては、チオNADとはチオニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを意味し、チオNADPとはチオニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェートを意味する。また、NADとはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを意味し、NADPとはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェートを意味する。
本明細書において、チオNADH、チオNADPH、NADH、NADPHとは、補酵素の還元型、すなわち、それぞれ、チオNAD、チオNADP、NAD、NADPの還元型を意味する。以下、チオNADHまたはチオNADPHを、チオNAD(P)Hと略記することがある。また、NADHまたはNADPHを、NAD(P)Hと略記することがある。
【0012】
本発明においては、用いるNAD(P)の量は、特に限定しないが、用いるチオNAD(P)の量の0.5倍モル数以上が好ましく、1.5〜30倍モル数がさらに好ましく、3.0〜20倍モル数が最も好ましい。NAD(P)の量が少なすぎると検量線の直線性が維持しにくいこともあり、また、ブランク低下が不十分なときもある。一方、NAD(P)の量が大きすぎると検量線の直線の傾きが小さくなることがあり、正確に測定対象を測定できにくいことがある。
本発明においては、補酵素としてチオNAD(P)およびNAD(P)の両方を用いてデヒドロゲナーゼ反応させ、生成するチオNAD(P)Hに由来する吸光度の増加を測定する。吸光度を測定するための波長は、395〜415nmの範囲が好ましく、可視部領域で測定できるため、用いる分析装置として簡易な可視分光光度計で測定できる。
本発明において、デヒドロゲナーゼまたは対応する基質としては、例えば、現在、臨床検査業界で測定対象となっている補酵素としてNAD(P)やチオNAD(P)を用いてデヒドロゲナーゼ酵素反応により測定できるデヒドロゲナーゼまたは対応する基質であれば特に限定されない。この場合、デヒドロゲナーゼまたは対応する基質は、試料中に当初から存在しているデヒドロゲナーゼまたは対応する基質でもよい。また、試料中の特定物質を測定するためその特定物質を酵素反応させることにより中間的または最終的に発生されたデヒドロゲナーゼまたは対応する基質でもよく、この場合、発生されたデヒドロゲナーゼまたは対応する基質に依存して、結果的に、特定物質を測定することができる。
【0013】
このような方法に用いられるデヒドロゲナーゼと基質との組み合わせとしては、例えば、乳酸デヒドロゲナーゼと乳酸、グルタミン酸デヒドロゲナーゼとグルタミン酸、アルコールデヒドロゲナーゼとアルコール、グリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼとグリセロール−3−リン酸、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼとグルコース−6−リン酸等を例示できる。この場合、その組み合わせのいずれか一方を測定するため、他の一方を、補酵素とともにデヒドロゲナーゼ酵素反応をさせるための試薬として用いることができる。本発明においては、試料に高濃度で存在する測定対象が好適である。
デヒドロゲナーゼまたは対応する基質として、試料中の特定物質を測定するため試料中の特定物質を酵素反応させることにより中間的または最終的に発生されたデヒドロゲナーゼまたは対応する基質を用いる場合、例えば、デヒドロゲナーゼがグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼであり、対応する基質がグルコース−6−リン酸である場合を例示できる。その場合、例えば、特定物質として尿素(なお、尿素は慣習的に尿素窒素として求めても良い)を測定することができる。この場合、例えば、第一の酵素反応として、試料中の尿素に、試薬由来のATP、マグネシウムイオン、カリウムイオン、炭酸水素イオンとウレアアミドリアーゼとを作用させてADPを発生させ、次いで、第二の酵素反応として、そのADPに、試薬由来のヘキソキナーゼを作用させてグルコース−6−リン酸を発生させ、次いで、生成するグルコース−6−リン酸(対応する基質)に、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(デヒドロゲナーゼ)とチオNAD(P)とNAD(P)とを作用させデヒドロゲナーゼ酵素反応をさせることにより、生成するチオNAD(P)Hの量に依存した吸光度の上昇から、生成するグルコース−6−リン酸(対応する基質)を測定することができ、それに基づいて結果的に、試料中の特定物質として尿素を測定することができる。このとき、ヘキソキナーゼとしては、ADP依存性ヘキソキナーゼが好ましい。
この例を反応式で示すと以下のようになる。
【0014】
【化1】
【0015】
本発明において、測定対象としてデヒドロゲナーゼまたは対応する基質を測定するときには、例えば、第一試薬として、デヒドロゲナーゼと対応する基質のうち測定対象以外の成分を必須成分とし、それ以外に、必要により緩衝剤、界面活性剤等の他の成分を含ませたものを用いることができ、第二試薬として、チオNAD(P)とNAD(P)を必須成分とし、それ以外に、緩衝剤、界面活性剤等の他の成分を含ませたものを用いることができる。
この場合、具体的な測定対象として、グルコース−6−リン酸を測定するときは、例えば、第一試薬として、デヒドロゲナーゼとしてグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを必須成分とし、第二試薬としてチオNAD(P)とNAD(P)を必須成分とし、その他として、第一試薬及び第二試薬には、緩衝剤、界面活性剤等の他の成分を含ませることができる。
このような第一試薬と第二試薬とを用い、測定対象として、デヒドロゲナーゼ又は対応する基質を測定するときは、例えば、試料と第一試薬を混合させ0〜15分の後、次いで、得られる混合液と第二試薬を混合させ、0.5〜15分酵素反応を行い、可視分光光度計で、得られる反応液の吸光度を405nmで測定する。あらかじめ作成した検量線との測定値との比較により、試料中の測定対象の濃度を測定できる。またこの場合の試料と試薬の混合においては、まず、第一試薬と第二試薬を混合して一つの測定試薬にし、その測定試薬と試料を混合することができ、さらに、0.5〜15分反応することによっても酵素反応をすることができる。
【0016】
本発明において、測定対象として特定物質を測定するときには、例えば、第一試薬には、必須成分として特定物質から酵素反応によりデヒドロゲナーゼまたは対応する基質に誘導するための成分、及びそのデヒドロゲナーゼと対応する基質のうち誘導されたもの以外の成分を含ませ、それ以外に、必要により緩衝剤、界面活性剤等の他の成分を含ませ、第二試薬は、チオNAD(P)とNAD(P)を必須成分とし、それ以外に、緩衝剤、界面活性剤等の他の成分を含ませることができる。
この場合、具体的な測定対象の特定物質として尿素を測定するときは、例えば、第一試薬として、尿素(すなわち特定物質)から酵素反応によりグルコース−6−リン酸(すなわち対応する基質)に誘導する成分として、尿素からADPを生成するための第一酵素反応誘導成分(すなわち、ウレアアミドリアーゼ、ATP、 Mg2+、K、HCO)、ADPからグルコース−6−リン酸(すなわち対応する基質)を生成するための第二酵素反応誘導成分(すなわち、グルコース、ヘキソキナーゼ)、試薬成分のデヒドロゲナーゼとしてグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを含んでいるものを用いることができる。第二試薬は、チオNAD(P)とNAD(P)の両方を必須成分とする。それ以外に、第一試薬および第二試薬には、緩衝剤、界面活性剤等の他の成分を含ませたものを用いることができる。
このような第一試薬と第二試薬とを用い、測定対象として、特定物質を測定するときは、例えば、試料とに第一試薬を混合させ0〜15分の後、次いで、得られる混合液と第二試薬を混合させ、0.5〜15分酵素反応を行い、可視分光光度計で、得られる反応液の吸光度を405nmで測定する。あらかじめ作成した検量線との測定値との比較により、試料中の測定対象の濃度を測定できる。またこの場合の試料と試薬の混合においては、まず、第一試薬と第二試薬を混合して一つの測定試薬にし、その測定試薬と試料を混合することができ、さらにそれを0.5〜15分反応することによっても酵素反応をすることができる。
【0017】
以上の説明から明らかなように、本発明においては、デヒドロゲナーゼまたは対応する基質を測定するための測定用キットであって、デヒドロゲナーゼと対応する基質のうち測定対象以外の成分を必須成分とし、かつ、補酵素としてチオNADまたはチオNADPとNADまたはNADPとを必須成分として含む測定用キットを用いることができる。
この場合、例えば、デヒドロゲナーゼまたは対応する基質を測定するために、デヒドロゲナーゼまたは対応する基質を測定するための測定用キットであって、デヒドロゲナーゼと対応する基質のうち測定対象以外の成分を必須成分として含む第一試薬、およびチオNADまたはチオNADPとNADまたはNADPを必須成分として含む第二試薬を含有する測定用キットを用いることができる。
また、本発明においては、特定物質を測定するために、特定物質を測定するための測定用キットであって、特定物質から酵素反応によりデヒドロゲナーゼまたは対応する基質に誘導するための成分とそのデヒドロゲナーゼと対応する基質のうち誘導されるもの以外の成分とを必須成分として含み、かつ、補酵素としてチオNADまたはチオNADPとNADまたはNADPとを必須成分として含む測定用キットを用いることができる。
この場合、例えば、特定物質を測定するための測定用キットであって、特定物質から酵素反応によりデヒドロゲナーゼまたは対応する基質に誘導するための成分およびそのデヒドロゲナーゼと対応する基質のうち誘導されるもの以外の成分を必須成分として含む第一試薬、およびチオNADまたはチオNADPとNADまたはNADPを必須成分として含む第二試薬を含有する測定用キットを用いることができる。
これらの測定用キットにおける第一試薬および第二試薬には、上記したように緩衝剤、界面活性剤等の他の成分を必要に応じて含ませることができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
実施例1、2および3並びに比較例1
尿素窒素の可視部測定装置を使用した測定
試料中の特定物質としての尿素窒素を測定するために、第一の酵素反応として、試料中の尿素窒素に、試薬由来のATP、マグネシウムイオン、カリウムイオン、炭酸水素イオンとウレアアミドリアーゼとを作用させてADPを発生させ、次いで、第二の酵素反応として、そのADPに、試薬由来のヘキソキナーゼを作用させてグルコース−6−リン酸を発生させ、次いで、生成するグルコース−6−リン酸(対応する基質)に、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(デヒドロゲナーゼ)とチオNADとNADとを作用させて、生成するチオNADHの量に依存した吸光度の上昇から、生成するグルコース−6−リン酸(対応する基質)を測定することにより、試料中の特定物質としての尿素窒素を測定した。また、比較対照として、チオNADを単独で用いて同様の測定も行った。
【0019】
1.方法
ウレアアミドリアーゼ、ヘキソキナーゼ、およびグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを用いた尿素窒素測定系において、補酵素としてチオNADとNADを混合した測定系(実施例1、2および3)、およびチオNADを単独として用いた測定系(比較例1)を比較した。この場合、尿素は、尿素窒素量として定量した。試料、および試薬は以下の通りである。
試料
尿素窒素として75mg/dLとなる様に尿素溶液を調製し、各濃度に生理食塩水で適宜希釈した。
【0020】
第一試薬
第一試薬が、以下のような濃度になるように成分を調整した。
20mM Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)
pH9.0
10mM D−グルコース
10mM 酢酸マグネシウム・四水和物
10mM 炭酸水素カリウム
10mM ATP・2Na(アデノシン三リン酸・二ナトリウム)
1% 界面活性剤
6KU/L ヘキソキナーゼ
2KU/L ウレアアミドリアーゼ
2KU/L グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ
第二試薬
第二試薬のTris、界面活性剤は以下のような濃度になるように成分調整した。
200mM Tris
pH7.2
xmM チオNAD
ymM NAD
1% 界面活性剤
【0021】
第二試薬のチオNADとNADの添加量は表1に示す。また、比較例1では上記の第二試薬組成からNADを除きチオNAD単独で用いた。
【0022】
【表1】
【0023】
測定方法
測定は以下のように行った。可視部測定装置を用い、試料3.0μLと第一試薬100μLとを37℃、5分間混合した後、第二試薬100μLを加え同温度で5分間反応させる。発色反応後の吸光度を当該機種の1ポイントエンド法により主波長405nm、副波長505nmで測定した。
【0024】
2.結果
得られた結果を図1に示す。図1の結果から、チオNADに加えてNADを添加した場合、測定ブランクが低く、傾きも小さくなることが判明した。チオNADとNADとの混合で用いた組成では実施例1では50mg/dLまで、実施例2、3では、75mg/dLまで測定可能であった。
一方、比較例1としてチオNADを単独で用いた組成では、直線性が尿素窒素25mg/dL以上では測定可能な吸光度をオーバーしてしまうため、測定不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明においては、試料中に含まれるデヒドロゲナーゼまたは対応する基質を酵素反応により測定する際に、補酵素として、チオNADまたはチオNADPとNADまたはNADPの両方を用いることにより、可視部の吸光度により測定することが可能となり、測定対象が高濃度領域でも直線性を維持でき、かつ、検量線のブランクを小さくすることができる。その結果、簡便な可視分光光度計にて測定対象濃度の広い領域で、簡単かつ正確に測定できる。
図1