特許第5812392号(P5812392)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5812392白金水酸化物ポリマーのサイズを安定化させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5812392
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月11日
(54)【発明の名称】白金水酸化物ポリマーのサイズを安定化させる方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/42 20060101AFI20151022BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20151022BHJP
   C01G 55/00 20060101ALI20151022BHJP
【FI】
   B01J23/42 AZAB
   B01D53/94 222
   B01D53/94 245
   B01D53/94 280
   C01G55/00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-105106(P2011-105106)
(22)【出願日】2011年5月10日
(65)【公開番号】特開2012-236117(P2012-236117A)
(43)【公開日】2012年12月6日
【審査請求日】2013年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100118407
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 尚美
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100125036
【弁理士】
【氏名又は名称】深川 英里
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100154298
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100162330
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 幹規
(72)【発明者】
【氏名】津田 豊史
(72)【発明者】
【氏名】木俣 文和
(72)【発明者】
【氏名】三浦 和也
【審査官】 佐藤 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−142711(JP,A)
【文献】 特開2008−161857(JP,A)
【文献】 特表2008−517750(JP,A)
【文献】 特開2008−150373(JP,A)
【文献】 特開2006−127979(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02070581(EP,A1)
【文献】 特開2003−246624(JP,A)
【文献】 特開2007−273161(JP,A)
【文献】 特表2009−520599(JP,A)
【文献】 特開2007−313456(JP,A)
【文献】 特開2005−187266(JP,A)
【文献】 特開平05−192571(JP,A)
【文献】 特開2010−094625(JP,A)
【文献】 特開平11−092150(JP,A)
【文献】 特開2011−032224(JP,A)
【文献】 特開2000−279811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/94
C01G 55/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金水酸化物ポリマーを含む溶液に、Zr/Pt比がモル濃度比で1.0〜40となるようにZrイオンを添加することを特徴とする白金水酸化物ポリマーのサイズを安定化させる方法。
【請求項2】
前記Zr/Pt比がモル濃度比で1.7以上であることを特徴とする請求項1に記載の白金水酸化物ポリマーのサイズを安定化させる方法。
【請求項3】
前記Zrイオンの添加が、オキシ硝酸ジルコニウム溶液又は酢酸ジルコニウム溶液を用いて行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の白金水酸化物ポリマーのサイズを安定化させる方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法によりサイズが安定化された白金水酸化物ポリマーを含む白金溶液。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により白金水酸化物ポリマーのサイズを安定化する工程と、サイズが安定化された前記白金水酸化物ポリマーを含む溶液を用いて、触媒に白金を担持する工程とを含む白金を担持する触媒を作製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金水酸化物ポリマーのサイズを安定化させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用触媒は、排気ガス中の有害な成分である炭化水素(HC)、窒素酸化物(NO)、一酸化炭素(CO)を分解除去する働きをもつ。このような触媒は、コージェライト等の無機材料や金属を利用してハニカム状に成型したものを基材として製造されており、その内部を排気ガスが通過することによって分解除去される。この触媒と排気ガスとの接触効率を高めるために、基材の表面には多孔質の無機材料をコーティングし、さらにその表層部には活性成分として微量の貴金属が担持される。貴金属としては、白金、パラジウム、ロジウム等の白金族金属を用いる。
【0003】
近年は自動車のエンジンを始動する際の排気ガスを速やかに処理するために、触媒を低温から活性化させることが求められており、貴金属の使用量を増加することによって浄化性能(低温活性)を向上させることが試みられている。しかし、高価な貴金属の使用量の増加は、自動車のコストアップにつながり、消費者の不利益となるため、貴金属の使用量を増加させずに浄化性能を向上させることが求められている。
【0004】
一方、白金水酸化物ポリマーは、白金原子が数個から数十個程度の酸素原子で架橋された水酸化物である。この白金水酸化物ポリマーの作製には、原料としてヘキサヒドロキソ白金酸(HPt(OH))を用いる。白金水酸化物ポリマーは、ヘキサヒドロキソ白金酸を強酸溶液中に溶解することによってヒドロキソ錯体の形で存在させ、該錯体が酸からのプロトンの影響を受けることによって反応性モノマーが形成され、重合反応が起こることによって生成する。重合反応は急激に起こるため、反応の途中で制御することは困難である。しかし、酸濃度、反応温度、原料濃度を特定の条件にした場合、該条件に依存した重合度を有した、かつ、反応が一時的に停止した準安定な状態となる。また、重合反応は不可逆的な反応であるため、反応温度を下げた場合でも、重合状態を保持できる。このようにして調製された白金水酸化物ポリマーは重合度の違いによってポリマー中に含まれる白金原子の数が異なる。したがって、このポリマーを、例えば、排気ガス触媒等に用いる貴金属の粒子径を制御するための前駆体材料として利用することが可能となる。
【0005】
しかし、白金水酸化物ポリマーの重合反応は室温でも徐々に進行するため、調製した白金水酸化物ポリマーの当初の粒径より大きくなってしまうだけでなく、溶液中に濁りや沈殿を生じ、溶液中の白金濃度が低下してしまう。このため、白金水酸化物ポリマーを含む溶液は、室温で長期に保管することが難しく、排気ガス触媒等の材料として工業的に利用するためには、準安定な状態を長期に渡って保持することが重要である。
【0006】
また、重合度を制御した後、任意の白金濃度の溶液を調製するために白金水酸化物ポリマーを含む溶液を希釈する際にイオン交換水等を用いると、粒径を制御した白金水酸化物ポリマーが溶液中で安定に存在できず、濁りや沈殿を生じる。このため、白金水酸化物ポリマーを担持する触媒を作製するためには、強酸性、かつ、高白金濃度の溶液を用いる必要があり、任意の白金量を担持することが難しい。また、白金を担持する担体には耐酸性を有することが必要となる。
【0007】
特許文献1では、ヘキサヒドロキソ白金酸を硝酸に溶解して調製した白金溶液を安定化させることが開示されている。しかし、安定化させる対象が白金水酸化物ポリマーを含む溶液ではない。また、白金溶液の希釈にはイオン交換水ではなく硝酸を用いており、上述した問題点を解決することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−92150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、溶液中での白金水酸化物ポリマーの溶液安定性を保持することができる白金水酸化物ポリマーのサイズを安定化させる方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明者らは、白金水酸化物ポリマーを含む溶液中に、Zrイオンを共存させることを見出した。
すなわち、本発明においては、白金水酸化物ポリマーを含む溶液に、Zr/Pt比がモル濃度比で1.0〜40となるようにZrイオンを添加することを特徴とする白金水酸化物ポリマーのサイズを安定化させる方法が提供される。
前記Zr/Pt比は、モル濃度比で1.7以上であることが好適である。
前記Zrイオンの添加は、オキシ硝酸ジルコニウム溶液又は酢酸ジルコニウム溶液を用いて行われることが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の白金水酸化物ポリマーのサイズを安定化させる方法によれば、溶液中での白金水酸化物ポリマーの溶液安定性を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】室温で静置したときの白金水酸化物ポリマーの粒径の変化を示したグラフである。
図2】実施例16及び17と比較例5の触媒の各成分((A)一酸化炭素、(B)炭化水素、(C)窒素酸化物)の浄化率が50%に達する温度(T50)を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る白金水酸化物ポリマーのサイズを安定化させる方法について説明する。
【0014】
(白金水酸化物ポリマーを含む溶液の調製)
白金水酸化物ポリマーは、原料であるヘキサヒドロキソ白金酸を酸性溶液中で重合反応させることによって得られる。
酸性溶液は、特に限定されるものではないが、例えば、酸濃度が4.5〜6.5mol/L、好ましくは6.0mol/Lとなるように調製した溶液を用いることができる。この範囲の酸濃度であれば、原料である白金の溶解が可能だからである。
【0015】
ヘキサヒドロキソ白金酸は、例えば、白金濃度が4〜20g/L、好ましくは12〜14g/Lとなるように、酸性溶液中に添加することができる。この範囲の白金濃度であれば、上記で選択した酸濃度に溶解することができ、後述する反応温度領域において良好な重合制御が可能だからである。
【0016】
反応温度は、例えば、50〜80℃の範囲、好ましくは70℃である。この温度範囲であれば、重合反応が進み過ぎることはなく、溶液中において白金水酸化物ポリマーが微粒子として単分散し、安定な状態を保持できるからである。
【0017】
白金水酸化物ポリマーのサイズ(粒径)は、好ましくは60nm以下、より好ましくは20〜50nmの範囲である。この範囲であれば、酸性溶液中だけでなく、後述する希薄溶液中においても、安定な状態を保持することができる。粒径の測定方法は、例えば、動的光散乱法(DLS)等を用いることができる。なお、本明細書で用いられる粒径の数値は、DLSの強度基準による測定値である。DLSの特性上、強度基準による測定値は再現性に優れるためである。強度基準による測定値は、実際の粒径よりも大きく表される(実際の粒径の6〜8倍程度)。例えば、強度基準による測定値が20〜60nmである場合、実際の粒径は3〜7nmとなる。
【0018】
(Zrイオンの添加)
得られた白金水酸化物ポリマーを含む溶液に、Zr/Pt比がモル濃度比で1.0〜40となるようにZrイオンを添加する。Zrイオンを添加することによって、白金水酸化物ポリマーの重合反応を抑制することができるため、溶液中に濁り及び沈殿が発生しにくくなる。
【0019】
溶液中において白金水酸化物ポリマーは正の電荷を持って存在しているため、正の電荷を持つ異種のカチオンを溶液中に共存させることによって、白金水酸化物ポリマーとカチオンとの間に静電気的反発力が生じる。この静電気的反発力によって白金水酸化物ポリマーの移動が妨げられるため、白金水酸化物ポリマー同士の衝突機会が減少する。そのため、白金水酸化物ポリマーの重合反応速度が大幅に遅くなり、白金水酸化物ポリマーの安定性が向上する。また、共存させるカチオンの価数が大きいほど、白金水酸化物ポリマーとの間に生じる静電気的反発力が大きくなる。そのため、少ない添加量であっても、上述したような安定性が得られる。
【0020】
共存させるカチオンは、白金水酸化物ポリマーの用途に応じて適宜選択する必要がある。上述したような安定化した白金水酸化物ポリマーを含む溶液を用いて、排気ガス触媒に白金を担持する場合、添加した元素(カチオン)が担体に残留しても、担持後の触媒性能に悪影響を及ぼす可能性が低い物質を選択する必要がある。
Zrは溶液中で4価のカチオンとなるため、白金水酸化物ポリマーを溶液中で安定化させることに優れている。また、Ti又はHfについても溶液中で4価のカチオンとなるため、白金水酸化物ポリマーを溶液中で安定化させることが見込める。排気ガス触媒において、Zr酸化物は排気ガス触媒を構成する主要な成分の一つであり、Ti又はHfは排気ガス触媒に不純物として少量含まれているが、担持後の触媒性能の観点から、白金水酸化物ポリマーを含む溶液にZrイオンを添加する。
【0021】
Zrイオンの添加は、オキシ硝酸ジルコニウム溶液又は酢酸ジルコニウム溶液を用いて行われることが好適である。Zrの対アニオンが硝酸イオン又は酢酸イオンである場合、触媒を焼成する際に気体として担体から除去される。また、硫酸ジルコニウム溶液又は塩化ジルコニウム溶液を用いても、上述したような白金水酸化物ポリマーの溶液中での安定化が見込めるが、担持後の触媒性能の観点から、オキシ硝酸ジルコニウム溶液又は酢酸ジルコニウム溶液を用いることが望ましい。
【0022】
Zrイオンが添加された白金水酸化物ポリマーを含む溶液中のZr/Pt比は、モル濃度比で1.0〜40である。この濃度範囲であれば、室温において、調製した白金水酸化物ポリマーの当初のサイズが保持され、溶液中に濁り及び沈殿が発生しにくくなり、白金濃度が低下する恐れも少ない。したがって、白金水酸化物ポリマーを含む溶液を、室温で長期に保管することが可能である。なお、Zr/Pt比がモル濃度比で40を超えても、上述した濃度範囲と同様の効果が得られるが、Zr/Pt比の上限値としてはモル濃度比で40であれば十分である。
また、Zr/Pt比は、モル濃度比で1.7以上であることが好適である。この濃度範囲であれば、酸性溶液中だけでなく、後述する低プロトン濃度の溶液中においても、白金水酸化物ポリマーを、溶液中に濁り及び沈殿を発生させずに、安定に存在させることができる。
【0023】
以上のように、本発明によれば、酸性溶液中での白金水酸化物ポリマーの溶液安定性を保持することができる。
【0024】
さらに、本発明の白金水酸化物ポリマーのサイズを安定化させる方法によれば、低プロトン濃度の溶液中においても、白金水酸化物ポリマーの溶液安定性を保持することができる。
【0025】
低プロトン濃度の溶液は、例えば、上述した白金水酸化物ポリマーを含む溶液を、イオン交換水等を用いて2〜200倍に希釈した溶液である。
この低プロトン濃度の溶液に、上述したように、白金水酸化物ポリマーを含む溶液中のZr/Pt比がモル濃度比で1.7以上となるようにZrイオンを添加することによって、白金水酸化物ポリマーを、溶液中に濁り及び沈殿を発生させずに、安定に存在させることができる。低プロトン濃度の溶液中での白金水酸化物ポリマーは、溶液中のプロトン濃度が低くなることによって不安定化し、溶解度が低下するため、重合反応や沈殿の析出反応が促進される。この溶液に上述したZrイオンを添加することによって重合反応や沈殿の析出反応を抑制することができるため、低プロトン濃度の溶液中での安定性が改善され、低プロトン濃度の溶液のハンドリング性を大幅に向上させることができる。低プロトン濃度の溶液のような希薄溶液中で白金水酸化物ポリマーを安定化させることができるため、例えば、自動車用排気ガス触媒又は燃料電池材料上に白金を担持する際、強酸による担体材料への損傷を抑制することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例等を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(白金水酸化物ポリマーを含む溶液の調製)
6.0mol/Lの硝酸溶液100mLに、白金濃度が14g/Lとなるように2.16gのヘキサヒドロキソ白金酸(田中貴金属製、白金65wt%)を溶解し、70℃で22時間保持し、白金水酸化物ポリマーを含む溶液を得た。
調製した溶液について、動的光散乱法(DLS:シスメックス製、ゼーターサイザー)による測定を行った結果、白金水酸化物ポリマーのサイズは40nmと見積もられた。
【0027】
(長期保管時の白金水酸化物ポリマーの安定性)
(実施例1)
白金濃度が14g/Lの白金水酸化物ポリマーを含む溶液86mLに対して、Zr濃度が3.1mol/Lのオキシ硝酸ジルコニウム溶液を10mL添加した後、6.0mol/Lの硝酸溶液を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が12g/L、かつ、Zr/Pt比(モル濃度比)が5.0の溶液を得た。
(実施例2)
白金濃度が14g/Lの白金水酸化物ポリマーを含む溶液86mLに対して、Zr濃度が3.1mol/Lのオキシ硝酸ジルコニウム溶液を3.4mL添加した後、6.0mol/Lの硝酸溶液を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が12g/L、かつ、Zr/Pt比(モル濃度比)が1.7の溶液を得た。
(実施例3)
白金濃度が14g/Lの白金水酸化物ポリマーを含む溶液86mLに対して、Zr濃度が3.1mol/Lのオキシ硝酸ジルコニウム溶液を2.0mL添加した後、6.0mol/Lの硝酸溶液を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が12g/L、かつ、Zr/Pt比(モル濃度比)が1.0の溶液を得た。
参考例
白金濃度が14g/Lの白金水酸化物ポリマーを含む溶液86mLに対して、Zr濃度が3.1mol/Lのオキシ硝酸ジルコニウム溶液を1.0mL添加した後、6.0mol/Lの硝酸溶液を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が12g/L、かつ、Zr/Pt比(モル濃度比)が0.5の溶液を得た。
(比較例1)
白金濃度が14g/Lの白金水酸化物ポリマーを含む溶液86mLを、6.0mol/Lの硝酸溶液を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が12g/Lの溶液を得た。
【0028】
実施例1〜3、参考例、及び比較例1で調製した溶液を室温で静置し、1週間ごとに、目視による濁り及び沈殿の有無と、DLS測定により白金水酸化物ポリマーの粒径を測定した。それぞれの結果を表1と図1に示す。なお、DLSにて粒径が80nm以上と見積もられた溶液を「濁り有り」とし、静置した状態で明らかに沈殿が認められる溶液を「沈殿有り」とした。
【0029】
【表1】
【0030】
表1及び図1より、実施例1〜3で調製した溶液は、室温で静置してから4週間経過した後においても、濁り及び沈殿は見られず、白金水酸化物ポリマーは調製直後のサイズを保持していた。参考例で調製した溶液については、白金水酸化物ポリマーのサイズは抑制されているが、室温で静置してから3週間目に濁りが見られた。比較例1で調製した溶液については、白金水酸化物ポリマーのサイズは徐々に成長し、室温で静置してから2週間目に濁りが見られ、4週間目に沈殿が確認された。
以上のことから、Zr/Pt比が1.0以上となるようにZrイオンを添加することによって、白金水酸化物ポリマーを含む溶液を長期に保管することが可能であることが確認された。
【0031】
(白金水酸化物ポリマーを含む溶液の希釈時の安定性)
(実施例
白金濃度が14g/Lの白金水酸化物ポリマーを含む溶液50mLに対して、Zr濃度が3.1mol/Lのオキシ硝酸ジルコニウム溶液を47mL添加した後、イオン交換水を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が7g/L、かつ、Zr/Pt比(モル濃度比)が40となる2倍希釈の溶液を得た。
(実施例
実施例の溶液6.7mLを、イオン交換水を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が0.47g/L、かつ、Zr/Pt比(モル濃度比)が40となる30倍希釈の溶液を得た。
(実施例
実施例の溶液1.0mLを、イオン交換水を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が0.07g/L、かつ、Zr/Pt比(モル濃度比)が40となる200倍希釈の溶液を得た。
(実施例
白金濃度が14g/Lの白金水酸化物ポリマーを含む溶液50mLに対して、Zr濃度が3.1mol/Lのオキシ硝酸ジルコニウム溶液を5.8mL添加した後、イオン交換水を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が7g/L、かつ、Zr/Pt比(モル濃度比)が5.0となる2倍希釈の溶液を得た。
(実施例
実施例の溶液6.7mLを、イオン交換水を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が0.47g/L、かつ、Zr/Pt比(モル濃度比)が5.0となる30倍希釈の溶液を得た。
(実施例
実施例の溶液1.0mLを、イオン交換水を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が0.07g/L、かつ、Zr/Pt比(モル濃度比)が5.0となる200倍希釈の溶液を得た。
(実施例10
白金濃度が14g/Lの白金水酸化物ポリマーを含む溶液50mLに対して、Zr濃度が3.1mol/Lのオキシ硝酸ジルコニウム溶液を2.0mL添加した後、イオン交換水を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が7g/L、かつ、Zr/Pt比(モル濃度比)が1.7となる2倍希釈の溶液を得た。
(実施例11
実施例10の溶液6.7mLを、イオン交換水を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が0.47g/L、かつ、Zr/Pt比(モル濃度比)が1.7となる30倍希釈の溶液を得た。
(実施例12
実施例10の溶液1.0mLを、イオン交換水を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が0.07g/L、かつ、Zr/Pt比(モル濃度比)が1.7となる200倍希釈の溶液を得た。
(実施例13
白金濃度が14g/Lの白金水酸化物ポリマーを含む溶液50mLに対して、Zr濃度が3.1mol/Lのオキシ硝酸ジルコニウム溶液を1.2mL添加した後、イオン交換水を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が7g/L、かつ、Zr/Pt比(モル濃度比)が1.0となる2倍希釈の溶液を得た。
(実施例14
実施例13の溶液6.7mLを、イオン交換水を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が0.47g/L、かつ、Zr/Pt比(モル濃度比)が1.0となる30倍希釈の溶液を得た。
(実施例15
実施例13の溶液1.0mLを、イオン交換水を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が0.07g/L、かつ、Zr/Pt比(モル濃度比)が1.0となる200倍希釈の溶液を得た。
(比較例2)
白金濃度が14g/Lの白金水酸化物ポリマーを含む溶液50mLを、イオン交換水を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が7g/Lである2倍希釈の溶液を得た。
(比較例3)
白金濃度が14g/Lの白金水酸化物ポリマーを含む溶液3.3mLを、イオン交換水を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が0.47g/Lである30倍希釈の溶液を得た。
(比較例4)
白金濃度が14g/Lの白金水酸化物ポリマーを含む溶液0.5mLを、イオン交換水を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が0.05g/Lである200倍希釈の溶液を得た。
【0032】
実施例15及び比較例2〜4で調製した溶液を室温で24時間静置した後、目視による濁り及び沈殿の有無を確認した。濁り及び沈殿の有無の判断は、実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
表2より、Zr/Pt比が1.7以上である実施例12で調製した溶液は、濁り及び沈殿が見られなかった。Zr/Pt比が1.0である実施例1315で調製した溶液については、希釈率の高い実施例15では濁り及び沈殿は見られなかったが、希釈率の低い実施例13及び14では沈殿が見られた。Zrイオンを含まない比較例2〜4で調製した溶液は、沈殿が見られた。
以上のことから、Zr/Pt比が1.7以上となるようにZrイオンを添加することによって、白金水酸化物ポリマーを含む溶液を任意の希釈率で希釈することが可能であることが確認された。
【0035】
(Zrイオンの添加による触媒性能への影響)
(実施例16
10gのアルミナ粉末に対して、実施例2で調製した溶液を8.3mL滴下し、蒸発乾固させた後、500℃で1時間保持することによって焼成し、1重量%の白金が担持された触媒粉末を得た。
(実施例17
10gのアルミナ粉末に対して、実施例1で調製した溶液を8.3mL滴下し、蒸発乾固させた後、500℃で1時間保持することによって焼成し、1重量%の白金が担持された触媒粉末を得た。
(比較例5)
10gのアルミナ粉末に対して、比較例1で調製した溶液を8.3mL滴下し、蒸発乾固させた後、500℃で1時間保持することによって焼成し、1重量%の白金が担持された触媒粉末を得た。
【0036】
実施例16及び17と比較例5で作製した触媒粉末を、それぞれペレット成型した。その後粉砕し、粒径が0.5〜1.0mmの粒状である触媒についてモデルガス試験による触媒性能の評価を行った。モデルガス試験は、0.2gの粒状の触媒を反応管内に保持させ、表3に示す組成のガスを毎分1800mLで流通させながら、室温〜500℃まで毎分25℃で昇温させることによって行った。触媒性能の評価は、一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物の浄化率が50%に達する温度(T50)を比較することにより行った。T50の値が低いほど触媒活性が優れていることを示す。結果を図2に示す。なお、浄化率は下式(式1)により算出した。
浄化率(%)=(1−後ガス濃度/前ガス濃度)×100 (式1)
【0037】
【表3】
【0038】
図2より、比較例5の触媒に対して、実施例16及び17の触媒の各成分のT50は上昇していないことから、Zrイオンを添加することによる触媒性能への悪影響はないことが確認された。
【0039】
(酢酸ジルコニウム溶液の添加による白金水酸化物ポリマーの安定性)
(実施例18
白金濃度が14g/Lの白金水酸化物ポリマーを含む溶液86mLに対して、Zr濃度が3.1mol/Lの酢酸ジルコニウム溶液を10mL添加した後、6.0mol/Lの硝酸溶液を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が12g/L、かつ、Zr/Pt比(モル濃度比)が5.0の溶液を得た。
(実施例19
白金濃度が14g/Lの白金水酸化物ポリマーを含む溶液86mLに対して、Zr濃度が3.1mol/Lのオキシ硝酸ジルコニウム溶液を10mL添加した後、6.0mol/Lの硝酸溶液を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が12g/L、かつ、Zr/Pt比(モル濃度比)が5.0の溶液を得た。
(比較例6)
白金濃度が14g/Lの白金水酸化物ポリマーを含む溶液86mLを、6.0mol/Lの硝酸溶液を用いて100mLにメスアップし、白金濃度が12g/Lの溶液を得た。
【0040】
実施例18及び19と比較例6で調製した溶液を、80℃で22時間保持した。このような加熱によって重合反応速度が大きく加速されるため、溶液の安定性を短時間で簡易的に評価することができる。結果を表4に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
表4より、実施例18及び19で調製した溶液は、濁り及び沈殿が見られなかった。比較例6で調製した溶液は、沈殿が見られた。
以上のことから、酢酸ジルコニウム溶液の添加によっても、オキシ硝酸ジルコニウム溶液の添加と同様に、白金水酸化物ポリマーを含む溶液の安定性が得られることが確認された。
図1
図2