特許第5812449号(P5812449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5812449
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月11日
(54)【発明の名称】電力増幅器およびその動作方法
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/02 20060101AFI20151022BHJP
   H03F 3/68 20060101ALI20151022BHJP
   H03F 3/24 20060101ALI20151022BHJP
【FI】
   H03F1/02
   H03F3/68 B
   H03F3/24
【請求項の数】20
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2013-533655(P2013-533655)
(86)(22)【出願日】2012年9月10日
(86)【国際出願番号】JP2012073042
(87)【国際公開番号】WO2013039030
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2013年7月23日
(31)【優先権主張番号】特願2011-201680(P2011-201680)
(32)【優先日】2011年9月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 渉
(72)【発明者】
【氏名】松井 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】坂爪 順
【審査官】 緒方 寿彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−308639(JP,A)
【文献】 特開2002−100935(JP,A)
【文献】 特開2005−311852(JP,A)
【文献】 再公表特許第2007/125895(JP,A1)
【文献】 国際公開第2008/044276(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00 −3/45, 3/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力増幅器は、RF信号入力端子と、第1増幅素子と、第2増幅素子と、負荷素子と、
第1スイッチ回路と、第2スイッチ回路と、インピーダンス調整回路とを具備して、
前記第1増幅素子の共通電極と前記第2増幅素子の共通電極は接地電圧に接続され、前記第1増幅素子の出力電極と前記第2増幅素子の出力電極は前記負荷素子に接続され、
前記第1スイッチ回路は第1電圧レベルのパワーモード信号に応答して前記RF信号入力端子のRF入力信号を前記第1増幅素子の入力電極と前記第2増幅素子の入力電極とに供給することによって、前記第1増幅素子と前記第2増幅素子とは前記RF入力信号の並列増幅動作を実行して、
前記第1スイッチ回路は前記第1電圧レベルと異なった第2電圧レベルの前記パワーモード信号に応答して前記RF信号入力端子の前記RF入力信号を前記第1増幅素子の前記入力電極に供給する一方、前記第2増幅素子の前記入力電極への前記RF入力信号の供給を実質的に停止することによって、前記第1増幅素子は前記RF入力信号の単独増幅動作を実行して、
前記インピーダンス調整回路の一端は前記第1増幅素子の前記出力電極と前記第2増幅素子の前記出力電極とが接続された接続ノードに接続され、前記インピーダンス調整回路の他端は前記第2スイッチ回路の一端に接続され、前記第2スイッチ回路の他端は前記接地電圧に接続され、
前記インピーダンス調整回路は、前記インピーダンス調整回路の前記一端と前記他端との間に接続されたリアクタンス素子を含み、
前記第2スイッチ回路は前記第2電圧レベルの前記パワーモード信号に応答して前記第2スイッチ回路の前記一端と前記他端との間を非導通状態に制御する一方、前記第2スイッチ回路は前記第1電圧レベルの前記パワーモード信号に応答して前記第2スイッチ回路の前記一端と前記他端との間を導通状態に制御し、
前記パワーモード信号が前記第1電圧レベルの場合は、前記電力増幅器の出力インピーダンスが、最小消費電流よりも最高出力電力に有利な値に設定され、
前記パワーモード信号が前記第2電圧レベルの場合は、前記電力増幅器の出力インピーダンスが、最高出力電力よりも最小消費電流に有利な値に設定される、
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項2】
請求項1に記載の電力増幅器において、
前記インピーダンス調整回路の前記一端と前記他端との間に接続された前記リアクタンス素子は、容量性リアクタンスである
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項3】
請求項2に記載の電力増幅器において、
前記インピーダンス調整回路の前記一端と前記他端との間に接続された前記リアクタンス素子は、前記容量性リアクタンスと直列接続された誘導性リアクタンスを含む
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項4】
請求項3に記載の電力増幅器において、
前記電力増幅器は、前記第1増幅素子の前記出力電極と前記第2増幅素子の前記出力電極とに入力端子が接続された出力整合回路を更に具備して、前記出力整合回路の出力端子にはアンテナが接続可能とされた
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項5】
請求項4に記載の電力増幅器において、
前記第1スイッチ回路は、前記第1増幅素子の前記入力電極と前記第2増幅素子の前記入力電極との間に接続された第1スイッチ素子を含み、
前記第1スイッチ回路の前記第1スイッチ素子は前記第1電圧レベルの前記パワーモード信号に応答して導通する一方、前記第1スイッチ回路の前記第1スイッチ素子は前記第2電圧レベルの前記パワーモード信号に応答して非導通となる
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項6】
請求項5に記載の電力増幅器において、
前記第1スイッチ回路は、前記第2増幅素子の前記入力電極と前記接地電圧との間に接続された放電素子を更に含む
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項7】
請求項5に記載の電力増幅器において、
前記第2スイッチ回路は前記第2スイッチ回路の前記一端と前記他端との間に接続された第2スイッチ素子を含み、前記第1電圧レベルの前記パワーモード信号に応答して前記第2スイッチ素子は導通する一方、前記第2電圧レベルの前記パワーモード信号に応答して前記第2スイッチ素子は非導通となる
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項8】
請求項4に記載の電力増幅器において、
前記インピーダンス調整回路の前記一端は、前記出力整合回路の前記入力端子に接続された
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項9】
請求項4に記載の電力増幅器において、
前記インピーダンス調整回路の前記一端は、前記出力整合回路の前記出力端子に接続された
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項10】
請求項4に記載の電力増幅器において、
前記出力整合回路は、前記出力整合回路の前記入力端子と前記出力端子の間の中間ノードを含み、
前記インピーダンス調整回路の前記一端は、前記出力整合回路の前記入力端子と前記中間ノードとの間の接続ノードに接続された
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項11】
請求項4に記載の電力増幅器において、
前記出力整合回路は、前記出力整合回路の前記入力端子と前記出力端子の間の中間ノードを含み、
前記インピーダンス調整回路の前記一端は、前記出力整合回路の前記中間ノードと前記出力端子との間の他の接続ノードに接続された
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項12】
請求項4に記載の電力増幅器において、
前記電力増幅器は、前記第1増幅素子の前記入力電極と前記第2増幅素子の前記入力電極とに接続されたバイアス素子としての他の増幅素子を更に具備して、
前記他の増幅素子の共通電極は前記接地電圧に接続され、前記他の増幅素子の入力電極と出力電極とは前記第1増幅素子の前記入力電極と前記第2増幅素子の前記入力電極とに接続された
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項13】
請求項12に記載の電力増幅器において、
前記第1増幅素子と前記第2増幅素子と前記他の増幅素子の各増幅素子は、MOSトランジスタまたはバイポーラトランジスタである
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項14】
RF信号入力端子と、第1増幅素子と、第2増幅素子と、負荷素子と、第1スイッチ回路と、第2スイッチ回路と、インピーダンス調整回路とを具備する電力増幅器の動作方法であって、
前記第1増幅素子の共通電極と前記第2増幅素子の共通電極は接地電圧に接続され、前記第1増幅素子の出力電極と前記第2増幅素子の出力電極は前記負荷素子に接続され、
前記第1スイッチ回路は第1電圧レベルのパワーモード信号に応答して前記RF信号入力端子のRF入力信号を前記第1増幅素子の入力電極と前記第2増幅素子の入力電極とに供給することによって、前記第1増幅素子と前記第2増幅素子とは前記RF入力信号の並列増幅動作を実行して、
前記第1スイッチ回路は前記第1電圧レベルと異なった第2電圧レベルの前記パワーモード信号に応答して前記RF信号入力端子の前記RF入力信号を前記第1増幅素子の前記入力電極に供給する一方、前記第2増幅素子の前記入力電極への前記RF入力信号の供給を実質的に停止することによって、前記第1増幅素子は前記RF入力信号の単独増幅動作を実行して、
前記インピーダンス調整回路の一端は前記第1増幅素子の前記出力電極と前記第2増幅素子の前記出力電極とが接続された接続ノードに接続され、前記インピーダンス調整回路の他端は前記第2スイッチ回路の一端に接続され、前記第2スイッチ回路の他端は前記接地電圧に接続され、
前記インピーダンス調整回路は、前記インピーダンス調整回路の前記一端と前記他端との間に接続されたリアクタンス素子を含み、
前記第2スイッチ回路は前記第2電圧レベルの前記パワーモード信号に応答して前記第2スイッチ回路の前記一端と前記他端との間を非導通状態に制御する一方、前記第2スイッチ回路は前記第1電圧レベルの前記パワーモード信号に応答して前記第2スイッチ回路の前記一端と前記他端との間を導通状態に制御すし、
前記パワーモード信号が前記第1電圧レベルの場合は、前記電力増幅器の出力インピーダンスが、最小消費電流よりも最高出力電力に有利な値に設定され、
前記パワーモード信号が前記第2電圧レベルの場合は、前記電力増幅器の出力インピーダンスが、最高出力電力よりも最小消費電流に有利な値に設定される、
ことを特徴とする電力増幅器の動作方法。
【請求項15】
請求項14に記載の電力増幅器の動作方法において、
前記インピーダンス調整回路の前記一端と前記他端との間に接続された前記リアクタンス素子は、容量性リアクタンスであり、
前記インピーダンス調整回路の前記一端と前記他端との間に接続された前記リアクタンス素子は、前記容量性リアクタンスと直列接続された誘導性リアクタンスを含み、
前記電力増幅器は、前記第1増幅素子の前記出力電極と前記第2増幅素子の前記出力電極とに入力端子が接続された出力整合回路を更に具備して、前記出力整合回路の出力端子にはアンテナが接続可能とされた
ことを特徴とする電力増幅器の動作方法。
【請求項16】
請求項15に記載の電力増幅器の動作方法において、
前記第1スイッチ回路は、前記第1増幅素子の前記入力電極と前記第2増幅素子の前記入力電極との間に接続された第1スイッチ素子を含み、
前記第1スイッチ回路の前記第1スイッチ素子は前記第1電圧レベルの前記パワーモード信号に応答して導通する一方、前記第1スイッチ回路の前記第1スイッチ素子は前記第2電圧レベルの前記パワーモード信号に応答して非導通となる
ことを特徴とする電力増幅器の動作方法。
【請求項17】
請求項16に記載の電力増幅器の動作方法において、
前記第1スイッチ回路は、前記第2増幅素子の前記入力電極と前記接地電圧との間に接続された放電素子を更に含む
ことを特徴とする電力増幅器の動作方法。
【請求項18】
請求項16に記載の電力増幅器の動作方法において、
前記第2スイッチ回路は前記第2スイッチ回路の前記一端と前記他端との間に接続された第2スイッチ素子を含み、前記第1電圧レベルの前記パワーモード信号に応答して前記第2スイッチ素子は導通する一方、前記第2電圧レベルの前記パワーモード信号に応答して前記第2スイッチ素子は非導通となる
ことを特徴とする電力増幅器の動作方法。
【請求項19】
請求項15に記載の電力増幅器の動作方法において、
前記インピーダンス調整回路の前記一端は、前記出力整合回路の前記入力端子に接続された
ことを特徴とする電力増幅器の動作方法。
【請求項20】
請求項15に記載の電力増幅器の動作方法において、
前記インピーダンス調整回路の前記一端は、前記出力整合回路の前記出力端子に接続された
ことを特徴とする電力増幅器の動作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力増幅器およびその動作方法に関し、特に第1増幅素子の単独増幅動作と第1増幅素子と第2増幅素子との並列増幅動作とを実行する際に、電力増幅器の出力インピーダンスを最適化するのに有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等のようにバッテリによって動作する携帯通信機器端末においては、基地局にRF送信信号を送信する電力増幅器の電力効率を向上することが必要とされる。バッテリの1回の充電によって可能な限り長時間の通話時間を可能とするためには、電力増幅器の消費電力を低減することが必要となる。
【0003】
下記特許文献1には、出力トランジスタの素子サイズが高電力に最適化された第1出力段と出力トランジスタの素子サイズが低電力に最適化された第2出力段とを並列接続して、バイアス制御回路が高電力時には第1出力段を選択して低電力時には第2出力段を選択することが記載されている。第1出力段と第2出力段とは単一の出力インピーダンス整合回路に接続され、この単一の出力インピーダンス整合回路は複数の容量と複数のインダクタとを含んでいる。
【0004】
下記非特許文献1には、携帯電話の電力増幅器において、希望出力電力の変化に応答してオン状態のシリコン・ゲルマニュウム(SiGe)のへテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)の個数を調整することが記載されている。低損失のMOSスイッチがトランジスタのベースに使用されることによって、SiGeHBTトランジスタを動的にバイアスすることでトランジスタは完全にオンとなるか完全にオフとなる。
【0005】
下記非特許文献2と下記非特許文献3とには、携帯電話の電力増幅器において、SiGeHBTトランジスタを高出力グループと低出力グループの2つのグループによって構成して、高出力グループではトランジスタが電源電圧Vccにバイアスされ、低出力グループでは2つのトランジスタは直列接続され電源電圧の半分Vcc/2にバイアスされることが記載されている。相違したグループの間のスイッチは、HBTトランジスタのベースの低損失のMOSスイッチによって制御される。電力増幅器が低出力領域となる場合には、高出力グループはオフにスイッチされて、低出力グループはオンにスイッチされる。低出力グループでは、バイアス電圧が低下しているので、DC電力損失が著しく低減される。高出力グループのHBTトランジスタのベースと低出力グループのHBTトランジスタのベースとは、段間整合回路と低損失のMOSスイッチとを介して駆動段の出力信号によって駆動される。下記非特許文献3には、高出力グループのHBTトランジスタのコレクタが出力整合回路の入力端子に直接接続され、低出力グループの2つのトランジスタのコレクタが2つの容量を介してインダクタの一端に接続されインダクタの他端が出力整合回路の入力端子に接続され、出力整合回路が複数の容量と複数のインダクタによって構成されることが記載されている。
【0006】
下記特許文献2の図12には、第1増幅素子のゲートに入力信号が直接供給され、第2増幅素子のゲートに入力信号がMEMS(マイクロエレクトロメカニカルシステム)スイッチを介して供給され、第1増幅素子のソースと第2増幅素子とのソースが接地電圧に共通接続され、第1増幅素子のドレインと第2増幅素子のドレインが負荷インダクタを介して電源電圧に共通接続されたRF電力増幅器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7157966号明細書
【特許文献2】特開2008−35487号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Junxiong Deng et al, “A High Average−Efficiency SiGe HBT Power Amplifier for WCDMA Handset Application” IEEE TRANSACTIONS ON MICROWAVE THEORY AND TECHINIQUES, VOL.53, NO.2, FEBRUARY 2005, PP.529−537.
【非特許文献2】Junxiong Deng et al, “A SiGe PA with Dual Dynamic Bias Control and Memoryless Digital Predistortion for WCDMA Handset Application” 2005 IEEE Radio Frequency Integrated Circuits Symposium, VOL.41, 12−14 June 2005, PP.247−250.
【非特許文献3】Junxiong Deng et al, “A SiGe PA with Dual Dynamic Bias Control and Memoryless Digital Predistortion for WCDMA Handset Application” 2006 IEEE JOURNAL OF SOLID−STATE CIRCUITS, VOL.41,NO.5, MAY 2006,PP.1210−1221.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者等は本発明に先立って、次世代の携帯電話の通信端末に搭載可能でバッテリの1回の充電により可能な限り長時間の通話時間が可能な電力増幅器の開発に従事した。
【0010】
長時間の通話時間を可能とするためには、背景技術で説明したように携帯電話の電力増幅器の出力トランジスタの素子サイズもしくは使用個数を出力電力レベルに応答して最適化することが必要となる。すなわち、低出力時には出力トランジスタの素子サイズもしくは使用個数を小さな値に設定する一方、高出力時には出力トランジスタの素子サイズもしくは使用個数を大きな値に設定することによって、電力増幅器の電力付加効率(PAE:Power Added Efficiency)を改善して長時間の通話時間が可能となる。
【0011】
背景技術で説明した上記特許文献1と上記非特許文献1と上記非特許文献2と上記非特許文献3とに記載された方式は上述した最適化を可能とするものであるが、大きな素子サイズまたは使用個数の多い出力トランジスタと小さな素子サイズまたは使用個数の少ない出力トランジスタを使用するので、半導体チップ占有面積が大きく製品価格も高いと言う問題を有することが、本発明に先立った本発明者等による検討によって明らかとされた。
【0012】
背景技術で説明した上記特許文献2の図12に記載された方式も上述した最適化を可能とするものであり、第1増幅素子の単独増幅動作により小さな素子サイズまたは使用個数の少ない出力トランジスタを実現する一方、第1増幅素子と第2増幅素子との並列増幅動作により大きな素子サイズまたは使用個数の多い出力トランジスタを実現するものである。従って、この方式は、半導体チップ占有面積が小さく製品価格も安いと言う利点を有する。
【0013】
一方、上記特許文献2の図12に記載された方式では、第1増幅素子の単独増幅動作時での電力増幅器の出力インピーダンスは2〜3Ωと比較的大きな値となる一方、第1増幅素子と第2増幅素子との並列増幅動作時での電力増幅器の出力インピーダンスは1〜2Ωと比較的小さな値となる。更にこの方式では、上述の単独増幅動作時と上述の並列増幅動作時とで、出力インピーダンスが変化するだけではなく、スミスチャートの上の最高出力電力のプロット図と最小消費電流のプロット図も変化することが、本発明に先立った本発明者等による検討時のロードプル測定によって明らかとされた。ロードプル測定とは、RF電力増幅器の分野で良く知られているように、出力電力等の測定パラメータを出力トランジスタから見た複素数の負荷の関数としてプロットしたものである。
【0014】
上述した第1増幅素子と第2増幅素子との並列増幅動作時には最小消費電流よりも最高出力電力を重視して電力増幅器の出力インピーダンスを設定する必要がある一方、上述した第1増幅素子の単独増幅動作時には最高出力電力よりも最小消費電流を重視して電力増幅器の出力インピーダンスを設定する必要がある。
【0015】
しかしながら、上記特許文献2には、上述の単独増幅動作時と上述の並列増幅動作時とで、それぞれ最小消費電流と最高出力電力を重視して電力増幅器の出力インピーダンスを最適化する手法は記載されていない。
【0016】
一方、上記非特許文献1と上記非特許文献2と上記非特許文献3とに記載された方式は、高出力グループと低出力グループとのHBTトランジスタのベースに接続される低損失のMOSスイッチの個数が4個と多いと言う問題が、本発明に先立った本発明者等による検討によって明らかとされた。
【0017】
4個のうちの2個のMOSスイッチは入力信号をHBTトランジスタのベースに供給する一方、残りの2個のMOSスイッチはHBTトランジスタのベース電荷を接地電圧に放電する機能を有している。しかし、この4個のトランジスタには、電力増幅器の比較的大きな電圧振幅のRF入力信号が供給される。その理由は、高出力グループと低出力グループとのHBTトランジスを含む電力増幅回路は電力増幅器の最終増幅段を構成するので、最終増幅段の入力端子は初段増幅段または中間増幅段のRF増幅信号によって駆動されるためである。このように、この4個のMOSトランジスタには比較的高い耐圧が必要とされるので、4個のMOSトランジスタは半導体チップ占有面積が大きく製品価格も高いと言う問題を有することが、本発明に先立った本発明者等による検討によって明らかとされた。
【0018】
本発明は、以上のような本発明に先立った本発明者等による検討の結果、なされたものである。
【0019】
従って、本発明の目的とするところは、第1増幅素子の単独増幅動作と第1増幅素子と第2増幅素子との並列増幅動作とを実行する際に、電力増幅器の出力インピーダンスを最適化することにある。
【0020】
また、本発明の他の目的とするところは、第1増幅素子の単独増幅動作と第1増幅素子と第2増幅素子の並列増幅動作との切り替えを実行するスイッチ回路の半導体チップ占有面積を低減することにある。
【0021】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本願において開示される発明のうちの代表的なものについて簡単に説明すれば下記のとおりである。
【0023】
すなわち、本発明の代表的な実施の形態による電力増幅器(1)は、RF信号入力端子(RF input)と、第1増幅素子(Q1)と、第2増幅素子(Q2)と、負荷素子(L1)と、第1スイッチ回路(SW1)と、第2スイッチ回路(SW2)と、インピーダンス調整回路(Zadj)とを具備する。
【0024】
前記第1増幅素子(Q1)の共通電極と前記第2増幅素子(Q2)の共通電極は接地電圧(GND)に接続され、前記第1増幅素子(Q1)の出力電極と前記第2増幅素子(Q2)の出力電極は前記負荷素子(L1)に接続される。
【0025】
前記第1スイッチ回路(SW1)は第1電圧レベル(ハイレベル“1”)のパワーモード信号(PM)に応答して前記RF信号入力端子のRF入力信号を前記第1増幅素子(Q1)の入力電極と前記第2増幅素子(Q2)の入力電極とに供給することによって、前記第1増幅素子(Q1)と前記第2増幅素子(Q2)とは前記RF入力信号の並列増幅動作を実行する。
【0026】
前記第1スイッチ回路(SW1)は前記第1電圧レベルと異なった第2電圧レベル(ローレベル“0”)の前記パワーモード信号(PM)に応答して前記RF信号入力端子の前記RF入力信号を前記第1増幅素子(Q1)の前記入力電極に供給する一方、前記第2増幅素子(Q2)の前記入力電極への前記RF入力信号の供給を実質的に停止することによって、前記第1増幅素子(Q1)は前記RF入力信号の単独増幅動作を実行する。
【0027】
前記インピーダンス調整回路(Zadj)の一端は前記第1増幅素子(Q1)の前記出力電極と前記第2増幅素子(Q2)の前記出力電極とが接続された接続ノードに接続され、前記インピーダンス調整回路(Zadj)の他端は前記第2スイッチ回路(SW2)の一端に接続され、前記第2スイッチ回路(SW2)の他端は前記接地電圧(GND)に接続される。
【0028】
前記インピーダンス調整回路(Zadj)は、前記インピーダンス調整回路(Zadj)の前記一端と前記他端との間に接続されたリアクタンス素子(C2)を含む。
【0029】
前記第2スイッチ回路(SW2)は前記第2電圧レベル(ローレベル“0”)の前記パワーモード信号(PM)に応答して前記第2スイッチ回路(SW2)の前記一端と前記他端との間を非導通状態に制御する一方、前記第2スイッチ回路(SW2)は前記第1電圧レベル(ハイレベル“1”)の前記パワーモード信号(PM)に応答して前記第2スイッチ回路(SW2)の前記一端と前記他端との間を導通状態に制御することを特徴とするものである(図1参照)。
【発明の効果】
【0030】
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば下記の通りである。
【0031】
すなわち、本発明によれば、第1増幅素子の単独増幅動作と第1増幅素子と第2増幅素子との並列増幅動作とを実行する際に、電力増幅器の出力インピーダンスを最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の実施の形態1による電力増幅器1の構成を示す図である。
図2図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1の動作を示す図である。
図3図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1に含まれたインピーダンス調整回路Zadjと第2スイッチ回路SW2の動作を示す図である。
図4図1に示す本発明の実施の形態1による電力増幅器1のインピーダンス調整回路Zadjは容量C2のみを含みインダクタL2を含まない場合の出力整合回路MN_CのRF出力信号端子に得られる2次高調波成分と3次高調波成分の減衰特性を示す図である。
図5図1に示す本発明の実施の形態1による電力増幅器1のインピーダンス調整回路Zadjは容量C2とインダクタL2とを含む場合の出力整合回路MN_CのRF出力信号端子に得られる2次高調波成分と3次高調波成分の減衰特性を示す図である。
図6A図1に示す本発明の実施の形態1による電力増幅器1のインピーダンス調整回路Zadjのその他の構成を示す図である。
図6B図1に示す本発明の実施の形態1による電力増幅器1のインピーダンス調整回路Zadjのその他の構成を示す図である。
図6C図1に示す本発明の実施の形態1による電力増幅器1のインピーダンス調整回路Zadjのその他の構成を示す図である。
図7】本発明の実施の形態2による電力増幅器1の他の構成を示す図である。
図8図1に示す本発明の実施の形態1による電力増幅器1が内蔵される高周波モジュール1の構成を示す図である。
図9図7に示す本発明の実施の形態2による電力増幅器1が内蔵される高周波モジュール1の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
1.実施の形態の概要
まず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。代表的な実施の形態についての概要説明で括弧を付して参照する図面の参照符号は、それが付された構成要素の概念に含まれるものを例示するに過ぎない。
【0034】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態による電力増幅器(1)は、RF信号入力端子(RF input)と、第1増幅素子(Q1)と、第2増幅素子(Q2)と、負荷素子(L1)と、第1スイッチ回路(SW1)と、第2スイッチ回路(SW2)と、インピーダンス調整回路(Zadj)とを具備する。
【0035】
前記第1増幅素子(Q1)の共通電極と前記第2増幅素子(Q2)の共通電極は接地電圧(GND)に接続され、前記第1増幅素子(Q1)の出力電極と前記第2増幅素子(Q2)の出力電極は前記負荷素子(L1)に接続される。
【0036】
前記第1スイッチ回路(SW1)は第1電圧レベル(ハイレベル“1”)のパワーモード信号(PM)に応答して前記RF信号入力端子のRF入力信号を前記第1増幅素子(Q1)の入力電極と前記第2増幅素子(Q2)の入力電極とに供給することによって、前記第1増幅素子(Q1)と前記第2増幅素子(Q2)とは前記RF入力信号の並列増幅動作を実行する。
【0037】
前記第1スイッチ回路(SW1)は前記第1電圧レベルと異なった第2電圧レベル(ローレベル“0”)の前記パワーモード信号(PM)に応答して前記RF信号入力端子の前記RF入力信号を前記第1増幅素子(Q1)の前記入力電極に供給する一方、前記第2増幅素子(Q2)の前記入力電極への前記RF入力信号の供給を実質的に停止することによって、前記第1増幅素子(Q1)は前記RF入力信号の単独増幅動作を実行する。
【0038】
前記インピーダンス調整回路(Zadj)の一端は前記第1増幅素子(Q1)の前記出力電極と前記第2増幅素子(Q2)の前記出力電極とが接続された接続ノードに接続され、前記インピーダンス調整回路(Zadj)の他端は前記第2スイッチ回路(SW2)の一端に接続され、前記第2スイッチ回路(SW2)の他端は前記接地電圧(GND)に接続される。
【0039】
前記インピーダンス調整回路(Zadj)は、前記インピーダンス調整回路(Zadj)の前記一端と前記他端との間に接続されたリアクタンス素子(C2)を含む。
【0040】
前記第2スイッチ回路(SW2)は前記第2電圧レベル(ローレベル“0”)の前記パワーモード信号(PM)に応答して前記第2スイッチ回路(SW2)の前記一端と前記他端との間を非導通状態に制御する一方、前記第2スイッチ回路(SW2)は前記第1電圧レベル(ハイレベル“1”)の前記パワーモード信号(PM)に応答して前記第2スイッチ回路(SW2)の前記一端と前記他端との間を導通状態に制御することを特徴とするものである(図1参照)。
【0041】
前記実施の形態によれば、第1増幅素子の単独増幅動作と第1増幅素子と第2増幅素子との並列増幅動作とを実行する際に、電力増幅器の出力インピーダンスを最適化することができる。
【0042】
好適な実施の形態では、前記インピーダンス調整回路(Zadj)の前記一端と前記他端との間に接続された前記リアクタンス素子は、容量性リアクタンス(C2)であることを特徴とするものである(図1参照)。
【0043】
他の好適な実施の形態では、前記インピーダンス調整回路(Zadj)の前記一端と前記他端との間に接続された前記リアクタンス素子は、前記容量性リアクタンス(C2)と直列接続された誘導性リアクタンス(L2)を含むことを特徴とするものである(図1参照)。
【0044】
更に他の好適な実施の形態による電力増幅器(1)は、前記第1増幅素子(Q1)の前記出力電極と前記第2増幅素子(Q2)の前記出力電極とに入力端子が接続された出力整合回路(MN_C)を更に具備して、前記出力整合回路(MN_C)の出力端子(RF output)にはアンテナが接続可能とされたことを特徴とするものである(図1参照)。
【0045】
より好適な実施の形態では、前記第1スイッチ回路(SW1)は、前記第1増幅素子(Q1)の前記入力電極と前記第2増幅素子(Q2)の前記入力電極との間に接続された第1スイッチ素子(Q3)を含む。
【0046】
前記第1スイッチ回路(SW1)の前記第1スイッチ素子(Q3)は前記第1電圧レベルの前記パワーモード信号(PM)に応答して導通する一方、前記第1スイッチ回路(SW1)の前記第1スイッチ素子(Q3)は前記第2電圧レベルの前記パワーモード信号(PM)に応答して非導通となることを特徴とするものである(図1参照)。
【0047】
他のより好適な実施の形態では、前記第1スイッチ回路(SW1)は、前記第2増幅素子(Q2)の前記入力電極と前記接地電圧(GND)との間に接続された放電素子(R2)を更に含むことを特徴とするものである(図1参照)。
【0048】
更に他のより好適な実施の形態では、前記第2スイッチ回路(SW2)は前記第2スイッチ回路(SW2)の前記一端と前記他端の間に接続された第2スイッチ素子(Q5)を含み、前記第1電圧レベルの前記パワーモード信号(PM)に応答して前記第2スイッチ素子(Q5)は導通する一方、前記第2電圧レベルの前記パワーモード信号(PM)に応答して前記第2スイッチ素子(Q5)は非導通となることを特徴とするものである(図1参照)。
【0049】
別のより好適な実施の形態では、前記インピーダンス調整回路(Zadj)の前記一端は、前記出力整合回路(MN_C)の前記入力端子に接続されたことを特徴とするものである(図1参照)。
【0050】
更に別のより好適な実施の形態では、前記インピーダンス調整回路(Zadj)の前記一端は、前記出力整合回路(MN_C)の前記出力端子(RF output)に接続されたことを特徴とするものである(図7参照)。
【0051】
具体的な実施の形態では、前記出力整合回路(MN_C)は、前記出力整合回路(MN_C)の前記入力端子と前記出力端子(RF output)の間の中間ノードを含む。
【0052】
前記インピーダンス調整回路(Zadj)の前記一端は、前記出力整合回路(MN_C)の前記入力端子と前記中間ノードとの間の接続ノードに接続されたことを特徴とするものである。
【0053】
他の具体的な実施の形態では、前記出力整合回路(MN_C)は、前記出力整合回路(MN_C)の前記入力端子と前記出力端子(RF output)の間の中間ノードを含む。
【0054】
前記インピーダンス調整回路(Zadj)の前記一端は、前記出力整合回路(MN_C)の前記中間ノードと前記出力端子(RF output)との間の他の接続ノードに接続されたことを特徴とするものである。
【0055】
より具体的な実施の形態による電力増幅器(1)は、前記第1増幅素子(Q1)の前記入力電極と前記第2増幅素子(Q2)の前記入力電極とに接続されたバイアス素子としての他の増幅素子(Q4)を更に具備する。
【0056】
前記他の増幅素子(Q4)の共通電極は前記接地電圧(GND)に接続され、前記他の増幅素子(Q4)の入力電極と出力電極とは前記第1増幅素子(Q1)の前記入力電極と前記第2増幅素子(Q2)の前記入力電極とに接続されことを特徴とするものである図1参照)。
【0057】
最も具体的な実施の形態では、前記第1増幅素子(Q1)と前記第2増幅素子(Q2)と前記他の増幅素子(Q4)の各増幅素子は、MOSトランジスタまたはバイポーラトランジスタであることを特徴とするものである。
【0058】
〔2〕本発明の別の観点の代表的な実施の形態は、RF信号入力端子(RF input)と、第1増幅素子(Q1)と、第2増幅素子(Q2)と、負荷素子(L1)と、第1スイッチ回路(SW1)と、第2スイッチ回路(SW2)と、インピーダンス調整回路(Zadj)とを具備する電力増幅器(1)の動作方法である。
【0059】
前記第1増幅素子(Q1)の共通電極と前記第2増幅素子(Q2)の共通電極は接地電圧(GND)に接続され、前記第1増幅素子(Q1)の出力電極と前記第2増幅素子(Q2)の出力電極は前記負荷素子(L1)に接続される。
【0060】
前記第1スイッチ回路(SW1)は第1電圧レベル(ハイレベル“1”)のパワーモード信号(PM)に応答して前記RF信号入力端子のRF入力信号を前記第1増幅素子(Q1)の入力電極と前記第2増幅素子(Q2)の入力電極とに供給することによって、前記第1増幅素子(Q1)と前記第2増幅素子(Q2)とは前記RF入力信号の並列増幅動作を実行する。
【0061】
前記第1スイッチ回路(SW1)は前記第1電圧レベルと異なった第2電圧レベル(ローレベル“0”)の前記パワーモード信号(PM)に応答して前記RF信号入力端子の前記RF入力信号を前記第1増幅素子(Q1)の前記入力電極に供給する一方、前記第2増幅素子(Q2)の前記入力電極への前記RF入力信号の供給を実質的に停止することによって、前記第1増幅素子(Q1)は前記RF入力信号の単独増幅動作を実行する。
【0062】
前記インピーダンス調整回路(Zadj)の一端は前記第1増幅素子(Q1)の前記出力電極と前記第2増幅素子(Q2)の前記出力電極とが接続された接続ノードに接続され、前記インピーダンス調整回路(Zadj)の他端は前記第2スイッチ回路(SW2)の一端に接続され、前記第2スイッチ回路(SW2)の他端は前記接地電圧(GND)に接続される。
【0063】
前記インピーダンス調整回路(Zadj)は、前記インピーダンス調整回路(Zadj)の前記一端と前記他端との間に接続されたリアクタンス素子(C2)を含む。
【0064】
前記第2スイッチ回路(SW2)は前記第2電圧レベル(ローレベル“0”)の前記パワーモード信号(PM)に応答して前記第2スイッチ回路(SW2)の前記一端と前記他端との間を非導通状態に制御する一方、前記第2スイッチ回路(SW2)は前記第1電圧レベル(ハイレベル“1”)の前記パワーモード信号(PM)に応答して前記第2スイッチ回路(SW2)の前記一端と前記他端との間を導通状態に制御することを特徴とするものである(図1参照)。
【0065】
前記実施の形態によれば、第1増幅素子の単独増幅動作と第1増幅素子と第2増幅素子との並列増幅動作とを実行する際に、電力増幅器の出力インピーダンスを最適化することができる。
【0066】
2.実施の形態の詳細
次に、実施の形態について更に詳述する。尚、発明を実施するための最良の形態を説明するための全図において、前記の図と同一の機能を有する部品には同一の符号を付して、その繰り返しの説明は省略する。
【0067】
[実施の形態1]
《電力増幅器の構成》
図1は、本発明の実施の形態1による電力増幅器1の構成を示す図である。
【0068】
図1に示した電力増幅器1は、具体的にはバッテリによって動作可能な携帯電話の通信端末に搭載されることが可能な高周波モジュール1として構成されている。高周波モジュール1は、シリコン半導体集積回路の半導体チップICと多層配線基板PCBとによって構成されている。シリコン半導体集積回路の半導体チップICには、CMOS半導体製造プロセスによって微細化されたNチャネルとPチャネルのMOSトランジスタや抵抗が集積化される。多層配線基板PCBには、表面実装型のコンデンサとインダクタさらにはストリップラインによるインダクタさらには多層層間接続配線による寄生インダクタによるインダクタを含んでいる。
【0069】
《電力増幅部》
半導体チップICには電力増幅器1の電力増幅部(PA)10が形成され、電力増幅部(PA)10はNチャネルMOSトランジスタQ1、Q2、Q3、Q4、Q5と演算増幅器OPAと抵抗R1、R2と容量C1とを含んでいる。
【0070】
トランジスタQ1とトランジスタQ2はそれぞれ第1増幅素子と第2増幅素子として機能するものであり、トランジスタQ1のソースとトランジスタQ2のソースとは接地電圧GNDに接続される。具体的には、半導体チップICの主表面に形成されたトランジスタQ1のソースとトランジスタQ2のソースとは、半導体チップICの内部に形成されたビア導電層を介して、半導体チップICの裏面に形成された裏面接地電極に接続される。半導体チップICの裏面接地電極は、多層配線基板PCBの内部に形成されたビア導電層を介して、携帯電話の通信端末のマザーボートの接地配線に接続される。その結果、ソース接地増幅素子として
トランジスタQ1、Q2は電気的にまた熱的に安定した増幅動作を実行する。
【0071】
トランジスタQ1、Q2の両ゲート間に第1スイッチ回路SW1のトランジスタQ3のドレイン・ソース電流経路が接続され、トランジスタQ3のゲートにはパワーモード信号PMが供給される。ハイレベル“1”のパワーモード信号PMに応答してトランジスタQ3がオン状態となるので、RF入力信号RF inputが容量C1を介してトランジスタQ1、Q2の両ゲートに印加される。その結果、パワーモード信号PMがハイレベル“1”の場合には、第1増幅素子と第2増幅素子として機能するトランジスタQ1とトランジスタQ2とはRF入力信号RF inputの並列増幅動作を実行する。一方、パワーモード信号PMがローレベル“0”の場合には、トランジスタQ3がオフ状態となるので、RF入力信号RF inputが容量C1を介してトランジスタQ1のゲートにのみ印加され、トランジスタQ2のゲートの電位は第1スイッチ回路SW1の抵抗R2を介して接地電圧GNDに設定される。その結果、パワーモード信号PMがローレベル“0”の場合には、第1増幅素子として機能するトランジスタQ1はRF入力信号RF inputの単独増幅動作を実行する。ここで、RF入力信号RF inputは携帯電話端末に搭載されるRF信号処理半導体集積回路(RFIC)の送信信号処理ユニットで生成され、パワーモード信号PMは携帯電話端末に搭載されるRF信号処理半導体集積回路(RFIC)とベースバンドプロセッサとのいずれかから生成されることが可能である。
【0072】
トランジスタQ4のゲートとドレインは共通接続され更に演算増幅器OPAの非反転入力端子に接続され、演算増幅器OPAの反転入力端子と出力端子とは共通接続され更に演抵抗R1を介してトランジスタQ1のゲートに接続される。トランジスタQ4のドレイン・ソース電流経路にバイアス電流Biasが供給されることによって、ゲート・ソース間にバイアス電圧が発生される。トランジスタQ4のゲート・ソース間バイアス電圧は、ボルテージフォロワとして動作する演算増幅器OPAを介してトランジスタQ1、Q2の両ゲートに印加可能とされている。従って、トランジスタQ4とトランジスタQ1、Q2とは、ボルテージフォロワとして動作する演算増幅器OPAを介して、カレントミラーの回路形式に接続されている。その結果、半導体チップICの製造プロセス変動や温度変動や電源電圧変動に対しても、トランジスタQ1、Q2は安定した増幅動作を実行することが可能となる。尚、トランジスタQ1のゲートと演算増幅器OPAの出力端子の間に接続された抵抗R1は、演算増幅器OPAの出力端子に流入するRF入力信号RF inputの信号成分を減衰する機能を有するものである。
【0073】
トランジスタQ1のドレインとトランジスタQ2のドレインとは共通接続され、更にボンディングワイヤBW1の一端に接続されている。
【0074】
半導体チップICには、ゲートにパワーモード信号PMが供給されるトランジスタQ5と一端がトランジスタQ5のドレインに接続され他端に電源電圧VDDが供給される抵抗R3とを含む第2スイッチ回路SW2が形成されている。この第2スイッチ回路SW2の機能と動作に関しては後に詳述する。
【0075】
《出力整合部》
多層配線基板PCBには電力増幅器1の出力整合部(MN)20が形成され、出力整合部(MN)20はインダクタL1と容量C3と出力整合回路MN_Cとインピーダンス調整回路Zadjとを含んでいる。
【0076】
インダクタL1の一端は電源電圧VDDに接続され、インダクタL1の他端はボンディングワイヤBW1の他端に接続されている。従って、インダクタL1は、実際には出力整合部(MN)20には含まれず、トランジスタQ1とトランジスタQ2の共通のドレイン負荷素子として機能する。
【0077】
容量C3の一端は電源電圧VDDとインダクタL1の一端に接続され、容量C3の他端は接地電圧GNDに接続されている。従って、容量C3は、実際には出力整合部(MN)20には含まれず、トランジスタQ1とトランジスタQ2のドレインに流入する電源リップル成分を減衰する機能を有するものである。
【0078】
出力整合回路MN_Cは、電力増幅部(PA)10のトランジスタQ1、Q2の共通のドレインにおける数Ω程度の低い出力インピーダンスと携帯電話の通信端末の送信アンテナの50Ωの比較的高いインピーダンスとを整合する機能を有するものである。携帯電話の通信端末の送信アンテナは、図示しないアンテナスイッチ等を介して出力整合回路MN_CのRF出力信号端子RF outputに接続される。
【0079】
従って、出力整合回路MN_Cは、トランジスタQ1、Q2の共通ドレインとRF出力信号端子RF outputとの間に直列接続された複数のインダクタLMN1、LMN3、LMN5、LMN7と容量CMN4とを含んでいる。また更に出力整合回路MN_Cは、第1中間ノードと接地電圧GNDとの間に直列接続された容量CMN1とインダクタLMN2とを含み、第2中間ノードと接地電圧GNDの間に直列接続された容量CMN2とインダクタLMN4とを含み、第3中間ノードと接地電圧GNDとの間に直列接続された容量CMN3とインダクタLMN6とを含んでいる。
【0080】
インピーダンス調整回路Zadjは、本発明の実施の形態によって特に電力増幅器1に追加されたものである。すなわち、インピーダンス調整回路Zadjは、第1増幅素子としてのトランジスタQ1の単独増幅動作時の電力増幅器1の出力インピーダンスは2〜3Ωと比較的大きな値となる一方、第1増幅素子と第2増幅素子としてのトランジスタQ1、Q2の並列増幅動作時の電力増幅器の出力インピーダンスは1〜2Ωと比較的小さな値となることを考慮して、電力増幅器1に追加されたものである。更にインピーダンス調整回路Zadjは、この単独増幅動作時とこの並列増幅動作時とで、出力インピーダンスが変化するだけではなく、スミスチャートの上の最高出力電力のプロット図と最小消費電流のプロット図も変化することを考慮して、電力増幅器1に追加されたものである。
【0081】
またインピーダンス調整回路Zadjは、電力増幅部(PA)10のトランジスタQ1、Q2の共通のドレインと第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5のドレインとの間に接続されている。すなわち、インピーダンス調整回路Zadjは容量C2とインダクタL2とを含み、容量C2の一端はトランジスタQ1、Q2の共通のドレインと接続され、容量C2の他端はインダクタL2の一端に接続され、インダクタL2の他端はボンディングワイヤBW2を介して第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5のドレインと接続されている。
【0082】
従って、半導体チップICに形成された第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5は、ハイレベル“1”のパワーモード信号PMに応答してトランジスタQ1、Q2がRF入力信号RF inputの並列増幅動作を実行する際に、ハイレベル“1”のパワーモード信号PMに応答してオン状態に制御される。その結果、第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5がオン状態に制御されることで、インピーダンス調整回路Zadjは活性状態に制御される。
【0083】
それに対して、半導体チップICに形成された第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5は、ローレベル“0”のパワーモード信号PMに応答してトランジスタQ1がRF入力信号RF inputの単独増幅動作を実行する際には、ローレベル“0”のパワーモード信号PMに応答してオフ状態に制御される。その結果、第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5がオフ状態に制御されることで、インピーダンス調整回路Zadjは非活性状態に制御される。
【0084】
《最高出力電力と最小消費電流》
図2は、図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1の動作を示す図である。
【0085】
すなわち、図2図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1がトランジスタQ1、Q2の並列増幅動作の実行期間中でのスミスチャートの上の最高出力電力Max_Poutのプロット図と出力電力と消費電流から計算された最大効率Max_Effのプロット図とを示す図である。
【0086】
まず、図2に示すスミスチャートは、インピーダンスの実数部である抵抗の抵抗値がゼロ(0)と無限大(∞)とを結ぶ直線と、抵抗がゼロのレジスタンス円と、抵抗が0.5(25Ω)のレジスタンス円と、抵抗が1.0(50Ω)のレジスタンス円とを含んでいる。更に図2に示すスミスチャートは、インピーダンスの虚数部であるリアクタンスが0.5のリアクタンス円弧と、リアクタンスが1.0のリアクタンス円弧と、リアクタンスが2.0のリアクタンス円弧と、リアクタンスが−0.5のリアクタンス円弧と、リアクタンスが−1.0のリアクタンス円弧と、リアクタンスが−2.0のリアクタンス円弧とを含んでいる。
【0087】
図2の左下には、図2に示した大きなスミスチャートの左の抵抗の抵抗値がゼロ(0)の付近の拡大図画が示されている。最大効率Max_Effのプロット図は、同一の効率である等効率線を複数含む同心円となっている。最大効率Max_Effのプロット図である同心円の略中心において、最大効率Max_Effが実現されるものである。最高出力電力Max_Poutのプロット図は、同一の出力電力である等出力電力線を複数含む同心円となっている。最高出力電力Max_Poutのプロット図である同心円の略中心において、最高出力電力Max_Poutが実現されるものである。
【0088】
図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1がトランジスタQ1の単独増幅動作の実行期間中のスミスチャートも、図2に示したスミスチャートと略同様になる。しかし、トランジスタQ1の単独増幅動作の実行期間中のスミスチャートでは、最大効率Max_Effの同心円の位置と最高出力電力Max_Poutの同心円の位置とは、図2に示したスミスチャートの場合よりも右側の0.5(25Ω)のレジスタンス円の方向にそれぞれ移動する。
【0089】
図2の左下に示した拡大図がトランジスタQ1の単独増幅動作の実行期間中の動作を示すと仮定すると、この拡大図に示した最大効率Max_Effの同心円の略中心にトランジスタQ1の単独増幅動作の実行期間中の電力増幅器1の出力インピーダンスZout_sが位置するように、この出力インピーダンスZout_sの値を2〜3Ωと比較的大きな値に設定する。従って、トランジスタQ1の単独増幅動作の実行期間中に、最高出力電力Max_Poutよりも最大効率Max_Effを重視した電力増幅器1の出力インピーダンスを設定することが可能となる。
【0090】
一方、図2の左下に示した拡大図は、実際には電力増幅器1のトランジスタQ1、Q2の並列増幅動作の実行期間中のスミスチャートの拡大図である。しかし、電力増幅器1のトランジスタQ1、Q2の並列増幅動作の実行期間中の電力増幅器1の出力インピーダンスZout_p(1〜2Ωの抵抗値に設定される)が、図2の拡大図に示した最高出力電力Max_Poutの同心円の略中心に位置していないことが理解される。すなわち、最高出力電力Max_Poutの同心円の略中心は、並列増幅動作の実行期間中の電力増幅器1の1〜2Ωの抵抗値の出力インピーダンスZout_pよりも抵抗値がゼロ(0)の方向にシフトしている。これでは、電力増幅器1のトランジスタQ1、Q2の並列増幅動作の実行期間中に、最大効率Max_Effよりも最高出力電力Max_Poutを重視した電力増幅器1の出力インピーダンスを設定することが不可能となる。
【0091】
そこで、本発明の実施の形態1による電力増幅器1に追加されたインピーダンス調整回路Zadjと第2スイッチ回路SW2とは、特に重要な機能と動作とを発揮する。
【0092】
図3は、図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1に含まれたインピーダンス調整回路Zadjと第2スイッチ回路SW2の動作を示す図である。
【0093】
すなわち、図3図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1のトランジスタQ1、Q2の並列増幅動作の実行期間中のインピーダンス調整回路Zadjと第2スイッチ回路SW2の動作によって調整出力インピーダンスZout_p_adjが最高出力電力Max_Poutの同心円の略中心に移動する様子を示す図である。
【0094】
図3の左下にも、図3に示した大きなスミスチャートの左の抵抗の抵抗値がゼロ(0)の付近の拡大図画が示されている。
【0095】
ハイレベル“1”のパワーモード信号PMに応答して電力増幅器1がトランジスタQ1、Q2の並列増幅動作の実行を開始したとしても、第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5がオフ状態であれば、インピーダンス調整回路Zadjは非活性状態に制御される。このインピーダンス調整回路Zadjが非活性状態での場合のトランジスタQ1、Q2の並列増幅動作の実行期間中の電力増幅器1の出力インピーダンスZout_pは、1〜2Ωの比較的大きな抵抗値となっている。これでは、この出力インピーダンスZout_pを、図2の拡大図に示した最高出力電力Max_Poutの同心円の略中心に位置させることは不可能である。
【0096】
それに対して図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1によれば、ハイレベル“1”のパワーモード信号PMに応答して電力増幅器1がトランジスタQ1、Q2の並列増幅動作の実行を開始するのと略同時に、第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5がオン状態となって、インピーダンス調整回路Zadjが活性状態に制御される。従って、インピーダンス調整回路Zadjに含まれた容量C2の機能によって、電力増幅器1の出力インピーダンスは最初の出力インピーダンスZout_pから調整出力インピーダンスZout_p_adjへ変化する。
【0097】
すなわち、インピーダンス調整回路Zadjの容量C2の機能によって、トランジスタQ1、Q2の並列増幅動作の実行期間中の電力増幅器1の出力インピーダンスは、最初の値Zout_pから出発して定コンダクタンス円の円弧の上で時計方向に移動する。その際の移動量は、容量C2のアドミッタンスjωC2に対応するωC2の大きさである。尚、ωは、角周波数である。
【0098】
従って、移動先の出力インピーダンスとしての調整出力インピーダンスZout_p_adjが、図2に示した最高出力電力Max_Poutの同心円の略中心に位置するように、移動量ωC2の大きさが設定される。
【0099】
以上説明したように、図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1によれば、電力増幅器1のトランジスタQ1、Q2の並列増幅動作の実行期間中に、最大効率Max_Effよりも最高出力電力Max_Poutを重視した電力増幅器1の出力インピーダンスを設定することが可能となる。
【0100】
従って、図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1によれば、トランジスタQ1の単独増幅動作とトランジスタQ1、Q2の並列増幅動作とを実行する際に電力増幅器1の出力インピーダンスを最適化すると言う当初の目的を達成することが可能となる。
【0101】
更に図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1によれば、トランジスタQ1の単独増幅動作とトランジスタQ1、Q2の並列増幅動作とを切り替える第1スイッチ回路SW1は、トランジスタQ3と抵抗R2の2素子で実現される。従って、単独増幅動作と並列増幅動作を切り替えるスイッチ回路のチップ占有面積を低減すると言う当初の他の目的を、達成することが可能となる。
【0102】
図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1におけるトランジスタQ1の単独増幅動作とトランジスタQ1、Q2の並列増幅動作との切り替え動作をより正確に説明すると、以下のようになる。
【0103】
すなわち、トランジスタQ1の単独増幅動作からトランジスタQ1、Q2の並列増幅動作へ動作が切り替ると、等出力電力線を複数個含んだ最大出力電力Max_Poutのプロット図と等効率線を複数個含んだ最効率Max_Effのプロット図は図2に示したスミスチャートにおいて左下方向にシフトする。従って、トランジスタQ1、Q2の並列増幅動作へ動作が切り替されると、第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5がオン状態となって、インピーダンス調整回路Zadjが活性状態に制御される。
【0104】
その結果、インピーダンス調整回路Zadjの容量C2の機能によって、トランジスタQ1、Q2の並列増幅動作の実行期間中の電力増幅器1の出力インピーダンスは、最初の値Zout_pから出発して定コンダクタンス円の円弧の上で移動量ωC2の大きさで時計方向に移動する。従って、インピーダンス調整回路Zadjの容量C2の機能によって調整された電力増幅器1の調整出力インピーダンスZout_p_adjは、最大効率Max_Effの点と最高出力電力Max_Poutの点との略中間の点に位置するものとなる。その結果、図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1によれば、電力効率と出力電力とがバランスした好適なRF電力増幅特性を実現することが可能となる。
【0105】
《高調波成分の抑圧》
しかしながら、本発明が完全に完成するまでの途中の設計段階では、インピーダンス調整回路Zadjは容量C2のみを含み、インダクタL2を含まないものであった。
【0106】
このように、インピーダンス調整回路Zadjが容量C2のみを含みインダクタL2を含まない場合には、電力増幅器1の出力整合回路MN_CのRF出力信号端子RF outputに得られるRF出力信号には基本波成分だけではなく高レベルの2次高調波成分と3次高調波成分とを含むと言う問題が、本発明者等の検討によって明らかとされた。
【0107】
図4は、図1に示す本発明の実施の形態1による電力増幅器1のインピーダンス調整回路Zadjは容量C2のみを含みインダクタL2を含まない場合の出力整合回路MN_CのRF出力信号端子に得られる2次高調波成分と3次高調波成分の減衰特性を示す図である。
【0108】
図4の縦軸は出力整合回路MN_Cの入力端子から出力端子との間での減衰量を示す一方、図4の横軸は周波数を示す。
【0109】
図4の基本波成分(1HD)はGSM(登録商標)850の送信周波数824〜849MHzとGSM900の送信周波数880〜915MHzとを示し、図4の2次高調波成分(2HD)はGSM850の送信周波数の2倍の1648〜1698MHzとGSM900の送信周波数の2倍の1760〜1830MHzとを示し、図4の3次高調波成分(3HD)はGSM850の送信周波数の3倍の2472〜2547MHzとGSM900の送信周波数の3倍の2640〜2745MHzとを示している。目標仕様では、2次高調波成分(2HD)と3次高調波成分(3HD)の減衰量は−40dB以下であったが、図4の破線で示したローパワーモード(すなわち、パワーモード信号PMがローレベル“0”でトランジスタQ1の単独増幅動作)の場合に減衰量が目標仕様の−40dB以下を達成できない言う問題が、本発明者等の検討によって明らかとされた。
【0110】
DCS1800の送信周波数が1710〜1785MHzで、PCS1900の送信周波数が1850〜1910MHzであるので、GSM900の送信周波数の2倍の1760〜1830MHzに対応する2次高調波成分(2HD)がDCS1800の送信周波数1710〜1785MHzに対する妨害電波となることが理解できる。尚、GSMはGlobal System for Mobile Communicationの略、DCSはDigital Cellar Systemの略、PCSはPersonal Communication Systemの略である。図4の破線で示すローパワーモードの場合に減衰量が最悪となるのは3次高調波成分(3HD)の付近で、この付近の高調波はDCS1800の送信周波数1710〜1785MHzに対する妨害電波やPCS1900の送信周波数の1850〜1910MHzに対する妨害電波となることはないが、他の通信システムの妨害電波となる可能性がある。
【0111】
また、図4の実線は、ハイパワーモード(すなわち、パワーモード信号PMがハイレベル“1”で、トランジスタQ1、Q2の並列増幅動作)の減衰特性を示している。この実線で示した2次高調波成分(2HD)と3次高調波成分(3HD)の減衰量は、目標仕様の−40dB以下を達成していることが理解される。
【0112】
本発明者等が図4の破線で示したローパワーモードにおける高調波の減衰量が目標仕様の−40dB以下を達成できない原因を検討したところ、以下の結論に到達した。
【0113】
それは、ローパワーモードでは、ローレベル“0”のパワーモード信号PMによってインピーダンス調整回路Zadjと接地電圧GNDの間に接続された第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5がオフ状態に制御されて、このオフ状態のトランジスタQ5がローパワーモードにおける高調波の原因となる波形歪みを発生すると言うものである。すなわち、負荷素子のインダクタL1に接続されたトランジスタQ1、Q2の共通のドレインには大きな電圧振幅のRF出力信号が生成されるので、この大振幅のRF出力信号がインピーダンス調整回路Zadjの容量C2を介して第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5のドレインに印加される。
【0114】
大振幅のRF出力信号の負の半サイクルの期間に、トランジスタQ5のドレイン信号波形が所定の負電圧でクランプされ、このクランプの際に高レベルの高調波が発生することが本発明者等の検討によって明らかとされた。その理由は、以下のように推測される。
【0115】
それは、NチャネルMOSトランジスタであるトランジスタQ5のP型ウェル領域(P型サブストレート)がN型ソース領域とともに接地電圧GNDに接続されているので、トランジスタQ5のN型ドレイン領域に負電圧が印加されると、P型ウェル領域とN型ドレイン領域で形成される寄生ダイオードがオン状態となり、負電圧の電圧クランプが発生すると言うものである。
【0116】
従って、図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1においては、第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5のドレインと正の電源電圧VDDとの間に接続された抵抗R3による正電圧印加の機能によって、トランジスタQ5の寄生ダイオードによる負電圧の電圧クランプの効果を軽減するものである。
【0117】
しかし、第2スイッチ回路SW2の抵抗R3の追加によってもトランジスタQ5の寄生ダイオードによる負電圧の電圧クランプを完全に防止することはできす、第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5がオフ状態に制御される図4の破線で示したローパワーモードにおける高調波の発生を防止できないものである。
【0118】
そこで、本発明の実施の形態1による電力増幅器1のインピーダンス調整回路Zadjにおいて容量C2に直列に接続されたインダクタL2は、特に重要な機能と動作とを発揮する。例えば、容量C2の容量値とインダクタL2のインダクタンスとは、容量C2とインダクタL2の直列共振周波数が、基本波成分(1HD)と2次高調波成分(2HD)との略中間の周波数となるように設定される。
【0119】
図5は、図1に示す本発明の実施の形態1による電力増幅器1のインピーダンス調整回路Zadjは容量C2とインダクタL2とを含む場合の出力整合回路MN_CのRF出力信号端子に得られる2次高調波成分と3次高調波成分の減衰特性を示す図である。
【0120】
図5から実線に示したハイパワーモードと破線に示したローパワーモードのいずれの場合も、2次高調波成分(2HD)と3次高調波成分(3HD)の高調波の減衰量が、目標仕様の−40dB以下を達成していることが理解される。その理由は、以下のように推測される。
【0121】
それは、インピーダンス調整回路ZadjへのインダクタL2の追加によって、出力整合回路MN_Cとインピーダンス調整回路Zadjと第2スイッチ回路SW2を含んだ出力整合部(MN)20のローパスフィルタ特性の性能指数(Quality factor)が向上したためと推測される。
【0122】
実際に、図5から明らかなように、基本波成分(1HD)での減衰量は小さく設定される一方、2次高調波成分(2HD)と3次高調波成分(3HD)の高調波では目標仕様の−40dB以下の大きな減衰量を実現している。
【0123】
《その他のインピーダンス調整回路》
図6A図6Cは、図1に示す本発明の実施の形態1による電力増幅器1のインピーダンス調整回路Zadjのその他の構成を示す図である。
【0124】
図6Aに示すインピーダンス調整回路Zadjは、図1に示したインピーダンス調整回路Zadjにて直列接続された容量C2とインダクタL2との接続順序を反転させたものである。
【0125】
図6Bに示すインピーダンス調整回路Zadjは、容量とインダクタとの直列接続を2個並列接続して構成したものである。すなわち、図6Bに示すインピーダンス調整回路Zadjは、容量C21とインダクタL21の第1直列接続と容量C22とインダクタL22の第2直列接続の並列接続によって構成されている。
【0126】
図6Cに示すインピーダンス調整回路Zadjは、容量とインダクタとの直列接続を3個またはそれ以上並列接続して構成したものである。すなわち、図6Cに示すインピーダンス調整回路Zadjは、容量C21とインダクタL21の第1直列接続と容量C22とインダクタL22の第2直列接続の並列接続と容量C2MとインダクタL2Mの第M直列接続の並列接続とによって構成されている。
【0127】
《高周波モジュール》
図8は、図1に示す本発明の実施の形態1による電力増幅器1が内蔵される高周波モジュール1の構成を示す図である。
【0128】
図8に示す本発明の実施の形態1による高周波モジュール1は、デュアルバンド高周波電力増幅器HPAとフロントエンドモジュールFEMとを内蔵したものである。
【0129】
後で詳述する図9に示す本発明の実施の形態2による高周波モジュール1に内蔵されたデュアルバンド高周波電力増幅器HPAと外部接続されるフロントエンドモジュールFEMと比較して、図8に示す本発明の実施の形態1による高周波モジュール1に内蔵されたフロントエンドモジュールFEMには図9に示されたローパスフィルタ(LPF)70H、ローパスフィルタ(LPF)70Lが含まれていない。図9に示されたローパスフィルタ(LPF)70H、ローパスフィルタ(LPF)70Lの機能は、RF送信出力信号に含まれる基本波成分(1HD)を可能な限り小さな減衰量にて出力する一方、2次高調波成分(2HD)と3次高調波成分(3HD)等の高調波を可能な限り大きな減衰量で抑圧することである。
【0130】
従って、図8に示す本発明の実施の形態1による高周波モジュール1に内蔵された第1出力整合部(MN)20Hと第2出力整合部(MN)20Lは、出力インピーダンス整合の機能と図9のローパスフィルタ(LPF)70H、ローパスフィルタ(LPF)70Lの高調波抑圧の機能とを発揮するものである。
【0131】
一方、図8に示した本発明の実施の形態1による高周波モジュール1のデュアルバンド高周波電力増幅器HPAは、第1電力増幅部(PA)10Hと第1出力整合部(MN)20Hと第2電力増幅部(PA)10Lと第2出力整合部(MN)20Lと第1電力結合器30Hと第2電力結合器30Lと制御部40とを含んでいる。第1電力増幅部(PA)10Hの第1RF信号入力端子には、送信周波数が1710〜1785MHzのDCS1800と送信周波数が1850〜1910MHzのPCS1900のハイバンドの第1RF送信入力信号Pin_HBが供給される。第2電力増幅部(PA)10Lの第2RF信号入力端子には、送信周波数が824〜849MHzのGSM850と送信周波数が880〜915MHzのGSM900のローバンドの第2RF送信入力信号Pin_LBが供給される。ハイバンドの第1RF送信入力信号Pin_HBとローバンドの第2RF送信入力信号Pin_LBとは、携帯電話端末に搭載されるRF信号処理半導体集積回路(RFIC)の送信信号処理ユニットから供給される。制御部40にはRF信号処理半導体集積回路(RFIC)から自動パワー制御のためのランプ電圧Vrampと第1電力結合器30Hまたは第2電力結合器30Lからのパワー検出電圧Vdetが供給されることによって、自動パワー制御電圧Vapcを生成して第1電力増幅部(PA)10Hと第2電力増幅部(PA)10Lに供給する。自動パワー制御によってパワー検出電圧Vdetの電圧レベルが目標のランプ電圧Vrampの電圧レベルと一致するように、自動パワー制御電圧Vapcによって第1電力増幅部(PA)10Hと第2電力増幅部(PA)10Lの増幅ゲインが制御される。具体的には、図1に示す電力増幅部(PA)10においてトランジスタQ4のドレイン・ソース電流経路に流れるバイアス電流Biasが自動パワー制御電圧Vapcの変化に応答して変化することによって、自動パワー制御のための増幅ゲインの制御が実行される。従って、図8に示した本発明の実施の形態1による高周波モジュール1のデュアルバンド高周波電力増幅器HPAに含まれる第1電力増幅部(PA)10Hと第2電力増幅部(PA)10Lとは、図1に示した電力増幅部(PA)10の回路構成によってそれぞれ構成されている。
【0132】
図8に示した本発明の実施の形態1による高周波モジュール1のデュアルバンド高周波電力増幅器HPAの第1電力増幅部(PA)10Hの出力から生成される第1RF送信出力信号は、第1出力整合部(MN)20Hと第1電力結合器30Hとを介してフロントエンドモジュールFEMのアンテナスイッチ(ANT_SW)50の一方の入力端子に供給される。更に、デュアルバンド高周波電力増幅器HPAの第2電力増幅部(PA)10Lの出力から生成される第2RF送信出力信号は、第2出力整合部(MN)20Lと第2電力結合器30Lとを介してフロントエンドモジュールFEMのアンテナスイッチ(ANT_SW)50の他方の入力端子に供給される。
【0133】
上述したように図8に示す本発明の実施の形態1による高周波モジュール1に内蔵されたフロントエンドモジュールFEMには、図9に示されたローパスフィルタ(LPF)70H、ローパスフィルタ(LPF)70Lが含まれていない。従って、図8に示した本発明の実施の形態1による高周波モジュール1に内蔵された第1出力整合部(MN)20Hと第2出力整合部(MN)20Lは、出力インピーダンス整合の機能と図9のローパスフィルタ(LPF)70H、ローパスフィルタ(LPF)70Lの高調波抑圧の機能とを発揮する必要がある。この理由から、図8に示した本発明の実施の形態1による高周波モジュール1に内蔵された第1出力整合部(MN)20Hと第2出力整合部(MN)20Lは、図1に示した出力整合部(MN)20の回路構成によってそれぞれ構成されている。その結果、図5で説明したように、基本波成分(1HD)の減衰量は小さく設定される一方、2次高調波成分(2HD)と3次高調波成分(3HD)等の高調波では大きな減衰量を実現することが可能となる。
【0134】
[実施の形態2]
《電力増幅器の他の構成》
図7は、本発明の実施の形態2による電力増幅器1の他の構成を示す図である。
【0135】
図7に示す本発明の実施の形態2による電力増幅器1が、図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1と相違するのは、次の点である。
【0136】
すなわち、図7に示した本発明の実施の形態2による電力増幅器1においては、インピーダンス調整回路Zadjの接続個所が図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1とは相違している。図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1において、インピーダンス調整回路Zadjは、電力増幅部(PA)10のトランジスタQ1、Q2の共通ドレインすなわち出力整合回路MN_Cの入力端子と第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5のドレインとの間に接続されていた。
【0137】
それに対して、図7に示した本発明の実施の形態2による電力増幅器1においては、インピーダンス調整回路Zadjは、出力整合回路MN_CのRF出力信号端子RF outputと第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5のドレインとの間に接続されている。その他の回路接続に関しては、両者間に相違は無い。
【0138】
図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1と図7に示した本発明の実施の形態2による電力増幅器1のいずれにおいても、出力整合回路MN_CにおけるRF信号振幅は下記のような順序で変化する。すなわち、電力増幅部(PA)10のトランジスタQ1、Q2の共通ドレインすなわち出力整合回路MN_Cの入力端子のRF信号電圧振幅よりも、インダクタLMN1とインダクタLMN3との共通接続点の第1中間ノードのRF信号電圧振幅の方が大きくなる。更にインダクタLMN1とインダクタLMN3との共通接続点の第1中間ノードのRF信号電圧振幅よりも、インダクタLMN3とインダクタLMN5との共通接続点の第2中間ノードのRF信号電圧振幅の方が大きくなる。更にインダクタLMN3とインダクタLMN5との共通接続点の第2中間ノードのRF信号電圧振幅よりも、インダクタLMN5とインダクタLMN7との共通接続点の第3中間ノードのRF信号電圧振幅の方が大きくなる。また更にインダクタLMN5とインダクタLMN7との共通接続点の第3中間ノードのRF信号電圧振幅よりも、出力整合回路MN_CのRF出力信号端子RF outputのRF信号電圧振幅の方が大きくなる。
【0139】
この理由は、出力整合回路MN_Cは電力増幅部(PA)10のトランジスタQ1、Q2の共通のドレインでの数Ω程度の低い出力インピーダンスと携帯電話の通信端末の送信アンテナの50Ωの比較的高いインピーダンスを整合する機能を有するからである。すなわち、インピーダンスが、出力整合回路MN_Cの入力端子と第1中間ノードと第2中間ノードと第3中間ノードとRF出力信号端子RF outputの順序で、次第に数Ωから50Ωまで増加している。
【0140】
従って、図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1においては、第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5のドレインには電力増幅部(PA)10のトランジスタQ1、Q2の共通ドレインすなわち出力整合回路MN_Cの入力端子の最小RF信号電圧振幅が印加されていた。この最小RF信号電圧振幅の印加の理由によって、図1に示した本発明の実施の形態1では、オフ時のトランジスタQ5から発生する高調波成分の抑制が可能となっていた。
【0141】
それに対して、図7に示した本発明の実施の形態2においては、第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5のドレインには出力整合回路MN_Cの最大RF信号電圧振幅が印加される。この最大RF信号電圧振幅の印加の理由によって、図7に示した本発明の実施の形態2によるオフ時のトランジスタQ5から発生する高調波成分は、図1に示した本発明の実施の形態1によるオフ時のトランジスタQ5から発生する高調波成分よりも大きくなると言う欠点を有する。
【0142】
しかし、この欠点は、図9に示す本発明の実施の形態2による高周波モジュール1に内蔵されたデュアルバンド高周波電力増幅器HPAと外部接続されるフロントエンドモジュールFEMにより容易に解消されることが可能である。
【0143】
図9は、図7に示す本発明の実施の形態2による電力増幅器1が内蔵される高周波モジュール1の構成を示す図である。
【0144】
図8に示した本発明の実施の形態1による高周波モジュール1に内蔵されたフロントエンドモジュールFEMと比較すると、図9に示したフロントエンドモジュールFEMにはローパスフィルタ(LPF)70H、ローパスフィルタ(LPF)70Lが追加されている。図9に示されたローパスフィルタ(LPF)70H、ローパスフィルタ(LPF)70Lの機能は、RF送信出力信号に含まれる基本波成分(1HD)を可能な限り小さな減衰量で出力する一方、2次高調波成分(2HD)と3次高調波成分(3HD)等の高調波を可能な限り大きな減衰量で抑圧することである。
【0145】
以上の理由によって、図7に示した本発明の実施の形態2によるオフ時のトランジスタQ5から発生する高調波の欠点は、図9に示したフロントエンドモジュールFEMにより容易に解消されることができる。
【0146】
一方、図7に示した本発明の実施の形態2による電力増幅器1においても、インピーダンスが、出力整合回路MN_Cの入力端子と第1中間ノードと第2中間ノードと第3中間ノードとRF出力信号端子RF outputの順序で、次第に数Ωから50Ωまで増加している。
【0147】
インピーダンス調整回路Zadjの接続個所としては、図7のようにインピーダンス調整回路Zadjを出力整合回路MN_CのRF出力信号端子RF outputと第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5のドレインとの間に接続した方が、図1の場合よりも電力損失が小さいことが本発明者等の検討によって確認された。
【0148】
すなわち、ハイパワーモードで、ハイレベル“1”のパワーモード信号PMに応答してトランジスタQ1、Q2がRF入力信号RF inputの並列増幅動作を実行する際に、第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5はハイレベル“1”のパワーモード信号PMに応答してオン状態に制御される。その結果、第2スイッチ回路SW2のトランジスタQ5がオン状態に制御されることで、インピーダンス調整回路Zadjは活性状態に制御されるが、インピーダンス調整回路Zadjと第2スイッチ回路SW2とに電流が流れて、電力損失が発生する。
【0149】
図7の場合の方が図1の場合よりもインピーダンス調整回路Zadjの接続個所の出力整合回路MN_Cのインピーダンスが高いので、ハイパワーモードのインピーダンス調整回路Zadjと第2スイッチ回路SW2との電力損失は、図7の場合の方が図1の場合よりも小さいことが本発明者等の検討によって確認された。従って、図7の場合の方が、図1の場合よりも、消費電流と消費電力とを低減することが可能となる。
【0150】
従って、高調波の発生量は大きいというデメリットはあるがハイパワーモードの電力損失と消費電流と消費電力とが小さいと言う特性を持った図7に示した本発明の実施の形態2による電力増幅器1が、図9に示したように高調波減衰の機能を有するローパスフィルタ(LPF)70H、ローパスフィルタ(LPF)70Lが追加されフロントエンドモジュールFEMと組み合わされて使用されるものである。
【0151】
尚、冒頭では説明しなかったが、電力増幅部(PA)10に含まれたNチャネルMOSトランジスタQ1、Q2、Q3、Q4、Q5には、LD型と呼ばれる高周波増幅と高出力増幅とに適したMOSトランジスタが使用されたものである。尚、LDは、Laterally Diffused(横型拡散)の略である。
【0152】
以上、本発明者によってなされた発明を種々の実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0153】
例えば、図8に示した本発明の実施の形態1による高周波モジュール1のデュアルバンド高周波電力増幅器HPAでは、電力検出のための第1電力結合器30Hと第2電力結合器30Lとは、方向性結合器(Directional Coupler)を使用したものであった。それ以外の電力検出方法としては、カレントセンス型電力検出方法を採用することも可能である。カレントセンス型電力検出方法は、電力増幅器の出力トランジスタと並列に素子サイズの小さな検出トランジスタを接続して、出力トランジスタのAC・DC動作電流に比例する小さな検出C・DC動作電流を検出トランジスタに流すことによって電力を検出するものである。
【0154】
また例えば、図1に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器1において、インピーダンス調整回路ZadjをトランジスタQ1、Q2の共通ドレインに接続するのではなく、出力整合回路MN_CのインダクタLMN1、LMN3の共通接続点の第1中間ノードに接続するように接続個所を変更することも可能である。
【0155】
更に例えば、図7に示した本発明の実施の形態2による電力増幅器1において、インピーダンス調整回路Zadjを出力整合回路MN_CのRF出力信号端子RF outputに接続するのではなく、出力整合回路MN_CのインダクタLMN5、LMN7の共通接続点の第3中間ノードに接続するように接続個所を変更することも可能である。
【0156】
更に電力増幅部(PA)10に含まれたトランジスタQ1、Q2、Q3、Q4、Q5は、LD型NチャネルMOSトランジスタ以外に、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)や、GaAsやInP等の化合物半導体を使用したMESFETやHEMTのNチャネル電界効果トランジスタを使用することも可能である。
【符号の説明】
【0157】
1…高周波モジュール、電力増幅器
10…電力増幅部(PA)
20…出力整合部(MN)
IC…半導体チップ
PCB…多層配線基板
Q1〜Q5…トランジスタ
OPA…演算増幅器
SW1…第1スイッチ
SW2…第2スイッチ
PM…パワーモード信号
R1〜R3…抵抗
C1〜C3…容量
L1〜L2…インダクタ
Zadj…インピーダンス調整回路
MN_C…出力整合回路
LMN1〜LMN7…インダクタ
CMN1〜CMN4…容量
BW1、BW2…ボンディングワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9