【実施例1】
【0029】
次に、本願の検査装置を用いて生体組織を検査した検査結果について説明する。本実施例では、
図2に示される構成の光源を用いた。具体的には、半導体発光素子28に発光ダイオード(波長590nm)を使用した。また、赤外ガラス蛍光体30は、Yb
2O
3粉末と、Nd
2O
3粉末と、Bi
2O
3粉末と、H
3BO
3粉末を混合し、その混合した粉末を溶解・固化して製作した。各粉末の混合比は、Yb
2O
3と、Nd
2O
3と、Bi
2O
3と、B
2O
3とが、1.0mol%、4.0mol%、47.5mol%、47.5mol%となるように調整した。
【0030】
図3に本実施例に係る光源の発光スペクトルの測定結果を示している。
図3に示すように、発光スペクトルの発光強度が最大となる波長は1014nmとなり、発光スペクトルの半値幅は98nmとなった。また、発光スペクトルの分布形状はガウシアン分布に類似した形状となり、生体組織の観察に有用な波長域900〜1100nmにおいて抜けた波長のない連続した波長域を有していた。
【0031】
図4に本実施例の光源の電流値と光出力との関係を示している。
図4に示すように、光源(発光ダイオード)に流れる電流に応じて、光源からの光出力が増大した。したがって、発光ダイオードに流れる電流値を制御することで、所望の光出力が得られることが確認できた。
【0032】
上記の光源を用いて、がん患者から摘出した前立腺がんの組織を撮像した。具体的には、
図7に示すように、がん患者から前立腺を摘出し、摘出した前立腺をがん組織を含む面で切断し、その切断面を撮像した。撮像には、CCDカメラ(Electrooptic社製)を用いた。なお、撮像には、CCDカメラの他に、InGaAsカメラのような赤外線用カメラを用いることもできる。前立腺がんは、被膜を形成せず腫瘤を形成することも少なく、画像診断が難しいがんの一つである。現在のところMRI画像によって前立腺がんの画像診断が行われているが、その特異性については十分ではなく、新規な画像診断ツールの開発が望まれている。
図8は本実施例の検査装置によって撮像された透過像であり、
図9はMRI検査装置によって撮像されたMRIT1強調画像である。
図8,9に示す画像では、尿道の上部左側に前立腺肥大結節が示され、上部右側に腫瘍部(癌細胞)が示されている。
図8,9から明らかなように、本実施例の検査装置によって得られた透過像の腫瘍部には、MRIT1強調画像と同等若しくはより明確なコントラストが現れていた。
【0033】
本実施例の検査装置では、半導体素子(発光ダイオード)と赤外ガラス蛍光体により構成されたコンパクトな光源と、生体組織の透過像を撮影する光学素子(CCDカメラ)を用いるだけの簡易な構成によって、腫瘍部に
腫瘍を視覚で識別可能なコントラストが生じる画像を得ることができる。このため、CT検査装置やMRI検査装置等の従来の検査装置と比較して、大幅な小型化が可能となる。その結果、医療施設(病院等)内で移動可能な検査装置とすることができ、ベッドサイドでの診断を可能とすることができる。また、CT検査やMRI検査等で用いられる造影剤や蛍光標識等は必要がなく、さらに、特許文献1,2の光学検査装置で必要とされた波長毎の分析や解析を不要とすることができる。
【0034】
また、本実施例の検査装置では、光源が半導体発光素子により構成されているため、その発熱量を小さくすることができる。このため、内視鏡等の医療機器として使用する際の温度基準(例えば、正常な使用時に患者に短時間接触する可能性のある機器の部分の上限温度50℃)を容易にクリアすることができる。
【0035】
なお、本実施例の検査装置によって得られた透過像(
図8)が腫瘍部に明確なコントラストを有している理由は、光源の発光スペクトルに水の吸収帯域とPSAの吸収帯域の両者が含まれることが一因と考えられる。
図5は、本実施例の光源からの光をPSA試料に照射して、透過した光を測定したときの測定結果(測定した光の波長毎の光透過率)を示している。透過光の測定は、3種類の濃度(100ng/ml,40ng/ml,0ng/ml)について行った。
図5より明らかなように、PSA濃度の相違に応じて、950nm〜1100nmの波長域(水の吸収帯域とPSAの吸収帯域が含まれる)において透過率が相違している。このような透過率の変化について、1070nm付近の吸光度とPSA濃度の関係を
図6に示す。
図6に示すように、吸光度はPSA濃度に応じて直線的に変化する。前立腺がんの腫瘍部ではPSA濃度が高くなることから、前立腺がんの腫瘍部では多くの光が吸収され、この部分が暗く表示されることとなる。その結果、前立腺がんの腫瘍部に明確なコントラストが現れているものと思われる。
【0036】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0037】
さらに、上述した実施例では、光源に半導体発光素子と赤外ガラス蛍光体を用いていたが、本願の光源20はこのような構成に限られない。上述した光学特性(発光スペクトル特性)が得られる限り、どのような構成を採用してもよい。例えば、半導体発光素子以外の発光体(例えば、冷陰極管等)と赤外ガラス蛍光体とにより構成することができる。また、赤外広帯域発光LEDを光源として用いることもできる。赤外広帯域発光LEDを光源として用いる場合、例えば、
図10に示すLED40のような構造を採用することができる。
図10に示すように、LED40は、基板42と、基板42上に形成された複数の量子ドット44a〜44gを備えている。量子ドット44a〜44gは、発光層を構成しており、各量子ドット44a〜44gは、サイズ及び/又は組成(例えば、InAsP)が相違(分散)している。量子ドット44a〜44gの前面は、キャップ層46で保護されている。サイズ及び/又は組成が分散された複数の量子ドットによって発光層を構成することで、
図11に示すような広帯域の発光スペクトルを実現することができる。また、上述した実施例では、生体組織の検査領域の全面に光を照射するようにしたが、検査領域上を光で走査し、その検出結果を処理することで画像を取得するように構成してもよい。
【0038】
また、上述した実施例の検査装置は、患者から摘出した生体組織に光を照射し、生体組織を透過した光の像を撮像する検査装置であったが、本願の検査装置はこのような構成に限られない。例えば、生体組織に光を照射し、生体組織から反射される光の像(反射像)を撮像する検査装置(例えば、内視鏡検査装置)とすることもできる。このような構成によっても、撮影された反射像に基づいて、生体組織に腫瘍が存在するか否かを診断することができる。
【0039】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。