(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道列車等において脱線等の重大事故が発生した場合に、その列車事故を自動的に検知することが行われている。また、運転手や車掌のような乗務員は、重大事故の発生時には、鉄道車両に備え付けられている防護無線を起動し、また列車無線を使用して事故の状況を中央指令所に通報する決まりになっている。防護無線が発報される場合には、その付近にいる列車はその発報を受信することにより事故の発生を知ることができ、2次的事故の発生防止を図っている。また、中央指令所は、列車無線による通報を受けることにより、速やかに対策をとることができる。
【0003】
鉄道車両の事故の程度によっては乗務員が負傷してこれら防護無線及び列車無線の操作ができない状況が発生し、また負傷を免れても例えば気が動転して操作ができない状況が起こり得る。このような場合、付近を別の列車が走行中であると、その乗務員は事故の発生を知ることができず、2次的事故が発生する恐れがあり、更なる大事故につながる恐れもある。そこで、事故発生を自動的に検知して防護無線を自動発報し、乗務員が操作しなくても事故発生を知らせることができるようにした事故検知装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
即ち、この事故検知装置は、3軸加速度計及び3軸ジャイロの測定値を用いて列車の水平方向前方加速度、水平方向右方加速度、鉛直方向加速度、鉛直方向変位量及び姿勢角を演算する演算手段と、その演算手段の演算値と3軸加速度計及び3軸ジャイロの測定値とを用いて列車の事故を検知する事故検知手段と、その事故検知手段が事故の発生を検知した時、列車に備え付けられている防護無線を起動する手段とを具備することによって、事故の自動的な検知と、それに基づいて防護無線の自動的な起動とを図っている。
【0005】
特許文献1に記載の従来例においては、防護無線の自動発報については、設置しているセンサが1箇所であるために、当該センサが誤動作をしてしまうとそれを誤作動であると認識して対応を取る手段がない。また、列車事故を起こした場合、設置している車両が大破してしまうと、自動的に防護無線が発報できず、また事故時のデータの記録もできず、トレインレコーダーとしての機能を果たせていない。
【0006】
鉄道車両の損壊を伴うような重大な事故が発生したときに、防護無線を確実に発報し得るようにした防護無線自動発報装置が提案されている(特許文献2参照)。この防護無線自動発報装置においては、演算部は3軸加速度計の測定値を用いて鉄道車両の事故を検知するために必要な演算処理を行い、検知処理装置はその演算値と3軸加速度計の測定値とに基づいて鉄道車両の事故を検知したときに事故検知信号を出力し、防護無線起動手段は鉄道車両の事故が検知されたことに基づいて防護無線を起動する。防護無線起動手段により起動された防護無線の作動状態は、作動状態保持手段によって、事故検知信号を用いることなく保持される。
【0007】
また、鉄道車両の損壊を伴うような重大な事故が発生したときに、防護無線を確実に発報し得る別の防護無線自動発報装置が提案されている(特許文献3参照)。この防護無線自動発報装置は、鉄道車両の事故が検知されたことに基づいて、防護無線を起動し、3軸加速度計、鉄道車両の事故を検知するために必要な演算処理を行う演算部、その演算値と3軸加速度計の測定値とに基づき鉄道車両の事故が検知されたときに事故検知信号を出力する検知ユニットを備えている。また、3軸加速度計等の動作に関する自己診断処理を行う自己診断手段を有し、自己診断処理の結果に基づき3軸加速度計及び演算手段のいずれか少なくとも1つの故障が検知されたときに故障検知信号を出力することで故障に迅速に対応可能とし、信頼性及び確実性を高めている。
【0008】
また、本出願人は、センサユニットからの出力によって、鉄道車両の脱線、転覆、衝突、その他の車両異常を判定する鉄道車両の異常判定装置を提案している(特願2009−108036)。この提案は、事故発生時に車両の挙動データの読出し不可や消失を回避してデータの保護を図り、また、センサユニットの誤作動があってもその誤作動をカバーして、事故の際に必要な情報を出力する鉄道車両の挙動記録装置及び鉄道車両の異常判定装置を提供するものであり、異常判定装置の演算ユニットは、耐衝撃・耐火性の筐体を備え、直交する3軸の加速度と各軸回りの角速度を測定する内部及び外部のセンサユニットからのセンサ測定値の入力を受けて、車両異常を含む車両挙動を演算・記録し、更に各センサユニットの測定値に基づく演算結果について更に行うAND論理演算により、脱線、転覆、衝突等の車両異常を判定し、センサユニットの誤作動に起因した誤警報等を未然に防ぐことを図っている。列車編成においては、異常判定装置を先頭両車と最後尾両車とにそれぞれ配置し、測定値を交換することでデータのバックアップを図っている。
【0009】
更に、鉄道車両の異常診断装置として、振動センサを設置し、車輪のフラットや車軸の異常を検知するものがある(特許文献4参照)。この異常診断装置は、地面に対して垂直方向の振動を振動センサで検出し、当該振動センサからの信号の周波数と異常を示す周波数との比較に基づいて軸受と車輪の異常診断を行っている。振動センサは、互いに直交する2方向の加速度を同時に検出可能な2軸のMEMS式加速度センサを使用して、地面に対して垂直方向の振動に起因する加速度と同時に地面に対して水平で且つ鉄道車両の進行方向に直交する方向の加速度とを検出しており、地面に対して水平な加速度成分が閾値以下であれば異常比較の結果を無効にすることで、車両のカーブ走行に起因する加速度の影響を排除して、誤検知を抑制することを図っている。
【0010】
列車の車両の速度及び加速度等からなる車両運行情報の収集・解析を行うことにより列車の運行状況をリアルタイムで把握し、その安全、確実、快適な運行の確保、運転手の運転技術向上に資することができる車両運行管理システム、並びにこれを用いた車両及び軌道異常診断方法として、加速度センサや、GPS等の位置センサを用いて、車両の加速度や車速が、現在の運行地点における予め設定した上下限値を超えた場合に警報部から警告を発することで、車両の異常や軌道の異常を検知するシステムが提案されている(特許文献5参照)。このシステムによれば、車両の車軸系や軌道(レール)の異常を、一般に夜間等に行われる定期検査によることなく、車両の走行中にリアルタイムに発見することを可能にしている。
【0011】
また、鉄道車両の乗り心地と異常動揺を検知し、その検知結果によって軌道状態と鉄道車両の緩衝器劣化を判断する方法として、車体又は台車に設けた振動加速度計によって検知した左右振動加速度信号及び上下振動加速度信号を処理装置に入力し、該処理装置内においてA/D変換装置によりデジタル化した後、演算処理して乗り心地及び異常動揺をリアルタイムに評価する、また、求めた列車の1走行区間の乗り心地及び異常動揺をデータベースとして記録しておき、以後の走行時の評価と比較演算して軌道状態の悪化点や車両の緩衝器の劣化を検知する、という劣化診断のヘルスモニタリングが提案されている(特許文献6参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、前述の鉄道車両や軌道について異常を検知するシステムと、乗り心地を検知するシステムとは、それぞれが振動センサや加速度計を使用した専用システムであるため、車両の異常検知や診断のためにだけ、これらのシステムをすべての保有車両に設置することは、経済的な観点からすると実用的ではない。本出願人による先願に係る異常判定装置は、鉄道車両の脱線、転覆、衝突等の車両の重大事故の場合に生じるような異常状態を判定し評価する機能を備えているが、こうした重大事故に相当するような異常な事態が生じるのは非常に稀であるので、システム作動中に異常事態を出力することは普段はない。一方、鉄道車両については車輪のフラット、軸受の異常等についての定期検査が、またレール等の軌道については日常的な検査が、従来から求められている。
【0014】
そこで、上記の異常判定装置に用いられている各種センサの出力を通常の定期検査に利用することで、異常判定・警報システムと定期検査システムとの兼用を図り、システムの構成を簡素化し、利用の効率化を図ることを可能にする点で解決すべき課題がある。
【0015】
この発明の目的は、鉄道車両に取り付けられたセンサユニットからの検出信号に基づいて脱線、転覆、衝突等の重大事故の異常を判定する異常判定装置に、定期検査で行われるような車両や軌道の異常を検知し処理する機能を付加した鉄道車両用異常診断システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するため、この発明による鉄道車両用異常診断システムは、鉄道車両の加速度を検出する加速度センサ、前記鉄道車両の走行速度を測定する車速センサ、前記鉄道車両の現在位置を測定する位置センサ等の各種センサと、前記各種センサが出力する各測定値に基づいて前記鉄道車両の重度の異常として脱線、転覆、衝突等の重大事故を判定する鉄道車両用異常診断システムにおいて、前記センサからの前記各測定値に基づいて、前記鉄道車両の部品の劣化等に起因した前記鉄道車両の異常診断をすることを特徴としている。
【0017】
この鉄道車両用異常診断システムによれば、少なくとも加速度(振動)センサを含むセンサユニットを備えていて当該センサユニットの出力に基づいて鉄道車両の脱線、転覆、衝突等の重大事故を鉄道車両の重度の異常として判定する。即ち、重大事故が生じた場合には、センサユニットの出力レベルが通常でないレベルであるので、その解析を通して車両の異常事態を検出することができる。それに加えて、軸受や車軸の異常のように、鉄道車両の部品の劣化等に起因して定期点検等での検査項目については、加速度センサはそうした異常によって鉄道車両に現れる上下方向や左右方向の振動をも検出することができるので、当該加速度センサ等の出力を分析・解析することで上記の検査項目について生じた異常診断をすることができる。
【0018】
また、この鉄道車両用異常診断システムは、前記センサからの前記各測定値に基づいて、前記鉄道車両の異常診断として、前記鉄道車両の乗り心地評価を行うことができる。即ち、鉄道車両の脱線、転覆、衝突等の重大事故を判定する鉄道車両の異常診断システムは、少なくとも振動センサと角速度センサを含むセンサユニットを備えていて当該センサユニットの出力である測定値に基づいて、鉄道車両の異常診断として車両の乗り心地評価をすることができる。また、当該乗り心地データにより、前記鉄道車両の劣化を診断することができる。
【0019】
この鉄道車両用異常診断システムにおいて、前記加速度センサ及び前記車速センサからの前記各測定値に基づいて、前記鉄道車両に備わる車輪のフラットや車軸又は軸受の異常を診断することができる。即ち、車輪フラットや車軸又は軸受に損傷等が生じた場合には、車輪の回転に応じて特に上下方向の加速度(振動)に異変が現れるので、常時異変が現れれば車輪のフラット化や車軸又は軸受に損傷について、その発生位置(車軸回りの角度位置)までも特定することが可能である。
【0020】
この鉄道車両用異常診断システムにおいて、前記加速度センサ及び前記位置センサからの前記各測定値に基づいて、前記鉄道車両が走行する軌道についてその損傷箇所の特定を含めた異常診断をすることができる。即ち、軌道に損傷が生じた場合には、特に上下・左右方向の加速度(振動)に異変が現れるので、同じ鉄道車両で走行を繰り返した時の診断、又は他の鉄道車両の走行時の診断との照合に基づいて、現在位置を測定する位置センサの出力から同じ軌道位置(特定箇所)で異常が生じていることが判れば、軌道側に損傷等の原因があるものと推定される。
【0021】
また、この鉄道車両用異常診断システムにおいて、前記加速度センサは、前記鉄道車両の直交する3軸の各軸方向の加速度を測定する3軸の加速度計及び前記3軸の軸回りの角加速度を測定する3軸ジャイロを備えた6軸センサであるとすることができる。6軸センサは鉄道車両において直交する3つの軸の各軸線方向に沿う加速度と各軸線回りの角速度を漏れなく検出するので、鉄道車両のあらゆる動きを6つの成分に分けて検出することが可能である。また、前記車速センサは、前記鉄道車両の車輪に取り付けられおり前記車輪の回転に伴って速発信号を出力するセンサとすることができる。この場合、車輪の回転に伴って加速度に異常を生じるような鉄道車両の挙動について、6軸センサの出力と合わせて解析することにより、車輪の回転位置に基づく異常原因の解析が可能になる。更に、前記位置センサは、GPSセンサであるとすることができる。この場合、鉄道車両が走行する軌道上の位置を特定することが可能になるので、軌道の摩耗、変形、傷等の異常を、軌道箇所を特定して検出することが可能になる。
【0022】
また、この鉄道車両用異常診断システムにおいて、前記6軸センサとした前記加速度センサが測定した前記鉄道車両の上下方向の軸に沿う方向の加速度と、前記車輪に取り付けられている前記車速センサが出力する前記速発信号とに基づいて回転次数比分析を行うことができる。また、加速度センサが測定した加速度と角加速度、及び前記速発信号に基づいてFFT(高速フーリエ変換)解析、ヒストグラム(度数分布)処理又はデータの各種グラフ化処理を行うことができる。このような検出信号の組合せによって、車輪の回転位置に応じた加速度(振動)の解析が可能となり、例えば、車輪フラットや車軸又は軸受の異常を検出することができる。
また、前記判定・処理装置は、前記6軸センサが測定した前記鉄道車両の上下方向及び左右方向の加速度と、前記車輪に取り付けられている前記車速センサが出力する前記速発信号と、前記GPSセンサが検出したGPS信号とに基づいて、鉄道車両が走行する軌道の摩耗、変形、傷等の異常とその軌道箇所を、前記鉄道車両の振動レベル及び前記振動レベルに対応して解析を行うことができる。
【0023】
また、この鉄道車両用異常診断システムにおいて、前記6軸センサを具備するセンサユニットと、前記3軸の加速度計が測定した加速度測定値及び前記3軸ジャイロが測定した角速度測定値に基づいて車両異常を含む車両挙動を演算する演算ユニットとを具備しており、少なくとも1車両に前記センサユニットを2ユニット以上設置しており、全車両に設置された前記演算ユニットにて、前記各センサユニットの測定値に基づく演算結果について更に行うAND論理演算により、脱線、転覆、衝突、その他の車両異常を判定し、その判定を表示するとともに当該判定に基づいて警報を発する警報ユニットを設置している。この鉄道用異常検知・処理システム車両の異常判定装置によれば、少なくとも1車両にセンサユニットを2ユニット以上設置しているので、複数のセンサユニットからの測定値が利用可能であり、演算手段は、各センサユニットの測定値に基づく演算結果について更に行うAND論理演算により、脱線、転覆、衝突、その他の車両異常を判定する。したがって、一つのセンサユニットからの測定値のみに依存して車両異常を判定するのではなく、各センサユニットがすべて「異常」と判定した場合にのみ装置として異常と判定するので、異常判定装置としての信頼性を高めることができる。
【0024】
また、この鉄道車両用異常診断システムにおいて、前記警報ユニットが発する警報が解除されたことに応じて、操作により防護無線を発報する防護無線手段を備えていることができる。また、前記警報ユニットが発する警報が一定時間内に解除されないことに応じて自動的に防護無線を発報する防護無線手段を備えることができる。
【0025】
また、この鉄道用異常検知・処理システムにおいて、前記センサユニットに関連してその測定値を前記車両の挙動として記録する記録媒体を設け、前記センサユニット及び演算ユニットは少なくとも鉄道車両編成の先頭車両及び最後尾車両に設置されていて互いにデータ通信を行い、前記各記録媒体には互いの前記車両の挙動をバックアップとして記録することが好ましい。更に、この鉄道用異常判定・処理システムにおいて、前記車両異常が生じたとの判定に応じて乗務員に警報を発する前記警報ユニットは、前記先頭車両及び最後尾車両の運転室、車掌室等の乗務員室に配置することが好ましい。
【0026】
また、この鉄道車両用異常診断システムにおいて、車両の挙動を記録する記録媒体を耐衝撃・耐火性を備えた筐体に収容することができる。車両が脱線、転覆、衝突のような大事故に遭っても、記録媒体は筐体によって保護されているので損傷を受けることがなく、センサユニットによって検出され記録媒体に記憶された車両の挙動データが事故の際に消失するのを防止することができる。記録媒体は、脱線、転覆、衝突、その他の車両異常を判定するデータを提供することができる。
【0027】
更に、この鉄道車両用異常診断システムにおいて、前記直交する3軸の前記加速度及び前記直交する3軸回りの前記角速度について予め複数の閾値を設定しておき、前記直交する3軸の前記加速度測定値、又は前記直交する3軸回りの前記角速度測定値の何れかが、設定されている前記複数の閾値のいずれかを超えることに応じて、超えた当該閾値に応じた警報を発生することが好ましい。或いは、前記直交する3軸の前記加速度測定値、又は前記直交する3軸回りの前記角速度測定値の何れかが、設定されている前記複数の閾値のいずれを超えなくても、累積頻度に応じて、前記閾値に応じた警報を発生することが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
この発明による鉄道車両用異常診断システムは、上記のように構成されているので、鉄道車両に搭載された、脱線、転覆、衝突を判定・警告をする装置により、鉄道の二次的事故の防止及び緊急対応が可能になると共に、従来、保守点検員の目視による調査や専用の異常診断装置によって行われていた、車輪のフラット或いは車軸や軸受についての定期検査が、通常の営業車両についての異常診断を利用して行うことができるようになるため、人件費や設備投資の削減ができる。また、検査の頻度を格段に増やすことができるので、一層の安全向上を図ることができる。
【0029】
また、この鉄道車両用異常診断システムによれば、鉄道車両に搭載された、脱線、転覆、衝突を判定、警告をする装置により、鉄道の二次的事故の防止及び緊急対応が可能になると共に、車両の改善や劣化の判断のために実施される乗り心地評価をタイムリーに行うことができるようになる。即ち、乗り心地評価は、従来、車両の床面等に設置される車両動揺計で測定していたため、営業車両では評価し難いことや、動揺計の保有台数等に起因して評価する回数が制限されていたが、本発明では、通常の営業車両で、乗り心地評価が可能になるため、乗り心地評価の頻度が増し、タイムリーに車両劣化診断を行うことができる。乗り心地評価のデータ量が増すために、新車開発についても一助になる。
【0030】
更にまた、この鉄道車両用異常診断システムによれば、鉄道車両に搭載された脱線、転覆、衝突を判定し警告をする装置により、鉄道の二次的事故の防止、及び緊急対応が可能になると共に、従来、保守点検員の目視による調査や軌道検測車、レール深傷車を使用して行っていた軌道の摩耗、変形、傷等の検査を、通常の営業車両で検査できるようになるため、人件費や設備投資の削減ができるとともに、検査の頻度が格段に向上するので、一層の安全向上を図ることができる。
【0031】
更にまた、この鉄道車両用異常診断システムによれば、脱線等の重大な事故を起こしていない鉄道車両については通常の軌道走行が可能であるので、こうした通常運行されているときに、ジャイロ機構を備えた6軸センサを含むセンサユニットの出力を取り出して、車両の異常(例えば、車輪フラットや軸受異常)や乗り心地(例えば、車両のバネの異常に起因する場合)を検出することも可能にする。即ち、重大事故時に生じる脱線、転覆、衝突のような重大異常についての本来の検出をするとともに、定期点検で行うような車両の異常検出や乗り心地検査も可能にした新規な鉄道システムの異常診断システムを提供することができる。
【0032】
更にまた、この鉄道車両用異常診断システムによれば、先頭・最後尾車両については勿論のこと、中間車両を含めてセンサユニットを常備設置しているので、別に専用のセンサを取り付けることなしに、常備されるセンサユニットの出力を利用して各車両の異常や乗り心地について検査をすることができる。即ち、検出値を閾値と比較して閾値を超えていれば脱線等の重大事故と判断して警報を発するとともに、防護無線を出すようにしているが、閾値を超えることがなく、従って防護無線を発しないまでであっても、車両の加速度(振動)等のデータが得られ、そのデータを分析することで車両の乗り心地評価が可能となり、或いは当該乗り心地データにより鉄道車両の劣化を診断する、というセンサユニットの出力を活用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付した図面に基づいて、この発明による鉄道車両用異常診断システムの実施形態を説明する。
図1は、この発明による鉄道車両用異常診断システムの一例を示すシステム構成の概略図である。
図2〜
図3は、
図1に示すこの発明における鉄道車両用異常診断システムに用いられるパーツとしての各装置を示しており、
図2は演算ユニット、
図3は警報ユニットである。
図4は鉄道車両用異常診断システムの乗務員室に設置した一例を示す概略図である。
【0035】
図1に示す鉄道車両用異常診断システムの実施形態は、演算ユニット1と、演算ユニット1にCAN通信によるデータ通信線で接続されたセンサユニット2a,2bと、警報ユニット10とを備えている。また、演算ユニット1には、GPS40と、速発信号41を出力する車速センサとが接続されている。このようにシステム構成された鉄道車両用異常診断システムは、先頭車及び最後尾車両の運転室、車掌室などの乗務員室、及び編成の各中間車両にも少なくとも6軸センサであるセンサユニット2aを適宜位置に設置し、お互いにデータ通信線で、データ通信を行うように構成されている。GPS40は、演算ユニット1に対して外部シリアル入力として位置情報信号を提供している。
【0036】
演算ユニット1は、
図2に示すように、内部に情報記憶回路3と予備電源4とを収容しており、それらを耐衝撃・耐火性を備えた筐体5で囲っている。筐体5には、電源供給口6、ヒューズ接続口7、制御用及びデータ用の各種信号の入出力端子8が設けられている。演算ユニット1の外部には、
図1に示したように、センサユニット2a,2bが設けられている。筐体5に関して、耐衝撃性の例としては、例えば、電子基板等を振動吸収用樹脂で包んで保護するものが挙げられる。また、耐火性の例としては2枚の鉄板とその間に挟んだコンクリート層とから成るケースが挙げられる。
【0037】
センサユニット2a,2bは、それぞれ同じ構成から成るセンサユニットであって、後述するように、直交する3軸方向の加速度を測定する加速度計と直交する3軸回りの角速度(ロール、ヨー、ピッチ)を検出する3軸ジャイロを具備した6軸センサであり、ボックス化されて演算ユニット1に接続されている。情報記憶回路3は、振動、挙動等の測定結果を残し、後々の解析毎に用いる回路であり、センサユニット2a,2bの測定値を車両の挙動として記録する記録媒体を備えている。記録媒体は、フラッシュメモリや耐衝撃性の高いハードディスク等の必要な容量を備えている耐衝撃性のあるもの、更には記録速度が速い半導体メモリ(或いは、それが実装された基板)が好ましい。予備電源4は、外部電源から電源供給口6を通じて供給される電源が事故によって遮断された場合に自動的に切り替わる内部充電池として設けられている。
【0038】
演算ユニット1は、内部にマイクロプロセッサーとして演算手段を備えており、演算手段においては異常の程度を3段階(LEVEL1〜LEVEL3)に区切る閾値が予め設定されている。異常の程度がそれぞれの閾値等を超えた場合に、後述する警報ユニット10に警報出力指示すると同時に、事故発生時又は異常挙動発生時前後の車両挙動データを警報ユニット10の記憶媒体に記録するよう指示を行う。
【0039】
センサユニット2a,2bから脱線、転覆、衝突等の大事故(異常程度がLEVEL1)のセンサ出力を検知した場合、車両に設置されている演算ユニット1はトレインレコーダーの機能を有する。演算ユニット1は耐衝撃・耐火性の筐体5を備えており、筐体5は、車両が大破、炎上した場合、若しくは水没した場合でも、記録媒体に記憶されているデータを保護し、事故発生時のデータ消失や取出し不可を回避することができる。また、これらの異常によって電源が遮断された場合は、自動的に内部の予備電源4に切り替わり、LEVEL1等の大事故時にもデータが記録できるようにしている。
【0040】
図3に示す警報ユニット10は、電源が投入されている場合に点灯する電源LED11、異常の程度に応じて点灯LEDがLEVEL1からLEVEL3の間でシフトする警報LED12、警報の内容及び程度について音声、ブザーなどで報知可能にするスピーカ13、警報LED12やスピーカ13の警報動作をリセットするリセットボタン14、記録媒体18が挿入可能な記録媒体入力端子15、及び記録媒体入力端子15に挿入された記録媒体18の動作状態を示すメモリLED16を備えている。スピーカ13を駆動するため、AMP(増幅器)が備わっている(
図5、
図5a参照)。また、ここでの記録媒体18としてはカード状の媒体、例えばフラッシュメモリが挙げられる。演算ユニット1は車両に据置きであるので、記録媒体入力端子15に挿入された記録媒体にデータを吸い上げ、持ち帰って別の場所で解析することができる。
【0041】
警報ユニット10においては、センサユニット2a,2bの測定値に基づいて演算ユニット1が得た演算結果が各LEVEL別に設定した閾値等を超えた場合、各レベル別に設置した警報LED12を点滅させるとともに、スピーカ13にて警報音を鳴らすことにより、事故又は異常挙動を運転手等の乗務員に知らせる。LEVEL1発生の警報時に限り、運転手等が予め決められた時間内に、例えば10秒以内にリセットボタン14を押すことで警報を解除することが可能である。
【0042】
図1に6軸センサとして示したセンサユニット2a,2bは、演算ユニット1近傍に2個設置される。センサユニット2a,2bが測定したセンサ情報は、有線(CANデータ通信ケーブル)を経て演算ユニット1に出力される。
【0043】
図4に、本発明による鉄道車両用異常診断システムを乗務員室(先頭車両の運転室又は最後尾車両の車掌室)に設置した一例を示す。
図1に示した演算ユニット1は、運転室20の床構造23上に適宜、据え付けられている。演算ユニット1には、列車AC100V電源から電源供給されている。
図3に示した警報ユニット10は、乗務員が警報LED12の点灯を確認し易く、またスピーカ13からの警報音を聞き易く、更にはリセットボタン14を押し易いように、運転室側壁21に取り付けられている。センサユニット2a及び2bは、一例として、運転席下部と運転室収納部22内に設置されているが、設置場所はこれに限る必要はない。センサユニット2a及び2bの測定値出力は、演算ユニット1に有線(CANデータ通信ケーブル)にて入力される。演算ユニット1による演算結果は警報ユニット10又は防護無線機24に出力される。
【0044】
図5に、本発明による鉄道車両用異常診断システムが先頭車(最後尾車)に設置されるときのシステム構成をブロック図として示す。演算ユニット1は、演算手段及び判定手段を含み、また外部との入出力をコントロールするものとしてのマイクロプロセッサーユニット(MPU)30を備えている。MPU30には、センサユニット2a及び2bがA/D変換器31を介して接続されている。MPU30には、電源供給口6を介して外部電源に接続される外部電源部32、防護無線リレー出力部33、速発信号入力部35、演算ユニット通信部36、内蔵バッテリーとしての予備電源4及び情報記憶回路3を備えている。速発信号入力部35は、車輪速度(列車速度Z)データを取り込む入力部であり、取り込んだデータは衝突、脱線が生じた場合の速度が大きく変化することによるダブルチェックに供される。演算ユニット通信部36は先頭車両と最後尾車両同士のデータ通信を行う機能を備える。また、GPS信号入力部37は、例えば、GPSのデータの入力に供され、GPSデータにより列車位置を高精度に特定することができる。演算ユニット1に対しては、A/D変換器31を介して、センサユニット2a及び2bが接続されており、更に警報ユニット10が接続されている。
【0045】
図4及び
図5に示した鉄道車両用異常診断システムにおいては、直交3軸の加速度及び直交3軸回りの角速度について、事故等の異常の程度に応じて複数の閾値がMPU30に組み込まれて設定されている。異常の程度が複数の閾値のいずれかを超えることに応じて、超えた当該閾値に応じた警報を警報ユニット10で発生させる。したがって、通常走行時には大事故に繋がる恐れのある情報を事前(直前)に運転手等の乗務員に知らせることで、大事故事態を未然に防止することができる。また、異常挙動レベルを分割し、大事故を起こしそうなレベルや、いつもと違う振動レベル、軌道管理レベル等、乗務員に明確な定量的な情報を、レベルに応じて種類や音量で区別した警報音、或いはレベルに応じた点灯数や色で区別されたランプの点灯で、乗務員に知らせることができる。
【0046】
2個のセンサユニット2a,2bの測定値出力が演算ユニット1に入力され、MPU30は、これらのセンサユニット2a,2bの測定値に基づいて車両挙動を演算する。この演算の際、MPU30は、センサユニット2a,2bの測定値に基づく演算結果について更にAND論理演算を行うので、センサユニット2a,2bが共に一定時間、「異常」と判定した場合にのみ装置として異常と判定する。即ち、各軸についての同じ測定項目について、両方の測定値が同時に且つ一定時間、閾値を超えないと、それに対応したレベルの事故があったとは判定しない。このように、仮に、一方のセンサユニットのみが異常判定に相当する測定値を出力するなどの誤作動をした場合であっても、装置として事故があったとは判定しないので、警報時の信頼性向上が得られる。
【0047】
図5aは、本発明による鉄道車両用異常診断システムを先頭車両及び最後尾車両のみならず各中間車両にも適用したときのシステム構成を概略的に示す図である。先頭車両と最後尾車両とに適用されるシステムについては、
図5と
図5aとで表示に若干の差異があるが、基本的には同等のものである。同等の要素には同じ符号を付すことで再度の説明を省略する。また、各中間車両には、6軸センサ50、フィルタ(アナログフィルタ回路6ch)51及びA/D(アナログーデジタル)変換回路52及びMPU53がそれぞれ接続されて成るセンサユニット2(
図5に示すセンサユニット2a,2bと同等)が備わっており、また、各中間車両における当該MPU53が、先頭車両と最後尾車両との間でデータ通信線によって接続されている。MPU53は、6軸センサ50が測定した測定値に基づいて、異常を演算・診断をする。
【0048】
図6に、本発明による鉄道車両用異常診断システムのシステム構成を乗務員室(先頭車両の運転室と最後尾車両の車掌室)に設置し、両システムをデータ通信で接続した例を示す。即ち、
図5に示した演算ユニット1、センサユニット2a及び2b、警報ユニット10から成る異常判定装置のシステム構成が、先頭車両25の運転室20と最後尾車両26の車掌室20とにそれぞれ設置されており、両システム構成は演算ユニット1,1間でデータ通信線39によって互いに接続されている。データ通信線39は列車編成の各車両の床構造23の下側に沿って配線されており、演算ユニット1の入出力端子8(
図2)に接続されている。中間車両27には、センサユニット2が各MPU53に接続されて配設されている。各MPU53はデータ通信線39を通じて、先頭車両25の運転室20と最後尾車両26の車掌室20とに設けられている演算ユニット1に接続されている。
【0049】
図7には、
図6で示した接続例のブロック図が示されている。なお、ここでは、先頭車両25の運転室20と最後尾車両26の車掌室20とに設置される各システム構成において、演算ユニット1には、警報ユニット10と並列に防護無線装置24が接続されているものとして示されている。
図6及び
図7に示すように、挙動記録と異常判定を行う各ユニットを含むシステム構成を少なくとも、車両編成の先頭車両25及び最後尾車両26にそれぞれ1台、合計で2台を設置してデータ通信線39を介して互いにデータ通信を行わせることで、各情報記憶回路3(
図2)には互いの車両の異常時の挙動をバックアップとして記録することができる。これらのシステム構成を先頭車両25及び最後尾車両26の各乗務員室20に配置することで、先頭車両25、最後尾車両26の何れかの装置が大事故等で大破した場合には、何れかの装置が通信異常を検知するため、自動的に防護無線を発報でき、確実に列車事故の二次被害を防止できる。また、仮に、先頭車両25と最後尾車両26のいずれか一方が事故で大破するなどした場合にも、他方の車両が同時にダウンすることは極めて稀であるため、機能が維持された方のシステムではデータの消失が回避されデータの読み出しが可能であるなど、データを保護することができる。
【0050】
本発明における鉄道車両用異常診断システムにおける先頭車両25と後方車両26に設置されている演算ユニット1,1間の通信方法の説明を以下に示す。
列車1編成における先頭車両25と後方車両26の運転室(車掌室)20にそれぞれ設置された演算ユニット1,1同士は、一定時間毎に演算ユニット1,1の正常確認通信を行う。この正常確認通信において、LEVEL1等の大事故で何れかの車両が破損し、演算ユニット1自体の破損又はデータ通信線39の断線を、何れかの車両25,26の演算ユニット1,1が認識した場合、LEVEL1の警報を例えば運転手に発報させることができる。このように、常に1編成において先頭車両25と後方車両26との間で、演算ユニット1,1同士が通信を行っているので、例えば、大事故で先頭車両25の運転手が防護無線装置24で発報することができない状況であっても、後方車両26の演算ユニット1から自動的に防護無線が発報できる仕組みになっている。
【0051】
MPU30は、センサユニット2a及び2bから有線等で送信される加速度測定値及び角速度測定値の測定値データを用いて、車両異常を含む車両挙動を演算し、車両の挙動に基づいて、車両の脱線、転覆、衝突、その他の車両異常を判定する。MPU30においては、センサユニット2a及び2bからの測定値データがAND論理で処理されるので、センサユニット2a,2bからの測定値が共に設定閾値以上の値であることが一定時間継続していると判断されるときに、真に異常状態が生じたものとの判定がなされる。MPU30は、片方のセンサユニット2a又は2bの誤作動により誤った測定値が出力されても、その測定に基づいて直ちに異常判定に用いることがない。両方のセンサユニット2a,2bが同時に誤作動をすることは極めて稀であるので、事実上、異常判定において片方のセンサユニット2a又は2bのみの測定結果に基づく誤作動を排除することができる。
【0052】
警報ユニット10においてリセットボタン14を押すことで警報の解除を行った上で、運転手等の乗務員は、状況を確認して防護無線装置24から防護無線を発報することができる。また、乗務員が負傷して、一定時間内にリセットボタン14を押せない場合には、防護無線装置24において、自動的に防護無線を発報するように設定することができる(
図5において、運転士がボタン操作することによる防護無線リレー出力部33を介することなく、MPU30が防護無線24を直接に制御して、防護無線24を自動的に発報する)。このことにより外乱等のセンサ誤動作による、防護無線の誤発報が無くなる。本体で各LEVEL別に設定した閾値等を超えた場合、演算ユニット1及びセンサユニット2a及び2bより出力された車両挙動情報を記録媒体装置3(
図2)に記録する。情報記憶回路(半導体メモリ)3はモニタリング処理した、LEVEL1〜3の全ての挙動を記録し、記録媒体18(フラッシュメモリ)はLEVEL2、3の挙動を記録する。
【0053】
図8に本発明における鉄道用異常検知・処理システムの作動フローの一例を示す。
まず、3段階(LEVEL1〜LEVEL3)に設定した閾値について説明する。3軸回りの角速度より、車両の正常運行状況;台車等の故障による異常振動、異常挙動;脱線、衝突等による衝撃振動、異常挙動で発生が予想される各加速度値及び角速度値を、予め演算ユニット1に閾値として記憶させておき、その閾値を超えた時に下記の動作を行う。 LEVEL1:脱線、衝突、転覆等、大事故
→ 自動的に防護無線を発報する。車両の挙動データを情報記憶回路3と 記録媒体18の両方に記録する。
LEVEL2:大事故に繋がる恐れのある異常な車両挙動
→ 運転手に危険な予兆発生を知らせる。車両の挙動データを記録媒体1 8に記録する。
LEVEL3::いつもとなんとなく違う振動や挙動、軌道管理基準
→ 運転手に状況を知らせる。車両の挙動データを記録媒体18に記録す る。
【0054】
車両の電源ONに連動して演算ユニット1の電源がONとなる(ステップ1;「S1」と略す。以下同じ)。初期システムチェックを行い、「異常無し」か否かを判定する(S2)。S2の判定において、異常有りの判定の場合には警報LED12において全LEDを点灯して異常報知処理をする(S18)。S2において初期システムチェック異常無しの場合には、モニタリング処理(S3)に移行する。
【0055】
モニタリング処理(S3)を行い、データ収集部へ走行データを記録(S4)後、センサユニット2aとセンサユニット2bの出力比較で単位時間当たり問題無いか否かを判定する(S5)。S5の判定において、出力比較で問題有りと判定されるときにはS18へ移行する。S5の判定において、出力比較で「問題無し」と判定される場合には、加速度及び角速度がLEVEL1の閾値を超えたか否かが判定される(S10)。S10の判定でLEVEL1の閾値を超えていないと判定された場合には、後述するようにLEVEL2の閾値を超えたか否かのフローに移行する。
【0056】
S10の判定でLEVEL1の閾値を超えていると判定される場合には、警報ブザー(レベル1)及び音声を鳴らし続け、警報LED1の赤LEDを点灯する(S11)。この警報状態が10秒以上続き、10秒以内にリセットボタン14が押されないか否かを判定する(S12)。S12において、10秒以内にリセットボタン14が押された場合(乗務員は当該押す操作可能であるので、その後、防護無線の発報が可能であると考えられる)には、警報ブザー(レベル1)及び音声を停止し、警報LED1の赤LEDを消灯し(S131)、更に警報部10の記録媒体18に前後20秒間の挙動データを保存する(S14)。S12において、10秒以内にリセットボタン14が押されない場合には、防護無線を自動発報して列車無線処理をし(S15)、演算ユニット1内の情報記憶回路3に前後20秒の挙動データを保存し(S16)、更に警報部10の記録媒体18に前後20秒の挙動データを保存する(S17)。
【0057】
このように、車両異常が生じたとの判定に応じて、警報ユニット10は、警報ブザーと警報LEDとによって乗務員に警報を発する。鉄道車両の大事故時に、運転手や車掌のような乗務員が意識喪失、動転若しくは大怪我等によって防護無線が発報されない状況にあるときには、一定時間(10秒)内に警報ユニット10の警報が乗務員によって解除されないことがあるが、この場合には、当該一定時間が経過すると、演算ユニット1は防護無線手段24が自動的に防護無線を発報するように対応を取る。したがって、防護無線が自動的に発報され、列車事故の二次被害の防止を図ることができる。なお、防護無線が発報されるレベルの警報が発生している間でも、一定時間内であれば乗務員がこれを解除することができるので、センサの誤動作等に起因して防護無線が自動的に発報されるのを防ぐことができる。
【0058】
S10の判定で加速度及び角速度がLEVEL1の閾値を超えていないと判定された場合には、加速度及び角速度がLEVEL2の閾値を超えたか否かが判定される(S20)。S20の判定で加速度及び角速度がLEVEL2の閾値を超えていないと判定された場合には、後述するように加速度及び角速度がLEVEL3の閾値を超えたか否かのフローに移行する。S20の判定でLEVEL2の閾値を超えていると判定される場合には、警報ブザー2及び音声を鳴らし続け、警報LED1の黄LEDを10秒間点滅させ、警報ブザーを5秒間鳴らす(S21)。その後自動的に、警報LED1の黄LEDを消灯及びブザーを停止し(S22)、更に警報部10の記録媒体18に前後20秒間の挙動データを保存する(S23)。
【0059】
S20の判定で加速度及び角速度がLEVEL2の閾値を超えていないと判定された場合には、加速度及び角速度がLEVEL3の閾値を超えたか否かが判定される(S30)。S30の判定で加速度及び角速度がLEVEL3の閾値を超えていないと判定された場合には、S4に戻る。S30の判定で加速度及び角速度がLEVEL3の閾値を超えていると判定される場合には、警報ブザー(レベル3)を5秒鳴らし、警報LED10の青LEDを10秒点滅する(S31)。その後、警報ブザー(レベル3)は自動的に停止し、警報LED10の青LEDは自動的に消灯し(S32)、更に警報部10の記録媒体18に前後10秒間の挙動データを保存する(S33)。
【0060】
また、前述の閾値判定とは別に、3軸回りの加速度と3軸回りの角速度が3段階(LEVEL1〜LEVEL3)に設定した各閾値を超えなくても、累積頻度に応じて、閾値に応じた警報を発生することができる。即ち、各軸の測定項目について、各測定値が設定されている複数の閾値のいずれを超えなくても、例えば、いつもと違う振動レベルが何度も続いた場合などには、累積頻度をカウントすることで、車両に異常が発生していると判断し、レベルは小さくとも大事故の繋がる恐れのあるレベルと判断することとしている。例えば、LEVEL3に達しない加速度及び角速度でも、加速度及び角速度の累積が予め設定した累積閾値を超えればLEVEL3の警報を発生することができる。また、LEVEL3を超えLEVEL2に達しない加速度及び角速度でも、加速度及び角速度の累積が予め設定した累積閾値を超えればLEVEL2の警報を発生させることができる。また、LEVEL2を超えLEVEL1に達しない加速度及び角速度でも、加速度及び角速度の累積が予め設定した累積閾値を超えればLEVEL1の警報を発生することができる。こうした、累積頻度による対応によって、より精度の高い判断が可能となる。
【0061】
また、LEVEL1に達成しない加速度及び角速度でも、非常に速い期間で累積閾値を超えた場合はLEVEL1の警報を、LEVEL3を超えLEVEL2に達しない加速度及び角速度でも、非常に速い期間で累積閾値を超えた場合はLEVEL2の警報を発生させる。この累積頻度による判定の方法は、危険予知の考え方で有名であるハインリッヒの法則を参考にしたものでLEVEL3の小さな危険要因も数が増えると大きな危険に繋がることを想定した判定方法である。例えば、LEVEL1で一発閾値が「10」である場合、短い時間でレベル「5」の信号が10回あれば、累積閾値(所定時間内での「5」のレベルとその回数)に基づいて、LEVEL1に達する状況があったと評価する。
【0062】
以上、説明した鉄道車両用異常診断システムは、ジャイロ機構を備えた6軸センサを含み且つ加速度を検出可能なセンサユニットが用いられているが、脱線等の大事故を起こしていない鉄道車両については通常の軌道走行が可能であるので、こうした通常運行されているときのセンサユニットの出力を取り出して解析することで、乗り心地(例えば、車両のバネの異常に起因する場合や軌道の損傷に起因する場合)や、車両の異常(例えば、車輪フラットや車軸・軸受の異常)を検出することもできる。即ち、重大事故時に生じる脱線、転覆、衝突のような重大異常を検出する本来の機能とともに、定期点検で行うような車両の異常検出や乗り心地検査も可能にした新規な鉄道システムの異常検知・評価システムが提供される。先頭・最後尾車両25,26に加えて中間車両27にもセンサユニット2を設置することで、編成車両の先頭・最後尾車両25,26のみならず、中間車両27についても異常や乗り心地の検査を行うことができる。鉄道車両の振動特性の測定(項目・位置・方法)や解析(項目・方法)についてはJISに定めがあるが、そうしたJISに則ったすべての測定・解析を編成の各車両についても行うことができる。
【0063】
図9は、本発明による鉄道車両用異常診断システムを用いて鉄道車両を検査する検査方法の一例を示すブロック図である。
図9を参照して、車輪フラットや軸受の異常を検査する方法について説明する。本発明による鉄道車両用異常診断システムは、鉄道車両の脱線等の大事故の際に威力を発揮する装置であるが、通常の運転のときに出力される信号を鉄道車両の定期検査で対象となる項目の検査にも用いることができる。センサユニット2に含まれる6軸センサ50が検出し出力する上下加速度が、フィルタ51による処理の後、A/D変換器52でデジタル信号としてMPU53に入力される。一方、鉄道車両の車輪に取り付けられた車速センサが出力する速発信号41、即ち、車輪の回転速度をパルス信号に変換したものがMPU53に入力される。このパルス信号はMPU53により速度に換算される。6軸センサ50からの上下加速度信号は、先願のLEVEL1〜3の判定とは別に、且つ同時に、車輪の速発信号41と共にMPU53により処理され、回転次数比分析が行われる。回転次数比分析は、低回転から高回転までの幅広い回転速度範囲で運転される回転機において回転を分析するのに用いられる手法であり、例えば、車輪フラットが一カ所発生すると、車輪の径が965mmの場合、速度100km/hで約9Hzの1次成分が現れる。このように、車両の検査必要時に、
図1に示したように、データ解析用のPCと接続して、MPU53から回転次数比のデータを転送し、記録・解析を行う。その他の情報として、車両(センサ箇所)情報により、どの車両にフラットが発生したか、また二次成分の発生の場合、車輪フラットの数などが推定できる。軸受損傷の場合には、高い周波数の成分が発生するので、軸受けの損傷が推定できる。
【0064】
次に、鉄道車両の乗り心地評価について説明する。
図10は、この発明による鉄道車両の乗り心地評価を行うブロック図である。
図1に示すシステムの各車両に搭載された6軸センサ50からの検出信号(前後、左右、上下の加速度、ローリング、ピッチング、ヨーイングの角速度)と、車輪に取り付けられた速発信号41とはMPU53に入力され、MPU53は、上記LEVEL1〜3の判定とは別であるが、この判定と同時にFFT解析やヒストグラム解析、データのグラフ化等の各種データ処理を行う。
【0065】
次に、各種データ処理の例について説明する。
図11は鉄道車両の走行速度と振動加速度の例を示すグラフであり、当該グラフによって振動加速度の走行速度に対する依存度が把握される。
図12は鉄道車両の走行速度と周波数及び振動加速度の例を示すグラフであり、振動波形中、速度毎に大きな振動を選んで振動加速度の最大振幅及び周波数分析による周波数で整理して描いたものである。振動加速度の振幅の大きさが円の大きさで表わされており、周波数の走行速度に対する依存性が把握される。
図13は鉄道車両の周波数と振動加速度の例を示すグラフであり、周波数分析を行うと共に、振動加速度の大きさ別に発生頻度をヒストグラム分析しカウントした結果を示している。
図14は鉄道車両の振動加速度のスペクトル解析の例を示すグラフであり、振動加速度をFFT(高速フーリエ変換)解析し、どの周波数成分が顕著であるかを把握する。
図15は鉄道車両の走行速度と左右定常加速度との関連の例を示すグラフである。
図16は鉄道車両の走行速度とロール角速度の例を示すグラフである。振動加速度は前後、左右、上下について、角速度については、ローリング、ピッチング、ヨーイングについての組合せで各種データ処理ができる。
【0066】
これらのデータを
図1に示したように、データ解析用のPCと接続して、MPU53から各種データを転送し、解析を行う。
図11〜
図16に示したグラフは、JISE4023(鉄道車両の振動特性−測定方法)で規定された、車両の乗り心地評価で良く用いられる鉄道車両の振動特性測定方法であり、本発明による異常判定装置で評価できるものである。これ以外にも、各社で規定した評価も可能である。
【0067】
次に、鉄道車両が走行する軌道の摩耗、損傷、変形を検知する方法について説明する。
図17はこの軌道検査方法のブロック図である。
図1のシステムの各車両に搭載された6軸センサ50の上下及び左右加速度センサの信号、車輪に取り付けられた速発信号41、及びGPSによる位置信号40はMPU53に入力され、MPU53において、先願のLEVEL1〜3の判定とは別であるが、当該判定と同時に振動レベルと位置との解析が行われる。軌道に摩耗や、損傷、変形が生じた場合、鉄道車両の上下及び左右振動が大きくなることが一般的に知られている。
図17に示すシステムは、車輪の回転速度を表すデータである速発信号41と、少なくとも軌道に対して上下及び左右の振動加速度を表すデータを発生する6軸センサ50と、6軸センサ50からの上下及び左右振動加速度データ、速発信号41及びGPS信号40のデータを受け取るMPU53とを備えており、MPU53は、受け取った上下及び左右加速度レベルデータ及び軌道位置データに基づいて、軌道の一部分に関連する摩耗、損傷、変形状態を検出すると、摩耗、損傷、欠陥が生じた場所を決定するように処理を行い、これらのデータを
図1に示したように、データ解析用のPCと接続して、MPUから各種データを転送し、軌道の摩耗、損傷、変形場所を特定する。
【0068】
以上、本発明の実施形態として異常判定装置について説明したが、演算ユニット1については、その記録媒体に着目すれば、鉄道車両の通常走行時の挙動記録装置としても捉えることができることは、明らかである。