【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ポリビニルブチラールからなるユニット及びポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットを有するブロック共重合体を含有する無機質焼結体製造用バインダーである。
以下、本発明を詳述する。
【0012】
本発明の無機質焼結体製造用バインダーは、ポリビニルブチラールからなるユニット及びポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットを有するブロック共重合体を含有する。
本発明において、「ポリビニルブチラールからなるユニット」及び「ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニット」とは、通常使用される「ポリビニルブチラール」、「ポリ(メタ)アクリル酸類」がブロック化した状態で主鎖に存在することをいう。
即ち、ポリビニルブチラールからなるユニット及びポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットを有するブロック共重合体は、共重合体中にポリビニルブチラールからなるユニットとポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットが主鎖の結合によって連結された構造を有するものである。
【0013】
上記ポリビニルブチラールからなるユニット及びポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットを有するブロック共重合体は、ブロック共重合体であることで、グラフト共重合体と比較して、セラミックグリーンシート用のバインダーとして使用した場合に、高いシート強度を有するグリーンシートを得ることができ、また、均一な薄膜シートを得ることができる。これは、ブロック共重合体とすることによってバインダー樹脂中に含まれるポリビニルブチラール構造を有する部分とポリ(メタ)アクリル酸類構造を有する部分がマクロ的に相分離せず、均質にバインダー中に存在することができるためである。また、ブロック共重合体であることで、グラフト共重合体と比較してポリマーの主鎖長が長くなる傾向があり、シートにして引っ張り等の応力を加えた際にバインダーの分子が応力方向に対して配向することによって高い強度が発現するものと考えられる。
上記ブロック共重合体としての構造は特に限定されず、ジブロック構造、トリブロック構造、マルチブロック構造等が挙げられる。
【0014】
上記ブロック共重合体の分子量としては特に制限は無いが、数平均分子量(Mn)が10,000〜400,000で、重量平均分子量(Mw)が20,000〜800,000で、これらの比(Mw/Mn)が2.0〜40であることが好ましい。Mn、Mw、Mw/Mnがこのような範囲であると、上記ブロック共重合体をセラミックグリーンシートのバインダーとして使用した際に、シート強度が高くなる。また、スラリー粘度が高くなりすぎず、更に、無機粉末の分散性が良好となるので均一なセラミックグリーンシートを形成することができるため好ましい。
【0015】
上記ポリビニルブチラールからなるユニット(以下、ポリビニルブチラールユニットともいう)は、ポリビニルブチラールに通常含まれる酢酸ビニル単位と、ビニルアルコール単位と、ビニルブチラール単位とを有する。
【0016】
上記ポリビニルブチラールユニットにおけるビニルブチラール単位の含有量(ブチラール化度)は特に限定されないが、セラミックグリーンシートの原料として用いる場合のスラリー調整時の溶剤溶解性を考慮すると、40モル%以上であることが好ましい。
【0017】
上記ポリビニルブチラールユニットにおける酢酸ビニル単位の含有量(アセチル基量)は特に限定されないが、セラミックグリーンシートの原料として用いる場合のシート強度を考慮すると、30モル%以下であることが好ましい。
【0018】
上記ポリビニルブチラールユニットの重合度は、特に限定されるものではないが、一般に、200〜4000のものが好適に用いられる。上記ポリビニルブチラールユニットの重合度が200未満であると、得られるセラミックグリーンシートのシート強度が弱くなり、4000を超えると、スラリーとした際の粘度が高くなり、支持体へ塗布する際の塗布ムラの原因となることがある。
【0019】
上記ブロック共重合体中に含まれるポリビニルブチラールユニットの含有量は、用途に応じて設計されるため、特に限定されないが、上記ブロック共重合体全体に対して、10〜80重量%が好ましい。
【0020】
上記ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニット(以下、ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットともいう)は、単量体である(メタ)アクリル酸類を重合することによって得られる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸類」とは、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリル酸からなる群より選択される少なくとも1種をいう。
【0021】
上記(メタ)アクリル酸類のうち、(メタ)アクリル酸エステルとしては特に限定されないが、特に限定されないが、単官能(メタ)アクリル酸アルキルエステル、単官能(メタ)アクリル酸環状アルキルエステル及び単官能(メタ)アクリル酸アリールエステルからなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
これにより、セラミックグリーンシート用のバインダーとして用いた場合、焼成時における分解性が高くなり、残留炭化物が少ないバインダーを得ることができる。また、スラリーとした際に適度な粘度とすることができる。
【0022】
上記単官能(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソテトラデシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
上記単官能(メタ)アクリル酸環状アルキルエステルとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
上記単官能(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸エステルは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本明細書において、上記(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸を総称するものであり、上記(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートを総称するものとする。
【0023】
上記(メタ)アクリル酸エステルのなかでは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート及び2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1つを含有することが好ましい。
なかでも、焼成時における分解性が特に高く、残留炭化物が非常に少ないバインダーが得られることから、メタクリル酸エステルが好適であり、さらに、メチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート及びn−ブチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1種を構成単位として含むことが特に好適である。
なお、上記(メタ)アクリル酸エステルとして、(メタ)アクリル酸エステルのみからなる重合体のガラス転移温度を室温以下となるように、(メタ)アクリル酸エステルの種類及び配合量等を設定することで、可塑剤を添加しない場合においても適度なシート強度を得ることができる。
【0024】
上記ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットを構成する(メタ)アクリル酸類は、メタクリル酸類を80重量%以上含有することが好ましく、90重量%以上含有することがより好ましく、95重量%以上含有することがさらに好ましい。これにより、本ブロック共重合体をセラミックグリーンシート用のバインダーとして用いた場合に、焼成時における分解性が高く、残留炭化物が少ないセラミックグリーンシートを得ることができる。
【0025】
上記(メタ)アクリル酸類は、分子内にカルボキシル基、水酸基、アミド基、アミノ基及びエポキシ基、エーテル基からなる群から選択される少なくとも1つの極性基を有するものを含有することが好ましい。
具体的には例えば、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、グリシジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール鎖をエステル側鎖に有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0026】
上記ブロック共重合体中に含まれるポリ(メタ)アクリル酸類ユニットの含有量は、用途に応じて設計されるため、特に限定されないが、上記ブロック共重合体全体に対して、20〜90重量%が好ましい。
【0027】
上記ブロック共重合体中に含まれるポリビニルブチラールユニットとポリ(メタ)アクリル酸類ユニットとの比率は、用途に応じて設計されるため、特に限定されないが、ポリビニルブチラールユニット100重量部に対し、ポリ(メタ)アクリル酸類ユニット25〜900重量部が好ましい。上記範囲内とすることで、セラミックグリーンシート用のバインダーとして用いた場合に、焼成時のバインダーの熱分解性と、シート強度とを両立することができる。
【0028】
上記ブロック共重合体は、更に、他のモノマーからなるユニットを有していてもよい。
上記ブロック共重合体が上記他のモノマーからなるユニットを有することにより、得られるブロック共重合体の分子間相互作用が増大し、該ブロック共重合体をバインダーに用いることによって、シート強度が高いセラミックグリーンシートを形成することができる。更に、上記他のモノマーが極性基を有する場合には、該極性基と無機粉末の表面とが水素結合等の相互作用を起こすことにより、得られるスラリーの無機粉末の分散性を向上させ、分散剤を配合しない場合においても均一なセラミックグリーンシートを形成することができる。
【0029】
上記他のモノマーは特に限定されないが、分子内にカルボキシル基、水酸基、アミド基、アミノ基及びエポキシ基、エーテル基からなる群から選択される少なくとも1つの極性基と1つのオレフィン性二重結合とを有するモノマーが好ましい。このようなモノマーとしては、例えば、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、アリルアルコール、ビニルエーテル、アリルアミン等が挙げられる。これらの他のモノマーのなかでも、得られるブロック共重合体を含有するバインダーを用いてセラミックグリーンシートを作製した場合、より高いシート強度が得られることから、分子内にカルボキシル基を有するモノマー、分子内に水酸基を有するモノマーがより好ましい。
【0030】
上記ブロック共重合体中に含まれる他のモノマーからなるユニットの含有量は、用途に応じて設計されるため、特に限定されないが、上記ブロック共重合体全体に対して、20重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましい。
【0031】
上記ブロック共重合体を製造する方法としては特に限定されず、例えば、酢酸ビニルと(メタ)アクリル酸類をリビング重合法により重合し、ポリ酢酸ビニルとポリ(メタ)アクリル酸類のブロック共重合体を得た後、ポリ酢酸ビニル部位を鹸化してポリビニルアルコールユニットに変換し、さらにブチルアルデヒドを用いてポリビニルアルコールユニットをブチラール化して製造する方法、末端に反応性基を有するポリビニルアルコールをあらかじめ作製し、反応性末端基から(メタ)アクリル酸類を重合した後にポリビニルアルコールユニットをブチラール化して製造する方法、末端に反応性基を有するポリビニルブチラールを作製し、反応性末端基から(メタ)アクリル酸類を重合しブロック共重合体を得る方法等が挙げられる。
これらのなかでも、末端に反応性基を有するポリビニルブチラールを用いて(メタ)アクリル酸類を重合する方法が、得られるブロック共重合体のポリビニルブチラールユニットのブチラール化度やアセチル基量を制御しやすく、また、分子間での組成のばらつきが少なくなるために好適に用いることができる。
【0032】
上記末端に反応性基を有するポリビニルブチラールと(メタ)アクリル酸類の反応としては、例えば、末端にメルカプト基を有するポリビニルブチラールとラジカル開始剤を(メタ)アクリル酸類単量体が存在する環境において反応させることで行うことができる。本反応では、ラジカル開始剤等により発生したラジカルによりメルカプト基の水素原子が引き抜かれてポリマー末端にラジカルが発生し、そこから(メタ)アクリル酸類の重合が進行することで上記ブロック共重合体を得ることができる。
上記末端にメルカプト基を有するポリビニルブチラールと(メタ)アクリル酸類単量体との重合方法は特に限定されず、例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等の従来公知の重合方法が挙げられる。上記溶液重合に用いる溶媒は特に限定されず、例えば、酢酸エチル、トルエン、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、アセトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0033】
上記ラジカル開始剤は特に限定されず、例えば、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、ラウロイルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート等の有機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。
これらのラジカル開始剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
また、末端にメルカプト基を有するポリビニルブチラールは、チオール酢酸等のチオール酸存在下で酢酸ビニルを重合したポリ酢酸ビニルをアルカリを用いて常法により鹸化し、さらに、得られたポリビニルアルコールをブチルアルデヒドを用いて酸触媒存在下でブチラール化することで得ることができる。
上記チオール酸の存在下での酢酸ビニルの重合は、ラジカル重合開始剤の存在下、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などいずれの方法でも行うことができるが、メタノールを用いた溶液重合法が好適に用いられる。また、ラジカル重合開始剤としては、例えばt−ヘキシルパーオキシピバレート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、などの重合開始剤が使用できるが、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系開始剤が好適に用いられる。
【0035】
また、ブロック共重合体を得る別の方法としては、例えば、ポリビニルブチラールと4価のセリウムイオンを(メタ)アクリル酸類単量体が存在する環境において反応させることで行うことができる。本反応では、セリウムイオンによってポリビニルブチラール中に含まれる1,2−グリコール部位に相当する主鎖が切断され、主鎖末端にラジカルを持ったポリビニルブチラールが発生し、そこから(メタ)アクリル酸類の重合が進行することでブロック共重合体を得ることができる。
上記セリウムイオンを用いたポリビニルブチラールと(メタ)アクリル酸類単量体との重合方法は特に限定されず、例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等の従来公知の重合方法が挙げられる。
上記溶液重合に用いる溶媒は特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、水及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0036】
本発明の無機質焼結体製造用バインダーをセラミックグリーンシート成型用のバインダーとして用いることで、セラミックグリーンシートを作製することができる。
上記セラミックグリーンシートを作製する方法としては、特に限定されず、公知の成形方法によって成形される。例えば、本発明の無機質焼結体製造用バインダーに、必要に応じて可塑剤、分散剤、消泡剤等の添加物を配合し、有機溶媒とセラミック粉末と共にボールミル等の混合装置で均一に混合してスラリーを調製し、該スラリーをPETフィルム等の支持体上にドクターブレード法等の公知の方法により湿式塗布し、有機溶剤を乾燥除去する方法が挙げられる。その他に、上記スラリーをスプレードライヤー法等により顆粒状に造粒した後、該顆粒を乾式プレス法により成形する方法等も挙げられる。
【0037】
このように得られたセラミックグリーンシートは、必要に応じて打ち抜き加工等の各種加工が施され、各種セラミック製品の製造に用いられる。例えば、積層セラミックコンデンサを製造する場合には、支持体には離型処理を施したPETフィルムが用いられ、グリーンシート上に内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷等によって塗布した後に支持体であるPETフィルムから剥離し、これを複数枚積層して加熱プレスすることで積層体を作製し、次いで、過熱焼成することによってバインダー樹脂を熱分解して除去することで製造される。