【実施例】
【0026】
説明の都合で、
図6(a)、
図1の順で説明する。
図6(a)に示すように、本発明は、第1の板材11の下面に、この第1の板材11の端部11aよりも端部12aが突出するようにして第2の板材12を当て、第1の板材11の端部11aより第1の板材11の中央寄り位置にて、第1の板材11と第2の板材12が溶接ナゲット13で接合された合わせ板構造物10を施工対象とする。溶接ナゲット13が凝固するときに引っ張られるなどして、第1の板材11の端部11aと第2の板材12との間で隙間14が発生する。
【0027】
この隙間14へシーラを塗布するシーラ塗布装置20は、
図1に示すように、ロボット21と、このロボット21のアーム22に支持され合わせ板構造物10の上方に配置される距離計23と、この距離計23で得た距離の変化に基づいて第1の板材11の端面11bの向きを識別する端面向き識別部24と、第2の板材12までの距離から第1の板材11までの距離を差し引き、さらに第1の板材11の厚さ(
図6(a)、符号t)を減ずることで、第1の板材11の端部11aにおける隙間の大きさを演算する隙間演算部25と、端面向き識別部24で識別した第1の部材11の端面11bに所定の角度になるようにロボット21を制御しシーラガンを位置決めするガン位置決め部26と、ロボット21に支持されシーラを低圧とこの低圧より高い高圧に切換えて吐出することができる圧力切換え式シーラガン50と、隙間演算部25で求めた隙間の大きさが、所定値以下であれば、低圧を選択し、隙間の大きさが所定値を超えていれば、高圧を選択するように圧力切換え式シーラガン50の吐出圧を切換える指令を発する圧力切換指令部28とからなる。
【0028】
距離計23は、ガン移動機構30を介してロボット21に取付けられる。
ガン移動機構30は、ロボット21のアーム22に取付けられるブラケット31と、このブラケット31に水平維持機構33を介して支持されるフレーム32と、このフレーム32を水平に保つ水平維持機構33と、フレーム32に回転自在に支持され水平に延びるねじ軸34と、このねじ軸34を回すサーボモータ35と、ねじ軸34に水平移動可能に支持され距離計23を支えるナット36とからなる。
【0029】
サーボモータ35により、距離計23は、第1の板材11の端部11aから第2の板材12の上面までをこの順に、又は逆順に動かされる。
また、この例ではアーム22に圧力切換え式シーラガン50と距離計23とを設けた。圧力切換え式シーラガン50の傾斜角度にアーム22が傾けられても、水平維持機構33により距離計23は水平に移動する。
【0030】
なお、圧力切換え式シーラガン50及び距離計23は、ロボット21に代わる運搬機構や移動機構により移動させることは差し支えない。
【0031】
以下、構成要素を詳しく説明する。
図2(a)に示すように、距離計23は、レーザの発射光38を照射するレーザ発射部39と、発射光38を絞る投光レンズ41と、反射光42を絞る受光レンズ43と、反射光42の受光位置を特定する光位置検出素子44と、これらを一括して収納する距離計ケース45とからなる。
【0032】
図2(b)に示すように、発射光38は、レーザ発射部39から投光レンズ41を介して合わせ板構造物10に到達する。合わせ板構造物10は局部的に反っており、普通の反射式距離計では反射光が戻ってこない可能性がある。しかし、本例の距離計23であれば計測に支障がない。その理由を次に説明する。
【0033】
周知の通りに、鏡面以外の面(合わせ板構造物10の表面など)では光は乱反射される。
すなわち、
図2(c)に示すように、合わせ板構造物10の表面で乱反射光46が発生し、この乱反射光46の一部の反射光42が受光レンズ43に到達し、受光レンズ43で絞られて光位置検出素子44に到達する。なお、本発明では、無数の乱反射光46のうちで、受光レンズ43に向かう光のみを反射光42と呼ぶことにする。
【0034】
図3に示すように、光位置検出素子44は無数(便宜的に6個)の受光素子44a〜44fで構成される。
合わせ板構造物10が投光レンズ41に近いところにある場合には、発射光38が当たる点P1と、受光レンズ43の中心とを結ぶ線上を反射光42が進み、第5番素子44eに受光される。
【0035】
又は、合わせ板構造物10が投光レンズ41に遠いところにある場合には、発射光38が当たる点P2と、受光レンズ43の中心とを結ぶ線上を反射光42が進み、第2番素子44bに受光される。
レーザ発射部39、投光レンズ41、受光レンズ43及び光位置検出素子44は、相対位置が固定されていて、位置座標は既知である。そのため、受光素子44a〜44fの何れに受光されているかが定まれば、幾何学的に合わせ板構造物10までの距離が求められる。
以上に説明したように、乱反射光を利用するため、合わせ板構造物10が反っていても距離は正しく計測される。
【0036】
図4に示すように、圧力切換え式シーラガン50は、有底筒状のガンボディ51と、このガンボディ51に内蔵される弁座ブロック52と、この弁座ブロック52の通孔53を開閉するステム54と、ガンボディ51に内蔵されステム54を移動可能に支持するステムガイド55と、このステムガイド55と弁座ブロック52との間に形成されるシーラ室56と、このシーラ室56へ所定の圧力のシーラを供給するシーラ供給路57と、ガンボディ51に内蔵されステム54の基部に連結される第1ピストン58と、ステム54が弁座ブロック52に当たるように第1ピストン58を付勢する第1付勢部材59と、第1ピストン58とステムガイド55との間へ圧縮空気などの作動流体を供給する第1流体供給路61と、この第1流体供給路61に設けられる第1オンオフ弁62と、弁座ブロック52とガンボディ51の底51aとの間に設けられる管移動機構70と、弁座ブロック52から離れるようにして底51aから延ばされるシーラ吐出管63及び外管64と、シーラ吐出管63の先端に設けたヒータ65とからなる。
【0037】
管移動機構70は、ガンボディ51に移動自在に内蔵されシーラ吐出管63を支える第2ピストン71と、シーラ吐出管63が前進する方向へ第2ピストン71を付勢する第2付勢部材72と、第2ピストン71と底51aとの間に圧縮空気などの作動流体を送る第2流体供給路73と、この第2流体供給路73に設けられる第2オンオフ弁74とからなる。第2オンオフ弁74は圧力切換指令部28でオンオフ制御される。
【0038】
組立を容易にするために、ガンボディ51に、底51aに近づくほど径が段階的小さくなる多段穴76を設ける。そして、Oリング77を備える第2ピストン71を多段穴76に嵌め、第2付勢部材72を投入し、Oリング78を備える弁座ブロック52を多段穴76に嵌めて止め輪79で抜け止めを施し、Oリング81、82を備えるステムガイド55を多段穴76に嵌めて止め輪83で抜け止めを施し、次にOリング84を備える第1ピストン58を多段穴76に嵌め、第1付勢部材59を投入し、最後に、多段穴76をプラグナット85で塞ぐ構造が推奨される。しかし、圧力切換え式シーラガン50の構造は、適宜変更可能である。代表的な変更例は後述する。
【0039】
図4では、シーラ吐出管63と外管64の先端同士が揃っている。この状態で、第1オンオフ弁62を開くと、第1流体供給路61から作動流体がステムガイド55と第1ピストン58の間に供給される。第1ピストン58は第1付勢部材59に抗して後退(図では上昇)する。ステム54の先端が弁座ブロック52から離れる。シーラ室56内のシーラ86が通孔53を通り、シーラ吐出管63から高圧で吐出される。
【0040】
または、
図4の状態から、シーラ吐出管63のポジションを管移動機構70により移動させることができる。
先ず、第2オンオフ弁74を開く。すると、底51aと第2ピストン71の間に作動流体が供給され、第2ピストン71が第2付勢部材72に抗して後退(図では上昇)する。
【0041】
すると、
図5に示すように、シーラ吐出管63が外管64からδだけ、後退する。
この状態では、シーラ86が外管64を満たし、その後に外管64から吐出される。仮に、シーラ吐出管63の内断面積に対して、外管64の内断面積が2倍であれば、シーラ86の吐出速度が1/2になり、理論的には圧力は1/4になる。すなわち、外管64からシーラ86が低圧で吐出される。
【0042】
以上の構成からなるシーラ塗布装置の作用を次に説明する。
図6(a)に示すように、圧力切換え式シーラガン50を待機位置に置き、距離計23を第1の板材11の上面に置く。次に、コーナー部位87を横断するように、距離計23を第2の板材12の上面まで移動させる。この間に連続して合わせ板構造物1までの距離を計測する。
【0043】
すると、
図6(b)に示すような距離データが取得できる。隙間演算部(
図1、符号25)に第1の板材11の厚さtが記憶されており、隙間演算部で(L2−L1−t)の計算により、コーナー部位87での隙間14の大きさを算出する。
図6(b)に示すグラフの横軸から、コーナー部位87の位置座標が求められる。
【0044】
端面向き識別部(
図1、符号24)は、
図6(b)のグラフに示す距離の変化から、第1の板材11の端部11aが、図面右側に延びていることを識別する。すなわち、第1の板材11の端面11bの向きを識別する。この情報は、ガン位置決め部(
図1、符号26)へ送られる。
【0045】
ガン位置決め部は、
図7(a)に示すように、圧力切換え式シーラガン50の軸50aがコーナー部位87(例えば、第1の板材11の端面11bから下ろした線が第2の板材12の上面に交わった点88)を通るように、且つ傾斜角θの大きさが所定値(例えば50°)となるように傾斜姿勢を定める。並行して、点88から圧力切換え式シーラガン50先端までの距離L3の大きさが所定値になるように調整する。以上の要領で、ガン位置決め部により、圧力切換え式シーラガン50が位置決めされる。
【0046】
圧力切換指令部(
図1、符号28)は、隙間演算部で求めた隙間14の大きさが、所定値以下であれば、低圧を選択し、隙間14の大きさの大きさが所定値を超えていれば、高圧を選択するように、圧力切換え式シーラガン50の吐出圧を切換える指令(信号)を発生する。
所定値は、第1の板材の厚さtをパラメータとして、α×tと定めることができる。αは0.05〜0.5のうちから選択される。所定値は経験的定めることもでき、それの決定法は任意である。
【0047】
隙間14の大きさが所定値以下であれば、低圧が選択される。具体的には、圧力切換え式シーラガン50は
図5の形態にされる。
そして、
図7(b)に示すように、低圧のシーラ86がコーナー部位87へ吐出される。隙間14が小さいため、隙間14へシーラ86が進入することは求められない。低圧であるため、シーラ86が第1の板材11の上面を超えてはみ出す心配もない。シーラ86を拭く必要がないため、工数の削減が図れる。また、シーラ86のはみ出しがないため、シーラ86は適正に消費される。
【0048】
隙間14の大きさが所定値を超えているときは、高圧が選択される。具体的には、圧力切換え式シーラガン50は
図4の形態にされる。
そして、
図7(c)に示すように、高圧のシーラ86がコーナー部位87へ吐出される。高圧であるため、隙間14へシーラ86が進入する。隙間14が大きいため、シーラ86が第1の板材11の上面を超えてはみ出す心配もない。シーラ86を拭く必要がないため、工数の削減が図れる。また、シーラ86のはみ出しがないため、シーラ86は適正に消費される。
【0049】
図7(c)においては、ヒータ65に通電することが推奨される。加熱によりシーラ86が軟らかくなり、流動性が増す。結果、隙間への進入が促される。
【0050】
次に、
図4に示した圧力切換え式シーラガンの変更例を説明する。
図8は変更例を示す図であり、
図4と共通する構成要素は符号を流用して詳細な説明を省く。
図8に示すように、シーラ吐出管63は弁座ブロック52に基部が固定され、外管64が第2ピストン71に基部が固定されている。第2ピストン71と弁座ブロック52との間に作動流体が吹き込まれると、外管64が想像線で示す位置まで前進する。すなわち、想像線で示す形態により低圧のシーラが吐出でき、実線で示す形態により高圧のシーラが吐出できる。
【0051】
図4と
図8から明らかなように、シーラ吐出管63が外管64に対して相対的に移動される。具体的には、シーラ吐出管63を固定して外管64を移動させる、又は、外管64を固定してシーラ吐出管63を移動させる。
【0052】
また、
図9に示すように、外管64を短くし、この外管64をガンボディ51の外に設けた小型シリンダユニット89で移動させるようにしても良い。ガンボディ51の小型化が可能になる。
【0053】
また、圧力切換え式シーラガン50は、
図10に示すように、ガンボディ51に2つの多段穴76A、76Bを設け、各々にステムガイド55A、55Bをセットし、ステム54A、54B、ピストン58A、58B及び付勢部材59A、59Bを内蔵し、底51aから第1シーラ吐出管63A及び第2シーラ吐出管63Bを延ばし、これらのシーラ吐出管63A、63Bの先端同士を接合して束ねた構造の物でも良い。
【0054】
シーラの圧力は、供給されるシーラの圧力により定まる。便宜上、一方のシーラ室56Aに低圧のシーラが供給され、他方のシーラ室56Bに高圧のシーラが供給されている。なお、両方のシーラ室56A、56Bに低圧のシーラを供給すること、又は、両方のシーラ室56A、56Bに高圧のシーラを供給することは妨げない。
【0055】
図11(a)に示すように、隙間14の大きさが所定値以下である場合は、第1シーラ吐出管63Aからコーナー部位87へ低圧のシーラ86が吐出される。
又は、
図11(b)に示すように、隙間14の大きさが所定値を超えている場合は、第2シーラ吐出管63Bからコーナー部位87へ高圧のシーラ86が吐出される。高圧であるから、隙間14へシーラ86が進入する。
【0056】
また、
図12に示すように、第1シーラ吐出管63Aと第2シーラ吐出管63Bとの両方からシーラ86を吐出させることができる。
例えば、第2シーラ吐出管63Bから高圧のシーラ86を吐出し、このシーラ86を隙間14へ進入させる。このシーラ86の上に、第1シーラ吐出管63Aから低圧のシーラ86を吐出する。いわゆる、二層盛りを実施する。
【0057】
尚、本発明のシーラ塗布装置は、実施の形態では車両の車体に適用したが、一般の溶接構造物に適用することは差し支えない。