特許第5813212号(P5813212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5813212
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月17日
(54)【発明の名称】太陽電池素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0216 20140101AFI20151029BHJP
   H01L 31/068 20120101ALN20151029BHJP
【FI】
   H01L31/04 240
   !H01L31/06 300
【請求項の数】6
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-507999(P2014-507999)
(86)(22)【出願日】2013年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2013059174
(87)【国際公開番号】WO2013146973
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2014年5月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-78930(P2012-78930)
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮本 康治
(72)【発明者】
【氏名】青野 重雄
(72)【発明者】
【氏名】本城 智郁
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 史朗
(72)【発明者】
【氏名】田中 政博
(72)【発明者】
【氏名】新楽 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】黒部 憲一
【審査官】 濱田 聖司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/033826(WO,A1)
【文献】 特開2010−171263(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/145731(WO,A1)
【文献】 特開2009−164544(JP,A)
【文献】 B.Hoex,"Ultralow surface recombination of c-Si substrates passivated by plasma-assisted atomic layer deposi,Applied Physics Letters,Vol.89, No.4 (2006),042112
【文献】 G.Dingemans,"Comparison between aluminum oxide surface passivation films deposited with thermal ALD, plasma ALD,35th IEEE Photovoltaic Specialists Conference, 2010,p.003118-003121
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00−31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型の第1半導体領域およびn型の第2半導体領域が、前記第1半導体領域が最も第1主面側に位置するとともに前記第2半導体領域が最も第2主面側に位置するように積み重ねられている半導体基板と、
前記第1半導体領域の前記第1主面側に配された、酸化アルミニウム、水素および炭素を含む第1パッシベ一ション膜とを備え、
前記第1パッシベ一ション膜の内部において、アルミニウムの原子密度を酸素の原子密度で除した第1比率が、0.613以上で且つ0.667未満であるとともに、アルミニウムの原子密度と水素の原子密度との和を酸素の原子密度で除した第2比率が、0.667以上で且つ0.786未満であり、前記第1パッシベ一ション膜の厚さ方向の中央部における、水素の原子密度を炭素の原子密度で除した第3比率が1未満である太陽電池素子。
【請求項2】
前記第1パッシベ一ション膜の前記第1半導体領域との界面近傍における前記第1比率が、前記第1パッシベ一ション膜の厚方向の中央部における前記第1比率よりも大きい請求項1に記載の太陽電池素子。
【請求項3】
前記第2半導体領域の前記第2主面側に配された、酸化アルミニウムを含む第2パッシベ一ション膜をさらに備え、
該第2パッシベ一ション膜が、炭素を含有している請求項1または請求項2に記載の太陽電池素子。
【請求項4】
前記第1パッシベ一ション膜の前記第1半導体領域との界面近傍における前記第3比率が、前記第1パッシベ一ション膜の厚方向の中央部における前記第3比率よりも大きい請求項1乃至3のいずれかに記載の太陽電池素子。
【請求項5】
前記水素および前記炭素の双方の原子密度が5×1020個/cm以上である請求項に記載の太陽電池素子。
【請求項6】
前記第1パッシベ一ション膜の厚さ方向の中央部における前記炭素の原子密度は前記水素の原子密度よりも大きく、前記炭素の原子密度が1×1022個/cm未満である請求項に記載の太陽電池素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池素子に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板を備えた太陽電池素子では、少数キャリアの再結合を低減するために、シリコン基板の表面にパッシベーション膜が設けられる。このパッシベーション膜の材料として、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛およびインジウム酸化スズ等を採用する技術が提案されている(例えば特開2009−164544号公報を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、太陽電池素子に対しては、さらなる変換効率の向上が要求されている。例えば、パッシベーションの効果のさらなる向上によって、界面での少数キャリアの再結合に要する時間(有効ライフタイム)を増大させ、変換効率を高めることが指向されている。
【0004】
なお、一般に有効ライフタイムをτとすれば、バルク基板の両面にパッシベーション膜を形成した構造において、(1/τ)=(1/τb)+(2S/W)の関係があることが知られている。ただし、τbはバルク基板のライフタイムであり、Sはバルク基板の表面における少数キャリアの表面再結合速度であり、Wはバルク基板の厚みである。
【0005】
実際の太陽電池素子では、例えばpn接合構造におけるp型のバルク基板の有効ライフタイムτはライフタイムτbと表面再結合速度Sとの関数となって、ライフタイムτbに比例し、表面再結合速度Sに反比例する。すなわち、有効ライフタイムτを向上させるには、表面再結合速度Sを低減することが重要である。
【0006】
そこで、表面再結合速度Sを低減するために、パッシベーションの効果を向上させる技術の一つとして酸化アルミニウム膜によるパッシベーション技術が注目されており、酸化アルミニウム膜を用いて変換効率がさらに高められた太陽電池素子が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る太陽電池素子は、p型の第1半導体領域およびn型の第2半導体領域が、前記第1半導体領域が最も第1主面側に位置するとともに前記第2半導体領域が最も第2主面側に位置するように積み重ねられている半導体基板と、前記第1半導体領域の前記第1主面側に配された、酸化アルミニウム、水素および炭素を含む第1パッシベ一ション膜とを備え、前記第1パッシベ一ション膜の内部において、アルミニウムの原子密度を酸素の原子密度で除した第1比率が、0.613以上で且つ0.667未満であるとともに、アルミニウムの原子密度と水素の原子密度との和を酸素の原子密度で除した第2比率が、0.667以上で且つ0.786未満であり、前記第1パッシベ一ション膜の厚さ方向の中央部における、水素の原子密度を炭素の原子密度で除した第3比率が1未満である
【発明の効果】
【0008】
上記構成の太陽電池素子によれば、少数キャリアの再結合に要する有効ライフタイムが延長される。すなわち、パッシベーションの効果の向上によって変換効率がさらに高められる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る太陽電池素子の受光面の外観を模式的に示す平面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る太陽電池素子の非受光面の外観を模式的に示す平面図である。
図3図3は、図1および図2にて一点鎖線III−IIIで示した位置におけるXZ断面を示す図である。
図4図4は、本発明の一実施形態に係る太陽電池モジュールの断面を模式的に示す分解図である。
図5図5は、本発明の一実施形態に係る太陽電池モジュールの外観を模式的に示す平面図である。
図6図6は、本発明の一実施形態に係る太陽電池素子の製造フローを示すフローチャートである。
図7図7は、本発明の一実施形態に係る太陽電池素子において第3半導体領域が形成される領域を示す平面図である。
図8図8は、試料S1〜S5,A1,A2に係る第1比率と第2比率との関係を示すグラフである。
図9図9は、試料S1〜S3に係る第1パッシベーション層における表面からの深さに応じた第1比率の変化を示すグラフである。
図10図10は、試料S4〜S6に係る第1パッシベーション層における表面からの深さに応じた第1比率の変化を示すグラフである。
図11図11は、試料S7に係る第1パッシベーション層における表面からの深さに応じた第1比率の変化を示すグラフである。
図12図12は、試料S1〜S7に係る有効ライフタイムを示すグラフである。
図13図13は、試料S9についてのSIMSによる測定結果を示すグラフである。
図14図14は、水素および炭素の原子密度と有効ライフタイムとの関係を示すグラフである。
図15図15は、水素および炭素の原子密度と有効ライフタイムとの関係を示すグラフである。
図16図16は、試料S2,S3,S8〜S12に係る第3比率を示すグラフである。
図17図17は、試料S2,S3,S8〜S12に係る有効ライフタイムを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態および各種変形例について図面を参照しながら説明する。なお、図面において同様な構成および機能を有する部分については同じ符号が付されており、下記説明では重複説明が省略される。また、図面は模式的に示されたものであり、各図における各種構造のサイズおよび位置関係等は適宜変更し得る。なお、図1から図5のそれぞれには、第1出力取出電極8aの延在方向に直交する方向(図1の図面視右方向)を+X方向とする右手系のXYZ座標系が付されている。
【0011】
<(1)一実施形態>
<(1−1)太陽電池素子の概略構成>
図1から図3で示されるように、太陽電池素子10は、第1主面10a、第2主面10bおよび側面10cを有している。第2主面10bは、入射光を受光する面(受光面)である。また、第1主面10aは、太陽電池素子10のうちの第2主面10bの反対側に位置する面(非受光面)である。側面10cは、第1主面10aと第2主面10bとを接続する面である。図3では、第2主面10bが太陽電池素子10の+Z側の上面として描かれており、第1主面10aが太陽電池素子10の−Z側の下面として描かれている。
【0012】
また、太陽電池素子10は、半導体基板1、第1パッシベーション膜としての第1パッシベーション層5、第2パッシベーション膜としての第2パッシベーション層6、反射防止層7、第1電極8および第2電極9を備えている。
【0013】
なお、第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6のパッシベーション効果としては、内蔵電界(パッシベーション層の存在によって界面付近に電界が形成されること)によるパッシベーション効果(電界効果パッシベーション)と、界面のダングリングボンドを終端することによるパッシベーション効果(ケミカルパッシベーション)とがある。ここで、電界効果パッシベーションとは、パッシベーション層の固定電荷密度が大きいほど効果を奏することを意味するものであり、例えば、p型シリコンに対しては、パッシベーション層は負の固定電荷密度が大きいほど良い。また、ケミカルパッシベーションとは、界面準位密度が小さいほど効果を奏することを意味するものである。
【0014】
半導体基板1は、第1半導体領域2と第2半導体領域3とが積み重ねられている構成を有している。第1半導体領域2は、半導体基板1の最も第1主面1a(図中の−Z側の面)側に位置している。また、第2半導体領域3は、半導体基板1の最も第2主面1b(図中の+Z側の面)側に位置している。第1半導体領域2は、p型の導電型を呈する半導体の領域である。第2半導体領域3は、n型の導電型を呈する半導体の領域である。そして、第1半導体領域2と第2半導体領域3とがpn接合領域を形成している。
【0015】
第1半導体領域2の半導体としては、例えば、単結晶シリコンおよび多結晶シリコン等といった結晶シリコンが採用され得る。p型のドーパントとして、例えば、ボロンおよびガリウムのうちの少なくとも一方が用いられることで、第1半導体領域2がp型の導電型を呈する。第1半導体領域2の厚さは、例えば、250μm以下であれば良く、さらには150μm以下であっても良い。第1半導体領域2の形状は、特に限定されるものではないが、例えば、平面視した状態で四角形状であれば、第1半導体領域2の製作が容易である。
【0016】
第2半導体領域3は、p型を呈する結晶シリコンの基板(結晶シリコン基板)のうちの第2主面1b側の領域に、n型のドーパントとなる元素が拡散されることで、結晶シリコン基板のうちの第2主面1b側の表層内に形成される。このとき、結晶シリコン基板のうちの第2半導体領域3以外の部分が第1半導体領域2となり得る。なお、n型のドーパントは例えばリン等であれば良い。
【0017】
また、図3で示されるように、半導体基板1のうちの第2主面1bにおいて、凹凸部11が配されている。凹凸部11における凸部の高さは、例えば、0.1μm以上で且つ10μm以下であれば良く、凸部の幅は、例えば、1μm以上で且つ20μm以下程度であれば良い。また、凹凸部11の凹部の面形状は、例えば略球面状であれば良い。なお、ここで言う凸部の高さは、凹部の底面を通り且つ第1主面10aに平行な面(基準面)を基準とし、該基準面の法線方向における、該基準面から凸部の頂面までの距離を意味する。また、ここで言う凸部の幅は、上記基準面に平行な方向における、隣接する凹部の底面間の距離を意味する。
【0018】
第1パッシベーション膜としての第1パッシベーション層5は、半導体基板1の第1主面1a側に配されている。つまり、第1パッシベーション層5は、第1半導体領域2の第1主面1a側に配されている。第1パッシベーション層5の材料としては、例えば酸化アルミニウムが採用されれば良い。この第1パッシベーション層5が存在している場合、いわゆるパッシベーション効果によって、半導体基板1の第1主面1aにおける少数キャリアの再結合が低減される。これにより、太陽電池素子10の開放電圧および短絡電流が高まるため、太陽電池素子10の出力特性が向上する。なお、第1パッシベーション層5の厚さの平均値は、例えば、3nm以上で且つ100nm以下程度であれば良い。
【0019】
この第1パッシベーション層5では、酸化アルミニウムが負の固定電荷密度を有していれば、第1半導体領域2のうちの第1パッシベーション層5との界面近傍において少数キャリアである電子が減少する方向にエネルギーバンドが曲がる。具体的には、第1半導体領域においては、第1パッシベーション層5との界面に近づけば近づく程、電子電位が増大するように、エネルギーバンドが曲がる。これにより、いわゆる内蔵電界によるパッシベーション効果が増大する。さらに、この第1パッシベーション層5については、組成等が適宜調整されることで、内蔵電界によるパッシベーション効果およびダングリングボンドの終端によるパッシベーション効果が増大する。
【0020】
第2パッシベーション膜としての第2パッシベーション層6は、半導体基板1の第2主面1b側に配されている。つまり、第2パッシベーション層6は、第2半導体領域3の第2主面1b側に配されている。この第2パッシベーション層6が存在している場合、いわゆるダングリングボンドの終端によるパッシベーション効果によって、半導体基板1の第2主面1b側における少数キャリアの再結合が低減される。これにより、太陽電池素子10の開放電圧および短絡電流が高まるため、太陽電池素子10の出力特性が向上する。なお、第2パッシベーション層6の厚さの平均値は、例えば、3nm以上で且つ100nm以下程度であれば良い。
【0021】
ここで、第2パッシベーション層6の材料として、酸化アルミニウムが採用される場合は、例えば、第2パッシベーション層6の上に、正の界面固定電荷密度、または酸化アルミニウムよりも小さな負の界面固定電荷密度を有する反射防止層7が配されれば良い。このような構成が採用されれば、第2半導体領域3のうちの第2パッシベーション層6との界面近傍において、第2パッシベーション層6が負の界面固定電荷密度を有することによって、少数キャリアである正孔が増加する方向にエネルギーバンドが曲がる不具合が低減される。その結果、半導体基板1の第2主面1b側における少数キャリアの再結合の増大による特性劣化が抑制される。
【0022】
なお、第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6は、アルミニウム供給用としてのトリメチルアルミニウム(TMA)またはトリエチルアルミニウム(TEA)などアルミニウムを含んだ有機金属ガスと、アルミニウムを酸化させるためのオゾンまたは水など酸素を含んだガスとを原料としたALD(Atomic Layer Deposition:原子層蒸着)法が用いられて形成される。
【0023】
反射防止層7は、太陽電池素子10における光の吸収の効率を向上させるための膜である。反射防止層7は、第2パッシベーション層6の第2主面10b側に配されている。反射防止層7の材料は、例えば、窒化シリコンまたは酸化シリコン等であれば良い。反射防止層7の厚さは、半導体基板1および反射防止層7の材料に応じて適宜設定されれば良い。これにより、太陽電池素子10において、特定波長領域の光に対して反射し難い条件が実現される。ここで、特定波長領域の光とは、太陽光の照射強度のピーク波長の前後における波長領域を指すものとする。なお、半導体基板1が結晶シリコン基板である場合には、反射防止層7の屈折率は、例えば、1.8以上で且つ2.3以下程度であれば良く、反射防止層7の厚さの平均値は、例えば、20nm以上で且つ120nm以下程度であれば良い。
【0024】
なお、反射防止層7は半導体基板1の側面10c側に設けられても良い。この場合、反射防止層7は、これを特にALD法で形成すると緻密になるので、半導体基板1の側面10cにおいてもピンホール等の微小な開口部が形成されることが大幅に低減されて、リーク電流の発生による特性劣化を避けることができる。
【0025】
第3半導体領域4は、半導体基板1のうちの第1主面1a側に配されている。第3半導体領域4は、第1半導体領域2と同一のp型の導電型を呈している。そして、第3半導体領域4におけるドーパントの濃度は、第1半導体領域2におけるドーパントの濃度よりも高い。すなわち、第3半導体領域4は、第1半導体領域2を形成するために半導体基板1にドープされるp型のドーパントよりも高い濃度でp型のドーパントが半導体基板1にドープされることで形成される。
【0026】
第3半導体領域4は、半導体基板1のうちの第1主面1a側において内蔵電界を生じさせて、半導体基板1のうちの第1主面1a側の領域における少数キャリアの再結合を低減する役割を有している。このため、第3半導体領域4の存在によって、太陽電池素子10における変換効率をより高めることができる。なお、第3半導体領域4は、例えば、半導体基板1のうちの第1主面1a側にボロンまたはアルミニウム等のドーパントとなる元素をドーピングすることで、形成される。
【0027】
第1電極8は、半導体基板1の第1主面10a側に配されている。図2で示されるように、第1電極8には、例えば、Y方向に延在する複数の第1出力取出電極8aと、X方向に延在する多数の線状の第1集電電極8bとが含まれている。第1出力取出電極8aのうちの少なくとも一部は、複数の線状の第1集電電極8bと交差することで、これら複数の第1集電電極8bと電気的に接続されている。
【0028】
第1集電電極8bの短手方向における幅は、例えば、50μm以上で且つ300μm以下程度であれば良い。第1出力取出電極8aの短手方向における幅は、例えば、1.3mm以上で且つ3mm以下程度であれば良い。つまり、第1集電電極8bの短手方向の幅は、第1出力取出電極8aの短手方向の幅よりも小さければ良い。また、複数の第1集電電極8bのうちの隣り合う第1集電電極8b同士の間隔は、1.5mm以上で且つ3mm以下程度であれば良い。さらに、第1電極8の厚さは、例えば、10μm以上で且つ40μm以下程度であれば良い。なお、第1電極8は、例えば、銀を主成分として含有する導電性ペースト(銀ペースト)が、スクリーン印刷等によって半導体基板1の第1主面1a上に所望のパターンで塗布された後に焼成されることで、形成される。また、第1集電電極8bの材料に主にアルミニウムが使用され、第1出力取出電極8aの材料に主に銀が使用されても良い。
【0029】
第2電極9は、半導体基板1の第2主面10b側に配されている。図1で示されるように、第2電極9には、例えば、Y方向に延在する複数の第2出力取出電極9aと、X方向に延在する多数の線状の第2集電電極9bとが含まれている。ここで、第2出力取出電極9aのうちの少なくとも一部は、複数の線状の第2集電電極9bと交差することで、これら複数の第2集電電極9bと電気的に接続されている。
【0030】
第2集電電極9bの短手方向における幅は、例えば、50μm以上で且つ200μm以下程度であれば良い。第2出力取出電極9aの短手方向における幅は、例えば、1.3mm以上で且つ2.5mm以下程度であれば良い。つまり、第2集電電極9bの短手方向の幅は、第2出力取出電極9aの短手方向の幅よりも小さければ良い。また、複数の第2集電電極9bのうちの隣り合う第2集電電極9b同士の間隔は、1.5mm以上で且つ3mm以下程度であれば良い。さらに、第2電極9の厚さは、例えば、10μm以上で且つ40μm以下程度であれば良い。なお、第2電極9は、例えば、銀ペーストがスクリーン印刷等によって半導体基板1の第2主面10b上に所望のパターンで塗布された後に焼成されることで、形成される。
【0031】
<(1−2)パッシベーション効果>
通常、酸化アルミニウムは、酸素(O)の原子密度を基準としたアルミニウム(Al)の原子密度の比率(第1比率)RAl/Oが2/3であるAlの化学量論組成を有する。ここで、原子密度は、単位体積当たりの原子数を意味し、例えば、1cm当たりの原子数(単位がatoms/cm)で示される。しかし、第1比率RAl/Oが、2/3未満、具体的にはアルミニウムの原子密度を酸素の原子密度で除した第1比率が0.667未満であれば、Alが欠損している部分が存在し得る。本実施形態のパッシベーション層である酸化アルミニウムは、Alの組成的な欠損に起因して、負の固定電荷密度を生じるものと考えられる。この場合、酸化アルミニウムは、非化学量論組成を有し、γアルミナに近いアモルファス構造を有しているものと推定される。このことは、TEM(Transmission Electron Microscope),EELS(Electron Energy-Loss Spectroscopy)等によって確認されている。
【0032】
また、本実施形態の酸化アルミニウムにおいては、Alの組成的な欠損が多い方が、負の固定電荷密度が高まる。但し、第1パッシベーション層5を製造する上では、非化学量論組成の酸化アルミニウムとして、Al1.93.1程度の組成を有するものまでがAlの組成的欠損の下限である。このようにAl欠損を抑えることによって、酸化アルミニウムの膜密度(緻密性)が低くなり過ぎることがなく、膜品質を劣化させにくい。すなわち電気的なリークが起こりにくく、耐湿性が低下しにくい。このため、酸化アルミニウムの膜品質を良好にすることができて、ひいては太陽電池素子の特性および長期信頼性を維持することができる。そして、このAl1.93.1では、第1比率RAl/Oが約0.613(≒1.9/3.1)となる。従って、第1比率RAl/Oが、0.613以上で且つ0.667未満であれば、酸化アルミニウムが大きな負の固定電荷密度を有する。
【0033】
また、酸化アルミニウムに水素(H)、CHn(nは自然数)等が含有されていれば、第1パッシベーション層5と第1半導体領域2との界面において、第1半導体領域2におけるシリコン(Si)の未結合手(ダングリングボンド)がH、OH、CHn(nは自然数)、O等によって終端される。すなわち、界面準位密度が低減することによって、パッシベーションの効果が増大する。
【0034】
ところで、酸化アルミニウムでは、単純にAlが欠損しているだけであれば、Alが欠損している部分においてOの2p軌道に電子の空席ができる。すなわち、アクセプタ準位が生じる。この場合、第1原理計算によれば、Alの欠損部分における固定電荷Qは、3価のAlの欠損によって、酸化アルミニウムが接合しているシリコンからの電子を受容して−3価となる。これに対し、酸化アルミニウムにHが含有されていれば、Hは、Alの欠損部分と、酸化アルミニウムの格子間に存在し得る。このため、酸化アルミニウムでは、1価であるHがAlの欠損部分においてOと結合(OH結合)を生じ得る。このとき、Alの欠損部分における固定電荷Qは、−3価から−2価に低下するが、Alの欠損部分における不安定性がOH結合によって和らげられるものと推定される。従って、Alの欠損を有する非化学量論組成の酸化アルミニウムの安定性が高まる。その結果、例えば、第1パッシベーション層5が形成された後に、反射防止層7、第1電極8および第2電極9が形成される際に熱処理が施されても、酸化アルミニウムにおけるAlの欠損部分が消滅し難くなる。
【0035】
ここで、酸化アルミニウムにおいて、Hの原子密度がAlの欠損部分の数以上である場合には、Alのほぼ全ての欠損部分においてHがOと結合し、Alの欠損部分の安定性が高まる。このような酸化アルミニウムでは、Oの原子密度を基準としたAlの原子密度とHの原子密度との和の比率であり、Alの原子密度とHの原子密度との和をOの原子密度で除した第2比率であるR(Al+H)/Oが、2/3以上、具体的には0.667以上であれば、Alの欠損部分の安定性が高まる。
【0036】
この場合、酸化アルミニウム側の負の固定電荷発生メカニズムは、例えば下記のようなものと考えられる。
1次反応 Si:Si/Al:O:H → Si・Si/Al:O: + ・H
2次反応 ・H + ・H → H:H
2次反応 Al:O:CH + ・H → Al:O:H + ・CH
--------
ここで、上記反応式において「・」は電子を表し、「/」は界面を表すものとする。また、上記の複数の2次反応が並行して進行する。
【0037】
上記1次反応では、Si側の電子が酸化アルミニウム側に移動するので、Si側には正の電荷が発生して、酸化アルミニウム側には負の電荷が発生する。
【0038】
Si側に発生した正の電荷は、Siのバンドを界面に向かって上に曲げるように作用する。すなわち、伝導帯に存在する少数キャリアたる電子にとってポテンシャルバリアが発生したことになり、電子が界面に流れ込んで再結合して消滅することが抑制される。つまり少数キャリアの有効ライフタイムが増大する効果を発現させる(電界効果パッシベーション)。
【0039】
一方、酸化アルミニウム側に発生した負の電荷は、界面近傍の酸化アルミニウム中に固定される。すなわち負の固定電荷となる。この酸化アルミニウム中の負の固定電荷は極めて安定しているので、太陽電池素子の製造プロセス中(焼成などの高温プロセス中など)でも失われることはない。つまり、負の固定電荷が安定して存在することが、前記Si側の正の電荷の安定性(電界効果パッシベーションの安定性)を保障していることになる。
【0040】
上記メカニズムによって、第1半導体領域2においては、第1パッシベーション層5との界面に近づけば近づく程、電子のエネルギーが増大するように、エネルギーバンドが曲がる。これにより、いわゆる内蔵電界によるパッシベーション効果が増大する。さらに、この第1パッシベーション層5については、組成等が適宜調整されることで、内蔵電界によるパッシベーション効果がより増大する。
【0041】
酸化アルミニウムにおいては、Hの含有量が多い方が、Alのほぼ全ての欠損部分においてHがOと結合し易い。但し、第1パッシベーション層5を製造する上では、非化学量論組成の酸化アルミニウムとして、(Al+H)2.22.8程度の組成を有するものまでがH含有量の上限である。この上限を超えないようにすることによって、酸化アルミニウムの膜密度(緻密性)が低くなり過ぎることを抑えて、膜品質を劣化させにくい。すなわち電気的なリークが起こりにくく、耐湿性が低下しにくい。これらによって、太陽電池素子の特性および長期信頼性を維持することができる。
【0042】
(Al+H)2.22.8では、第2比率R(Al+H)/Oは約0.786(≒2.2/2.8)となる。したがって、第2比率R(Al+H)/Oが、0.667以上で且つ0.786未満であれば、非化学量論組成の酸化アルミニウムにおけるAlの欠損部分の安定性が高まる。すなわち、酸化アルミニウムによるパッシベーション効果が安定して生じる。
【0043】
以上のことから、第1パッシベーション層5の内部において、第1比率RAl/Oが0.613以上で且つ0.667未満であり、第2比率R(Al+H)/Oが0.667以上で且つ0.786未満であれば、酸化アルミニウムによるパッシベーション効果が安定して生じる。その結果、第1半導体領域2における少数キャリアの再結合に要する有効ライフタイムが延長される。すなわち、パッシベーション効果の向上によって太陽電池素子10における変換効率がさらに高められる。
【0044】
なお、ここで、第1パッシベーション層5の内部とは、例えば、第1パッシベーション層5のうちの厚さ方向の両主面近傍を除く内側の部分であれば良い。つまり、第1パッシベーション層5の内部には、第1パッシベーション層5のうちの第1半導体領域2との界面近傍は含まれない。また、第1パッシベーション層5の内部は、第1パッシベーション層5のうちの厚さ方向の中央部であっても良い。そして、第1パッシベーション層5のうちの第1半導体領域2との界面近傍は、例えば、第1パッシベーション層5と第1半導体領域2との界面から、第1パッシベーション層5における3nm以上で且つ10nm以下程度の厚さに相当する領域であれば良い。なお、第1パッシベーション層5の厚みが10nm以下であれば、ほぼ全厚みが界面近傍とみなされる場合がある。
【0045】
また、第1パッシベーション層5のうちの第1半導体領域2との界面近傍における第1比率RAl/Oが、第1パッシベーション層5の厚さ方向の中央部における第1比率RAl/Oよりも大きければ、内蔵電界によるパッシベーション効果および界面準位密度すなわち界面のSiにおけるダングリングボンドの終端によるパッシベーション効果が向上する。すなわち、第1半導体領域2における有効ライフタイムが延長されて、太陽電池素子10における変換効率がさらに高められる。
【0046】
また、第1パッシベーション層5が炭素(C)を含有していれば、パッシベーション効果が向上する。例えば、第1パッシベーション層5のうちの第1半導体領域2との界面近傍における、Hの原子密度AとCの原子密度Aとの和(合計原子密度)AH+Cが、第1パッシベーション層5の厚さ方向の中央部における合計原子密度AH+Cよりも大きければ良い。そして、この場合、第1パッシベーション層5と第1半導体領域2との界面において、第1半導体領域2の半導体材料としてのSiのダングリングボンドがメチル基によって終端されていれば良い。これにより、第1パッシベーション層5によるパッシベーションの効果がさらに増大する。その結果、第1半導体領域2における有効ライフタイムが延長されて、太陽電池素子10における変換効率がさらに高められる。
【0047】
さらに、第1パッシベーション層5のうちの厚さ方向の中央部ならびに第1半導体領域2との界面近傍におけるHの原子密度AおよびCの原子密度Aに比例して、第1半導体領域2における有効ライフタイムが延長され得る。
【0048】
ここでは、Hの原子密度Aの増加に伴い、酸化アルミニウムにおけるAlの欠損部分の安定化ならびに界面のSiのダングリングボンドのH、OH、CHn(nは自然数)、O等による終端が図られ、第1半導体領域2における有効ライフタイムが延長されるものと推定される。一方、Cの原子密度Aの増加に伴って第1半導体領域2における有効ライフタイムが長くなる理由については明確でない。但し、TMAを原料としたALD法によって第1パッシベーション層5が形成される際に、パッシベーション層5において、Hの原子密度Aを増加させるためにCHn(nは自然数)の含有量を増加させた結果、Cの原子密度Aも増加するものと推定される。なお、CHnは、TMAによって供給されるだけでなく、例えば、メタンガス等といったその他の形態で供給されても良い。
【0049】
また、第1パッシベーション層5のうちの第1半導体領域2との界面近傍におけるCの原子密度を基準としたHの原子密度の比率(Hの原子密度をCの原子密度で除した値:以下、第3比率)RH/Cが、第1パッシベーション層5の厚さ方向の中央部における第3比率RH/Cよりも大きければ良い。この場合、パッシベーション効果が向上するため、第1半導体領域2における有効ライフタイムが延長されて、太陽電池素子10における変換効率がさらに高められる。
【0050】
ここで、ALD法が用いられて第1パッシベーション層5が形成される場合には、第1パッシベーション層5のうちの第1半導体領域2との界面近傍では、第3比率RH/Cが1よりも大きくなる。このため、第1パッシベーション層5のうちの第1半導体領域2との界面近傍では、Hが、主としてH(またはOH)あるいはCHn(nは自然数)の態様で存在しているものと推定される。これに対し、第1パッシベーション層5のうちの厚さ方向の中央部から第1主面10aにわたる領域では、第3比率RH/Cが1未満となる。このため、第1パッシベーション層5のうちの厚さ方向の中央部から第1主面10aにわたる領域では、Hが、主としてH(またはOH)の態様で存在し、Cが主としてAlまたはOと結合した態様で存在しているものと推定される。
【0051】
従って、この場合には、第1パッシベーション層5と第1半導体領域2との界面において、第1半導体領域2の半導体材料としてのSiのダングリングボンドがメチル基等によって終端されているものと推定される。このような構造によって、第1パッシベーション層5によるパッシベーションの効果がさらに増大する。その結果、第1半導体領域2における有効ライフタイムが延長され、太陽電池素子10における変換効率がさらに高められる。
【0052】
<(1−3)太陽電池モジュール>
一実施形態に係る太陽電池モジュール100は、1つ以上の太陽電池素子10を備えている。例えば、太陽電池モジュール100は、電気的に接続されている複数の太陽電池素子10を備えていれば良い。このような太陽電池モジュール100は、単独の太陽電池素子10の電気出力が小さな場合に、複数の太陽電池素子10が例えば直列および並列に接続されることで形成される。そして、例えば、複数の太陽電池モジュール100が組み合わされることで、実用的な電気出力が取り出される。以下では、太陽電池モジュール100が、複数の太陽電池素子10を備えている一例を挙げて説明する。
【0053】
図4で示されるように、太陽電池モジュール100は、例えば、透明部材104、表側充填材102、複数の太陽電池素子10、配線部材101、裏側充填材103および裏面保護材105が積層された積層体を備えている。ここで、透明部材104は、太陽電池モジュール100のうちの太陽光を受光する受光面を保護するための部材である。該透明部材104は、例えば、透明な平板状の部材であれば良い。透明部材104の材料としては、例えば、ガラス等が採用される。表側充填材102および裏側充填材103は、例えば、透明な充填剤であれば良い。表側充填材102および裏側充填材103の材料としては、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)等が採用される。裏面保護材105は、太陽電池モジュール100を裏面から保護するための部材である。裏面保護材105の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリフッ化ビニル樹脂(PVF)等が採用される。なお、裏面保護材105は、単層構造を有していても積層構造を有していても良い。
【0054】
配線部材101は、複数の太陽電池素子10を電気的に接続する部材(接続部材)である。太陽電池モジュール100に含まれる複数の太陽電池素子10のうちのY方向に隣り合う太陽電池素子10同士は、一方の太陽電池素子10の第1電極8と他方の太陽電池素子10の第2電極9とが配線部材101によって接続されている。これにより、複数の太陽電池素子10が電気的に直列に接続されている。ここで、配線部材101の厚さは、例えば、0.1mm以上で且つ0.2mm以下程度であれば良い。配線部材101の幅は、例えば、約2mm程度であれば良い。そして、配線部材101としては、例えば、銅箔の全面に半田が被覆された部材等が採用される。
【0055】
また、電気的に直列に接続されている複数の太陽電池素子10のうち、最初の太陽電池素子10の電極の一端と最後の太陽電池素子10の電極の一端は、出力取出配線106によって、それぞれ出力取出部としての端子ボックス107に電気的に接続されている。また、図4では図示が省略されているが、図5で示されるように、太陽電池モジュール100は、上記積層体を周囲から保持する枠体108を備えていても良い。枠体108の材料としては、例えば、耐食性と強度とを併せ持つアルミニウム等が採用される。
【0056】
なお、表側充填材102の材料としてEVAが採用される場合、EVAは、酢酸ビニルを含むため、高温時における湿気または水等の透過によって、経時的に加水分解を生じて酢酸を発生させる場合がある。これに対して、本実施形態では、第2パッシベーション層6の上に反射防止層7が設けられることで、酢酸によって太陽電池素子10に与えられるダメージが低減される。その結果、太陽電池モジュール100の信頼性が長期間に渡って確保される。
【0057】
また、表側充填材102および裏側充填材103の少なくとも一方の材料として、EVAが採用される場合、該EVAに水酸化マグネシウムまたは水酸化カルシウム等を含む受酸剤が添加されても良い。これにより、EVAからの酢酸の発生が低減されるため、太陽電池モジュール100の耐久性が向上し、酢酸によって第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6に与えられるダメージがより低減される。その結果、太陽電池モジュール100の信頼性が長期間に渡って確保される。
【0058】
<(1−4)太陽電池素子の製造方法>
ここで、上記構成を有する太陽電池素子10の製造プロセスの一例について説明する。ここでは、図6で示されるように、ステップSP1からステップSP6が順に行われることで、太陽電池素子10が製造される。
【0059】
まず、ステップSP1では、p型を呈する半導体基板1が準備される工程が行われる。ここで、半導体基板1が単結晶シリコン基板である場合は、例えば、FZ(Floating Zone)法等が用いられて半導体基板1が形成される。また、半導体基板1が多結晶シリコン基板である場合は、例えば、鋳造法等が用いられて半導体基板1が形成される。ここで、半導体基板1としてp型の多結晶シリコン基板が用いられた一例について説明する。まず、例えば、鋳造法によって半導体材料としての多結晶シリコンのインゴットが作製される。次に、そのインゴットが、例えば、250μm以下の厚さで薄切りにされる。その後、例えば、半導体基板1の表面に対して、NaOH、KOH、フッ酸またはフッ硝酸等の水溶液を用いたごく微量のエッチングが施されることで、半導体基板1の切断面における機械的なダメージを有する層および汚染された層が除去される。
【0060】
ステップSP2では、半導体基板1の第1および第2主面1a,1bのうち、少なくとも該第2主面1bに凹凸部が形成される。凹凸部の形成方法としては、例えば、NaOH等のアルカリ溶液またはフッ硝酸等の酸溶液が使用されたウエットエッチング方法または反応性イオンエッチング(RIE)等が使用されたドライエッチング方法が採用される。
【0061】
ステップSP3では、半導体基板1のうちの凹凸部が形成された第2主面1bに、n型の導電型を呈する第2半導体領域3が形成される。ここでは、第2半導体領域3の厚さは、0.2μm以上で且つ2μm以下程度であれば良い。また、第2半導体領域3のシート抵抗値は、40Ω/□以上で且つ200Ω/□以下程度であれば良い。第2半導体領域3の形成方法としては、例えば、ペースト状にされたPが半導体基板1の表面に塗布された後に熱拡散が施される塗布熱拡散法、またはガス状態にしたPOCl(オキシ塩化リン)が拡散源とされた気相熱拡散法等が採用される。
【0062】
ここで、例えば、気相熱拡散法が採用される場合には、まず、POCl等の拡散ガスを含む雰囲気中において、600℃以上で且つ800℃以下程度の温度域で半導体基板1に対する熱処理が施される。これにより、燐ガラスが半導体基板1の第2主面1b上に形成される。この熱処理の時間は、例えば、5分以上で且つ30分以内程度であれば良い。その後、アルゴンおよび窒素等の不活性ガスを主に含む雰囲気中において、800℃以上で且つ900℃以下程度の高温域で半導体基板1に対する熱処理が施される。これにより、燐ガラスから半導体基板1の第2主面1b側の領域にリンが拡散することで、第2半導体領域3が形成される。この熱処理の時間は、例えば、10分以上で且つ40分以内程度であれば良い。
【0063】
ところで、第2半導体領域3が形成される際に、半導体基板1の第1主面1a側にも第2半導体領域3が形成された場合には、第1主面1a側に形成された第2半導体領域3がエッチングによって除去されれば良い。これにより、半導体基板1の第1主面1aにおいてp型の導電型の半導体領域2が露出される。例えば、半導体基板1のうちの第1主面1a側のみがフッ硝酸の溶液に浸されることで、第1主面1a側に形成された第2半導体領域3が除去される。また、その後に、半導体基板1の第2主面1b側に形成された燐ガラスがエッチングによって除去されれば良い。このように、半導体基板1の第2主面1b上に燐ガラスが残存した状態で第1主面1a側に形成された第2半導体領域3が除去されることで、第2主面1b側における第2半導体領域3の除去と、該第2半導体領域3に付与されるダメージとが生じ難い。このとき、半導体基板1の第2主面1b上に燐ガラスが残存した状態で半導体基板1の側面1cに形成された第2半導体領域3が併せて除去されても良い。
【0064】
また、半導体基板1の第1主面1a上に拡散マスクが予め配された状態で、気相熱拡散法等によって第2半導体領域3が形成され、その後に、拡散マスクが除去されても良い。このようなプロセスによれば、半導体基板1の第1主面1a側には第2半導体領域3が形成されない。このため、半導体基板1の第1主面1a側に形成された第2半導体領域3を除去する工程が不要となる。
【0065】
なお、第2半導体領域3の形成方法は、上記方法に限定されない。例えば、薄膜技術が用いられて、n型の水素化アモルファスシリコンの膜または微結晶シリコンの膜を含む結晶質のシリコンの膜等が形成されても良い。さらに、第1半導体領域2と第2半導体領域3との間にi型の導電型を有するシリコンの領域が形成されても良い。
【0066】
次に、第1半導体領域2の第1主面1a上に第1パッシベーション層5が形成される前に、また、第2半導体領域3の第2主面1b上に第2パッシベーション層6が形成される前に、第1主面1aおよび第2主面1bのそれぞれの表面に対して、例えば硝酸、フッ酸および純水を組み合わせて用いた洗浄処理を施してもよい。これにより、太陽電池素子の電気的特性に悪影響のある、例えばNa,Cr,Fe,Cuなどの金属元素および自然酸化膜が、極力除去されるので良い。
【0067】
上記洗浄処理は、例えば、まず、第1主面1aおよび第2主面1bに対して、上記金属元素を除去する目的で室温〜110℃程度の硝酸を用いて洗浄した後に純水でリンスを行い、さらに、第1主面1aおよび第2主面1bに対して、自然酸化膜を除去する目的で希フッ酸で洗浄した後に純水でリンスすることによって、行うことができる。この洗浄処理によって、例えばCr,Fe,Cuなどの金属元素を、いずれも5×1010atoms/cm以下に低減できる。
【0068】
次のステップSP4では、第1半導体領域2の第1主面1a上に第1パッシベーション層5が形成されるとともに、第2半導体領域3の第2主面1b上に第2パッシベーション層6が形成される。第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6の形成方法としては、例えば、ALD法が採用される。これにより、半導体基板1の全周囲に同時期に、第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6が形成される。つまり、半導体基板1の側面1cにも酸化アルミニウム層を含むパッシベーション層が形成される。
【0069】
ALD法が採用された場合には、成膜装置のチャンバー内に上記ステップSP3で第2半導体領域3が形成された半導体基板1が載置され、該半導体基板1が100℃以上で且つ250℃以下の温度域で加熱された状態で、次の工程Aから工程Dが繰り返される。これにより、所望の厚さを有する第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6が形成される。
【0070】
[工程A]TMA等のAl原料が、ArガスまたはNガス等のキャリアガスとともに、半導体基板1上に供給されることで、半導体基板1の全周囲にAl原料が吸着される。ここで、半導体基板1の表面はOH基の形で終端されていることが望ましい。すなわち、Si基板の場合で言えば、最初にTMA等のAl原料を供給する場合において、Si−O−Hの形であることが望ましい。この構造は、上述した洗浄処理以外に、例えば、Si基板を希フッ酸で処理する工程での純水リンス条件、その後の硝酸等の酸化性溶液による処理、またはオゾン処理などによって形成することができる。なお、TMAが供給される時間は、例えば、15m秒以上で且つ3000m秒以下程度であれば良い。工程Aでは下記反応が生じる。
Si−O−H + Al(CH → Si−O−Al(CH + CH
【0071】
[工程B]Nガスによって成膜装置のチャンバー内の浄化が行われることで、該チャンバー内のAl原料が除去されるとともに、半導体基板1に物理吸着および化学吸着したAl原料のうち、原子層レベルで化学吸着した成分以外のAl原料が除去される。なお、Nガスによってチャンバー内が浄化される時間は、例えば、1秒以上で且つ数十秒以内程度であれば良い。
【0072】
[工程C]水またはOガス等の酸化剤が、成膜装置のチャンバー内に供給されることで、TMAに含まれるアルキル基としてのメチル基が除去されてOH基で置換される。つまり、下記反応が生じる。
Si−O−Al−CH + HOH → Si−O−Al−OH +CH
【0073】
ここで、左辺の「Si−O−Al−CH」は、正確には「Si−O−Al(CH」と表現されるべきところであるが、表記が煩雑となるので、CHひとつについての反応のみを表現する上記反応式を示した。
【0074】
これにより、半導体基板1の上に酸化アルミニウムの原子層が形成される。なお、酸化剤がチャンバー内に供給される時間は、好適には750m秒以上で且つ1100m秒以下程度であれば良い。また、例えば、チャンバー内に酸化剤ととともにHが供給されることで、酸化アルミニウムにHがより含有され易くなる。
【0075】
[工程D]Nガスによって成膜装置のチャンバー内の浄化が行われることで、該チャンバー内の酸化剤が除去される。このとき、例えば、半導体基板1上における原子層レベルの酸化アルミニウムの形成時において反応に寄与しなかった酸化剤等が除去される。なお、Nガスによってチャンバー内が浄化される時間は、例えば、1秒程度であれば良い。
【0076】
ここで再び工程Aに戻ると、次の反応が生じる。
Si−O−Al−OH + Al(CH
Si−O−Al−O−Al(CH + CH
【0077】
以後、工程B→工程C→工程D→工程A→・・・ と繰り返すことで、所望の膜厚の酸化アルミニウム膜が形成される。
【0078】
このようにして、第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6がALD法によって形成されることで、半導体基板1の表面に微小な凹凸があってもその凹凸に沿って酸化アルミニウムの層が均一に形成される。これにより、半導体基板1の表面におけるパッシベーション効果が高まる。
【0079】
次に、ステップSP5では、半導体基板1の第2主面1b上に配された第2パッシベーション層6の上に反射防止層7が形成される。反射防止層7の形成方法としては、例えば、PECVD(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)法、ALD法、蒸着法またはスパッタリング法等が採用される。例えば、PECVD法が採用される場合には、成膜装置において、SiHガスとNHガスとの混合ガスが、Nガスで希釈され、チャンバー内におけるグロー放電分解によってプラズマ化されて、第2パッシベーション層6上に窒化シリコンが堆積される。これにより、窒化シリコンを含む反射防止層7が形成される。なお、窒化シリコンの堆積時におけるチャンバー内の温度は、例えば、500℃程度であれば良い。そして、反射防止層7がALD法以外のPECVD法、蒸着法またはスパッタリング法等によって形成されることで、所望の厚さの反射防止層7が短時間で形成される。これにより、太陽電池素子10の生産性が向上する。
【0080】
次に、ステップSP6では、第3半導体領域4、第1電極8および第2電極9が形成される。
【0081】
ここで、第3半導体領域4および第1電極8の形成方法について説明する。まず、ガラスフリットおよびアルミニウムの粒子を含有しているアルミニウムペーストが、第1パッシベーション層5上の所定領域に塗布される。次に、最高温度が600℃以上で且つ800℃以下の高温域における熱処理が行われるファイヤースルー法によって、アルミニウムペーストの成分が、第1パッシベーション層5を突き破り、半導体基板1の第1主面1a側に第3半導体領域4が形成される。このとき、第3半導体領域4の第1主面1a上にアルミニウムの層が形成される。なお、このアルミニウムの層は、第1電極8の一部としての第1集電電極8bとして使用される。ここで、第3半導体領域4が形成される領域は、図7で示されるように、例えば、半導体基板1の第1主面1aのうちの第1集電電極8bと第1出力取出電極8aの一部とが形成される部位を示す破線80に沿った領域であれば良い。
【0082】
そして、第1出力取出電極8aは、例えば、主として銀(Ag)等を含む金属粉末、有機ビヒクルおよびガラスフリットを含有する銀ペーストが用いられて作製される。具体的には、銀ペーストが、第1パッシベーション層5上に塗布される。その後、銀ペーストが焼成されることで、第1出力取出電極8aが形成される。ここで、焼成における最高温度は、例えば、600℃以上で且つ800℃以下であれば良い。また、焼成が行われる時間については、例えば、ピーク温度に向けて昇温させて、ピーク温度付近で一定時間保持した後に降温させるが、ピーク温度付近では数秒以内であれば良い。銀ペーストが塗布される方法としては、例えば、スクリーン印刷法等が採用されれば良い。この銀ペーストの塗布が行われた後、所定の温度で銀ペーストが乾燥されることで、該銀ペースト中の溶剤が蒸散されても良い。ここでは、第1出力取出電極8aが、アルミニウムの層と接触することで第1集電電極8bと電気的に接続される。
【0083】
なお、第1出力取出電極8aが形成された後に、第1集電電極8bが形成されても良い。また、第1出力取出電極8aは、半導体基板1と直接接触しなくても良く、第1出力取出電極8aと半導体基板1との間に第1パッシベーション層5が存在していても構わない。また、第3半導体領域4の上に形成されたアルミニウムの層は除去されても良い。また、同一の銀ペーストが用いられて、第1出力取出電極8aと第1集電電極8bとが形成されても良い。
【0084】
次に、第2電極9の形成方法について説明する。第2電極9は、例えば、主としてAg等を含む金属粉末、有機ビヒクルおよびガラスフリットを含有する銀ペーストが用いられて作製される。具体的には、銀ペーストが、半導体基板1の第2パッシベーション層6上に塗布される。その後、銀ペーストが焼成されることで、第2電極9が形成される。ここで、焼成における最高温度は、例えば、600℃以上で且つ800℃以下であれば良い。また、焼成が行われる時間については、例えば、焼成ピーク温度においては数秒以内程度であれば良い。銀ペーストが塗布される方法としては、例えば、スクリーン印刷法等が採用されれば良い。この銀ペーストの塗布が行われた後、所定の温度で銀ペーストが乾燥されることで、該銀ペースト中の溶剤が蒸散されても良い。なお、第2電極9には、第2出力取出電極9aおよび第2集電電極9bが含まれるが、スクリーン印刷法が採用されることで、第2出力取出電極9aおよび第2集電電極9bは、1つの工程で同時期に形成される。
【0085】
ところで、第1電極8および第2電極9については、各々のペーストが塗布された後に、同時に焼成が行われることで、形成されても良い。なお、上記では、印刷および焼成によって第1電極8および第2電極9が形成される形態が例示されたが、これに限られない。例えば、第1電極8および第2電極9は、蒸着法またはスパッタリング法等といったその他の薄膜形成方法、あるいはメッキ法によって形成されても良い。
【0086】
また、上記第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6が形成された後に、各工程における熱処理の最高温度が800℃以下とされることで、第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6によるパッシベーションの効果が増大する。例えば、第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6が形成された後における各工程において、300℃以上で且つ500℃以下の温度域における熱処理が行われる時間が、例えば、3分以上であり且つ30分以内であれば良い。
【0087】
<(1−5)一実施形態のまとめ>
上記のように、第1パッシベーション層5の内部においては、第1比率RAl/Oが0.613以上で且つ0.667未満であるとともに、第2比率R(Al+H)/Oが0.667以上で且つ0.786未満であれば良い。これにより、第1パッシベーション層5の酸化アルミニウムによるパッシベーション効果が安定して生じる。その結果、第1半導体領域2における少数キャリアの再結合に要する有効ライフタイムが延長される。すなわち、内蔵電界によるパッシベーション効果の向上によって太陽電池素子10における変換効率が高められる。
【0088】
また、第1パッシベーション層5のうちの第1半導体領域2との界面近傍における第1比率RAl/Oが、第1パッシベーション層5の厚さ方向の中央部における第1比率RAl/Oよりも大きければ良い。これにより、第1パッシベーション層5の酸化アルミニウムによる内蔵電界のパッシベーション効果および界面準位密度すなわち界面のSiにおけるダングリングボンドの終端によるパッシベーション効果が向上する。すなわち、第1半導体領域2における有効ライフタイムが延長されて、太陽電池素子10における変換効率がさらに高められる。
【0089】
また、第1パッシベーション層5のうちの第1半導体領域2との界面近傍における、Hの原子密度AとCの原子密度Aとの合計原子密度AH+Cが、第1パッシベーション層5の厚さ方向の中央部における合計原子密度AH+Cよりも大きければ良い。これにより、第1パッシベーション層5の酸化アルミニウムによって界面準位密度すなわち界面のSiにおけるダングリングボンドを終端するパッシベーション効果が向上する。すなわち、第1半導体領域2における有効ライフタイムが延長されて、太陽電池素子10における変換効率がさらに高められる。
【0090】
また、第1パッシベーション層5のうちの第1半導体領域2との界面近傍におけるHの原子密度をCの原子密度で除した第3比率RH/Cが、第1パッシベーション層5の厚さ方向の中央部における第3比率RH/Cよりも大きければ良い。これにより、第1パッシベーション層5の酸化アルミニウムによって界面準位密度すなわち界面のSiにおけるダングリングボンドを終端するパッシベーション効果が向上する。すなわち、第1半導体領域2における有効ライフタイムが延長されて、太陽電池素子10における変換効率がさらに高められる。
【0091】
<(2)変形例>
なお、本発明は一実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良等が可能である。
【0092】
例えば、上記一実施形態では、太陽電池素子10の非受光面側に第1パッシベーション層5が配されていたが、これに限られない。例えば、半導体基板1のうち、非受光面側にn型の半導体領域が配され、受光面側にp型の半導体領域が配されている場合には、太陽電池素子10の受光面側に第1パッシベーション層5が配されれば良い。
【0093】
また、太陽電池素子10は、例えば、第2出力取出電極9aが第1主面10a側に配されたメタル・ラップ・スルー構造のバックコンタクトタイプの太陽電池素子であっても良い。
【0094】
なお、上記一実施形態および各種変形例をそれぞれ構成する全部または一部を、適宜、矛盾しない範囲で組み合わせ可能であることは、言うまでもない。さらに、パッシベーション層を作製する際にはALD法に限らず、CVD法を適用することもできる。
【実施例】
【0095】
以下に、上記一実施形態に関する具体的な実施例について説明する。
【0096】
<試料の作製>
まず、半導体基板1として、1辺が156mmで厚さが約200μmのp型の導電型を呈する複数の単結晶シリコン基板が準備された。ここでは、FZ法が用いられて、単結晶シリコンのインゴットが形成された。このとき、単結晶シリコンがp型の導電型を呈するようにBがドープされた。次に、半導体基板1の第1主面1aおよび第2主面1bにシリコン単結晶の(100)面が現出するように、単結晶シリコンのインゴットが薄切りにされることで単結晶シリコン基板としての半導体基板1が形成された。そして、半導体基板1の表面に対して、10倍に希釈されたフッ酸の水溶液によるごく微量のエッチングが施されることで、半導体基板1の切断面における機械的なダメージを有する層および汚染された層が除去された。
【0097】
次に、ALD法が用いられて、半導体基板1の全周囲に、主として酸化アルミニウムを含む第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6が形成された。ここでは、成膜装置のチャンバー内に半導体基板1が載置され、半導体基板1の温度が175℃、200℃または300℃に維持された。そして、上記工程Aから工程Dが繰り返されることで、所望の厚さの第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6が形成された。その後、反射防止層7、第3半導体領域4、第1電極8および第2電極9の形成時における熱処理の影響を確認するために、各種熱処理が、第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6が形成された各半導体基板1に対して施された。これにより、試料S1〜S12が作製された。
【0098】
また、CVD法が用いられて、半導体基板1の全周囲に、主として酸化アルミニウムを含む第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6が形成された。ここでは、成膜装置のチャンバー内に半導体基板1が載置され、半導体基板1の温度が150℃以上で且つ250℃に維持され、厚さが30nm以上40nm以下である第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6が形成された。その後、反射防止層7、第3半導体領域4、第1電極8および第2電極9の形成時における熱処理の影響を確認するために、810℃の焼成が、第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6が形成された各半導体基板1に対して施された。なお、この焼成は、第1電極8および第2電極9の焼成に使用される焼成炉において、大気中でピーク温度810℃において1〜10秒程度行われた。これにより、試料A1,A2が生成された。
【0099】
【表1】
【0100】
試料S1〜S12が生成された条件を表1に示す。
【0101】
表1で示されるように、成膜装置のチャンバー内に載置された試料S1,S2,S7〜S12に係る半導体基板1の温度は、約175℃に保持された。また、試料S3に係る半導体基板1の温度は、約300℃に保持された。また、試料S4〜S6に係る半導体基板1の温度は、約200℃に保持された。
【0102】
ALD法の工程Aでは、Nガスがキャリアガスとして採用された。この際、チャンバー内に導入されるNガスの流量は、試料S4〜S9については約30sccmとされ、試料S1〜S3,S10〜S12については約100sccmとされた。また、チャンバー内にTMAが供給される時間(開時間)が、試料S4〜S9については約15m秒とされ、試料S1,S3,S10〜S12については約75m秒とされ、試料S2については約1000m秒とされた。
【0103】
ALD法の工程Bでは、チャンバー内へのTMAの供給の終了時から工程Cの開始時までの時間(置換時間)が、チャンバー内が浄化される時間とされた。そして、置換時間は、試料S4〜S9については約12秒とされ、試料S1〜S3,S10〜S12については約15秒とされた。この際、チャンバー内に導入されるNガスの流量は、試料S4〜S9については約30sccmとされ、試料S1〜S3,S10〜S12については約100sccmとされた。
【0104】
ALD法の工程Cでは、Oガスが酸化剤として採用された。この際、チャンバー内に導入されるOガスの体積は標準状態で約250ccとされた。
【0105】
また、チャンバー内にOガスが供給される時間(開時間)は、試料S1〜S3,S10〜S12については750m秒とされ、試料S4〜S6については900m秒とされ、試料S7〜S9については1100m秒とされた。
【0106】
また、Oガスの濃度は300g/cmとされ、1回の工程CにおけるOガスの供給回数は1回とされた。
【0107】
ALD法の工程Dでは、チャンバー内へのOガスの供給の終了時から次工程の開始時までの時間(置換時間)が、チャンバー内が浄化される時間とされた。そして、置換時間は、全試料S1〜S12について15秒とされた。この際、チャンバー内に導入されるNガスの流量は、試料S4〜S9については約30sccmとされ、試料S1〜S3,S10〜S12については約100sccmとされた。
【0108】
そして、第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6の平均の厚さは、試料S1については約35nmであり、試料S2,S11,S12については約40nmであり、試料S3〜S10については約30nmであった。この平均の厚さは、エリプソメータ(SENTECH社製SE-400adv)が使用されて第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6の各5箇所が測定された結果の平均値とされた。
【0109】
また、第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6に対する熱処理については、試料S1〜S4に係る半導体基板1に対し、Nガス中において約450℃で20分間のアニールが施された。また、試料S5,S7に係る半導体基板1に対し、大気中においてピーク温度が約810℃で約1〜10秒間の焼成が施された。また、試料S8〜S12に係る半導体基板1に対し、大気中においてピーク温度が約765℃で1秒以上10秒以内の焼成が施された。
【0110】
<組成および有効ライフタイムの測定>
試料S1〜S5,A1,A2が対象とされ、第1パッシベーション層5の表面からの深さに応じた、Si、Al、O、CおよびHの原子密度ASi,AAl,A,A,Aの変化が測定された。また、試料S6,S7が対象とされ、第1パッシベーション層5の表面からの深さに応じた、AlおよびOの原子密度AAl,Aの変化が測定された。これらの測定では、ラザフォード後方散乱分光(RBS)法が利用された高分解能の分析装置が用いられた。
【0111】
また、試料S2,S3,S5,S8〜S12が対象とされ、第1パッシベーション層5の表面からの深さに応じた、O、AlおよびSiに係る二次イオン強度の変化と、H、CおよびNの原子密度の変化とが測定された。この測定では、二次イオン質量分析計(SIMS)が用いられた。
【0112】
さらに、試料S1〜S12,A1,A2が対象とされ、有効ライフタイムτが測定された。この測定では、レーザとマイクロ波が利用されたマイクロ波光導電減衰法(Microwave Photo Conductivity Decay:μ−PCD法)が用いられた。
【0113】
<パッシベーション層の内部における第1比率および第2比率>
試料S1については、第1パッシベーション層5の表面からの深さが約2〜18nmの範囲内である第1パッシベーション層5の内部の領域において、深さに拘わらず、Si、Al、O、CおよびHの原子密度ASi,AAl,A,A,Aが略一定であった。また、試料S2〜5,A1,A2についても、同様に、第1パッシベーション層5の表面からの深さがある一定の範囲内の領域において、深さに拘わらず、Si、Al、O、CおよびHの原子密度ASi,AAl,A,A,Aが略一定であった。なお、第1パッシベーション層5の表面からの深さが約0〜2nmの領域については、第1パッシベーション層5の表面に付着した各種元素の影響で、Si、Al、O、CおよびHの原子密度ASi,AAl,A,A,Aが略一定にならかったものと推察された。
【0114】
表2には、試料S1〜S5,A1,A2について求められた、Si、Al、O、CおよびHの原子密度ASi,AAl,A,A,Aが略一定となる領域におけるAl、OおよびHの原子密度AAl,A,Aが便宜的にそれぞれ原子濃度に換算された値、第1比率RAl/Oおよび第2比率R(Al+H)/Oが示されている。また、表2には、試料S1〜S5,A1,A2における有効ライフタイムτが併せて示されている。上述したように、第1比率RAl/Oは、Alの原子密度AAlをOの原子密度Aで除した値である。第2比率R(Al+H)/Oは、Alの原子密度AAlとHの原子密度Aとの和をOの原子密度Aで除した値である。
【0115】
【表2】
【0116】
表2で示されるように、試料S3,S5についての有効ライフタイムτは、100μ秒未満の比較的短時間であった。これに対して、試料S1,S2,S4,A1,A2についての有効ライフタイムτは、200μ秒を超える比較的長時間であった。
【0117】
ここでは、有効ライフタイムτが200μ秒を超える比較的長時間であった試料S1,S2,S4,A1,A2については、第1パッシベーション層5の内部における第1比率RAl/Oが、0.667未満であることが確認された。具体的には、試料S1,S2,S4,A1,A2に係る第1パッシベーション層5の内部における第1比率RAl/Oが、0.642、0.640、0.645、0.632および0.624であることが確認された。
【0118】
一方、有効ライフタイムτが100μ秒未満の比較的短時間であった試料S3,S5については、第1パッシベーション層5の内部における第1比率RAl/Oが、0.667以上であることが確認された。具体的には、試料S3,S5に係る第1パッシベーション層5の内部における第1比率RAl/Oが、0.681および0.667であることが確認された。なお、試料S3については、第1パッシベーション層5が形成される際における半導体基板1の温度が300℃と高温であったことで、第1比率RAl/Oが上昇するものと推定された。また、試料S5については、約810℃における焼成時にOがHと反応してHOが生成されたことで、第1比率RAl/Oが上昇するものと推定された。
【0119】
また、有効ライフタイムτが200μ秒を超える比較的長時間であった試料S1,S2,S4,A1,A2については、第1パッシベーション層5の内部における第2比率R(Al+H)/Oが、0.667以上であることが確認された。具体的には、試料S1,S2,S4,A1,A2の第1パッシベーション層5の内部における第2比率R(Al+H)/Oが、0.689、0.698、0.682、0.719および0.704であることが確認された。一方、有効ライフタイムτが100μ秒未満の比較的短時間であった試料S3,S5については、第1パッシベーション層5の内部における第2比率R(Al+H)/Oが、0.689および0.675であった。
【0120】
以上のことから、第1パッシベーション層5の内部において、第1比率RAl/Oが0.613以上で且つ0.667未満であり、第2比率R(Al+H)/Oが0.667以上で且つ0.786未満である条件を満たせば、良好な有効ライフタイムτが得られることが分かった。この条件を満たす場合には、酸化アルミニウムにおいてAlの欠損による負の固定電荷の発生、および該Alの欠損部分におけるHとOとの弱い結合によってAlの欠損部分の安定化が図られたものと推定された。また、過剰なHが、その後のプロセスの熱エネルギーによって基板界面のダングリングボンドと結合するものと推測された。すなわち、第1パッシベーション層5の酸化アルミニウムによる内蔵電界によるパッシベーション効果と、界面準位密度すなわち界面のSiにおけるダングリングボンドの終端によるパッシベーション効果が安定して生じ、太陽電池素子における変換効率がさらに高められるものと推定された。
【0121】
また、図8は、試料S1〜S5,A1,A2における第1パッシベーション層5の内部における第1比率RAl/Oと第2比率R(Al+H)/Oとの関係がプロットされたグラフである。図8では、横軸が第1比率RAl/Oを示し、縦軸が第2比率R(Al+H)/Oを示している。そして、図8では、試料S1〜S5,A1,A2における第1パッシベーション層5の内部における第1比率RAl/Oと第2比率R(Al+H)/Oとの関係が7つの黒丸で示されている。また、図8において、矩形の破線Ar1で囲まれた領域は、第1比率RAl/Oが0.613以上で且つ0.667未満であり、第2比率R(Al+H)/Oが0.667以上で且つ0.786未満である第1条件を満たす領域である。
【0122】
ここで、矩形の破線Ar1の一対角線Lc1は、大凡、R(Al+H)/O=−2×RAl/O+2の式で示された。そして、図8で示されるように、7つの黒丸は、一対角線Lc1が第2比率R(Al+H)/Oが増加する方向に0.07シフトされた直線Lmx1と、一対角線Lc1が第2比率R(Al+H)/Oが減少する方向に0.07シフトされた直線Lmn1とに挟まれた領域に含まれることが確認された。すなわち、第2比率R(Al+H)/Oが、−2×第1比率RAl/O+(2−0.07)以上で且つ−2×第1比率RAl/O+(2+0.07)以下の範囲に含まれることが確認された。すなわち、第2比率R(Al+H)/Oが、−2×RAl/O+(2−0.07)以上で且つ−2×RAl/O+(2+0.07)以下の範囲に含まれる第2条件の存在が確認された。従って、第1パッシベーション層5の酸化アルミニウムにおいて、第1条件に加えて、第2条件を満たす場合には、良好な有効ライフタイムτが得られることが分かった。
【0123】
<パッシベーション層の深さ方向における第1比率の変化>
図9から図11は、試料S1〜S7における第1パッシベーション層5について、該第1パッシベーション層5の表面からの深さに応じた第1比率RAl/Oの変化を示すグラフである。図9から図11では、横軸が第1パッシベーション層5の表面からの深さを示し、縦軸が第1比率RAl/Oを示している。また、図9から図11では、参考として、第1比率RAl/O=2/3が一点鎖線で示されている。
【0124】
そして、図9では、試料S1に係る第1比率RAl/Oの変化が曲線Ls1で示され、試料S2に係る第1比率RAl/Oの変化が曲線Ls2で示され、試料S3に係る第1比率RAl/Oの変化が曲線Ls3で示されている。また、図10では、試料S4に係る第1比率RAl/Oの変化が曲線Ls4で示され、試料S5に係る第1比率RAl/Oの変化が曲線Ls5で示され、試料S6に係る第1比率RAl/Oの変化が曲線Ls6で示されている。さらに、図11では、試料S7に係る第1比率RAl/Oの変化が曲線Ls7で示されている。
【0125】
図12は、試料S1〜S7に係る有効ライフタイムτを示す棒グラフである。図12で示されるように、試料S3,S5,S6に係る有効ライフタイムτは100μ秒未満の比較的短時間であるのに対して、試料S1,S2,S4,S7に係る有効ライフタイムτは、200μ秒以上の比較的長時間であった。
【0126】
ここで、図9から図11で示されるように、有効ライフタイムτが比較的長い試料S1,S2,S4,S7については、第1パッシベーション層5のうち、厚さ方向の中央部から第1半導体領域2との界面に向けて、第1比率RAl/Oが顕著に上昇していることが確認された。一方、有効ライフタイムτが比較的短い試料S3,S5,S6については、第1パッシベーション層5のうち、厚さ方向の中央部から第1半導体領域2との界面に向けて、第1比率RAl/Oが上昇している状態は確認されなかった。
【0127】
以上により、第1パッシベーション層5のうちの第1半導体領域2との界面近傍における第1比率RAl/Oが、第1パッシベーション層5の厚さ方向の中央部における第1比率RAl/Oよりも大きい条件を満たせば、良好な有効ライフタイムτが得られることが確認された。
【0128】
<パッシベーション層の深さ方向におけるHとCの濃度の変化>
図13は、試料S9についてのSIMSによる測定結果を示すグラフである。図13では、試料S9について、第1パッシベーション層5の表面からの深さに応じた、H,C,N原子の密度およびO,Al,Siの二次イオン強度の変化が示されている。具体的には、図13では、H原子の密度の変化が、濃い極太線で描かれた曲線Lで示され、C原子の密度の変化が、濃い太線で描かれた曲線Lで示され、N原子の密度の変化が、濃い細線で描かれた曲線Lで示されている。また、図13では、Oに係る二次イオン強度の変化が、淡い極太線で描かれた曲線Lで示され、Alに係る二次イオン強度の変化が、淡い太線で描かれた曲線LAlで示され、Siに係る二次イオン強度の変化が、淡い細線で描かれた曲線LSiで示されている。
【0129】
図13で示されるように、第1パッシベーション層5の厚さ方向の中央部から、Si,Al,Oに係る二次イオン強度の変化が顕著である第1半導体領域2と第1パッシベーション層5との界面にかけて、合計原子密度AH+Cが上昇していた。すなわち、第1パッシベーション層5のうちの第1半導体領域2との界面近傍における合計原子密度AH+Cが、第1パッシベーション層5の厚さ方向の中央部における合計原子密度AH+Cよりも大きいことが確認された。
【0130】
図14は、試料S2,S3,S5,S8〜S12について、第1パッシベーション層5のうちの第1半導体領域2との界面近傍における、H原子の密度およびC原子の密度と、有効ライフタイムτとの関係を示す図である。また、図15は、試料S2,S3,S5,S8〜S12について、第1パッシベーション層5の厚さ方向の中央部における、H原子の密度およびC原子の密度と、有効ライフタイムτとの関係を示す図である。なお、図14および図15では、H原子の密度が黒丸で示されており、C原子の密度が白丸で示されている。
【0131】
図14および図15で示されるように、第1パッシベーション層5のうち、第1半導体領域2との界面近傍および厚さ方向の中央部の双方において、H原子の密度およびC原子の密度に比例して、有効ライフタイムτが上昇することが確認された。また、有効ライフタイムτが200μ秒以上の比較的長時間である試料S2,S8〜S12では、第1パッシベーション層5のうちの第1半導体領域2との界面近傍におけるH原子の密度はC原子の密度よりも高く、水素の原子密度および炭素の原子密度のいずれも5×1020個/cm以上であった。さらに、有効ライフタイムτが200μ秒以上の比較的長時間である試料S2,S8〜S12では、第1パッシベーション層5の厚さ方向の中央部におけるC原子の密度はH原子の密度よりも高く、該C原子の密度は、1×1022個/cm未満であった。
【0132】
そして、有効ライフタイムτが長い試料S2,S8〜S12では、第1パッシベーション層5のうち、第1半導体領域2との界面近傍における合計原子密度AH+Cが、厚さ方向の中央部における合計原子密度AH+Cよりも10倍程度大きいことが確認された。従って、第1パッシベーション層5において、第1半導体領域2との界面近傍における合計原子密度AH+Cが、厚さ方向の中央部における合計原子密度AH+Cよりも大きい場合、第1パッシベーション層5によるパッシベーション効果が向上することが確認された。すなわち、この場合には、第1半導体領域2における有効ライフタイムが延長されて、太陽電池素子における変換効率がさらに高められるものと推定された。
【0133】
図16は、試料S2,S3,S5,S8〜S12について、第1パッシベーション層5のうちの第1半導体領域2との界面近傍における第3比率RH/C、および第1パッシベーション層5の厚さ方向の中央部における第3比率RH/Cとの関係を示す棒グラフである。図16では、各試料S2,S3,S5,S8〜S12について、第1パッシベーション層5の第1半導体領域2との界面近傍における第3比率RH/Cが左の棒αで示され、第1パッシベーション層5の厚さ方向の中央部における第3比率RH/Cが右の棒βで示されている。
【0134】
図16で示されるように、試料S3,S5については、第1パッシベ一ション層5のうちの第1半導体領域2との界面近傍における第3比率RH/Cを、第1パッシベ一ション層5の厚さ方向の中央部における第3比率RH/Cで除した値が、1〜2程度であることが確認された。これに対して、試料S2,S8〜S12については、第1パッシベ一ション層5の厚さ方向の中央部における第3比率RH/Cが1未満であって、第1パッシベ一ション層5のうちの第1半導体領域2との界面近傍における第3比率RH/Cを、第1パッシベ一ション層5の厚さ方向の中央部における第3比率RH/Cで除した値が試料S3,S5に比べて大きく、3〜10程度であることが確認された。
【0135】
図17は、試料S2,S3,S5,S8〜S12に係る有効ライフタイムτを示す棒グラフである。図17で示されるように、試料S3,S5に係る有効ライフタイムτは100μ秒未満の比較的短時間であるのに対して、試料S2,S8〜S12に係る有効ライフタイムτは、200μ秒以上の比較的長時間であった。
【0136】
従って、第1パッシベーション層5のうちの第1半導体領域2との界面近傍における第3比率RH/Cが、第1パッシベーション層5の厚さ方向の中央部における第3比率RH/Cよりも3倍以上大きい場合に、比較的長時間の有効ライフタイムτが得られることが分かった。この場合、第1パッシベーション層5の酸化アルミニウムによるパッシベーション効果が向上し、太陽電池素子における変換効率がさらに高められるものと推定された。
【0137】
なお、上述の実施例では、基板温度が175℃以上の条件で、ALD法が用いられて半導体基板1の全周囲に第1パッシベーション層5および第2パッシベーション層6が形成されたが、例えば135℃等の175℃よりも低い基板温度で形成されても良い。また、Alの組成的な欠損を多くするためにOガスの濃度を300g/cmよりも高くしたり、供給回数を複数回にしてもよい。
【符号の説明】
【0138】
1 半導体基板
1a,10a 第1主面
1b,10b 第2主面
2 第1半導体領域
3 第2半導体領域
4 第3半導体領域
5 第1パッシベーション層
6 第2パッシベーション層
7 反射防止層
8 第1電極
9 第2電極
10 太陽電池素子
100 太陽電池モジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17