特許第5813906号(P5813906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5813906
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月17日
(54)【発明の名称】車両及び車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20151029BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20151029BHJP
   B60W 20/00 20060101ALI20151029BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20151029BHJP
   B60K 6/52 20071001ALI20151029BHJP
   B62D 11/04 20060101ALI20151029BHJP
【FI】
   B60L15/20 SZHV
   B60K6/20 320
   B60K6/46
   B60K6/52
   B62D11/04
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-533783(P2015-533783)
(86)(22)【出願日】2014年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2014084298
【審査請求日】2015年7月8日
(31)【優先権主張番号】特願2013-272723(P2013-272723)
(32)【優先日】2013年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100149261
【弁理士】
【氏名又は名称】大内 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(72)【発明者】
【氏名】安藤 義紀
(72)【発明者】
【氏名】塚本 宗紀
(72)【発明者】
【氏名】野口 真利
【審査官】 相羽 昌孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−212726(JP,A)
【文献】 特開2005−73457(JP,A)
【文献】 特開2013−215017(JP,A)
【文献】 特開2005−160262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00− 3/12
B60L 7/00−13/00
B60L 15/00−15/42
B60K 6/20− 6/547
B60W 10/00−20/00
B62D 9/00−15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左車輪(32a、36a)に機械的に接続される左電動機(16、16a)と、
右車輪(32b、36b)に機械的に接続される右電動機(18、18a)と、
前記左電動機(16、16a)が発生する動力である左動力及び前記右電動機(18、18a)が発生する動力である右動力を制御する電動機制御装置(28)と、
前記左電動機(16、16a)及び前記右電動機(18、18a)に電気的に接続される電力源(20)と
を備える車両(10、10A)であって、
前記電動機制御装置(28)は、
前記左動力と前記右動力との和の最大値である左右和上限値を、前記電力源(20)の供給可能電力に基づいて求め、
前記左右和上限値と、前記左動力と右動力との差の目標値である目標左右差と、前記左動力と右動力との和の目標値である目標左右和とに基づいて、前記左電動機(16、16a)用の目標左動力及び前記右電動機(18、18a)用の目標右動力をそれぞれ求め、
前記目標左動力及び前記左電動機(16、16a)の回転状態量に基づいて左損失電力を、前記目標右動力及び前記右電動機(18、18a)の回転状態量に基づいて右損失電力を求め、
前記左損失電力及び前記右損失電力に基づいて前記左右和上限値を補正して補正後左右和上限値を求め、
前記補正後左右和上限値及び前記目標左右差に基づいて前記目標左動力及び前記目標右動力をそれぞれ補正し、
補正後の前記目標左動力及び前記目標右動力に基づいて前記左電動機(16、16a)及び前記右電動機(18、18a)を制御する
ことを特徴とする車両(10、10A)。
【請求項2】
車両(10、10A)の制御方法であって、
前記車両(10、10A)は、
左車輪(32a、36a)に機械的に接続される左電動機(16、16a)と、
右車輪(32b、36b)に機械的に接続される右電動機(18、18a)と、
前記左電動機(16、16a)が発生する動力である左動力及び前記右電動機(18、18a)が発生する動力である右動力を制御する電動機制御装置(28)と、
前記左電動機(16、16a)及び前記右電動機(18、18a)に電気的に接続される電力源(20)と
を備え、
前記電動機制御装置(28)は、
前記左動力と前記右動力との和の最大値である左右和上限値を、前記電力源(20)の供給可能電力に基づいて求め、
前記左右和上限値と、前記左動力と右動力との差の目標値である目標左右差と、前記左動力と右動力との和の目標値である目標左右和とに基づいて、前記左電動機(16、16a)用の目標左動力及び前記右電動機(18、18a)用の目標右動力をそれぞれ求め、
前記目標左動力及び前記左電動機(16、16a)の回転状態量に基づいて左損失電力を、前記目標右動力及び前記右電動機(18、18a)の回転状態量に基づいて右損失電力を求め、
前記左損失電力及び前記右損失電力に基づいて前記左右和上限値を補正して補正後左右和上限値を求め、
前記補正後左右和上限値及び前記目標左右差に基づいて、前記目標左動力及び前記目標右動力をそれぞれ補正し、
補正後の前記目標左動力及び前記目標右動力に基づいて前記左電動機(16、16a)及び前記右電動機(18、18a)を制御する
ことを特徴とする車両(10、10A)の制御方法。
【請求項3】
左車輪(32a、36a)に機械的に接続される左電動機(16、16a)と、
右車輪(32b、36b)に機械的に接続される右電動機(18、18a)と、
前記左電動機(16、16a)が発生する動力である左動力及び前記右電動機(18、18a)が発生する動力である右動力を制御する電動機制御装置(28)と、
前記左電動機(16、16a)及び前記右電動機(18、18a)に電気的に接続される電力源(20)と
を備える車両(10、10A)であって、
前記電動機制御装置(28)は、
記左電動機(16、16a)及び前記右電動機(18、18a)の目標動力差と、前記左電動機(16、16a)及び前記右電動機(18、18a)の目標動力和とが、前記左電動機(16、16a)及び前記右電動機(18、18a)それぞれの回転状態量に応じて変化する電力損失が反映された前記電力源(20)の供給可能電力の範囲内となるように制限をかけて、前記左電動機(16、16a)用の目標左動力及び前記右電動機(18、18a)用の目標右動力を設定し、
前記目標左動力及び前記目標右動力を用いて前記左電動機(16、16a)及び前記右電動機(18、18a)を制御する
ことを特徴とする車両(10、10A)。
【請求項4】
請求項3に記載の車両(10、10A)において、
前記電動機制御装置(28)は、
前記供給可能電力、前記回転状態量に応じた電力損失及び前記目標動力差に基づいて、前記左電動機(16、16a)及び前記右電動機(18、18a)の合計動力の上限値を設定し、
前記目標動力差を確保しつつ、前記目標動力和が前記合計動力の上限値を超えない範囲で前記目標左動力及び前記目標右動力を設定する
ことを特徴とする車両(10、10A)。
【請求項5】
請求項4に記載の車両(10、10A)において、
前記電動機制御装置(28)は、
前記供給可能電力及び前記回転状態量に基づいて前記合計動力の基準上限値を設定し、
前記合計動力の基準上限値及び前記回転状態量に基づいて、前記回転状態量に応じた電力損失を算出し、
前記目標左動力の制限値である左動力制限値と前記目標右動力の制限値である右動力制限値とを、前記基準上限値及び前記目標動力差に基づいて設定し、
前記左動力制限値及び前記右動力制限値並びに前記回転状態量に基づいて前記電力損失の補正値を算出し、
前記供給可能電力、前記電力損失及び前記補正値に基づいて前記合計動力の上限値を設定する
ことを特徴とする車両(10、10A)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左車輪に機械的に接続される左電動機と、右車輪に機械的に接続される右電動機とを備える車両及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許出願公開第2014/0191689号公報(以下「US 2014/0191689 A1」という。)には、車両における左右の電動発電機(電動機)の動力制御が開示されている。すなわち、US 2014/0191689 A1では、左車輪トルク等と右車輪トルク等との和を含む第1関係と、左車輪トルク等と右車輪トルク等との差を含む第2関係と、左電動発電機で発生又は消費する電力である左電力と右電動発電機で発生又は消費する電力である右電力との和を含む第3関係と想定する(請求項1)。そして、前記第1関係と前記第2関係の少なくとも一方と前記第3関係とに基づいて、前記第3関係を第1優先として満たすように左電動発電機と右電動発電機とを制御する電力優先制御を行う(請求項1)。
【0003】
US 2014/0191689 A1の電力優先制御では、力行状態の電動発電機(例えば、電動機2B)の電力P1と、回生状態の電動発電機(例えば、電動機2A)の電力P2との和がゼロとなる場合を中心に説明されている([0197]、[0217])。
【発明の概要】
【0004】
上記のように、US 2014/0191689 A1の電力優先制御では、第1関係と第2関係の少なくとも一方と第3関係とに基づいて、第3関係を第1優先として満たすように左電動発電機と右電動発電機とを制御する(請求項1)。しかしながら、第1〜第3関係の利用方法には未だ改善の余地がある。例えば、第2関係及び第3関係に加え、第1関係を利用する場合についてUS 2014/0191689 A1では詳細な検討がされていない。
【0005】
また、電力優先制御に関し、US 2014/0191689 A1では、左右の電動機の電力の和P1+P2がゼロとなる場合を中心に説明されており([0197]、[0217])、和P1+P2がゼロとならない場合について検討の余地がある。
【0006】
本発明は、上記のような課題を考慮してなされたものであり、左右の電動機の動力を好適に制御することが可能な車両及び車両の制御方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明に係る車両は、左車輪に機械的に接続される左電動機と、右車輪に機械的に接続される右電動機と、前記左電動機が発生する動力である左動力及び前記右電動機が発生する動力である右動力を制御する電動機制御装置と、前記左電動機及び前記右電動機に電気的に接続される電力源とを備えるものであって、前記電動機制御装置は、前記左動力と前記右動力との和の最大値である左右和上限値を、前記電力源の供給可能電力に基づいて求め、前記左右和上限値と、前記左動力と右動力との差の目標値である目標左右差と、前記左動力と右動力との和の目標値である目標左右和とに基づいて、前記左電動機用の目標左動力及び前記右電動機用の目標右動力をそれぞれ求め、前記目標左動力及び前記左電動機の回転状態量に基づいて左損失電力を、前記目標右動力及び前記右電動機の回転状態量に基づいて右損失電力を求め、前記左損失電力及び前記右損失電力に基づいて前記左右和上限値を補正して補正後左右和上限値を求め、前記補正後左右和上限値及び前記目標左右差に基づいて、前記目標左動力及び前記目標右動力をそれぞれ補正し、補正後の前記目標左動力及び前記目標右動力に基づいて前記左電動機及び前記右電動機を制御することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、左電動機及び右電動機の動力目標値それぞれに、左電動機及び右電動機の回転状態量に基づく電力損失を反映する。このため、左電動機及び右電動機の動力目標値を適切に設定することが可能となる。
【0009】
本発明に係る車両の制御方法は、前記車両が、左車輪に機械的に接続される左電動機と、右車輪に機械的に接続される右電動機と、前記左電動機が発生する動力である左動力及び前記右電動機が発生する動力である右動力を制御する電動機制御装置と、前記左電動機及び前記右電動機に電気的に接続される電力源とを備えるものであって、前記電動機制御装置は、前記左動力と前記右動力との和の最大値である左右和上限値を、前記電力源の供給可能電力に基づいて求め、前記左右和上限値と、前記左動力と右動力との差の目標値である目標左右差と、前記左動力と右動力との和の目標値である目標左右和とに基づいて、前記左電動機用の目標左動力及び前記右電動機用の目標右動力をそれぞれ求め、前記目標左動力及び前記左電動機の回転状態量に基づいて左損失電力を、前記目標右動力及び前記右電動機の回転状態量に基づいて右損失電力を求め、前記左損失電力及び前記右損失電力に基づいて前記左右和上限値を補正して補正後左右和上限値を求め、前記補正後左右和上限値及び前記目標左右差に基づいて、前記目標左動力及び前記目標右動力をそれぞれ補正し、補正後の前記目標左動力及び前記目標右動力に基づいて前記左電動機及び前記右電動機を制御することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る車両は、左車輪に機械的に接続される左電動機と、右車輪に機械的に接続される右電動機と、前記左電動機が発生する動力である左動力及び前記右電動機が発生する動力である右動力を制御する電動機制御装置と、前記左電動機及び前記右電動機に電気的に接続される電力源とを備えるものであって、前記電動機制御装置は、前記左電動機及び前記右電動機の目標動力差と、前記左電動機及び前記右電動機の目標動力和とが、前記左電動機及び前記右電動機それぞれの回転状態量に応じて変化する電力損失が反映された前記電力源の供給可能電力の範囲内となるように制限をかけて、前記左電動機用の目標左動力及び前記右電動機用の目標右動力を設定し、前記目標左動力及び前記目標右動力を用いて前記左電動機及び前記右電動機を制御することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、電力源の供給可能電力、左電動機及び右電動機の目標動力差並びに左電動機及び右電動機の要求動力和に加え、左電動機及び右電動機それぞれの回転状態量に応じた電力損失に基づいて目標左動力及び目標右動力(左電動機及び右電動機の目標動力)を設定する。左電動機及び右電動機それぞれにおける電力損失は、左電動機及び右電動機それぞれの回転状態量(例えば、単位時間当たりの回転数)によって変化する。このため、目標左動力及び目標右動力の設定に際し、回転状態量に応じた電力損失を用いることで、左電動機及び右電動機の動力を適切に制御することが可能となる。
【0012】
前記電動機制御装置は、前記供給可能電力、前記回転状態量に応じた電力損失及び前記目標動力差に基づいて、前記左電動機及び前記右電動機の合計動力の上限値を設定し、前記目標動力差を確保しつつ、前記目標動力和が前記合計動力の上限値を超えない範囲で前記目標左動力及び前記目標右動力を設定してもよい。これにより、電力源の供給可能電力に加え、左電動機及び右電動機それぞれの回転状態量と両電動機の目標動力差に基づいて合計動力の上限値を設定することで、左電動機及び右電動機の動力をより適切に制御することが可能となる。
【0013】
前記電動機制御装置は、前記供給可能電力及び前記回転状態量に基づいて前記合計動力の基準上限値を設定し、前記合計動力の基準上限値及び前記回転状態量に基づいて、前記回転状態量に応じた電力損失を算出し、前記目標左動力の制限値である左動力制限値と前記目標右動力の制限値である右動力制限値とを、前記基準上限値及び前記目標動力差に基づいて設定し、前記左動力制限値及び前記右動力制限値並びに前記回転状態量に基づいて前記電力損失の補正値を算出し、前記供給可能電力、前記電力損失及び前記補正値に基づいて前記合計動力の上限値を設定してもよい。
【0014】
上記によれば、左動力制限値及び右動力制限値並びに回転状態量に基づいて電力損失の補正値を算出し、供給可能電力、回転状態量に応じた電力損失及び補正値に基づいて合計動力の上限値を設定する。左動力制限値及び右動力制限値は、合計動力の基準上限値及び目標動力差に基づくものであり、基準上限値は、供給可能電力及び回転状態量に基づくものである。このため、回転状態量に応じた電力損失に加え、左動力制限値及び右動力制限値に応じた電力損失を反映することが可能となる。従って、左電動機及び右電動機の動力をさらに効率的に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る車両の駆動系及びその周辺の概略構成図である。
図2】前記実施形態における後ろ側モータの目標トルクを設定するフローチャートである。
図3】バッテリの温度及び充電状態(SOC)の組合せと前記バッテリの入力上限値及び出力上限値との関係の一例を示す図である。
図4】前記車両の力行時に目標左右トルク和を設定する左右トルク和制御のフローチャート(図2のS3の詳細の一例)である。
図5】トルク和制限値を設定するフローチャート(図4のS12の詳細)である。
図6】前記トルク和制限値の設定を説明するための第1説明図(ブロック図)である。
図7】前記トルク和制限値の設定を説明するための第2説明図である。
図8】左右それぞれのモータのトルク及びモータ回転数の組合せと、電力損失(実際の値)との関係の一例を示す図である。
図9】本発明の変形例に係る車両の駆動系及びその周辺の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
I.一実施形態
A.構成
A−1.全体構成
図1は、本発明の一実施形態に係る車両10の駆動系及びその周辺の概略構成図である。図1に示すように、車両10は、車両10の前側に直列配置されたエンジン12及び第1走行モータ14と、車両10の後ろ側に配置された第2及び第3走行モータ16、18と、高圧バッテリ20(以下「バッテリ20」ともいう。)と、第1〜第3インバータ22、24、26と、駆動電子制御装置28(以下「駆動ECU28」又は「ECU28」という。)とを有する。
【0017】
以下では、第1走行モータ14を、「第1モータ14」、「モータ14」又は「前側モータ14」ともいう。また、第2走行モータ16を、「第2モータ16」、「左側モータ16」、「モータ16」又は「後ろ側モータ16」ともいう。第3走行モータ18を、「第3モータ18」、「右側モータ18」、「モータ18」又は「後ろ側モータ18」ともいう。
【0018】
エンジン12及び第1モータ14は、トランスミッション30を介して左前輪32a及び右前輪32b(以下「前輪32」と総称する。)に駆動力又は制動力(以下「制駆動力」ともいう。)を伝達する。エンジン12及び第1モータ14は、前輪駆動装置34(操舵輪駆動装置)を構成する。
【0019】
第2モータ16は、その出力軸が左後輪36aの回転軸に接続されており、左後輪36aに制駆動力を伝達する。第3モータ18は、その出力軸が右後輪36bの回転軸に接続されており、右後輪36bに制駆動力を伝達する。第2モータ16と左後輪36aの間及び第3モータ18と右後輪36bの間それぞれに図示しない減速機を配置してもよい。第2及び第3モータ16、18は、後輪駆動装置38(非操舵輪駆動装置)を構成する。以下では、左後輪36a及び右後輪36bを合わせて後輪36と総称する。
【0020】
例えば、車両10が低車速のときに第2及び第3モータ16、18による駆動を行い、中車速のときにエンジン12及び第2及び第3モータ16、18による駆動を行い、高車速のときにエンジン12及び第1モータ14による駆動を行う。また、低車速のときには、図示しないクラッチによりエンジン12とトランスミッション30とを切り離した状態(又は接続した状態)でエンジン12により第1モータ14を駆動させることで第1モータ14による発電を行い、その発電電力を第2及び第3モータ16、18若しくは図示しない補機に供給し又はバッテリ20に充電することもできる。換言すると、第1モータ14を発電機として用いることもできる。
【0021】
高圧バッテリ20は、第1〜第3インバータ22、24、26を介して第1〜第3モータ14、16、18に電力を供給すると共に、第1〜第3モータ14、16、18からの回生電力Pregを充電する。
【0022】
駆動ECU28は、各種センサ及び各電子制御装置(以下「ECU」という。)からの出力に基づいてエンジン12及び第1〜第3インバータ22、24、26を制御することにより、エンジン12及び第1〜第3モータ14、16、18の出力を制御する。駆動ECU28は、入出力部40、演算部42及び記憶部44を有する。また、駆動ECU28は、複数のECUを組み合わせたものであってもよい。例えば、エンジン12及び第1〜第3モータ14、16、18それぞれに対応して設けた複数のECUと、エンジン12及び第1〜第3モータ14、16、18の駆動状態を管理するECUとにより駆動ECU28を構成してもよい。
【0023】
駆動ECU28に対して出力する各種センサには、例えば、温度センサ50、SOCセンサ52、車速センサ54、アクセルペダル開度センサ56、舵角センサ58及び回転数センサ60がある。
【0024】
A−2.各部の構成及び機能
エンジン12は、例えば、6気筒型エンジンであるが、2気筒、4気筒又は8気筒型等のその他のエンジンであってもよい。また、エンジン12は、ガソリンエンジンに限らず、ディーゼルエンジン、空気エンジン等のエンジンとすることができる。
【0025】
第1〜第3モータ14、16、18は、例えば、3相交流ブラシレス式であるが、3相交流ブラシ式、単相交流式、直流式等のその他のモータであってもよい。第1〜第3モータ14、16、18の仕様は等しくても異なるものであってもよい。また、第2モータ16と左後輪36aの間及び第3モータ18と右後輪36bの間それぞれに図示しない減速機を配置し、それぞれの減速機の減速比を可変としてもよい。
【0026】
第1〜第3インバータ22、24、26は、3相ブリッジ型の構成とされて、直流/交流変換を行い、直流を3相の交流に変換して第1〜第3モータ14、16、18に供給する一方、第1〜第3モータ14、16、18の回生動作に伴う交流/直流変換後の直流を高圧バッテリ20に供給する。
【0027】
高圧バッテリ20は、複数のバッテリセルを含む蓄電装置(エネルギストレージ)であり、例えば、リチウムイオン2次電池、ニッケル水素2次電池又はキャパシタ等を利用することができる。本実施形態ではリチウムイオン2次電池を利用している。なお、第1〜第3インバータ22、24、26と高圧バッテリ20との間に図示しないDC/DCコンバータを設け、高圧バッテリ20の出力電圧又は第1〜第3モータ14、16、18の出力電圧を昇圧又は降圧してもよい。
【0028】
車両10の駆動系の構成としては、例えば、US 2014/0191689 A1又は米国特許出願公開第2012/0015772号公報に記載のものを用いることができる。例えば、US 2014/0191689 A1と同様、図示しない油圧ポンプ、ソレノイド、ワンウェイクラッチ、油圧ブレーキ等を第2及び第3モータ16、18側に設け、必要に応じて駆動ECU28で制御することにより、第2及び第3モータ16、18の動作を制御することができる(US 2014/0191689 A1の図11参照)。
【0029】
温度センサ50は、バッテリ20の温度(以下「バッテリ温度Tbat」又は「温度Tbat」という。)[℃]を検出する。SOCセンサ52は、バッテリ20の充電状態(SOC:State of Charge)[%]を検出する。車速センサ54は、車速V[km/h]を検出する。アクセルペダル開度センサ56は、図示しないアクセルペダルの開度(以下「アクセル開度θap」という。)を検出する。
【0030】
舵角センサ58は、ステアリングホイール70の操舵角θst[度]を検出する。回転数センサ60は、第1〜第3モータ14、16、18の単位時間当たりの回転数Nmot(以下、「回転数Nmot」又は「モータ回転数Nmot」ともいう。)[rpm]を検出する。以下では、第2及び第3モータ16、18の回転数Nmotを「回転数NmotL、NmotR」又は「モータ回転数NmotL、NmotR」ともいう。
【0031】
B.後ろ側モータ16、18の出力制御
B−1.概要
図2は、本実施形態における後ろ側モータ16、18の目標トルク(以下「目標モータトルクTM1、TM2」又は「目標トルクTM1、TM2」ともいう。)を設定するフローチャートである。ECU28は、図2のフローを用いて算出した目標トルクTM1、TM2に基づいてモータ16、18を制御することで後輪36a、36bのトルク(以下「車輪トルクT1、T2」又は「トルクT1、T2」ともいう。)が目標トルク(以下「目標車輪トルクTT1、TT2」又は「目標トルクTT1、TT2」ともいう。)となるように制御する。図2の各ステップS1〜S5は、所定の演算周期毎に繰り返される。
【0032】
なお、図2の制御は、車両10の駆動状態が「RWD」(後輪駆動:Rear Wheel Drive)及びRWDに付随する回生状態である場合のものである。本実施形態の駆動状態には、RWDに加え、「FWD」(前輪駆動:Front Wheel Drive)及び「AWD」(前後輪駆動:All Wheel Drive)が含まれ、車両10全体での要求負荷等に応じて切り替えられる。RWD及びFWDは、いずれも2輪駆動(2WD)であり、AWDは、4輪駆動(4WD)である。
【0033】
図2のステップS1において、ECU28は、バッテリ保護制御の一環として、バッテリ20の入力上限値αの初期値α1[W]と、出力上限値βの初期値β1[W]とを設定する。入力上限値αは、バッテリ20を充電する際の電力の上限値である。出力上限値βは、バッテリ20が放電(発電)する際の電力の上限値である。バッテリ20からの放電(発電)電力を正の値とし、バッテリ20への充電電力を負の値とする場合、入力上限値αは負の値であり、出力上限値βは正の値である。バッテリ保護制御は、バッテリ20の出力を制限することでバッテリ20を保護するための制御であり、US 2014/0191689 A1における電力優先制御に相当する。
【0034】
図3は、バッテリ20の温度Tbat及びSOCの組合せとバッテリ20の入力上限値α及び出力上限値βとの関係の一例を示す図である。図3では、バッテリ20に充電する場合の電力(上限値α)を負の値とし、バッテリ20が放電(発電)する場合の電力(上限値β)を正の値としている。
【0035】
図3からわかるように、一部の例外を除き、バッテリ温度Tbatが高くなるほど又はSOCが低くなるほど、上限値α(絶対値)が大きくなる傾向にある。また、バッテリ温度Tbatが高くなるほど又はSOCが高くなるほど、上限値β(絶対値)が大きくなる傾向にある。そこで、本実施形態において、ECU28は、温度センサ50から取得したバッテリ温度Tbatと、SOCセンサ52から取得したバッテリSOCとに基づいて、上限値α、βの初期値α1、β1を設定する。すなわち、ECU28は、バッテリ温度Tbat及びSOCの組合せと初期値α1、β1とを関連付けた図示しないマップ(初期値マップ)を記憶部44に記憶しておき、当該初期値マップを用いて初期値α1、β1を設定する。
【0036】
ステップS2において、ECU28は、目標左右トルク差ΔTT(以下「目標トルク差ΔTT」又は「トルク差ΔTT」ともいう。)を設定する(左右トルク差制御)。トルク差ΔTTは、左後輪36aの目標トルクTT1と右後輪36bの目標トルクTT2との差を意味し、次の式(1)で定義される。
ΔTT=TT1−TT2 ・・・(1)
【0037】
また、トルク差ΔTTは、以下の式(2)に基づいて算出される。
ΔTT=2r・YMT/Tr ・・・(2)
【0038】
上記式(2)において、rは、後輪36a、36bの半径であり、YMTは、目標ヨーモーメントであり、Trは、トレッド幅(左右後輪36a、36b間の距離)である。目標ヨーモーメントYMTは、例えば、舵角センサ58からの操舵角θstと車速センサ54からの車速Vとに基づいて設定される。半径r及びトレッド幅Trは固定値であり、目標ヨーモーメントYMTは変数である。
【0039】
ECU28は、目標ヨーモーメントYMTを設定するためのパラメータ又は目標ヨーモーメントYMT自体と、目標トルク差ΔTTとを関連付けた図示しないマップ(目標トルク差マップ)を記憶部44に記憶しておく。そして、当該マップを用いて目標トルク差ΔTTを設定する。
【0040】
ステップS3において、ECU28は、目標左右トルク和TRT(以下「目標トルク和TRT」又は「トルク和TRT」ともいう。)を設定する(左右トルク和制御)。トルク和TRTは、左後輪36aの目標トルクTT1と右後輪36bの目標トルクTT2との和を意味し、次の式(3)で定義される。
TRT=TT1+TT2 ・・・(3)
【0041】
トルク和TRTの設定については図4を参照して後述する。
【0042】
ステップS4において、ECU28は、目標トルク差ΔTT(S2)及び目標トルク和TRT(S3)に基づいて目標車輪トルクTT1、TT2を算出する。すなわち、上記式(1)及び式(3)より、下記の式(4)及び式(5)が導かれるため、目標トルク差ΔTT及び目標トルク和TRTに基づいて目標車輪トルクTT1、TT2を算出することができる。
TT1=(TRT+ΔTT)/2 ・・・(4)
TT2=(TRT−ΔTT)/2 ・・・(5)
【0043】
ステップS5において、ECU28は、ステップS4で算出した目標車輪トルクTT1、TT2に基づいて、インバータ24、26を介して後ろ側モータ16、18を制御する。より具体的には、モータ16、18の目標トルクTM1、TM2を、以下の式(6)及び式(7)を用いて目標車輪トルクTT1、TT2に基づいて算出する。
TM1=(1/R1)・TT1 ・・・(6)
TM2=(1/R2)・TT2 ・・・(7)
【0044】
式(6)において、R1は、モータ16と左後輪36aとの間に配置された図示しない減速機の減速比(減速機を設けない場合、R1は1となる。)であり、式(7)において、R2は、モータ18と右後輪36bとの間に配置された図示しない減速機の減速比(減速機を設けない場合、R2は1となる。)である。
【0045】
B−2.左右トルク和制御
(1−1.左右トルク和制御の概要)
図4は、車両10の力行時に目標左右トルク和TRTを設定する左右トルク和制御のフローチャート(図2のS3の詳細の一例)である。なお、車両10の回生時については、入力上限値αを用いて同様の処理を行うことが可能である。
【0046】
ステップS11において、ECU28は、要求左右トルク和TRT_req(以下「要求トルク和TRT_req」ともいう。)を設定する。要求トルク和TRT_reqは、車輪トルクT1、T2の合計値(左右トルク和)に関する運転者からの要求値である。要求トルク和TRT_reqは、例えば、アクセルペダル開度センサ56からのアクセル開度θapと、回転数センサ60からのモータ回転数Nmotとに基づいて設定される。ここで用いるモータ回転数Nmotは、例えば、第2及び第3モータ16、18の回転数NmotL、NmotRの平均値又は最大値を用いることができる。
【0047】
或いは、車両10側で車速Vを自動的に調整する制御(クルーズ走行制御等)において車両10で設定される図示しないスロットル弁の目標開度と、回転数NmotL、NmotRとに基づいて要求トルク和TRT_reqを制御してもよい。或いは、モータ回転数Nmotの代わりに、車速Vを用いることも可能である。
【0048】
ECU28は、アクセル開度θap及びモータ回転数Nmotの組合せと要求トルク和TRT_reqとを関連付けた図示しないマップ(要求トルク和マップ)を記憶部44に記憶しておく。そして、当該要求トルク和マップを用いて要求トルク和TRT_reqを設定する。
【0049】
ステップS12において、ECU28は、トルク和制限値TRT_lim2(以下「制限値TRT_lim2」ともいう。)を設定する。制限値TRT_lim2は、要求トルク和TRT_reqに対する制限値(上限値)であり、出力上限値βの初期値β1、左右トルク差ΔTT等を考慮して設定される。トルク和制限値TRT_lim2の設定の詳細については、図5を参照して後述する。
【0050】
ステップS13において、ECU28は、要求トルク和TRT_reqが制限値TRT_lim2以下であるか否かを判定する。要求トルク和TRT_reqが制限値TRT_lim2以下である場合(S13:YES)、ステップS14において、ECU28は、要求トルク和TRT_reqをそのまま目標トルク和TRTとする(TRT←TRT_req)。要求トルク和TRT_reqが制限値TRT_lim2以下でない場合(S13:NO)、ステップS15において、ECU28は、トルク和制限値TRT_lim2を目標トルク和TRTとする(TRT←TRT_lim2)。
【0051】
(1−2.トルク和制限値TRT_lim2の設定)
図5は、トルク和制限値TRT_lim2を設定するフローチャート(図4のS12の詳細)である。図6は、トルク和制限値TRT_lim2の設定を説明するための第1説明図(ブロック図)である。図7は、トルク和制限値TRT_lim2の設定を説明するための第2説明図である。図7では、車両10が右方向(時計回り)に旋回する場合の例が示されている。
【0052】
図5のステップS21において、ECU28は、バッテリ20の出力上限値β及びモータ回転数Nmotに基づいて、トルク和基準制限値TRT_lim1(以下「基準制限値TRT_lim1」又は「制限値TRT_lim1」ともいう。)を算出する。制限値TRT_lim1は、出力上限値β及びモータ回転数Nmotに対応して設定される要求トルク和TRT_reqの制限値である。
【0053】
ここでの出力上限値βは初期値β1を意味しているが、後述するように、出力上限値βの補正を複数回行う場合、補正後の出力上限値βをも意味する。また、ここでのモータ回転数Nmotは、例えば、第2及び第3モータ16、18の回転数NmotL、NmotRの平均値又は最大値を用いることができる。
【0054】
本実施形態において、制限値TRT_lim1は、バッテリ20からモータ16、18に電力を供給する際の電力損失(例えば、インバータ24、26における電力変換に伴う損失及びモータ16、18での発熱に伴う損失)を考慮して設定される。
【0055】
図7の中央(第2行第2列)に示すように、要求トルク和TRT_reqが、基準制限値TRT_lim1を上回っていた場合、目標トルク和TRTは、基準制限値TRT_lim1以下に制限される。この場合、右旋回時の目標左右トルク差ΔTTを維持するためには、左後輪36aの正方向(力行方向)のトルクT1(絶対値)を小さくし、右後輪36bの負方向(回生方向)のトルクT2(絶対値)を大きくする(図7の中央下側(第3行第2列)参照)。
【0056】
ECU28は、出力上限値β及びモータ回転数Nmotの組合せとトルク和基準制限値TRT_lim1とを関連付けたマップ100(トルク和基準制限値マップ100)(図6)を記憶部44に記憶しておく。そして、当該マップ100を用いて制限値TRT_lim1を設定する。
【0057】
図5のステップS22において、ECU28は、制限値TRT_lim1(S21)及び目標左右トルク差ΔTT(図2のS2)に基づいて左トルク制限値TR_limL及び右トルク制限値TR_limRを設定する。左トルク制限値TR_limLは、制限値TRT_lim1及び目標左右トルク差ΔTTに対応して決まる左側モータ16の目標トルクTT1の制限値(上限値)である。右トルク制限値TR_limRは、制限値TRT_lim1及び目標左右トルク差ΔTTに対応して決まる右側モータ18の目標トルクTT2の制限値(上限値)である。
【0058】
ECU28は、制限値TRT_lim1及び目標トルク差ΔTTの組合せと制限値TR_limL、TR_limRとを関連付けたマップ102(トルク制限値マップ102)(図6)を記憶部44に記憶しておく。そして、マップ102を用いて制限値TR_limL、TR_limRを設定する。
【0059】
ステップS23において、ECU28は、基準制限値TRT_lim1とモータ回転数Nmotに基づいて電力損失L1を設定する。電力損失L1は、モータ回転数Nmotに応じてモータ16、18それぞれで生じる電力損失L1L、L1Rの合計値である(L1=L1L+L1R)。ここで用いるモータ回転数Nmotは、例えば、第2及び第3モータ16、18の回転数NmotL、NmotRの平均値又は最大値を用いることができる。モータ回転数Nmotとして回転数NmotL、NmotRの平均値を用いる場合、モータ16、18の出力が等しい状態でモータ16、18のトルクの和が制限値TRT_lim1と等しい場合(各モータ16、18のトルクが制限値TRT_lim1の半分である場合)、すなわち、L1L=L1Rの場合を意味する。
【0060】
ECU28は、基準制限値TRT_lim1とモータ回転数Nmotの組合せと電力損失L1とを関連付けたマップ104(電力損失マップ104)(図6)を記憶部44に記憶しておく。そして、当該マップ104を用いて電力損失L1を設定する。
【0061】
ステップS24において、ECU28は、左トルク制限値TR_limL及び右トルク制限値TR_limRとモータ回転数NmotL、NmotRと電力損失L1とに基づいて電力損失補正値L2(以下「損失補正値L2」又は「補正値L2」ともいう。)を設定する。補正値L2は、左側モータ16の電力損失補正値L2Lと右側モータ18の電力損失補正値L2Rの合計値である(L2=L2L+L2R)。
【0062】
電力損失補正値L2Lは、左後輪36aのトルクT1が制限値TR_limLと等しい場合にモータ回転数NmotLに応じて左側モータ16で生じる電力損失Llと電力損失L1Lの差(L1L−Ll=(L1/2)−Ll)である。同様に、電力損失補正値L2Rは、右後輪36bのトルクT2が制限値TR_limRと等しい場合にモータ回転数NmotRに応じて右側モータ18で生じる電力損失Lrと電力損失L1Rの差(L1R−Lr=(L1/2)−Lr)である。
【0063】
図8は、電力損失補正値L2の考え方を示す。具体的には、図8は、左右それぞれのモータ16、18のトルクt1、t2(以下「モータトルクt1、t2」ともいう。)及びモータ回転数Nmot(NmotL、NmotR)の組合せと、電力損失L(実際の値)との関係の一例を示す。図8からわかるように、各モータ16、18における電力損失Lは、モータトルクt1、t2又はモータ回転数Nmotが増加するほど大きくなる。
【0064】
上記のように、電力損失L1は、例えば、左右のモータ16、18のトルクt1、t2が等しい場合を想定している。また、目標左右トルク差ΔTTを実現するためには、左右のモータ16、18のトルクt1、t2が相違すると共にモータ回転数NmotL、NmotRが互いに異なる場合が生じる。このため、目標左右トルク差ΔTTを実現する際に、電力損失L1のみを用いると誤差が大きくなるおそれがある。
【0065】
そこで、本実施形態では、損失補正値L2を用いることで、バッテリ20の出力上限値βに反映する電力損失Lの誤差を小さくすることが可能となる。その結果、目標左右トルク和TRTを適切に設定することが可能となる。
【0066】
ECU28は、左トルク制限値TR_limLとモータ回転数NmotLの組合せと電力損失Llを関連付けると共に、右トルク制限値TR_limRとモータ回転数NmotRの組合せと電力損失Lrとを関連付けたマップ106(損失補正値マップ106)(図6)を記憶部44に記憶しておく。そして、マップ104で設定した電力損失L1とマップ106で設定した電力損失Ll、Lrとを用いて損失補正値L2を設定する。
【0067】
或いは、ECU28は、左トルク制限値TR_limLとモータ回転数NmotLの組合せと補正値L2Lとを関連付けた図示しないマップ(左損失補正値マップ)と、右トルク制限値TR_limRとモータ回転数NmotRの組合せと補正値L2Rとを関連付けた図示しないマップ(右損失補正値マップ)とを別々に記憶部44に記憶しておいてもよい。この場合、これらのマップを用いて補正値L2L、L2Rを算出し、両補正値L2L、L2Rを加算して補正値L2を算出することができる。
【0068】
図5のステップS25において、ECU28の加算器108(図6)は、バッテリ20の出力上限値β(例えば、初期値β1)から電力損失L1を減算すると共に補正値L2を加算した新たな出力上限値β(例えば、初期値β1に基づく出力上限値β2)を算出する。以下では、この新たな出力上限値βを補正上限値β’ともいう(β’=β−L1+L2)。
【0069】
ステップS26において、ECU28は、補正上限値β’とモータ回転数Nmotに基づいてトルク和制限値TRT_lim2を設定する。制限値TRT_lim2は、トルク和基準制限値TRT_lim1に対して、左トルク制限値TR_limL及びモータ回転数NmotLの組合せに応じた電力損失Lの変化並びに右トルク制限値TR_limR及びモータ回転数NmotRの組合せに応じた電力損失Lの変化を考慮したものである。ここでのモータ回転数Nmotは、例えば、第2及び第3モータ16、18の回転数NmotL、NmotRの平均値又は最大値を用いることができる。
【0070】
ECU28は、補正上限値β’及びモータ回転数Nmotと制限値TRT_lim2とを関連付けたマップ110(トルク和制限値マップ110)(図6)を記憶部44に記憶しておく。そして、マップ110を用いて制限値TRT_lim2を設定する。
【0071】
図7の中央右側(第2行第3列)に示すように、基準制限値TRT_lim1が、制限値TRT_lim2を上回っていた場合、目標トルク和TRTは、制限値TRT_lim2に設定される。この場合、目標トルク差ΔTTを維持するためには、左後輪36aの正方向(力行方向)の目標トルクTT1を小さくし、右後輪36bの負方向(回生方向)の目標トルクTT2(絶対値)を大きくする(図7の右下(第3行第3列)参照)。反対に、基準制限値TRT_lim1が、制限値TRT_lim2を下回っていた場合、目標トルク和TRTを制限値TRT_lim2まで増加させる。この場合、目標トルク差ΔTTを維持するためには、左後輪36aの正方向(力行方向)の目標トルクTT1を大きくし、右後輪36bの負方向(回生方向)の目標トルクTT2(絶対値)を小さくする。
【0072】
C.本実施形態の効果
以上のように、本実施形態によれば、左側モータ16(左電動機)及び右側モータ18(右電動機)の目標トルクTT1、TT2(動力目標値)それぞれに、モータ16、18の回転数NmotL、NmotR(回転状態量)に基づく損失補正値L2(電力損失)を反映する。このため、モータ16、18の目標トルクTT1、TT2を適切に設定することが可能となる。
【0073】
本実施形態において、ECU28(電動機制御装置)は、出力上限値β(供給可能電力)、モータ回転数NmotL、NmotR(回転状態量)に応じた電力損失L1及び補正値L2並びに目標左右トルク差ΔTT(目標動力差)に基づいて、トルク和制限値TRT_lim2(合計動力の上限値)を設定する(図4のS12、図5)。そして、ECU28は、目標トルク差ΔTTを確保しつつ、要求左右トルク和TRT_req(要求動力和)が制限値TRT_lim2を超えない範囲で目標モータトルクTM1(目標左動力)及び目標モータトルクTM2(目標右動力)を設定する(図4のS13〜S15、図2のS4、S5)。
【0074】
これにより、出力上限値β(バッテリ20(電力源)の供給可能電力)に加え、モータ回転数NmotL、NmotR(回転状態量)と目標トルク差ΔTTに基づいて制限値TRT_lim2を設定することで、左右モータ16、18のトルクt1、t2(動力)をより適切に制御することが可能となる。
【0075】
本実施形態において、ECU28(電動機制御装置)は、出力上限値β(供給可能電力)及びモータ回転数Nmot(回転状態量)に基づいてトルク和基準制限値TRT_lim1(合計動力の基準上限値)を設定する(図5のS21、図6)。また、ECU28は、基準制限値TRT_lim1及びモータ回転数Nmotに基づいて、モータ回転数Nmotに応じた電力損失L1を算出する(S23、図6)。さらに、ECU28は、左トルク制限値TR_limL(左動力制限値)と右トルク制限値TR_limR(右動力制限値)とを、基準制限値TRT_lim1及び目標左右トルク差ΔTTに基づいて設定する(S22、図6)。さらにまた、ECU28は、制限値TR_limL、TR_limR及びモータ回転数NmotL、NmotRに基づいて補正値L2を算出する(S24、図6)。ECU28は、出力上限値β、電力損失L1及び補正値L2に基づいてトルク和制限値TRT_lim2(合計動力の上限値)を設定する(S26、図6)。
【0076】
上記によれば、左右トルク制限値TR_limL、TR_limR及びモータ回転数NmotL、NmotRに基づいて電力損失L1の補正値L2を算出し、出力上限値β、電力損失L1及び補正値L2に基づいてトルク和制限値TRT_lim2を設定する。制限値TR_limL、TR_limRは、基準制限値TRT_lim1及び目標トルク差ΔTTに基づくものであり、基準制限値TRT_lim1は、出力上限値β及びモータ回転数Nmotに基づくものである(図6)。このため、モータ回転数Nmotに応じた電力損失に加え、左右制限値TR_limL、TR_limRに応じた電力損失を反映することが可能となる。従って、モータ16、18のトルクt1、t2(動力)をさらに効率的に制御することが可能となる。
【0077】
II.変形例
なお、本発明は、上記実施形態に限らず、本明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。例えば、以下の構成を採用することができる。
【0078】
A.車両10(適用対象)
上記実施形態では、自動四輪車である車両10について説明した(図1)。しかしながら、例えば、左右モータ16、18の回転数NmotL、NmotR(又は左右後輪36a、36bの単位時間当たりの回転数[rpm])に基づく電力損失を反映する観点からすれば、自動四輪車以外であっても、左右の駆動輪を有する車両に本発明を適用可能である。例えば、車両10は、自動三輪車及び自動六輪車のいずれかとすることも可能である。
【0079】
上記実施形態では、車両10は、1つのエンジン12及び3つの走行モータ14、16、18を駆動源として有したが、駆動源はこの組合せに限らない。例えば、車両10は、前輪32用の1つ又は複数の走行モータと、後輪36用の1つ又は複数の走行モータを駆動源として有してもよい。また、全ての車輪それぞれに個別の走行モータ(いわゆるインホイールモータを含む。)を割り当てる構成も可能である。
【0080】
図9は、本発明の変形例に係る車両10Aの駆動系及びその周辺の概略構成図である。車両10Aでは、上記実施形態に係る車両10の前輪駆動装置34及び後輪駆動装置38の構成が反対になっている。すなわち、車両10Aの前輪駆動装置34aは、車両10Aの前側に配置された第2及び第3走行モータ16a、18aを備える。また、車両10Aの後輪駆動装置38aは、車両10Aの後ろ側に直列配置されたエンジン12a及び第1走行モータ14aを備える。
【0081】
B.第1〜第3走行モータ14、16、18
上記実施形態では、第1〜第3走行モータ14、16、18を3相交流ブラシレス式としたが、これに限らない。例えば、第1〜第3走行モータ14、16、18を3相交流ブラシ式、単相交流式又は直流式としてもよい。
【0082】
C.バッテリ20(電力源)
上記実施形態では、第2及び第3走行モータ16、18に対する電力源としてバッテリ20及び第1モータ14(エンジン12からの駆動力により発電している場合)を用いた。しかしながら、例えば、モータ16、18の回転数NmotL、NmotRに基づく電力損失をモータ16、18の制御に反映する観点からすれば、これに限らない。例えば、第1モータ14による発電を行わない構成も可能である。或いは、バッテリ20に加え又はこれに代えて、燃料電池等のその他の電力源を用いることも可能である。
【0083】
D.駆動ECU28による制御
D−1.駆動状態の切替え
上記実施形態において、ECU28は、車両10の駆動状態としてFWD、RWD及びAWDを切替え可能とした。しかしながら、例えば、モータ16、18の回転数NmotL、NmotRに基づく電力損失をモータ16、18の制御に反映する観点からすれば、左右の駆動輪(上記実施形態における左右後輪36a、36b)による駆動を行う駆動状態を含めば、これに限らない。例えば、RWDのみが可能な構成にも適用することができる。
【0084】
D−2.左右後輪36a、36b(左右の駆動輪)の制御パラメータ
上記実施形態では、左右後輪36a、36bのトルクT1、T2を制御するための制御パラメータとして目標トルクTT1、TT2を用いた。しかしながら、左右後輪36a、36bのトルクT1、T2を制御する観点からすれば、これに限らない。例えば、上記実施形態では、目標車輪トルクTT1、TT2を演算した上で、目標モータトルクTM1、TM2を算出したが、目標車輪トルクTT1、TT2の演算を経ずに目標モータトルクTM1、TM2を算出することも可能である。或いは、目標トルクTT1、TT2[N・m]の代わりに、駆動力及び制動力の少なくとも一方を含む制駆動力[N]を用いることも可能である。或いは、モータ16、18の出力の目標値[W]又はモータ16、18に対する出力電流の目標値[A]を用いることも可能である。
【0085】
上記実施形態では、トルク和制限値TRT_lim2を設定する際に用いるモータ16、18の回転状態量としてモータ回転数Nmot(NmotL、NmotR)を用いた。しかしながら、例えば、モータ16、18の回転状態量に基づく電力損失をモータ16、18の制御に反映する観点からすれば、モータ回転数Nmot以外のパラメータ(例えば、後輪36a、36bの回転速度)を用いることも可能である。
【0086】
D−3.入力上限値α、出力上限値β及びトルク和制限値TRT_lim2
上記実施形態では、左右後輪36a、36bのトルクT1、T2の合計が正の値である場合について出力上限値βと関連付けて説明した。しかしながら、例えば、左右モータ16、18の回転数NmotL、NmotRに基づく電力損失(図8)を反映する観点からすれば、左右後輪36a、36bのトルクT1、T2の合計が負の値である場合について入力上限値αと関連付けた制御を行うことも可能である。この場合、バッテリ温度Tbat及びSOCの組合せから入力上限値αの初期値α1を設定した上、モータ16、18の回生に伴う電力損失を反映した補正上限値α’を用いて、目標車輪トルクTT1、TT2及び目標モータトルクTM1、TM2を算出することが可能である。
【0087】
上記実施形態では、バッテリ20の入力上限値α及び出力上限値βの両方を用いた(図2のS1)。しかしながら、例えば、モータ16、18の回転数NmotL、NmotRに基づく電力損失(図8)を反映する観点からすれば、いずれか一方のみを用いることも可能である。
【0088】
上記実施形態では、出力上限値βの初期値β1を、バッテリ20の温度Tbat及びSOCに基づいて設定した(図2のS1)。しかしながら、例えば、初期値β1を設定する観点からすれば、温度Tbat及びSOCのいずれか一方のみを用いることも可能である。
【0089】
上記実施形態では、出力上限値βの補正を1回のみ行う場合について説明した(図5)。しかしながら、例えば、左右モータ16、18の回転数NmotL、NmotRに基づく電力損失を反映する観点からすれば、出力上限値βの補正を複数回行うことも可能である。この場合、補正上限値β’を新たな出力上限値βとして再度電力損失L1及び損失補正値L2を算出して新たな補正上限値β’を算出することを少なくとも1回行うこととなる。
【0090】
上記実施形態では、出力上限値βに対して電力損失L1及び損失補正値L2を反映させる場合について説明した(図5図7)。しかしながら、例えば、バッテリ20の出力過多を防止しつつ、目標トルク差ΔTTを実現する観点からすれば、これに限らない。
【0091】
すなわち、電力源の供給可能電力(バッテリ20の出力上限値β等)と、左右モータ16、18それぞれの回転状態量(回転数NmotL、NmotR等)と、左右モータ16、18の目標動力差(目標トルク差ΔTT等)とに基づいて、左右モータ16、18の合計動力の上限値(トルク和制限値TRT_lim2)を設定する。そして、目標トルク和TRT(絶対値)をトルク和制限値TRT_lim2(絶対値)よりも小さくすれば、バッテリ20の出力過多を防止しつつ、目標トルク差ΔTTを実現することが可能となる。
【0092】
例えば、ECU28は、バッテリ温度Tbat、バッテリSOC、モータ回転数Nmot(NmotL、NmotR)及び目標トルク差ΔTTと、トルク和制限値TRT_lim2とを関連付けた図示しないマップ(トルク和制限値マップ)を記憶部44に記憶しておき、当該マップを用いてトルク和制限値TRT_lim2を設定することも可能である。
【0093】
或いは、ECU28は、バッテリ20の出力上限値βの初期値β1、モータ回転数Nmot(NmotL、NmotR)及び目標トルク差ΔTTと、トルク和制限値TRT_lim2とを関連付けた図示しないマップ(トルク和制限値マップ)を記憶部44に記憶しておき、当該マップを用いて制限値TRT_lim2を設定してもよい。この場合、初期値β1の設定は、上述した初期値マップを用いる。
【0094】
上記実施形態では、トルク和制限値TRT_lim2を算出した後、目標トルク和TRTを算出する場合について説明した(図4)。しかしながら、例えば、バッテリ20の出力過多を防止しつつ、目標トルク差ΔTTを実現する観点からすれば、これに限らない。
【0095】
例えば、電力源の供給可能電力(バッテリ20の出力上限値β等)又はこれを設定するためのパラメータ(バッテリ20の温度Tbat、SOC等)と、左右モータ16、18それぞれの回転状態量(回転数NmotL、NmotR等)と、左右モータ16、18の目標動力差(目標トルク差ΔTT等)と、左右モータ16、18の目標動力和(要求トルク和TRT_req等)と、目標車輪トルクTT1、TT2又は目標モータトルクTM1、TM2とを関連付けた図示しないマップ(目標トルクマップ)を記憶部44に記憶しておき、当該マップを用いて目標車輪トルクTT1、TT2又は目標モータトルクTM1、TM2を設定してもよい。
【要約】
車両(10)及びその制御方法では、電動機制御装置(28)は、電力源(20)の供給可能電力(β)と、左電動機(16)及び右電動機(18)それぞれの回転状態量(Nmot)に応じた電力損失(L1、L2)と、左電動機(16)及び右電動機(18)の目標動力差(ΔTT)と、左電動機(16)及び右電動機(18)の目標動力和(TRT_req)とに基づいて、目標左動力(TM1)及び目標右動力(TM2)を設定し、目標左動力(TM1)及び目標右動力(TM2)を用いて左電動機(16)及び右電動機(18)を制御する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9