(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
I.一実施形態
A.構成
A−1.全体構成
図1は、本発明の一実施形態に係る車両10の駆動系及びその周辺の概略構成図である。
図1に示すように、車両10は、車両10の前側に直列配置されたエンジン12及び第1走行モータ14と、車両10の後ろ側に配置された第2及び第3走行モータ16、18と、高圧バッテリ20(以下「バッテリ20」ともいう。)と、第1〜第3インバータ22、24、26と、駆動電子制御装置28(以下「駆動ECU28」又は「ECU28」という。)とを有する。
【0017】
以下では、第1走行モータ14を、「第1モータ14」、「モータ14」又は「前側モータ14」ともいう。また、第2走行モータ16を、「第2モータ16」、「左側モータ16」、「モータ16」又は「後ろ側モータ16」ともいう。第3走行モータ18を、「第3モータ18」、「右側モータ18」、「モータ18」又は「後ろ側モータ18」ともいう。
【0018】
エンジン12及び第1モータ14は、トランスミッション30を介して左前輪32a及び右前輪32b(以下「前輪32」と総称する。)に駆動力又は制動力(以下「制駆動力」ともいう。)を伝達する。エンジン12及び第1モータ14は、前輪駆動装置34(操舵輪駆動装置)を構成する。
【0019】
第2モータ16は、その出力軸が左後輪36aの回転軸に接続されており、左後輪36aに制駆動力を伝達する。第3モータ18は、その出力軸が右後輪36bの回転軸に接続されており、右後輪36bに制駆動力を伝達する。第2モータ16と左後輪36aの間及び第3モータ18と右後輪36bの間それぞれに図示しない減速機を配置してもよい。第2及び第3モータ16、18は、後輪駆動装置38(非操舵輪駆動装置)を構成する。以下では、左後輪36a及び右後輪36bを合わせて後輪36と総称する。
【0020】
例えば、車両10が低車速のときに第2及び第3モータ16、18による駆動を行い、中車速のときにエンジン12及び第2及び第3モータ16、18による駆動を行い、高車速のときにエンジン12及び第1モータ14による駆動を行う。また、低車速のときには、図示しないクラッチによりエンジン12とトランスミッション30とを切り離した状態(又は接続した状態)でエンジン12により第1モータ14を駆動させることで第1モータ14による発電を行い、その発電電力を第2及び第3モータ16、18若しくは図示しない補機に供給し又はバッテリ20に充電することもできる。換言すると、第1モータ14を発電機として用いることもできる。
【0021】
高圧バッテリ20は、第1〜第3インバータ22、24、26を介して第1〜第3モータ14、16、18に電力を供給すると共に、第1〜第3モータ14、16、18からの回生電力Pregを充電する。
【0022】
駆動ECU28は、各種センサ及び各電子制御装置(以下「ECU」という。)からの出力に基づいてエンジン12及び第1〜第3インバータ22、24、26を制御することにより、エンジン12及び第1〜第3モータ14、16、18の出力を制御する。駆動ECU28は、入出力部40、演算部42及び記憶部44を有する。また、駆動ECU28は、複数のECUを組み合わせたものであってもよい。例えば、エンジン12及び第1〜第3モータ14、16、18それぞれに対応して設けた複数のECUと、エンジン12及び第1〜第3モータ14、16、18の駆動状態を管理するECUとにより駆動ECU28を構成してもよい。
【0023】
駆動ECU28に対して出力する各種センサには、例えば、温度センサ50、SOCセンサ52、車速センサ54、アクセルペダル開度センサ56、舵角センサ58及び回転数センサ60がある。
【0024】
A−2.各部の構成及び機能
エンジン12は、例えば、6気筒型エンジンであるが、2気筒、4気筒又は8気筒型等のその他のエンジンであってもよい。また、エンジン12は、ガソリンエンジンに限らず、ディーゼルエンジン、空気エンジン等のエンジンとすることができる。
【0025】
第1〜第3モータ14、16、18は、例えば、3相交流ブラシレス式であるが、3相交流ブラシ式、単相交流式、直流式等のその他のモータであってもよい。第1〜第3モータ14、16、18の仕様は等しくても異なるものであってもよい。また、第2モータ16と左後輪36aの間及び第3モータ18と右後輪36bの間それぞれに図示しない減速機を配置し、それぞれの減速機の減速比を可変としてもよい。
【0026】
第1〜第3インバータ22、24、26は、3相ブリッジ型の構成とされて、直流/交流変換を行い、直流を3相の交流に変換して第1〜第3モータ14、16、18に供給する一方、第1〜第3モータ14、16、18の回生動作に伴う交流/直流変換後の直流を高圧バッテリ20に供給する。
【0027】
高圧バッテリ20は、複数のバッテリセルを含む蓄電装置(エネルギストレージ)であり、例えば、リチウムイオン2次電池、ニッケル水素2次電池又はキャパシタ等を利用することができる。本実施形態ではリチウムイオン2次電池を利用している。なお、第1〜第3インバータ22、24、26と高圧バッテリ20との間に図示しないDC/DCコンバータを設け、高圧バッテリ20の出力電圧又は第1〜第3モータ14、16、18の出力電圧を昇圧又は降圧してもよい。
【0028】
車両10の駆動系の構成としては、例えば、US 2014/0191689 A1又は米国特許出願公開第2012/0015772号公報に記載のものを用いることができる。例えば、US 2014/0191689 A1と同様、図示しない油圧ポンプ、ソレノイド、ワンウェイクラッチ、油圧ブレーキ等を第2及び第3モータ16、18側に設け、必要に応じて駆動ECU28で制御することにより、第2及び第3モータ16、18の動作を制御することができる(US 2014/0191689 A1の
図11参照)。
【0029】
温度センサ50は、バッテリ20の温度(以下「バッテリ温度Tbat」又は「温度Tbat」という。)[℃]を検出する。SOCセンサ52は、バッテリ20の充電状態(SOC:State of Charge)[%]を検出する。車速センサ54は、車速V[km/h]を検出する。アクセルペダル開度センサ56は、図示しないアクセルペダルの開度(以下「アクセル開度θap」という。)を検出する。
【0030】
舵角センサ58は、ステアリングホイール70の操舵角θst[度]を検出する。回転数センサ60は、第1〜第3モータ14、16、18の単位時間当たりの回転数Nmot(以下、「回転数Nmot」又は「モータ回転数Nmot」ともいう。)[rpm]を検出する。以下では、第2及び第3モータ16、18の回転数Nmotを「回転数NmotL、NmotR」又は「モータ回転数NmotL、NmotR」ともいう。
【0031】
B.後ろ側モータ16、18の出力制御
B−1.概要
図2は、本実施形態における後ろ側モータ16、18の目標トルク(以下「目標モータトルクTM1、TM2」又は「目標トルクTM1、TM2」ともいう。)を設定するフローチャートである。ECU28は、
図2のフローを用いて算出した目標トルクTM1、TM2に基づいてモータ16、18を制御することで後輪36a、36bのトルク(以下「車輪トルクT1、T2」又は「トルクT1、T2」ともいう。)が目標トルク(以下「目標車輪トルクTT1、TT2」又は「目標トルクTT1、TT2」ともいう。)となるように制御する。
図2の各ステップS1〜S5は、所定の演算周期毎に繰り返される。
【0032】
なお、
図2の制御は、車両10の駆動状態が「RWD」(後輪駆動:Rear Wheel Drive)及びRWDに付随する回生状態である場合のものである。本実施形態の駆動状態には、RWDに加え、「FWD」(前輪駆動:Front Wheel Drive)及び「AWD」(前後輪駆動:All Wheel Drive)が含まれ、車両10全体での要求負荷等に応じて切り替えられる。RWD及びFWDは、いずれも2輪駆動(2WD)であり、AWDは、4輪駆動(4WD)である。
【0033】
図2のステップS1において、ECU28は、バッテリ保護制御の一環として、バッテリ20の入力上限値αの初期値α1[W]と、出力上限値βの初期値β1[W]とを設定する。入力上限値αは、バッテリ20を充電する際の電力の上限値である。出力上限値βは、バッテリ20が放電(発電)する際の電力の上限値である。バッテリ20からの放電(発電)電力を正の値とし、バッテリ20への充電電力を負の値とする場合、入力上限値αは負の値であり、出力上限値βは正の値である。バッテリ保護制御は、バッテリ20の出力を制限することでバッテリ20を保護するための制御であり、US 2014/0191689 A1における電力優先制御に相当する。
【0034】
図3は、バッテリ20の温度Tbat及びSOCの組合せとバッテリ20の入力上限値α及び出力上限値βとの関係の一例を示す図である。
図3では、バッテリ20に充電する場合の電力(上限値α)を負の値とし、バッテリ20が放電(発電)する場合の電力(上限値β)を正の値としている。
【0035】
図3からわかるように、一部の例外を除き、バッテリ温度Tbatが高くなるほど又はSOCが低くなるほど、上限値α(絶対値)が大きくなる傾向にある。また、バッテリ温度Tbatが高くなるほど又はSOCが高くなるほど、上限値β(絶対値)が大きくなる傾向にある。そこで、本実施形態において、ECU28は、温度センサ50から取得したバッテリ温度Tbatと、SOCセンサ52から取得したバッテリSOCとに基づいて、上限値α、βの初期値α1、β1を設定する。すなわち、ECU28は、バッテリ温度Tbat及びSOCの組合せと初期値α1、β1とを関連付けた図示しないマップ(初期値マップ)を記憶部44に記憶しておき、当該初期値マップを用いて初期値α1、β1を設定する。
【0036】
ステップS2において、ECU28は、目標左右トルク差ΔTT(以下「目標トルク差ΔTT」又は「トルク差ΔTT」ともいう。)を設定する(左右トルク差制御)。トルク差ΔTTは、左後輪36aの目標トルクTT1と右後輪36bの目標トルクTT2との差を意味し、次の式(1)で定義される。
ΔTT=TT1−TT2 ・・・(1)
【0037】
また、トルク差ΔTTは、以下の式(2)に基づいて算出される。
ΔTT=2r・YMT/Tr ・・・(2)
【0038】
上記式(2)において、rは、後輪36a、36bの半径であり、YMTは、目標ヨーモーメントであり、Trは、トレッド幅(左右後輪36a、36b間の距離)である。目標ヨーモーメントYMTは、例えば、舵角センサ58からの操舵角θstと車速センサ54からの車速Vとに基づいて設定される。半径r及びトレッド幅Trは固定値であり、目標ヨーモーメントYMTは変数である。
【0039】
ECU28は、目標ヨーモーメントYMTを設定するためのパラメータ又は目標ヨーモーメントYMT自体と、目標トルク差ΔTTとを関連付けた図示しないマップ(目標トルク差マップ)を記憶部44に記憶しておく。そして、当該マップを用いて目標トルク差ΔTTを設定する。
【0040】
ステップS3において、ECU28は、目標左右トルク和TRT(以下「目標トルク和TRT」又は「トルク和TRT」ともいう。)を設定する(左右トルク和制御)。トルク和TRTは、左後輪36aの目標トルクTT1と右後輪36bの目標トルクTT2との和を意味し、次の式(3)で定義される。
TRT=TT1+TT2 ・・・(3)
【0041】
トルク和TRTの設定については
図4を参照して後述する。
【0042】
ステップS4において、ECU28は、目標トルク差ΔTT(S2)及び目標トルク和TRT(S3)に基づいて目標車輪トルクTT1、TT2を算出する。すなわち、上記式(1)及び式(3)より、下記の式(4)及び式(5)が導かれるため、目標トルク差ΔTT及び目標トルク和TRTに基づいて目標車輪トルクTT1、TT2を算出することができる。
TT1=(TRT+ΔTT)/2 ・・・(4)
TT2=(TRT−ΔTT)/2 ・・・(5)
【0043】
ステップS5において、ECU28は、ステップS4で算出した目標車輪トルクTT1、TT2に基づいて、インバータ24、26を介して後ろ側モータ16、18を制御する。より具体的には、モータ16、18の目標トルクTM1、TM2を、以下の式(6)及び式(7)を用いて目標車輪トルクTT1、TT2に基づいて算出する。
TM1=(1/R1)・TT1 ・・・(6)
TM2=(1/R2)・TT2 ・・・(7)
【0044】
式(6)において、R1は、モータ16と左後輪36aとの間に配置された図示しない減速機の減速比(減速機を設けない場合、R1は1となる。)であり、式(7)において、R2は、モータ18と右後輪36bとの間に配置された図示しない減速機の減速比(減速機を設けない場合、R2は1となる。)である。
【0045】
B−2.左右トルク和制御
(1−1.左右トルク和制御の概要)
図4は、車両10の力行時に目標左右トルク和TRTを設定する左右トルク和制御のフローチャート(
図2のS3の詳細の一例)である。なお、車両10の回生時については、入力上限値αを用いて同様の処理を行うことが可能である。
【0046】
ステップS11において、ECU28は、要求左右トルク和TRT_req(以下「要求トルク和TRT_req」ともいう。)を設定する。要求トルク和TRT_reqは、車輪トルクT1、T2の合計値(左右トルク和)に関する運転者からの要求値である。要求トルク和TRT_reqは、例えば、アクセルペダル開度センサ56からのアクセル開度θapと、回転数センサ60からのモータ回転数Nmotとに基づいて設定される。ここで用いるモータ回転数Nmotは、例えば、第2及び第3モータ16、18の回転数NmotL、NmotRの平均値又は最大値を用いることができる。
【0047】
或いは、車両10側で車速Vを自動的に調整する制御(クルーズ走行制御等)において車両10で設定される図示しないスロットル弁の目標開度と、回転数NmotL、NmotRとに基づいて要求トルク和TRT_reqを制御してもよい。或いは、モータ回転数Nmotの代わりに、車速Vを用いることも可能である。
【0048】
ECU28は、アクセル開度θap及びモータ回転数Nmotの組合せと要求トルク和TRT_reqとを関連付けた図示しないマップ(要求トルク和マップ)を記憶部44に記憶しておく。そして、当該要求トルク和マップを用いて要求トルク和TRT_reqを設定する。
【0049】
ステップS12において、ECU28は、トルク和制限値TRT_lim2(以下「制限値TRT_lim2」ともいう。)を設定する。制限値TRT_lim2は、要求トルク和TRT_reqに対する制限値(上限値)であり、出力上限値βの初期値β1、左右トルク差ΔTT等を考慮して設定される。トルク和制限値TRT_lim2の設定の詳細については、
図5を参照して後述する。
【0050】
ステップS13において、ECU28は、要求トルク和TRT_reqが制限値TRT_lim2以下であるか否かを判定する。要求トルク和TRT_reqが制限値TRT_lim2以下である場合(S13:YES)、ステップS14において、ECU28は、要求トルク和TRT_reqをそのまま目標トルク和TRTとする(TRT←TRT_req)。要求トルク和TRT_reqが制限値TRT_lim2以下でない場合(S13:NO)、ステップS15において、ECU28は、トルク和制限値TRT_lim2を目標トルク和TRTとする(TRT←TRT_lim2)。
【0051】
(1−2.トルク和制限値TRT_lim2の設定)
図5は、トルク和制限値TRT_lim2を設定するフローチャート(
図4のS12の詳細)である。
図6は、トルク和制限値TRT_lim2の設定を説明するための第1説明図(ブロック図)である。
図7は、トルク和制限値TRT_lim2の設定を説明するための第2説明図である。
図7では、車両10が右方向(時計回り)に旋回する場合の例が示されている。
【0052】
図5のステップS21において、ECU28は、バッテリ20の出力上限値β及びモータ回転数Nmotに基づいて、トルク和基準制限値TRT_lim1(以下「基準制限値TRT_lim1」又は「制限値TRT_lim1」ともいう。)を算出する。制限値TRT_lim1は、出力上限値β及びモータ回転数Nmotに対応して設定される要求トルク和TRT_reqの制限値である。
【0053】
ここでの出力上限値βは初期値β1を意味しているが、後述するように、出力上限値βの補正を複数回行う場合、補正後の出力上限値βをも意味する。また、ここでのモータ回転数Nmotは、例えば、第2及び第3モータ16、18の回転数NmotL、NmotRの平均値又は最大値を用いることができる。
【0054】
本実施形態において、制限値TRT_lim1は、バッテリ20からモータ16、18に電力を供給する際の電力損失(例えば、インバータ24、26における電力変換に伴う損失及びモータ16、18での発熱に伴う損失)を考慮して設定される。
【0055】
図7の中央(第2行第2列)に示すように、要求トルク和TRT_reqが、基準制限値TRT_lim1を上回っていた場合、目標トルク和TRTは、基準制限値TRT_lim1以下に制限される。この場合、右旋回時の目標左右トルク差ΔTTを維持するためには、左後輪36aの正方向(力行方向)のトルクT1(絶対値)を小さくし、右後輪36bの負方向(回生方向)のトルクT2(絶対値)を大きくする(
図7の中央下側(第3行第2列)参照)。
【0056】
ECU28は、出力上限値β及びモータ回転数Nmotの組合せとトルク和基準制限値TRT_lim1とを関連付けたマップ100(トルク和基準制限値マップ100)(
図6)を記憶部44に記憶しておく。そして、当該マップ100を用いて制限値TRT_lim1を設定する。
【0057】
図5のステップS22において、ECU28は、制限値TRT_lim1(S21)及び目標左右トルク差ΔTT(
図2のS2)に基づいて左トルク制限値TR_limL及び右トルク制限値TR_limRを設定する。左トルク制限値TR_limLは、制限値TRT_lim1及び目標左右トルク差ΔTTに対応して決まる左側モータ16の目標トルクTT1の制限値(上限値)である。右トルク制限値TR_limRは、制限値TRT_lim1及び目標左右トルク差ΔTTに対応して決まる右側モータ18の目標トルクTT2の制限値(上限値)である。
【0058】
ECU28は、制限値TRT_lim1及び目標トルク差ΔTTの組合せと制限値TR_limL、TR_limRとを関連付けたマップ102(トルク制限値マップ102)(
図6)を記憶部44に記憶しておく。そして、マップ102を用いて制限値TR_limL、TR_limRを設定する。
【0059】
ステップS23において、ECU28は、基準制限値TRT_lim1とモータ回転数Nmotに基づいて電力損失L1を設定する。電力損失L1は、モータ回転数Nmotに応じてモータ16、18それぞれで生じる電力損失L1L、L1Rの合計値である(L1=L1L+L1R)。ここで用いるモータ回転数Nmotは、例えば、第2及び第3モータ16、18の回転数NmotL、NmotRの平均値又は最大値を用いることができる。モータ回転数Nmotとして回転数NmotL、NmotRの平均値を用いる場合、モータ16、18の出力が等しい状態でモータ16、18のトルクの和が制限値TRT_lim1と等しい場合(各モータ16、18のトルクが制限値TRT_lim1の半分である場合)、すなわち、L1L=L1Rの場合を意味する。
【0060】
ECU28は、基準制限値TRT_lim1とモータ回転数Nmotの組合せと電力損失L1とを関連付けたマップ104(電力損失マップ104)(
図6)を記憶部44に記憶しておく。そして、当該マップ104を用いて電力損失L1を設定する。
【0061】
ステップS24において、ECU28は、左トルク制限値TR_limL及び右トルク制限値TR_limRとモータ回転数NmotL、NmotRと電力損失L1とに基づいて電力損失補正値L2(以下「損失補正値L2」又は「補正値L2」ともいう。)を設定する。補正値L2は、左側モータ16の電力損失補正値L2Lと右側モータ18の電力損失補正値L2Rの合計値である(L2=L2L+L2R)。
【0062】
電力損失補正値L2Lは、左後輪36aのトルクT1が制限値TR_limLと等しい場合にモータ回転数NmotLに応じて左側モータ16で生じる電力損失Llと電力損失L1Lの差(L1L−Ll=(L1/2)−Ll)である。同様に、電力損失補正値L2Rは、右後輪36bのトルクT2が制限値TR_limRと等しい場合にモータ回転数NmotRに応じて右側モータ18で生じる電力損失Lrと電力損失L1Rの差(L1R−Lr=(L1/2)−Lr)である。
【0063】
図8は、電力損失補正値L2の考え方を示す。具体的には、
図8は、左右それぞれのモータ16、18のトルクt1、t2(以下「モータトルクt1、t2」ともいう。)及びモータ回転数Nmot(NmotL、NmotR)の組合せと、電力損失L(実際の値)との関係の一例を示す。
図8からわかるように、各モータ16、18における電力損失Lは、モータトルクt1、t2又はモータ回転数Nmotが増加するほど大きくなる。
【0064】
上記のように、電力損失L1は、例えば、左右のモータ16、18のトルクt1、t2が等しい場合を想定している。また、目標左右トルク差ΔTTを実現するためには、左右のモータ16、18のトルクt1、t2が相違すると共にモータ回転数NmotL、NmotRが互いに異なる場合が生じる。このため、目標左右トルク差ΔTTを実現する際に、電力損失L1のみを用いると誤差が大きくなるおそれがある。
【0065】
そこで、本実施形態では、損失補正値L2を用いることで、バッテリ20の出力上限値βに反映する電力損失Lの誤差を小さくすることが可能となる。その結果、目標左右トルク和TRTを適切に設定することが可能となる。
【0066】
ECU28は、左トルク制限値TR_limLとモータ回転数NmotLの組合せと電力損失Llを関連付けると共に、右トルク制限値TR_limRとモータ回転数NmotRの組合せと電力損失Lrとを関連付けたマップ106(損失補正値マップ106)(
図6)を記憶部44に記憶しておく。そして、マップ104で設定した電力損失L1とマップ106で設定した電力損失Ll、Lrとを用いて損失補正値L2を設定する。
【0067】
或いは、ECU28は、左トルク制限値TR_limLとモータ回転数NmotLの組合せと補正値L2Lとを関連付けた図示しないマップ(左損失補正値マップ)と、右トルク制限値TR_limRとモータ回転数NmotRの組合せと補正値L2Rとを関連付けた図示しないマップ(右損失補正値マップ)とを別々に記憶部44に記憶しておいてもよい。この場合、これらのマップを用いて補正値L2L、L2Rを算出し、両補正値L2L、L2Rを加算して補正値L2を算出することができる。
【0068】
図5のステップS25において、ECU28の加算器108(
図6)は、バッテリ20の出力上限値β(例えば、初期値β1)から電力損失L1を減算すると共に補正値L2を加算した新たな出力上限値β(例えば、初期値β1に基づく出力上限値β2)を算出する。以下では、この新たな出力上限値βを補正上限値β’ともいう(β’=β−L1+L2)。
【0069】
ステップS26において、ECU28は、補正上限値β’とモータ回転数Nmotに基づいてトルク和制限値TRT_lim2を設定する。制限値TRT_lim2は、トルク和基準制限値TRT_lim1に対して、左トルク制限値TR_limL及びモータ回転数NmotLの組合せに応じた電力損失Lの変化並びに右トルク制限値TR_limR及びモータ回転数NmotRの組合せに応じた電力損失Lの変化を考慮したものである。ここでのモータ回転数Nmotは、例えば、第2及び第3モータ16、18の回転数NmotL、NmotRの平均値又は最大値を用いることができる。
【0070】
ECU28は、補正上限値β’及びモータ回転数Nmotと制限値TRT_lim2とを関連付けたマップ110(トルク和制限値マップ110)(
図6)を記憶部44に記憶しておく。そして、マップ110を用いて制限値TRT_lim2を設定する。
【0071】
図7の中央右側(第2行第3列)に示すように、基準制限値TRT_lim1が、制限値TRT_lim2を上回っていた場合、目標トルク和TRTは、制限値TRT_lim2に設定される。この場合、目標トルク差ΔTTを維持するためには、左後輪36aの正方向(力行方向)の目標トルクTT1を小さくし、右後輪36bの負方向(回生方向)の目標トルクTT2(絶対値)を大きくする(
図7の右下(第3行第3列)参照)。反対に、基準制限値TRT_lim1が、制限値TRT_lim2を下回っていた場合、目標トルク和TRTを制限値TRT_lim2まで増加させる。この場合、目標トルク差ΔTTを維持するためには、左後輪36aの正方向(力行方向)の目標トルクTT1を大きくし、右後輪36bの負方向(回生方向)の目標トルクTT2(絶対値)を小さくする。
【0072】
C.本実施形態の効果
以上のように、本実施形態によれば、左側モータ16(左電動機)及び右側モータ18(右電動機)の目標トルクTT1、TT2(動力目標値)それぞれに、モータ16、18の回転数NmotL、NmotR(回転状態量)に基づく損失補正値L2(電力損失)を反映する。このため、モータ16、18の目標トルクTT1、TT2を適切に設定することが可能となる。
【0073】
本実施形態において、ECU28(電動機制御装置)は、出力上限値β(供給可能電力)、モータ回転数NmotL、NmotR(回転状態量)に応じた電力損失L1及び補正値L2並びに目標左右トルク差ΔTT(目標動力差)に基づいて、トルク和制限値TRT_lim2(合計動力の上限値)を設定する(
図4のS12、
図5)。そして、ECU28は、目標トルク差ΔTTを確保しつつ、要求左右トルク和TRT_req(要求動力和)が制限値TRT_lim2を超えない範囲で目標モータトルクTM1(目標左動力)及び目標モータトルクTM2(目標右動力)を設定する(
図4のS13〜S15、
図2のS4、S5)。
【0074】
これにより、出力上限値β(バッテリ20(電力源)の供給可能電力)に加え、モータ回転数NmotL、NmotR(回転状態量)と目標トルク差ΔTTに基づいて制限値TRT_lim2を設定することで、左右モータ16、18のトルクt1、t2(動力)をより適切に制御することが可能となる。
【0075】
本実施形態において、ECU28(電動機制御装置)は、出力上限値β(供給可能電力)及びモータ回転数Nmot(回転状態量)に基づいてトルク和基準制限値TRT_lim1(合計動力の基準上限値)を設定する(
図5のS21、
図6)。また、ECU28は、基準制限値TRT_lim1及びモータ回転数Nmotに基づいて、モータ回転数Nmotに応じた電力損失L1を算出する(S23、
図6)。さらに、ECU28は、左トルク制限値TR_limL(左動力制限値)と右トルク制限値TR_limR(右動力制限値)とを、基準制限値TRT_lim1及び目標左右トルク差ΔTTに基づいて設定する(S22、
図6)。さらにまた、ECU28は、制限値TR_limL、TR_limR及びモータ回転数NmotL、NmotRに基づいて補正値L2を算出する(S24、
図6)。ECU28は、出力上限値β、電力損失L1及び補正値L2に基づいてトルク和制限値TRT_lim2(合計動力の上限値)を設定する(S26、
図6)。
【0076】
上記によれば、左右トルク制限値TR_limL、TR_limR及びモータ回転数NmotL、NmotRに基づいて電力損失L1の補正値L2を算出し、出力上限値β、電力損失L1及び補正値L2に基づいてトルク和制限値TRT_lim2を設定する。制限値TR_limL、TR_limRは、基準制限値TRT_lim1及び目標トルク差ΔTTに基づくものであり、基準制限値TRT_lim1は、出力上限値β及びモータ回転数Nmotに基づくものである(
図6)。このため、モータ回転数Nmotに応じた電力損失に加え、左右制限値TR_limL、TR_limRに応じた電力損失を反映することが可能となる。従って、モータ16、18のトルクt1、t2(動力)をさらに効率的に制御することが可能となる。
【0077】
II.変形例
なお、本発明は、上記実施形態に限らず、本明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。例えば、以下の構成を採用することができる。
【0078】
A.車両10(適用対象)
上記実施形態では、自動四輪車である車両10について説明した(
図1)。しかしながら、例えば、左右モータ16、18の回転数NmotL、NmotR(又は左右後輪36a、36bの単位時間当たりの回転数[rpm])に基づく電力損失を反映する観点からすれば、自動四輪車以外であっても、左右の駆動輪を有する車両に本発明を適用可能である。例えば、車両10は、自動三輪車及び自動六輪車のいずれかとすることも可能である。
【0079】
上記実施形態では、車両10は、1つのエンジン12及び3つの走行モータ14、16、18を駆動源として有したが、駆動源はこの組合せに限らない。例えば、車両10は、前輪32用の1つ又は複数の走行モータと、後輪36用の1つ又は複数の走行モータを駆動源として有してもよい。また、全ての車輪それぞれに個別の走行モータ(いわゆるインホイールモータを含む。)を割り当てる構成も可能である。
【0080】
図9は、本発明の変形例に係る車両10Aの駆動系及びその周辺の概略構成図である。車両10Aでは、上記実施形態に係る車両10の前輪駆動装置34及び後輪駆動装置38の構成が反対になっている。すなわち、車両10Aの前輪駆動装置34aは、車両10Aの前側に配置された第2及び第3走行モータ16a、18aを備える。また、車両10Aの後輪駆動装置38aは、車両10Aの後ろ側に直列配置されたエンジン12a及び第1走行モータ14aを備える。
【0081】
B.第1〜第3走行モータ14、16、18
上記実施形態では、第1〜第3走行モータ14、16、18を3相交流ブラシレス式としたが、これに限らない。例えば、第1〜第3走行モータ14、16、18を3相交流ブラシ式、単相交流式又は直流式としてもよい。
【0082】
C.バッテリ20(電力源)
上記実施形態では、第2及び第3走行モータ16、18に対する電力源としてバッテリ20及び第1モータ14(エンジン12からの駆動力により発電している場合)を用いた。しかしながら、例えば、モータ16、18の回転数NmotL、NmotRに基づく電力損失をモータ16、18の制御に反映する観点からすれば、これに限らない。例えば、第1モータ14による発電を行わない構成も可能である。或いは、バッテリ20に加え又はこれに代えて、燃料電池等のその他の電力源を用いることも可能である。
【0083】
D.駆動ECU28による制御
D−1.駆動状態の切替え
上記実施形態において、ECU28は、車両10の駆動状態としてFWD、RWD及びAWDを切替え可能とした。しかしながら、例えば、モータ16、18の回転数NmotL、NmotRに基づく電力損失をモータ16、18の制御に反映する観点からすれば、左右の駆動輪(上記実施形態における左右後輪36a、36b)による駆動を行う駆動状態を含めば、これに限らない。例えば、RWDのみが可能な構成にも適用することができる。
【0084】
D−2.左右後輪36a、36b(左右の駆動輪)の制御パラメータ
上記実施形態では、左右後輪36a、36bのトルクT1、T2を制御するための制御パラメータとして目標トルクTT1、TT2を用いた。しかしながら、左右後輪36a、36bのトルクT1、T2を制御する観点からすれば、これに限らない。例えば、上記実施形態では、目標車輪トルクTT1、TT2を演算した上で、目標モータトルクTM1、TM2を算出したが、目標車輪トルクTT1、TT2の演算を経ずに目標モータトルクTM1、TM2を算出することも可能である。或いは、目標トルクTT1、TT2[N・m]の代わりに、駆動力及び制動力の少なくとも一方を含む制駆動力[N]を用いることも可能である。或いは、モータ16、18の出力の目標値[W]又はモータ16、18に対する出力電流の目標値[A]を用いることも可能である。
【0085】
上記実施形態では、トルク和制限値TRT_lim2を設定する際に用いるモータ16、18の回転状態量としてモータ回転数Nmot(NmotL、NmotR)を用いた。しかしながら、例えば、モータ16、18の回転状態量に基づく電力損失をモータ16、18の制御に反映する観点からすれば、モータ回転数Nmot以外のパラメータ(例えば、後輪36a、36bの回転速度)を用いることも可能である。
【0086】
D−3.入力上限値α、出力上限値β及びトルク和制限値TRT_lim2
上記実施形態では、左右後輪36a、36bのトルクT1、T2の合計が正の値である場合について出力上限値βと関連付けて説明した。しかしながら、例えば、左右モータ16、18の回転数NmotL、NmotRに基づく電力損失(
図8)を反映する観点からすれば、左右後輪36a、36bのトルクT1、T2の合計が負の値である場合について入力上限値αと関連付けた制御を行うことも可能である。この場合、バッテリ温度Tbat及びSOCの組合せから入力上限値αの初期値α1を設定した上、モータ16、18の回生に伴う電力損失を反映した補正上限値α’を用いて、目標車輪トルクTT1、TT2及び目標モータトルクTM1、TM2を算出することが可能である。
【0087】
上記実施形態では、バッテリ20の入力上限値α及び出力上限値βの両方を用いた(
図2のS1)。しかしながら、例えば、モータ16、18の回転数NmotL、NmotRに基づく電力損失(
図8)を反映する観点からすれば、いずれか一方のみを用いることも可能である。
【0088】
上記実施形態では、出力上限値βの初期値β1を、バッテリ20の温度Tbat及びSOCに基づいて設定した(
図2のS1)。しかしながら、例えば、初期値β1を設定する観点からすれば、温度Tbat及びSOCのいずれか一方のみを用いることも可能である。
【0089】
上記実施形態では、出力上限値βの補正を1回のみ行う場合について説明した(
図5)。しかしながら、例えば、左右モータ16、18の回転数NmotL、NmotRに基づく電力損失を反映する観点からすれば、出力上限値βの補正を複数回行うことも可能である。この場合、補正上限値β’を新たな出力上限値βとして再度電力損失L1及び損失補正値L2を算出して新たな補正上限値β’を算出することを少なくとも1回行うこととなる。
【0090】
上記実施形態では、出力上限値βに対して電力損失L1及び損失補正値L2を反映させる場合について説明した(
図5〜
図7)。しかしながら、例えば、バッテリ20の出力過多を防止しつつ、目標トルク差ΔTTを実現する観点からすれば、これに限らない。
【0091】
すなわち、電力源の供給可能電力(バッテリ20の出力上限値β等)と、左右モータ16、18それぞれの回転状態量(回転数NmotL、NmotR等)と、左右モータ16、18の目標動力差(目標トルク差ΔTT等)とに基づいて、左右モータ16、18の合計動力の上限値(トルク和制限値TRT_lim2)を設定する。そして、目標トルク和TRT(絶対値)をトルク和制限値TRT_lim2(絶対値)よりも小さくすれば、バッテリ20の出力過多を防止しつつ、目標トルク差ΔTTを実現することが可能となる。
【0092】
例えば、ECU28は、バッテリ温度Tbat、バッテリSOC、モータ回転数Nmot(NmotL、NmotR)及び目標トルク差ΔTTと、トルク和制限値TRT_lim2とを関連付けた図示しないマップ(トルク和制限値マップ)を記憶部44に記憶しておき、当該マップを用いてトルク和制限値TRT_lim2を設定することも可能である。
【0093】
或いは、ECU28は、バッテリ20の出力上限値βの初期値β1、モータ回転数Nmot(NmotL、NmotR)及び目標トルク差ΔTTと、トルク和制限値TRT_lim2とを関連付けた図示しないマップ(トルク和制限値マップ)を記憶部44に記憶しておき、当該マップを用いて制限値TRT_lim2を設定してもよい。この場合、初期値β1の設定は、上述した初期値マップを用いる。
【0094】
上記実施形態では、トルク和制限値TRT_lim2を算出した後、目標トルク和TRTを算出する場合について説明した(
図4)。しかしながら、例えば、バッテリ20の出力過多を防止しつつ、目標トルク差ΔTTを実現する観点からすれば、これに限らない。
【0095】
例えば、電力源の供給可能電力(バッテリ20の出力上限値β等)又はこれを設定するためのパラメータ(バッテリ20の温度Tbat、SOC等)と、左右モータ16、18それぞれの回転状態量(回転数NmotL、NmotR等)と、左右モータ16、18の目標動力差(目標トルク差ΔTT等)と、左右モータ16、18の目標動力和(要求トルク和TRT_req等)と、目標車輪トルクTT1、TT2又は目標モータトルクTM1、TM2とを関連付けた図示しないマップ(目標トルクマップ)を記憶部44に記憶しておき、当該マップを用いて目標車輪トルクTT1、TT2又は目標モータトルクTM1、TM2を設定してもよい。
車両(10)及びその制御方法では、電動機制御装置(28)は、電力源(20)の供給可能電力(β)と、左電動機(16)及び右電動機(18)それぞれの回転状態量(Nmot)に応じた電力損失(L1、L2)と、左電動機(16)及び右電動機(18)の目標動力差(ΔTT)と、左電動機(16)及び右電動機(18)の目標動力和(TRT_req)とに基づいて、目標左動力(TM1)及び目標右動力(TM2)を設定し、目標左動力(TM1)及び目標右動力(TM2)を用いて左電動機(16)及び右電動機(18)を制御する。