(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5814458
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月17日
(54)【発明の名称】誘電体絶縁式のエレクトロスプレーイオン化法によって液状試料をイオン化し、次いで当該生成された試料イオンの質量スペクトルを分析するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20060101AFI20151029BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20151029BHJP
【FI】
G01N27/62 G
H01J49/04
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-501558(P2014-501558)
(86)(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公表番号】特表2014-512000(P2014-512000A)
(43)【公表日】2014年5月19日
(86)【国際出願番号】EP2012055279
(87)【国際公開番号】WO2012130781
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2014年10月1日
(31)【優先権主張番号】102011015517.1
(32)【優先日】2011年3月30日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509118765
【氏名又は名称】ライプニッツ−インスティトゥート・フューア・アナリュティッシェ・ヴィッセンシャフテン−イーエスアーエス−アインゲトラーゲネル・フェアアイン
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100153419
【弁理士】
【氏名又は名称】清田 栄章
(72)【発明者】
【氏名】フランツケ・ヨアヒム
(72)【発明者】
【氏名】シュタルク・アン−カトリーン
(72)【発明者】
【氏名】シリング・ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ヤナゼック・ディルク
(72)【発明者】
【氏名】イェステル・ギュンター
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルベルク・リューディガー
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー・コルドゥラ
【審査官】
藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2003/065405(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0072357(US,A1)
【文献】
国際公開第2007/079844(WO,A2)
【文献】
特開2002−245962(JP,A)
【文献】
平岡 賢三,「探針エレクトロスプレーの開発と応用」,分析化学,社団法人日本分析化学会,2010年 2月 5日,Vol. 59, No. 2,pages 95-105
【文献】
Ann Kathrin Stark et al.,"Characterization of dielectric barrier electrospray ionization for mass spectrometric detection",Analytical and Bioanalytical Chemistry,Springer-Verlag,2010年 7月,Vol. 397, No. 5,pages 1767-1772
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
H01J 49/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体絶縁式のエレクトロスプレーイオン化法によって液状試料をイオン化し、次いで当該生成された試料イオンの質量スペクトルを分析するための方法であって、それぞれの液状試料が、供給路内に通流され、この供給路を包囲していて且つ誘電体材料から成る壁が、開放端部から離れて配置されたその外面に電極を有し、質量分析装置の、対電極を形成する流入口が、前記供給路の前記開放端部から間隔をあけて、イオンを生成させる自由空間を形成しながら配置されていて、当該生成されたイオンは、この流入口を通過して質量分析装置の開閉可能なトラップ内に到達し、矩形電圧が、前記試料イオンを生成するために前記電極と前記流入口との間に印加され、前記質量分析装置の前記トラップが、交互に開閉され、この質量分析装置のこのトラップによって捕獲された試料イオンが、この質量分析装置内で分析される当該方法において、
正の試料イオンだけが、又は負の試料イオンだけが、前記質量分析装置内に到達するように、正極と負極とのデューティー比が異なる、左右非相称な矩形電圧が、前記電極と前記流入口との間に印加される当該方法。
【請求項2】
正の試料イオンだけ又は負の試料イオンだけが生成されるように、デューティー比が選択される、左右非相称な矩形電圧が、前記電極と前記流入口との間に印加されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記矩形電圧のデューティー比は、80:20であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
正の極性又は負の極性の周波数が、前記質量分析装置の前記トラップの開口周波数に一致する、左右非相称な矩形電圧が、前記電極と前記流入口との間に印加されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
形成されたそれぞれのイオンスプレーが、前記流入口に向かって噴霧されるように、複数のキャピラリー供給路が、前記質量分析装置の前記流入口に対向して星形に配置され、
それぞれ1つの左右非相称な矩形電圧が、それぞれの前記供給路の前記電極と前記流入口との間に印加され、
異なる複数の前記供給路から流出するイオンスプレーが、前記流入口を通じて前記質量分析装置の前記トラップ内に順番に流入するように、当該矩形電圧の正極又は負極のデューティー比が、前記質量分析装置の前記トラップの開口周波数に一致していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体絶縁式のエレクトロスプレーイオン化法によって液状試料をイオン化し、次いで当該生成された試料イオンの質量スペクトルを分析するための方法に関する。当該方法では、それぞれの液状試料が、供給路内に通流される。この供給路を包囲している壁が、開放端部から離れて配置されたその外面に、誘電体材料から成る絶縁層によって当該壁から分離された電極を有する。この場合、質量分析装置の、対電極を形成する流入口が、供給路の開放端部から間隔をあけて、イオンを生成させる自由空間を形成しながら配置されている。当該生成されたイオンは、この流入口を通過して質量分析装置の開閉可能なトラップ内に到達する。この場合、矩形電圧が、試料イオンを生成するために電極と流入口との間に印加され、質量分析装置のトラップが、交互に開閉される。この場合、この質量分析装置のトラップによって捕獲された試料イオンが、この質量分析装置内で分析される。
【背景技術】
【0002】
用語「エレクトロスプレー」は、電場によって液体を非常に小さい荷電液滴状に拡散させることを表す。この電場内では、イオンが、大気圧で気相に転移される。この場合、この工程は、4つのステップに区分される。
【0003】
第1ステップでは、小さい荷電電解液滴が生成される。第2ステップでは、溶媒が、当該液滴から蒸発することによって、当該溶媒が連続して減少する。この場合、液滴表面の電荷密度が増大する。第3ステップでは、当該液滴が、微小液滴に繰り返し自発分裂する(クーロン爆発)。第4ステップでは、被検体分子が、質量分析装置内への転送時に脱溶媒される。
【0004】
例えば正に荷電されているイオンを検出するためには(質量分析装置の正極性モード)、エレクトロスプレーイオン化工程が、溶解された被検体を、キャピラリー供給路の先端部に対して連続して供給する。従来の方法では、当該電気接触は、導電体を被検体溶液に直接に接触させることによって実施される。したがって、キャピラリー供給路の開放端部と質量分析装置の流入口との間に印加された電場が、被検体溶液をも貫通する。正イオンが、当該被検体溶液の表面に引き寄せられる。これに応じて、当該被検体溶液中の電場が、負イオンと正イオンとの再分布によって相殺されるまで、つまり、これらのイオンが、電子交換によって中和されるまで、負イオンが、その反対方向に移動される。したがって、当該弱いイオン化の実施の形態とは異なる実施の形態、例えば、被検体分子から電子を取り除くことによるイオン化の実施の形態には制約がある。何故なら、非常に高い電場が必要になるからである。
【0005】
当該被検体溶液の表面に蓄積された正イオンが、陰極の方向にさらに引き寄せられる。このため、当該被検体溶液の表面張力が、電場に打ち勝つので、特有な溶液円錐体(テイラーコーン)が発生する。十分に高い電場の場合、当該テイラーコーンは、安定であり、且つ数マイクロメートルの直径の、連続するフィラメント状の溶液流をこのテイラーコーンから放射する。このテイラーコーンは、陽極から少し離れた位置で不安定になり、連なっている複数の小さい液滴に分裂する。当該液滴の表面が、正の電荷で帯電されている。当該液滴は、反対の負イオンをもはや有しない。その結果、正の総電荷が発生する。
【0006】
当該イオンは、液滴中の電荷を利用する電気泳動法によって分離される。スペクトル観察される当該正イオン(又は電場の反転後は負イオン)は常に、既に(電解)溶液中に存在するイオンである。その他のイオン及び分析すべき被検体のフラグメンテーションは、放電(コロナ放電)がキャピラリーの先端部で発生するときの、非常に高い電圧の印加時に初めて観察される。
【0007】
エレクトロスプレーイオン化法のための従来の装置は、液状試料用の供給路として電位が印加される電気接触するキャピラリーを有する。すなわち、キャピラリーの先端部自体が、電極を形成する。この代わりに、必要なキャピラリー供給路をマイクロチップ内に組み込むことも公知である。この種類の特別な解決手段が、例えば独国特許第19947496号明細書に記載されている。
【0008】
キャピラリーを有する従来の装置と、マイクロチップから構成される従来の装置との双方の場合で、電極が、分析すべき溶液つまり試料に直接に接触する。したがって、電極がもはや使用できない程度に、当該電極が、必ず一定の使用期間後に著しく腐食するので、当該装置の寿命が著しく制約される。さらに、これらの公知の装置では、最大に印加可能な電圧が制限されている。何故なら、印加電圧が、当該制限を超えると、望ましくないコロナ放電が発生するからである。
【0009】
液状試料を誘電体絶縁式にエレクトロスプレーイオン化するための装置及び方法が、独国特許出願公開第102005061381号明細書から初めて公知になった。当該装置及び方法では、それぞれの液状試料が、キャピラリー供給路内に通流される。このキャピラリー供給路を包囲している壁が、開放端部から離れて配置されたその外面に、誘電体材料から成る絶縁層によって当該壁から分離された電極を有する。この場合、対電極を形成するプレートが、当該供給路の開放端部から間隔をあけて、イオンを生成させる自由空間を形成しながら配置されている。したがって、電場が、誘電結合されることによって、当該供給路の電極が、試料溶液に直接に接触しないので、当該エレクトロスプレー法は、電圧を非接触式に印加することによって実施される。機能が損なわれることなしに、当該電場は、電荷の誘電分極(誘電変位)によって、流路壁の全体に印加される。電極が、試料溶液に直接に接触していないので、電極の腐食が完全に阻止される。その結果、装置の寿命が著しく増大する。さらに、当該方法では、コロナ放電が発生することなしに、著しくより高い電圧が印加され、且つより高い電流が誘導され得る。
【0010】
非特許文献1に記載されていて、且つ、請求項1に記載の上位概念の特徴を開示する、この方法をさらに発展させた方法の場合、誘電体絶縁式のエレクトロスプレーイオン化法では、例えば5kVの高電圧信号で且つ0.5Hzの周波数を成す矩形電圧を電極間に印加することが特に有益である点が記載されている。当該エレクトロスプレー法は、印加される電位の極性を変更することの必要なしに、質量分析装置の正極モードと負極モードとの双方での質量分析測定を可能にし、高い電流によって誘導される望ましくない放電の危険を阻止する。当該誘電体絶縁式のエレクトロスプレーイオン化法によれば、従来のエレクトロスプレーイオン化法よりも著しく高いイオン化電流、すなわち測定信号が生成され得る。当該測定信号は、フラグメンテーションの危険なしでは、1μAの範囲内にある。その一方で、誘電体絶縁式でないエレクトロスプレーイオン化法では、約50nAの一定のエレクトロスプレー電流が生成可能である。より高い電流では、フラグメンテーションが発生する。
【0011】
今日の多くの質量分析装置は、極性モードに応じて負イオンだけ又は正イオンだけしか測定され得ないので、より高い周波数を有する矩形電圧が使用される方法では、直流電圧が印加されたときに発生した一定の信号の約半分の量であるパルス信号しか、質量分析装置の測定期間内で生成することができない。それ故に、誘電体絶縁式のエレクトロスプレーイオン化法の場合の矩形電圧の使用の利点が奏され得ると同時に、増大された(測定)信号が生成され得る方法を提供することが望ましい。
【0012】
請求項1に記載の上位概念の特徴を有する方法が、非特許文献2からも公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】独国特許第19947496号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102005061381号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】STARK et al.:Characterization of dielectric barrier electrospray ionisation for mass spectrometic detection.Anal.Bioanal.Chem.,2010,Vol.397,S.1767−1772
【非特許文献2】STARK et al.:Electronic coupling and scaling effects during dielectric barrier electrospray ionization.Anal.Bioanal.Chem.,2011,Vol.400,S.561−569
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、上記の矩形電圧の印加の利点を維持しつつ、正の試料イオンだけ又は負の試料イオンだけが、質量分析装置内に到達するように、従来の方法をさらに改良することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、この課題は、冒頭で述べた種類の方法では、正極と負極とのデューティー比が異なる、左右非相称な矩形電圧が、電極と流入口との間に印加されることによって解決される。
【0017】
したがって、本発明の方法は、エレクトロスプレーイオン化法のために対称でない矩形電圧を使用する。すなわち、この矩形電圧では、交互に発生する正極と負極との間のデューティー比が等しくなくて、当該等しいデューティー比と異なる。このことは、正の試料イオンだけ又は負の試料イオンだけが、質量分析装置内に到達するように、矩形電圧の周波数に応じて、当該エレクトロスプレーイオン化法を調整することを可能にする。使用される高電圧は、2〜6kVの範囲内にある。
【0018】
したがって、第1の好適な実施の形態によれば、左右非相称な矩形電圧が、電極と流入口との間に印加され、この矩形電圧では、正の試料イオンだけ又は負の試料イオンだけが生成されるように、デューティー比が選択されることが提唱されている。この実施の形態は、例えば200Hzの範囲内のより高い周波数を有する矩形電圧を使用するときに特に適している。当該矩形電圧のデューティー比は、例えば、好ましくは80:20に設定され得る。当該デューティー比では、生成された望ましくない(例えば、負の)試料イオンの期間、すなわち量が、負のエレクトロスプレーを発生させるには十分でない。この場合には、正のエレクトロスプレーだけが発生する、すなわち1つの極性だけを有する信号が発生する。この信号は、左右相称な矩形電圧を使用する方法のときより約2倍だけ大きい。
【0019】
好適な別の実施の形態によれば、左右非相称な矩形電圧が、電極と流入口との間に印加され、この矩形電圧では、正の極性又は負の極性の周波数が、質量分析装置のトラップの開口周波数に一致することが提唱されている。この方法は、例えば1Hz未満の、より低い周波数の矩形電圧によって稼働されなければならないときに有益である。正のエレクトロスプレーの始動が、質量分析装置のイオントラップの開口ごとに開始し、正のエレクトロスプレーの停止が、イオントラップの閉鎖ごとに終了する。したがって、本発明の誘電体絶縁式のエレクトロスプレーイオン化法は、当該トラップの開口周波数にトリガーされている。
【0020】
本発明の方法は、好適な別の構成では、その都度生成されたイオンビームが、質量分析装置の流入口に向かって噴霧されるように、複数のキャピラリー供給路が、当該流入口に対向して配置されることを可能にする。この場合、それぞれ1つの左右非相称な矩形電圧が、それぞれの供給路の電極と当該流入口との間に印加される。これらの異なる供給路から流出するイオンスプレーが、この流入口を通じて質量分析装置のトラップ内に順番に流入するように、当該左右非相称の矩形電圧の、正の極性又は負の極性のデューティー比が、この質量分析装置のトラップの開口周波数に一致している。
【0021】
こうして、異なる複数の供給路から流出する複数のエレクトロスプレーが、ほぼ同時に、つまり質量分析装置のトラップの開口に応じて生成され得る。例えば5つの供給路の稼働時に、第1立ち上がりエッジが、第1供給路を始動させるために使用され、第2立ち上がりエッジが、第2供給路を始動させるために使用され、第5立ち上がりエッジが、第5供給路を始動させるために使用された後に、第1供給路が再び稼働される場合には、異なる複数の供給路からの被検体が、ただ1つの質量分析装置によって順番に分析され得る。
【0022】
以下に、本発明を図面に基づいて例示的に詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】キャピラリー供給路と質量分析装置の図示された流入口とを有するエレクトロスプレーイオン化装置を大まかに示す。
【
図2】左右相称な矩形電圧の経時変化を上側の図に示し、付随する電流の経時変化を下側の図に示す。
【
図3】誘電体絶縁式のエレクトロスプレーイオン化法によって生成可能な電流を、従来のエレクトロスプレーイオン化法によって生成可能な電流と比較して且つ拡大して示す。
【
図4】質量分析装置のトラップの開口期間の経時変化を上側のグラフに示し、左右相称な高周波矩形電圧の経時変化を中央のグラフに示し、付随する電流の経時変化を下側のグラフに示す。
【
図5】
図4によるグラフ(の一部)を、時間軸を拡大して示す。
【
図6】質量分析装置のトラップの開口期間の経時変化を上側のグラフに示し、左右非相称な矩形電圧の経時変化を中央のグラフに示し、付随する電流の経時変化を下側のグラフに示す。
【
図7】質量分析装置のトラップの開口期間の経時変化を上側のグラフに示し、質量分析装置のトラップの開口周波数に一致する左右非相称な矩形電圧の経時変化を中央のグラフに示し、付随する電流の経時変化を下側のグラフに示す。
【
図8】質量分析装置の流入口に対向する複数のエレクトロスプレーイオン化装置の星形の配置を大まかに示す。
【
図9】質量分析装置のトラップの開口期間の経時変化を上側のグラフに示し、これらのエレクトロスプレーイオン化装置の電圧の経時変化を当該上側のグラフの下に示された複数のグラフに示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1には、エレクトロスプレーイオン化装置10が大まかな形で示されている。このエレクトロスプレーイオン化装置10は、主にキャピラリー供給路1を有する。このキャピラリー供給路1の、この例では管状の壁が、2で付記されている。このキャピラリー供給路1の対称軸3が、さらに図示されなかった質量分析装置の流入口4の対称軸3′に一致するように、このキャピラリー供給路1は配置されている。
【0025】
誘電体絶縁式のエレクトロスプレーイオン化法を実現するため、壁2が、例えばガラスから成る、すなわち誘電体材料から成る。
【0026】
分析すべき試料が、キャピラリー供給路1の後方端部4でこのキャピラリー供給路内に流入され、前方開放端部5で流出する。例えば管状電極6が、誘電分離層(壁2)によってキャピラリー供給路1から絶縁されるように、この管状電極6が、前方開放端部5から遠く離れて配置されている。質量分析装置の、対電極として形成されている流入口4と同様に、この管状電極6は、図示されなかった高電圧源に接続されている。
【0027】
さらに、脱溶媒自由空間7を形成する間隔が、キャピラリー供給路1の前方開放端部5と流入口4との間に設けられている。
【0028】
後に質量分析装置内で分析すべき液状試料が、キャピラリー供給路1内に流入されるときに、このキャピラリー供給路1内の当該液状試料と管状電極6とが接触しない。高電圧が、管状電極6と流入口4によって形成されたキャピラリー供給路1との間に印加され、当該液状試料が、このキャピラリー供給路1に通流するときに、電荷の誘電分極によって発生する電場が、流路壁(誘電体壁2)の全体に印加される。管状電極6が、当該溶液に接触することなしに、エレクトロスプレー8が生成される。生成されたイオンスプレーが、質量分析装置の流入口4に向かって噴霧され、引き続き、イオンが、この流入口4を通過して図示されなかった質量分析装置の開閉可能なトラップ内に到達し、当該イオンが、開かれたこのトラップを通過した後にこの質量分析装置内で分析される。
【0029】
管状電極に印加される電圧の波形が、本発明にとって重要である。通常の矩形波、すなわち左右相称な矩形波を使用することが、基本原理として、非特許文献1から公知である。矩形電圧の経時変化が、
図2に示されている。当該矩形電圧の経時変化から発生する電流の経時変化が、正の電流範囲と負の電流範囲とを交互に有することが認識可能である。すなわち、正のイオンと負のイオンとが交互に生成される。
【0030】
図3は、矩形電圧を用いた、誘電体絶縁式のエレクトロスプレーイオン化法における正の電流信号を、誘電体絶縁式でない従来のエレクトロスプレーイオン化法における正の電流信号と比較して且つ拡大して定量的に示す。
【0031】
一定の直流電圧を用いる従来のエレクトロスプレーイオン化法では、特に50nAの一定のエレクトロスプレー電流が発生する。
図3では、この電流信号は、右肩下がりの斜線でハッチングされている。これに対して、誘電体絶縁式のエレクトロスプレーイオン化法では、例えば1.2μAの最大電流(右肩上がりの斜線でハッチングされた信号)を、分子のフラグメンテーションなしに生成することができる。従来のエレクトロスプレーイオン化法では、当該高い電流のときに、分子の望ましくないフラグメンテーションを発生させていた。
【0032】
誘電体絶縁式のエレクトロスプレーイオン化法において
図2による矩形電圧を使用すると、直流電圧とは違う利点が得られる。しかしながら、高周波電圧を印加するときには、
図4及び5に示された波形に起因する欠点もある。
図4及び5のそれぞれの上側のグラフには、質量分析装置のトラップの開口期間の経時変化が示されている。これに対して、
図4及び5のそれぞれの中央のグラフからは、左右相称の高周波矩形電圧の場合の、当該電圧の経時変化が見て取れる。
図4及び5のそれぞれの下側のグラフからは、エレクトロスプレー電流の電流波形が見て取れる。当該電流波形は、正イオンと負イオンとを交互に生成することを示す。質量分析装置が、極性モードに応じて負イオン又は正イオンしか測定できないので、
図4及び5による左右相称の高周波矩形電圧のときは、測定期間に、すなわち質量測定装置のトラップの開口期間に、一定の(直流電圧から発生する)信号のときのほぼ半分の量であるパルス信号しか得ることができない。
【0033】
それ故に、本発明では、左右非相称な矩形電圧が、管状電極6と質量分析装置の流入口4との間に印加されることが提唱されている。当該左右非相称な矩形電圧では、正極と負極とのデューティー比が異なる。
【0034】
高周波矩形電圧に適している本発明の方法の第1の実施の形態によれば、左右非相称な矩形電圧が、
図6にしたがって印加される。この左右非相称な矩形電圧では、矩形電圧のデューティー比が、特に80:20である。当該矩形電圧の経時変化が、
図6の中央のグラフに示されている。
図6の下側のグラフで認識できる電流の経時変化が、当該矩形電圧の経時変化から発生する。当該左右非相称な矩形電圧では、生成された負イオンの期間及びその量が、負のエレクトロスプレーを発生させるためには不十分である。実際には、正のエレクトロスプレーイオンだけが発生する。その結果、電流信号が、左右相称な矩形電圧に比べて約2倍だけ増大され得る。
【0035】
この方法は、200Hz帯域内の周波数を有する高周波矩形電圧の場合に特に適する。
【0036】
或る周波数を有する左右非相称な矩形電圧が、当該帯域内で使用される場合、本発明の方法の第2の実施の形態によれば、左右非相称な矩形電圧が、管状電極6と質量分析装置の流入口4との間に印加されることが提唱されている。この左右非相称な矩形電圧では、正極又は負極の周波数は、質量分析装置のトラップの開口周波数に一致する。当該経時変化は、
図7から見て取れる。質量分析装置のトラップの開口期間の経時変化(
図7の上側のグラフ)は、矩形電圧信号の経時変化(
図7の中央のグラフ)に一致することが認識可能である。
【0037】
それ故に、
図7の下側のグラフから見て取れる電流の経時変化が起こり、質量分析装置のトラップの開口期間に同期して、正に荷電されているイオンが発生する。
【0038】
したがって、この実施の形態では、正のエレクトロスプレーの開始が、質量分析装置のイオントラップの開口ごとに同期している。すなわち、当該誘電エレクトロスプレーが、質量分析装置のトラップの開口周波数にトリガーされている。
【0039】
図7による本発明の方法の実施の形態のその他の構成では、異なる複数のエレクトロスプレーを、ただ1つの質量分析装置にほぼ同期させるように稼働させることが可能である。
【0040】
このため、
図8に示すように、形成されたそれぞれのイオンスプレーSが、流入口4に向かって噴霧されるように、複数の、
図8による実施の形態では5つのエレクトロスプレーイオン化装置10が、質量分析装置の流入口4に対向して星形に又は半円形に配置される。
【0041】
したがって、それぞれ1つの矩形電圧が、それぞれのエレクトロスプレーイオン化装置10の管状電極と質量分析装置の流入口4との間に印加される。異なる複数のエレクトロスプレーイオン化装置10から流出するイオンスプレーが、当該流入口を通じて質量分析装置のトラップ内に順番に流入するように、当該矩形電圧の正極(又は負極)のデューティー比が、質量分析装置のトラップの開口周波数に一致している。
【0042】
対応する電圧の経時変化が、
図9に示されている。
図9の上側のグラフは、質量分析装置の開口期間の経時変化を示す。その下側には、5つのキャピラリー供給路の矩形電圧の経時変化が、U
1〜U
5によって示されている。矩形電圧信号が、トラップの第1開口期間に時間同期されていて、以下同様に、第6開口期間、第11開口期間等に時間同期されているように、第1エレクトロスプレーイオン化装置10の矩形電圧U
1が、質量分析装置のトラップの開口周波数にトリガーされている。正の矩形電圧信号が、トラップの第2開口期間に時間同期されていて、その後に第7開口期間,第12開口期間等に時間同期されているように、第2エレクトロスプレーイオン化装置10の電圧信号U
2が設定されている。これと同様な構成は、第3エレクトロスプレーイオン化装置10の後続する電圧信号U
3、第4エレクトロスプレーイオン化装置10の後続する電圧信号U
4及び第5エレクトロスプレーイオン化装置10の後続する電圧信号U
5に対して成立する。
【0043】
こうして、複数の、この実施の形態では例えば5つのエレクトロスプレーが、ほぼ同期して、すなわち質量分析装置のトラップの開口期間に応じて稼働され得る。5つのエレクトロスプレーイオン化装置10が、上述したように稼働されるときに、第1立ち上がりエッジが、第1エレクトロスプレーイオン化装置10を始動させるために使用され、第2立ち上がりエッジが、第2エレクトロスプレーイオン化装置10を始動させるために使用され、第5立ち上がりエッジが、第5エレクトロスプレーイオン化装置10を始動させるために使用された後に、第1エレクトロスプレーイオン化装置10が再び稼働される場合には、異なる供給源に由来する複数の被検体が、ただ1つの質量分析装置によって、異なる複数のエレクトロスプレーイオン化装置10から順番に測定され得る。
【0044】
図8によるこの方式の複数のエレクトロスプレーイオン化装置10が、例えば1つのマイクロチップ上に組み込まれ得る。別々の被検体の遅延を阻止するため、及び、複数のキャピラリー供給路間の流体力学的な違いを回避するため、このマイクロチップの全てのキャピラリー供給路は、同じ長さでなければならない。当該流体力学的な違いは、当該別々の分析を妨害する。
【0045】
説明したように、複数のエレクトロスプレーイオン化装置10の複数の前方開放端部つまり流出口は、質量分析装置の流入口4の周りの半円内に星形に配置され得る。この配置の半径が、特に1つのキャピラリー供給路1の前方開放端部から質量分析装置の流入口4までの距離に一致する。明らかに、各エレクトロスプレーイオン化装置10は、マイクロチップ上に搭載されているただ1つの電極を備える。各管状電極が、高電圧トランジスタによって順番に稼働され得る。1つの正のエレクトロスプレーが、当該高電圧矩形信号の1つの立ち上がりエッジごとに生成され得、1つの負のエレクトロスプレーが、当該高電圧矩形信号の1つの立ち下がりエッジごとに生成され得る。したがって、流れの流体力学的な特性が妨害されないように、高電圧トランジスタが、高速で切り替えられる。こうして、異なる複数のキャピラリー供給路から噴霧された被検体が、質量分析式に測定され得、且つ複数のサイクルにわたって平均され得る。
【符号の説明】
【0046】
1 キャピラリー供給路
2 流路壁
3 対称軸
3′対称軸
4 流入口
5 前方開放端部
6 管状電極
7 脱溶媒自由空間
8 エレクトロスプレー
10 エレクトロスプレーイオン化装置
S イオンスプレー