【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに特許文献1に記載のポリマーセメントを、手摺の支柱固定用のグラウト材に使用する場合には、さらに改良すべき課題がある。すなわち特許文献1に記載のポリマーセメントは、上述したようにコンクリート構造物の劣化部に充填して補修するものであるため、その明細書の段落「0002」に記載されているように、吹付けたり塗り付けたり(コテ仕上げ)して充填や補修を行なう。
【0007】
したがって、上述した施工時の作業性を阻害することのない流動性とは、ポリマーセメントを吹付けたり塗り付けたり(コテ仕上げ)して行なう施工方法において、作業性を損なわないような流動性を意味している。また上述した劣化下地との良好な接着性、及び高い曲げ強度と靭性も、コンクリート構造物の劣化部に充填して補修したときの接着性や曲げ強度や靭性が目標になっている。
【0008】
一方、支柱固定用の流し込みグラウト材は、金属製手摺の支柱と、ベランダの床コンクリートに開けた穴との間の狭い隙間に流し込んで、支柱を穴に固定するものであるため、上述した特許文献1等に記載のポリマーセメントとは、施工方法が大きく異なる。すなわちグラウト材を狭い隙間に流し込む施工方法であるため、先細の注ぎ口を有する、じょうろ等の施工具を用いる必要がある。また流し込んだグラウト材が、狭い隙間の隅々まで迅速に行き渡るようにする必要がある。
【0009】
したがって特許文献1等に記載のポリマーセメントの流動性、すなわちコテで塗る等の施工方法において必要とされる流動性では、流動性が足りず、じょうろ等の先細の注ぎ口を介して流し込むために時間が掛かるだけでなく、流し込んだグラウト材を、狭い隙間の隅々までに行き渡らせるまでに、さらに時間が掛かる。このため作業性を大幅に低下させてしまう。
【0010】
さらに手摺をベランダ等に取り付けるときの作業性を向上するためには、支柱を床コンクリートに固定するまでの養生時間を、通常、1日程度に短くすることが求められている。このためグラウト材は、速硬性セメントを使用しており、その可使用時間は、30分前後と短い。したがって、特に手摺をベランダ等に取り付けるときの支柱の数が多いときには、グラウト材の流し込みと充填とに時間が掛かり、可使用時間を越えてしまう場合もある。かかる場合には、グラウト材の製造(水の混練)を複数回に分けて行なう必要があり、極めて作業性が悪くなる。
【0011】
したがって支柱固定用の流し込みグラウト材には、特許文献1等に記載のポリマーセメントより十分高い流動性が必要となる。その一方、グラウト材の流動性を高くするために、混練りの際に加える水量を増やすと、じょうろ等の施工具内や支柱と穴との間の隙間内において、重量が大きい骨材が沈殿して、材料分離が生じるという問題が生じるため、これを防止する必要がある。
【0012】
そこで本発明の第1の目的は、流動性が高く、かつ材料分離が生じにくい支柱固定用のグラウト材を提供することにある。また第2の目的は、ひび割れ抵抗性と、繰返し荷重や衝撃荷重に対する強度とが高く、施工が容易で安全性が高い安価な支柱固定用のグラウト材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく、発明者は、鋭意研究を行なった結果、混合する骨材、繊維、及びセメント等について、新たな特徴を有するものを選択することによって、上記目的を達成できることを見出した。すなわち骨材については、粒子径を小さくすると共に、乾燥比重を大きくすることによって、より高い流動性を確保しつつ、材料分離を回避できることを見出した。また繊維については、繊維をさらに短くすると共に、繊維を太くすることによって、高い引張強度を確保しつつ、流動性をより高めることができることを見出した。速硬性セメントについては、セメントの平均粒子径を大きくすること等によって、さらに流動性を高めることができることを見出した。
【0014】
すなわち骨材については、骨材の粒子径が大きいと粒子も重くなって、グラウト材中で重い骨材が沈殿して、材料分離が生じ易くなる。そこで骨材の粒子を軽くして材料分離を回避すべく、骨材の粒子径を小さくすると、グラウト材の流動に必要な水セメント比が大きくなって、水セメント比を一定にした場合における流動性が、相対的に低下してしまうという問題が生じる。
【0015】
しかるに、ここで骨材の乾燥比重を大きくすると、同じ水セメント(重量)比において、混合する骨材の容積は減少するため、骨材の粒子径を一定とした場合には、骨材の粒子の数が減少し、これに伴って骨材の全粒子の表面積が減少する。このためグラウト材の流動に必要な水量も減少し、水セメント比を小さくすることができる。したがって水セメント比を一定にした場合における流動性を、相対的に高くすることができる。そこで骨材の粒子径を小さくすると共に、乾燥比重を大きくすることによって、より高い流動性を確保しつつ、材料分離を回避することができる。
【0016】
また繊維については、繊維長を短くすると、グラウト材中において繊維が相互に絡まり難くなって、グラウト材の流動性が高くなる。さらに繊維径を太くすると、同じ混合量(容積比率)における繊維の本数が減少して、グラウト材中において繊維が粗となって相互に絡まり難くなり、グラウト材の流動性が高くなる。そこで繊維を短くすると共に、繊維を太くすることによって、高い引張強度を確保しつつ流動性をさらに高めることができる。
【0017】
さらに支柱をグラウト材で固定して手摺を取り付ける工事においては、上述したように、作業性を向上させるために、速硬性セメントを使用する。しかるに市販の速硬性セメントは、混合するセメントの平均粒子径が5.5μm前後と細かいため、水セメント比が高くなって、水セメント比を一定にした場合における流動性が相対的に低くなってしまう。そこで速硬性セメントにおいて、平均粒子径の大きいセメントを使用することによって、水セメント比を低め、水セメント比を一定にした場合における流動性を相対的に高くすることができる。
【0018】
以上により、本発明による支柱固定用の流し込みグラウト材の特徴は、速硬性セメント、重量骨材、繊維、及び再乳化型粉末樹脂を含み、この速硬性セメント、重量骨材、繊維、及び再乳化型粉末樹脂の混合割合は、それぞれ40〜60重量%、40〜60重量%、0.2〜3.0容積%、及び5〜20重量%であり、この重量骨材は、乾燥比重が3.0〜4.0g/cm
3であって、粒子径が0.2〜0.7mmであることにある。
【0019】
ここで「支柱固定用の流し込みグラウト材」における「支柱」とは、グラウト材によってコンクリートに固定する金属製の全ての支柱を意味し、特に手摺を構成する支柱に限らない。「速硬性セメント」とは、コンクリートの養生期間が短いセメントを意味し、本発明の場合は、養生期間が1日程度のセメントを意味する。
【0020】
「重量骨材」とは、乾燥比重が3.0g/cm
3を超える骨材を意味し、例えば磁鉄鉱、砂鉄、ガーネット、及び酸化スラグが該当する。なお通常使用される「骨材」は、乾燥比重が3.0g/cm
3未満(2.5〜2.8g/cm
3)であって、例えば砂、砂利、及び砕石が該当する。
【0021】
「繊維」としては、例えばアラミド繊維、カーボン繊維、及び高強度ビニロン繊維が該当する。「再乳化型粉末樹脂」とは、水を加えるとエマルジョンとなる粉末樹脂を意味する。
【0022】
「重量骨材」の混合割合を「40〜60重量%」としたのは、40重量%未満であると、流し込みグラウト材の流動性、特に狭い流路における通過性が低くなり過ぎる、すなわち、支柱と穴の間隙に流し込みグラウト材を流し込むためには、細い注ぎ口を有するじょうろ等の施工具が必要になるが、このとき、じょうろ等による流し込みに時間が掛かるからである。また支柱と穴の間隙の隅々まで流し込みグラウト材が行き渡るまでに、さらに時間が掛かるからである。逆に60重量%を超えると、材料分離が生じ易くなるからである。
【0023】
また「重量骨材」の乾燥比重を「3.0〜4.0g/cm
3」としたのは、「3.0g/cm
3」未満であると、混合した「重量骨材」の容積が増加して、流動性を確保するための水セメント比も増加するため、流し込みグラウト材の流動性が低くなり過ぎるからである。逆に「4.0g/cm
3」を超えると、「重量骨材」の粒子が重くなり過ぎて、流し込みグラウト材中で骨材が沈殿して材料分離が生じ易くなるからである。
【0024】
また「重量骨材」の粒子径を「0.2〜0.7mm」としたのは、「0.2mm」未満であると、上述したように流動性を確保するための水セメント比も増加するため、流し込みグラウト材の流動性が低くなり過ぎるからである。逆に「0.7mm」を超えると、「重量骨材」の粒子が重くなって、流し込みグラウト材中で骨材が沈殿して材料分離が生じ易くなるからである。
【0025】
「繊維」の混合割合を「0.2〜3.0容積%」としたのは、「0.2容積%」未満であると、流し込みグラウトの強度が不足するからであり、逆に「3.0容積%」を超えると、混合した「繊維」の相互の絡み合いによって、流動性が低くなり過ぎるからである。
【0026】
「再乳化型粉末樹脂」の混合割合を「5〜20重量%」としたのは、「5重量%」未満では、ひび割れ抵抗性、耐衝撃性及び引抜抵抗性が、不足するからであり、逆に「20重量%」を超えると、流動性及び圧縮強度が不足するからである。
【0027】
さて上述した繊維は、その繊維長が2〜4mmであって、その繊維径が35〜55μmであることが望ましい。上述したように、強度を確保しつつ流動性を向上するためである。ここで「繊維長が2〜4mm」としたのは、「2mm」未満であると、流し込みグラウト材の強度が不足するからであり、逆に「4mm」を超えると、繊維が相互に絡み易くなって、流し込みグラウト材の流動性が低下し過ぎるからである。
【0028】
また「繊維径が35〜55μm」としたのは、「35μm」未満であると、同一の混合割合のときの繊維の本数が多すぎて、繊維が相互に絡み易くなり、流し込みグラウト材の流動性が低下し過ぎるからである。逆に「55μm」を超えると、同一の混合割合のときの繊維の本数が少なすぎて、流し込みグラウト材の強度が不足するからである。
【0029】
また上記速硬性セメントの平均粒子径は、少なくとも10μmであることが望ましく、10μm〜12μmであることがより望ましい。ここで「平均粒子径は、少なくとも10μm」としたのは、「10μm」未満であると、上述したように、水セメント比が高くなりすぎて、水セメント比を一定にした場合における流動性が相対的に低くなってしまうからである。
【0030】
上述した流し込みグラウト材は、粉末状態の混合物であるため、使用に際しては、水を加えて混練する。この加える水の量は、上述した粉末状態の混合物に対して15〜25重量%、すなわち粉末状態の混合物1重量部に対して、加える水の量が0.15〜0.25重量部であることが望ましい。15重量%より少ないと、流し込みが困難となり、25重量%より多いと、材料分離を生じたり、ひび割れを生じたりし易くなるからである。