(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、第1の実施の形態について、
図1から
図5を参照して説明する。なお、複数の表現が可能な各要素に、一つ以上の他の表現の例を付すことがある。しかし、これは、他の表現が付されていない要素について異なる表現がされることを否定するものではないし、例示されていない他の表現がされることを制限するものでもない。また、各図面は実施形態を概略的に示すものであり、図面に示される各要素の寸法は、実施形態の説明と異なることがある。
【0013】
図1は、第1の実施の形態に係るインクジェットプリンタ1を示す断面図である。インクジェットプリンタ1は、インクジェット記録装置の一例である。なお、インクジェット記録装置はこれに限らず、複写機のような他の装置であっても良い。
【0014】
図1に示すように、インクジェットプリンタ1は、例えば、記録媒体である記録紙Pを搬送しながら画像形成等の各種処理を行う。インクジェットプリンタ1は、筐体10と、給紙カセット11と、排紙トレイ12と、保持ローラ(ドラム)13と、搬送装置14と、保持装置15と、画像形成装置16と、除電剥離装置17と、反転装置18と、クリーニング装置19とを備える。
【0015】
給紙カセット11は、複数の記録紙Pを収容して、筐体10内に配置される。排紙トレイ12は、筐体10の上部にある。インクジェットプリンタ1によって画像形成がされた記録紙Pは、排紙トレイ12に排出される。
【0016】
搬送装置14は、記録紙Pが搬送される経路に沿って配置された複数のガイドおよび複数の搬送ローラを有する。当該搬送ローラは、モータに駆動されて回転することで、記録紙Pを給紙カセット11から排紙トレイ12まで搬送する。
【0017】
保持ローラ13は、導体によって形成された円筒状のフレームと、当該フレームの表面に形成された薄い絶縁層とを有する。前記フレームは接地(グランド接続)される。保持ローラ13は、その表面上に記録紙Pを保持した状態で回転することにより、記録紙Pを搬送する。
【0018】
保持装置15は、搬送装置14によって給紙カセット11から搬出された記録紙Pを、保持ローラ13の表面(外周面)に吸着させて保持させる。保持装置15は、記録紙Pを保持ローラ13に対して押圧した後、帯電による静電気力で記録紙Pを保持ローラ13に吸着させる。
【0019】
画像形成装置16は、保持装置15によって保持ローラ13の外面に保持された記録紙Pに、画像を形成する。画像形成装置16は、保持ローラ13の表面に面する複数のインクジェットヘッド21を有する。複数のインクジェットヘッド21は、シアン、マゼンダ、イエロー、ブラックの四色のインクを、それぞれ記録紙Pに吐出することで、画像を形成する。
【0020】
除電剥離装置17は、画像が形成された記録紙Pを除電することで、保持ローラ13から剥離する。除電剥離装置17は、電荷を供給して記録紙Pを除電し、記録紙Pと保持ローラ13との間に爪を挿入する。これにより、記録紙Pは保持ローラ13から剥離される。保持ローラ13から剥離された記録紙Pは、搬送装置14によって、排紙トレイ12または反転装置18に搬送される。
【0021】
クリーニング装置19は、保持ローラ13を清浄する。クリーニング装置19は、保持ローラ13の回転方向において除電剥離装置17よりも下流にある。クリーニング装置19は、回転する保持ローラ13の表面にクリーニング部材19aを当接させ、回転する保持ローラ13の表面を洗浄する。
【0022】
反転装置18は、保持ローラ13から剥離された記録紙Pの表裏面を反転させ、当該記録紙Pを再び保持ローラ13の表面上に供給する。反転装置18は、例えば記録紙Pを前後方向逆にスイッチバックさせる所定の反転経路に沿って記録紙Pを搬送することにより、記録紙Pを反転させる。
【0023】
図2は、画像形成装置16に含まれる一つのインクジェットヘッド21を分解して示す斜視図である。
図3は、インクジェットヘッド21を示す平面図である。
図4は、
図3のF4−F4線に沿ってインクジェットヘッド21の一部を示す断面図である。なお、
図2よび
図3は、説明のために、本来は隠れる種々の要素を実線で示す。
【0024】
図2に示すように、インクジェットプリンタ1は、複数のインクジェットヘッド21に接続される複数のインクタンク23および複数の制御部24を備える。インクジェットヘッド21は、対応する色のインクを収容するインクタンク23に接続される。
【0025】
インクジェットヘッド21は、保持ローラ13に保持された記録紙Pに、インク滴を吐出することで文字や画像を形成する。インクジェットヘッド21は、ノズルプレート100と、圧力室構造体200と、セパレートプレート300と、インク流路構造体400とを備える。圧力室構造体200は、基材の一例である。
【0026】
ノズルプレート100は、矩形の板状に形成される。ノズルプレート100は、複数のノズル(オリフィス、インク吐出孔)101と、複数の駆動素子(アクチュエータ)102と、を有する。
【0027】
複数のノズル101は、円形の孔である。ノズル101の直径は、例えば20μmである。ノズル101は、ノズルプレート100の長手方向に沿って二列に並んでいる。一方の列のノズル101と、他方の列のノズル101とは、ノズルプレート100の長手方向において交互に配置される。すなわち、複数のノズル101は、千鳥状(互い違い)に配置される。これにより、複数の駆動素子102がより高密度に配置される。
【0028】
ノズルプレート100の長手方向において、隣接するノズル101の中心間距離は、例えば、340μmである。ノズルプレート100の短手方向において、ノズル101の二つの列の間の距離は、例えば、240μmである。
【0029】
複数の駆動素子102は、複数のノズル101に対応して配置される。言い換えると、駆動素子102は、対応するノズル101と同一軸上に位置する。駆動素子102は、円環状に形成され、対応するノズル101を囲む。駆動素子102はこれに限らず、例えば、一部が開放された円環状(C字状)であっても良い。
【0030】
圧力室構造体200は、シリコンウエハによって、矩形の板状に形成される。なお、圧力室構造体200はこれに限らず、例えば、炭化シリコン(SiC)ゲルマニウム基板のような他の半導体であっても良い。また、基材はこれに限らず、半導体以外の材料によって形成されても良い。圧力室構造体200の厚さは、例えば525μmである。
【0031】
図4に示すように、圧力室構造体200は、第1の面200aと、第2の面200bと、複数の圧力室(インク室)201を有する。第1および第2の面200a,200bは、平坦化される。第2の面200bは、第1の面200aの反対側に位置する。ノズルプレート100は、第1の面200aに固着する。
【0032】
複数の圧力室201は円形の孔である。圧力室201の直径は、例えば、240μmである。なお、圧力室201の形状はこれに限らない。圧力室201は、圧力室構造体200をその厚さ方向に貫通し、第1および第2の面200a,200bにそれぞれ開口する。第1の面200aに開口する複数の圧力室201は、ノズルプレート100によって塞がれる。
【0033】
複数の圧力室201は、複数のノズル101に対応して配置される。言い換えると、圧力室201は、対応するノズル101と同一軸上に位置する。このため、圧力室201に、対応するノズル101が連通する。圧力室201は、ノズル101を介してインクジェットヘッド21の外部につながる。
【0034】
セパレートプレート300は、例えばステンレスによって矩形の板状に形成される。セパレートプレート300の厚さは、例えば200μmである。セパレートプレート300は、圧力室構造体200の第2の面200bに、例えばエポキシ系接着剤によって接着される。このため、第2の面200bに開口する圧力室201は、セパレートプレート300によって塞がれる。
【0035】
セパレートプレート300は、複数のインク絞り301を有する。インク絞り301は、円形の孔である。インク絞り301の直径は、例えば50μmである。インク絞り301の直径は、圧力室201の直径の1/4以下である。
【0036】
インク絞り301は、複数の圧力室201に対応して配置される。言い換えると、インク絞り301は、対応する圧力室201と同一軸上に位置する。このため、圧力室201に、対応するインク絞り301が開口する。
【0037】
インク流路構造体400は、例えばステンレスによって矩形の板状に形成される。インク流路構造体400の厚さは、例えば4mmである。なお、インク流路構造体400および上記セパレートプレート300の材料は、ステンレスに限らない。例えば、セラミックスまたは樹脂のような他の材料によって形成されても良い。使用されるセラミックスは、例えば、アルミナセラミックス、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素のような窒化物、または酸化物である。使用される樹脂は、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、またはポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材である。セパレートプレート300およびインク流路構造体400の材料は、インクを吐出するための圧力の発生に影響が生じないように、ノズルプレート100との膨張係数の差を考慮して選択される。
【0038】
インク流路構造体400は、例えばエポキシ系接着剤によって、セパレートプレート300に接着される。セパレートプレート300は、圧力室構造体200とインク流路構造体400とに挟まれる。
図2に示すように、インク流路構造体400は、インク流路401と、インク供給口402と、インク排出口403とを有する。
【0039】
インク流路401は、セパレートプレート300に接着されるインク流路構造体400の表面に形成された溝である。インク流路401の深さは、例えば2mmである。インク流路401は、複数のインク絞り301を囲む。言い換えると、複数のインク絞り301は、インク流路401に開口する。
【0040】
インク供給口402は、インク流路401の一方の端部に開口する。インク供給口402は、例えばチューブを介してインクタンク23に接続される。インクタンク23は、インク流路401を介して複数の圧力室201に接続される。
【0041】
インクタンク23のインクは、インク供給口402を通って、インク流路401に流入する。インク流路401に供給されたインクは、複数のインク絞り301を通って、複数の圧力室201に供給される。インク絞り301は、複数の圧力室201へそれぞれ流入するインクの流路抵抗をほぼ同程度にする。圧力室201に充填されたインクは、圧力室201に開口するノズル101内にも流入する。インクジェットプリンタ1は、インクの圧力を適切な負圧に保つことで、インクをノズル101内に留める。インクは、ノズル101内にメニスカスを生じさせるとともに、ノズル101から漏れ出さないように維持される。
【0042】
インク排出口403は、インク流路401の他方の端部に開口する。インク排出口403は、例えばチューブを介してインクタンク23に接続される。圧力室201に流入しなかったインク流路401のインクは、インク排出口403を通って、インクタンク23に排出される。このように、インクタンク23とインク流路401との間で、インクが循環する。インクが循環することで、インクジェットヘッド21と、インクとの温度が一定に保たれ、例えば熱によるインクの変質が抑制される。
【0043】
次に、ノズルプレート100について詳しく説明する。
図4に示すように、ノズルプレート100は、上述のノズル101および駆動素子102と、振動板105と、共有電極106と、複数の配線電極107と、保護膜(絶縁膜)108と、撥インク膜109とを有する。
【0044】
振動板105は、例えば、圧力室構造体200の第1の面200aに成膜されたSiO
2(二酸化ケイ素)によって、矩形の板状に形成される。振動板105は、シリコンウエハである圧力室構造体200の酸化膜である。振動板105の厚さは、例えば2μmである。振動板105の厚さは、概ね1〜50μmの範囲にある。
【0045】
振動板105は、第1の面105aと、第2の面105bとを有する。第1の面105aは、圧力室構造体200に固着し、複数の圧力室201を塞ぐ。第2の面105bは、第1の面105aの反対側に位置する。
【0046】
共有電極106は、振動板105の第2の面105bに形成される。
図3および
図4に示すように、共有電極106は、二つの端子部106aと、複数の配線部106bと、複数の電極部106cとを有する。二つの端子部106aは、振動板105の短手方向の一方の端部に位置し、振動板105の長手方向の両端部に配置される。
【0047】
複数の配線電極107は、端子部107aと、配線部107bと、電極部107cとをそれぞれ有する。複数の配線電極107の端子部107aは、振動板105の短手方向の一方の端部に位置し、共有電極106の二つの端子部106aの間に並んで配置される。
【0048】
共有電極106および複数の配線電極107は、例えば、Pt(白金)の薄膜である。なお、共有電極106および複数の配線電極107は、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ag(銀)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Au(金)のような他の材料によって形成されても良い。共有電極106および複数の配線電極107の厚さは、例えば0.5μmである。共有電極106および複数の配線電極107の膜厚は、概ね0.01〜1μmの範囲にある。共有電極106および複数の配線電極107の配線部106b,107bの幅は、例えば80μmである。
【0049】
図4に示すように、駆動素子102は、振動板105の第2の面105bにある。駆動素子102は、対応するノズル101からインク滴を吐出させるための圧力を、対応する圧力室201のインクに発生させる。
【0050】
複数の駆動素子102は、共有電極106の電極部106cと、配線電極107の電極部107cと、圧電体膜111と、絶縁膜112とをそれぞれ有する。共有電極106の電極部106cは、下部電極とも称される。配線電極107の電極部107cは、上部電極とも称される。
【0051】
共有電極106の電極部106cは、ノズル101を囲む円環状に形成される。電極部106cは、ノズル101と同一軸上に位置する。電極部106cの外径は、例えば172μmである。電極部106cの内径は、例えば42μmである。
【0052】
図3に示すように、共有電極106の複数の配線部106bは、対応する駆動素子102の電極部106cと、二つの端子部106aとから、それぞれ延びる。複数の配線部106bは、ノズルプレート100の短手方向に沿って平行に延びる。
【0053】
複数の配線部106bは、ノズルプレート100の短手方向の他方の端部において合体し、ノズルプレート100の長手方向に沿って延びる部分を形成する。このため、二つの端子部106aと、複数の電極部106cとは、複数の配線部106bによって接続される。
【0054】
図4に示すように、圧電体膜111は、ノズル101を囲むとともに、共有電極106の電極部106cよりも大きい円環状に形成される。圧電体膜111は、ノズル101と同一軸上に位置する。圧電体膜111は、共有電極106の電極部106cを覆う。圧電体膜111の外径は、例えば176μmである。圧電体膜111の内径は、例えば38μmである。
【0055】
圧電体膜111は、圧電性材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の膜である。なお、圧電体膜111はこれに限らず、例えば、PTO(PbTiO
3:チタン酸鉛)、PMNT(Pb(Mg
1/3Nb
2/3)O
3−PbTiO
3)、PZNT(Pb(Zn
1/3Nb
2/3)O
3−PbTiO
3)、ZnO、およびAlNのような種々の圧電性材料によって形成されても良い。
【0056】
圧電体膜111の厚さは、例えば1μmである。圧電体膜の厚さは、例えば、圧電特性および絶縁破壊電圧によって決定される。圧電体膜の厚さは、概ね0.1μmから5μmの範囲にある。
【0057】
圧電体膜111は、その厚み方向に分極を発生させる。当該分極の方向と同方向の電界が圧電体膜111に印加すると、圧電体膜111は、当該電界の方向と直交する方向に伸縮する。言い換えると、圧電体膜111は、膜厚に対して直交する方向(面内方向)に収縮または伸長する。
【0058】
配線電極107の電極部107cは、ノズル101を囲むとともに、圧電体膜111よりも大きい円環状に形成される。電極部107cは、ノズル101と同一軸上に位置する。電極部107cは、圧電体膜111を覆う。言い換えると、電極部107cは、圧電体膜111の吐出側(インクジェットヘッド21の外に向く側)に設けられる。電極部107cの外径は、例えば180μmである。電極部107cの内径は、例えば34μmである。このため、電極部107cは、ノズル101から離間する。
【0059】
圧電体膜111は、共有電極106の電極部106cと、配線電極107の電極部107cとに挟まれる。言い換えると、圧電体膜111に、共有電極106および配線電極107の電極部106c,107cが重なる。
【0060】
配線電極107の配線部107bは、振動板105の第2の面105bに形成される。
図3に示すように、配線部107bは、対応する駆動素子102の電極部107cと端子部107aとを接続する。複数の配線部107bは、ノズルプレート100の短手方向に沿って平行に延びる。幾つかの配線部107bは、並んだ駆動素子102の間を通過する。
【0061】
図4に示すように、絶縁膜112は、圧電体膜111の外縁部に部分的に形成される。絶縁膜112は、例えば、SiO
2によって形成される。絶縁膜112は、他の材料によって形成されても良い。絶縁膜112の厚みは、例えば0.2μmである。
【0062】
絶縁膜112は、共有電極106の配線部106bと、配線電極107の電極部107cとの間に介在する。言い換えると、絶縁膜112は、共有電極106と配線電極107との間を隔てる。絶縁膜112は、共有電極106と配線電極107とが電気的に接続することを防ぐ。
【0063】
保護膜108は、振動板105の第2の面105b上にある。保護膜108は、例えば、樹脂材料である非感光性ポリイミド、またはポジ型感光性ポリイミドによって形成される。保護膜108はこれに限らず、樹脂またはセラミックスのような、他の絶縁性の材料によって形成されても良い。利用される樹脂は、例えば、他の種類のポリイミド、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材である。利用されるセラミックスは、例えば、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素などの窒化物、または酸化物である。保護膜108の膜厚は、概ね3〜50μmの範囲にある。
【0064】
保護膜108は、振動板105の第2の面105bと、駆動素子102と、共有電極106と、配線電極107とを覆う。保護膜108は、例えばインクや空気中の水蒸気から、駆動素子102を保護する。保護膜108は、共有電極106および配線電極107の複数の端子部106a,107aをそれぞれ露出させる複数の孔を有する。
【0065】
保護膜108の材料は、振動板105の材料とヤング率が大きく異なる。振動板105を形成するSiO
2のヤング率は、80.6GPaである。一方、保護膜108を形成するポリイミドのヤング率は、4GPaである。すなわち、保護膜108のヤング率は振動板105のヤング率よりも小さく、振動板105と保護膜108とのヤング率の差は、76.6GPaである。
【0066】
図4に示すように、保護膜108の表面108aには、微小な凹凸が形成される。例えば、駆動素子102が設けられた部分において、保護膜108の表面108aは、他の部分に比べて隆起する。保護膜108の表面108aは、振動板105に固着した面の反対側に位置する。
【0067】
保護膜108の表面108aと、振動板105の第2の面105bとの間の第1の距離D1は、例えば4μmである。第1の距離D1は、駆動素子102、共有電極106、および配線電極107がある部分以外の保護膜108の厚さとも表現され得る。
【0068】
保護膜108の表面108aと、駆動素子102との間の第2の距離D2は、例えば2.5μmである。第2の距離D2は、駆動素子102上に形成された保護膜108の厚さとも表現され得る。第2の距離D2は、第1の距離D1よりも小さい。
【0069】
駆動素子102の厚さは、2.0μmである。駆動素子102の厚さは、共有電極106の電極部106cの膜厚と、配線電極107の電極部107cと、圧電体膜111の膜厚との合計である。駆動素子102の厚さは、第1の距離D1よりも小さい。
【0070】
駆動素子102が設けられた部分において、保護膜108の表面108aと、振動板105の第2の面105bとの間の距離は、4.5μmである。したがって、保護膜108の表面108aに形成される凹凸の最大高さは、0.5μmである。言い換えると、保護膜108の表面108aの最も厚い部分と最も薄い部分との差は、駆動素子102の厚さよりも小さい。
【0071】
撥インク膜109は、保護膜108を覆う。撥インク膜109は、例えば、撥液性を有するシリコーン系撥液材料によって形成される。なお、撥インク膜109は、フッ素含有系有機材料のような他の材料によって形成されても良い。撥インク膜109は、共有電極106の端子部106aと、配線電極107の端子部107aとの周辺において、保護膜108を覆わずに露出させる。撥インク膜109の表面109aは、ノズルプレート100の表面を形成する。撥インク膜109の表面109aは、保護膜108に固着した面の反対側に位置する。
【0072】
駆動素子102、共有電極106、および配線電極107がある部分以外の撥インク膜109の厚さは、例えば1μmである。駆動素子102が設けられた部分における撥インク膜109の厚さは、他の部分よりも薄い。なお、撥インク膜109の厚さは一定でも良い。
【0073】
ノズル101は、振動板105と、保護膜108と、撥インク膜109とを貫通する。言い換えると、ノズル101は、振動板105と、保護膜108と、撥インク膜109とに形成される。振動板105および保護膜108が親インク性(親液性)を有するため、圧力室201に収容されたインクのメニスカスは、ノズル101内に保たれる。保護膜108の一部は、ノズル101と、駆動素子102の内周面との間に介在する。
【0074】
図2に示すように、配線電極107の端子部107aに、例えばフレキシブルケーブルを介して、制御部24が接続される。制御部24は、例えば、インクジェットヘッド21を制御するICや、インクジェットプリンタ1を制御するマイクロコンピュータである。一方、共有電極106の端子部106aは、例えば、GND(グランド接地=0V)に接続される。
【0075】
制御部24は、複数の配線電極107に、対応する駆動素子102を駆動するための信号を伝送させる。配線電極107は、複数の駆動素子102を独立して動作させるための個別電極として用いられる。
【0076】
上記のインクジェットヘッド21は、例えば次のように印字(画像形成)を行う。ユーザの操作によって、制御部24に印字指示信号が入力される。制御部24は、当該印字指示に基づいて、複数の駆動素子102に信号を印加する。言い換えると、制御部24は、配線電極107の電極部107cに、駆動電圧を印加する。
【0077】
配線電極107の電極部107cに信号が印加されると、配線電極107の電極部107cと、共有電極106の電極部106cとの間に電位差が生じる。これにより、圧電体膜111に分極方向と同方向の電界が印加され、駆動素子102が電界方向と直交する方向に伸縮する。
【0078】
図4に示すように、駆動素子102は、振動板105と保護膜108とに挟まれる。このため、駆動素子102が電界方向と直交する方向に伸びた場合、振動板105に、圧力室201側に対して凹形状に変形する力がかかる。言い換えると、振動板105は、圧力室201の容積を増大させる方向に湾曲しようとする。反対に、保護膜108に、圧力室201側に対して凸形状に変形する力がかかる。言い換えると、保護膜108は、圧力室201の容積を減少させる方向に湾曲しようとする。
【0079】
一方、駆動素子102が電界方向と直交する方向に縮んだ場合、振動板105に、圧力室201側に対して凸形状に変形する力がかかる。言い換えると、振動板105は、圧力室201の容積を減少させる方向に湾曲しようとする。また、保護膜108に、圧力室201側に対して凹形状に変形する力がかかる。言い換えると、保護膜108は、圧力室201の容積を増大させる方向に湾曲しようとする。
【0080】
保護膜108を形成するポリイミドは、振動板105を形成するSiO
2よりヤング率が小さい。このため、保護膜108の方が、振動板105よりも、同じ力に対する変形量は大きい。
【0081】
駆動素子102が電界方向と直交する方向に伸びた場合、保護膜108が圧力室201側に対して凸形状に変形する量の方が大きくなる。このため、ノズルプレート100が圧力室201側に対して凸形状に変形し、圧力室201の容積が縮小する。
【0082】
反対に、駆動素子102が電界方向と直交する方向に縮んだ場合、保護膜108が圧力室201側に対して凹形状に変形する量の方が大きくなる。このため、ノズルプレート100は圧力室201側に対して凹形状に変形し、圧力室201の容積が拡大する。
【0083】
以上のように、駆動素子102は、ベンディングモードで動作する。駆動素子102は、電圧が印加されたときに、振動板105を変形させることで、圧力室201の容積を変化させる。
【0084】
まず、駆動素子102は、振動板105を変形させることで圧力室201の容積を増大させる。これにより、圧力室201に収容されたインクに負圧が生じ、インク流路401から圧力室201にインクが流入する。
【0085】
次に、駆動素子102は、振動板105を変形させることで圧力室201の容積を減少させる。これにより、圧力室201のインクが加圧される。当該インクにかかる正の圧力は、インク絞り301によって、インク流路401に逃げず、圧力室201に閉じ込められる。これにより、加圧されたインクがノズル101から吐出される。
【0086】
振動板105と保護膜108とのヤング率の差が大きい程、同じ電圧を駆動素子102に印加した際の振動板105の変形量の差が大きくなる。そのため、振動板105と保護膜108のヤング率の差が大きいほど、インク吐出が可能となる電圧がより低くなり、インクジェットヘッド21が効率良くインクを吐出できる。
【0087】
振動板105と保護膜108の膜厚とヤング率が同じ場合、駆動素子102に電圧を印加しても、振動板105と保護膜108に正反対の方向に同じ量変形する力がかかる。このため、振動板105は変形しない。
【0088】
材料のヤング率だけでなく、板材の厚さも板材の変形量に影響する。板材に同じ力がかかった場合、板厚が薄い程、板材の変形量が大きい。そのため、振動板105と保護膜108の変形量に差をつける場合は、材料のヤング率だけでなく、それぞれの厚さも考慮される。振動板105と保護膜108の材料のヤング率が同じでも、膜厚に違いがあれば、駆動素子102に印加する電圧は高くなるが、インク吐出は可能である。
【0089】
次に、インクジェットヘッド21の製造方法の一例について説明する。まず、圧力室201が形成される前の圧力室構造体200(シリコンウエハ)の第1の面200aの全域に、振動板105としてのSiO
2膜を成膜する。当該SiO
2膜は、例えばCVD法によって成膜される。CVD法に限らず、シリコンウエハを酸素雰囲気で加熱処理することによりシリコンウエハの表面にSiO
2膜を形成する熱酸化法が用いられても良い。
【0090】
図5は、複数の圧力室構造体200を製造するためのシリコンウエハSWを示す平面図である。
図5に示すように、圧力室構造体200を形成するシリコンウエハSWは、大きな一枚の円板である。当該シリコンウエハSWから、後で複数の圧力室構造体200が切り取られる。なお、これに限らず、一枚の矩形のシリコンウエハから、一つの圧力室構造体200を形成しても良い。
【0091】
シリコンウエハSWは、インクジェットヘッド21の製造過程において、繰り返し加熱および薄膜の成膜がなされる。このため、シリコンウエハSWは、耐熱性を有し、SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)規格に準じ、且つ平滑化されたものである。
【0092】
次に、振動板105の第2の面105bに、共有電極106を形成する金属膜を成膜する。まず、スパッタリング法を用いてTiの膜とPtの膜とを順番に成膜する。Tiの膜厚は例えば0.45μm、Pt膜厚は例えば0.05μmである。なお、当該金属膜は、蒸着および鍍金のような他の製法によって形成されても良い。
【0093】
上記金属膜を成膜した後に、パターニングによって、共有電極106を形成する。パターニングは、前記金属膜上にエッチングマスクを作り、当該エッチングマスク以外の前記金属膜をエッチングによって除去することで行う。
【0094】
共有電極106の電極部106cの中心にノズル101が形成されるため、電極部106cの中心と同心円の金属膜がない部分が形成される。共有電極106をパターニングすることで、共有電極106の端子部106a、配線部106b、および電極部106c以外では、振動板105が露出する。
【0095】
次に、共有電極106の電極部106c上に、圧電体膜111を形成する。圧電体膜111は、例えばRFマグネトロンスパッタリング法により成膜される。このとき、シリコンウエハSWの温度は、例えば350℃にされる。圧電体膜111は、成膜後、圧電体膜111に圧電性を付与するために、500℃で3時間熱処理される。これにより、圧電体膜111は良好な圧電性能を得る。圧電体膜111は、例えば、CVD(化学的気相成長法)、ゾルゲル法、AD法(エアロゾルデポジション法)、水熱合成法のような他の製法によって形成されても良い。
【0096】
次に、圧電体膜111を、エッチングによってパターニングする。圧電体膜111の中心にはノズル101が形成されるため、圧電体膜111と同心円の圧電体膜がない部分が形成される。圧電体膜111のない部分では、振動板105が露出する。圧電体膜111は、共有電極106の電極部106cを覆う。
【0097】
次に、圧電体膜111の一部と共有電極106の一部との上に、絶縁膜112を形成する。絶縁膜112は、良好な絶縁性を低温成膜にて実現できるCVD法によって形成される。絶縁膜112は、成膜後にパターニングされる。パターニング加工のバラツキによる不具合を抑制するため、絶縁膜112は圧電体膜111を部分的にのみ覆う。絶縁膜112は、圧電体膜111の変形量を阻害しないように圧電体膜111を覆う。
【0098】
次に、振動板105、圧電体膜111、および絶縁膜112の上に、配線電極107を形成する金属膜を成膜する。当該金属膜は、例えばスパッタリング法によって成膜される。当該金属膜は、真空蒸着および鍍金のような他の製法によって形成されても良い。
【0099】
上記金属膜をパターニングすることで、配線電極107を形成する。パターニングは、前記金属膜上にエッチングマスクを作り、当該エッチングマスク以外の前記金属膜をエッチングによって除去することで行う。
【0100】
配線電極107の電極部107cの中心にノズル101が形成されるため、配線電極107の電極部107cの中心と同心円の電極膜がない部分が形成される。配線電極107の電極部107cは、圧電体膜111を覆う。このように、駆動素子102が振動板105の第2の面105bに形成される。
【0101】
次に、振動板105を形成するSiO
2膜をパターニングし、ノズル101の一部を形成する。パターニングは、SiO
2膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外のSiO
2膜をエッチングによって除去することで行う。
【0102】
エッチングマスクは、振動板105の上への感光性レジストの塗布、プリベーク、所望のパターンが形成されたマスクを用いた露光、現像、およびポストベークによって形成される。
【0103】
次に、振動板105の上に、保護膜108をスピンコーティング法(スピンコート)によって形成する。すなわち、振動板105の第2の面105bに、保護膜108を形成する。まず、ポリイミド前駆体を含有した溶液で振動板105、共有電極106、配線電極107、および絶縁膜112を覆う。次に、
図5の矢印で示すようにシリコンウエハSWが回転させられ、溶液表面が平滑にされる。ベークによって熱重合と溶剤除去を行うことで、保護膜108が形成される。
【0104】
保護膜108の形成方法は、スピンコーティングに限らない。保護膜108は、CVD、真空蒸着、または鍍金のような他の方法によって形成された膜を、例えば化学機械研磨(Chemical Mecanical Polishing:CMP)によって平坦化することで形成されても良い。
【0105】
次に、保護膜108をパターニングすることによって、ノズル101を形成するとともに、共有電極106の端子部106aと、配線電極107の端子部107aとを露出させる。パターニングは、保護膜108の材料に応じた手順で行われる。
【0106】
保護膜108が非感光性ポリイミドによって形成される場合、まず、ポリイミド前駆体を含有した溶液をスピンコーティング法によって成膜し、ベークによって熱重合と溶剤除去を行って焼成成形する。その後、非感光性ポリイミド膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外のポリイミド膜をエッチングによって除去することで、パターニングがなされる。エッチングマスクは、非感光性ポリイミド膜上への感光性レジストの塗布、プリベーク、所望のパターンが形成されたマスクを用いた露光、現像、およびポストベークによって形成される。
【0107】
保護膜108がポジ型感光性ポリイミドによって形成される場合、まず、溶液をスピンコーティング法によって成膜した後、プリベークを行う。その後、ノズル101、共有電極106の端子部106a、および配線電極107の端子部107aに対応する部分が開口した(光が透過する)マスク用いた露光と、現像工程とを経てパターニングが行われる。その後、ポストベークが行われ、保護膜108が焼成成形される。
【0108】
次に、保護膜108の上にカバーテープを貼り付ける。カバーテープは、例えば、シリコンウエハのCMP用の裏面保護テープである。カバーテープが貼り付けられた圧力室構造体200を上下反転し、圧力室構造体200に複数の圧力室201を形成する。圧力室201は、パターニングによって形成される。
【0109】
例えば、シリコンウエハである圧力室構造体200上にエッチングマスクを作り、シリコン基板専用のいわゆる垂直深堀ドライエッチングを行う。これにより、シリコンウエハSWのエッチングマスクがされていない部分が除去され、圧力室201が形成される。
【0110】
上記エッチングに用いられるSF6ガスは、振動板105のSiO
2や保護膜108のポリイミドに対してはエッチング作用を及ぼさない。そのため、圧力室201を形成するシリコンウエハSWのドライエッチングの進行は、振動板105で止まる。
【0111】
なお、上述のエッチングは、薬液を用いるウェットエッチング法、プラズマを用いるドライエッチング法のような、種々の方法を用いて良い。さらに、材料によってエッチング方法やエッチング条件を変えて良い。各感光性レジスト膜によるエッチング加工が終了した後、残った感光性レジスト膜は溶解液によって除去される。
【0112】
以上のように、振動板105上に駆動素子102およびノズル101を形成する工程から、圧力室構造体200に圧力室201を形成する工程までが、成膜技術、フォトリソグラフィエッチング技術、およびスピンコーティング法によって行われる。このため、ノズル101、駆動素子102、および圧力室201が、一つのシリコンウエハSWに精密かつ簡便に形成される。
【0113】
次に、圧力室構造体200に、セパレートプレート300およびインク流路構造体400を接着する。すなわち、インク流路構造体400が接着されたセパレートプレート300を、エポキシ系接着剤で圧力室構造体200に接着する。
【0114】
圧力室201の直径が240μmであり、インク絞り301の直径が50μmである。このため、圧力室構造体200、セパレートプレート300、およびインク流路構造体400の接着剤貼り合わせの精度は、約0.1mm(95μm)である。このため、当該貼り合わせは、容易且つ短時間に行われる。
【0115】
次に、共有電極106の端子部106aと、配線電極107の端子部107aとを覆うように、カバーテープを保護膜108の一部に貼り付ける。当該カバーテープは樹脂によって形成され、保護膜108から容易に脱着可能である。前記カバーテープは、共有電極106の端子部106aおよび配線電極107の端子部107aに、ゴミや撥インク膜109が付着することを防止する。
【0116】
次に、保護膜108上に撥インク膜109を形成する。撥インク膜109は、保護膜108上に液状の撥インク膜材料をスピンコーティングすることによって成膜される。この際、インク供給口402より陽圧空気を注入する。これにより、インク流路401と繋がったノズル101から陽圧空気が排出される。この状態で、液体の撥インク膜材料を塗布すると、ノズル101の内周面に撥インク膜材料が付着することが抑制される。撥インク膜109が形成された後、前記カバーテープを保護膜108から剥がす。
【0117】
次に、シリコンウエハSWを分割して、複数のインクジェットヘッド21を形成する。インクジェットヘッド21は、インクジェットプリンタ1の内部に搭載される。配線電極107の端子部107aに、例えばフレキシブルケーブルを介して制御部24が接続される。さらに、インク流路構造体400のインク供給口402およびインク排出口403が、例えばチューブを介してインクタンク23に接続される。
【0118】
上記のように、本実施形態では、圧力室構造体200の上にノズルプレート100を作成する。しかし、ノズルプレート100を圧力室構造体200の上に作成する代わりに、圧力室構造体200の一部を、振動板105としても良い。例えば、圧力室構造体200の一方の面に駆動素子102を形成し、他方の面側から圧力室201に相当する穴を形成する。当該穴は、圧力室構造体200を貫通しない。圧力室構造体200の一方の面側には薄い層が残り、この部分が振動板105として動作する。
【0119】
第1の実施形態のインクジェットプリンタ1によれば、保護膜108の表面108aと振動板105の第2の面105bとの間の第1の距離D1が、保護膜108の表面108aと駆動素子102との間の第2の距離D2よりも大きい。すなわち、ノズルプレート100の表面の凹凸が、保護膜108を設けない場合、または保護膜108の厚さを均一にした場合に比べて小さくなる。例えば、ノズルプレート100の表面の凹凸の最大高さは0.5μmである。これに対し、振動板105から突出する駆動素子102の厚さは2.0μmである。すなわち、保護膜108によって、インクジェットヘッド21の吐出面の凹凸が、2.0μmから0.5μmに低減される。
【0120】
ノズルプレート100の表面は、例えば、ワイピングブレードによって拭かれることで洗浄される。ノズルプレート100の表面の凹凸が小さいため、ワイピングブレードが当該凹凸に引っかかって駆動素子102に負荷が生じること、ひいてはノズルプレート100や駆動素子102を破損することが抑制される。さらに、ノズルプレート100の凹凸にインクや塵が残留することが抑制される。このように、ノズルプレート100の表面の洗浄が容易となる。
【0121】
さらに、ノズルプレート100の表面の凹凸が小さいため、当該凹凸に、保持ローラ13に保持された記録紙Pが接触することが抑制される。これにより、ノズルプレート100や駆動素子102が破損することが抑制される。
【0122】
インクジェットヘッド21において、シリコンウエハである圧力室構造体200の上に、振動板105および駆動素子102が、例えば成膜技術およびフォトリソグラフィエッチング技術によって形成される。さらに、保護膜108がスピンコーティングによって形成され、後で圧力室201が圧力室構造体200に形成される。これにより、ノズルプレート100と圧力室構造体200とを貼り合わせる必要がなくなり、高い精度を要求する貼り合せ工程が不要となる。したがって、インクジェットプリンタ1を容易に製造することができる。さらに、スピンコーティングによって保護膜108を形成するため、第1の距離D1が第2の距離D2よりも大きい保護膜108を形成できる。言い換えると、保護膜108の表面108aを平坦化できる。
【0123】
インクジェットプリンタ1の製造性に関して、比較例を交えて詳しく説明する。なお、当該比較例は、インクジェットプリンタ1について何ら規定するものではない。駆動素子を有するノズルプレートを製造する方法として、例えば、ベース基板の上に絶縁性の保護膜を形成し、当該保護膜の上に駆動素子および振動板を形成する方法が考えられる。当該方法によって形成されたノズルプレートは、圧力室を有する基材に貼り付けられる。この場合、平坦なベース基板上に形成された保護膜がノズルプレートの表面となるため、ノズルプレートの表面は平坦になる。
【0124】
しかしながら、上記方法によれば、ノズルプレートを前記基材に貼り付ける際、高い貼付貼り付け精度が要求される。すなわち、ノズルおよび駆動素子が、圧力室が形成された領域内に収まるように、ノズルプレートが基材に貼り付けられる。例えば、第1の実施形態のインクジェットヘッド21と同じく、圧力室の直径が240μm、駆動素子の外径が180μmだとすれば、30μmの精度でノズルプレートを基材に貼り付けることになる。
【0125】
上記のような高精度の貼り合わせを行うためには、アライメントの精度が高く、均一な力で歪みなくノズルプレートを基材に貼り付けることができる、高価な貼り合せ装置が必要である。このような装置であっても、ノズルプレートと基材とのアライメントに時間がかかる。
【0126】
第1の実施形態のインクジェットプリンタ1は、上記のような高価な貼り合せ装置は不要である。すなわち、インクジェットプリンタ1は、製造が容易であり、且つ、ノズルプレート100の表面の洗浄が容易である。
【0127】
保護膜108の厚さである第1の距離D1が、駆動素子102の厚さよりも大きい。このため、駆動素子102によって形成される保護膜108の表面の凹凸を低減できる。さらに、保護膜108にノズル101を形成する場合に、インクがノズル101内でメニスカスを形成するために十分なノズル101の長さを確保することができる。
【0128】
保護膜108のヤング率は、振動板105のヤング率よりも低い。このため、振動板105を保護膜108より薄くしても、駆動素子102が振動板105を変形する。言い換えると、保護膜108を振動板105よりも厚くすることができる。保護膜108が厚いほど表面108aの凹凸を低減でき、ノズルプレート100の表面を洗浄しやすくなる。
【0129】
保護膜108は、樹脂材料であるポリイミドによって形成される。このため、保護膜108をスピンコーティングによって形成し易い。したがって、第1の距離D1が第2の距離D2よりも大きいインクジェットヘッド21を容易に製造することができる。
【0130】
次に、
図6を参照して、第2の実施の形態について説明する。なお、以下に開示する複数の実施形態において、第1の実施形態のインクジェットプリンタ1と同様の機能を有する構成部分には同一の参照符号を付す。さらに、当該構成部分については、その説明を一部または全て省略することがある。
【0131】
図6は、第2の実施の形態に係るインクジェットヘッド21の一部を示す断面図である。第1の実施形態のノズル101は振動板105および保護膜108に形成されるが、第2の実施形態のノズル101は保護膜108のみに形成され、振動板105には形成されない。
【0132】
図6に示すように、振動板105は、複数の周孔501を有する。複数の周孔501は、複数のノズル101に対応して配置される。言い換えると、周孔501は、対応するノズル101と同一軸上に位置する。
【0133】
周孔501は、円形の孔である。周孔501の直径は、例えば26μmである。周孔501の直径は、ノズル101の直径である20μmよりも大きい。周孔501の内周面は、保護膜108によって覆われる。すなわち、ノズル101は周孔501の内側に存在する保護膜108によって形成される。
【0134】
第2の実施形態のインクジェットヘッド21によれば、ノズル101は保護膜108に形成され、振動板105には形成されない。これにより、ノズル101の形状が不均一になることを抑制できる。すなわち、振動板105に設けられたノズル101の一部と、保護膜108に設けられたノズル101の一部とに、形状および位置の不均一が生じることを抑制できる。したがって、ノズル101の形状の均一性が向上し、複数のノズル101間のインク液滴の着弾位置精度が向上する。
【0135】
次に、
図7を参照して、第3の実施の形態について説明する。
図7は、第3の実施の形態に係るインクジェットヘッド21の一部を示す断面図である。第1の実施形態のノズル101は振動板105および保護膜108に形成されるが、第3の実施形態のノズル101は振動板105のみに形成され、保護膜108には形成されない。
【0136】
図7に示すように、保護膜108は、複数の開口部505を有する。複数の開口部505は、複数のノズル101に対応して配置される。言い換えると、開口部505は、対応するノズル101と同一軸上に位置する。
【0137】
開口部505は、円形の孔である。開口部505の直径は、30μmであり、ノズル101の直径よりも大きい。開口部505の内周面は、ノズル101から離間する。ノズル101から吐出するインク滴は、開口部505の内側を通過するが、開口部505の内周面に接触しない。
【0138】
一方、開口部505の直径は、配線電極107の電極部107cの内径よりも小さい。このため、開口部505と駆動素子102との間に、保護膜108の一部が介在する。撥インク膜109が、開口部505の内周面を覆う。撥インク膜109は、ノズル101から離間する。
【0139】
第3の実施形態のインクジェットヘッド21によれば、ノズル101は振動板105に形成され、保護膜108には形成されない。これにより、ノズル101の形状が不均一になることを抑制できる。すなわち、振動板105に設けられたノズル101の一部と、保護膜108に設けられたノズル101の一部とに、形状および位置の不均一が生じることを抑制できる。したがって、ノズル101の形状の均一性が向上し、複数のノズル101間のインク液滴の着弾位置精度が向上する。
【0140】
次に、
図8を参照して、第4の実施の形態について説明する。
図8は、第4の実施の形態に係るインクジェットヘッド21の一部を示す断面図である。第4の実施形態の開口部505の形状は、第3の実施形態の開口部505の形状と異なる。
【0141】
図8に示すように、開口部505の直径は、保護膜108の表面108aから振動板105に向かうに従って縮小する。言い換えると、開口部505の内周面は、振動板105に対して傾斜する。開口部505の内周面を覆う撥インク膜109の表面も、振動板105に対して傾斜する。第3の実施形態と同様に、開口部505の内周面と、開口部505の内周面を覆う撥インク膜109とは、ノズル101から離間する。
【0142】
第4の実施形態において、保護膜108は、例えばネガ型感光性ポリイミドによって形成される。ネガ型感光性ポリイミドは、露光された箇所のポリイミドが現像工程後に残る。
【0143】
第4の実施形態の保護膜108に開口部505を形成する場合、ポリイミド前駆体を含有した溶液をスピンコーティング法によって振動板105の第2の面105bに成膜する。その後、プリベークと、開口部505に対応する円形パターン部、共有電極106の端子部106a、および配線電極107の端子部107aが遮光されたマスクを用いた露光および現像工程を経るパターニングと、ポストベークとにより、保護膜108を焼成成形する。
【0144】
露光装置は、前記マスクに対して極力垂直方向に進む光のみによって露光処理する。しかし、前記マスクに対して斜めに進む光は残る。そのため、光がネガ型感光性ポリイミド膜内で平面方向に拡がる。これにより、開口部505の内周面が振動板105に対して傾斜する。
【0145】
第4の実施形態のように、例えばネガ型感光性ポリイミドによって保護膜108を形成することによって、開口部505の内周面が、振動板105に対して傾斜することがある。このような場合であっても、第3の実施形態と同様に、インク液滴の着弾位置精度が向上する。
【0146】
次に、
図9を参照して、第5の実施の形態について説明する。
図9は、第5の実施の形態に係るインクジェットヘッド21の一部を示す断面図である。
図9に示すように、共有電極106の電極部106cと、配線電極107の電極部107cと、圧電体膜111とは、大よそ同じ大きさに形成される。
【0147】
インクジェットヘッド21は、絶縁層(絶縁膜)508を有する。絶縁層508は、例えばSiO
2によって形成される。絶縁層508は、振動板105の第2の面105bの一部と、共有電極106の配線部106bおよび電極部106cと、配線電極107の電極部107cと、圧電体膜111とを覆う。絶縁層508は、駆動素子102の内周面も覆う。このため、ノズル101と駆動素子102との間に、保護膜108と絶縁層508とが介在する。絶縁層508は、共有電極106の端子部106aを露出させる複数の孔を有する。
【0148】
絶縁層508は、コンタクト部509を有する。コンタクト部509は、絶縁層508に開口する孔である。コンタクト部509は、配線電極107の電極部107cを露出させる。配線電極107の配線部107bは、当該コンタクト部509を介して、電極部107cに接続される。配線部107bは、引き出し電極とも称され得る。配線電極107の端子部107aおよび配線部107bは、絶縁層508の上に形成される。
【0149】
次に、
図10を参照して、第6の実施の形態について説明する。
図10は、第6の実施の形態に係るインクジェットヘッド21を示す平面図である。第6の実施形態の駆動素子102は、第1の実施形態の駆動素子102と形状が異なる。
【0150】
図10に示すように、第5の実施形態の駆動素子102は、菱形に形成される。駆動素子102の幅は、例えば170μm、長さは、例えば340μmである。ノズル101は、駆動素子102の中央に位置する。圧力室201も、駆動素子102の形状に対応して、菱形に形成される。
【0151】
第6の実施形態の駆動素子102は、第1の実施形態の円形の駆動素子102と比べて、より高密度に配置することができる。すなわち、駆動素子102を菱形に形成することで、駆動素子102を千鳥状に配置しやすくなる。なお、駆動素子102および圧力室201の形状は、円形や菱形に限らず、楕円形または矩形のような他の形状であっても良い。
【0152】
次に、
図11および
図12を参照して、第7の実施の形態について説明する。
図11は、第7の実施の形態に係る一つのインクジェットヘッド21を分解して示す斜視図である。
図12は、第7の実施形態のインクジェットヘッド21を示す断面図である。第7の実施形態のノズル101は、駆動素子102の外に位置する。
【0153】
図12に示すように、圧力室201の円形断面の中心から離れた位置に、対応するノズル101の中心がある。圧力室201は、対応する駆動素子102およびノズル101を囲む。このため、ノズル101は、圧力室201に連通する。
【0154】
駆動素子102は、円形状に形成され、対応するノズル101とは異なる位置にある。駆動素子102の中心は圧力室201の円形断面の中心から離れた位置にある。なお、駆動素子102は、圧力室201と同一軸上に配置されても良い。
【0155】
第7の実施形態のインクジェットヘッド21によれば、ノズル101が駆動素子102と異なる位置に配置される。このため、駆動素子102の共有電極106の電極部106c、配線電極107の電極部107c、および圧電体膜111の中心に、ノズル101を形成するための円形パターニングが不要になる。ノズル101を形成するために、振動板105および保護膜108のみがパターニングされる。これにより、パターニングの不良によるインク吐出位置の精度不良を抑制できる。
【0156】
以上述べた少なくとも一つのインクジェットヘッドによれば、
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0157】
例えば、インクジェットヘッド21は、セパレートプレート300を有さずとも良い。インクジェットヘッド21の仕様、圧力室201の直径や深さなどを調整することで、セパレートプレート300を有しないインクジェットヘッド21も、インク吐出が可能である。このようなインクジェットヘッド21においては、圧力室構造体200、セパレートプレート300、およびインク流路構造体400の接着剤貼り合わせの精度は、約0.2mmである。このため、当該貼り合わせは、さらに容易且つ短時間に行われる。