(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
走行体と所定の旋回軸を中心として旋回可能に前記走行体上に配置される旋回体と前記旋回体に取り付けられる作業機とを有する油圧ショベルの掘削制御システムであって、
前記旋回体の配置を示す旋回体配置データを生成する第1データ生成部と、
前記旋回体の動作を示す動作データに基づいて所定時間後の前記旋回体配置データを予測補正することによって、補正旋回体配置データを生成する予測補正部と、
前記旋回体配置データと前記補正旋回体配置データとに基づいて、前記作業機の位置を示す作業機位置データを生成する第2データ生成部と、
前記作業機位置データに基づいて、掘削対象の目標形状を示す設計地形データを生成する第3データ生成部と、
を備える掘削制御システム。
前記第1データ生成部は、前記旋回体上に設けられる複数の基準部の位置を示す複数の基準位置データを第2周期で取得して、前記複数の基準位置データに基づいて前記旋回体が向いている方位を示す旋回体方位データを生成し、
前記予測補正部は、前記旋回体方位データを少なくとも1回取得する、
請求項3に記載の掘削制御システム。
前記第2データ生成部は、前記旋回体配置データに基づいて、前記所定の旋回軸を通る前記油圧ショベルの旋回中心の位置を示す旋回中心位置データを生成し、前記旋回中心位置データと前記補正旋回体配置データとに基づいて、前記作業機位置データを生成する、
請求項1乃至5のいずれかに記載の掘削制御システム。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(油圧ショベル100の全体構成)
図1は、実施形態に係る油圧ショベル100の斜視図である。油圧ショベル100は、車両本体1と、作業機2とを有する。また、油圧ショベル100には、掘削制御システム200(
図3参照)が搭載されている。掘削制御システム200の構成および動作については後述する。
【0019】
車両本体1は、旋回体3と運転室4と走行装置5とを有する。旋回体3は、走行装置5上に配置される。旋回体3は、上下方向に沿った旋回軸AXを中心として旋回可能である。旋回体3は、図示しないエンジンや油圧ポンプなどを収容する。旋回体3の後端部にはカウンタウエイトが配置され、カウンタウエイト上には、第1GNSSアンテナ21及び第2GNSSアンテナ22(複数の基準部の一例)が配置されている。第1GNSSアンテナ21及び第2GNSSアンテナ22は、RTK−GNSS(Real Time Kinematic - Global Navigation Satellite Systems、GNSSは全地球航法衛星システムをいう。)用のアンテナである。旋回体3に備えられる運転室4は、旋回体3の前部上に載置されている。運転室4内には、運転席や各種操作装置が配置される。走行装置5は一対の履帯5a,5bを有しており、一対の履帯5a,5bそれぞれの回転により油圧ショベル100は走行する。本実施形態において断りなき場合、前後左右は運転席を基準とし説明する。運転席が正面に正対する方向を前方向とし、前方向に対向する方向を後方向とする。運転席が正面に正対したとき側方方向の右側、左側をそれぞれ右方向、左方向とする。
【0020】
作業機2は、旋回体3上において上下揺動可能に取り付けられる。作業機2は、ブーム6と、アーム7と、バケット8と、ブームシリンダ10と、アームシリンダ11と、バケットシリンダ12と、を有する。ブーム6の基端部は、ブームピン13を介して旋回体3の前端部に揺動可能に取り付けられる。アーム7の基端部は、アームピン14を介してブーム6の先端部に揺動可能に取り付けられる。バケット8は、バケットピン15を介してアーム7の先端部に揺動可能に取り付けられる。また、ブームシリンダ10とアームシリンダ11とバケットシリンダ12のそれぞれは、作動油によって駆動される油圧シリンダである。ブームシリンダ10は、ブーム6を駆動する。アームシリンダ11は、アーム7を駆動する。バケットシリンダ12は、バケット8を駆動する。
【0021】
ここで、
図2Aは油圧ショベル100の側面図であり、
図2Bは油圧ショベル100の背面図である。
図2Aに示すように、ブーム6の長さ、すなわち、ブームピン13からアームピン14までの長さは、L1である。アーム7の長さ、すなわち、アームピン14からバケットピン15までの長さは、L2である。バケット8の長さ、すなわち、バケットピン15からバケット8のツースの先端(以下、「バケット刃先8a」という。)までの長さは、L3である。
【0022】
また、
図2Aに示すように、ブームシリンダ10とアームシリンダ11とバケットシリンダ12には、それぞれ第1〜第3ストロークセンサ16〜18が設けられている。第1ストロークセンサ16は、ブームシリンダ10のストローク長さ(以下、「ブームシリンダ長L1」という。)を検出する。後述する表示コントローラ28(
図4参照)は、第1ストロークセンサ16が検出したブームシリンダ長L1から、車両本体1の垂直方向に対するブーム6の傾斜角θ1を算出する。第2ストロークセンサ17は、アームシリンダ11のストローク長さ(以下、「アームシリンダ長L2」という。)を検出する。表示コントローラ28は、第2ストロークセンサ17が検出したアームシリンダ長L2から、ブーム6に対するアーム7の傾斜角θ2を算出する。第3ストロークセンサ18は、バケットシリンダ12のストローク長さ(以下、「バケットシリンダ長L3」という。)を検出する。表示コントローラ28は、第3ストロークセンサ18が検出したバケットシリンダ長L3から、アーム7に対するバケット8が有するバケット刃先8aの傾斜角θ3を算出する。ブーム6、アーム7、バケット8の傾斜角θ1〜3は、ストロークセンサで計測する以外に、ブーム6に取り付けられブーム6の傾斜角を計測する傾斜角センサと、アーム7に取り付けられアーム7の傾斜角を計測する傾斜角センサと、バケット8に取り付けられバケット8の傾斜角を計測する傾斜角センサとによって取得することができる。
【0023】
車両本体1には、
図2Aに示すように、位置検出部19が備えられている。位置検出部19は、油圧ショベル100の位置を検出する。位置検出部19は、上述の第1及び第2GNSSアンテナ21,22と、グローバル座標演算器23と、IMU(Inertial Measurement Unit)24とを有する。
【0024】
第1及び第2GNSSアンテナ21,22は、旋回体3上において車幅方向に離間して配置される。第1GNSSアンテナ21は、自装置の位置を示す基準位置データP1を測位衛星から受信する。第2GNSSアンテナ22は、自装置の位置を示す基準位置データP2を測位衛星から受信する。第1GNSSアンテナ21及び第2GNSSアンテナ22は、例えば10Hz周期(第2周期の一例)で基準位置データP1,P2を受信する。第1GNSSアンテナ21及び第2GNSSアンテナ22は、基準位置データP1,P2を受信するたびにグローバル座標演算器23に出力する。
【0025】
グローバル座標演算器23は、第1及び第2GNSSアンテナ21,22からグローバル座標で表される2つの基準位置データP1,P2(複数の基準位置データの一例)を取得する。グローバル座標演算器23は、2つの基準位置データP1,P2に基づいて、旋回体3の配置を示す“旋回体配置データ”を生成する。本実施形態において、“旋回体配置データ”には、2つの基準位置データP1,P2の一方を基準位置データPと、2つの基準位置データP1,P2に基づいて生成される旋回体方位データQが含まれる。ここで、旋回体方位データQは、第1GNSSアンテナ21と第2GNSSアンテナ22が取得した基準位置データPより決定される直線がグローバル座標の基準方位(例えば北)に対してなす角に基づいて決定される。旋回体方位データQは、旋回体3(すなわち、作業機2)が向いている方位を示している。グローバル座標演算器23は、例えば10Hz周期で第1GNSSアンテナ21及び第2GNSSアンテナ22から2つの基準位置データP1,P2を取得するたびに、旋回体配置データ(基準位置データPと旋回体方位データQ)を更新する。
【0026】
IMU24は、旋回体3に取り付けられ、旋回体3の動作を示す“動作データ”を検出する。本実施形態において、“動作データ”は、旋回軸AXを中心として旋回体3が旋回する旋回角速度ω(
図1参照)を示す旋回角速度データDωである。また、IMU24は、車両本体1の左右方向に対する傾斜角θ4(
図2B参照)と、車両本体1の前後方向に対する傾斜角θ5(
図2A参照)とを検出する。IMU24は、例えば100Hz周期(第1周期の一例)で旋回角速度データDω、傾斜角θ4及び傾斜角θ5を更新する。IMU24における更新周期は、グローバル座標演算器23における更新周期よりも短いことが好ましい。
【0027】
ここで、IMU24では、センサの温度変化によりピッチング角等の計測値が0度となる点が変動してしまう、いわゆる“熱ドリフト”という現象が生じる場合がある。この場合、IMU24では、不正確な旋回角速度ωが検出されてしまうおそれがある。この点を考慮して、本実施形態では、後述するように、グローバル座標演算器23によって周期的に生成される旋回体方位データQが予測補正に利用される。
【0028】
(掘削制御システム200の構成)
図3は、掘削制御システム200の機能構成を示すブロック図である。掘削制御システム200は、操作装置25と、作業機コントローラ26と、比例制御弁27と、表示コントローラ28と、表示部29と、を備える。
【0029】
操作装置25は、作業機2を駆動するオペレータ操作を受け付け、オペレータ操作に応じた操作信号を出力する。具体的に、操作装置25は、オペレータ左側に設置される左操作レバー25Lと、オペレータ右側に配置される右操作レバー25Rと、を有する。左操作レバー25L及び右操作レバー25Rでは、前後左右の動作が2軸の動作に対応されている。例えば、右操作レバー25Rの前後方向の操作は、ブーム6の操作に対応され、前後方向の操作に応じてブーム6の下げ上げの動作が実行される。右操作レバー25Rの左右方向の操作は、バケット8の操作に対応され、左右方向の操作に応じてバケット8の掘削、開放動作が実行される。また、左操作レバー25Lの前後方向の操作は、旋回体3の旋回に対応され、前後方向の操作に応じて旋回体3の右旋回動作と左旋回動作が実行される。左操作レバー25Lの左右方向の操作は、アーム7の操作に対応され、左右方向の操作に応じてアーム7の伸長、曲げ動作が実行される。
【0030】
操作装置25は、ブーム操作検出部31とバケット操作検出部32とを含む。ブーム操作検出部31は、ポテンショメータ又はホールIC等を用いることによって、レバー傾転角に対応した操作量を検出する。ブーム操作検出部31は、右操作レバー25Rの前後方向の操作に応じて、オペレータによるブーム6の操作を受け付ける。ブーム操作検出部31は、右操作レバー25Rの前後方向の操作に応じてブーム操作信号M1を出力する。バケット操作検出部32は、ポテンショメータ及びホールIC等を用いることによって、レバー傾転角に対する操作量を検出する。バケット操作検出部32は、右操作レバー25Rの左右方向の操作に応じて、オペレータによるバケット8の操作を受け付ける。バケット操作検出部32は、右操作レバー25Rの左右方向の操作に応じてバケット操作信号M2を出力する。
【0031】
また、操作装置25は、アーム操作検出部33と旋回操作検出部34とを含む。アーム操作検出部33は、ポテンショメータ及びホールIC等を用いることによって、レバー傾転角に対応した操作量を検出する。アーム操作検出部33は、左操作レバー25Lの左右方向の操作に応じて、オペレータによるアーム7の操作を受け付ける。アーム操作検出部33は、左操作レバー25Lの左右方向の操作に応じてアーム操作信号M3を出力する。旋回操作検出部34は、ポテンショメータ及びホールIC等を用いることによって、レバー傾転角に対する操作量を検出する。旋回操作検出部34は、左操作レバー25Lの前後方向の操作に応じて、オペレータによる旋回体3の旋回操作を受け付ける。旋回操作検出部34は、左操作レバー25Lの前後方向の操作に応じて旋回操作信号M4を出力する。
【0032】
なお、左操作レバー25Lと右操作レバー25Rが油圧駆動方式の場合、操作量の検出をパイロット圧力に基づいて検出する方式でもよい。また、旋回操作検出部34とアーム操作検出部33を入れ替えてもよい。この時、左操作レバー25Lの前後方向における操作に応じてアーム7の伸長、曲げ動作が実行され、左操作レバー25Lの左右方向における操作に応じて旋回体3の左右の旋回動作が実行される。
【0033】
作業機コントローラ26は、旋回軸AXを中心として旋回体3が旋回する旋回角速度ω(
図1参照)を示す旋回角速度データDωをIMU24から取得する。作業機コントローラ26は、グローバル座標演算器23から旋回体方位データQ(旋回体配置データの一例)を取得する。作業機コントローラ26は、旋回角速度データDωに基づいて旋回体方位データQを予測補正することによって補正旋回体方位データR(補正旋回体配置データの一例)を生成し、補正旋回体方位データRを表示コントローラ28に送信する。作業機コントローラ26における予測補正については後述する。
【0034】
また、作業機コントローラ26は、操作装置25からブーム操作信号M1、バケット操作信号M2、アーム操作信号M3および旋回操作信号M4を取得する。また、作業機コントローラ26は、第1〜第3ストロークセンサ16〜18からブームシリンダ長L1、アームシリンダ長L2およびバケットシリンダ長L3(以下、適宜「シリンダ長L」と総称する。)を取得する。作業機コントローラ26は、表示コントローラ28から後述する設計地形データUを取得する。作業機コントローラ26は、設計地形データUとシリンダ長Lとに基づいて、設計地形に対するバケット刃先8aの位置を取得する。作業機コントローラ26は、設計地形に沿ってバケット刃先8aが移動するように操作装置25より入力された操作信号M1〜M3を、設計地形とバケット刃先8aの距離と速度に基づき調整して制御信号Nを生成し、制御信号Nを比例制御弁27に出力する。これにより、作業機2が設計地形に近づく速度は、設計地形に対する距離に応じて制限される。
【0035】
比例制御弁27は、ブームシリンダ10、アームシリンダ11およびバケットシリンダ12それぞれと図示しない油圧ポンプとの間に配置される。比例制御弁27は、作業機コントローラ26からの制御信号Nに応じてブームシリンダ10、アームシリンダ11、バケットシリンダ12それぞれへの作動油供給量を決定する弁の開口度を調整しながら、ブームシリンダ10、アームシリンダ11およびバケットシリンダ12それぞれに作動油を供給する。
【0036】
表示コントローラ28は、グローバル座標演算器23から旋回体配置データ(基準位置データPと旋回体方位データQ)を取得する。また、表示コントローラ28は、作業機コントローラ26の後述する予測補正部261から補正旋回体方位データRを取得する。さらに、表示コントローラ28は、第1〜第3ストロークセンサ16〜18からシリンダ長Lを取得する。表示コントローラ28は、基準位置データP、旋回体方位データQ、補正旋回体方位データR及びシリンダ長Lに基づいて、作業機の位置を示す“作業機位置データ”を生成する。本実施形態において、表示コントローラ28は、“作業機位置データ”として、バケット刃先8aの3次元位置を示す“バケット刃先位置データS”を生成する。そして、表示コントローラ28は、バケット刃先位置データSと後述する立体設計地形データTを用いて、掘削対象の目標形状を示す設計地形データUを生成する。また、表示コントローラ28は、設計地形データUに基づいて表示部29に設計地形Uaを表示させる。
【0037】
(作業機コントローラ26及び表示コントローラ28の詳細構成)
図4は、作業機コントローラ26及び表示コントローラ28の詳細構成を示すブロック図である。
【0038】
作業機コントローラ26は、予測補正部261と、相対距離取得部262と、制限速度決定部263と、相対速度取得部264と、掘削制限制御部265と、を有する。表示コントローラ28は、立体設計地形データ格納部281と、バケット刃先位置データ生成部282と、設計地形データ生成部283と、を有する。
【0039】
予測補正部261は、旋回体3(すなわち、作業機2)が向いている方位を示す旋回体方位データQをグローバル座標演算器23から取得する。予測補正部261は、旋回体3の旋回角速度ω(
図1参照)を示す旋回角速度データDωをIMU24から取得する。予測補正部261は、旋回角速度データDωに基づいて、旋回体方位データQを予測補正する。具体的に、予測補正部261は、旋回角速度ωを遅れ時間tに乗算することによって、予測回転角ωtを算出する。遅れ時間tとは、後述するバケット刃先位置データS及び設計地形データUの生成にかかると予測される時間である。本実施形態では、遅れ時間tとして、0.4s程度が想定されている。そして、予測補正部261は、旋回体3が旋回体方位データQの方位から予測回転角ωtだけ回転した時の予測方位を示す補正旋回体方位データRを生成する。補正旋回体方位データRによって示される予測方位は、設計地形データUの生成時点における旋回体3(すなわち、作業機2)の方位である。
【0040】
また、予測補正部261は旋回体3の左右方向に対する傾斜角θ4及び旋回体3の前後方向に対する傾斜角θ5をIMU24より取得する。予測補正部261は、補正旋回体方位データRに基づく旋回体の予測方位を算出する。予測補正部261は予測方位における予測傾斜角θ4’、θ5’を算出する。以下、
図5Aに示すように傾斜角θ6の傾斜地において油圧ショベル100が前向きで作業した後に、
図5Bに示すように旋回体3が旋回して横向きになった場合を想定しながら、予測傾斜角θ4’、θ5’について説明する。旋回動作の前後で旋回体3の前後方向に対する傾斜角θ5は“θ6”から徐々に小さくなって“0”になる、一方で側方方向に対する傾斜角θ4は“0”から徐々に大きくなって“θ6”になる。従って、予測補正部261は、旋回角速度ωに基づいて、遅れ時間t経過後の予測傾斜角θ4’、θ5’を算出することができる。予測補正部261は予測傾斜角θ4’、θ5’をバケット刃先位置データ生成部282に出力する。傾斜地等で油圧ショベル100が作業を行う場合、旋回に伴って旋回体3の傾斜角θ4、θ5が変化する状況においても、旋回体3の傾斜の補正が可能となる。
【0041】
ここで、予測補正部261の補正旋回体方位データRの更新について、
図6及び
図7を参照しながら説明する。
図6は、予測補正部261が補正旋回体方位データRを更新する処理を説明するためのフロー図である。
図7は、旋回体3の動作に合わせて実行される予測補正部261の処理を説明するための図である。
【0042】
ステップS101において、予測補正部261は、旋回体3が向いている方位を示す旋回体方位データQを、例えば10Hz周期(第2周期の一例)でグローバル座標演算器23から取得する。
【0043】
ステップS102において、予測補正部261は、旋回軸AXを中心とする旋回角速度データDωと、旋回体3の前後方向に対する傾斜角θ4と、旋回体3の左右方向に対する傾斜角θ5とを、例えば100Hz周期(第1周期の一例)でIMU24から取得する。
【0044】
ステップS103において、予測補正部261は、旋回体方位データQを取得したことに応じて、最新の旋回角速度データDωを用いて旋回体3がωt旋回した後における旋回体3の方位を示す補正旋回体方位データRと、旋回体3の前後方向に対する予測傾斜角θ4’と、旋回体3の左右方向に対する予測傾斜角θ5’とを更新する。
【0045】
ステップS104において、予測補正部261は、更新した補正旋回体方位データR、予測傾斜角θ4’、θ5’をバケット刃先位置データ生成部282に出力する。
【0046】
予測補正部261は、旋回体方位データQを取得するたびにステップS101〜S104を繰り返すことによって補正旋回体方位データR、予測傾斜角θ4’、θ5’を更新する。
【0047】
このように、予測補正部261は、旋回体方位データQより計測周期の早いIMUで取得した旋回角速度データDω、傾斜角θ4、θ5を用いることにより、旋回体方位データQより高周期で補正旋回体方位データR、予測傾斜角θ4’、θ5’を生成可能である。また、補正旋回体方位データR、予測傾斜角θ4’、θ5’は熱ドリフトの変動を含む可能性のある旋回角速度データDω、傾斜角θ4、θ5を、グローバル座標演算器23から取得した旋回体方位データQにより更新する事ができる。これにより、遅れ時間tに対して設計地形データUの生成の為の周期に関連する補正旋回体方位データR、予測傾斜角θ4’、θ5’を送信可能となる。
【0048】
立体設計地形データ格納部281は、作業エリアの目標形状(以下、「立体設計地形」という。)を示す立体設計地形データTを格納している。立体設計地形データTは、掘削対象の目標形状を示す設計地形データUを生成するために必要とされる座標データや角度データを含んでいる。
【0049】
バケット刃先位置データ生成部282は、グローバル座標演算器23から取得する基準位置データP及び旋回体方位データQに基づいて、旋回軸AXを通る油圧ショベル100旋回中心の位置を示す旋回中心位置データXを生成する。バケット刃先位置データ生成
82は、第1〜第3ストロークセンサ16〜18からリアルタイムに取得するシリンダ長Lに基づいて、ブーム6の車両本体1の垂直方向に対する傾斜角θ1と、アーム7のブーム6に対する傾斜角θ2と、バケット8のアーム7に対する傾斜角θ3とを算出する。そして、バケット刃先位置データ生成部282は、旋回中心位置データXと補正旋回体方位データRと作業機の傾斜角θ1〜θ3と旋回体3の予測傾斜角θ4’、θ5’とに基づいて、バケット刃先8aの現在位置を示すバケット刃先位置データSを生成する。このように、旋回中心位置データXを基準にバケット刃先位置データSを生成することにより、
図7の実線で示す油圧ショベル100の第1及び第2GNSSアンテナ21,22の基準位置データP1,P2から破線で示す油圧ショベル100の予測した旋回動作等に伴う第1及び第2GNSSアンテナ21,22の移動を生成することができる。
【0050】
ここで、バケット刃先位置データ生成部282は、例えば10Hz周期(第2周期の一例)で基準位置データPと旋回体方位データQとをグローバル座標演算器23から取得する。また、バケット刃先位置データ生成部282は、例えば10Hz周期(第2周期の一例)で補正旋回体方位データRを予測補正部261から取得する。従って、バケット刃先位置データ生成部282は、例えば10Hz周期(第2周期の一例)でバケット刃先位置データSを更新することができる。バケット刃先位置データ生成部282は、更新したバケット刃先位置データSを設計地形データ生成部283に出力する。
【0051】
設計地形データ生成部283は、立体設計地形データ格納部281に格納された立体設計地形データTと、バケット刃先位置データ生成部282からのバケット刃先位置データSと、を取得する。設計地形データ生成部283は、立体設計地形データTとバケット刃先位置データSに基づいて、
図8に示すように、旋回体3の前後方向で規定する作業機2の動作平面MPと立体設計地形との交線Eを設計地形の候補線として取得する。設計地形データ生成部283は、設計地形の候補線においてバケット刃先8aの直下点を設計地形の基準点APとする。設計地形データ生成部283は、設計地形の基準点APの前後の単数若しくは複数の変曲点とその前後の線を掘削対象となる設計地形として決定する。そして、設計地形データ生成部283は、掘削対象の目標形状を示す設計地形データUを生成する。設計地形データ生成部283は、設計地形データUに基づいて表示部29に設計地形Uaを表示させる。
【0052】
ここで、設計地形データ生成部283は、例えば10Hz周期(第2周期の一例)でバケット刃先位置データSをバケット刃先位置データ生成部282から取得する。従って、設計地形データ生成部283は、例えば10Hz周期(第2周期の一例)で設計地形データUを更新することができる。設計地形データ生成部283は、更新した設計地形データUを相対距離取得部262に出力する。
【0053】
なお、本実施形態では、バケット刃先位置データ生成部282によるバケット刃先位置データSの生成と、設計地形データ生成部283による設計地形データUの生成には、併せて遅れ時間tが必要であると想定されている。
【0054】
相対距離取得部262は、バケット刃先位置データ生成部282からバケット刃先位置データSを取得し、設計地形データ生成部283から設計地形データUを取得する。相対距離取得部262は、
図9に示すように、バケット刃先位置データS及び設計地形データUに基づいて、設計地形Uaに垂直な方向におけるバケット刃先8aと設計地形Uaとの距離dを算出する。なお、
図9において、バケット刃先8aは、掘削制限制御の介入ラインCの内側に侵入しており、バケット刃先8aの距離dは介入ラインCの距離hよりも小さい。
【0055】
制限速度決定部263は、距離dに応じた設計地形Uaに対する垂直方向の制限速度Vを取得する。ここで、
図10は、制限速度Vと距離dとの関係を示すグラフである。
図10に示すように、制限速度Vは、距離dが距離h以上で最大となり、距離dがライン距離hより設計地形Uaに近くなるほど小さくなる。また、距離dが“0”であるとき、制限速度Vは“0”となる。
【0056】
相対速度取得部264は、操作装置25から取得する操作信号M1〜M3に基づいて、バケット刃先8aの速度Wを算出する。また、相対速度取得部263は、速度Wに基づいて、バケット刃先8aの設計地形Uaに対する垂直方向の相対速度Wa(
図9参照)を取得する。なお、
図9において、相対速度Waは、制限速度Vよりも大きい。
【0057】
掘削制限制御部265は、バケット刃先8aの相対速度Waが制限速度Vを超えている場合、作業機2の制限速度制御を行う。バケット刃先8aの相対速度Waを制限速度Vに抑えるように操作装置25の操作信号M1〜M3を調整することによって、例えばブーム7の速度制限を行う為の制御信号Nを生成する。掘削制限制御部265は、制御信号Nを比例制御弁27に出力する。これによって、バケット刃先8aに対する掘削制限制御が実行され、設計地形Uaに対するバケット刃先8aの位置が自動調整される。
【0058】
(作用及び効果)
(1)本実施形態に係る掘削制御システム200は、グローバル座標演算器23(第1データ生成部)と、予測補正部261と、バケット刃先位置データ生成部282(第2データ生成部の一例)と、設計地形データ生成部283(第3データ生成部の一例)と、を備える。グローバル座標演算器23は、旋回体3が向いている方位を示す旋回体方位データQ(旋回体配置データの一例)を生成する。予測補正部261は、旋回体3の旋回角速度ωを示す旋回角速度データDω(動作データの一例)と遅れ時間tとに基づいて旋回体方位データQを予測補正することによって、補正旋回体方位データR(補正旋回体配置データの一例)を生成する。バケット刃先位置データ生成部282は、基準位置データP1と旋回体方位データQと補正旋回体方位データRとに基づいて、バケット刃先8aの位置を示すバケット刃先位置データS(作業機位置データの一例)を生成する。設計地形データ生成部283は、バケット刃先位置データS及び立体設計地形データTに基づいて、設計地形データUを生成する。遅れ時間tには、バケット刃先位置データS及び立体設計地形データTの生成に必要な時間が含まれている。
【0059】
このように、予測補正部261は、旋回体3の旋回角速度ωに基づいて、立体設計地形データTの生成時点において旋回体3が向いている方位を予測できる。そのため、バケット刃先位置データ生成部282は、遅れ時間t経過時点におけるバケット刃先8aの位置を予測できる。その結果、設計地形データ生成部283は、立体設計地形データTの生成時点におけるバケット刃先8aの位置に対応した設計地形Uaを把握することができる。
【0060】
(2)予測補正部261は、旋回角速度データDωを例えば100Hz(第1周期の一例)で取得し、旋回体方位データQを例えば10Hz(第2周期の一例)で取得する。
【0061】
従って、予測補正部261は、定期的に取得される旋回体方位データQを用いて、補正旋回体方位データRを生成できる。従って、旋回角速度データDωを生成するIMU24に熱ドリフトが発生したとしても、例えば10Hzごとに更新される旋回体方位データQを基準として補正方位を算出できる。従って、補正方位を示す補正旋回体方位データRを持続して生成することができる。
【0062】
(その他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0063】
(A)上記実施形態において、IMU24は、旋回体3の動作を示す“動作データ”として、旋回体3の旋回角速度ωを示す旋回角速度データDω、傾斜角θ4、θ5を取得することとしたが、これに限られるものではない。IMU24は、旋回体3の傾斜を示す傾斜角度の変化を取得してもよい。旋回体3の傾斜角とは、単位時間当たりにおける傾斜角θ4、θ5(
図2A及び
図2B参照)の変化量である。このような傾斜角度の変化を旋回角速度データDωに代えて用いることによっても、油圧ショベル100が揺動した場合に時遅れ時間tの経過時点におけるバケット刃先8aの位置を取得できるため、立体設計地形データTの生成時点における設計地形Uaを把握することができる。
【0064】
(B)上記実施形態において、予測補正部261は、IMU24によって生成される旋回角速度データDωを取得することとしたが、これに限られるものではない。予測補正部261は、旋回体3に設置するポテンショメータによって検出される回転角度や操作装置25から出力される旋回操作信号M4に基づいて旋回角速度データDωを取得することができる。また、予測補正部261は、グローバル座標演算器23から第1GNSSアンテナ21及び第2GNSSアンテナ22の2つの基準位置データP1,P2を取得し、2つの基準位置データP1,P2に基づいて旋回角速度データDωを取得することもできる。
【0065】
(C)上記実施形態において、バケット刃先位置データ生成部282は、基準位置データP1と旋回体方位データQに基づいて、油圧ショベル100の旋回中心の位置を算出することとしたが、これに限られるものではない。バケット刃先位置データ生成部282は、旋回体方位データQに代えて、第1GNSSアンテナ21が基準位置データP1を受信した時点における旋回体3の方位を示す磁気センサ等の方位センサにより取得するデータを用いてもよい。
【0066】
(D)上記実施形態において、予測補正部261は、例えば10Hz周期(第2周期の一例)で旋回体方位データQをグローバル座標演算器23から取得することとしたが、IMU24の熱ドリフトを考慮する必要がないのであれば、旋回体方位データQを少なくとも1回取得すればよい。この場合、予測補正部261は、取得した旋回体方位データQを基準に旋回角速度データDωを随時加えていくことによって、旋回体3の方位を例えば100Hz周期(第1周期の一例)で更新することができる。
【0067】
(E)上記実施形態において、表示コントローラ28は、作業機位置データとしてバケット刃先位置データSを生成することとしたが、これに限られるものではない。表示コントローラ28は、バケット刃先位置データSに代えて、バケット8の任意の位置を示す位置データを取得してもよい。また、表示コントローラ28は、バケット刃先位置データSの設計地形Uaに対し近い任意の位置を示す位置データを取得してもよい。また、表示コントローラ28で行われる立体設計地形データ格納、バケット刃先位置データ生成、設計地形データ生成は作業機コントローラ26で行ってもよい。
【0068】
(F)上記実施形態において、制限速度Vと垂直距離dとは、
図10に示すように線形的な関係であることとしたが、これに限られるものではない。制限速度Vと垂直距離dとは、非線形的な関係であってもよいし、また
図10のグラフは原点を通らなくてもよい。