(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態に係る光電変換装置の製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図面においては同様な構成および機能を有する部分については同一符号を付しており、下記説明では重複説明を省略する。また、図面は模式的に示したものであり、各図における各種構造のサイズおよび位置関係等は正確に図示されたものではない。
【0010】
<(1)光電変換装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る光電変換装置の製造方法を用いて作製した光電変換装置11の一例を示す斜視図である。
図2は、
図1の光電変換装置11のXZ断面図である。なお、
図1から
図10には、光電変換セル10の配列方向(
図1の図面視左右方向)をX軸方向とする右手系のXYZ座標系を付している。
【0011】
光電変換装置11は、基板1の上に複数の光電変換セル10が並設された構成を有している。
図1では、図示の都合上、2つの光電変換セル10のみを示しているが、実際の光電変換装置11には、図面のX軸方向、あるいはさらに図面のY軸方向に、多数の光電変換セル10が平面的に(2次元的に)配列されている。
【0012】
各光電変換セル10は、下部電極層2、光吸収層3、第1バッファ層4、上部電極層5、および集電電極7を主に備えている。光電変換装置11では、上部電極層5および集電電極7が設けられた側の主面が受光面となっている。また、光電変換装置11には、第1〜3溝部P1,P2,P3といった3種類の溝部が設けられている。
【0013】
基板1は、複数の光電変換セル10を支持するものであり、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂、または金属等の材料で構成されている。具体例として、例えば、基板1として1〜3mm程度の厚さを有する青板ガラス(ソーダライムガラス)が用いられてもよい。
【0014】
下部電極層2は、基板1の一主面の上に設けられた導電層であり、例えば、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、または金(Au)等の金属、あるいはこれらの金属の積層構造体からなる。また、下部電極層2は、0.2〜1μm程度の厚さを有し、例えば、スパッタリング法または蒸着法等の公知の薄膜形成方法によって形成される。
【0015】
光吸収層3は、下部電極層2の+Z側の主面(一主面ともいう)の上に設けられた、第1の導電型(ここではp型の導電型)を有する半導体層であり、1〜3μm程度の厚さを有している。光吸収層3は、I−III−VI族化合物またはI−II−IV−VI族化合物を主として含む半導体層である。なお、I−III−VI族化合物またはI−II−IV−VI族化合物を主として含む半導体層とは、I−III−VI族化合物またはI−II−IV−VI族化合物を70mol%以上含む半導体層のことをいう。
【0016】
I−III−VI族化合物は、I−B族元素(11族元素ともいう)とIII−B族元素(13族元素ともいう)とVI−B族元素(16族元素ともいう)との化合物である。また、I−II−IV−VI族化合物は、I−B族元素とII−B族元素(12族元素ともいう)とIV−B族元素(14族元素ともいう)とVI−B族元素との化合物である。
【0017】
I−III−VI族化合物としては、例えば、CuInSe
2(二セレン化銅インジウム、CISともいう)、Cu(In,Ga)Se
2(二セレン化銅インジウム・ガリウム、CIGSともいう)、Cu(In,Ga)(Se,S)
2(二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム、CIGSSともいう)等が挙げられる。なお、光吸収層3は、複数層の積層体であってもよく、例えば、薄膜のCIGSS層を表面層として有するCIGS層にて構成されていてもよい。
【0018】
また、I−II−IV−VI族化合物としては、例えば、Cu
2ZnSnS
4(CZTSともいう)、Cu
2ZnSn(S,Se)
4(CZTSSeともいう)、およびCu
2ZnSnSe
4(CZTSeともいう)等が挙げられる。
【0019】
第1バッファ層4は、光吸収層3にヘテロ接合した半導体層である。第1バッファ層4は、光吸収層3の導電型とは異なる導電型(ここではn型の導電型)を有していてもよい。なお、導電型が異なる半導体とは、伝導担体(キャリア)が異なる半導体のことである。上記のように光吸収層3の導電型がp型である場合に、第1バッファ層4の導電型は、n型またはi型であってもよい。また、光吸収層3の導電型がn型またはi型であり、第1バッファ層4の導電型がp型である態様も有り得る。
【0020】
第1バッファ層4は、金属硫化物を含んだ半導体層であり、例えば、硫化カドミウム(CdS)、硫化インジウム(In
2S
3)、硫化亜鉛(ZnS)、In(OH,S)およびZn(OH,S)等の化合物半導体によって構成されている。なお、In(OH,S)とは、In(OH)
3とIn
2S
3との混晶化合物である。また、Zn(OH,S)とは、Zn(OH)
2とZnSとの混晶化合物である。そして、電流の損失が低減される観点から言えば、第1バッファ層4は、1Ω・cm以上の抵抗率を有するものとすることができる。
【0021】
また、第1バッファ層4は、光吸収層3の一主面の法線方向に厚さを有する。この厚さは、例えば10〜200nmに設定される。
【0022】
上部電極層5は、第1バッファ層4の上に設けられた、第2の導電型(ここではn型の導電型)を有する透明導電膜であり、光吸収層3において生じた電荷を取り出す電極である。上部電極層5は、第1バッファ層4よりも低い抵抗率を有する物質によって構成されている。上部電極層5には、いわゆる窓層と呼ばれるものも含まれ、この窓層に加えてさらに透明導電膜が設けられる場合には、これらが一体の上部電極層5とみなされてもよい。
【0023】
上部電極層5は、禁制帯幅が広く且つ透明で低抵抗の材料を主に含んでいる。このような材料としては、例えば、ZnO、In
2O
3およびSnO
2等の金属酸化物半導体等が採用され得る。これらの金属酸化物半導体には、Al、B、Ga、In、Sn、SbおよびF等の元素が含まれてもよい。このような元素が含まれた金属酸化物半導体の具体例としては、例えば、AZO(Aluminum Zinc Oxide)、BZO(boron zinc oxide)、GZO(Gallium Zinc Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、ITO(Indium Tin Oxide)、FTO(Fluorine tin Oxide)等がある。
【0024】
上部電極層5は、スパッタリング法、蒸着法または化学的気相成長(CVD)法等によって、0.05〜3μmの厚さを有するように形成される。ここで、光吸収層3から電荷が良好に取り出される観点から言えば、上部電極層5は、1Ω・cm以下の抵抗率と、50Ω/□以下のシート抵抗とを有するものとすることができる。
【0025】
第1バッファ層4および上部電極層5は、光吸収層3が吸収する光の波長領域に対して光を透過させ易い性質(光透過性ともいう)を有する素材によって構成され得る。これにより、第1バッファ層4と上部電極層5とが設けられることで生じる、光吸収層3における光の吸収効率の低下が低減される。
【0026】
また、光透過性が高められると同時に、光電変換によって生じた電流が良好に伝送される観点から言えば、上部電極層5は、0.05〜0.5μmの厚さとなるようにすることができる。
【0027】
集電電極7は、Y軸方向に離間して設けられ、それぞれがX軸方向に延在している。集電電極7は、導電性を有する電極であり、例えば、銀(Ag)等の金属からなる。
【0028】
集電電極7は、光吸収層3において発生して上部電極層5において取り出された電荷を集電する役割を担う。集電電極7が設けられれば、上部電極層5の薄層化が可能となる。
【0029】
集電電極7および上部電極層5によって集電された電荷は、第2溝部P2に設けられた接続導体6を通じて、隣の光電変換セル10に伝達される。接続導体6は、例えば、
図2に示すように、集電電極7のY軸方向への延在部分によって構成されている。これにより、光電変換装置11においては、隣り合う光電変換セル10の一方の下部電極層2と、他方の集電電極7とが、第2溝部P2に設けられた接続導体6を介して電気的に直列に接続されている。なお、接続導体6は、これに限定されず、上部電極層5の延在部分によって構成されていてもよい。
【0030】
集電電極5は、良好な導電性が確保されつつ、光吸収層3への光の入射量を左右する受光面積の低下が最小限にとどめられるように、50〜400μmの幅を有するものとすることができる。
【0031】
<(2)光電変換装置の製造方法>
図3から
図9は、光電変換装置11の製造途中の様子をそれぞれ模式的に示す断面図である。なお、
図3から
図9に示す各断面図は、
図2で示した断面に対応する部分の製造途中の様子を示す。
【0032】
まず、
図3に示すように、洗浄された基板1の略全面に、スパッタリング法等を用いて、Mo等からなる下部電極層2を成膜する。そして、下部電極層2の上面のうちのY方向に沿った直線状の形成対象位置からその直下の基板1の上面にかけて、第1溝部P1を形成する。第1溝部P1は、例えば、YAGレーザー等によるレーザー光を走査しつつ形成対象位置に照射することで溝加工を行なう、スクライブ加工によって形成することができる。
図4は、第1溝部P1を形成した後の状態を示す図である。
【0033】
第1溝部P1を形成した後、下部電極層2の上に、光吸収層3を形成する。光吸収層3は、スパッタリング法あるいは蒸着法などのいわゆる真空プロセスによって形成可能であるほか、いわゆる塗布法あるいは印刷法と称されるプロセスによって形成することもできる。塗布法あるいは印刷法と称されるプロセスは、光吸収層3の構成元素の錯体溶液を下部電極層2の上に塗布し、その後、乾燥・熱処理を行なうプロセスである。
図5は、光吸収層3を形成した後の状態を示す図である。
【0034】
光吸収層3を形成した後、光吸収層3の上に第1バッファ層4を形成する。以下では、光吸収層3の上に第1バッファ層4を形成する工程を第1工程という。
図6は、第1バッファ層4を形成した後の状態を示す図である。
【0035】
第1バッファ層4は、例えば第1バッファ層4の原料を含む溶液と光吸収層3とを接触させることによって光吸収層3上に第1バッファ層4を析出させる方法(以下、溶液法という)を用いて形成することができる。この溶液法の例としては、第1バッファ層4の原料を含む溶液中に光吸収層3が形成された基板1を浸漬し、光吸収層3上に第1バッファ層4を析出させる、Chemical Bath Deposition法(CBD法ともいう)と呼ばれる方法がある。また、溶液法の他の例としては、光吸収層3上に、第1バッファ層4の原料を含む溶液を、スピンコータ、スクリーン印刷、ディッピング、スプレーまたはダイコータなどを用いて皮膜状に塗布して加熱することによって第1バッファ層4を析出させる、塗布法と呼ばれる方法がある。なお、浸漬とは、液体に浸すことをいう。
【0036】
上記CBD法の具体例としては、例えば、塩化インジウムとチオアセトアミドと塩酸とを溶解した水溶液またはアルコール溶液に、光吸収層3の形成まで行なった基板1を浸漬することで、光吸収層3の上にIn
2S
3を含む第1バッファ層4を形成することができる。あるいは、酢酸カドミウムとチオ尿素とアンモニアとを溶解した水溶液に、光吸収層3の形成まで行なった基板1を浸漬することで、光吸収層3の上にCdSを含む第1バッファ層4を形成することができる。
【0037】
また、上記塗布法の具体例としては、例えば、塩化インジウムとチオアセトアミドとを溶解したメタノール溶液を、200℃以上に加熱した光吸収層3の表面にスプレー等で皮膜状に塗布することによって、第1バッファ層4を形成することができる。第1バッファ層4を塗布法によって形成する場合は、CBD法のような溶液処理に比べて、廃液が少なくなり、廃液処理や設備の低コスト化が期待できる。
【0038】
第1バッファ層4を形成した後、第1バッファ層4の表面にアルカリ金属化合物の溶液(以下、アルカリ金属化合物の溶液のことを第1溶液という)を接触させる。以下では、第1バッファ層4の表面に第1溶液を接触させる工程を第2工程という。
【0039】
ここで、アルカリ金属化合物とはアルカリ金属元素の化合物であり、水やアルコール等の極性溶媒中でアルカリ金属イオンに電離可能な物質をいう。また、アルカリ金属元素としては、周期表のI−A族(1族ともいう)のうち、Li、Na、K、RbおよびCsを用いることができる。そして、第1溶液としては、例えば、1〜100mol/m
3のNaCl、NaNO
3、NaClO
4、Na
2S、NaOH、KCl、KNO
3、NaClO
4、K
2S、KOH等の水溶液やアルコール溶液等が挙げられる。第1バッファ層4の表面に第1溶液を接触させる工程は、例えば、第1溶液中に、第1バッファ層4までが形成された基板1を浸漬させる工程(ディップ処理工程ともいう)であってもよく、あるいは、第1バッファ層4の表面に第1溶液を塗布する工程であってもよい。以下では、第1溶液中に、第1バッファ層4までが形成された基板1を浸漬させる工程のことを「浸漬による接触工程」といい、第1バッファ層4の表面に第1溶液を塗布する工程のことを「塗布による接触工程」という。
【0040】
「浸漬による接触工程」を用いる場合には、第1溶液の温度は、例えば20〜80℃としてもよい。また、第1溶液に基板1を浸漬させる時間は、例えば1〜60分としてもよい。
【0041】
また、「塗布による接触工程」を用いる場合には、基板1の温度を、例えば50〜250℃として接触工程を行なってもよい。
【0042】
このように光吸収層3上に第1バッファ層4を形成した後、第1溶液を接触させることによって、光吸収層3と第1バッファ層4との電気的な接合を良好にすることができる。つまり、光吸収層3と第1バッファ層4とを先に接合することによって、これら2種の半導体層のヘテロ接合を良好に行なうことができ、その後、第1溶液によって光吸収層3と第1バッファ層4との界面における欠陥(例えば、I−B族元素の欠損による欠陥)をアルカリ金属元素によって良好に埋めることができる。その結果、光電変換装置11の光電変換効率が向上する。
【0043】
さらに、アルカリ金属元素が光吸収層3と第1バッファ層4との界面に存在することで、キャリア濃度が増大し、光電変換効率が高くなる。
【0044】
また、光電変換効率をさらに高めるという観点からは、第1溶液として塩基性溶液を用いてもよい。なお、この塩基性の第1溶液は、以下のような条件で用いることができる。
【0045】
第1バッファ層4の表面に第1溶液を接触させる工程として、「浸漬による接触工程」を採用する場合は、塩基性の第1溶液としてpH8〜11のものを用いることができる。これによって、第1バッファ層4の溶解速度よりもアルカリ金属元素の第1バッファ層4の内部への拡散速度が高くなる。つまり、第1溶液の塩基性が高くなると第1バッファ層4の内部へのアルカリ金属元素の拡散が促進されるが、さらに塩基性が高くなると第1バッファ層4の溶解性も高くなる傾向がある。そこで、第1バッファ層4の溶解速度よりもアルカリ金属元素の第1バッファ層4の内部への拡散速度が高い条件とすることで、第1バッファ層4の結晶構造を良好に維持しながら、第1バッファ層4の内部へのアルカリ金属元素の拡散を良好に行なうことができる。
【0046】
また、第1バッファ層4の表面に第1溶液を接触させる工程として、「塗布による接触工程」を採用する場合は、塩基性の第1溶液としてpH8〜13のものを用いることができる。これにより、第1バッファ層4上に塗布された第1溶液が、第2の半導体層4の表面部をある程度溶解した後、第1バッファ層4の表面の窪んだ部位に入り込みやすくなる。その結果、第1バッファ層4の表面の凹凸形状をより平坦化することができ、上部電極層5と第1バッファ層4との電気的な接続をより良好にすることができる。
【0047】
また、光吸収層3と第1バッファ層4との界面におけるVI−B族の欠損による欠陥も良好に埋めて、より光電変換効率を向上するという観点から、第1溶液は、硫化ナトリウム水溶液であってもよい。
【0048】
以上のように第1バッファ層4の表面に第1溶液を接触させた後、さらに、光吸収層3および第1バッファ層4を、例えば100〜250℃でアニールしてもよい。このアニール時間は、例えば10〜180分とすればよい。このようなアニール工程を行なうことで、さらに光電変換効率が高くなる。
【0049】
なお、このアニール工程の際の雰囲気を、水素を含んだ雰囲気としてもよい。これによって、光電変換効率がさらに向上する。なお、水素を含んだ雰囲気としては、水素雰囲気または水素と不活性ガスとを含む混合雰囲気を用いることができる。混合雰囲気を用いる場合、不活性ガスとしては窒素やアルゴンを用いることができ、混合雰囲気中の水素の含有量は50mol%以上とすることができる。
【0050】
以上のように第1バッファ層4の処理を行なった後、第1バッファ層4の上に上部電極層5を形成する。上部電極層5は、例えば、ITOやAZO等を主成分とする透明導電膜であり、スパッタリング法、蒸着法またはCVD法等で形成することができる。
図7は、上部電極層5を形成した後の状態を示す図である。
【0051】
上部電極層5を形成した後、上部電極層5の上面のうちのY方向に沿った直線状の形成対象位置からその直下の下部電極層2の上面にかけて、第2溝部P2を形成する。第2溝部P2は、例えば、40〜50μm程度のスクライブ幅のスクライブ針を用いたスクライビングを、繰り返し間隔をずらしながら連続して数回にわたって行なうことで形成できる。また、スクライブ針の先端形状を第2溝部P2の幅に近い程度にまで広げた上でスクライブすることによって第2溝部P2を形成してもよい。あるいは、2本または2本を超えるスクライブ針を相互に当接または近接した状態で固定し、1回から数回のスクライブを行なうことによって第2溝部P2を形成してもよい。
図8は、第2溝部P2を形成した後の状態を示す図である。第2溝部P2は、第1溝部P1よりも若干X方向(図中では+X方向)にずれた位置に形成する。
【0052】
第2溝部P2を形成した後、集電電極7および接続導体6を形成する。集電電極7および接続導体6については、例えば、Ag等の金属粉を樹脂バインダー等に分散して成る導電性を有するペースト(導電ペーストともいう)を、所望のパターンを描くように印刷し、これを加熱することで形成できる。
図9は、集電電極7および接続導体6を形成した後の状態を示す図である。
【0053】
集電電極7および接続導体6を形成した後、上部電極層5の上面のうちの直線状の形成対象位置からその直下の下部電極層2の上面にかけて、第3溝部P3を形成する。第3溝部P3の幅は、例えば、40〜1000μm程度とすればよい。また、第3溝部P3は、第2溝部P2と同様に、メカニカルスクライビングによって形成すればよい。このようにして、第3溝部P3の形成によって、
図1および
図2で示された光電変換装置11を作製したことになる。
【0054】
なお、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良などが可能である。例えば、以下に示すような各変形例を採用してもよい。
【0055】
<(3)光電変換装置の製造方法の第1変形例>
第1バッファ層4を形成する第1工程を行なった後、第1バッファ層4の表面に第1溶液を接触させる第2工程を行なう前に、第1バッファ層4の表面部をエッチングする工程をさらに具備していてもよい。これによって、第2工程において、第1溶液を第2の半導体層4内に良好に浸入させやすくなる。つまり、第2の半導体層4の表面部をエッチングすることによって、第2の半導体層4の表面状態(表面の凹凸形状)を均一化(平坦化)することができ、それによって、第1溶液が第2の半導体層4の内部にばらつきなく浸入しやすくなる。
【0056】
第1バッファ層4の表面部のエッチング工程では、第1工程後の第1バッファ層4の厚みに対して5〜20%程度の厚みに相当する表面部をエッチングすればよい。
【0057】
第1バッファ層4の表面部をエッチングする方法としては、エッチング液等を用いたウェットエッチングであってもよく、あるいは、エッチングガスやイオン、ラジカル等を用いたドライエッチングであってもよい。製造装置を簡素化できるという観点からはウェットエッチングを用いてもよい。
【0058】
ウェットエッチングに用いるエッチング液としては、pHが1〜3程度の塩酸等の酸性水溶液、またはpHが8〜13程度のアンモニア水等のアルカリ性水溶液を用いることができる。
【0059】
ウェットエッチングの方法としては、第2の半導体層4までが形成された基板1をエッチング液に浸漬する方法であってもよく、あるいは第2の半導体層4の表面にエッチング液を、例えば、スプレーなどを用いて塗布する方法であってもよい。第2の半導体層4の表面にエッチング液を塗布する方法の場合は、塗布されたエッチング液が、第2の半導体層4の表面部をエッチングした後、第2の半導体層4の表面の窪んだ部位に入り込みやすくなる。その後、熱処理することで半導体層4の表面および内部の余分な溶媒等を蒸発させる。このような工程によって、第2の半導体層4の表面の凹凸形状をより平坦化することができる。また、このような方法であれば、エッチング液の廃液も低減あるいは無くすことができるため、工程を簡略化できる。
【0060】
<(4)光電変換装置の製造方法の第2変形例>
図10に示すように、第1バッファ層4の表面に第1溶液を接触させる第2工程を行なった後に、この第1バッファ層4上にさらに金属硫化物を含む第2バッファ層4aを形成する工程を具備していてもよい。これによって、第1バッファ層4と第2バッファ層4aとで構成されるバッファ層の内部にアルカリ金属元素をさらに良好に取り込むことができる。
【0061】
なお、
図10は他の例としての光電変換装置21の断面図であり、
図1、2で示される光電変換装置11における各構成と同じ構成のものには同じ符号を付している。
図10に示す光電変換装置21は、第1バッファ層4の上にさらに第2バッファ層4aが形成されている点で、
図1、2に示す光電変換装置11と異なっている。
【0062】
第2バッファ層4aの形成は、上記の第1バッファ層4の形成方法と同様に、上記の溶液法(CBD法または塗布法)を用いて形成することができる。第1バッファ層4および第2バッファ層4aは同じ組成であってもよく、異なる組成であってもよい。
【0063】
特に、バッファ層中にアルカリ金属元素をより良好に安定して含ませることができるとともに、第1溶液の利用効率を高めることができるという観点から、第1バッファ層4の表面に第1溶液を接触させる第2工程を上記の「塗布による接触工程」を用いて行なった後に、第2バッファ層4aを塗布法を用いて形成してもよい。
【0064】
なお、上記の第2バッファ層4aを形成した後、さらに上記の第2工程およびバッファ層の形成工程を1回あるいは複数回繰り返してもよい。
【実施例1】
【0065】
次に、光電変換装置11の製造方法について、具体例を示して説明する。
【0066】
まず、光吸収層3を形成するための原料溶液を作製した。原料溶液としては、米国特許第6992202号明細書の記載に基づいて作製した単一源前駆体をピリジンに溶解したものを用いた。なお、この単一源前駆体としては、CuとInとフェニルセレノールとが1つの錯体分子を形成したものと、CuとGaとフェニルセレノールとが1つの錯体分子を形成したものとの混合体を用いた。
【0067】
次に、ガラスによって構成される基板1の表面にMoからなる下部電極層2が成膜されたものを複数枚用意し、それらの下部電極層2の上に原料溶液をブレード法によって塗布して皮膜を形成した。
【0068】
次に、この皮膜を、水素ガス中にセレン蒸気が分圧比で20ppmv含まれる雰囲気において、550℃で1時間加熱して主としてCIGSを含み、厚さが2μmの光吸収層3を形成した。
【0069】
次に、光吸収層3までが形成された各基板を、アンモニア水に酢酸カドミウムとチオ尿素が溶解された溶液に浸漬することで、光吸収層3の上に厚さが50nmのCdSを含む第1バッファ層4を形成した。
【0070】
そして、これらの第1バッファ層4までが形成された基板に対して、以下に示す4条件の異なる処理を行なった。
【0071】
条件1−1では、第1溶液として10mol/m
3のNa
2S水溶液(液温は60℃)を用意し、この第1溶液に、第1バッファ層4までが形成された基板を30分間浸漬した(試料1)。
【0072】
条件1−2では、第1溶液として20mol/m
3のNaCl水溶液(液温は60℃)を用意し、この第1溶液に、第1バッファ層4までが形成された別の基板を30分間浸漬した(試料2)。
【0073】
条件1−3では、第1溶液としてNaOHでpHを11に調整した20mol/m
3のNaCl水溶液(液温は60℃)を用意し、この第1溶液に、第1バッファ層4までが形成された別の基板を30分間浸漬した(試料3)。
【0074】
条件1−4では、第1バッファ層4までが形成された別の基板に対して、アルカリ金属化合物を含む第1溶液を用いた処理は行なわず、比較用とした(試料4)。
【0075】
そして、試料1〜4の各第1バッファ層4上にスパッタリング法によってAlがドープされたZnOからなる上部電極層を形成して、4種類の光電変換装置とした。
【0076】
このようにして作製した試料1〜4の光電変換効率の測定を以下のように実施した。いわゆる定常光ソーラシミュレーターを用いて、光電変換装置の受光面に対する光の照射強度が100mW/cm
2であり且つAM(エアマス)が1.5である条件下での光電変換効率を測定した。その結果、比較用の試料4の光電変換効率は13.5%であったのに対して、試料1では15%、試料2では14%、試料3では15%となり、アルカリ金属化合物を含む第1溶液に接触させた試料1〜3の光電変換効率が向上していることがわかった。特に、第1溶液としてNa
2S水溶液を用いることによって、あるいはアルカリ金属化合物の溶液のpHを塩基性にすることによって、さらに光電変換効率が向上することがわかった。
【実施例2】
【0077】
次に、光電変換装置11の製造方法について、他の具体例を示す。
【0078】
まず、実施例1と同様にして、CIGSを含む光吸収層3までが形成された基板を複数枚用意した。
【0079】
次に、これらの基板を塩化インジウムとチオ尿素が溶解された水溶液に浸漬することで、光吸収層3の上に厚さが50nmの硫化インジウムを含む第1バッファ層4を形成した。
【0080】
そして、これらの第1バッファ層4までが形成された基板に対して、以下に示す5条件の異なる処理を行なった。
【0081】
条件2−1では、第1溶液として2.5mol/m
3のNa
2S水溶液(液温は60℃)を用意し、この第1溶液に、第1バッファ層4までが形成された基板を30分間浸漬した。その後、この基板を170℃で1時間アニールした(試料5)。
【0082】
条件2−2では、第1溶液として2.5mol/m
3のNa
2S水溶液(液温は60℃)を用意し、この第1溶液に、第1バッファ層4までが形成された基板を30分間浸漬した。その後、この基板を200℃で1時間アニールした(試料6)。
【0083】
条件2−3では、第1溶液として2.5mol/m
3のNa
2S水溶液(液温は60℃)を用意し、この第1溶液に、第1バッファ層4までが形成された基板を30分間浸漬した。その後、この基板を225℃で1時間アニールした(試料7)。
【0084】
条件2−4では、第1溶液として2.5mol/m
3のNa
2S水溶液(液温は60℃)を用意し、この第1溶液に、第1バッファ層4までが形成された基板を30分間浸漬した。その後、この基板を250℃で1時間アニールした(試料8)。
【0085】
条件2−5では、第1溶液として2.5mol/m
3のNa
2S水溶液(液温は60℃)を用意し、この第1溶液に、第1バッファ層4までが形成された基板を30分間浸漬した。その後、この基板のアニールは行なわなかった(試料9)。
【0086】
条件2−6では、第1バッファ層4までが形成された基板に対して、アルカリ金属化合物を含む第1溶液を用いた処理もアニールも行なわず、比較用とした(試料10)。
【0087】
そして、試料5〜9の各第1バッファ層4上にスパッタリング法によってAlがドープされたZnOからなる上部電極層を形成して、5種類の光電変換装置とした。
【0088】
このようにして作製した試料5〜9の光電変換効率の測定を実施例1と同様に実施した。その結果、比較用の試料10の光電変換効率は13.8%であったのに対し、試料5では14.9%、試料6では15.3%、試料7では15.4%、試料8では15.1%、試料9では14.5%となり、アルカリ金属化合物を含む第1溶液に接触させた試料5〜9の光電変換効率が向上していることがわかった。また、第1溶液の接触後にさらにアニールを行なった試料5〜8は、さらに光電変換効率が向上していることがわかった。