(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5815854
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月17日
(54)【発明の名称】エレベータ引張り部材
(51)【国際特許分類】
B66B 7/06 20060101AFI20151029BHJP
D01F 6/60 20060101ALI20151029BHJP
【FI】
B66B7/06 A
D01F6/60 371Z
【請求項の数】21
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-514442(P2014-514442)
(86)(22)【出願日】2011年6月10日
(65)【公表番号】特表2014-516897(P2014-516897A)
(43)【公表日】2014年7月17日
(86)【国際出願番号】US2011039896
(87)【国際公開番号】WO2012170031
(87)【国際公開日】20121213
【審査請求日】2014年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】591020353
【氏名又は名称】オーチス エレベータ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】OTIS ELEVATOR COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】ウェッソン,ジョン,ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,フアン
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナン,ゴパル,アール.
【審査官】
大塚 多佳子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−309415(JP,A)
【文献】
特表2008−521728(JP,A)
【文献】
特許第4832689(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 7/06
D01F 6/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータ装置の引張り部材(16)であって、この引張り部材(16)は、長手方向軸(22)に沿って長手方向に延在しているとともに、
引張り部材(16)の全長にわたって前記長手方向軸(22)に平行に延在する1つまたは複数の一次ストランド/コード(23)を構成する複数の繊維と、
引張り部材(16)の全長よりも短い長さにわたって前記長手方向軸(22)に平行に延在する1つまたは複数の二次ストランド/コード(26)を構成する複数の繊維と、
一次および二次のストランド/コード(23,26)を少なくとも実質的に保持するジャケット(24)と、を備え、二次ストランド/コード(26)は、ジャケット(24)の引張り係数よりも大きく、かつ一次ストランド/コード(23)の引張り係数よりも小さい引張り係数を有することを特徴とするエレベータ装置の引張り部材。
【請求項2】
二次ストランド/コード(26)の引張り係数は、ジャケット(24)の引張り係数の少なくとも約10倍であることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ装置の引張り部材。
【請求項3】
一次ストランド/コード(23)の引張り係数は、二次ストランド/コード(26)の引張り係数の約10〜100倍であることを特徴とする請求項2に記載のエレベータ装置の引張り部材。
【請求項4】
ジャケット(24)は、ポリウレタン製であり、一次ストランド/コード(23)は鋼製であることを特徴とする請求項2に記載のエレベータ装置の引張り部材。
【請求項5】
二次ストランド/コード(26)は、アラミドで形成されていることを特徴とする請求項2に記載のエレベータ装置の引張り部材。
【請求項6】
アラミドは、パラ−アラミドであることを特徴とする請求項5に記載のエレベータ装置の引張り部材。
【請求項7】
全ての一次ストランド/コード(23)は、一次引張りゾーン(29)に配置されており、全ての二次ストランド/コード(26)は、一次引張りゾーン(29)の外側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ装置の引張り部材。
【請求項8】
一次引張りゾーン(29)は、引張り部材(16)の中心軸(22)に平行でかつ該中心軸(22)から等距離にある2つの仮想平面(27,28)によって定められることを特徴とする請求項7に記載のエレベータ装置の引張り部材。
【請求項9】
全ての一次ストランド/コード(23)が同一平面上にあることを特徴とする請求項8に記載のエレベータ装置の引張り部材。
【請求項10】
二次ストランド/コード(26)は、一次引張りゾーン(29)の一方側に配置されていることを特徴とする請求項8に記載のエレベータ装置の引張り部材。
【請求項11】
二次ストランド/コード(26)は、一次引張りゾーン(29)の両側に配置されていることを特徴とする請求項8に記載のエレベータ装置の引張り部材。
【請求項12】
請求項1に記載の引張り部材と摩擦接触する駆動綱車(15)を備えることを特徴とするエレベータ装置(10)。
【請求項13】
各々の二次ストランド/コード(26)は、引張り部材(16)と駆動綱車(15)の間の接触長さよりも長いことを特徴とする請求項12に記載のエレベータ装置。
【請求項14】
駆動綱車(15)を回転させる駆動マシン(14)をさらに備えることを特徴とする請求項12に記載のエレベータ装置。
【請求項15】
引張り部材(16)は、エレベータかご(11)と釣合いおもり(12)の間に延在していることを特徴とする請求項14に記載のエレベータ装置。
【請求項16】
長手方向軸に沿って延在するエレベータ引張り部材の形成方法(100)であって、この方法は、
前記長手方向軸に沿って複数の一次ストランド/コードを配置し(101)、前記複数の一次ストランド/コードは、エレベータ引張り部材の全長にわたって前記長手方向軸に平行に延在する複数の繊維から構成され、
前記長手方向軸に沿って複数の二次ストランド/コードを配置し(102)、前記複数の二次ストランド/コードは、エレベータ引張り部材の全長よりも短い長さにわたって前記長手方向軸に平行に延在する複数の繊維から構成され、
一次および二次のストランド/コードをジャケット内に少なくとも実質的に保持すること(103)を含み、二次ストランド/コードは、一次ストランド/コードよりも短いとともにベルトの全長よりも短い長さにわたって延在しており、二次ストランド/コードは、ジャケットの引張り係数よりも大きく、かつ一次ストランド/コードの引張り係数よりも小さい引張り係数を有することを特徴とするエレベータ引張り部材の形成方法。
【請求項17】
一次ストランド/コードは、二次ストランド/コードの引張り係数の10〜100倍の引張り係数を有することを特徴とする請求項16に記載のエレベータ引張り部材の形成方法。
【請求項18】
二次ストランド/コードは、一次ストランド/コードよりも先にジャケット内に保持されることを特徴とする請求項16に記載のエレベータ引張り部材の形成方法。
【請求項19】
一次ストランド/コードは、二次ストランド/コードよりも先にジャケット内に保持されることを特徴とする請求項16に記載のエレベータ引張り部材の形成方法。
【請求項20】
引張り部材を形成するようにジャケットの第1の部分と第2の部分を融合する前に、一次ストランド/コードがジャケットの第1の部分に保持されるとともに、二次ストランド/コードがジャケットの第2の部分に保持されることを特徴とする請求項16に記載のエレベータ引張り部材の形成方法。
【請求項21】
駆動綱車(15)と、
接触長さに沿って駆動綱車(15)と接触する引張り部材(16)と、を備えており、
引張り部材(16)は、長手方向軸(22)に沿って延在するとともに、
引張り部材(16)の全長にわたって前記長手方向軸(22)に平行に延在する1つまたは複数の一次ストランド/コード(23)を構成する複数の繊維と、
引張り部材(16)の全長よりも短い長さにわたって前記長手方向軸(22)に平行に延在する1つまたは複数の二次ストランド/コード(26)を構成する複数の繊維と、
一次および二次のストランド/コード(23,26)を少なくとも実質的に保持するジャケット(24)と、を有し、二次ストランド/コード(26)は、ジャケット(24)の引張り係数よりも大きく、かつ一次ストランド/コード(23)の引張り係数よりも小さい引張り係数を有しており、
一次ストランド/コード(23)は、前記接触長さよりも実質的に長い長さを有し、二次ストランド/コード(26)は、引張り部材(16)と駆動綱車(15)の間の接触長さにほぼ等しい長さを有することを特徴とするエレベータ装置(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エレベータ装置においてエレベータかごおよび/または釣合いおもりの懸吊および/または駆動などに使用される引張り部材に関する。
【背景技術】
【0002】
牽引式エレベータは、広く使用されている。一般に、牽引式エレベータ装置は、かご、釣合いおもり、かごと釣合いおもりを連結する1つまたは複数の引張り部材、引張り部材を移動させる駆動綱車、および駆動綱車を回転させるモータ駆動のマシンを含みうる。綱車は、鋳鉄で形成される。
【0003】
一部のエレベータでは、引張り部材は、撚り合わされた鋼線で形成されたロープである。他のエレベータでは、引張り部材は、ポリマージャケット内に撚り合わされた鋼線が保持されたベルトである。いずれの場合でも、綱車と引張り部材の間の推進荷重の伝達は、綱車と引張り部材の間の接触長さに沿った剪断力の結合を要する。引張り部材がベルトのときは、剪断力が接触長さに沿った総引抜き強さを超えた場合に、ジャケットが割れたり、変形したり、ベルトから分離するおそれさえある。
【0004】
一般に、従来のエレベータ引張り部材は、強度、製造コストおよび/または耐久性のために、特定の数、寸法および形状の鋼線を含む。鋼線の保持に使用されるポリマージャケットは、通常、ポリウレタンまたは他の適切なポリマー材料で形成される。しかし、鋼の引張り強さはポリウレタンよりもかなり高いため、ポリマージャケットは、特に鋼線と鉄製の綱車の間の接触長さにわたって上述の剪断力によって早期に摩耗しやすい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この問題に対処する方法の1つは、二次引張り部材でジャケットを補強することである。例えば、ポリウレタンジャケットで覆われた複数の平たい鋼製コードを含み、ジャケット全体に分散して設けられた複数のポリマーコードで補強されたエレベータベルトが知られている。さらに、各々のポリマーコードは、ベルトの全長にわたって延在する。ポリマーコードは、エレベータベルトの補強には有効であるが、曲げ剛性を増加させるとともに局部的な応力集中を引き起こすおそれがあり、いずれもエレベータベルトの性能や耐用寿命に悪影響を与えうる。また、ジャケット全体に分散して設けられるポリマーコードは、エレベータベルトの製造コストおよび生産時間を増加させるおそれがある。
【0006】
自動車のタイミングベルトやサーペンタインベルトなどの一部の動力伝達ベルトは、ポリマージャケットに覆われた織り強化繊維を含む。このような設計は、労働集約的であり、より多くの材料を使用するが、動力伝達ベルトにおける一次引張り部材(例えば、鋼線)の強度が十分でないため、ベルトの強度のために必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願では、エレベータ装置の引張り部材が開示されている。引張り部材は、長手方向軸に沿って延在するとともに、長手方向軸に平行に延在する1つまたは複数の一次ストランド/コードを構成する複数の繊維と、ベルトの全長よりも短い長さにわたって長手方向軸に平行に延在する1つまたは複数の二次ストランド/コードを構成する複数の繊維と、を含む。二次ストランド/コードは、ジャケットの引張り係数よりも大きく、かつ一次ストランド/コードよりも小さい引張り係数を有する。引張り部材は、一次および二次のストランド/コードを少なくとも実質的に保持するジャケットをさらに含む。
【0008】
選択的に、本発明の上述または他の形態では、二次ストランド/コードの引張り係数は、ジャケットの引張り係数の少なくとも10倍である。
【0009】
選択的に、本発明の上述または他の形態では、一次ストランド/コードの引張り係数は、二次ストランド/コードの引張り係数の約10〜100倍である。
【0010】
選択的に、本発明の上述または他の形態では、ジャケットはポリウレタン製であり、一次ストランド/コードは鋼製である。
【0011】
選択的に、本発明の上述または他の形態では、二次ストランド/コードは、パラアラミドなどのアラミドで形成される。
【0012】
選択的に、本発明の上述または他の形態では、全ての一次ストランド/コードは、一次引張りゾーンに配置され、全ての二次引張りストランド/コードは、一次引張りゾーンの外側に配置される。
【0013】
選択的に、本発明の上述または他の形態では、一次引張りゾーンは、引張り部材の長手方向軸に平行でかつ該長手方向軸から等距離にある2つの仮想平面によって定められる。
【0014】
選択的に、本発明の上述または他の形態では、全ての一次ストランド/コードは同一平面上にある。
【0015】
選択的に、本発明の上述または他の形態では、二次ストランド/コードは、一次引張りゾーンの一方側に位置している。
【0016】
選択的に、本発明の上述または他の形態では、二次ストランド/コードは、一次引張りゾーンの両側に位置している。
【0017】
選択的に、本発明の上述または他の形態では、引張り部材は、エレベータ装置の駆動綱車と摩擦接触している。エレベータ装置は、駆動綱車を回転させる駆動マシンをさらに含みうる。
【0018】
選択的に、本発明の上述または他の形態では、各々の二次ストランド/コードは、引張り部材とエレベータ装置の駆動綱車の間の接触長さよりも長い。
【0019】
選択的に、本発明の上述または他の形態では、エレベータ装置は、駆動綱車を回転させる駆動マシンを含む。
【0020】
選択的に、本発明の上述または他の形態では、引張り部材は、エレベータかごと釣合いおもりの間に延在する。
【0021】
長手方向軸に沿って延在するエレベータ引張り部材の形成方法も開示されている。一般的な実施例では、上述の方法は、複数の一次ストランド/コードを上記長手方向軸に沿って配置し、複数の二次ストランド/コードを上記長手方向軸に沿って配置し、一次および二次のストランド/コードをジャケット内に少なくとも実質的に保持するステップをそれぞれ含む。二次ストランド/コードは、一次ストランド/コードよりも短く、ベルトの全長よりも短い長さにわたって延在しているとともに、ジャケットの引張り係数よりも大きく、かつ一次ストランド/コードの引張り係数よりも小さい引張り係数を有する。
【0022】
選択的に、本発明の上述または他の形態では、二次ストランド/コードは、一次ストランド/コードよりも先にジャケット内に保持される。
【0023】
選択的に、本発明の上述または他の形態では、一次ストランド/コードは、二次ストランド/コードよりも先にジャケット内に保持される。
【0024】
選択的に、本発明の上述または他の形態では、引張り部材を形成するようにジャケットの第1の部分と第2の部分を融合する前に、一次ストランド/コードがジャケットの第1の部分に保持されるとともに、二次ストランド/コードがジャケットの第2の部分に保持される。
【0025】
最後に、駆動綱車と、所定の距離にわたって駆動綱車と接触する引張り部材と、を含むエレベータ装置が開示されている。引張り部材は、長手方向軸に沿って延在するとともに、上記長手方向軸に平行に延在する1つまたは複数の一次ストランド/コードを構成する複数の繊維と、上記長手方向軸に平行に延在する1つまたは複数の二次ストランド/コードを構成する複数の繊維と、一次および二次のストランド/コードを少なくとも実質的に保持するジャケットと、を含む。二次ストランド/コードは、ジャケットの引張り係数よりも大きく、かつ一次ストランド/コードよりも小さい引張り係数を有する。一次ストランド/コードは、上記の距離よりも長い長さを有し、二次ストランド/コードは、上記の距離とほぼ等しい長さを有する。
【0026】
開示されたエレベータ引張り部材およびその製造方法の他の利点や特徴は、以下により詳細に説明する。また、本明細書に開示した装置および方法は、種々の用途で使用されるように当業者によって必要以上の試行を要せずに適切に変更することができる。
【0027】
開示された装置および方法をより完全に理解するために、以下に簡単に説明する添付図面により詳細に示した実施例を参照されたい。
【0028】
図面は、必ずしも一定の比率で縮小したものではなく、開示された実施例は概略的および部分的に図示されている場合もある。特定の場合には、開示された装置または方法の理解に不要な詳細で他の詳細が分かりにくくなるものは省略している。勿論、本開示は、本明細書に示した特定の実施例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一形態による引張り部材が使用可能な例示的なエレベータ装置の側面図である。
【
図2】本発明の一形態による引張り部材が使用可能な例示的なエレベータ装置の側面図である。
【
図3】本発明の一形態による引張り部材が使用可能な例示的なエレベータ装置の側面図である。
【
図4】一次および二次のストランド/コードを特に示す、
図1〜
図3の引張り部材の部分側断面図である。
【
図5】二次ストランド/コードの不連続性を特に示す、
図1〜
図3の引張り部材の部分側面図である。
【
図6】二次ストランド/コードの位置および分布を特に示す、
図1〜
図4の引張り部材の第1の実施例の断面図である。
【
図7】二次ストランド/コードの位置および分布を特に示す、
図1〜
図4の引張り部材の第2の実施例の断面図である。
【
図8】二次ストランド/コードの位置および分布を特に示す、
図1〜
図4の引張り部材の第3の実施例の断面図である。
【
図9】本発明の他の形態による
図4〜
図8の引張り部材の製造方法を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1〜
図3は、牽引式エレベータ装置10の種々の例示的な構成を示している。本発明の理解に必要のない(ガイドレールや安全装置などの)エレベータ装置10の特徴部についてはここでは説明しない。エレベータ装置10は、被覆されたロープあるいはベルトなどの1つまたは複数の引張り部材16によって昇降路18内に動作可能に懸吊または支持されたかご11を含みうる。引張り部材16は、釣合いおもり12を懸吊または支持することもでき、釣合いおもり12は、動作時にエレベータ装置10を釣り合わせるとともに、駆動綱車15の両側で引張り部材16にかかる張力を維持するのを補助する。エレベータ装置10は、さらに、駆動綱車15と動作可能に接続されたマシン14を含む牽引式駆動装置13を含みうる。引張り部材16は、綱車15(および場合によって1つまたは複数の追加のつり車、そらせ車、遊び車19)と接触し、綱車15の回転によって(牽引力により)引張り部材16が移動または推進され、これにより、かご11および/または釣合いおもり12が昇降される。そのために、綱車15は(
図5に最もよく示されているように)引張り部材16の牽引面17と接触する牽引面21を含む。マシン14は、電気モータを含むことができ、ギアレスまたはギア付きの動力伝達装置を含みうる。
【0031】
図1は、1つまたは複数の引張り部材16がかご11および釣合いおもり12で終端となる1:1ローピング配置を提供する。
図2,
図3は、かご11および/または釣合いおもり12が、1つまたは複数の引張り部材16と接触する1つまたは複数の追加の綱車19を有することができることを示しており、1つまたは複数の引張り部材16は別の場所、典型的には(機械室なしエレベータ装置などでは)昇降路18内の構造体あるいは(機械室を使用するエレベータ装置では)機械室内の構造体で終端となる。このような配置で使用される追加の綱車19の数によって、(
図2,
図3に示す2:1の比率または異なる比率である)特定のローピング比が決まる。さらに、
図3は、所謂リュックサック式またはカンチレバー式のエレベータ装置を提供する。以上から分かるように、種々のエレベータ装置で本発明を利用することができる。
【0032】
図4を参照すると、引張り部材16は、少なくとも実質的にジャケット24内に保持された1つまたは複数のストランド/コード23,26を含みうる。引張り部材は、被覆されたロープあるいはベルトの形態とすることができる。“被覆されたロープ”とは、ジャケット24内に1つのコード23を含む引張り部材など、(幅/厚さとして定義される)アスペクト比が約1である引張り部材である。“被覆されたベルト”とは、ジャケット24内に2つ以上のコード23を含む引張り部材など、アスペクト比が1より大きい引張り部材である。
【0033】
“実質的に保持”とは、エレベータ装置10の使用時に発生しうる荷重が引張り部材16に加わったときに、ストランド/コード(23,26)がジャケット24から抜けたり、分離したり/またはジャケット24を通り抜けたりしないように、ジャケット24がストランド/コード(23,26)と十分に係合していることを意味する。換言すると、ストランド/コード(23,26)は、エレベータ装置10の使用時に、ジャケット24に対して初期位置に留まる。ジャケット24は、(
図4に示すように)ストランド/コード(23,26)を完全に覆う/囲むか、ストランド/コード(23,26)を実質的に覆う/囲むか、あるいはストランド/コード(23,26)を少なくとも部分的に覆う/囲むことができる。
【0034】
引き続き
図4を参照すると、引張り部材16は、ジャケット24内に保持された1つまたは複数の一次ストランド/コード23を含みうる。
図4に示すように、引張り部材16は、1より大きいアスペクト比を有しうる(すなわち、引張り部材の幅が引張り部材の厚さよりも大きい)。一次ストランド/コード23は、引張り部材の全長にわたって引張り部材16の長手方向軸22に沿って延在しうる。各々の一次ストランド/コード23は、撚り合わされるか、編まれるか、または他の方法で束にされた複数の耐荷重繊維25を含むことができる。一実施例では、少なくとも数本の耐荷重繊維25は、鋼の引抜きを可能にする特性を有する炭素鋼などの金属で形成される。典型的な鋼は、引抜き強さが約1800〜3300MPaとなる中位の炭素含有量を有する。鋼は、冷間引抜きや亜鉛メッキで得られる強度特性や耐食性のために、冷間引抜きおよび/または亜鉛めっきすることができる。引張り部材16の一次ストランド/コード23は、全て同一であってもよく、またはベルト16で使用される一部あるいは全ての一次ストランド/コード23は、他のストランド/コード23と異なっていてもよい。例えば、1つまたは複数のストランド/コード23は、他のストランド/コード23とは異なる構造や寸法を有しうる。
【0035】
ジャケット24は、単一の材料、複数の材料、同じまたは異なる材料を使用する2つ以上の層、および/またはフィルムを含むあらゆる適切な材料で形成可能である。1つの構成では、ジャケット24は、例えば、押出しプロセスまたはモールドホイールプロセスによって一次ストランド/コード23に施される熱可塑性ポリウレタン材料のようなエラストマーなどのポリマーとすることができる。牽引力、耐久性、1つまたは複数の一次ストランド/コード23への牽引荷重の伝達、および環境要因への耐性を含む引張り部材に要求される機能を満たす限り、ジャケット24の形成に他の材料を使用することもできる。ジャケット24は、防火組成を含みうる。加えて、二次コード/繊維およびジャケットの複合的な引張り特性は、支持されていないジャケットの特性に比べて向上すると予測される。よって、全てのベルト特性を満たすには不充分であるが、減衰や防火性などの他の所望の特性を有するジャケット材料によってエレベータベルトで使用可能な十分な特性を提供することができる。
【0036】
本開示の一形態では、引張り部材16は、ジャケット24内に保持された複数の二次ストランド/コード26を含む。
図4に示すように、二次ストランド/コード26も引張り部材16の長手方向軸22に沿って延在する。特定の理論に縛られることを望まないが、引張り部材16の複合的な引張り強さ、複合的な引張り係数および/または引張り部材16の耐用寿命は、以下により詳細に説明する特定の特性を有するとともに/または特定の位置に配置された二次ストランド/コード26によって改善されると考えられる。さらに、本開示で使用される二次ストランド/コード26は、既知の補強構造に関連する高コスト、複雑な構造、曲げ剛性および/または局部的な応力集中を回避すると同時に引張り部材16を補強することができる。ジャケット24は、二次ストランド/コード26によって、一次ストランド/コード23を実質的に内部に保持することができる。これにより、ジャケット24は、一次ストランド/コード23と十分に係合し、エレベータ装置10の使用時に発生する、潜在的に追加の安全係数を加えた荷重がベルト16にかかったときに、一次ストランド/コード23がジャケット24から抜けたり、分離したり/またはジャケット24を通り抜けたりしない。換言すると、一次ストランド/コード23は、エレベータ装置10における使用時にジャケット24に対して初期位置に留まる。
【0037】
本開示の一部の実施例における引張り部材16の1つの特徴は、二次ストランド/コード26が、ジャケット24よりも大きく、かつ一次ストランド/コード23よりも小さい引張り係数を有しうることである。限定的でない一実施例では、二次ストランド/コード26の引張り係数は、ジャケット24の引張り係数の少なくとも約10倍、または少なくとも約100倍にまで達する。他の限定的でない実施例では、一次ストランド/コード23の引張り係数は、二次ストランド/コード26の引張り係数の約1.5〜3倍である。
【0038】
限定的でない例として、二次ストランド/コード26は、アラミドなどの芳香族ポリアミド材料で形成可能である。アラミドは、一般に、アミンとカルボン酸ハロゲン化物の反応によって得られる。以下の反応によって単純なABホモポリマーが形成可能である。
【0040】
最もよく知られている市販のアラミドは、ケブラー(Kevlar)(登録商標)、トワロン(Twaron)(登録商標)、ノーメックス(Nomex)(登録商標)、ニュースター(New Star)(登録商標)、テイジンコーネックス(Teijinconex)(登録商標)、エックス−ファイパー(X−fiper)であり、これらは全てAABBタイプのポリマーである。上記のアラミドのうちノーメックス、テイジンコーネックス、ニュースター、エックス−ファイパーは、メタ結合を主に含み、ポリ−メタフェニレンイソフタルアシド(poly−metaphenylene isophtalamides MPIA)である。一方、ケブラーとトワロンは、共にAABBタイプのパラ−ポリアラミドの最も単純な形であるp−フェニレンテレフタルアミド(p−phenylene terephtalamides PPTA)である。PPTAは、p−フェニレンジアミン(p−phenylene diamine PPD)とテレフタロイルジクロリド(terephtaloyl dichloride TDCまたはTCI)の生成物である。本出願の一実施例では、二次コードは、ケブラーで形成されている。(一次コードの例示的な材料である)鋼、(二次コードの例示的な材料である)ケブラーおよび(ジャケットの例示的な材料である)熱可塑性ポリウレタンの引張り係数は表1に記載されている。
【0042】
次に
図5を参照すると、本開示の一部の実施例のおける引張り部材16の他の特徴は、二次ストランド/コード26が引張り部材16の全長Lにわたって延在しないことである。実際に、二次ストランド/コード26の平均長さは、引張り部材の全長Lよりも短くてよく、例えば、Lの20%、10%、さらに5%より短くてもよい。しかし、ジャケット24を十分に補強するために、各々の二次ストランド/コード26は、引張り部材16と綱車15の間の接触長さよりも長くすることができる。例として、巻掛け角が約180°の構成では、引張り部材16と綱車15の間の接触長さは、綱車15の外周の約半分でありうる。二次ストランド/コード26を本明細書で開示された長さに調整することで、既知の補強構造に関連する高コスト、複雑な構造、比較的高い曲げ剛性および/または局部的な応力集中を伴わずに、引張り部材16の引張り係数および/または耐用寿命を向上させることができることは、本出願の発明者によって期せずして見いだされたものであり、これまで知られていない。
【0043】
引張り部材16に使用される二次ストランド/コード26の材料および長さに加えて、ジャケット24内における二次ストランド/コード26の配置(位置および分布)も開示された引張り部材16の所望の特徴に貢献しうる。
図6〜
図8は、引張り部材16が、2つの仮想平面27,28によって2つの二次引張りゾーン30,31に挟まれた一次引張りゾーン29に分割された、限定的でないいくつかの例示的な構造を示している。2つの仮想平面27,28は、引張り部材16の長手方向軸22に平行でかつ該長手方向軸22から等距離にある。
【0044】
続いて
図6を参照すると、引張り部材16は、一次引張りゾーン29に位置し、かつ同一平面上に設けられた複数の一次ストランド/コード23を含む。引張り部材16は、さらに、一次引張りゾーン29の外側に位置し、かつ同一平面上に設けられた円形の断面プロファイルを有する複数の二次ストランド/コード26を含む。この実施例では、全ての二次ストランド/コード26が二次引張りゾーン30内に配置されており、他方の二次引張りゾーン31は二次ストランド/コードを含まない。全ての一次ストランド/コード23が一次引張りゾーン29に配置され、かつ全ての二次ストランド/コード26が一次引張りゾーン29の外側に配置される限り、一次ストランド/コード23および二次ストランド/コード26は、いずれも
図6に示す同一平面上に設けられた構成を有する必要はない。
【0045】
図7は、二次ストランド/コード26が比較的平たい断面プロファイルを有している他は
図6と同様の構造を示している。
図6,
図7の二次ストランド/コード26は、2つの二次引張りゾーン30,31の一方のみに配置されているため、このような実施例の引張り部材16は、好ましくは二次ストランド/コード26で補強された二次引張りゾーン30が綱車15の牽引面21に面するように綱車15に巻き付けられる。
【0046】
次に、
図8を参照すると、引張り部材16は、一次引張りゾーン29に位置し、かつ同一平面上に設けられた複数の一次ストランド/コード23を含んでいる。引張り部材16は、一次引張りゾーン29の外側に位置し、かつ円形の断面プロファイルを有する複数の二次ストランド/コード26をさらに含む。
図6,
図7とは異なり、この実施例では、二次ストランド/コード26は、一次引張りゾーン29の両側に配置されており、一部の二次ストランド/コード26が二次引張りゾーン30に位置し、残りが二次引張りゾーン31に位置する。この構造の1つの特徴は、引張り部材16が2つの補強引張りゾーン30,31を含み、いずれの二次引張りゾーンが綱車15の牽引面21に面している状態でも綱車15に巻き付けることができ、引張り部材16の耐用寿命をさらに延長するために定期的に裏返すことができることである。
【0047】
図6〜
図8に示した二次ストランド/コード26の断面プロファイルは、本出願の範囲を限定するものではない。例えば、二次ストランド/コード26の断面プロファイルは、楕円形、正方形、矩形または全体として他の適切な断面プロファイルであってもよい。さらに、一部の実施例では、各々の二次ストランド/コード26は、単一のポリマー繊維または撚られた、編まれた、または他の方法で束にされたポリマー繊維のストランドとすることができる。
【0048】
さらに、
図6〜
図8では全体として矩形の断面プロファイルを有するジャケット24が示されているが、本開示に照らしてジャケット24の他の断面プロファイルも可能である。例えば、ジャケット24は、円形、楕円形、正方形または全体として他の適切な断面プロファイルを有しうる。また、
図4,
図6〜
図8のジャケット24は、複数の一次ストランド/コード23および複数の二次ストランド/コード26を保持しているが、ジャケット24は単一の一次ストランド/コード23および/または単一の二次ストランド/コード26を保持してもよい。ストランド/コード23,26の数が引張り部材16の性能、耐久性および製造コストに悪影響を及ぼさない限り、引張り部材16に他の数の一次ストランド/コード23および二次ストランド/コード26を収容することもできる。
【0049】
特定の理論に縛られることを望まないが、本出願の発明者は、本明細書で開示したように一次および二次のコードを別の引張りゾーンに局在化させることによって、既知の補強構造に関連する高コスト、複雑な構造、比較的高い曲げ剛性および/または局部的な応力集中を伴わずに、引張り部材16の引張り強さおよび/または耐用寿命を向上させることができると考えており、これはこれまで知られていない。
【0050】
さらに、本出願に開示された引張り部材16は、互いに機械的に分離された二次ストランド/コード26を含む。換言すると、各々の二次ストランド/コード26に加わる剪断力は、自動車のタイミングベルトやサーペンタインベルトなどのように、織り合わされた構造体を通して隣接する二次コードに伝達されない。このような干渉しない構造により、本開示による引張り部材16は、比較的単純な製造プロセスでかつ比較的短い時間で、比較的少ない材料によって形成可能である。
【0051】
次に
図9を参照すると、長手方向軸100に沿って延在するエレベータ引張り部材の形成方法が示されている。一般的な実施例では、上記の方法は、複数の一次ストランド/コードを長手方向軸に沿って配置するステップ101と、複数の二次ストランド/コードを長手方向軸に沿って配置するステップ102と、一次および二次のストランド/コードを少なくとも実質的にジャケット内に保持するステップ103と、を含む。二次ストランド/コードは、一次ストランド/コードよりも短く、ベルトの全長よりも短い長さにわたって延在する。さらに、二次ストランド/コードは、ジャケットの引張り係数よりも大きく、かつ一次ストランド/コードの引張り係数よりも小さい引張り係数を有する。
【0052】
一実施例では、熱可塑性ポリウレタンが一次コードに押し出し成形される前に二次コードがポリウレタンに挿入される。他の実施例では、引張り部材の最終製品を形成するために二次コードが挿入される前に、熱可塑性ポリウレタンが一次コードに押し出し成形される。また他の実施例では、2つの被覆されたコードが熱的に融合される前に、熱可塑性ポリウレタンが一次および二次のコードに別々に押し出し成形される。本開示に照らして、他の製造方法も使用可能である。
【0053】
本明細書で開示した引張り部材およびその製造方法は、産業用、商業用および
家庭用の広範な用途を有しうる。引張りコードは、大きな変更を要さずに既存のエレベータ装置に適切に設置することができる。さらに、上述したように、既知の補強構造に関連する高コスト、複雑な構造、曲げ剛性および/または局部的な応力集中を伴わずに、引張り部材16の引張り強さおよび/または耐用寿命を向上させることができる。
【0054】
特定の実施例のみを記載したが、当業者には上述の説明から代替的な実施例おおび種々の変更が明らかである。上述のおよび他の代替例は、同等物であり、本開示の趣旨および範囲に含まれると見なされる。