【実施例】
【0026】
・硫酸マグネシウム水和物の調製
硫酸マグネシウム7水和物(赤穂化成株式会社製 商品名:精製硫酸マグネシウム 換算水和量7.0水)を出発原料とし、送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社製 装置名:DKM600)を用い、通風下50℃で乾燥を行い、約8時間の乾燥により強熱減量47.5%(換算水和量6.1水)の硫酸マグネシウム6水和物を、約15時間の乾燥により強熱減量44.0%(換算水和量5.3水)の硫酸マグネシウム5水和物を、約33時間の乾燥により強熱減量37.5%(換算水和量4.0水)の硫酸マグネシウム4水和物を得た。
硫酸マグネシウム3水和物(赤穂化成株式会社製 商品名:硫酸マグネシウム MG−3K、換算水和量3.0水)と、硫酸マグネシウム0水和物(赤穂化成株式会社製 商品名:硫酸マグネシウム MG−0K、換算水和量0.1水)をそれぞれ2:1、1:2重量部で混合し、硫酸マグネシウム2水和物並びに硫酸マグネシウム1水和物とした。
硫酸マグネシウム7水和物、3水和物、0水和物は、それぞれ上記した市販品を用いた。
【0027】
・塩化マグネシウム水和物の調製
塩化マグネシウム6水和物(赤穂化成株式会社製 商品名:クリスタリンCS 換算水和量6.0水)を出発原料とし、真空定温乾燥機(TABAI ESPEC CORP社製、装置名:LCV−232)を用い、60℃にて約5時間真空乾燥を行い、全体重量を8.8%減少させた塩化マグネシウム5水和物(換算水和量5.0水)を、70℃〜80℃約18時間真空乾燥を行い、全体重量を17.7%減少させた塩化マグネシウム4水和物(換算水和量3.8水)を、70℃〜80℃約83時間真空乾燥を行い、全体重量を27.5%減少させた塩化マグネシウム3水和物(換算水和量2.9水)を得た。
塩化マグネシウム6水和物は上記した市販品を、塩化マグネシウム0水和物は赤穂化成株式会社製 商品名:無水塩化マグネシウム、換算水和量0.0水を用いた。
なお、塩化マグネシウムは118℃以上に加熱すると分解してしまうため、塩化マグネシウム水和物の水和量確認はMg含有量測定により行った。
【0028】
・塩化マグネシウム6水和物と硫酸マグネシウム0〜7水和物との粉体での保存安定性試験
上記で調製した塩化マグネシウム6水和物と、硫酸マグネシウム0〜7水和物それぞれとを、粉体のまま重量比が50:50となるように混合し、混合物約1kgをポリ袋に密閉して室内に静置した。
【0029】
硫酸マグネシウム0〜6水和物を用いたものは、24時間後、20日後ともに、外観の変化は見られず、粉体のままであった。硫酸マグネシウム7水和物を用いたものは、混合直後に遊離水が生じ、24時間後には硬化した。
【0030】
・塩化マグネシウム0、3〜5水和物と硫酸マグネシウム7水和物との粉体での経時安定性試験
上記で調製した塩化マグネシウム0、3〜5水和物それぞれと、硫酸マグネシウム7水和物とを、粉体のまま重量比が50:50となるように混合し、混合物約1kgをポリ袋に密閉して室内に静置した。
【0031】
塩化マグネシウム3〜5水和物を用いたものは、24時間後、20日後ともに、外観の変化は見られず、粉体状のままであった。塩化マグネシウム0水和物を用いたものは、24時間後、20日後も粉体を維持したが、混合直後に激しく発熱し、その温度は60℃以上に達した。
【0032】
「実施例1」
酸化マグネシウム(赤穂化成株式会社製 商品名:AM−2 比表面積:12m
2/g)60重量部、塩化マグネシウム6水和物(赤穂化成株式会社製 商品名:クリスタリンCS)30重量部、硫酸マグネシウム3水和物(赤穂化成株式会社製 商品名:硫酸マグネシウム MG−3K)10重量部をそれぞれ計量混合し、混合物約1kgをポリ袋に密閉後室内に静置した。(a)〜(c)各成分の無水塩換算重量比は74.1:17.4:8.5である
【0033】
「実施例2」
(a)〜(c)各成分の無水塩換算重量比を、63.3:14.9:21.8とした以外は実施例1と同様にして、混合物を静置した。
「実施例3」
硫酸マグネシウム3水和物を上記で調製した4水和物とし、(a)〜(c)各成分の無水塩換算重量比を、64.7:15.1:20.2とした以外は実施例1と同様にして、混合物を静置した。
【0034】
「実施例4」
硫酸マグネシウム3水和物を上記で調製した5水和物とし、(a)〜(c)各成分の無水塩換算重量比を、65.8:15.4:18.8とした以外は実施例1と同様にして、混合物を静置した。
「実施例5」
硫酸マグネシウム3水和物を上記で調製した6水和物とし、(a)〜(c)各成分の無水塩換算重量比を、66.8:15.6:17.6とした以外は実施例1と同様にして、混合物を静置した。
【0035】
「比較例1」
酸化マグネシウム(赤穂化成株式会社製 商品名:AM−2)60重量部、塩化マグネシウム6水和物(赤穂化成株式会社製 商品名:クリスタリンCS)20重量部、硫酸マグネシウム7水和物(赤穂化成株式会社製 商品名:精製硫酸マグネシウム)20重量部をそれぞれ計量混合し、混合物約1kgをポリ袋に密閉後室内に静置した。(a)〜(c)各成分の無水塩換算重量比は75.8:11.9:12.3である。
【0036】
「比較例2」
(a)〜(c)各成分の無水塩換算重量比を、67.7:15.8:16.5とした以外は比較例1と同様にして、混合物を静置した。
【0037】
外観並びに触感により、塩類間の反応による遊離水の有無、並びに硬化の有無を判定した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
実施例1〜4は、静置3日後においても外観上の変化は認められず、遊離水の発生、硬化は認められなかった。静置7日後、20日後も同様に遊離水の発生、および硬化は認められなかった。
【0040】
塩化マグネシウム6水和物と硫酸マグネシウム6水和物とを用いた実施例5は、静置3日後、7日後には外観上の変化は認められなかった。静置20日後には全体的に緩やかな凝集が認められたものの、手で軽く外圧を加えると速やかに粉末状に戻り、硬化は認められなかった。
【0041】
比較例1、2は、静置3日後には混合物全体が一体化し、袋ごと持ち上げても板状のままの形を維持するほど硬化した。遊離水は認められなかったが、これは、塩化マグネシウム6水和物の潮解と硫酸マグネシウム7水和物の風解により遊離水は生じたものの、素早くマグネシアセメントの水和に利用されたためであると推測される。
【0042】
「実施例6」
酸化マグネシウム(商品名:AM−2)60重量部、塩化マグネシウム6水和物(商品名:クリスタリンCS)30重量部、硫酸マグネシウム3水和物(商品名:硫酸マグネシウム MG−3K)10重量部をそれぞれ計量混合した。
この混合物100重量部に対し、水41重量部を徐々に加えながら均一なスラリー状になるように攪拌混合した後、標準砂(一般財団法人日本セメント協会製 商品名:セメント強さ試験用標準砂)141重量部と混練し、40mm×40mm×160mmの供試体が3個作成できる型枠(株式会社関西機械製作所製 商品名:モルタル供試体作成用型枠KC−14)に流し込んで7日間放置して硬化させて供試体1を得た。なお、(a)〜(c)各成分の無水塩換算重量比は74.1:17.4:8.5である。
【0043】
「実施例7」
酸化マグネシウム(商品名:AM−2)60重量部、塩化マグネシウム6水和物(商品名:クリスタリンCS)20重量部、硫酸マグネシウム3水和物(商品名:硫酸マグネシウム MG−3K)20重量部をそれぞれ計量混合し、この混合物100重量部に対し水44重量部を加え、標準砂144重量部を加え、実施例6と同様にして、供試体2を得た。なお、(a)〜(c)各成分の無水塩換算重量比は72.1:11.3:16.6である。
「実施例8」
酸化マグネシウム(商品名:AM−2)50重量部、塩化マグネシウム6水和物(商品名:クリスタリンCS)25重量部、硫酸マグネシウム3水和物(商品名:硫酸マグネシウム MG−3K)25重量部をそれぞれ計量混合し、混合物100重量部に対し水36重量部を加え、標準砂136重量部を加え、実施例6と同様にして、供試体3を得た。なお、(a)〜(c)各成分の無水塩換算重量比を63.3:14.9:21.8である。
【0044】
「比較例3」
普通ポルトランドセメント(宇部三菱セメント株式会社製 商品名:普通ポルトランドセメント)100重量部に水50重量部、標準砂200重量部を徐々に加え、実施例6と同様にして供試体4を得た。
【0045】
実施例6〜8、及び比較例3で得た供試体1〜4について、JIS R5201の記載に準じて圧縮強さと曲げ強さとを測定した。測定は3個の供試体で行い、その相加平均値を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
本発明のマグネシアセメントからなる硬化体は、従来のポルトランドセメントからなる硬化体と同等以上の圧縮強さ、曲げ強さを有していることが確かめられた。すなわち、本発明のマグネシアセメントからなる硬化体は、従来のポルトランドセメントが使用されている建築材料等の用途に利用することができる。
【0048】
「実施例9」
酸化マグネシウム(商品名:AM−2)60重量部、塩化マグネシウム6水和物(商品名:クリスタリンCS)30重量部、硫酸マグネシウム3水和物(商品名:硫酸マグネシウム MG−3K)10重量部をそれぞれ計量混合した。(a)〜(c)各成分の無水塩換算重量比は74.1:17.4:8.5である。
この混合物100重量部に対し、水41重量部を徐々に加えながら均一なスラリー状になるように攪拌混合した後、直径87mm、高さ17mmのプラスチックシャーレにすり切り量流し入れて7日間放置して硬化させて試験片1を得た。
【0049】
「比較例4」
酸化マグネシウム(赤穂化成株式会社製 商品名:酸化マグネシウムM−150T 比表面積:135m
2/g)60重量部と硫酸マグネシウム7水和物(商品名:精製硫酸マグネシウム)40重量部との混合物100重量部に対し、水72重量部を加えた以外は、上記実施例9と同様にして試験片2を得た。(a)〜(c)各成分の無水塩換算重量比は75.4:0:24.6である。
【0050】
「比較例5」
酸化マグネシウム(商品名:AM−2)40重量部と塩化マグネシウム6水和物(商品名:クリスタリンCS)60重量部との混合物100重量部に対し、水40重量部を加えた以外は、上記実施例9と同様にして試験片3を得た。(a)〜(c)各成分の無水塩換算重量比が58.8:41.2:0である。
【0051】
・風解性評価
40℃に設定した送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社製 装置名:DKM600)内に試験片1、2を9日間静置した。送風定温恒温器内の湿度は20%RH以下(測定値)であった。
9日間静置した後の試験片の外観を観察した。また、精密力量測定器(株式会社丸菱科学機械製作所製 装置名:PL−1500)を用い、静置後の試験片の支点間距離50mmとした3点曲げ強さを測定した。測定は3個の試験片で行い、その相加平均値を示す。結果を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
実施例9で作製した試験片1は、40℃、20%RH以下に9日間静置した後も外観に変化はなく、十分な曲げ強さを維持していた。原料塩として風解性を有する硫酸マグネシウム7水和物のみを用いた比較例4で作製した試験片2は、40℃、20%RH以下に9日間静置した後に白化し、多数のひび割れが生じていた。試験片2は、ひび割れにより3点曲げ強度試験機にセットすることができなかったためその曲げ強度は測定不可であった。
【0054】
・潮解性評価
40℃95%RHに設定した恒温恒湿槽(日立アプライアンス株式会社製 装置名:日立恒温恒湿槽 EC−26MHP)内に試験片1、3を9日間静置した。
また、上記風解性評価と同様にして、静置後の試験片の3点曲げ強さを測定した。測定は3個の試験片で行い、その相加平均値を示す。結果を表4に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
実施例9で作製した試験片1は、40℃、95%RH以下に9日間静置した後も外観に変化はなく、十分な曲げ強さを維持していた。原料塩として潮解性を有する塩化マグネシウム6水和物のみを用いた比較例5で作製した試験片3は、40℃、95%RH以下に9日間静置した後に表面に多数の水滴が生じ、またひび割れが生じていた。また、試験片3の曲げ強度は、試験片1の約40%まで低下した。
【0057】
本発明の(a)酸化マグネシウム、(b)塩化マグネシウムの0〜6水和物の少なくとも1種、(c)硫酸マグネシウムの0〜7水和物の少なくとも1種の(a)−(c)を少なくとも含有し、(b)塩化マグネシウムが0水和物または6水和物を含むとき、(c)硫酸マグネシウムが7水和物でないマグネシアセメントは、塩化マグネシウムの潮解性と硫酸マグネシウムの風解性とがバランスを取り合い、風解による白化や、潮解による吸湿変色を抑制でき、劣化しにくいことが確かめられた。