(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、従来の誘導溶解炉では、被加熱材の溶解開始から溶解終了までの各段階で、負荷インピーダンスに応じて電力変換部の出力周波数を最適に制御することで溶解時間の短縮を図ることができるものの、被加熱材の投入量や加熱・溶解温度によって負荷状態が大きく変動した場合への対応が望まれている。
【0005】
特に、溶解初期や溶解した被加熱材を出湯した後は、軽負荷状態となり負荷力率が悪く、加熱コイルに電流が多く流れ、コイル電流が振動して不安定となる可能性がある。
【0006】
以上の事情に鑑みて、本発明は、負荷状態が大きく変動した場合にも安定して動作させることができる誘導溶解炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1発明の誘導溶解炉は、炉壁の外周に設けられた加熱コイルに電力供給手段を介して高周波電力を供給することにより炉内に収納された被加熱材を溶解させる誘導溶解炉の制御装置であって、
順変換器と、第1スイッチング素子および第2スイッチング素子が交互に動作する逆変換器とが直列共振型回路を構成する電力変換部と、
前記加熱コイルへの高周波電流の供給状態を検出する負荷電流検出器と、
前記加熱コイルへの高周波電圧の供給状態を検出する負荷電圧検出器と、
前記負荷電流検出器で検出された高周波電流および前記負荷電圧検出器で検出された高周波電圧に基づいて、前記第1スイッチング素子および前記第2スイッチング素子に対する制御信号を生成する制御信号生成部と
を備え、
前記制御信号生成部は、(1)前記負荷電流検出器で検出された高周波電流に基づく比例積分フィードバック制御により電流一定制御を行う第1電流一定制御回路と、(2)前記負荷電流検出器で検出された高周波電流に基づく比例積分フィードバック制御により電流一定制御を行う第2電流一定制御回路と、(3)前記負荷電圧検出器で検出された高周波電圧に基づく比例積分フィードバック制御により電圧一定制御を行う電圧一定制御回路とを有して、該第1電流一定制御回路と該第2電流一定制御回路と該電圧一定制御回路との出力値のうち最大のものを選択する遅れ優先回路を介して選択された該出力値により、前記第1スイッチング素子および前記第2スイッチング素子に対する制御信号を生成し、
前記第1電流一定制御回路の積分制御の時定数は、前記第2電流一定制御回路の積分制御の時定数より大きいことを特徴とする。
【0008】
第1発明の誘導溶解炉によれば、電流一定制御を行う電流一定制御回路を第1および第2電流一定制御回路の2つで構成し、これらの積分制御の時定数を第2電流一定制御回路に対して第1電流一定制御回路を大きくすることで、第1電流一定制御回路を低速応答とすると共に、第2電流一定制御回路を高速応答とすることができる。
【0009】
そして、第1電流一定制御回路を低速応答とすることで、遅れ優先回路を介して、出力値(偏差)が大きい第1電流一定制御回路を第2電流一定制御回路に優先して通常使用させることができ、(溶解初期や溶解した被加熱材を出湯した後のように軽負荷状態となり負荷力率が悪く)加熱コイルに電流が多く流れてコイル電流が振動して不安定となることを防止することができる。
【0010】
一方で、コイル電流が振動するレベルを超えて、負荷状態が大きく変動した場合には、第2電流一定制御回路の出力値(偏差)が大きくなり、負荷変動に追従するよう出力電流を制御することができる。
【0011】
ここで、第1および第2電流制御回路に加えて電圧一定制御回路が遅れ優先回路において選択可能に構成されることから、第1および第2電流制御回路による電流一定制御を行う場合でも、過電圧トリップが発生するような事象に対しては、遅れ優先回路を介して電圧一制御回路を選択させることができ、過電圧トリップを確実に防止することができる。
【0012】
このように、第1発明の誘導溶解炉によれば、負荷状態が大きく変動した場合にも安定して動作させることができる。
【0013】
第2発明の誘導溶解炉は、第1発明において、
(1)前記第1電流一定制御回路は、前記遅れ優先回路を介して選択された前記出力値が第1微分回路を介して帰還されるPID制御系であり、
(2)前記第2電流一定制御回路は、前記遅れ優先回路を介して選択された前記出力値が第2微分回路を介して帰還されるPID制御系であり、
(3)前記電圧一定制御回路は、前記遅れ優先回路を介して選択された前記出力値が第3微分回路を介して帰還されるPID制御系であり、
前記第1微分回路の時定数は、前記第2微分回路の時定数より小さく且つ前記第3微分回路の時定数よりも大きいことを特徴とする。
【0014】
第2発明の誘導溶解炉の制御装置によれば、第1電流一定制御回路、第2電流一定制御回路および電圧一定制御回路は、遅れ優先回路を介して選択された出力値がそれぞれ第1微分回路、第2微分回路および第3微分回路を介して帰還されるPID制御系により構成される。
【0015】
これにより、遅れ優先回路を介して、第1電流一定制御回路、第2電流一定制御回路および電圧一定制御回路が相互に選択されて切り替わった際に、出力値の変化を滑らかにすることができる。
【0016】
ここで、微分回路は、変化速度が速いほど高い出力特性を示すので、第1〜第3微分回路の時定数を3段階に分け、第1微分回路の時定数を第2微分回路の時定数より小さくして出力値の変化衝撃を和らげながらも、第3微分回路の時定数よりも大きくする(第3微分回路の時定数を最小とする)ことで、過電圧トリップには変化を和らげながらも迅速に応答することができる。
【0017】
このように、第2発明の誘導溶解炉によれば、負荷状態が大きく変動した場合にも変化の前後の安定性を担保して動作させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1を参照して、本実施形態の誘導溶解炉について説明する。
【0020】
誘導溶解炉は、溶解炉内に収納された被加熱材Xを溶解させるものであり、具体的には、電源1と、高圧受電盤2と、変換装置用変圧器3と、電力変換装置4と、高周波整合装置5と、誘導加熱装置6と、コントローラ100とを備える。
【0021】
なお、電力変換装置4および高周波整合装置5が本発明の電力変換部に相当する。
【0022】
電源1は、交流電源であって、高圧受電盤2に接続されている。
【0023】
高圧受電盤2は、誘導加熱装置6への電源通電・停止と故障発生時の電源遮断を行う装置であって、パワーヒューズ2aと遮断器2bとを備える。パワーヒューズ2aは、短絡事故時に電流遮断する手段であって、遮断器2bは、電源の通電と停止に伴う開閉動作を行う。
【0024】
変換装置用変圧器3は、高圧受電盤2に接続され、電力変換装置4への入力電圧が所定の値となるように調整する。
【0025】
電力変換装置4は、変換装置用変圧器3に接続され、50Hzまたは60Hzの商用電源から任意の高周波電流を生成するための装置であって、制御回路10と、交流/直流変換器である順変換器41a,41bと、直流/交流変換器である逆変換器42a,42b(本発明の第1スイッチング素子,第2スイッチングに相当する)とを備え、制御回路10からの出力制御信号により制御される。
【0026】
具体的に、電力変換装置4は、入力側にダイオード式順変換器41a,41bを備え、出力側にIGBT式逆変換器42a,42bを備え、順変換器41a,41bに直列に平滑用リアクトル43が接続されると共に、順変換器41a,41bに並列に平滑用コンデンサ44が接続される。
【0027】
さらに、電力変換装置4は、順変換器41a,41bの出力側の直流電圧を検出して直流電圧信号(a)を出力する直流電圧検出器45を備え、直流電圧検出器45の出力値は、制御回路10に出力される。
【0028】
なお、制御回路10による電力変換装置4の制御内容については詳細を後述する。
【0029】
高周波整合装置5は、電力変換装置4と誘導加熱装置6との間に設けられて、誘導加熱装置6が低力率である場合に負荷力率を改善する。
【0030】
具体的に、高周波整合装置5は、共振用コンデンサ51a,51bと、高周波整合装置5の出力電流を検出して出力電流信号(d)を出力する電流検出器52および出力電圧を検出して出力電圧信号(e)を出力する電圧検出器53等から構成される。
【0031】
なお、電流検出器52が本発明の負荷電流検出器に相当し、電圧検出器53が本発明の負荷電圧検出器に相当する。また、出力電流信号(d)が本発明の高周波電流に相当し、出力電圧信号(e)が本発明の高周波電圧に相当する。
【0032】
誘導加熱装置6は、電力変換装置4と高周波整合装置5とから供給される高周波電流を加熱コイル61に通電させることにより、溶解炉本体内に収納された被加熱材Xにうず電流を発生させ、うず電流により発生するジュール熱で被加熱材Xを加熱溶解させる。
【0033】
コントローラ100は、制御誘導溶解炉の運転・停止を始めとする誘導溶解炉の運転の全般を制御する。
【0034】
次に、説明を後回しにした制御回路10について、
図2を参照して説明する。
【0035】
制御回路10は、主に、出力調整等の制御を行うと共に、誘導溶解炉の制御装置として出力力率を検出する力率検出部、IGBT式逆変換器42a,42bの制御を行う制御信号生成部としての機能を備える。
【0036】
図2に示すように、制御回路10は、第1電流一定制御回路11(ACR(Automatic Current Regulator)1)と、第2電流一定制御回路12(ACR(Automatic Current Regulator)2)と、電圧一定制御回路13(AVR(Automatic Voltage Regulator))と、遅れ優先回路14と、基準周波数保持回路15と、電圧制御発振回路16とを備える。
【0037】
第1電流一定制御回路11は、PID制御系であって、主として、電流検出器52の出力電流信号(d)に基づく比例積分フィードバック制御により電流一定制御を行う。より具体的には、出力電流信号(d)と第1電流一定制御回路11の基準電流である第1基準電流Iref1との偏差に基づく比例積分制御が行われる。
【0038】
第2電流一定制御回路12は、PID制御系であって、主として、電流検出器52の出力電流信号(d)に基づく比例積分フィードバック制御により電流一定制御を行う。より具体的には、出力電流信号(d)と第2電流一定制御回路12の基準電流である第2基準電流Iref2との偏差に基づく比例積分制御が行われる。
【0039】
電圧一定制御回路13は、PID制御系であって、主として、電圧検出器53の出力電圧信号(e)に基づく比例積分フィードバック制御により電圧一定制御を行う。より具体的には、出力電圧信号(e)と電圧一定制御回路13の基準電圧である基準電圧Vrefとの偏差に基づく比例積分制御が行われる。
【0040】
なお、第1電流一定制御回路11、第2電流一定制御回路12および電圧一定制御回路13の詳細は、後述する。
【0041】
遅れ優先回路14は、第1電流一定制御回路11、第2電流一定制御回路12および電圧一定制御回路13の出力値を常時検出し、出力値の最大のもの(最も基準に対し遅れている信号)を選択する。
【0042】
図3に模式的に示すように、遅れ優先回路14は、出力電流信号(d)に基づいて第1電流一定制御回路11により生成された出力信号(f1)および第2電流一定制御回路12により生成された出力信号(f2)と、出力電圧信号(e)に基づいて電圧一定制御回路13により生成された出力信号(g)とから、出力値が最大となる出力信号が適時選択される。
【0043】
これにより、時刻t1より前では、第1電流一定制御回路11の出力信号(f1)が選択されて遅れ優先回路14の出力信号(h)が生成される。同様に、時刻t1〜t2では、第2電流一定制御回路12の出力信号(f2)が選択され、時刻t2〜t3では、電圧一定制御回路13の出力信号(g)が選択され、時刻t3以降は、第1電流一定制御回路11の出力信号(f1)が選択され、それぞれ遅れ優先回路14の出力信号(h)が生成される。
【0044】
なお、説明の都合上、
図3では、遅れ優先回路14の出力信号(h)をやや上方に移して示している。
【0045】
基準周波数保持回路15は、遅れ優先回路14により選択された出力値と周波数基準Frefとの加減値が入力され、この入力値から電力変換装置4の出力周波数を決定する出力信号を生成する。
【0046】
電圧制御発振回路16は、基準周波数保持回路15の出力信号を基に発振周波数を確定すると共に、IGBT式逆変換器42a,42bのゲート制御を行うためのゲート信号を出力する。
【0047】
次に、説明を後回しにした、第1電流一定制御回路11、第2電流一定制御回路12および電圧一定制御回路13の詳細について説明する。
【0048】
第1電流一定制御回路11は、電流検出器52の出力電流信号(d)に基づく比例積分フィードバック制御に加えて、遅れ優先回路14の出力信号(h)が第1微分回路D1を介して帰還され、かかる帰還信号による微分フィードバック制御を行う。
【0049】
第2電流一定制御回路12は、電流検出器52の出力電流信号(d)に基づく比例積分フィードバック制御に加えて、遅れ優先回路14の出力信号(h)が第2微分回路D2を介して帰還され、かかる帰還信号による微分フィードバック制御を行う。
【0050】
なお、第1および第2電流一定制御回路11,12は、いずれも電流検出器52の出力電流信号(d)に基づく比例積分フィードバック制御により電流一定制御を行うが、積分制御の時定数が異なる。
【0051】
具体的には、第1電流一定制御回路11の積分制御の時定数は、第2電流一定制御回路12の積分制御の時定数より大きい。これらの時定数の差は、少なくとも3倍〜5倍以上であり、例えば、7倍〜15倍であり、より好ましくは8〜12倍である。
【0052】
このように、第1および第2電流一定制御回路11,12の積分制御の時定数を変化させることで、第1電流一定制御回路11を低速応答とすると共に、第2電流一定制御回路12を高速応答とすることができる。
【0053】
そして、第1電流一定制御回路11を低速応答とすることで、遅れ優先回路14を介して、出力値(偏差)が大きい第1電流一定制御回路11を第2電流一定制御回路12に優先して通常使用させることができる。特に、溶解初期や溶解した被加熱材を出湯した後に、軽負荷状態となり負荷力率が悪く加熱コイル61に電流が多く流れてコイル電流が振動することがあるが、第1電流一定制御回路11を通常使用させることで、このようなコイル電流の振動を抑制して系が不安定となることを防止することができる。
【0054】
一方で、コイル電流が振動するレベルを超えて、負荷状態が大きく変動した場合には、第2電流一定制御回路12の出力値(偏差)が大きくなり、負荷変動に追従するよう出力電流を制御することができる。
【0055】
ここで、第1および第2電流一定制御回路11,12に加えて電圧一定制御回路13が遅れ優先回路14において選択可能に構成されることから、第1および第2電流一定制御回路11,12による電流一定制御を行う場合でも、過電圧トリップが発生するような事象に対しては、遅れ優先回路14を介して電圧一制御回路を選択させることができ、過電圧トリップを確実に防止することができる。
【0056】
このように、本実施形態の誘導溶解炉よれば、負荷状態が大きく変動した場合にも安定して動作させることができる。
【0057】
電圧一定制御回路13は、電圧検出器53の出力電圧信号(e)に基づく比例積分フィードバック制御に加えて、遅れ優先回路14の出力信号(h)が第3微分回路D3を介して帰還され、かかる帰還信号による微分フィードバック制御を行う。
【0058】
なお、第1電流一定制御回路11と、第2電流一定制御回路12と、電圧一定制御回路13とには、それぞれ第1微分回路D1と、第2微分回路D2と、第3微分回路D3とを介して、遅れ優先回路14の出力信号(h)が帰還されるが、第1〜第3微分回路D1〜D3の時定数が異なる。
【0059】
具体的には、第1微分回路D1の時定数が、第2微分回路D2の時定数より小さく且つ第3微分回路D3の時定数よりも大きい。これらの時定数の差は、第1微分回路D1の時定数が、少なくとも第2微分回路D2の時定数の1/5以下であり、且つ少なくとも第3微分回路D3の時定数の5倍以上である。
【0060】
例えば、第1微分回路D1の時定数が、第2微分回路D2の時定数の1/10〜1/50であり、且つ第3微分回路D3の時定数の7倍〜15倍であり、より好ましくは、第1微分回路D1の時定数が、第2微分回路D2の時定数の1/20〜1/40であり、且つ第3微分回路D3の時定数の8倍〜12倍である。
【0061】
これにより、遅れ優先回路14を介して、第1電流一定制御回路11、第2電流一定制御回路12および電圧一定制御回路13が相互に選択されて切り替わった際に、出力値の変化を滑らかにすることができる。
【0062】
この様子を
図4に模式的に示す。
図4(A)は、第1微分回路〜第3微分回路D1〜D3を省略した場合であり、
図4(B)は、本実施形態のように第1微分回路〜第3微分回路D1〜D3を設けた場合である。
【0063】
図4(A)では、時間tにおいて、遅れ優先回路14を介して、電圧一定制御回路13の出力信号(g)から第1電流一定制御回路11の出力信号(f1)へ切り替わった際に、遅れ優先回路14の出力信号(h)が矩形となっている。
【0064】
一方、
図4(B)では、時間tにおいて、遅れ優先回路14を介して、電圧一定制御回路13の出力信号(g)から第1電流一定制御回路11の出力信号(f1)へ切り替わった際に、遅れ優先回路14の出力信号(h)が滑らかに変移している。
【0065】
ここで、微分回路は、その特定上、変化速度が速いほど高い出力特性を示すので、第1〜第3微分回路D1〜D3の時定数を上述のように3段階に分けることで、まず、第3微分回路D3の時定数を最小として、過電圧トリップ対策として応答性を高めておくと共に、第1微分回路D1および第2微分回路D2の応答性のバランスを取っている。
【0066】
仮に、微分回路D1とD2が同じ時定数の場合、第1電流一定制御回路11は低速応答,第2電流一定制御回路12は高速応答としているので、負荷変動があった場合に第2電流一定制御回路が即反応することになってしまう。
【0067】
ここで、高速電流制御の変化量が大きい場合,出力電流の安定性に欠けるため電流の振動が起こり易くなる。そこで、第1微分回路D1の時定数を小さくして応答性を早める一方、第2微分回路D2の時定数を(第1微分回路D1に比して)大きくして応答性を遅くすることで反応速度のバランスを取ることができる。
【0068】
このように、本実施形態の誘導溶解炉によれば、負荷状態が大きく変動した場合にも変化の前後の安定性を担保して動作させることができる。
【0069】
以上、本実施形態の誘導溶解炉の構成の詳細であり、かかる構成の誘導溶解炉によれば、
図5にフローチャートで模式的に示すように、被加熱材Xの溶解状態に応じて加熱コイル61への供給電力が以下のように制御される。
【0070】
まず、溶解が開始されると、制御回路10は、電流検出器52が検出した出力電流信号(d)を取得する(SETP11)。
【0071】
次に、制御回路10は、取得した出力電流信号(d)に基づく比例積分フィードバック制御を第1電流一定制御回路11で行う(STEP12)。
【0072】
なお、補足説明すると、取得した出力電流信号(d)に基づく比例積分フィードバック制御を第1および第2電流一定制御回路11,12で行うが、上述のように、通常使用では、第1電流一定制御回路11の出力信号(f1)が遅れ優先回路14を介して選択される。
【0073】
そのため、第1電流一定制御回路11の出力信号(f1)に基づいて、基準周波数保持回路15および電圧制御発振回路16を介して、IGBT式逆変換器42a,42bのゲート制御を行うためのゲート信号が生成される。
【0074】
ここで、第1電流一定制御回路11の積分制御の時定数は、第2電流一定制御回路12の積分制御の時定数と比して、極端に大きいことから出力電流信号(d)が多少振動してもこれに過敏に反応して追従することがなく、その出力値も振動発振することがない。
【0075】
一方で、第1電流一定制御回路11では追従できない大きな出力電流信号(d)が生じた場合には(STEP13でYES)、第2電流一定制御回路12が取得した出力電流信号(d)に基づく比例積分フィードバック制御を行う(STEP14)。
【0076】
なお、正確には、出力電流信号(d)に基づいて、第1および第2電流一定制御回路11,12が同時並行的に比例積分フィードバック制御を行っている状態で、遅れ優先回路14により、第1電流一定制御回路11の出力信号(f1)から第2電流一定制御回路12の出力信号(f2)が選択される。
【0077】
そして、第2電流一定制御回路12の出力信号(f2)に基づいて、基準周波数保持回路15および電圧制御発振回路16を介して、IGBT式逆変換器42a,42bのゲート制御を行うためのゲート信号が生成される。
【0078】
ここで、制御回路10は、出力電流信号(d)が第2基準電流Iref2を超えた場合には(STEP15でYES)、出力電流信号(d)が過電流レベル以上となっているか判定する(STEP16)。
【0079】
そして、出力電流信号(d)が過電流レベル以上となっている場合には(STEP16でYES)、過電流トリップと判定する(STEP17)。一方で、未だ過電流レベルには至っていない場合には(STEP16でNO)、STEP14にリターンして、第2電流一定制御回路12による制御を継続する。
【0080】
ここで、第1電流一定制御回路11または第2電流一定制御回路12によりそれぞれ出力電流信号(d)による比例積分制御を行う場合でも(STEP13でNOまたはSTEP15でNO)、制御回路10は、電圧検出器53により検出された出力電圧信号(e)を取得し(STEP21)、出力電圧信号(e)に基づく電圧一定制御回路13による比例積分フィードバック制御を行う。
【0081】
具体的には、取得した取得した出力電圧信号(e)が基準電圧Vref以上となっている場合には(STEP22でYES)、出力電圧信号(e)に基づく電圧一定制御回路13による比例積分フィードバック制御を行う(STEP23)。
【0082】
そして、電圧一定制御回路13の出力信号(g)に基づいて、基準周波数保持回路15および電圧制御発振回路16を介して、IGBT式逆変換器42a,42bのゲート制御を行うためのゲート信号が生成される。
【0083】
一方で、出力電圧信号(e)が基準電圧Vref未満の場合には(STEP22でNO)、STEP11にリターンして制御処理を継続する。
【0084】
なお、正確には、取得した出力電圧信号(e)に基づく比例積分フィードバック制御を第1および第2電流一定制御回路11,12と並行して、電圧一定制御回路13で行っており、第1電流一定制御回路11または第2電流一定制御回路12の出力信号(f1)または(f2)が遅れ優先回路14を介して選択されていて、これらでは追従できない出力電圧信号(e)の変動があった場合に、遅れ優先回路14を介して電圧一定制御回路13の出力信号(g)が選択される。
【0085】
次に、制御回路10は、出力電圧信号(e)が過電圧レベル以上となっているか判定する(STEP24)。
【0086】
そして、出力電圧信号(e)が過電圧レベル以上となっている場合には(STEP24でYES)、過電圧トリップと判定する(STEP25)。一方で、未だ過電圧レベルには至っていない場合には(STEP24でNO)、STEP22にリターンして、電圧一定制御回路13による制御を継続する。
【0087】
ここで、制御回路10は、STEP17で過電流トリップと判定された場合、またはSTEP25で過電圧トリップと判定された場合には、トリップ復帰処理を行う(STEP30)。
【0088】
その結果、復帰できた場合には(STEP30でYES)、運転再開処理を行った上で(STEP31)で、STEP11にリターンして制御処理を継続する。
【0089】
一方で、トリップ復帰処理を行っても復帰できない場合には(STEP30でNO)、溶解を停止する。
【0090】
以上が、本実施形態の誘導溶解炉における制御処理であり、かかる制御処理により、
図6に示すように、負荷状態が大きく変動した場合にも安定して動作させることができる。
【0091】
図6(A)は、電流一定制御回路を1つ(第2電流一定制御回路12のみ)で構成した場合の無負荷状態における制御出力として、信号(d),(f),(g),(h)の波形を示す。
【0092】
このように、電流一定制御回路を1つ(第2電流一定制御回路12のみ)で構成した場合には、無負荷状態では、電流一定制御回路12の出力信号(f)が振動することで、出力制御信号(h)が振動し、加熱コイル61に電流が多く流れてコイル電流である出力電流帰還信号(d)が振動して不安定となる。
【0093】
一方、
図6(B)は、本実施形態の誘導溶解炉で、電流一定制御回路を特性の異なる(第1電流一定制御回路11および第2電流一定制御回路12の)2つで構成した場合の無負荷状態における制御出力として、信号(d),(f1),(f2),(g),(h)の波形を示す。
【0094】
この場合、無負荷状態において、第2電流一定制御回路12の出力信号(f2)は振動しているものの、第1電流一定制御回路11の出力信号(f1)は振動することがない。そのため、遅れ優先回路14を介して第1電流一定制御回路11の出力信号(f1)が選択され、(出力制御信号(h)も振動することがなく)加熱コイル61に電流が多く流れてコイル電流である出力電流帰還信号(d)が振動して不安定となることもない。
【0095】
このように、本実施形態の誘導溶解炉によれば、負荷状態が大きく変動した場合にも安定して動作させることができる。
【解決手段】制御回路10は、電流検出器52で検出された出力電流信号(d)に基づく比例積分フィードバック制御により電流一定制御を行う第1電流一定制御回路と、電流検出器52で検出された出力電流信号(d)に基づく比例積分フィードバック制御により電流一定制御を行う第2電流一定制御回路と、電圧検出器53で検出された出力電圧信号(e)に基づく比例積分フィードバック制御により電圧一定制御を行う電圧一定制御回路とを有し、第1電流一定制御回路と第2電流一定制御回路と電圧一定制御回路との出力値のうち最大のものを選択してIGBT式逆変換器42a,42bに対する制御信号を生成し、第1電流一定制御回路の積分制御の時定数は、第2電流一定制御回路の積分制御の時定数より大きいことを特徴とする。