特許第5816071号(P5816071)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5816071
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月17日
(54)【発明の名称】建設機械の駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20151029BHJP
   E02F 9/12 20060101ALI20151029BHJP
【FI】
   F16H57/04 J
   F16H57/04 D
   E02F9/12 Z
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-272022(P2011-272022)
(22)【出願日】2011年12月13日
(65)【公開番号】特開2013-124680(P2013-124680A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】391037571
【氏名又は名称】神鋼造機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 耕治
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 将嗣
(72)【発明者】
【氏名】川端 將司
(72)【発明者】
【氏名】世一 昭治
(72)【発明者】
【氏名】内山 亮
【審査官】 瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−232269(JP,A)
【文献】 特開2006−275163(JP,A)
【文献】 特開2011−236950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
E02F 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源としての油圧または電動のモータと、このモータの回転力を歯車機構により減速して被駆動部に伝達する減速ユニットを、互いのモータ軸と減速出力軸の中心が一致する状態で上記モータを上にして上下方向に並設するとともに、上記減速ユニットのケーシング内に潤滑油を注入した建設機械の駆動装置において、上記減速ユニットのケーシング内における上記歯車機構の上部に、運転時に遠心力によって上昇する潤滑油を受けて貯留する油受けを、上記ケーシング内壁との間に上記上昇する潤滑油を上記油受けに導く空間としての油通路が形成される状態で設け、上記油受けに、貯留した潤滑油を上記歯車機構に向けて徐々に排出する油抜き口を設け、上記油受けを、上記モータ軸を中心として外周方向に広がる器状とし、上記ケーシング内壁との間に上記油通路を残して上記歯車機構を上から覆う状態で設けたことを特徴とする建設機械の駆動装置。
【請求項2】
駆動源としての油圧または電動のモータと、このモータの回転力を歯車機構により減速して被駆動部に伝達する減速ユニットを、互いのモータ軸と減速出力軸の中心が一致する状態で上記モータを上にして上下方向に並設するとともに、上記減速ユニットのケーシング内に潤滑油を注入した建設機械の駆動装置において、上記減速ユニットのケーシング内における上記歯車機構の上部に、運転時に遠心力によって上昇する潤滑油を受けて貯留する油受けを、上記ケーシング内壁との間に上記上昇する潤滑油を上記油受けに導く空間としての油通路が形成される状態で設け、上記油受けに、貯留した潤滑油を上記歯車機構に向けて徐々に排出する油抜き口を設け、上記油通路を、上記ケーシング内壁と油受け外周との間の全周に亘って、かつ、軸方向に延びる空間として形成したことを特徴とする建設機械の駆動装置。
【請求項3】
上記油通路を相対的に下側が広くて上側が狭い下広がり形状に形成したことを特徴とする請求項2に記載の建設機械の駆動装置。
【請求項4】
上記油抜き口として、上記油受けの底壁に、油受けに導入される油量よりも少量の潤滑油を排出する油抜き穴を設けたことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の建設機械の駆動装置。
【請求項5】
上記油抜き穴を、上記油受けに貯留された潤滑油を上記歯車機構に向けて滴下させる位置に設けたことを特徴とする請求項4に記載の建設機械の駆動装置。
【請求項6】
上記歯車機構の上部空間において上記モータ軸に筒状体を遊嵌させ、この筒状体の外周に上記油受けを取付けるとともに、この油受けの上方で上記筒状体の外周にサポート部材を取付け、このサポート部材を上記ケーシングに取付けることによって上記油受けを支持したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の建設機械の駆動装置。
【請求項7】
上記サポート部材を、上記油受けを越えて上昇する上記潤滑油を貯留する補助油受けとして器状に形成し、このサポート部材に、上記潤滑油を導入する油入口と、潤滑油を排出する油出口を設けたことを特徴とする請求項6に記載の建設機械の駆動装置。
【請求項8】
上記サポート部材に貯留された潤滑油が上記油受けに向けて排出されるように上記油出口の位置を設定したことを特徴とする請求項7に記載の建設機械の駆動装置。
【請求項9】
上記サポート部材に、油入口と油出口を兼用する油出入り口を設けたことを特徴とする請求項または記載の建設機械の駆動装置。
【請求項10】
上記サポート部材の外周部をケーシングの上端部に取付け、この上端部を含むケーシング内壁全体をフラットに形成したことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の建設機械の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はショベル等の建設機械において、駆動源としての油圧または電動のモータの回転力を減速して上部旋回体等の被駆動部に伝達する駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショベルの旋回駆動装置を例にとって背景技術を説明する。
【0003】
ショベルは、クローラ式の下部走行体上に上部旋回体が地面に対し鉛直となる軸のまわりに旋回自在に搭載され、この上部旋回体に作業アタッチメントが取付けられて構成される。
【0004】
このショベルにおいて、上部旋回体を旋回させる旋回駆動装置は、駆動源としての油圧または電動のモータと、このモータの回転力を歯車機構により減速して被駆動部である上部旋回体に伝達する減速ユニットとによって構成される。
【0005】
モータと減速ユニットとは、互いの中心軸(モータ軸と減速出力軸)が一致する状態で装置軸方向に並んで設けられ、モータが上となる縦置き姿勢でアッパーフレームに取付けられる。
【0006】
減速ユニットの歯車機構は、たとえばサン、プラネタリ、リング各ギヤを備えた一〜複数段の遊星歯車機構として構成され、この減速ユニットの出力が、出力軸に設けられたピニオン、及び下部走行体のロワフレームに設けられた旋回ギヤを介して上部旋回体に伝えられる。
【0007】
また、減速ユニットのケーシング内には潤滑油が注入され、歯車機構の潤滑作用が行われる。
【0008】
この潤滑油は、運転中、歯車機構の回転に伴う遠心力やポンピング作用により、外周側がケーシング内壁沿いに押し上げられてすり鉢状に拡散し、あるいは上向きに飛散する。この現象は、油温の上昇に伴う油面の上昇によってより激しくなる。
【0009】
この上昇した潤滑油は、自重により内側に向かってすぐさま落下し、歯車機構部分に戻るため、この戻り分が歯車機構の攪拌抵抗となり、エネルギーロスとなるという問題があった。
【0010】
この問題を解決する技術として、特許文献1,2に示されたものが公知である。
【0011】
この公知技術においては、ケーシングの外部にタンクを設けるとともに、ケーシング内外に跨って上部通路と絞り付きの下部通路を設け、すり鉢状に上昇する潤滑油を上部通路経由でタンクに導いて貯留するとともに、下部通路経由でケーシング内に戻すように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−232269号公報
【特許文献2】特開2008−232270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところが、上記公知技術によると、第1に、潤滑油が全周に亘ってすり鉢状に広がるのに対して限られた部分の潤滑油のみを細い通路を通してタンクに導くため、一定以上の攪拌力がないと潤滑油がタンクに到達せず、貯留される油量が少なくなる。
【0014】
第2に、上部通路と下部通路はタンクへの接続部分で合流しているため、タンクに溜まった潤滑油が、自重により合流部分(入るときと同じ通路)を逆流しようとし、これがタンクに向かう流れの抵抗となってタンクに到達する油量が益々減少する。
【0015】
この二点から、攪拌のエネルギーロスを低減させる点の効果が低いものとなる。
【0016】
また、運転中、潤滑油の流れはケーシングからタンクへのほぼ一方通行となり、ケーシング内への潤滑油の戻りがきわめて少なくなるため、連続運転時、及び運転/停止を繰り返す場合に、ケーシング内の油量が減少し過ぎて潤滑不良が生じる可能性がある。
【0017】
さらに、外部にタンク及び通路を設けるため、駆動装置全体として構造が複雑化及び大型化し、大幅なコストアップとなるとともに周辺レイアウトに悪影響を与えるおそれがある。
【0018】
加えて、大形化を抑える観点からタンク容量を大きくとれないため、この点でも貯留可能な油量が少なくなり、エネルギーロスの低減効果がさらに低いものとなる。
【0019】
そこで本発明は、運転中、上昇する潤滑油を効率良くかつ十分な量で貯留しながら、徐々にかつ確実に歯車機構部分に戻して攪拌のエネルギーロスの低減と潤滑性の確保を両立させ、しかも外部に余分な設備を設けずに構造の簡素化及び小型化を実現することができる建設機械の駆動装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、駆動源としての油圧または電動のモータと、このモータの回転力を歯車機構により減速して被駆動部に伝達する減速ユニットを、互いのモータ軸と減速出力軸の中心が一致する状態で上記モータを上にして上下方向に並設するとともに、上記減速ユニットのケーシング内に潤滑油を注入した建設機械の駆動装置において、上記減速ユニットのケーシング内における上記歯車機構の上部に、運転時に遠心力によって上昇する潤滑油を受けて貯留する油受けを、上記ケーシング内壁との間に上記押し上げられた潤滑油を上記油受けに導く空間としての油通路が形成される状態で設け、上記油受けに、貯留した潤滑油を上記歯車機構に向けて徐々に排出する油抜き口を設けたものである。
【0021】
この構成によれば、運転中、ケーシング内で上昇した潤滑油をそのままケーシング内の油受けで受けて貯留し、かつ、別の油抜き口から徐々に戻すため、公知技術のように細い通路を通してケーシング外のタンクに導入・貯留し、かつ、同じ通路を通してケーシング内に戻す構成と比較して、潤滑油の溜め、戻しがスムーズに行われる。
【0022】
これにより、連続運転中は、常に歯車機構が攪拌すべき油量が必要最小限に減った状態となり、旋回駆動装置のように短時間で運転/停止を繰り返す場合は、潤滑油が戻りきらない状態(ケーシング内の潤滑油レベルが低い状態)から歯車機構が動き出すことになる。
【0023】
このため、歯車機構の攪拌エネルギーのロスを低減させながら、潤滑不良を起こすおそれがなくなる。
【0024】
しかも、公知技術のような余分な外部設備や通路が不要となって構造を簡素化及び小型化でき、大幅なコストアップや周辺レイアウトに悪影響を与えるおそれもない。
【0025】
また、油受けの容量を、ケーシング内に収まる範囲内で十分大きくとることができるため、この点でもエネルギーロス低減効果が高いものとなる。
【0026】
本件の第1の発明は、さらに、上記油受けを、上記モータ軸を中心として外周方向に広がる器状とし、上記ケーシング内壁との間に上記油通路を残して上記歯車機構を上から覆う状態で設けたものである(請求項1)。
【0027】
この構成によれば、上昇する潤滑油をケーシング内壁側にスムーズに誘導し、小さな攪拌力(低回転)でもすり鉢油面を形成し易くして省エネルギー効果、潤滑油捕集効果を高めることができる。
【0028】
本件の第2の発明は、さらに、上記油通路を、上記ケーシング内壁と油受け外周との間の全周に亘って、かつ、軸方向に延びる空間として形成するものである(請求項)。
【0029】
この構成によれば、押し上げられた潤滑油を全周部分で油受けに向けて誘導できるため、潤滑油の貯留効率が良くなる。
【0030】
この場合、上記油通路を相対的に下側が広くて上側が狭い下広がり形状に形成するのが望ましい(請求項)。
【0031】
このように、油通路の下側を広くすることで上昇した潤滑油を上向きに通過させ易く、上を狭くすることで上から下への逆流はし難くできる。
【0032】
さらに本発明においては、上記油抜き口として、上記油受けの底壁に、油受けに導入される油量よりも少量の潤滑油を排出する油抜き穴を設けるのが望ましい(請求項)。
【0033】
こうすれば、単に底壁に穴を明けるだけでよいため、油受けの構造が簡単となるとともに加工が容易でコストが安くてすみ、かつ、管路や長い通路の場合のような目詰まりのおそれもない。
【0034】
この場合、上記油抜き穴を、上記油受けに貯留された潤滑油を上記歯車機構に向けて滴下させる位置に設けるのが望ましい(請求項)。
【0035】
こうすれば、潤滑油が歯車機構に直接戻されるため、潤滑油のレベルが下がった状態でも歯車機構の潤滑性を保つことができる。
【0036】
一方、本発明において、上記歯車機構の上部空間において上記モータ軸に筒状体を遊嵌させ、この筒状体の外周に上記油受けを取付けるとともに、この油受けの上方で上記筒状体の外周にサポート部材を取付け、このサポート部材を上記ケーシングに取付けることによって上記油受けを支持するのが望ましい(請求項)。
【0037】
この構成によれば、油受け及びサポート部材を取付けた状態でモータ軸を上から筒状体に挿通させて歯車機構に連結する手順をとることができるため、駆動装置の組立が容易となる。
【0038】
この場合、上記サポート部材を、上記油受けを越えて上昇する上記潤滑油を貯留する補助油受けとして器状に形成し、このサポート部材に、上記潤滑油を導入する油入口と、潤滑油を排出する油出口を設けるのが望ましい(請求項)。
【0039】
こうすれば、サポート部材を補助油受けとして兼用できるため、潤滑油の貯留容量を増やすことができる。
【0040】
また、上記サポート部材に貯留された潤滑油が上記油受けに向けて排出されるように上記油出口の位置を設定するのが望ましい(請求項)。
【0041】
こうすれば、サポート部材に貯留した油を油受け経由で戻すことで、上昇した油全体の戻りを遅らせる効果が高くなる。
【0042】
さらに、上記サポート部材に、油入口と油出口を兼用する油出入り口を設けるのが望ましい(請求項)。
【0043】
こうすれば、構造が簡素化され、加工が容易となる。
【0044】
また、上記サポート部材の外周部をケーシングの上端部に取付け、この上端部を含むケーシング内壁全体をフラットに形成するのが望ましい(請求項10)。
【0045】
こうすれば、ケーシング内壁の凹凸形状によって潤滑油の上昇が妨げられるおそれがないため、油受け、及び請求項8〜10の補助油受け兼用のサポート部材に対して潤滑油がよりスムーズに導入される。
【発明の効果】
【0046】
本発明によると、運転中、上昇する潤滑油を効率良くかつ十分な量で貯留しながら、徐々にかつ確実に歯車機構部分に戻して攪拌のエネルギーロスの低減と潤滑性の確保を両立させ、しかも外部に余分な設備を設けずに構造の簡素化及び小型化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】本発明の第1実施形態を示す一部断面側面図である。
図2図1の一部拡大図である。
図3】運転中の潤滑油の動きを示す図2相当図である。
図4】第1実施形態に係る油受け及びサポート部材の斜視図である。
図5】本発明の第2実施形態を示す図2相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下の実施形態はショベルの旋回駆動装置を適用対象としている。
【0049】
但し、本発明は、旋回駆動装置と同様にモータと減速ユニットが、互いのモータ軸と減速出力軸の中心が一致する状態で上下方向に並んで設けられ、かつ、減速ユニットのケーシング内に潤滑油が注入される他の駆動装置にも、またショベル以外の建設機械において上記構成を備えた駆動装置にも以下同様に適用することができる。
【0050】
第1実施形態(図1図4参照)
この旋回駆動装置は、図1に示すように駆動源としての油圧または電動のモータ1と、このモータ1の回転力を減速して被駆動部である上部旋回体に伝達する減速ユニット2とが、モータ1を上にして装置軸方向(上下方向)に並設されて構成される。
【0051】
モータ1はモータハウジング3、減速ユニット2は筒状のケーシング4をそれぞれ備え、互いのモータ軸5と減速出力軸6の中心が装置軸方向(上下方向)に一致する縦置き状態で、ケーシング3の下端に設けられたフランジ3aとケーシング上端面とが複数本の連結ボルト(1本のみ図示する)7で連結される。
【0052】
減速ユニット2(ケーシング4)の下端には、減速出力軸6を回転自在に支持する軸受を内部に備えたシャフト支持部8が設けられ、このシャフト支持部8の下部外周に設けられた取付フランジ9が上部旋回体のアッパーフレーム10に取付ボルト11…によって取付けられる。
【0053】
減速機ユニットは、ケーシング4内で一〜複数段の遊星歯車機構(図例では一段、以下、この場合で説明する)12が設けられて成り、この遊星歯車機構(以下、単に歯車機構という)12を潤滑するための潤滑油Oがケーシング4内に注入される。
【0054】
この潤滑油Oの油面は、運転停止時には歯車機構12がほぼ没するレベルで水平となる(図1,2中のO1)。
【0055】
一方、運転中は、歯車機構12の回転によって潤滑油Oが攪拌されるとともに、回転に伴う遠心力により油面外周側がケーシング内壁4a沿いにせり上がって油面全体としてすり鉢状となり(図1,3中のO2)、また歯車機構12のポンピング作用によって上向きに飛散する。
【0056】
以下、ケーシング内壁4a沿いにせり上がった潤滑油、及び上向きに飛散した潤滑油をまとめて「上昇した潤滑油」という場合がある。
【0057】
遊星歯車機構12は、サンギヤSと、キャリア(スパイダともいう)Cを介してこのサンギヤSの周りに設けられた複数のプラネタリギヤPと、ケーシング4の内周に設けられたリングギヤRとから成り、周知のようにプラネタリギヤPが自転しながら公転運動を行うことによってモータ回転を減速し、その出力が、減速出力軸6の下端に設けられたピニオン13及びこれと噛み合う旋回歯車(リングギヤ。図示省略)を介して被駆動部であるアッパーフレーム10(上部旋回体)に伝達される。
【0058】
この旋回駆動装置においては、ケーシング4内において歯車機構12の上部に空気室として形成された空間(以下、上部空間という)14に油受け15と、この油受け15を支持する補助油受け兼用のサポート部材16が、歯車機構12を上から覆う状態で設けられ、運転中に上昇した潤滑油を油受け15及びサポート部材16で受けて貯留し、かつ、徐々に歯車機構12に向けて戻すように構成されている。
【0059】
この点の構成を、図2図4を併用して詳述する。
【0060】
モータ軸5よりも大径の筒状体17が、上部空間14においてモータ軸5に遊嵌されている。
【0061】
なお、筒状体17は、通常、円筒形とするが角筒形としてもよい。
【0062】
油受け15及びサポート部材16は、いずれも底のやや浅い円形の器状に形成され、油受け15が筒状体17の下部外周に、サポート部材16が上部外周にそれぞれ互いの間に少しの上下間隔を置いて取付けられ、サポート部材16の外周部がケーシング4の上端面にボルト止め等によって取付けられることにより、サポート部材16及び油受け15が上部空間14において同軸上に上下に位置ずれした状態で支持されている。
【0063】
ここで、油受け15はサポート部材16よりは小径とされ、この油受け15の外周とケーシング内壁4aの間に、上昇した潤滑油を油受け15及びサポート部材16に導く油通路18が全周に亘って、かつ、軸方向に延びる空間として形成されている。
【0064】
また、油受け15には、貯留した潤滑油を歯車機構12に向けて徐々に排出する油抜き口としての油抜き穴19、サポート部材16には油出入り口20がそれぞれ底壁を貫通して設けられている。
【0065】
この構成により、図3に示すように、運転中、上昇する潤滑油Oが油通路18に誘導されて油受け15の上方に到達し、自重で内側に戻ろうとする分が油受け15に降りかかって貯留され、かつ、油抜き穴19から徐々に排出される。
【0066】
一方、油受け15を越えて上昇する潤滑油Oは油出入り口20からサポート部材16に導入されて貯留され、自重によって油出入り口20から排出される。
【0067】
油抜き穴19は、油受け15に導入される油量よりも少量の潤滑油Oを排出するように直径寸法が設定されている。
【0068】
具体的には、潤滑油Oが、さらさらの状態でも5分〜10分程度かかって排出される直径寸法であって、油受け15に対する面積比でいうと油受け底面積の1%程度の開口面積に設定されている。
【0069】
この油抜き穴19は、上記条件を満足する範囲であれば1個所のみに設けてもよいし、複数個所に分けて設けてもよい。
【0070】
また、油抜き穴19は、貯留した潤滑油Oを歯車機構12、たとえばサンギヤSとプラネタリギヤPの噛み合い部分に向けて滴下させる位置(油受け15の内周側)に設けられている。
【0071】
一方、サポート部材16の油出入り口20は、上昇した潤滑油Oがサポート部材16内に無理なく進入し得るように油抜き穴19よりも十分大きな直径寸法を有し、かつ、どこからでも潤滑油Oを導入し得るように全周部分に複数個設けられている。
【0072】
但し、この油出入り口20…は、排出される潤滑油Oが油受け15に受け止められるように油受け15に対向する位置に設けられている。
【0073】
なお、ケーシング内壁4aの上端部4a1は、図示のように内向きに張り出され、サポート部材16の外周部が、この張り出した内壁上端部4aとケーシング上端面とに跨って取付けられている。
【0074】
この旋回駆動装置によると、運転中、ケーシング4内で上昇する潤滑油Oをそのままケーシング4内の油受け15で受けて貯留し、かつ、別の油抜き穴19から徐々に戻すため、公知技術のように細い通路を通してケーシング外のタンクに導入・貯留し、かつ、同じ通路を通してケーシング内に戻す構成と比較して、上昇した潤滑油Oの溜め、戻しがスムーズに行われる。
【0075】
これにより、連続運転中は、常に歯車機構12が攪拌すべき油量が必要最小限に減った状態となり、旋回駆動装置のように短時間で運転/停止を繰り返す場合は、潤滑油Oが戻りきらない状態(ケーシング4内の潤滑油レベルが低い状態)から歯車機構12が動き出すことになる。
【0076】
このため、歯車機構12の攪拌エネルギーのロスを低減させながら、潤滑不良を起こすおそれがなくなる。
【0077】
しかも、公知技術のような余分な外部設備や通路が不要となって構造を簡素化及び小型化でき、大幅なコストアップや周辺レイアウトに悪影響を与えるおそれもない。
【0078】
また、油受け15の容量を、ケーシング4内に収まる範囲内で十分大きくとることができるため、この点でもエネルギーロス低減効果が高いものとなる。
【0079】
これらの点により、運転中、上昇する潤滑油Oを効率良くかつ十分な量で貯留しながら、徐々にかつ確実に歯車機構12部分に戻して攪拌のエネルギーロスの低減と潤滑性の確保を両立させ、しかも外部に余分な設備を設けずに構造の簡素化及び小型化を実現することができる。
【0080】
また、実施形態によると次の効果を得ることができる。
【0081】
(i) 油受け15を、モータ軸5を中心として外周方向に広がる器状とし、ケーシング内壁4aとの間に油通路18を残して歯車機構12を上から覆う状態で設けているため、上昇する潤滑油Oをケーシング内壁4a側にスムーズに誘導し、小さな攪拌力(低回転)でもすり鉢油面を形成し易くして省エネルギー効果、潤滑油捕集効果を高めることができる。
【0082】
(ii) 油通路18を、ケーシング内壁4aと油受け外周との間の全周に亘って、かつ、軸方向に延びる空間として形成しているため、上昇した潤滑油Oを全周部分で油受け15に向けて誘導することができる。このため、潤滑油Oの貯留効率が良くなる。
【0083】
(iii) 油抜き口として、油受け15の底壁に、油受け15に導入される油量よりも少量の潤滑油Oを排出する油抜き穴19を設けているため、単に穴を明ければよいことから、油受け15の構造が簡単となり、加工が容易でコストが安くてすむ。また、管路や長い通路の場合のような目詰まりのおそれもない。
【0084】
(iv) 油抜き穴19を、油受け15に貯留された潤滑油Oを歯車機構12に向けて滴下させる位置に設けているため、すなわち、潤滑油Oを歯車機構12に直接戻すように構成しているため、潤滑油Oのレベルが下がった状態でも歯車機構12の潤滑性を保つことができる。
【0085】
(v) 歯車機構12の上部空間14においてモータ軸5に筒状体17を遊嵌させ、この筒状体17の外周に油受け15とサポート部材16を取付けるとともに、このサポート部材16をケーシング4に取付けることによって油受け15を支持する構成をとっているため、油受け15及びサポート部材16を取付けた状態でモータ軸5を上から筒状体17に挿通させて歯車機構12(サンギヤS)に連結する手順をとることができる。このため、駆動装置の組立が容易となる。
【0086】
(vi) サポート部材16を補助油受けとして兼用する構成をとっているため、上昇する潤滑油Oの貯留容量を増やすことができる。
【0087】
この場合、サポート部材16の一つの油出入り口20が油の導入口と排出口を兼ねるため、これらを別々に設ける場合と比較して構造が簡素化され、加工が容易となる
(vii) サポート部材16に貯留された潤滑油Oが油受け15に向けて排出されるように油出入り口20の位置を設定しているため、いいかえればサポート部材16に貯留した潤滑油Oを油受け15経由で歯車機構12部分に戻すように構成しているため、上昇した油全体の戻りを遅らせる効果が高くなる。
【0088】
第2実施形態(図5参照)
第1実施形態との相違点のみを説明する。
【0089】
第1の相違点として、補助油受け兼用のサポート部材16の外周壁16aが上広がりのテーパ状に傾斜形成され、これにより油通路18が下広がりの空間(下が広くて上が狭い空間)として形成されている。
【0090】
このように油通路18の下側を広くすることにより、上昇した潤滑油Oを上向きに通過させ易くなる一方、上を狭くすることで上から下への逆流はし難くできる。
【0091】
すなわち、サポート部材16での潤滑油Oの捕集・貯留効率をさらに高めることができる。
【0092】
第2の相違点として、第1実施形態においては、ケーシング内壁4aの上端部4a1が内向きに張り出され、この張り出された上端部にサポート部材16の外周部が取付けられるのに対し、第2実施形態においてはケーシング内壁4aが上端部を含めて全体にフラットに形成されている。
【0093】
こうすれば、ケーシング内壁4aの凹凸形状によって潤滑油Oの上昇が妨げられるおそれがないため、油受け15及びサポート部材16に対して潤滑油Oがよりスムーズに導入される。
【0094】
第3の相違点として、第2実施形態においてサポート部材16は外周の立ち上がりが無い単なる円板状に形成され、その外周部がケーシング上端面に取付けられている。
【0095】
こうすすれば、サポート部材16の加工が容易となり、コストダウンすることができる。
【0096】
但し、サポート部材16そのものが単なる円板状であっても、同部材16の上方空間に潤滑油Oが貯留されるため、サポート部材16は実質的に補助油受けの機能を果たす。
【0097】
他の実施形態
(1) サポート部材16について、たとえば、上記実施形態の筒状体17と、その外周に配置した大径のリング部材との間に複数の桟を放射状に取付け、潤滑油の貯留は行わないサポート専用部材として構成してもよい。
【0098】
あるいは、油受け15の外周複数個所にサポート部材としての取付腕を放射状に突設し、この取付腕をケーシング内壁4aに取付ける構成をとってもよい。
【0099】
この場合、油通路18は、取付腕によって周方向複数に区画された空間となる。
【0100】
(2) 油受け15の油抜き口を、油受け底壁の外周寄りの位置に貫通穴として設けてもよいし、外周立ち上がり部分を一部切り欠いて形成してもよい。
【0101】
(3) サポート部材16に油入口と油出口を別々に設けてもよい。
【0102】
(4) 減速ユニットの歯車機構として、遊星歯車機構以外の歯車機構を用いてもよい。
【符号の説明】
【0103】
1 モータ
2 減速ユニット
3 モータハウジング
4 ケーシング
4a ケーシング内壁
4a1 ケーシング上端部
5 モータ軸
6 減速出力軸
12 遊星歯車機構(歯車機構)
S 歯車機構を構成するサンギヤ
P 同、プラネタリギヤ
R 同、リングギヤ
C 同、キャリア
14 歯車機構の上部空間
15 油受け
16 サポート部材
17 筒状体
18 油通路
19 油受けの油抜き穴
20 サポート部材の油出入り口
O 潤滑油
図1
図2
図3
図4
図5