特許第5816123号(P5816123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5816123
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月18日
(54)【発明の名称】永久磁石の回収方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 13/00 20060101AFI20151029BHJP
   H02K 15/03 20060101ALI20151029BHJP
【FI】
   H01F13/00 630
   H02K15/03 Z
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-82602(P2012-82602)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-214543(P2013-214543A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2014年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】山下 岳史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 義浩
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5337778(JP,B2)
【文献】 特開2012−064889(JP,A)
【文献】 特開2010−199110(JP,A)
【文献】 特開2003−176459(JP,A)
【文献】 特開平03−102809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 13/00
H02K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過熱水蒸気を用いてモータに取り付けられた永久磁石の消磁を行う消磁炉と、該消磁炉に前記過熱水蒸気を供給する第1供給ラインと、予備加熱炉と、前記消磁炉の過熱水蒸気を前記予備加熱炉に供給する第2供給ラインとを有する永久磁石回収システムにおいて、
前記予備加熱炉において前記永久磁石を予備的に加熱する工程と、
前記消磁炉において、前記予備的に加熱された永久磁石をさらに加熱する工程とを有することを特徴とする永久磁石の回収方法。
【請求項2】
前記過熱水蒸気の温度は110℃以上である請求項1に記載の永久磁石の回収方法。
【請求項3】
前記永久磁石は、樹脂材料を介してモータのロータ又はステータに固定されている請求項1又は2に記載の永久磁石の回収方法。
【請求項4】
電動機又は発電機に用いられている前記永久磁石を回収する請求項1〜3のいずれか1項に記載の永久磁石の回収方法。
【請求項5】
前記永久磁石としてネオジム磁石を回収する請求項1〜4のいずれか1項に記載の永久磁石の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネオジム磁石等の永久磁石の回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機(モータ)は家電製品や各種産業機器等の種々の製品に利用されており、近年自動車についてもモータとエンジンで走行するハイブリッド自動車やモータのみで走行する電気自動車が普及し始め、その用途が益々広がってきている。
【0003】
モータには誘導モータやブラシレスDCモータ等多くの種類があるが、モータのエネルギー効率向上の観点から、近年では誘導モータで必要となる界磁電流が不要で2次銅損のない、永久磁石を用いた内部磁石埋込型(IPM)モータが広く使われるようになっている。
【0004】
図1はIPMモータMの構造例を示す断面図である。永久磁石1は、酸化物及びバインダからなる磁石固定用のモールド材により固定され、電磁鋼板製のロータ(回転子)3に埋め込まれている。このロータ3の外側にはステータ(固定子)2が設けられており、スロットに巻回されたコイル4に電流を流すことによりロータ3を回転させる。IPMモータMによれば、強力な希土類磁石を用いることで磁束密度を高くすることができ、モータの出力向上及び小型化が可能となる。
【0005】
IPMモータMに用いられる希土類磁石は、サマリウム・コバルト系磁石及びネオジム・鉄・ボロン系磁石(ネオジム磁石)の主に2種類であるが、高い磁気エネルギー積を有し、機械的強度に優れる観点からネオジム磁石が多く用いられており、希土類磁石の90%以上を占めている。
【0006】
ネオジム磁石に用いられるネオジム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)、プラセオジム(Pr)等の希土類元素はその価格が高価であるばかりでなく、産出国も限られることから、資源の安定的な確保の観点からもその効率的なリサイクル処理方法が強く望まれている。
【0007】
しかしながら、ネオジム磁石のリサイクルに関して製造工程で発生するスクラップについては再利用が進められているものの、使用済のモータ又は発電機等の機器から取得される希土類磁石のリサイクルについては進んでいないのが現状である。
【0008】
使用済の機器から取得される磁石のリサイクルを困難にしている一つの大きな原因は、希土類磁石が電磁鋼板やステンレスと磁力により強く結合しており、磁石固定用のモールド材も存在するため、解体しても手作業により効率的にロータから磁石を取り除き、回収することが困難であるためである。
【0009】
このような事情により、現状ではモータ等の磁石を回収することは非常に困難であるが、製品を粉砕した後、粉砕物中に磁石が含まれていると磁石が破砕機やコンベア等の鉄製部品に付着し、鉄や銅等の有価金属のリサイクルの障害となる。そのため、銅、アルミ及び鉄等の有価金属を回収するための前処理として永久磁石の脱磁が鋭意検討されている。
【0010】
このような永久磁石の脱磁方法の従来技術としては、永久磁石を含む製品を加熱炉で加熱して脱磁する方法(例えば、特許文献1及び2参照)や、モータ電圧に高周波電圧を印加し、誘導電流によりモータを発熱させ脱磁させる方法が提案されている(例えば、特許文献3、4及び5参照)。
【0011】
しかしながら、上記のような方法で製品を加熱し、磁石の脱磁を行ってしまうと、希土類磁石を空気中で加熱することになってしまい、希土類元素が酸化物を形成してしまうことから、再度磁石として再利用するためには、新たに磁石を還元する処理が必要となる。この場合、磁石成分を分離・回収したとしても、磁石の化学的な再生処理が必要になることからリサイクルの効率が悪くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−110636号公報
【特許文献2】特開2001−313210号公報
【特許文献3】特許第3835126号公報
【特許文献4】特開2006−254699号公報
【特許文献5】特開2009−291070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
消磁炉において永久磁石を有するモータを過熱水蒸気で加熱処理した後、該永久磁石を回収する方法がある。この場合、被処理物である永久磁石を対流、輻射、及び凝縮の複合的な伝熱により急速的に加熱することが可能となる。
【0014】
しかしながら、消磁炉に導入される永久磁石には油分等が付着しており、このままの状態の永久磁石に対して消磁処理を行うことは消磁効率の向上の観点から好ましくない。また、永久磁石に付着している油分等により消磁炉が汚染されてしまう問題も生じる。
【0015】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、永久磁石の消磁を効率的に行うことができ、消磁炉内の汚染を抑制できる永久磁石の回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る永久磁石の回収方法は、過熱水蒸気を用いてモータに取り付けられた永久磁石の消磁を行う消磁炉と、該消磁炉に前記過熱水蒸気を供給する第1供給ラインと、予備加熱炉と、前記消磁炉の過熱水蒸気を前記予備加熱炉に供給する第2供給ラインとを有する永久磁石回収システムにおいて、
前記予備加熱炉において前記永久磁石を予備的に加熱する工程と、
前記消磁炉において、前記予備的に加熱された永久磁石をさらに加熱する工程とを有することを要旨とする。
【0017】
上記の過熱水蒸気とは、常圧で温度が100℃以上の水蒸気をいう。
【0018】
この永久磁石回収システムにおいては、第1供給ラインにより消磁炉に過熱水蒸気が供給されて、この過熱水蒸気による加熱により永久磁石の消磁が行われる。そして、第2供給ラインにより消磁炉の過熱水蒸気が予備加熱炉に供給されるように構成されている。このシステムにおいて、本発明に係る回収方法によれば、永久磁石は最初に予備加熱炉で予備的に加熱される。予備的に加熱された永久磁石は消磁炉でさらに加熱されることによって消磁される。このように消磁して回収した永久磁石については、再度着磁を行った後、電動機や発電機等に再利用することができる。
【0019】
予備加熱炉及び消磁炉に導入される被処理物の形態としては、ロータに固定された状態の永久磁石を採用できる。以下、ロータに固定された状態の永久磁石を被処理物と呼ぶことがある。
【0020】
予備加熱炉に過熱水蒸気を供給することによって、該過熱水蒸気が比較的低温の被処理物と接触することで結露して該被処理物が次第に加熱される。このとき、被処理物に付着していた油分等が結露水と接触することによって被処理物から脱離して、被処理物の汚染物濃度を低下させることができる。これにより、消磁炉に導入される前に被処理物を清浄化できるので、該被処理物の消磁を効率的に行うことができるとともに、被処理物に付着した油分等によって消磁炉内が汚染されることを抑制することができる。また、予備加熱のために用いる過熱水蒸気は消磁炉で使用したものであるので、予備加熱のための過熱水蒸気を新たに用意する必要はなく、低コストで処理を行うことができる。
【0021】
また、被処理物に結露した結露水については、予備加熱炉の下部で受けて系外に排出することによって、予備加熱炉内の汚染が抑制されて該炉内のメンテナンスも容易となる。
【0022】
本発明において、前記過熱水蒸気として110℃以上のものを用いることが好ましい。
【0023】
詳細には、第1供給ラインによって消磁炉に供給される過熱水蒸気の温度は450℃〜550℃とすることが好ましく、460℃〜540℃とすることがより好ましい。また、第2供給ラインによって予備加熱炉に供給される過熱水蒸気の温度は100℃以上とすることが好ましい。
【0024】
本発明において、前記永久磁石は樹脂材料を介してモータのロータ又はステータに固定されていてもよい。
【0025】
本発明において、電動機又は発電機に用いられている前記永久磁石を回収してもよい。
【0026】
本発明において、前記永久磁石としてネオジム磁石を回収してもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、消磁炉で用いた過熱水蒸気により被処理物を予備的に加熱することによって該被処理物を清浄化できる。これにより、消磁炉において被処理物の消磁を効率的に行うことができるとともに、被処理物に付着した油分等によって消磁炉内が汚染されることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】内部磁石埋込型モータの断面図である。
図2】本発明に係る永久磁石の回収方法を実施するための永久磁石回収システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態に係る永久磁石の回収方法について図面を参照しながら説明する。
【0030】
本発明に係る回収方法によって回収できる永久磁石としては、上記の図1で説明したIPMモータMに取り付けられた永久磁石1を挙げることができる。以下では、ロータ3に固定された状態の永久磁石1を被処理物として処理する場合について説明する。
【0031】
図2の永久磁石回収システムは、予備加熱炉10と、過熱水蒸気を用いて永久磁石1の消磁を行う消磁炉11と、この消磁炉11に過熱水蒸気を供給する第1供給ライン12と、消磁炉11の過熱水蒸気を予備加熱炉10に供給する第2供給ライン13とを有している。予備加熱炉10には排気ライン14が接続されている。
【0032】
上記の過熱水蒸気とは、常圧で水蒸気を100℃以上の温度に昇温したものをいう。過熱水蒸気を加熱源として用いることで、被処理物を対流、輻射、及び凝縮の複合的な伝熱により急速的に加熱することが可能となる。
【0033】
第1供給ライン12により消磁炉11に供給される過熱水蒸気の温度は450℃〜550℃とすることができる。また、第2供給ライン13により予備加熱炉10に供給される過熱水蒸気の温度は100℃以上とすることができる。
【0034】
このような永久磁石回収システムにおいて、最初に予備加熱炉10において被処理物が予備的に加熱される。この加熱時間を5分〜60分とすることで、被処理物の温度を100℃〜250℃とすることができる。
【0035】
予備加熱の終了後、被処理物は消磁炉11内に導入される。消磁炉11において被処理物は過熱水蒸気によりさらに加熱されて消磁されるようになっている。この加熱時間を5分〜60分とすることで、被処理物の温度を300℃〜400℃とすることができる。
【0036】
このように、予備加熱炉10に過熱水蒸気を供給することによって、該過熱水蒸気が比較的低温の被処理物と接触することで結露して該被処理物が次第に加熱される。このとき、被処理物に付着していた油分等が結露水と接触することによって被処理物から脱離して、被処理物の汚染物濃度を低下させることができる。これにより、消磁炉11に導入される前に被処理物を清浄化できるので、該被処理物の消磁を効率的に行うことができるとともに、被処理物に付着した油分等によって消磁炉11内が汚染されることを著しく抑制することができる。また、予備加熱のために用いる過熱水蒸気は消磁炉11で使用したものであるので、予備加熱のための水蒸気を新たに用意する必要はなく、低コストで処理を行うことができる。
【0037】
予備加熱炉10における処理後の過熱水蒸気や消磁炉11における処理後の過熱水蒸気については、液化して廃水として処理することができる。そのため、大きな排ガス処理設備は不要である。
【0038】
消磁して回収した永久磁石1については、再度着磁を行った後、電動機や発電機等に再利用することができ、再度粉砕、成形又は加工等の処理を必要としない。
【0039】
着磁方法の例としては、電磁石を用いて静磁場により着磁する方法や、コンデンサ式着磁電源装置を使用し、コイルに大電流を流して強力なパルス磁場を発生させ着磁させる方法等が好適例として挙げられる。また、パルス磁場による着磁法は、短時間で着磁を行うことができるので単位時間当たりの生産性が高いことから特に好ましい。パルス磁場により着磁を行う場合は、ネオジム磁石に対してコンデンサ式電源の電圧を1500V以上、静電容量2000μF以上の条件とし、パルス幅を1/1000〜1/100秒に設定して着磁することで十分な着磁を行うことができ、ネオジム磁石を脱磁前の磁力と同レベルに戻すことが可能となる。なお、消磁後、回収した永久磁石をその形状のままで着磁する上記方法の他に、溶解等の処理により金属を単離させ、各種金属種と合金とした後に着磁してもよい。
【0040】
本発明はもとより上記実施形態によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0041】
1 永久磁石
2 ステータ
3 ロータ
4 コイル
10 予備加熱炉
11 消磁炉
12 第1供給ライン
13 第2供給ライン
14 排気ライン
M IPMモータ
図1
図2