【文献】
Mikulas Bano,Igor Strharsky,Igor Hrmo,A viscosity and density meter with a magnetically suspended rotor,REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS,2003年11月,Vol. 74, No. 11,PP.4788-4793
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
物質の粘性の測定は、医薬品、食品、塗料、インク、化粧品、化学薬品、紙、接着剤、繊維、プラスチック、ビール、洗剤、コンクリート混和剤、シリコン等の製造過程で、品質管理、性能評価、原料管理、研究開発に不可欠な測定技術である。
【0003】
粘性度を測定する方法として、毛細管法、振動子を接触させる方法、回転子を用いる方法等がある。
【0004】
上記した測定方法のうち、回転子を用いる方法はWO2009/131185(出願番号:PCT/JP2009/058089)に開示するような構成になっている。
【0005】
すなわち、試料液を充填した容器に、導電性の回転子(球)を沈め、当該回転子に、上記容器の外部から回転磁界を与えるようになっている。
【0006】
この構成により、回転磁界が回転子に与えられると、回転子に発生する電流と回転磁界との間にローレンツ力が働き、回転磁界に伴って回転子が回転する。このとき、回転子の回転速度は回転磁界の回転速度との間で粘度に応じた遅れが発生するので、この関係を利用して、粘度を算出するようになっている。
【0007】
すなわち、回転子の回転速度と回転磁界の回転速度の差は、所定の傾きを持った一次式で表され、当該一次式の傾きを粘度とするものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の国際公開2009/131185に開示の内容は、温度が狭いレンジでの回転子の回転速度と回転磁界の回転速度の関係しか述べられておらず、温度のレンジが広くなると、測定値と真値との間に
図8に示すように誤差を発生することになる。
図8は、40℃から200℃までの間で測定したシリコンオイルの粘度の測定値である。真値●より、測定値○の方が大きくなっていることが理解できるが、この原因は温度が変化すると、与えられる磁界、磁界を駆動する回路、回転子の導電率(電気伝導度)等が変化することによる。後に説明するように、特に、導電率の温度依存性による影響は極めて大きい。
【0010】
本発明は上記従来の事情に鑑みて提案されたものであって、粘度の実測値から温度による装置の特性変化、特に、導電率の変化による影響を補正した粘度を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は以下の手段を採用している。まず、本発明は、試料液を入れた容器内に導電性の回転子をいれ、当該回転子に対して、外部から回転磁界を与えることによって回転する回転数Ω
Sと、上記回転磁界の回転数Ω
Bに基づいて、当該試料液の粘度を測定する粘度測定方法を前提とする。
【0012】
予め特定温度における値が既知の粘度η0を用いて
【数1】
なる式で、各温度における装置の温度依存定数k1と定数k2を求めておき、上記定数k1とk2(温度変化によってほとんど変化しない)および、上記回転子の回転数Ω
Sと、上記回転数Ω
Bを用いて、下記(2)式を用いて特定温度での補正された粘度ηを得るものである。
【0013】
【数2】
【0014】
上記装置の温度依存定数k1は上記回転子の温度による導電率の変化の影響が大部分を占めており、他の部分、例えば、回路、磁気発生機構等の影響は無視することができる。
【0015】
上記定数k1の温度依存性は、上記回転子の導電率の温度依存性とよく一致し、従って、上記定数k1として回転子として用いられる金属の導電率に比例する値を用いてもよいことになる。
【0016】
これによって、測定粘度の温度による誤差を、回転子に用いられる金属の導電率の温度依存性を以って補正してもよいことが理解できる。
【発明の効果】
【0017】
上記したように、温度により粘度の測定誤差を回転子の導電率の温度依存性を用いて補正することができ、補正作業が簡単となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(本発明の第一の実施形態)
図1は本発明の第一の実施形態を適用する装置の概要を示す図である。
【0020】
容器1に試料が充填され、その中に回転子6たる、導電性の球(ここではアルミニウム)が入れられる。この球に対して、容器1の外部から回転磁界を与えるようになっている。回転磁界はどのような構成によって与えてもよいが、
図1では、一例として複数極の電磁コイル2・・5を容器1の周囲に配置して、回転制御部7によって各電磁コイル2・・5の位相を、所定速度で一方の方向に順次進めるようにしている。
【0021】
上記の構成によって、磁界を回転すると、導電性の回転子6には回転磁界に伴って、電流が誘起され、当該電流と磁界との間に働くローレンツ力によって、回転子6は回転することになる。この回転数Ω
Sは、試料の粘度に依存するので、当該回転子6の回転状態がカメラ11によって捕らえられ、その映像が画像処理部9によって処理されて、回転子6の回転数Ω
Sを算出するようになっている。粘度検出部8には上記電磁コイルに与えられる回転磁界の回転数Ω
Bが上記回転制御部7から、また、上記回転子6の回転数Ω
Sが画像処理部9より与えられており、この2つの回転数より、粘度が算出されることになる。
【0022】
ここでの粘度の算出方法は、国際公開WO2009/131185に開示されているので、詳しい説明は省略するが、「磁界の回転速度と回転子の回転速度の差」と「回転子の回転速度」との関係が、限られた温度範囲では直線関係になり、当該直線の傾きが粘度ηとなる。
【0023】
ところで、上記装置は温度特性を持つ。例えば、回転磁界に使用するコイル、コアの磁気特性、当該コイルに電流を流すための回路等はすべて温度特性を備えている。従って、温度40℃で上記測定をしたときに回転子6に流れた電流と、温度200℃で測定したときに回転子6に流れた電流は異なり、
図8で説明したように、このままでは正確に測定できたとはいえない。
【0024】
ここで、粘度η0と、上記各回転数Ω
S、Ω
Bとの間にはk1、k2を定数としたとき、以下の関係が成立する。
【0025】
【数3】
そこで、広範囲の温度で粘度η0が既知の試料について各温度におけるk1、k2を求めると、
図2に示すように、定数k2は温度依存性をほとんど無視できる一定の値で、定数k1は温度T1、T2・・・が高くなるほど小さくなる直線群(定数k1は各温度における直線の傾き)を得ることができる。この直線群から温度依存性を持つ定数k1の値をグラフにすると、
図3の○印に示すようになる。すなわち、温度が大きくなるほど小さくなる定数k1の値を得ることができる。
【0026】
この定数k1の値を検証すると、上記回転子6に使用した金属(この場合アルミニウム)の導電率(
図3中、△と実線)の温度依存性とよく一致し、上記定数k1が回転子6として使用する金属の導電率に支配されていることが理解できる。尚、上記式(1)からも理解できるように、定数k2の値は、回転子6の回転数Ω
Sと回転磁界の回転数Ω
Bが同じときのη0Ω
Sの値を示す。このとき、回転子6の回転数Ω
Sも温度依存性がないと考えられ、現実の装置でも定数k2の温度依存性を確認できていない。尚、本実施形態で用いた装置では、定数k2は、0.002であった。
【0027】
上記定数k1、k2は、物質依存性を持つのではなく、装置の温度依存性(特に回転子の導電率)を持つ温度依存値(k1)か、あるいは装置固有値(k2)である。ということは、上記定数k1、k2は、粘度が既知の物質を用いて、予め求めておくことができる。
【0028】
そこで、上記のように既知の粘度η0を持つ試料を用いて得た定数k1、k2を定数部13に備えたメモリに予め記憶しておく。
【0029】
この状態で、粘度が未知の試料について、上記粘度検出部8は、回転子6の回転数Ω
Sと回転磁界の回転数Ω
Bを得るとともに、定数部13から、温度依存定数k1と、温度依存性が無視出来る程度の定数k2を得る。更に、上記粘度検出部8は、上記(1)式を変形した
【数4】
の計算を実行して温度補正された粘度ηを算出することになる。
【0030】
上記したように、各温度に対応する定数k1と、定数k2は定数部13に備えたメモリにテーブルとして保持させておいてもよいが、この方法であると、原理的には、無限の温度に対する無限の定数k1を記憶しておく必要がある。そこで、定数部13を、回転子6と同じ金属を測定環境と同じ温度環境に置き、上記回転数Ω
B、Ω
Sの検出と同時に、回転子に用いた金属の導電率を測定し、当該導電率に比例する値を上記粘度検出部8に提供する構成としてもよい。もちろんこの場合でも温度依存性をほとんど無視できる定数k2は定数部13に備えたメモリに記憶させておくことになる。
【0031】
上記の結果、
図4に△で示すように真値●とよく一致するシリコンオイルの粘度ηを得ることができる。このことは、上記のように定数k1として回転子6に使用した金属の導電率に比例する値を採用することが正しかったことを意味する。
【0032】
以上説明したように本発明は、試料中で回転磁界によって回転する回転子の回転数から、粘度を算出する際、装置の温度依存性に起因する真値との誤差を補正した値を得ることができることになる。また、上記算出の際に、上記回転子として使用した金属の導電率を使用することで簡単に目的を達成することができる効果がある。
【0033】
尚、上述では、上記回転子6に使用した金属がアルミニウムである場合について説明したが、他の金属(例えば、チタン)であっても同様である。
【0034】
図5には、上記回転子6の金属がチタンである場合の上記定数k1の温度依存性と、上記チタンの導電率の温度依存性とを示すグラフである。
図5に示すように、上記回転子6の金属がチタンである場合であっても、上記定数k1(
図5中、○)の温度依存性が、上記チタンの導電率(
図5中、△と実線)の温度依存性とよく一致し、当該定数k1が当該回転子6の金属の導電率に比例することが理解できる。そのため、上述したように、上記試料の粘度を算出する際に、上記回転子の金属の導電率に比例する値を使用すれば、測定粘度に含まれる、装置の温度依存性に起因する誤差を容易に補正することが可能となり、正確な粘度を簡単に算出することが可能となる。
【0035】
又、上述では、上記回転子6に使用した金属がアルミニウム、チタンなどの主として単一の金属からなる純金属である場合について説明したが、合金、例えば、主成分をアルミニウムとするアルミ合金や主成分をチタンとするチタン合金であっても同様である。
【0036】
(本発明の第二の実施形態)
次に、
図6、
図7を参照しながら、第二の実施形態に係る装置が、装置の温度依存性に起因する誤差を容易に補正することが可能であることについて説明する。第一の実施形態と比較して、第二の実施形態の異なる点は、流動帯電が生じ易い試料の粘度を測定する場合に、当該試料に発生した電荷を何らかの方法により外部に逃す構成とした点である。その他の点については、第一の実施形態と同様であるため、第一の実施形態の説明において用いた図面も適宜参照しながら、第二の実施形態について説明する。
【0037】
第一の実施形態では、上記定数k1、上記定数k2、上記回転数Ω
S、上記回転数Ω
Bを用いて、真値(
図4中、●)に近似するシリコンオイルの粘度(
図4中、△)を測定する装置及び方法を示した。上述した第一の実施形態の装置及び方法において、流動帯電が生じ易い特定の試料、例えば、トルエンの粘度を測定すると、粘度測定中に、上記回転子6の回転により流動帯電が発生する。すると、当該流動帯電の電荷により、上記回転子6(導電性の球)が上記容器1の内面(壁面)に吸着し、当該回転子6の回転が阻止され、正確な粘度の測定値を得ることが出来ない。
【0038】
そこで、本発明の第二の実施形態では、
図1に示す容器1の内面に導電性を持たせる構成を採用して、当該容器1内の試料に発生した電荷を外部に逃す構成とする。上記容器1の内面に導電性を持たせる方法としては、例えば、上記容器1の内面に導電膜をコーティングする方法、上記容器1に導電性線材(リード線)を挿入する方法、非磁性で、導電性を有する容器1を使用する方法などが挙げられる。
【0039】
内面に導電膜をコーティングした容器1を有する装置と、粘度が既知である試料と、上記式(1)とを用いて、第一の実施形態と同様に、各温度毎の上記定数k1、k2とを求める。
【0040】
図6は、第二の実施形態に係る装置で算出された各温度毎の上記定数k1(導電膜あり)と、第一の実施形態に係る装置で算出された各温度毎の上記定数k1(導電膜なし)と、当該装置の容器1の回転子6に使用した金属(アルミニウム)の各温度毎の導電率とを示すグラフである。
図6に示すように、第二の実施形態に係る上記定数k1は、上記容器1の内面に導電膜をコーティングしたにも関わらず、第一の実施形態に係る上記定数k1とよく一致していることが理解できる。更に、第二の実施形態に係る上記定数k1の温度依存性が、第一の実施形態と同様に、上記回転子6の金属(アルミニウム)の導電率の温度依存性とよく一致し、当該定数k1が当該回転子6の金属の導電率に強く依存していることが理解できる。そのため、第二の実施形態に係る装置においても、第一の実施形態と同様に、上記回転子6の金属の導電率に比例する値を使用すれば、装置の温度依存性に起因する誤差を容易に補正することが可能となる。尚、このときの装置固有値k2は、0.002であり、第一の実施形態の装置における上記定数k2とよく一致している。
【0041】
図7には、第二の実施形態に係る装置で算出された上記定数k1(
図6に示すk1)、k2と、上記式(2)と、上記回転数Ω
S、上記回転数Ω
Bを用いて30℃から140℃までの間で測定したトルエンの粘度の測定値(
図7中、△)と、真値(
図7中、●)との関係を示すグラフである。
図7に示すように、上記容器1の内面に導電性を持たせた装置で、流動帯電が生じ易いトルエンの粘度を測定したとしても、真値(
図7中、●)に近似するトルエンの粘度の測定値(
図7中、△)が得られることが理解できる。
【0042】
このように、第二の実施形態において、流動帯電が発生し易い特定の試料(例えば、トルエン)であっても、当該試料に発生する電荷を逃す構成を持つ容器1を装置に採用することにより、真値(
図7中、●)により一致する測定値(
図7中、△)を簡単に得ることが可能となる。これは、上記容器1として内壁に金属膜をコーティングしたとしても、上記式(1)と既知粘度の試料とを用いて算出される上記定数k1、k2と、上記式(2)とを用いれば、上記装置の温度依存性に起因する誤差を確実に補正することが可能となることを意味する。
【0043】
尚、第二の実施形態では、
図6、
図7に示すように、上記回転子6の金属がアルミニウムである場合に、流動帯電が生じ易いトルエンの粘度を精度高く測定出来ることを示したが、例えば、上記回転子6の金属がチタンである場合であっても、上記と同様の結果を得ることが出来る。即ち、上記回転子6の金属がチタンである場合でも、内面に導電膜をコーティングした容器1を用いて算出された上記定数k1の温度依存性が、上記回転子6の金属(チタン)の導電率の温度依存性とよく一致し、当該定数k1が当該回転子6の金属の導電率に強く依存している。そのため、上記回転子6の金属の導電率に比例する値k1と、装置固有値k2と、上記式(2)と、上記回転数Ω
S、上記回転数Ω
Bを用いれば、流動帯電が生じ易い試料の粘度を精度高く測定することが可能となる。
【0044】
又、第二の実施形態では、上記容器1の内面に導電性を持たせる方法として、上記容器1の内面に導電膜をコーティングする方法を挙げたが、当該導電膜のコーティング方法として、例えば、銀鏡反応法、無電解メッキ法、蒸着法などが挙げられる。