(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記右開口及び前記左開口それぞれの中心は、前記後板部が前記ステアリングノズルの真後ろに位置する場合に、前記ステアリングノズルの噴射口の中心と同じ高さに位置する、
請求項1乃至6のいずれかに記載のジェット推進艇。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(ジェット推進艇1の概略構成)
以下、図面を参照しながら、実施形態に係るジェット推進艇1の概略構成について説明する。
図1は、実施形態に係るジェット推進艇1の概略構成を示す断面図である。以下の説明において、「前」「後」「左」「右」は、シート7に着座した操船者の視点を基準とする用語である。
【0010】
ジェット推進艇1は、いわゆるパーソナルウォータークラフト(PWC)である。ジェット推進艇1は、船体2と、エンジン3と、燃料タンク4と、ジェット推進機構5と、
バケット6と、シート7と、ステアリングハンドル8とを備える。
【0011】
船体2は、デッキ2aとハル2bとを含む。デッキ2aにはシート7が取り付けられる。シート7は、エンジン3の上方に配置されている。ステアリングハンドル8は、シート7の前方に配置される。ステアリングハンドル8は、船体2を操舵するための操作部材である。
【0012】
船体2の内部には、エンジンルーム2cが設けられる。エンジンルーム2cは、エンジン3および燃料タンク4などを収容する。エンジン3は、前後方向に延びるクランク軸31を含む。
【0013】
ジェット推進機構5は、エンジン3の駆動力によって船体2を推進させる推進力を発生させる。ジェット推進機構5は、船体2のまわりの水を吸い込んで噴射する。ジェット推進機構5は、インペラシャフト50と、インペラ51と、インペラハウジング52と、噴射ノズル53と、ステアリングノズル54と、を含む。
【0014】
インペラシャフト50は、エンジンルーム2cから後方に延びるように配置される。インペラシャフト50の前部は、カップリング部36を介してクランク軸31に連結されている。インペラシャフト50の後部は、船体2の水吸引部2eを通ってインペラハウジング52内に導出される。インペラハウジング52は、水吸引部2eの後部に接続される。
【0015】
インペラ51は、インペラシャフト50の後部に取り付けられている。インペラ51は、インペラハウジング52の内部に配置されている。インペラ51は、インペラシャフト50とともに回転して、水吸引部2eから水を吸引する。インペラ51は、吸引した水を噴射ノズル53から後方に噴射させる。噴射ノズル53は、インペラハウジング52の後方に配置される。噴射ノズル53の側面には、
バケット6を支持するための支持ブラケット53aが固定されている。
【0016】
ステアリングノズル54は、噴射ノズル53の後方に配置される。ステアリングノズル54は、噴射口54aを有する。船体2を推進させるための噴流が噴射口54aから後方に噴き出す。ステアリングノズル54は、左右に揺動可能に設けられている。ステアリングノズル54は、ステアリングハンドル8の操作に応じて、噴流の噴射方向を左右に転換させる。すなわち、ステアリングハンドル8を左に回転させると、噴流の噴射方向は左斜め後方に切り替えられ、ステアリングハンドル8を右に回転させると、噴流の噴射方向は右斜め後方に切り替えられる。ステアリングノズル54は、ステアリングハンドル8に設けられるトリム調節スイッチの操作に応じて、噴射方向を上下に転換するように構成されていてもよい。
【0017】
バケット6は、ジェット推進機構5の後方に配置される。
バケット6は、左右に延びる揺動軸6aを中心として上下揺動可能に支持ブラケット53aに支持される。
バケット6は、噴射口54aからの噴流から離間した位置(以下、「退避位置」という。)と、噴射口54aからの噴流を受ける位置(以下、「受流位置」という。)と、に移動可能である。本実施形態において、受流位置とは、船体2に推進力を与えない位置(以下、「中立位置」という。
図1参照。)と、船体2に後進力を与える位置(以下、「後進位置」という。)とを含む概念である。
バケット6が退避位置にある場合、噴流は後方に流されて、船体2は前進する。従って、退避位置は、船体2に前進力を与える位置(以下、「前進位置」という。)と換言できる。
バケット6が中立位置にある場合、前後方向の推進力が相殺されるため、船体2が停船中であれば停船状態が維持される。
バケット6が後進位置にある場合、噴流は主に前方に流されて、船体2が前進中であれば減速され、船体2が停船中であれば後進する。
【0018】
(
バケット6の構成)
図2は、
バケット6の前方斜視図である。
図3は、
バケット6を前方から見た正面図である。
図4は、
バケット6を後方から見た背面図である。
図5は、
バケット6を右方から見た右側面図である。
図6は、
バケット6を左方から見た左側面図である。
図7は、
バケット6を上方から見た平面図である。
図5乃至
図7では、説明の便宜上、ステアリングノズル54が図示されている。
【0019】
バケット6は、後板部100、右板部110、及び左板部120を有する。
【0020】
後板部100は、
バケット6が受流位置にある場合、ステアリングノズル54の後方に配置される。この場合、後板部100は、ステアリングノズル54から噴き出る噴流を主に左右方向に導く。本実施形態において、後板部100は、上下方向よりも左右方向に噴流を流しやすい形状を有する。具体的に、後板部100は、後板101と、一対の下リブ102と、を有する。
【0021】
後板101は、
バケット6が受流位置にある場合、ステアリングノズル54と対向する。後板101は、内面103と、中央偏向壁104と、右凹部105と、左凹部106と、を有する。内面103は、
バケット6が受流位置にある場合、ステアリングノズル54と対向する。内面103は、右内面103Rと、左内面103Lとを含む。右内面103Rは、中央偏向壁104の右側に広がる。左内面103Lは、中央偏向壁104の左側に広がる。右内面103Rと左内面103Lは、それぞれ曲面状に形成される。
【0022】
中央偏向壁104は、右内面103Rと左内面103Lの間を上下に延びる。中央偏向壁104は、船体2の左右方向における中心線CLに沿って形成される。中央偏向壁104は、噴流がステアリングノズル54から真後ろに噴出する場合、噴流を左右均等に偏向させる。中央偏向壁104は、噴流がステアリングノズル54から右斜め後方に噴き出す場合、噴流を右方に偏向させる。中央偏向壁104は、噴流がステアリングノズル54から左斜め後方に噴き出る場合、噴流を左方に偏向させる。
【0023】
右凹部105は、右内面103Rに形成される。右凹部105は、後述する右開口110aに向かって中央偏向壁104から右方に延びる。右凹部105は、
図3に示すように、右方に向かってテーパー状に形成される。従って、右凹部105の上下幅は、右開口110aに近づくほど狭くなっている。
【0024】
左凹部106は、左内面103Lに形成される。左凹部106は、後述する左開口120aに向かって中央偏向壁104から左方に延びる。左凹部106は、
図3に示すように、左方に向かってテーパー状に形成される。従って、左凹部106の上下幅は、左開口120aに近づくほど狭くなっている。
【0025】
一対の下リブ102それぞれは、板状に形成され、左右に延びるように配置される。一対の下リブ102は、後板101の下端部に接続される。一対の下リブ102は、後板101の下端部から前方に突出する。一対の下リブ102は、噴流が下方向に流れることを抑えて、左右に噴流を偏向させる機能を有する。一対の下リブ102は、右下リブ102Rと、左下リブ102Lとを含む。右下リブ102Rは、右内面103Rの下端部に設けられる。左下リブ102Lは、左内面103Lの下端部に設けられる。
【0026】
右板部110は、後板部100の右端部から前方に延びる。右板部110は、右板111と、右筒112とを含む。
【0027】
右板111は、後板101に対して略垂直に配置される。右板111には、右吐出口111aと右挿通孔111bが形成される。右吐出口111aは、右板111の後端部中央に形成される。右挿通孔111bは、右板111の前端部に形成され、揺動軸6a(
図1参照)が挿通される。
【0028】
右筒112は、筒状に形成されており、右吐出口111aに連なる。右筒112は、右板111から右方に突出する。右筒112には、右開口110aと第1開口110bが形成される。右開口110aは、右方に開口しており、右吐出口111aから吐出された噴流を右向きに通す。
図5に示すように、右開口110aの中心110Cは、後板部100がステアリングノズル54の真後ろに位置する場合、噴射口54aの中心54Cと同じ高さに位置する。第1開口110bは、右開口110aに連なる切り欠きである。
図7に示すように、第1開口110bは、噴射口54aの右端よりも右側に位置している。第1開口110bは、後方に開口しており、右吐出口111aから吐出される噴流の一部を後向きに通す。右開口110aと第1開口110bのそれぞれを通過する噴流量については後述する。
【0029】
左板部120は、後板部100の左端部から前方に延びる。左板部120は、左板121と、左筒122とを含む。
【0030】
左板121は、後板101に対して略垂直に配置される。左板121には、左吐出口121aと左挿通孔121bが形成される。左吐出口121aは、左板121の後端部中央に形成される。左挿通孔121bは、左板121の前端部に形成され、揺動軸6aが挿通される。
【0031】
左筒122は、筒状に形成されており、左吐出口121aに連なる。左筒122は、左板121から左方に突出する。左筒122には、左開口120aと第2開口120bが形成される。左開口120aは、右開口110aの反対側に位置する。左開口120aは、左方に開口しており、左吐出口121aから吐出された噴流を左向きに通す。
図6に示すように、左開口120aの中心120Cは、後板部100がステアリングノズル54の真後ろに位置する場合に、噴射口54aの中心54Cと同じ高さに位置する。第2開口120bは、左開口120aに連なる切り欠きである。第2開口120bは、第1開口110bから離間している。
図7に示すように、第2開口120bは、噴射口54aの左端よりも左側に位置している。第2開口120bは、後方に開口しており、左吐出口121aから吐出される噴流の一部を後向きに通す。左開口120aと第2開口120bのそれぞれを通過する噴流量については後述する。
【0032】
(噴流の流れ)
図8乃至
図10は、噴流の流れを矢印で示す模式図である。
図8乃至
図10では、受流位置に位置する
バケット6の断面(
図3のA−A参照)が図示されている。
【0033】
図8に示すように、ステアリングノズル54が真後を向いている場合、噴流は真後ろに噴き出す。この場合、噴流は、中央偏向壁104によって左右均等に偏向される。右方に偏向された噴流の大部分は、右吐出口111aから右開口110aを通って右方に噴き出す。左方に偏向された噴流の大部分は、左吐出口121aから左開口120aを通って左方に噴き出す。従って、噴流は、第1開口110b及び第2開口120bから後方にほとんど噴き出さない。
【0034】
図9に示すように、ステアリングノズル54が右最大角まで揺動した場合、噴流は右斜め後方に噴き出す。この際、第1開口110bの一部は、噴射方向の先に位置している。そのため、噴流の一部は第1開口110bから右斜め後方に噴き出し、残りの噴流は右開口110aから右方に噴き出す。
【0035】
図10に示すように、ステアリングノズル54が左最大角まで揺動した場合、噴流は左斜め後方に噴き出す。この際、第2開口120bの一部は、噴射方向の先に位置している。そのため、噴流の一部は第2開口120bから右斜め後方に噴き出し、残りの噴流は左開口120aから左方に噴き出す。
【0036】
(作用及び効果)
(1)バケット6は、右開口110aと、第1開口110bと、左開口120aと、第2開口120bとを有する。バケット6が受流位置にある場合、右開口110aは噴流を右向きに通し、
第1開口110bは噴流を後ろ向きに通す。バケット6が受流位置にある場合、左開口120aは噴流を左向きに通し、第2開口120bは噴流を後ろ向きに通す。
従って、左右に噴流を噴き出して減速している場合、すなわちバケットの使用中にステアリングノズル54を左右に揺動させたとき、噴流の一部を
第1開口110b又は第2開口120bから後方に逃がすことができる。そのため、右開口110a
又は左開口120aから過剰な勢いで噴流が噴き出して船体2が急旋回してしまうことを抑制できる。
【0037】
(2)
バケット6は、後板部100と、右板部110と、左板部120とを有する。後板部100は、
バケット6が受流位置に位置する場合にステアリングノズル54の後方に配置される。後板部100は、噴流を少なくとも左右方向に導く。右板部110には右開口110aが形成され、左板部120には左開口120aが形成される。
従って、簡素な構成で噴流を左右に噴き出すことができる。
【0038】
(3)第1開口110bは右板部110のうち右筒122に形成され、第2開口120bは左板部120のうち左筒122に形成される。
従って、第1開口110bと第2開口120bを後板部100に形成する場合に比べて、第1開口110bと第2開口120bを噴射口54aから左右に離すことができる。そのため、第1開口110bと第2開口120bの位置の自由度が向上し、ステアリングノズル54が左右に揺動したときにだけ噴流を後方に逃げるように構成しやすくなる。
【0039】
(4)第1開口110bは右開口110aに連なる切り欠きであり、第2開口120bは左開口120aに連なる切り欠きである。
従って、第1開口110bと右開口110aを一体的に形成できるとともに、第2開口120bと左開口120aを一体的に形成できる。そのため、それぞれを別々に形成する場合に比べて、治具の簡素化や工程数の削減を図ることができる。
【0040】
(5)ステアリングノズル54が右最大角まで揺動した場合、第1開口110bの一部は、噴流の噴射方向の先に位置している。ステアリングノズル54が左最大角まで揺動した場合、第2開口120bの一部は、噴流の噴射方向の先に位置している。
従って、ステアリングノズル54が左右に揺動した場合に、噴流の一部を右開口110a又は左開口120aから後方により逃がしやすくすることができる。
【0041】
(6)後板部100は、上下方向よりも左右方向に噴流を流しやすい形状を有する。
従って、噴流が左右に流れやすくなるため、左右への噴流を強めることができる。そのため、船体2を効率的に減速させることができる。ただし、この場合であっても、噴流の一部が右開口110a又は左開口120aから後方に逃がされるので、船体2の急旋回は抑制される。
【0042】
(7)後板部100の内面103には、右凹部105及び左凹部106が形成されている。右凹部105は、右開口110aに向かって中央偏向壁104から右方に延びる。左凹部106は、左開口120aに向かって中央偏向壁104から左方に延びる。
従って、噴流が左右により流れやすくなるため、左右への噴流をより強めることができる。
【0043】
(8)後板部100は、後板101の下端部から前方に突出する下リブ102を有する。
従って、噴流が左右により流れやすくなるため、左右への噴流をより強めることができる。
【0044】
(9)後板部100がステアリングノズル54の真後ろに位置する場合に、右開口110aの中心110Cと左開口120aの中心120Cは、噴射口54aの中心54Cと同じ高さに位置する。
従って、右開口110aの中心110Cと左開口120aの中心120Cが噴射口54aの中心54Cと異なる高さに位置する場合に比べて、左右への噴流をより強めることができる。
【0045】
(その他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0046】
(A)上記実施形態では、第1開口110bは右開口110aに連なる切り欠きであり、第2開口120bは左開口120aに連なる切り欠きであることとしたが、これに限られるものではない。第1開口110bと第2開口のそれぞれは穴であってもよい。この場合、第1開口110bは後板部100又は右板部110に形成することができ、第2開口120bは後板部100又は左板部120に形成することができる。
なお、第1開口110bが後板部100又は右板部110に形成される場合、右板部110は右筒112を有していなくてもよい。第2開口120bが後板部100又は左板部120に形成される場合、左板部120は左筒122を有していなくてもよい。
【0047】
(B)上記実施形態では、第1開口110bの全体が噴射口54aの右端よりも右側に位置し、第2開口120bの全体が噴射口54aの左端よりも左側に位置することとしたが、これに限られるものではない。第1開口110bの一部のみが噴射口54aの右端よりも右側に位置していてもよいし、第2開口120bの一部のみが噴射口54aの左端よりも左側に位置していてもよい。
【0048】
(C)上記実施形態において、受流位置は、中立位置と後進位置の両方を含むこととしたが、中立位置と後進位置のいずれか一方であってもよい。
【0049】
(D)上記実施形態において、ジェット推進機構5は、噴射ノズル53とステアリングノズル54を別々に有することとしたが、噴射ノズル53がステアリングハンドル8の操作に応じて揺動可能である場合には、ステアリングノズル54を有していなくてもよい。
【0050】
(E)上記実施形態では、図面を参照しながら、
バケット6の構成の一例を詳細に説明したが、
バケット6は、左右に噴流を噴き出すための右開口110a及び左開口120aと、ステアリングノズル54が揺動したときに噴流を後方に逃がすための第1開口110b及び第2開口120bを有していればよく、この限りにおいて
バケット6の細部の構成は任意に変更可能である。