(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5816268
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月18日
(54)【発明の名称】ジチイン−テトラカルボキシ−ジイミドの調製方法
(51)【国際特許分類】
C07D 495/14 20060101AFI20151029BHJP
C07D 207/456 20060101ALI20151029BHJP
C08G 75/04 20060101ALI20151029BHJP
【FI】
C07D495/14 F
C07D207/456CSP
C08G75/04
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-510576(P2013-510576)
(86)(22)【出願日】2011年5月16日
(65)【公表番号】特表2013-527180(P2013-527180A)
(43)【公表日】2013年6月27日
(86)【国際出願番号】EP2011057829
(87)【国際公開番号】WO2011144550
(87)【国際公開日】20111124
【審査請求日】2014年5月13日
(31)【優先権主張番号】61/348,355
(32)【優先日】2010年5月26日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】10163519.1
(32)【優先日】2010年5月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507203353
【氏名又は名称】バイエル・クロップサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】230105223
【弁護士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ヒムラー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】カウスマン,マーチン
【審査官】
清水 紀子
(56)【参考文献】
【文献】
GAINA CONSTANTIN,SYNTHESIS AND CHARACTERIZATION OF NEW COMPOUNDS CONTAINING 1,4-DITHINTETRACARBOXYDIIMIDE UNITS,REVUE ROUMAINE DE CHIMIE - ROMANIAN JOURNAL OF CHEMISTRY,RO,2005年 1月 1日,V50 N7-8,P601-607
【文献】
GAINA, CONSTANTIN,SYNTHESIS AND CHARACTERIZATION OF POLYAMIDES CONTAINING 1,4-DITHIIN-2,3:5,6-以下備考,MACROMOLECULAR RAPID COMMUNICATIONS,2001年,V22 N1,P25-29,TETRAYL DIIMIDE STRUCTURES
【文献】
GAINA C,POLYIMIDES CONTAINING 1,4-DITHIINE UNITS AND THEIR CORRESPONDING THIOPHENE 2,3,4,5 以下備考,HIGH PERFORMANCE POLYMERS,英国,INSTITUTE OF PHYSICS PUBLISHING,1999年 6月 1日,V11 N2,P185-195,TETRACARBOXYLIMIDE UNITS
【文献】
DRABER W,SYNTHESE VON 1.4-DITHIINEN AUS DERIVATEN DES MALEINIMIDS,CHEMISCHE BERICHTE,ドイツ,VERLAG CHEMIE GMBH,1967年 1月 1日,V100 N5,P1559-1570
【文献】
GAINA C et al.,Designed Monomers and Polymers,2005年,Vol.8, No.4,p.347-63
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 495/14
C07D 207/456
C08G 75/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)のジチイン−テトラカルボキシ−ジイミド
【化1】
(式中、
R
1およびR
2は、同一でありまたは異なり
、水素であるか、またはハロゲン、−OR
3および/もしくは−COR
4によって1回以上置換されてもよいC
1−C
8−アルキルであるか、ハロゲン、C
1−C
4−アルキルもしくはC
1−C
4−ハロアルキルによって1回以上置換されてもよいC
3−C
7−シクロアルキルであるか、またはハロゲン、C
1−C
4−アルキル、C
1−C
4−ハロアルキル、−COR
4もしくはスルホニルアミノによって各々が1回以上置換されてもよいアリールもしくはアリール−(C
1−C
4−アルキル)であり、
R
3は、水素、C
1−C
4−アルキルもしくはC
1−C
4−アルキルカルボニルであり、またはハロゲン、C
1−C
4−アルキルもしくはC
1−C
4−ハロアルキルによって1回以上置換されていてもよいアリールであり、
R
4は、ヒドロキシル、C
1−C
4−アルキルまたはC
1−C
4−アルコキシである)
を調製するための方法であって、
(A)式(VI)のジクロロマレイミド
【化2】
(式中、Rは、R
1またはR
2である)
と無機硫化物または硫化水素とを、溶媒または溶媒混合物中で、式(VI)のジクロロマレイミドの1モルにつき0.2molから0.95molの間の硫化物または硫化水素のモル比で反応させる工程、および
(B)式(I)の化合物と一般式(VII)の高分子化合物
【化3】
(式中、
Rは、存在ごとに独立して、R
1またはR
2であり、および
nは、1から50の間の整数である)
との混合物から成る反応生成物を、希釈剤中で加熱する工程
を特徴とする方法。
【請求項2】
前記硫化物または硫化水素が、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、硫化カリウム、硫化カルシウム、硫化水素カルシウム、硫化マグネシウムもしくは硫化アンモニウムまたはこれらの混合物もしくはこれらの水和物から成る群より選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
極性溶媒が工程段階(B)における溶媒として使用されることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
アミド、アルコール、エステル、ニトリル、ケトン、ジメチルスルホキシドもしくはスルホランもしくは水またはこれらの混合物の群からの溶媒が使用されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
アミドが、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びN−メチルピロリドンから選択されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
アルコールが、プロパノール、イソブタノール、ペンタノール及びエチレングリコールから選択されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
エステルが、酢酸メチル、酢酸エチル及び酢酸ブチルから選択されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
ニトリルが、アセトニトリル及びブチロニトリルから選択されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
ケトンが、ピナコロン及びメチルイソブチルケトンから選択されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
式(VII)の高分子化合物
【化4】
(式中、
Rは、存在ごとに独立して、R
1またはR
2であり、
R
1およびR
2は、同一でありまたは異なり
、水素であるか、またはハロゲン、−OR
3および/もしくは−COR
4によって1回以上置換されてもよいC
1−C
8−アルキルであるか、ハロゲン、C
1−C
4−アルキルもしくはC
1−C
4−ハロアルキルによって1回以上置換されてもよいC
3−C
7−シクロアルキルであるか、またはハロゲン、C
1−C
4−アルキル、C
1−C
4−ハロアルキル、−COR
4もしくはスルホニルアミノによって各々が1回以上置換されてもよいアリールもしくはアリール−(C
1−C
4−アルキル)であり、
R
3は、水素、C
1−C
4−アルキルもしくはC
1−C
4−アルキルカルボニルであるか、またはハロゲン、C
1−C
4−アルキルもしくはC
1−C
4−ハロアルキルによって1回以上置換されてもよいアリールであり、
R
4は、ヒドロキシル、C
1−C
4−アルキルまたはC
1−C
4−アルコキシであり、
nは、1から50の間の整数である)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジチイン−テトラカルボキシ−ジイミドの新規調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジチイン−テトラカルボキシ−ジイミド自体は、公知である。これらのジチイン−テトラカルボキシ−ジイミドを動物の内部寄生虫、より詳細には線虫、に対する駆虫剤として使用できること、およびこれらのジチイン−テトラカルボキシ−ジイミドが殺虫活性を有することも、公知である(米国特許第3,364,229号明細書参照)。さらに、一定のジチイン−テトラカルボキシ−ジイミドが抗菌活性を持つこと、およびヒト真菌症に対して一定の活性を有することは、公知である(Il Farmaco 2005,60,944−947参照)。ジチイン−テトラカルボキシ−ジイミドを作物防護の際に植物病原性真菌に対する殺真菌剤として使用できることも公知である(国際公開第2010/043319号パンフレット参照)。さらに、ジチイン−テトラカルボキシ−ジイミドを電子写真感光体に顔料としてまたは塗料およびポリマーに染料として使用できることは、公知である(特開平10−251265号公報、ポーランド国特許第143804号明細書参照)。
【0003】
式(I)のジチイン−テトラカルボキシミド
【0004】
【化1】
(式中、
R
1およびR
2は、同一でありまたは異なり、および水素であるか、またはハロゲン、−OR
3および/もしくは−COR
4によって1回以上置換されてもよいC
1−C
8−アルキルであるか、ハロゲン、C
1−C
4−アルキルもしくはC
1−C
4−ハロアルキルによって1回以上置換されてもよいC
3−C
7−シクロアルキルであるか、またはハロゲン、C
1−C
4−アルキル、C
1−C
4−ハロアルキル、−COR
4もしくはスルホニルアミノによって各々が1回以上置換されてもよいアリールもしくはアリール−(C
1−C
4−アルキル)であり、
R
3は、水素、C
1−C
4−アルキルもしくはC
1−C
4−アルキルカルボニルであるか、またはハロゲン、C
1−C
4−アルキルもしくはC
1−C
4−ハロアルキルによって1回以上置換されてもよいアリールであり、
R
4は、ヒドロキシル、C
1−C
4−アルキルまたはC
1−C
4−アルコキシである)
は、様々な公知の方法で調製することができる。
【0005】
例えば、1つの公知の方法(Synthetic Communications 2006,36,3591−3597参照)では、第一段階において、無水コハク酸を式(II)のアミンと反応させるが、この反応は、希釈剤の存在下でされてもよい。その後、その得られた式(III)のコハク酸モノアミドを、次に、希釈剤であるジオキサンの存在下、室温で、大過剰の塩化チオニルと反応させて、一連の非常に多くの反応段階で、最終的に、式(I)のジチイン−テトラカルボキシ−ジイミドを得る。このジチイン−テトラカルボキシ−ジイミドは、その反応混合物から直接単離されていてもよいし、または水を添加した後に濾過により単離されていてもよい。反応条件(希釈剤)およびラジカルRの性質に依存して、一定の状況では、式(IV)のジチイン−ジイソイミドを、式(I)のジチイン−テトラカルボキシ−ジイミドに変換させる前に、単離することが可能である。
【0006】
【化2】
この方法の欠点は、反応時間が長いことであり、また、得られる収量が一般に理論の約30〜40%を超えないか、でなければ単離される生成物の純度が不適当であるという結果にある。さらなる欠点は、反応混合物の水性の後処理の場合、大量の塩化チオニルを破壊する工程を含む点であり;形成されるガス(SO
2およびHCl)を処分しなければならないことである。同様に、経験から、生成物を一度で得られないことが1つの欠点である。それどころか、濾過による生成物の最初の単離の後、長時間(例えば、一晩)放置すると濾液からさらなる生成物が沈殿し、それらを再び濾過によって単離しなければならないことが多い。時には、この操作をもう一度行わなければならない。この手順は、非常に面倒であり、時間がかかる。
【0007】
別の公知の方法(米国特許第3,364,229号;Chem.Ber.1967,100,1559−70参照)では、第一段階において、式(V)のジクロロマレイン酸無水物を式(II)アミンと反応させるが、この反応は希釈剤の存在下でされてもよい。その後、その得られた式(VI)のジクロロマレイミドを、次に、硫黄ドナー化合物(例えば、硫化水素、チオ尿素またはチオ硫酸ナトリウム)と反応させる:
【0008】
【化3】
この方法は、例えば、高毒性気体硫化水素での操作が技術的見地から非常に困難であり、費用がかかり、不都合であるという欠点を有する。チオ尿素を使用するとき、望ましくない副生成物が目標生成物とともに得られ、それらは、除去するのが非常に困難であり、達成可能な収量を減じる。チオ硫酸ナトリウムを使用する場合、記載されている収量では生産工程に不十分である。同様の問題が、硫化ナトリウムを用いる、米国特許3,364,229号明細書に記載されている反応の実施形態に関しあてはまる(該文献の実施例Xb参照)。
【0009】
式(VI)の対応するジクロロマレイミドと硫化ナトリウムの反応による式(I)の一定のジチイン−テトラカルボキシ−ジイミドの調製も、さらに、Revue Roumaine de Chimie 2005,50,601−607から公知である。しかし、この場合も、収量が不適当である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第3,364,229号明細書
【特許文献2】国際公開第2010/043319号パンフレット
【特許文献3】特開平10−251265号公報
【特許文献4】ポーランド国特許第143804号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Il Farmaco 2005,60,944−947
【非特許文献2】Synthetic Communications 2006,36,3591−3597
【非特許文献3】Chem.Ber.1967,100,1559−70
【非特許文献4】Revue Roumaine de Chimie 2005,50,601−607
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
その結果として、式(I)のジチイン−テトラカルボキシ−ジイミドの技術的に単純で経済的な調製方法が必要とされ続けている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一般式(I)のジチイン−テトラカルボキシ−ジイミド
【0014】
【化4】
(式中、R
1およびR
2は、上に示した定義を有する)
を調製するための新規の方法であって、
(A)式(VI)のジクロロマレイミド
【0015】
【化5】
(式中、Rは、R
1またはR
2である)
と無機硫化物または硫化水素を、溶媒または溶媒混合物中で、式(VI)のジクロロマレイミドの1モルにつき0.8molから1.2molの間の硫化物または硫化水素のモル比で反応させる工程を特徴とする方法を、今般、見出した。
【0016】
本発明の工程(A)を行うときに出発原料として使用するジクロロマレイミドの一般定義を式(VI)によって与える。Rは、R
1またはR
2の定義を表す。
【0017】
R
1およびR
2は、好ましくは、同一であり、または異なり、および好ましくは、水素であるか、またはフッ素、塩素、臭素、−OR
3および/もしくは−COR
4によって1回以上置換されてもよいC
1−C
6−アルキルであるか、または塩素、メチルもしくはトリフルオロメチルによって1回以上置換されてもよいC
3−C
7−シクロアルキルであるか、またはフッ素、塩素、臭素、メチル、トリフルオロメチル、−COR
4および/もしくはスルホニルアミノによって各々が1回以上置換されてもよいフェニルもしくはフェニル−(C
1−C
4−アルキル)である。
【0018】
R
1およびR
2はまた、好ましくは、同一でありまたは異なり、および好ましくは水素であるか、またはフッ素、塩素、臭素および/もしくは−OR
3によって1回以上置換されてもよいC
1−C
6−アルキルであるか、または塩素、メチルもしくはトリフルオロメチルによって1回以上置換されてもよいC
3−C
7−シクロアルキルである。
【0019】
R
1およびR
2は、さらに好ましくは、同一でありまたは異なり、およびさらに好ましくは水素であるか、またはフッ素、塩素、ヒドロキシル、メトキシ、エトキシ、メチルカルボニルオキシおよび/もしくはカルボキシルによって1回以上置換されてもよいC
1−C
4−アルキルであるか、または塩素、メチルもしくはトリフルオロメチルによって1回以上置換されてもよいC
3−C
7−シクロアルキルであるか、またはフッ素、塩素、臭素、メチル、トリフルオロメチル、−COR
4および/もしくはスルホニルアミノによって各々が1から3回置換されていてもよいフェニル、ベンジル、1−フェネチル、2−フェネチルもしくは2−メチル−2−フェネチルである。
【0020】
R
1およびR
2は、さらに好ましくは、同一でありまたは異なり、およびさらに好ましくは水素であるか、またはフッ素、塩素、ヒドロキシル、メトキシおよび/もしくはエトキシによって1回以上置換されてもよいC
1−C
4−アルキルであるか、または塩素、メチルもしくはトリフルオロメチルによって1回以上置換されてもよいC
3−C
7−シクロアルキルである。
【0021】
R
1およびR
2は、非常に好ましくは、同一でありまたは異なり、および非常に好ましくは水素、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、2,2−ジフルオロエチルもしくは2,2,2−トリフルオロエチルであるか、または塩素、メチルもしくはトリフルオロメチルによって各々が置換されてもよいシクロプロピルもしくはシクロヘキシルである。
【0022】
R
1およびR
2は、さらに特に好ましくは、同時にメチルである。
【0023】
R
3は、好ましくは、水素、メチル、エチル、メチルカルボニルもしくはエチルカルボニルであるか、またはフッ素、塩素、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルもしくはトリフルオロメチルによって1回以上置換されてもよい、フェニルである。
【0024】
R
3は、さらに好ましくは、水素、メチル、メチルカルボニルまたはフェニルである。
【0025】
R
4は、好ましくは、ヒドロキシル、メチル、エチル、メトキシまたはエトキシである。
【0026】
R
4は、さらに好ましくは、ヒドロキシルまたはメトキシである。
【0027】
最終生成物として化合物(I−1)2,6−ジメチル−1H,5H−[1,4]ジチイノ[2,3−c:5,6−c’]ジピロール−1,3,5,7(2H,6H)−テトロンをあたえるN−メチルジクロロマレイミド(VI−1)、R=Meを、出発原料として使用することが特に好ましい。
【0028】
式(VI)のジクロロマレイミドをモル不足量の硫化物または硫化水素と反応させると、一般式(VII)の高分子化合物が得られる
【0029】
【化6】
(式中、
Rは、存在ごとに独立して、R
1またはR
2であり、および
nは、1から50の間の整数である)。
【0030】
一般式(VII)の高分子化合物は新規であり、同様に本発明によって提供される。nは、好ましくは1から25、さらに好ましくは2から20、非常に好ましくは3から15である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施例6における生成物のHPLC分析チャート
【
図2】実施例6における式(VII)の化合物(R=メチル)のESIマススペクトル
【発明を実施するための形態】
【0032】
硫化物または硫化水素として、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、硫化カリウム、硫化カルシウム、硫化水素カルシウム、硫化マグネシウムまたは硫化アンモニウムなどの、あらゆる可溶性無機硫化物または硫化水素を使用することが、原則的に可能である。硫化ナトリウム、硫化カリウムまたは硫化アンモニウムを使用することが好ましい。勿論、これらの塩の混合物を使用することも可能である。用語「硫化物」および「硫化水素」はまた、これらの塩の水和物を、それらが存在する場合には、包含することを意図したものである。
【0033】
式(I)のジチイン−テトラカルボキシ−ジイミドの調製のために、硫化物または硫化水素を、式(VI)のジクロロマレイミドの1モルにつき0.8molから1.2molの間の量で使用する。好ましい量は、式(VI)のジクロロマレイミドの1モルにつき、0.9molから1.1molの間、さらに好ましくは0.95molから1.05molの間、非常に好ましくは1molの硫化物または硫化水素である。
【0034】
一般式(VII)の高分子化合物の調製のために、硫化物または硫化水素を、式(VI)のジクロロマレイミドの1モルにつき0.2molから0.95molの間の量で使用する。好ましい量は、式(VI)のジクロロマレイミドの1モルにつき、0.4molから0.9molの間、さらに好ましくは0.5molから0.8molの間である。
【0035】
硫化物または硫化水素を反応混合物に固体形態で添加してもよく、または、例えば水溶液として添加してもよい。硫化物または硫化水素を水溶液として添加することが好ましい。
【0036】
本発明の工程(A)における反応温度は、広い範囲内で変えることができ、−20℃から140℃の間に存する。十分な空時収量(space−time yields)を得るために、−10℃から100℃の間、さらに好ましくは0℃から50℃の間の温度で操作することが好ましい。
【0037】
本発明の工程(A)における反応時間は、5分から24時間の間である。10分から12時間の間、さらに好ましくは20分から2時間の間、操作することが好ましい。
【0038】
本発明の工程(A)に適する溶媒としては、水、ジメチルスルホキシド、スルホラン、アルコール類、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert−ブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコールおよびエチレングリコールモノメチルエーテル、エステル類、例えば酢酸メチルおよび酢酸エチル、アミド類、例えばホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドおよびN−メチルピロリドン、エーテル類、例えばテトラヒドロフランおよび1,4−ジオキサン、ニトリル類、例えばアセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルおよびベンゾニトリル、ケトン類、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよびピナコロン、またはこれらの希釈剤の混合物が挙げられる。水、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert−ブタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、酢酸メチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、またはこれらの希釈剤の混合物を使用することが好ましい。水とメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、酢酸メチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトニトリルまたはアセトンの混合物を使用することが非常に好ましい。
【0039】
一般式(I)のジチイン−テトラカルボキシ−ジイミドを調製するための本発明のさらなる工程(B)は、式(VI)のジクロロマレイミドと硫化物または硫化水素との反応の生成物で、完全にまたは部分的に式(VII)の化合物から成るものを、適切な希釈剤中で加熱することを含む。
【0040】
本発明の工程(B)を行うために適する希釈剤は極性溶媒であり;ここでの例としては、アミド類、例えばホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドおよびN−メチルピロリドン;アルコール類、例えばプロパノール、イソブタノール、ペンタノールおよびエチレングリコール;エステル類、例えば酢酸メチル、酢酸エチルおよび酢酸ブチル;ニトリル類、例えばアセトニトリルおよびブチロニトリル;ケトン類、例えばピナコロンおよびメチルイソブチルケトン;ジメチルスルホキシドもしくはスルホラン、または水が挙げられる。これらの希釈剤を単独で使用してもよいし、または水との混合物で使用してもよい。
【0041】
溶媒の量は、重要ではなく、広い範囲内で変えることができる。
【0042】
本発明の工程(B)を0℃から200℃の間の温度で行う。好ましい温度は、20℃から250℃の間である。
【実施例】
【0043】
本発明の方法を以下の実施例によって例証するが、以下の実施例に限られない。
【0044】
調製例
【実施例1】
【0045】
2リットルのジャケット付き容器に250mlのメタノールおよび50mlの水を投入した。第一に、700mlのメタノール中の90g[0.5mol]のN−メチルジクロロマレイミド(VI−1)の溶液、および第二に、200mlの水中の66.05g[0.5mol]の硫化ナトリウム三水和物の溶液を、同時に、1時間にわたり、21℃で計量投入した。その後、その混合物を室温でさらに30分間攪拌した。固体を吸引ろ過によって単離し、300mlの水で2回、次いで300mlのメタノールで2回洗浄し、乾燥させた。これにより、基準物質に対するHPLC分析によると95.1重量パーセント程度まで化合物(I−1)から成る、理論の86.9%の収量に相当する、64.49gの黒緑色固体を得た。
【実施例2】
【0046】
65mlのメタノール中の4.5g[25mmol]のN−メチルジクロロマレイミド(VI−1)の溶液を、一滴ずつ、室温で、10mlの水中の3.30g[25mmol]の硫化ナトリウム三水和物の溶液と混合した。その後、その混合物を室温でさらに4時間攪拌した。固体を吸引ろ過によって単離し、15mlの水で、次いで15mlのメタノールで洗浄し、乾燥させた。これにより、HPLC分析によると93.6面積パーセント程度まで化合物(I−1)から成る、理論の79.6%の収量に相当する、3.00gの淡緑色固体を得た。
【実施例3】
【0047】
2リットルのジャケット付き容器に250mlのメタノールおよび50mlの水を投入した。第一に、700mlのメタノール中の90g[0.5mol]のN−メチルジクロロマレイミド(VI−1)の溶液、および第二に、176mlの水中で希釈された85.2gの濃度40%硫化アンモニウム水溶液[0.5mol]を、同時に、1時間にわたり、10℃で計量投入した。その後、その混合物を10℃でさらに30分間攪拌した。その後、固体を吸引ろ過によって直接単離し、300mlの水で2回、次いで300mlのメタノールで2回洗浄し、乾燥させた。これにより、基準物質に対するHPLC分析によると94.4重量パーセント程度まで化合物(I−1)から成る、理論の85.8%の収量に相当する、64.10gの黒緑色固体を得た。
【実施例4】
【0048】
実施例3において説明した手順に従ったが、0.525molの硫化アンモニウムを使用した。これにより、基準物質に対するHPLC分析によると96.3重量パーセント程度まで化合物(I−1)から成る、理論の86.7%の収量に相当する、63.56gの黒緑色固体を得た。
【実施例5】
【0049】
実施例3において説明した手順に従ったが、0.55molの硫化アンモニウムを使用した。これにより、基準物質に対するHPLC分析によると93.8重量パーセント程度まで化合物(I−1)から成る、理論の76.8%の収量に相当する、57.62gの黒緑色固体を得た。
【実施例6】
【0050】
500mlフラスコに260mlのメタノール中の18g[0.1mol]のN−メチルジクロロマレイミド(VI−1)の溶液を投入した。その後、14〜16℃で、40mlに6.61g[0.05mol]の硫化ナトリウム三水和物の溶液を滴加した。その混合物を55分の間、放置して室温にし、室温でさらに60分間攪拌した。その後、吸引ろ過して固体を単離し、60mlの水で洗浄し、乾燥させた。これにより、HPLC分析(270nm)によると75.1面積パーセント程度まで化合物(I−1)から成る、7.05gの緑色固体を得た。さらに、合計約22.5面積パーセントの式(VII)の化合物(式中のRはメチルである)が生じる(
図1参照)。
【0051】
式(VII)の化合物(R=メチル)を分取HPLCによって単離した。
【0052】
3.5〜4.5分の保持時間範囲で500〜2000Daの質量範囲の質量スペクトルを合わせることにより、R=メチルである式(VII)の化合物のESI
+質量スペクトルを得た。この質量範囲に、n=3−11であるオリゴマーの準分子イオン([M+H]
+および[M+NH
4]
+)が、はっきりと見える(
図2参照)。
【実施例7】
【0053】
実施例6の生成物混合物のうち、2gを、20mlのエタノールと2mlのジメチルスルホキシドの混合物中、77℃で2時間加熱した。その後、減圧下で溶媒混合物を除去し、残留物を10mlのメタノールに溶かし、吸引ろ過して固体を単離し、5mlのMeOHで洗浄し、乾燥させた。これにより、HPLC分析(270nm)によると93面積パーセント程度まで化合物(I−1)から成る、1.77gの緑色固体を得た。
【実施例8】
【0054】
64.4重量パーセントの化合物(I−1)を有する生成物混合物のうち、2gを、10mlのジメチルスルホキシド中、100℃で2時間加熱した。その後、その反応混合物と30mlのメタノールを混合し、吸引ろ過して固体を単離し、5mlのメタノールで洗浄し、乾燥させた。これにより、99.4重量パーセント程度まで化合物(I−1)から成る、1.441gの黒緑色固体を得た。
【実施例9】
【0055】
64.4重量パーセントの化合物(I−1)を有する生成物混合物のうち、2gを、20mlのブチロニトリル中で還流させながら(117℃)、2時間加熱した。その後、減圧下で溶媒を除去し、残留物を10mlのメタノールと混合し、吸引ろ過しながら固体を単離し、5mlのメタノールで洗浄し、乾燥させた。これにより、92重量パーセント程度まで化合物(I−1)から成る、1.694gの緑色固体を得た。
【0056】
比較例1
2リットルのジャケット付き容器に250mlのメタノールおよび50mlの水を投入した。第一に、700mlのMeOH中の90g[0.5mol]のN−メチルジクロロマレイミド(VI−1)の溶液、および第二に、200mlの水中の79.25g[0.6mol]の硫化ナトリウム三水和物の溶液を、同時に、1時間にわたり、21℃で計量投入した。その後、その混合物を室温でさらに30分間攪拌した。固体を吸引ろ過によって単離し、300mlの水で2回、次いで300mlのメタノールで2回洗浄し、乾燥させた。これにより、HPLC分析によると99.9面積%の程度まで化合物(I−1)から成る、理論の28.3%の収量に相当する、19.97gの淡緑色固体を得た。
【0057】
比較例2
実施例2において説明した手順を繰り返したが、3.96g[30mmol]の硫化ナトリウム三水和物を使用した。室温で4時間後、反応混合物の濾過後に残存する固体はなかった;言い換えると、単離収量は、理論の0%であった。