(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一または類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。
【0015】
したがって、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0016】
[第1実施形態]
(1−1)香味吸引具の全体概略構成
図1は、第1実施形態に係る香味吸引具10の全体概略構成図である。また、
図2は、香味吸引具10の軸線方向に沿った断面図である。
【0017】
図1及び
図2に示すように、香味吸引具10は、細長い円柱状であり、炭素熱源20、ホルダ30及び香味発生源40を有する。香味吸引具10は、エアロゾルの発生を抑制するため、炭素熱源20から発生する熱によって香味発生源40を加熱する。
【0018】
炭素熱源20は、ホルダ30の軸線AX方向における端部30e(一端部)に設けられる。炭素熱源20は、ホルダ30の端部30eによって保持される。炭素熱源20は、第1部分21と第2部分22とを有する。具体的には、第1部分21がホルダ30の端部30eによって保持される。
【0019】
つまり、第1部分21は、軸線AX方向において、ホルダ30によって保持され、かつ少なくとも一部がホルダ30から突出した部分である。また、第2部分22は、香味発生源40と逆側の端部を含む部分である。第1実施形態では、第2部分22は、第1部分21に隣接し、かつホルダ30から突出した部分である。
【0020】
第1部分21及び第2部分22のうち、少なくとも第1部分21は、炭素熱源20の延焼を防止する延焼防止剤を含む。これにより、ホルダ30が炭素熱源20の発生する熱によって延焼することが防止される。なお、炭素熱源20のより具体的な構成については、後述する。
【0021】
ホルダ30は、香味発生源40を内包する筒状である。ホルダ30としては、例えば、矩形形状の厚紙を円筒状に湾曲させて両側縁部を合わせて中空の円筒体として形成された紙管によって構成できる。なお、ホルダ30内部において、炭素熱源20と香味発生源40との間に、空隙部または通気性を有する不燃部材を配置することによって、炭素熱源20と香味発生源40とが隣接しないように構成してもよい。
【0022】
香味発生源40は、炭素熱源20によって加熱されることによって、香味を発生する。香味発生源40としては、例えば、たばこ葉を用いることができ、シガレット(紙巻きたばこ)に使用される一般的な刻みたばこ、嗅ぎたばこに使用される粒状たばこ、ロールたばこ、または成形たばこなどのたばこ原料を採用することができる。なお、ロールたばこは、シート状の再生たばこをロール状に成形して得られ、内部に流路を有する。また、成形たばこは、粒状たばこを型成形することによって得られる。また、多孔質または非多孔質の担持体に、メンソールなどの香味成分を担持させてもよい。
【0023】
(1−2)炭素熱源の構成
次に、炭素熱源20の構成について具体的に説明する。上述したように、炭素熱源20は、軸線AX方向において、ホルダ30に隣接し、かつ少なくとも一部がホルダ30から突出するように設けられる第1部分21と、第1部分21に隣接し、かつホルダ30から突出するように設けられる第2部分22とを有する。第1実施形態では、第1部分21と第2部分22とは、一体として形成されている。
【0024】
炭素熱源20は、植物由来の炭質材料、不燃添加物、有機または無機バインダ及び水を含む混合物を押出などの方法で成形することで得られる。
【0025】
炭素熱源20の全長は、10mmから30mmの範囲、望ましくは13mmから20mmの範囲とすることが好ましい。また、炭素熱源20の外径は、4mmから8mmの範囲、望ましくは5mmから7mmの範囲とすることが好ましい。これにより、香味吸引具10の熱源として好適に用い得る。
【0026】
ホルダ30から突出している炭素熱源20の長さは、8mm〜15mmとすることが好ましい。さらに、第1部分21の長さは、ホルダ30から突出している部分において、例えば、1mm〜5mmの範囲、好ましくは1.5〜3mmの範囲とすることができる。第1部分21のホルダ30に保持される部分は、例えば、3mm〜10mmの範囲とすることができる。このような構成により、ホルダ30に過剰な熱が供給されることなく炭素熱源20を自律的に消火せしめ、かつ炭素熱源20がホルダ30から脱落することを防止し得る。
【0027】
また、第2部分22の長さは、例えば、8mm〜10mmの範囲とすることができる。このような構成により、香味吸引具10の使用において、ユーザが十分な回数に亘って香味を吸引し得る。
【0028】
上述したように、第1部分21には炭素熱源20の延焼を防止する延焼防止剤が含まれる。つまり、炭素熱源20のホルダ30との接続部分に延焼防止剤を含有させることによって、ユーザが意識的に炭素熱源20を消火する行為を行わなくとも、延焼防止剤を含有する含有部にて自律的に燃焼が停止するため、ホルダ30などへの延焼を防止できる。ここで、炭素熱源20のホルダ30との接続部分から、延焼防止剤を含む第1部分21の少なくとも一部を露出させることが、ホルダ30などへの過剰な熱の供給を防ぐ観点から好ましい。
【0029】
(1−3)延焼防止剤の特性
次に、炭素熱源20の第1部分21に含まれる延焼防止剤の特性について説明する。第1部分21に含まれる延焼防止剤は、炭素熱源20の燃焼温度において不燃性であり、炭素熱源20の燃焼温度以下において吸熱反応を生じることが好ましい。また、吸熱反応として熱分解を生じる場合、熱分解生成物の少なくとも一つが炭素熱源20の燃焼温度において不燃性かつ不揮発性であることが好ましい。
【0030】
すなわち、延焼防止剤としては、以下の条件を満たす無機物質を用い得る。
・ 炭素熱源の燃焼温度(800℃〜1200℃)において不燃性である
・ 当該燃焼温度以下で融解ないしは熱分解などによる吸熱反応を生じる
・ 熱分解を生じる場合、少なくとも一つの熱分解生成物は当該燃焼温度において不燃性かつ不揮発性である。
【0031】
また、無機物質は、溶液、懸濁液、ペーストまたは粉粒体などの方法で炭素熱源に添加することができる。無機物質は、例えば、上述の条件を満たす可溶性または難溶性のアルカリ金属塩、或いは可溶性または難溶性のアルカリ土類金属塩を好適に用い得る。具体的には、延焼防止剤として、可溶性無機塩または難溶性無機塩を用い得る。可溶性無機塩としては、塩化物、炭酸塩または硫酸塩が挙げられる。また、難溶性無機塩としては、水酸化物、炭酸塩または硫酸塩が挙げられる。
【0032】
さらに具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウムなどの塩化物、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩、または硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウムなどの硫酸塩及びそれらの水和物などが特に好ましい。また、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどの水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩、または硫酸カルシウムなどの硫酸塩及びそれらの水和物などが特に好ましい。
【0033】
上述したような条件を纏めると、表1に示すような無機塩を延焼防止剤として用い得る。
【0035】
また、延焼防止剤として、例えば液体ガラスのような物質を用いることもできる。係る液体ガラスは、例えば、特許2538527号に開示されている方法によって常温で液体のコーティング剤として得ることができ、係るコーティング剤を塗工などの方法で炭素熱源20の第一部分21に添加後、常温から200℃程度の温度で乾燥することで、ケイ素若しくは金属の酸化物の少なくとも一方を含む被膜を形成することができる。
【0036】
(1−4)延焼防止剤の添加方法
次に、延焼防止剤の添加方法について説明する。延焼防止剤を含む第1部分21は、炭素熱源20の一部に延焼防止剤の溶液、懸濁液、ペースト、粉粒体を浸漬、噴霧、溶射、湿潤、塗工などの方法で添加することで作製できる。
【0037】
例えば、香味吸引具10に好適なサイズに作製した炭素熱源20の一方の端部を、延焼防止剤を溶解或いは分散させた液体に所定の深さまで含浸し、一定時間保持した後、乾燥することで、任意の長さに亘って第1部分21を設けることができる。また、 第1部分21における延焼防止剤の含有量は、延焼防止剤の溶液濃度及び含浸時間によって任意に制御できる。さらに、炭素熱源20が円筒形状のように軸線AX方向に連通した開口部を有する場合、開口部に通気しながら延焼防止剤の溶液に含浸させることで、延焼防止剤の含浸位置をさらに精度よく制御できる。
【0038】
第1部分21における好適な延焼防止剤の含有量及び当該加工部の長さは、選択する延焼防止剤と、加工する炭素熱源20の特徴(形状、組成など)との関係を考慮して、十分な延焼防止効果を得られる数値が選択される。また、延焼防止剤が可溶性の場合、炭素熱源20の内部まで浸透することによって、より高い延焼防止効果が得られる。
【0039】
(1−5)炭素熱源のその他の特徴
次に、炭素熱源20のその他の特徴について説明する。
【0040】
(1−5.1)可溶性アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩による付加機能
炭素熱源20の第2部分22には、表1で挙げた無機物質のうちの少なくとも一種をさらに含んでもよい。この場合、第2部分22に含まれる無機物質の炭素熱源20に対する含有率は、第1部分21に含まれる延焼防止剤の炭素熱源20に対する含有率よりも小さいことが好ましい。
【0041】
例えば、第2部分22に、可溶性アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも一方をさらに含有させることで、燃焼時において、灰皿への衝打などの衝撃によって炭素熱源20が非燃焼部から折れ、燃焼部を含む炭素熱源20が一部脱落すること(火種落ち)を防止し得る。かかる効果は、炭素熱源20のバインダとして熱分解温度の低い有機バインダを採用した場合に、特に顕著である。
【0042】
第1部分21に含まれる可溶性アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の含有量は、第2部分22に含まれる延焼防止剤の含有量よりも少ないことが好ましい。さらに、炭素熱源20の第1部分21以外の部分に、低濃度の可溶性アルカリ金属塩を含んでもよい。
【0043】
このような付加機能を実現し得る無機物質としては、以下の条件を満たすことが好ましい。
・ 炭素熱源の燃焼温度(800℃〜1200℃)において不燃性
・ 無機物質または炭素熱源の燃焼温度以下で生成する少なくとも一つの熱分解物が、炭素熱源の燃焼温度以下で融解する。
【0044】
このような条件を満たす無機物質としては、上述したように、表1で挙げた可溶性アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩を好適に用い得る。
【0045】
例えば、低濃度の可溶性アルカリ金属塩は、押出などの成形時に炭質材料やバインダなどを混合する際に固体や液体の形状で加えることができる。また、第1部分21を除く第2部分22の可溶性アルカリ金属塩濃度は、着火性及びその他の燃焼特性を阻害しない範囲で十分な効果を得られる数値が選択されるが、例えば、塩化ナトリウムが選択された場合、当該濃度は、5wt%以下であることが好ましく、0.5wt%以下であることがより好ましい。
【0046】
(1−5.2)炭質材料
炭質材料は、加熱処理などによって揮発性の不純物を除去したものを用いることが望ましいが、これに限定されるものではない。炭質材料は、10wt%〜99wt%の範囲で含むことができ、30wt%〜70wt%であることが好ましく、40wt%〜50wt%とすることが、十分な熱量供給及び灰の飛散防止などの燃焼特性の観点から望ましい。
【0047】
(1−5.3)バインダ
バインダとしては、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、アルギン酸アンモニウムなどの有機系バインダ、精製ベントナイトなどの鉱物系、またはコロイダルシリカ、水ガラス及びケイ酸カルシウムなどのシリカ系バインダを含む無機系バインダといった、当業者に公知のバインダを用い得る。
【0048】
なお、有機バインダ、特にCMCを使用することが香味の観点から望ましい。また、炭素熱源20が表1に挙げた可溶性のアルカリ金属塩または可溶性のアルカリ土類金属塩を含み、かつCMCをバインダとして用いる場合、CMCのエーテル化度は0.3以上に設定される。このような構成により、製造・使用に耐え得る強度を炭素熱源20に付与し得る。エーテル化度が低いCMCを用いると、成形乾燥後の強度が乏しく、製造・使用適性が著しく悪化してしまう恐れがある。また、例えば、エーテル化度が0.8未満のCMCを使用することによって、押出などの成形時に容易に成形することが可能となる。
【0049】
具体的には、CMCは、1〜10wt%含むことができ、1wt%〜8wt%含むことが、香味の観点からより好ましい。
【0050】
(1−5.4)不燃添加物
不燃添加物としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ケイ素などからなる炭酸塩または酸化物を使用でき、40〜89wt%含むことができる。特に、炭酸カルシウムを炭素熱源20中に40wt%〜55wt%含むことが好ましい。
【0051】
(1−6)実施例
次に、香味吸引具10を構成する炭素熱源20の実施例について説明する。
【0052】
(1−6.1)延焼防止剤
(1−6.1.1)炭素熱源の組成・作製方法
以下の方法によって、表2に示す組成の炭素熱源20を作製した。
・ 活性炭86g、炭酸カルシウム(CaCO
3)117gにエーテル化度0.6のCMC10.8gを混合し、さらに塩化ナトリウム2.2gを含む水250gを混合する
・ 上述した混合物を混練の後、外径6mm、内径4mmの円筒形状となるよう押出成型する
・成型物を乾燥後、13mmの長さに切断し、炭素熱源20を得る。
【0054】
(1−6.1.2)試験サンプル
上述した方法で作製した炭素熱源にNaCl水溶液を含浸させ、表3に示す試験用熱源A〜Fを作製した。
【0056】
なお、試験用熱源A〜Fについて、NaClの含浸は以下の方法で行った。
・ 内径5mmのチューブに13mmの熱源を10mm挿し込み、1000ml/分の空気を流しながら、それぞれのサンプルについて表3に示した濃度のNaCl水溶液に210秒間浸する
・ 試験用熱源を取り出し後、60℃で6時間乾燥し、NaCl含浸熱源を得る
【0057】
また、含浸部分における炭素熱源中のNaCl含有量は、以下の式により算出した。
1mm当NaCl含有量=
(含浸後熱源乾燥重量−未含浸熱源乾燥重量)/ 熱源中NaCl含浸部長さ
【0058】
(1−6.1.3)延焼防止機能の評価方法
以下の方法によって、模擬喫煙評価を実施した。
・ 内径6mmの紙管に熱源を3mm挿し込み、ボルグワルド社製喫煙器にセットする
・ 電気ライターで熱源を8秒間加熱後、それぞれのサンプルについて表3に示した容量で吸引し着火する
・ 上記容量で吸引する操作を30秒間隔で繰り返す
・ NaCl含浸部位にて延焼の防止可否を目視で確認する
【0059】
(1−6.1.4)評価結果
上述した評価の結果を表4に示す。
【0061】
表4に示すように、延焼防止剤の含浸部において、NaClと可燃物(炭質材料及び有機バインダの和)の重量比を0.35以上、またはNaClと炭質材料の重量比を0.40以上とすることで、延焼防止剤の含有部において自律的に燃焼が停止し、十分な延焼防止機能を得られている。
【0062】
(1−6.2)CaCO
3、Mg(OH)
2、液体ガラスの効果の検証
(1−6.2.1)試験サンプル
CaCO
3、Mg(OH)
2、液体ガラスの効果を検証するため、押出成形により、表5に示す組成であり、
図3に示す形状を有する炭素熱源20の試験サンプルを作製した。
【0064】
また、含有部の長さが20mmとなるように、所定量のCaCO
3またはMg(OH)
2の懸濁液もしくは二種類の液体ガラス(テリオスコートNP−360G及び360KT、株式会社日興製)を、炭素熱源20の外周部に塗布及び開孔部へ滴下し、表6に示す試験用熱源G〜Jを作製した。
【0066】
CaCO
3またはMg(OH)
2の懸濁液もしくは液体ガラスの含浸部分における炭素熱源20中の延焼防止剤の含有量は、以下の式により算出した。
・1mm当延焼防止剤含有量=延焼防止剤添加量/熱源中の含浸部長さ
【0067】
(1−6.2.2)延焼防止機能の評価方法
以下の方法によって、模擬喫煙評価を実施した。
・ 内径6mmの紙管に熱源を3mm挿し込み、ボルグワルド社製喫煙器にセットする
・ 電気ライターで熱源を8秒間加熱後、それぞれのサンプルについて55ml/2secで吸引し着火する
・ 上記容量で吸引する操作を15秒間隔で繰り返す
・ 延焼防止剤の含有部において燃焼が停止した場合、当該含有部と非含有部の境界から燃焼停止位置までの長さを測定する(
図4参照)。
【0068】
(1−6.2.3)評価結果
上述した評価の結果を表7に示す。
【0070】
表7に示すように、本試験に使用した延焼防止剤(CaCO
3、Mg(OH)
2、液体ガラス)の何れも、所定量を炭素熱源20に含有させることで、延焼防止剤の含有部において自律的に燃焼を停止可能であることが確認できた。
【0071】
また、表7の評価結果から、さらに以下のことが推察される。
・ 使用する延焼防止剤の種類によって、燃焼停止に必要な添加量は異なる。例えば、Mg(OH)
2は、CaCO
3よりも燃焼停止の効果が高いと考えられる。Mg(OH)
2の方が、熱分解における吸熱量が大きいためと推察される。
・ 開孔内部と外周部への添加量の比率により、延焼防止効果が異なる。
【0072】
なお、表1において「×:燃焼持続」と判定されたサンプル(例えば、サンプルGー−3、H−5)についても、他のサンプルと同レベルの効果が得られないものの、一定の効果は得られたことに留意すべきである。
【0073】
(1−6.3)低濃度の可溶性アルカリ金属塩含有による火種落ち防止効果の検証
(1−6.3.1)試験サンプル
低濃度の可溶性アルカリ金属塩含有による火種落ち防止効果の検証するため、押出成形により、表8に示す組成の炭素熱源20(全長15mm、外径6mm)の試験サンプルを作製した。
【0075】
(1−6.3.2)火種落ち防止機能の評価方法
以下の方法によって、模擬喫煙評価を実施した。
・ 作製した炭素熱源20を、外径6mmの紙管に3mm挿入し、評価サンプルとする
・ 炭素熱源20を着火し、燃焼中に任意のタイミングで、シガレットの灰を落とす要領で、評価サンプルを金属製灰皿に衝打する
・ 衝打時に炭素熱源20が非燃焼部で折れた場合は火種落ちが生じたと判定する
【0076】
(1−6.3.3)評価結果
各サンプルの評価結果は以下のとおりであった。
K:火種落ちが生じた。
L:火種落ちは生じなかった。
M:火種落ちは生じなかった。
N:火種落ちは生じなかった。使用中に可視煙が生じた。
O:火種落ちは生じなかった。使用中に可視煙が生じた。
【0077】
以上の結果より、炭素熱源20全体に低濃度のNaClを含有させることで火種落ちを防止可能であることが確認できた。
【0078】
なお、上述した試験条件においては、炭素熱源20におけるNaCl含有率を0.5wt%以上とすることで、十分な火種落ち防止効果を有することが確認できた。一方、NaCl含有率が3wt%以上の場合、使用中に可視煙が生じたことから、本試験に使用した炭素熱源20を無煙の香味吸引具の熱源として採用する際には、NaCl含有率は3wt%未満とすることが望ましい。
【0079】
(1−7)作用・効果
以上説明したように、香味吸引具10及び炭素熱源20によれば、ホルダ30から突出した第1部分21には、炭素熱源20の延焼を防止する延焼防止剤が含まれる。このため、香味発生源40を内包したホルダ30との接触部分まで炭素熱源20の燃焼が進行してしまうことを防止し得る。
【0080】
また、上述したように炭素熱源20以外の別部材を設けることなく、ホルダ30への過剰な熱の供給を防止でき、ホルダ30の燃焼または熱分解を防止し得る。つまり、ホルダ30への過剰な熱の供給が防止されるため、ホルダ30に格別の耐熱性を付与する必要がなく、紙管などの素材でもホルダ30として好適に採用でき、製造コストの増大も抑制し得る。
【0081】
(1−8)その他の実施形態
上述したように、第1実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態が明らかとなろう。
【0082】
例えば、炭素熱源20の第1部分21及び第2部分22の形状は、次のように変更してもよい。
図5(a)〜(c)は、本発明の変更例に係る炭素熱源の軸線方向に沿った断面図である。
【0083】
図5(a)に示すように、延焼防止剤(図中のドット部分)は、第1部分21の外周部分に配置されてもよい。また、
図5(b)に示すように、第1部分21は、ホルダ30の軸線方向に沿った断面において、香味発生源40(
図5(b)において不図示)に接近するに連れて延焼防止剤(図中のドット部分)を含む領域が広くなるように構成されてもよい。なお、
図5(b)では、第1部分21の延焼防止剤を含まない部分が略三角形状だが、当該部分は、必ずしも三角形状でなくてもよく、例えば、ピラミッド状でもよい。
【0084】
さらに、
図5(c)に示すように、第1部分21及び第2部分22の両方は、ホルダ30の軸線方向に沿った断面において、香味発生源40に接近するに連れて延焼防止剤を含む領域が広くなるように構成されてもよい。
【0085】
また、上述した実施形態では、第1部分21の軸線AXにおける全体において延焼防止剤が含まれる例について説明したが、第1部分21の少なくとも一部に延焼防止剤が含まれていればよく、例えば、ホルダ30によって保持されていない第1部分21にのみ延焼防止剤を含むようにしてもよい。
【0086】
第1実施形態では、炭素熱源20において延焼防止剤の含有領域を種々変更する例を示したが、炭素熱源20の軸線方向において、当該物質を異なる濃度で含有させてもよい。(1−5.1)で述べた、低濃度の可溶性のアルカリ金属塩または可溶性のアルカリ土類金属塩を第2部分22に含む構成はその一例である。また、例えば、炭素熱源20の着火端側において当該物質の濃度を薄く、ホルダ30側が濃くなるよう濃度勾配を実現できる。これにより、より精密に炭素熱源20が発する熱量を制御し得る。
【0087】
また、好適な延焼防止剤の含有量(濃度)は、延焼防止剤の種類は勿論のこと、炭素熱源20の形状や組成(発熱量)によって異なるが、(1−4)に示した方法によって、延焼防止の効果を奏し得るように、延焼防止剤を任意の含有量に設定することができる。
【0088】
第1実施形態では、炭素熱源20の外形は円柱状であったが、円柱状に限らず、直方体など、様々な形状も本発明に含まれることは勿論である。
【0089】
[第2実施形態]
(2−1)香味吸引具の全体概略構成
図6は、第2実施形態に係る香味吸引具10の全体概略構成図である。また、
図7は、香味吸引具10の軸線方向に沿った断面図である。
【0090】
図6及び
図7に示すように、香味吸引具10は、第1実施形態と同様に、細長い円柱状であり、炭素熱源20、ホルダ30及び香味発生源40を有する。香味吸引具10は、エアロゾルの発生を抑制するため、炭素熱源20から発生する熱によって香味発生源40を加熱する。
【0091】
(2−2)炭素熱源の構成
次に、炭素熱源20の構成について具体的に説明する。炭素熱源20は、第1実施形態と同様に、軸線AX方向において、ホルダ30に隣接し、かつ少なくとも一部がホルダ30から突出するように設けられる第1部分21と、第1部分21に隣接し、かつホルダ30から突出するように設けられる第2部分22とを有する。第2実施形態では、第1部分21と第2部分22とは、一体として形成されている。
【0092】
第2実施形態では、第2部分22にも低濃度のNaCl(延焼防止剤の一例)を含むことができる。すなわち、第2部分22におけるNaClの炭素熱源20に対する含有率は、第1部分21におけるNaClの炭素熱源20に対する含有率よりも小さい。これにより、炭素熱源20の着火性を阻害することなく、ホルダ30が炭素熱源20の発生する熱によって延焼すること、及び香味吸引具10を灰皿などに一定以上の力で叩いても炭素熱源20の燃焼部分(火種)の落下を防止できる。かかる効果は、炭素熱源20のバインダとして熱分解温度の低い有機バインダを採用した場合に、特に顕著である。
【0093】
(2−3)塩化ナトリウムの添加方法
次に、塩化ナトリウム(NaCl)の添加方法について説明する。高濃度のNaClを含む第1部分21は、炭素熱源20の一部にNaClの溶液、懸濁液、ペースト、粉粒体を浸漬、噴霧、溶射、湿潤、塗工などの方法で添加することで作製できる。
【0094】
例えば、香味吸引具10に好適なサイズに作製した炭素熱源20の一方の端部を、NaClを溶解或いは分散させた液体に所定の深さまで含浸し、一定時間保持した後、乾燥することで、任意の長さに亘って第1部分21を設けることができる。また、 第1部分21におけるNaClの含有量は、NaClの溶液濃度及び含浸時間によって任意に制御できる。さらに、炭素熱源20が円筒形状のように軸線AX方向に連通した開口部を有する場合、開口部に通気しながらNaClの溶液に含浸させることで、NaClの含浸位置をさらに精度よく制御できる。
【0095】
第1部分21における好適なNaClの含有量及び当該加工部の長さは、加工する炭素熱源20の特徴(形状、組成など)との関係を考慮して、十分な延焼防止効果を得られる数値が選択される。また、NaClを炭素熱源20の内部まで浸透することによって、より高い延焼防止効果が得られる。
【0096】
(2−4)塩化ナトリウムによる火種落ち防止機能
上述したように、炭素熱源20には、低濃度の塩化ナトリウム(NaCl)による火種(炭素熱源20)落ち防止機能を付与することができる。このような低濃度のNaClは、例えば、押出などの成形時に炭質材料やバインダなどを混合する際に固体や液体の形状で加えることができる。また、第1部分21を除く第2部分22のNaCl濃度は、着火性及びその他の燃焼特性を阻害しない範囲で十分な効果を得られる数値が選択されるが、例えば1wt%以下であることが好ましく、0.5wt%以下であることがより好ましい。
【0097】
(2−5)炭素熱源のその他の特徴
次に、炭素熱源20のその他の特徴について説明する。
【0098】
(2−5.1)炭質材料
炭質材料は、加熱処理などによって揮発性の不純物を除去したものを用いることが望ましいが、これに限定されるものではない。炭質材料は、10wt%〜99wt%の範囲で含むことができ、30wt%〜70wt%であることが好ましく、40wt%〜50wt%とすることが、十分な熱量供給及び灰の飛散防止などの燃焼特性の観点から望ましい。
【0099】
炭質材料は、加熱処理などによって揮発性の不純物を除去したものを用いることが望ましいが、これに限定されるものではない。炭質材料は、10wt%〜99wt%の範囲で含むことができ、30wt%〜70wt%であることが好ましく、40wt%〜50wt%とすることが、十分な熱量供給及び灰の飛散防止などの燃焼特性の観点から望ましい。
【0100】
(2−5.2)バインダ
バインダとしては、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、アルギン酸アンモニウムなどの有機系バインダ、精製ベントナイトなどの鉱物系、またはコロイダルシリカ、水ガラス及びケイ酸カルシウムなどのシリカ系バインダを含む無機系バインダといった、当業者に公知のバインダを用い得る。
【0101】
なお、有機バインダ、特にCMCを使用することが香味の観点から望ましい。また、CMCをバインダとして用いる場合、CMCのエーテル化度は0.3以上に設定される。このような構成により、製造・使用に耐え得る強度を炭素熱源20に付与し得る。エーテル化度が低いCMCを用いると、成形乾燥後の強度が乏しく、製造・使用適性が著しく悪化してしまう恐れがある。また、例えば、エーテル化度が0.8未満のCMCを使用することによって、押出などの成形時に容易に成形することが可能となる。
【0102】
具体的には、CMCは、1〜10wt%含むことができ、1wt%〜8wt%含むことが、香味の観点からより好ましい。
【0103】
(2−5.3)不燃添加物
不燃添加物としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ケイ素などからなる炭酸塩または酸化物を使用でき、40〜89wt%含むことができる。特に、炭酸カルシウムを炭素熱源20中に40wt%〜55wt%含むことが好ましい。
【0104】
(2−6)実施例
次に、香味吸引具10を構成する炭素熱源20の実施例について説明する。
【0105】
(2−6.1)高濃度の塩化ナトリウムによる延焼防止効果の検証
(2−6.1.1)炭素熱源の組成・作製方法
以下の方法によって、表9に示す組成の炭素熱源20を作製した。
・ 活性炭86g、炭酸カルシウム(CaCO
3)117gにエーテル化度0.6のCMC10.8gを混合し、さらに塩化ナトリウム2.2gを含む水250gを混合する
・ 上述した混合物を混練の後、外径6mm、内径4mmの円筒形状となるよう押出成型する
・成型物を乾燥後、13mmの長さに切断し、炭素熱源20を得る。
【0107】
(2−6.1.2)試験サンプル
上述した方法で作製した炭素熱源にNaCl水溶液を含浸させ、表10に示す試験用熱源A〜Fを作製した。
【0109】
なお、試験用熱源A〜Fについて、NaClの含浸は以下の方法で行った。
・ 内径5mmのチューブに13mmの熱源を10mm挿し込み、1000ml/分の空気を流しながら、それぞれのサンプルについて表11に示した濃度のNaCl水溶液に210秒間浸する
・ 試験用熱源を取り出し後、60℃で6時間乾燥し、NaCl含浸熱源を得る
【0110】
また、含浸部分における炭素熱源中のNaCl含有量は、以下の式により算出した。
1mm当NaCl含有量=
(含浸後熱源乾燥重量−未含浸熱源乾燥重量)/ 熱源中NaCl含浸部長さ
【0111】
(2−6.1.3)延焼防止機能の評価方法
以下の方法によって、模擬喫煙評価を実施した。
・ 内径6mmの紙管に熱源を3mm挿し込み、ボルグワルド社製喫煙器にセットする
・ 電気ライターで熱源を8秒間加熱後、それぞれのサンプルについて表11に示した容量で吸引し着火する
・ 上記容量で吸引する操作を30秒間隔で繰り返す
・ NaCl含浸部位にて延焼の防止可否を目視で確認する
【0112】
(2−6.1.4)評価結果
上述した評価の結果を表11に示す。
【0114】
表11に示すように、本実施例においては、高濃度のNaClの含浸部において、NaClと可燃物(炭質材料及び有機バインダの和)の重量比を0.35以上、またはNaClと炭質材料の重量比を0.40以上とすることで、延焼防止剤の含有部において自律的に燃焼が停止し、十分な延焼防止機能を得られている。
【0115】
(2−6.2)低濃度の塩化ナトリウムによる火種落ち防止効果の検証
(2−6.2.1)試験サンプル
低濃度のNaCl含有による火種落ち防止効果の検証するため、押出成形により、表12に示す組成の炭素熱源20(全長15mm、外径6mm)の試験サンプルを作製した。
【0117】
(2−6.2.2)火種落ち防止機能の評価方法
以下の方法によって、模擬喫煙評価を実施した。
・ 作製した炭素熱源20を、外径6mmの紙管に3mm挿入し、評価サンプルとする
・ 炭素熱源20を着火し、燃焼中に任意のタイミングで、シガレットの灰を落とす要領で、評価サンプルを金属製灰皿に衝打する
・ 衝打時に炭素熱源20が非燃焼部で折れた場合は火種落ちが生じたと判定する
【0118】
(2−6.2.3)評価結果
各サンプルの評価結果は以下のとおりであった。
G:火種落ちが生じた。
H:火種落ちは生じなかった。
I:火種落ちは生じなかった。
J:火種落ちは生じなかった。使用中に可視煙が生じた。
K:火種落ちは生じなかった。使用中に可視煙が生じた。
【0119】
以上の結果より、炭素熱源20全体に低濃度のNaClを含有させることで火種落ちを防止可能であることが確認できた。
【0120】
なお、上述した試験条件においては、炭素熱源20におけるNaCl含有率を0.5wt%以上とすることで、十分な火種落ち防止効果を有することが確認できた。一方、NaCl含有率が3wt%以上の場合、使用中に可視煙が生じたことから、本試験に使用した炭素熱源20を無煙の香味吸引具の熱源として採用する際には、NaCl含有率は3wt%未満とすることが望ましい。
【0121】
(2−7)作用・効果
以上説明したように、炭素熱源20は、少なくとも一部にNaClを含み、第1部分21におけるNaClの炭素熱源20に対する含有率は、第2部分22におけるNaClの炭素熱源20に対する含有率よりも大きい。このため、第1部分21におけるNaClの延焼防止効果により、香味発生源40を内包したホルダ30との接触部分まで炭素熱源20の燃焼が進行してしまうことを防止し得る。また、第2実施形態によれば、炭素熱源20の着火端側において当該物質の濃度を薄く、ホルダ30側が濃くなるよう濃度勾配を実現できる。これにより、より精密に炭素熱源20が発する熱量を制御し得る。
【0122】
さらに、NaClは、炭素熱源20の火種落ちも防止にも効果を奏する。また、上述したように炭素熱源20以外の別部材を設ける必要がなく、製造コストの増大も抑制し得る。
【0123】
さらに、第1部分におけるNaClと可燃物との重量比は、0.35以上、第1部分におけるNaClと炭質材料との重量比は、0.40以上であることが好ましい。この場合、さらに十分な延焼防止効果が得られる。
【0124】
(2−8)その他の実施形態
上述したように、第2実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態が明らかとなろう。
【0125】
例えば、炭素熱源20の第1部分21及び第2部分22の形状は、次のように変更してもよい。
図8(a)〜(c)は、本発明の変更例に係る炭素熱源の軸線方向に沿った断面図である。
【0126】
図8(a)に示すように、NaCl(図中のドット部分)は、第1部分21の外周部分に配置されてもよい。また、
図8(b)に示すように、第1部分21は、ホルダ30の軸線方向に沿った断面において、香味発生源40(
図8(b)において不図示)に接近するに連れてNaCl(図中のドット部分)を含む領域が広くなるように構成されてもよい。なお、
図8(b)では、第1部分21のNaClを含まない部分が略三角形状だが、当該部分は、必ずしも三角形状でなくてもよく、例えば、ピラミッド状でもよい。
【0127】
さらに、
図8(c)に示すように、第1部分21及び第2部分22の両方は、ホルダ30の軸線方向に沿った断面において、香味発生源40に接近するに連れてNaClを含む領域が広くなるように構成されてもよい。
【0128】
また、上述した実施形態では、第1部分21の軸線AXにおける全体においてNaClが含まれる例について説明したが、第1部分21の少なくとも一部にNaClが含まれていればよく、例えば、ホルダ30によって保持されていない第1部分21にのみNaClを含むようにしてもよい。
【0129】
第2実施形態では、炭素熱源20においてNaClの含有領域を種々変更する例を示したが、炭素熱源20の軸線方向において、NaClを異なる濃度で含有させてもよい。(2−2)で述べた、低濃度のNaClを第2部分22に含む構成はその一例である。また、例えば、炭素熱源20の着火端側においてNaClの濃度を薄く、ホルダ30側が濃くなるよう濃度勾配を実現できる。これにより、より精密に炭素熱源20が発する熱量を制御し得る。
【0130】
また、好適なNaClの含有量(濃度)は、炭素熱源20の形状や組成(発熱量)によって異なるが、(2−3)または(2−4)に示した方法によって、延焼防止の効果或いは火種落ち防止の効果を奏し得るように、NaClを任意の含有量に設定することができる。
【0131】
第2実施形態では、炭素熱源20の外形は円柱状であったが、円柱状に限らず、直方体など、様々な形状も本発明に含まれることは勿論である。
【0132】
[第3実施形態]
(3−1)香味吸引具の全体概略構成
図9は、第3実施形態に係る香味吸引具10の全体概略構成図である。また、
図10は、香味吸引具10の軸線方向に沿った断面図である。
【0133】
図9及び
図10に示すように、香味吸引具10は、第1実施形態と同様に、細長い円柱状であり、炭素熱源20、ホルダ30及び香味発生源40を有する。香味吸引具10は、炭素熱源20から発生する熱によって、香味発生源40の燃焼や熱分解を伴うことなく香味発生源40を加熱する。
【0134】
炭素熱源20は、ホルダ30の軸線AX方向における端部30e(一端部)に設けられる。炭素熱源20は、ホルダ30の端部30eによって保持される。炭素熱源20は、少なくとも一部がホルダ30から突出した突出部分23を有する。
【0135】
突出部分23の長さは、例えば、8mm〜15mmとすることができる。このような構成により、ユーザは使用時において、炭素熱源20の燃焼状態を容易に視認することが可能となる。なお、炭素熱源20のより具体的な構成については、後述する。
【0136】
(3−2)炭素熱源の構成
次に、炭素熱源20の構成について具体的に説明する。炭素熱源20は、植物由来の炭質材料、不燃添加物、有機バインダ及び水を含む混合物を押出などの方法で成形することで得られる。
【0137】
炭素熱源20は、炭質材料、有機バインダ及び補強剤を含む。有機バインダとして、特にカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)を使用することが、香味の観点から好ましい。その他の有機バインダ、例えば、アルギン酸アンモニウムを用いた場合、炭素熱源20の燃焼に伴い生成する熱分解物が、香味を阻害する恐れがある。CMCのエーテル化度は、0.3以上に設定される。また、当該エーテル化度は、0.8未満であることが好ましい。
【0138】
補強剤は、炭素熱源20の燃焼温度において不燃性であり、かつ補強剤または炭素熱源20の燃焼温度以下で生成される少なくとも一つの熱分解物が、炭素熱源20の燃焼温度以下で融解する特性を有する。具体的には、補強剤は、炭素熱源20の燃焼温度である800℃〜1200℃において不燃性であり、無機物質または炭素熱源20の燃焼温度以下で生成する少なくとも一つの熱分解物が、炭素熱源20の燃焼温度以下で融解する特性を有する。
【0139】
補強剤は、上述の条件を満たす可溶性アルカリ金属塩または可溶性アルカリ土類金属塩の少なくとも一方からなることが好ましい。可溶性アルカリ金属塩または可溶性アルカリ土類金属塩としては、例えば、塩化物、炭酸塩または硫酸塩が挙げられる。
【0140】
より具体的には、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウムが挙げられ、好ましくは、塩化ナトリウム(NaCl)を好適に用い得る。なお、NaClを用いる場合、NaClの含有率は、炭素熱源20の重量に対して5wt%以下であることが好ましい。
【0141】
このように、炭素熱源20に低濃度の補強剤を含有させることによって、炭素熱源20の燃焼時において、灰皿への衝打などの衝撃によって炭素熱源20が非燃焼部から折れ、燃焼部を含む炭素熱源20が一部脱落すること(火種落ち)を防止できる。
【0142】
炭素熱源20の補強剤濃度は、着火性及びその他の燃焼特性を阻害しない範囲で十分な効果を得られる数値が選択される。例えば、NaClを用いる場合、具体的には、NaClは、炭素熱源20に多少なりとも含有されていればよい。より具体的には、NaClの炭素熱源20に対する質量パーセント濃度(NaCl濃度)は、5wt%以下とすることで、着火性を阻害することなく採用することができる。また、炭素熱源20の燃焼に伴う可視煙の発生を低減するためには、3wt%未満であることが好ましく、さらに好適には1wt%以下であることが好ましく、0.5wt%以下であることがより好ましい。NaClは、例えば、押出などの成形時において、炭質材料やバインダなどを混合する際に顆粒または溶液として加えることができる。
【0143】
上述したように、CMCをバインダとして用いる場合、CMCのエーテル化度は0.3以上に設定される。このようにすることで、補強剤を炭素熱源20に含有させた場合でも製造・使用に耐え得る強度を炭素熱源20に付与し得る。
【0144】
エーテル化度が低いCMCを用いると、成形乾燥後の強度が乏しく、製造・使用適性が著しく悪化してしまう恐れがある。また、例えば、エーテル化度が0.8未満のCMCを使用することによって、押出などの成形時に容易に成形することが可能となる。
【0145】
具体的には、CMCは、1〜10wt%含むことができ、1wt%〜8wt%含むことが、香味の観点からより好ましい。
【0146】
(3−3)炭素熱源のその他の特徴
次に、炭素熱源20のその他の特徴について説明する。
【0147】
(3−3.1)延焼防止機能
炭素熱源20は、軸線AX方向で異なる補強剤濃度としてもよい。例えば、炭素熱源20の他端部20b側における補強剤の炭素熱源20に対する含有率は、炭素熱源20の一端部20a側における補強剤の含有率よりも大きくしてもよく、より具体的には、炭素熱源20の一部、具体的には、他端部20b寄りにおいて、一端部20aを含む部分(突出部分)よりも高濃度の可溶性のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含有させてもよい。このような高濃度の可溶性のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含有する部分(第2部分)では、含有部において炭素熱源20の燃焼を自律的に停止せしめ、炭素熱源20のホルダへの延焼をより確実に防止しうる。
【0148】
具体的には、上述したような高濃度の可溶性のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含有する炭素熱源20の部分(第2部分)の少なくとも一部をホルダ30から露出させることによって、ホルダ30などに過剰に熱が供給される前に炭素熱源20の燃焼を停止させることができる。ホルダ30から露出させるべき高濃度の可溶性のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含有する炭素熱源20の部分の長さは、1mm〜5mm、より好ましくは1.5mm〜3mmである。
【0149】
炭素熱源20の他端部20b側に含有すべき可溶性のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩濃度は、炭素熱源20中の炭質材料配合率や空気流路構造等との関連から、十分な延焼防止機能を達成する数値が適宜選択される。例えば、NaClを用いる場合、NaClと可燃物(炭質材料及び有機バインダの和)の重量比を0.35以上、またはNaClと炭質材料の重量比を0.40以上となるようにNaClを含有させた部分をホルダ30より2mmから3mm程度露出させることで、十分な延焼防止機能を得ることができる。
【0150】
高濃度の可溶性のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含有する炭素熱源20の部分は、例えば、香味吸引具10に好適なサイズに作製した炭素熱源20の一方の端部を、可溶性のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含む水溶液に所定の深さまで含浸し、一定時間保持した後、乾燥することによって形成できる。炭素熱源20の他端部20bにおける可溶性のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩含有量は、可溶性のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩溶液濃度及び含浸時間によって任意に制御できる。例えば、NaClを用いる場合、含浸に用いるNaCl水溶液の濃度は15wt%〜26wt%であることが好ましい。
【0151】
また、炭素熱源20が円筒形状のように軸線AX方向に連通した開口部を有する場合、開口部に通気しながら可溶性のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液に含浸させることで、可溶性のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の含浸位置をさらに精度よく制御できる。
【0152】
(3−3.2)炭質材料
炭質材料は、加熱処理などによって揮発性の不純物を除去したものを用いることが望ましいが、これに限定されるものではない。炭質材料は、10wt%〜99wt%の範囲で含むことができ、30wt%〜70wt%であることが好ましく、40wt%〜50wt%とすることが、十分な熱量供給及び灰の飛散防止などの燃焼特性の観点から望ましい。
【0153】
(3−3.3)不燃添加物
不燃添加物としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ケイ素などからなる炭酸塩または酸化物を使用でき、40〜89wt%含むことができる。特に、炭酸カルシウムを炭素熱源20中に40wt%〜55wt%含むことが好ましい。
【0154】
(3−3.4)炭素熱源の形状
炭素熱源20の全長は、10mmから30mmの範囲が好ましく、13mmから20mmの範囲とすることがより好ましい。また、炭素熱源20の外径は、4mmから8mmの範囲が好ましく、5mmから7mmの範囲とすることがより好ましい。これにより、香味吸引具10の熱源として好適に用い得る。
【0155】
(3−4)実施例
次に、香味吸引具10を構成する炭素熱源20の実施例について説明する。
【0156】
(3−4.1)試験サンプル
低濃度の塩化ナトリウム(NaCl)による火種落ち防止効果の検証するため、押出成形により、表13に示す組成の炭素熱源20(全長15mm、外径6mm)の試験サンプルを作製した。
【0158】
(3−4.2)火種落ち防止機能の評価方法
以下の方法によって、模擬喫煙評価を実施した。
・ 作製した炭素熱源20を、外径6mmの紙管に3mm挿入し、評価サンプルとする
・ 炭素熱源20を着火し、燃焼中に任意のタイミングで、シガレットの灰を落とす要領で、評価サンプルを金属製灰皿に衝打する
・ 衝打時に炭素熱源20が非燃焼部で折れた場合は火種落ちが生じたと判定する
【0159】
(3−4.3)評価結果
各サンプルの評価結果は以下のとおりであった。
A:火種落ちが生じた。
B:火種落ちは生じなかった。
C:火種落ちは生じなかった。
D:火種落ちは生じなかった。使用中に可視煙が生じた。
E:火種落ちは生じなかった。使用中に可視煙が生じた。
【0160】
以上の結果より、炭素熱源20全体に低濃度のNaClを含有させることで火種落ちを防止可能であることが確認できた。
【0161】
なお、上述した試験条件においては、炭素熱源20におけるNaCl含有率を0.5wt%以上とすることで、十分な火種落ち防止効果を有することが確認できた。一方、NaCl含有率が3wt%以上の場合、使用中に可視煙が生じたことから、本試験に使用した炭素熱源20を無煙の香味吸引具の熱源として採用する際には、NaCl含有率は3wt%未満とすることが望ましい。
【0162】
(3−5)作用・効果
以上説明したように、炭素熱源20は、ホルダ30から突出した突出部分23を有する。このため、ユーザが炭素熱源20の燃焼状態を容易に視認できる。また、炭素熱源20は、補強剤及びカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)を含み、CMCのエーテル化度は、0.3以上である。このため、製造・使用に耐え得る強度を炭素熱源20に付与しつつ、香味吸引具10を灰皿などに一定以上の力で叩いても燃焼部分(火種)の落下を防止できる。
【0163】
上述したように、炭素熱源20に含まれるバインダは、香味の観点からCMCを用いることが望ましいが、補強剤を含む炭素熱源の製造において、エーテル化度が0.3未満のCMCを用いると、成形乾燥後の強度が乏しく、製造・使用適性が著しく悪化してしまう恐れがある。すなわち、本願の発明者は、炭素熱源20にNaCl及びCMCを含ませ、かつCMCのエーテル化度を0.3以上とすることによって、製造・使用に耐え得る炭素熱源20の強度を確保しつつ、さらに火種落ちを効果的に防止できるとの知見を得たのである。
【0164】
また、CMCのエーテル化度は、0.3〜0.8の範囲とすることによって、炭素熱源20の非燃焼時における強度の担保と、成形の容易性を両立し得る。さらに、香味吸引具10の軸線AX方向において、補強剤、特に可溶性のアルカリ金属塩または可溶性のアルカリ土類金属塩に濃度勾配を付与することによって炭素熱源20のホルダへの延焼防止効果も奏することができる。
【0165】
(3−6)その他の実施形態
上述したように、第3実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態が明らかとなろう。
【0166】
例えば、第3実施形態では、炭素熱源20の軸線AX方向で異なる補強剤濃度としてもよいとし、例えば、炭素熱源20の一部、具体的には、他端部20b寄り(第2部分)において、一端部20aを含む部分(突出部分)よりも高濃度の補強剤を含有させてもよいとしたが、このような構成は、上述した本発明の効果を奏する上で必須ではない。
【0167】
このように、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態などを含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は、上述の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【0168】
なお、日本国特許出願第2012−104143号(2012年4月27日出願)、日本国特許出願第2012−104148号(2012年4月27日出願)、日本国特許出願第2012−106201号(2012年5月7日出願)の全内容が、参照により、本願明細書に組み込まれている。