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特許5816602ピストンの組み付け方法及び組み付け装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5816602
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月18日
(54)【発明の名称】ピストンの組み付け方法及び組み付け装置
(51)【国際特許分類】
   B23P 21/00 20060101AFI20151029BHJP
【FI】
   B23P21/00 303C
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-253045(P2012-253045)
(22)【出願日】2012年11月19日
(65)【公開番号】特開2014-100748(P2014-100748A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2014年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127801
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 慎也
(74)【代理人】
【識別番号】100108589
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 利光
(72)【発明者】
【氏名】後藤 博
(72)【発明者】
【氏名】神林 聡
【審査官】 谷治 和文
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4213096(JP,B2)
【文献】 特開2008−049477(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0163407(US,A1)
【文献】 特開昭64−016334(JP,A)
【文献】 実開平04−092729(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトを組み付けたシリンダブロックのシリンダボアに、コンロッドを組み付けたピストンを挿入し前記コンロッドにコンロッドキャップを締結して、前記ピストンを前記クランクシャフトに連結するピストンの組付け方法であって、
前記シリンダボアに、該シリンダボアのクランク室側開口から、前記コンロッドとピストンの揺動を規制するガイドロッドを定位置まで挿入する工程と、
前記ガイドロッドを定位置に保持した状態で、前記シリンダボアのシリンダヘッド組付側開口から、前記ピストンを前記コンロッドが先になるように挿入し、前記コンロッドの挿入方向先端に位置する半円弧状端部の貫通孔を前記ガイドロッドに挿通させ、前記コンロッドの半円弧状端部が前記クランクシャフトのクランクピンに着座するまで、前記ピストンを前記ガイドロッドに倣わせながら前記シリンダボアに押し込む工程と、
前記ガイドロッドを前記シリンダボア内から退避させる工程と、
前記コンロッドの半円弧状端部に前記コンロッドキャップを締結する工程と、
を有することを特徴とするピストンの組み付け方法。
【請求項2】
前記押し込み工程において、前記ピストンを鉛直方向に対し斜めの方向からシリンダボアに押し込むことを特徴とする請求項1に記載のピストンの組み付け方法。
【請求項3】
前記押し込み工程において、前記シリンダブロックに前記ピストンの裏側に向けてオイルを噴射するオイルジェットが予め組み付けられ、該オイルジェットが前記シリンダボア内に挿入される前記コンロッドに対して干渉する場合に、
前記シリンダボア内に挿入した前記ガイドロッドを移動させることで、前記コンロッドを前記オイルジェットに対して干渉する位置から非干渉の位置に退避させて、その状態で前記ピストンを所定位置まで押し込み、
その後、前記ガイドロッドを元の位置に戻して、前記ピストンの押し込みを続けることを特徴とする請求項1または2に記載のピストンの組み付け方法。
【請求項4】
前記ピストンの組み付けをシリンダブロックの複数のシリンダボアに対して同時に行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のピストンの組み付け方法。
【請求項5】
クランクシャフトを組み付けたシリンダブロックのシリンダボアに、コンロッドを組み付けたピストンを挿入し前記コンロッドにコンロッドキャップを締結して、前記ピストンを前記クランクシャフトに連結するピストンの組付装置であって、
前記シリンダブロックを所定位置に位置決めするシリンダブロック位置決め手段と、
前記コンロッドの半円弧状端部に形成された貫通孔に挿通することで前記コンロッドとピストンの揺動を規制するガイドロッドと、
前記シリンダボアの内部に、該シリンダボアのクランク室側開口から、前記ガイドロッドを挿脱するガイドロッド駆動手段と、
前記シリンダボアのシリンダヘッド組付側開口から、前記ピストンを前記コンロッドが先になるように挿入し、前記コンロッドの半円弧状端部の貫通孔を前記ガイドロッドに挿通させて、前記ピストンを前記ガイドロッドに倣わせながらシリンダボアに押し込むピストン押し込み手段と、
前記クランクシャフトのクランクピンに着座する前記コンロッドの半円弧状端部に前記コンロッドキャップを締結するコンロッドキャップ締結手段と、
を有することを特徴とするピストンの組み付け装置。
【請求項6】
上端面から前記ガイドロッドが突設されるガイド本体を有するガイド部材は、前記ガイドロッドが定位置に位置するとき、前記クランクピンに嵌着する半円弧状の嵌着部を有し、
前記コンロッドの半円弧状端部を、前記クランクシャフトのクランクピンに着座させたとき、前記ガイド本体の上端面と、前記半円弧状端部の端面との間には、クリアランスが確保されることを特徴とする請求項5に記載のピストンの組み付け装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダブロックのシリンダボアにコンロッド付きピストンを挿入して、ピストンをシリンダブロック下部のクランクシャフトに連結するピストンの組み付け方法及び組み付け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコンロッドとして、コンロッドの半円弧状端部とそれに結合するコンロッドキャップとを一体に成形し、クランクピンに嵌着する大端部穴加工を施した後に、コンロッドの半円弧状端部とコンロッドキャップとの2つにクラッキングして破断分離した、かち割り型のコンロッドと呼ばれるものが知られている。
【0003】
この場合、コンロッドの半円弧状端部とコンロッドキャップの接合面は微小な凹凸のある破断面として形成されるので、両者を良好な接続状態で結合させることができ、コンロッドの品質を向上することができる。また、かち割り型の半円弧状端部とコンロッドキャップは、1回のかち割りで同時に製作できるので、コンロッドの製作コストの低減も図ることができる。
【0004】
しかし、コンロッド付きピストンをシリンダブロックのシリンダボアに挿入する過程において、半円弧状端部の破断面が損傷(凹凸の微小な凸部が潰れるなど)すると、後に結合されるコンロッドキャップと正確に合致しなくなる不具合が発生するおそれがある。従って、かち割り型のコンロッドを使用する場合は、半円弧状端部のかち割り破断面にいずれの部品も接触しないようにしてピストンを挿入することが必要となる。
【0005】
そのような挿入方法の従来例として、特許文献1に記載の方法が知られている。この方法は、シリンダブロックのシリンダボアの内部に、コンロッド付きピストンを挿入するのに先だって2本のコンロッドガイドを挿入し、それらコンロッドガイドにコンロッドの半円弧状端部の両端部の穴を、半円弧状端部の端面(かち割り破断面)にコンロッドガイドが接触ないようにして挿通させ、ピストンを押し込む治具(ピストン押え)とコンロッドガイドとを同期をとりながら下降させて、ピストンをシリンダボアに押し込み、コンロッドの半円弧状端部をクランクシャフトのクランクピンに嵌着させる、というものである。このように、コンロッドガイドを用いることで、ピストンがシリンダボアに挿入される間、コンロッドの揺動(首振りや回転など)を規制し、半円弧状端部の嵌着面が傷付いたり、軸受メタルが損傷する等の不具合の発生を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4213096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載のピストンの挿入方法では、ピストンを押し込む治具とコンロッドガイドとを機械的に同期させながら移動させる必要があるため、自動挿入を行う場合には、移動機構や移動制御が複雑化し、コストが嵩む問題がある。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な手段で、コンロッドの半円弧状端部の端面を高品質な状態に保ちながら、迅速にピストンをシリンダブロックに組み付けることのできる、ピストンの組み付け方法及び組み付け装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、
クランクシャフト(例えば、後述の実施形態におけるクランクシャフト20)を組み付けたシリンダブロック(例えば、後述の実施形態におけるシリンダブロック10)のシリンダボア(例えば、後述の実施形態におけるシリンダボア11)に、コンロッド(例えば、後述の実施形態におけるコンロッド40)を組み付けたピストン(例えば、後述の実施形態におけるピストン30)を挿入し前記コンロッドにコンロッドキャップ(例えば、後述の実施形態におけるコンロッドキャップ47)を締結して、前記ピストンを前記クランクシャフトに連結するピストンの組付け方法であって、
前記シリンダボアに、該シリンダボアのクランク室側開口(例えば、後述の実施形態におけるクランク室側開口11b)から、前記コンロッドとピストンの揺動を規制するガイドロッド(例えば、後述の実施形態におけるガイドロッド125)を定位置まで挿入する工程と、
前記ガイドロッドを定位置に保持した状態で、前記シリンダボアのシリンダヘッド組付側開口(例えば、後述の実施形態におけるシリンダヘッド組付側開口11a)から、前記ピストンを前記コンロッドが先になるように挿入し、前記コンロッドの挿入方向先端に位置する半円弧状端部(例えば、後述の実施形態における半円弧状端部42)の貫通孔(例えば、後述の実施形態における雌ねじ孔45)を前記ガイドロッドに挿通させ、前記コンロッドの半円弧状端部が前記クランクシャフトのクランクピン(例えば、後述の実施形態におけるクランクピン25)に着座するまで、前記ピストンを前記ガイドロッドに倣わせながら前記シリンダボアに押し込む工程と、
前記ガイドロッドを前記シリンダボア内から退避させる工程と、
前記コンロッドの半円弧状端部に前記コンロッドキャップを締結する工程と、
を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の構成において、
前記押し込み工程において、前記ピストンを鉛直方向に対し斜めの方向からシリンダボアに押し込むことを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または2の構成において、
前記押し込み工程において、前記シリンダブロックに前記ピストンの裏側に向けてオイルを噴射するオイルジェット(例えば、後述の実施形態におけるオイルジェット50)が予め組み付けられ、該オイルジェットが前記シリンダボア内に挿入される前記コンロッドに対して干渉する場合に、
前記シリンダボア内に挿入した前記ガイドロッドを移動させることで、前記コンロッドを前記オイルジェットに対して干渉する位置から非干渉の位置に退避させて、その状態で前記ピストンを所定位置まで押し込み、
その後、前記ガイドロッドを元の位置に戻して、前記ピストンの押し込みを続けることを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかの構成において、
前記ピストンの組み付けをシリンダブロックの複数のシリンダボアに対して同時に行うことを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明は、
クランクシャフト(例えば、後述の実施形態におけるクランクシャフト20)を組み付けたシリンダブロック(例えば、後述の実施形態におけるシリンダブロック10)のシリンダボア(例えば、後述の実施形態におけるシリンダボア11)に、コンロッド(例えば、後述の実施形態におけるコンロッド40)を組み付けたピストン(例えば、後述の実施形態におけるピストン30)を挿入し前記コンロッドにコンロッドキャップ(例えば、後述の実施形態におけるコンロッドキャップ47)を締結して、前記ピストンを前記クランクシャフトに連結するピストンの組付装置であって、
前記シリンダブロックを所定位置に位置決めするシリンダブロック位置決め手段(例えば、後述の実施形態におけるシリンダブロック位置決め手段110)と、
前記コンロッドの半円弧状端部(例えば、後述の実施形態における半円弧状端部42)に形成された貫通孔(例えば、後述の実施形態における雌ねじ孔45)に挿通することで前記コンロッドとピストンの揺動を規制するガイドロッド(例えば、後述の実施形態におけるガイドロッド125)と、
前記シリンダボアの内部に、該シリンダボアのクランク室側開口(例えば、後述の実施形態におけるクランク室側開口11b)から、前記ガイドロッドを挿脱するガイドロッド駆動手段(例えば、後述の実施形態におけるガイドロッド駆動手段126)と、
前記シリンダボアのシリンダヘッド組付側開口(例えば、後述の実施形態におけるシリンダヘッド組付側開口11a)から、前記ピストンを前記コンロッドが先になるように挿入し、前記コンロッドの半円弧状端部の貫通孔を前記ガイドロッドに挿通させて、前記ピストンを前記ガイドロッドに倣わせながらシリンダボアに押し込むピストン押し込み手段(例えば、後述の実施形態におけるピストン押し込み手段140)と、
前記クランクシャフトのクランクピン(例えば、後述の実施形態におけるクランクピン25)に着座する前記コンロッドの半円弧状端部に前記コンロッドキャップを締結するコンロッドキャップ締結手段(例えば、後述の実施形態におけるコンロッドキャップ締結手段150)と、
を有することを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明は、請求項5の構成において、
上端面から前記ガイドロッドが突設されるガイド本体(例えば、後述の実施形態におけるガイド本体121)を有するガイド部材(例えば、後述の実施形態における120)は、前記ガイドロッドが定位置に位置するとき、前記クランクピンに嵌着する半円弧状の嵌着部(例えば、後述の実施形態における嵌着部122)を有し、
前記コンロッドの半円弧状端部を、前記クランクシャフトのクランクピンに着座させたとき、前記ガイド本体の上端面と、前記半円弧状端部の端面との間には、クリアランスが確保されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1及び請求項5の発明によれば、シリンダボア内の定位置に保持したガイドロッドに案内されて、コンロッド及びピストンをシリンダボア内に挿入するので、ピストンの挿入中にガイドロッドを定位置に保持しておけばよく、従来のように、ピストンの押し込み動作に同期させてガイドロッドを移動させる必要がない。従って、同期をとるための機能が不要であることから、簡単な手段を用いるだけで、ピストンの組み付けができる。また、ガイドロッドの案内によりコンロッドを安定姿勢でシリンダボア内に挿入できるので、コンロッドの半円弧状端部の端面やシリンダボアの内壁などに傷を付けることなく、高品質な状態を保ちながらピストンの組み付けを行なうことができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、斜めのシリンダボアに対してピストンを挿入することができるので、V型エンジンの組立に適用することができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、オイルジェットが予めシリンダブロックに組み付けられていて、オイルジェットが、ピストンをシリンダボアに挿入するときにコンロッドと干渉する可能性のある場合であっても、コンロッドをクランクシャフトの軸方向にシフトさせることで、オイルジェットとの干渉を回避しながら、コンロッドをシリンダボアに挿入することができる。従って、オイルジェットの設置に関してエンジン設計の自由度を確保しながら、高品質なコンロッド付きピストンの組み付けが行える。
【0018】
請求項4の発明によれば、クランクシャフトの割り出しによって、クランクピンが同じ位置になるシリンダボアに対して同時にピストンを挿入することができ、直列4気筒やV型6気筒エンジンの組立工程の高効率化を進めることができる。
【0019】
請求項6の発明によれば、コンロッドの半円弧状端部をクランクピンに着座させたときに、半円弧状端部の端面とガイドロッドを有するガイド部材の端面との間にクリアランスが確保されるので、半円弧状端部の端面を傷が付かないように保護することができ、かち割り型のコンロッドを使用する場合に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態のピストンの組み付け方法と組み付け装置の説明するための図である。
図2】上記組み付け方法において、上死点に割り出したクランクピンにコンロッドガイドを装着して、コンロッドガイドに突設した2本のガイドロッドをシリンダボアに挿入した状態を示す断面図である。
図3図2の状態の次に、コンロッド付きピストンをシリンダボアに挿入する直前の状態を示す断面図である。
図4図3の状態の次に、ガイドロッドにコンロッドの半円弧状端部の雌ねじ孔を挿通させ、ガイドロッドに案内されて、オイルジェットとの干渉を避けながら、ピストンを押し込んでいる状態を示す断面図である。
図5図4の状態の次に、ピストンを更にシリンダボア内に押し込んで、コンロッドの半円弧状端部をクランクピンに着座させた状態を示す断面図である。
図6図5の状態の次に、コンロッドガイドを引き抜き、ガイドロッドをシリンダボアから退避させた状態を示す断面図である。
図7図6の状態の次に、コンロッドの半円弧状端部を嵌着したクランクピンを上死点から下死点に割り出し、コンロッドの半円弧状端部にコンロッドキャップを結合させた状態を示す断面図である。
図8】V型エンジンの2つのピストンを同時にシリンダボアに挿入する際に本発明の実施形態の組み付け方法が好適に適用できることを示す説明図である。
図9】V型6気筒エンジンの6つのシリンダ(♯1〜♯6)のうち、同時にピストンの組み付けを行うことのできる、上死点が同位相となるシリンダの組を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は実施形態のピストンの組み付け方法と組み付け装置の説明図、図2図7はコンロッド付きピストンの組み付け手順を示す図である。また、図8及び図9は、本発明の適用対象のV型6気筒エンジンの例を示す図である。
【0022】
まず、本実施形態のピストンの組み付け方法と組み付け装置を説明する前に、本実施形態の組み立ての対象となるエンジンについて簡単に説明する。
図8及び図9に示すエンジンは、V型6気筒エンジンであり、1つのシリンダブロック10に、60°のバンク角で2列に配列された6つのシリンダ(シリンダボア11)♯1〜♯6を有している。6つのシリンダに挿入されるピストン30は、2つを1組として同位相で動作するように設定され、2つを1組とする3組のピストンは、クランクシャフトの回転角で120°の位相差で動作するようになっている。
【0023】
図9に示すように、一方のバンクのN1列の♯1、♯2、♯3の3つのシリンダと、他方のバンクのN2列の♯4、♯5、♯6の3つのシリンダのうち、それぞれ別バンクの♯1と♯5が同位相、♯2と♯6が同位相、♯3と♯4が同位相の組とされており、同位相の2つのシリンダは、クランクシャフトの回転角でバンク角に相当する60°だけ離間している。従って、図1に示すように、同位相で動作するピストン30に対応するクランクシャフト20のクランクピン25は、クランクシャフト20の回転軸線の周りに60°の間隔をもって配置されている。
【0024】
なお、図1では、同位相の2つのシリンダのうち、一方のバンクのボア中心線L1上のシリンダボア11にピストン30を挿入するものとして説明する。
【0025】
図1中、符号10はシリンダブロックを示し、シリンダブロック10の下部にクランクシャフト20を具備している。クランクシャフト20は、その回転軸線Oに対し一定の距離だけ偏心した位置にクランクピン25を有するもので、ここでは、6つのピストン30に対応する6つのクランクピン25が、クランクシャフト20の回転軸線Oを中心とする同一円周上に60°間隔で設けられている。
【0026】
図1中、二点鎖線で示すクランクピン25は、同位相で動作するピストン用のもので、実線で示すクランクピン25と60°離間した位置にあり、各クランクピン25が各シリンダボア11に対し上死点に位置している状態を示している。なお、クランクシャフト20には、バランスウエイト23が設けられている。
【0027】
ピストン30は、外周にピストンリング(図示省略)を備え、内部に挿入したコンロッド40の上端部(小端部)41が、ピストンピン31により回転自在に連結されている。
【0028】
コンロッド40の下端部(大端部)には、かち割り型の半円弧状端部42が設けられている。この半円弧状端部42は、製作段階でコンロッドキャップ47と一体に成形されて、クランクピン25に嵌着する大端部穴加工が施された後に、コンロッドキャップ47とクラッキングして破断分離されたもので、端面44が微小な凹凸を有する破断面とされている。なお、穴加工された半円弧状端部42の内周面43と、コンロッドキャップ47の内周面49には、半円弧板の軸受メタルが嵌着されている。
【0029】
また、コンロッド40の半円弧状端部42の両端部には、コンロッドキャップ47との結合用のボルト48を締め込むための雌ねじ孔(貫通孔)45が形成されている。
【0030】
また、シリンダブロック10のシリンダボア11に臨む内壁部には、ピストン30を組み付ける段階より前に、ピストンの裏側(クランク室15側に臨む部分)に向けてオイルを噴射してピストン30を冷却するオイルジェット50が設置されている。このオイルジェット50は、隣接するシリンダボア11内を摺動する2つのピストン30に共通の部品として設けられており、ピストン30をシリンダボア11に挿入するときにコンロッド40と僅かに干渉する可能性のある位置に配置されている。従って、ピストン30を挿入する際に、コンロッド40をピストンピン31の軸方向に僅かに移動させることにより、干渉を回避する必要がある。
【0031】
次にコンロッド40付きピストン30の組み立て装置について説明する。
この組み立て装置は、シリンダブロック10を搬送するシリンダブロック搬送手段100と、シリンダブロック10を所定位置に位置決めするシリンダブロック位置決め手段110と、コンロッド40の半円弧状端部42に形成された雌ねじ孔45に挿通することでコンロッド40とピストン30の揺動を規制する2本のガイドロッド125を備えたコンロッドガイド120と、シリンダボア11の内部に、シリンダボア11のクランク室15側の開口11aから、ガイドロッド125を備えたコンロッドガイド120を挿脱するガイドロッド駆動手段126と、シリンダボア11のシリンダヘッド取付側に装着されて、シリンダボア11へのピストン30の挿入をガイドするスライド治具130と、シリンダボア11のシリンダヘッド組付側開口11aから、ピストン30をコンロッド40が先になるように挿入し、コンロッド40の半円弧状端部42の貫通孔45をガイドロッド125に挿通させて、ピストン30をガイドロッド125に倣わせながらシリンダボア11に押し込むピストン押し込み手段140と、クランクシャフト20のクランクピン25に着座するコンロッド40の半円弧状端部42にコンロッドキャップ47をボルト48を用いて締結する締結ソケット151を備えたコンロッドキャップ締結手段150と、を備えている。
なお、コンロッドガイド120、ガイドロッド駆動手段126、及びコンロッドキャップ締結手段150は、不図示のフレームによってユニット化され、コンロッドガイド120とコンロッドキャップ締結手段150とが、所定位置に位置決めされるシリンダブロック10と対向する位置に移動可能に構成されてもよい。
【0032】
スライド治具130は、シリンダボア11に連通するテーパ孔131を有しており、その中にピストン30を挿入してシリンダボア11に向けて押し込むことで、ピストンリングを徐々に縮径させてシリンダボア11に案内する役目を果たす。
【0033】
また、コンロッドガイド120は、ガイド本体121の上端面123の両端に互いに平行に2本のガイドロッド125を突設したもので、ガイド本体121の上端面123の中央部に、クランクピン25に嵌着する半円弧状の嵌着部122を有している。また、各ガイドロッド125の先端は、コンロッド40の雌ねじ孔45を挿通させやすいように円錐形状に形成されている。
【0034】
このコンロッドガイド120の2本のガイドロッド125にコンロッド40の半円弧状端部42の2つの雌ねじ孔45をそれぞれ挿通させることにより、ピストン30をシリンダボア11に挿入する際のコンロッド40のXY平面方向(ボア中心軸線L1に直交する平面)内での位置を規制することができる。
【0035】
なお、ガイドロッド125の直径は雌ねじ孔45の山径より僅かに小さく設定されており、コンロッド40の半円弧状端部42に対するガイド性を良くすることができる。また、ガイドロッド125の外周と雌ねじ孔45の内周との間にわずかに摩擦を発生させながら、コンロッド40及びピストン30の挿入をガイドさせることができる。また、ガイドロッド125はすべり摩擦を受けるため、摩擦面の硬度及び面粗度を良好にする目的で、コンロッドガイド120にメッキ処理を施しておくのが好ましい。
【0036】
次にコンロッド40付きピストン30の組み立て方法について説明する。
まず、シリンダブロック位置決め手段110によりシリンダブロック10を位置決め固定する。また、スライド治具130をシリンダブロック10に装着する。なお、シリンダブロック10には予め、クランクシャフト20とオイルジェット50が取り付けられているものとする。
【0037】
次に図2に示すように、クランクシャフト20を回転させて、ピストン30の挿入対象となるシリンダボア11に対し、嵌着対象のクランクピン25が上死点に位置するように割り出す。
【0038】
そして、その状態で、ガイドロッド駆動手段126によりコンロッドガイド120を矢印Aのように上昇させ、シリンダボア11に、シリンダボア11のクランク室側開口11bからガイドロッド125を挿入し、コンロッドガイド120の嵌着部122をクランクピン25に係合させることで、ガイドロッド125を定位置に保持する。
なお、ここでは、コンロッドガイド120の嵌着部122をクランクピン25に係合させることで、ガイドロッド125を定位置に保持しているが、ガイドロッド駆動手段126によって設定されたコンロッドガイド上昇端までガイドロッド125を移動させることで、ガイドロッド125を定位置に保持してもよい。その場合、コンロッドガイド120は、クランクピン25と干渉しない形状とすることで、嵌着部122を設ける必要はない。
【0039】
次に図3に示すように、ピストン押し込み手段140(図1参照)による矢印Bで示す押し込み操作により、コンロッド40の半円弧状端部42をスライド治具130に通し、コンロッド40の半円弧状端部42の雌ねじ孔45をガイドロッド125に挿通させる。そして、ピストン30をガイドロッド125に倣わせながらシリンダボア11に押し込む。この際、スライド治具130の案内作用により、ピストン30がシリンダボア11の中にスムーズに押し込まれる。
【0040】
このピストン30の押し込みの際に、図4に示すように、コンロッド40がオイルジェット50に干渉する可能性がある場合には、シリンダボア11内に挿入したガイドロッド125を、ピストンピン31の軸方向(クランクシャフト20の軸方向)に若干移動させることで、コンロッド40をオイルジェット50に対して干渉する位置から非干渉の位置に退避させて、その状態でピストン30を所定位置まで押し込み、その後、ガイドロッド125を元の位置に戻して、ピストン30の押し込みを続ける。
【0041】
そして、ピストン30をガイドロッド125に倣わせながら更にシリンダボア11の中に押し込むことにより、図5に示すように、コンロッド40の挿入方向先端の半円弧状端部42を、クランクシャフト20のクランクピン25に着座させる。このとき、コンロッドガイド120のガイド本体121の上端面123と、コンロッド40の半円弧状端部42の端面44(かち割り破断面)との間には、クリアランスが確保されるようになっている。
【0042】
このようにピストン30の押し込みが完了したら、図6に示すように、ガイドロッド駆動手段126(図1参照)により、矢印Cで示すようにガイドロッド125をシリンダボア11内から退避させる。
【0043】
次に図7に示すように、クランクシャフト20を矢印Dのように回転させて、クランクピン25を下死点に割り出す。その際、ピストン30及びコンロッド40も矢印Eで示すように同期下降させる。そして、クランクピン25を下死点に位置決めしたら、コンロッドキャップ締結手段150(図1参照)によりコンロッド40の半円弧状端部42にコンロッドキャップ47をボルト48で締結する。以上により、ピストン30の組み付けを完了する。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の組み付け方法によれば、シリンダボア11内の定位置に保持したガイドロッド125に案内されて、コンロッド40及びピストン30をシリンダボア11内に挿入するので、ピストン30の挿入中にガイドロッド125を定位置に保持しておけばよく、従来のように、ピストン30の押し込み動作に同期させてガイドロッド125を移動させる必要がない。従って、同期をとるための機能が不要であることから、簡単な手段を用いるだけで、ピストン30の組み付けができる。また、ガイドロッド125の案内によりコンロッド40を安定姿勢でシリンダボア11内に挿入できるので、コンロッド40の半円弧状端部42の端面44やシリンダボア11の内壁などに傷を付けることなく、高品質な状態を保ちながらピストン30の組み付けを行なうことができる。
【0045】
また、先に組み付けられているオイルジェット50が、ピストン30をシリンダボア11に挿入するときにコンロッド40と干渉する可能性のある場合であっても、コンロッド40をクランクシャフト20の軸方向にシフトさせることで、オイルジェット50との干渉を回避しながら、コンロッド40をシリンダボア11に挿入することができるので、オイルジェット50の設置に関してエンジン設計の自由度を確保しながら、高品質なコンロッド40付きピストン30の組み付けが行える。
【0046】
加えて、コンロッド40をクランクシャフト20の軸方向にシフトさせる動作は、図4に示すように、コンロッド40の半円弧状端部42の雌ねじ孔45がガイドロッド125にある程度挿通された状態で行われることから、ガイドロッド125の根元部分から雌ねじ孔45までの距離は比較的短くなる。したがって、シフト動作時にガイドロッド125に作用する荷重が小さくてすむようになり、ガイドロッド125を薄肉で作成することができる。
【0047】
さらに、コンロッド40の半円弧状端部42をクランクピン25に着座させたときに、半円弧状端部42の端面44とガイドロッド125を有するコンロッドガイド120のガイド本体121の上端面123との間にクリアランスが確保されるようにしておけば、半円弧状端部42の端面44を傷が付かないように保護することができるので、かち割り型のコンロッド40を使用する場合に好適である。
【0048】
また、図1図7では、コンロッド40付きピストン30を上から下に向けてシリンダボア11に挿入する場合を例にとって述べたが、図8に示すように、シリンダブロック10を上下逆に保持し、鉛直方向の斜め下方から斜め上方に向けてシリンダボア11にコンロッド40付きピストン30を挿入するようにすることもできる。その場合、クランクシャフト20の割り出しによって、クランクピン25が同じ位置になるシリンダボア11に対して、同時にそれぞれピストン30を挿入することができるので、V型エンジンの組立工程の合理化を進めることができる。
【0049】
具体的に、V型6気筒エンジンは、図9に示すように、同位相となる2つのシリンダの組、即ち♯1と♯5の組、♯2と♯6の組、♯3と♯4の組について、同時にピストン30の組み付けを行うことができる。これにより、3つのステーションを設けて、それぞれのシリンダの組について、順次ピストン30の組み付けを行うことで、全ピストンの組み付けを完了することができ、組立ラインの高効率化を進めることができる。
【0050】
勿論、シリンダボア11のシリンダヘッド組付側開口11aを上にして、クランクピン25が同じ位置になるシリンダボア11に対して、鉛直方向の斜め上方から斜め下方に向けてシリンダボア11にコンロッド40付きピストン30を挿入するようにしてもよい。
また、180°おきに2気筒同時に上死点が現れる直列4気筒エンジンにおいても、2気筒ずつのクランクピン25が同じ位置になるシリンダボアに対して、同時にピストンを挿入することができる。
【0051】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 シリンダブロック
11 シリンダボア
11a シリンダヘッド組付側開口
11b クランク室側開口
20 クランクシャフト
25 クランクピン
30 ピストン
40 コンロッド
42 半円弧状端部
45 雌ねじ孔(貫通孔)
47 コンロッドキャップ
50 オイルジェット
110 シリンダブロック位置決め手段
125 ガイドロッド
126 ガイドロッド駆動手段
140 ピストン押し込み手段
150 コンロッドキャップ締結手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9