(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5816606
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月18日
(54)【発明の名称】被成膜品を載置するステージに特徴を有する成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/50 20060101AFI20151029BHJP
【FI】
C23C14/50 K
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-263942(P2012-263942)
(22)【出願日】2012年12月3日
(65)【公開番号】特開2014-109058(P2014-109058A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2014年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】中田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正史
【審査官】
安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】
実開平01−106562(JP,U)
【文献】
特開昭62−070568(JP,A)
【文献】
実開平01−168551(JP,U)
【文献】
特開平05−295540(JP,A)
【文献】
特開昭62−149870(JP,A)
【文献】
特開2013−136475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバの底部に回転体が設けられ、該回転体の上に被成膜品が載置されるステージが設けられている成膜装置であって、
前記回転体は所定の駆動機構によって鉛直の回転軸周りに回転されるようになっていると共にその上部が前記回転軸に対して所定の角度で傾斜した傾斜部になっており、
前記ステージは前記傾斜部に摺動自在に設けられ、そして前記チャンバ内の固定部材に所定の揺動機構を介して係合されて回転が規制されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置において、前記傾斜部の前記回転軸に対する角度は調整可能になっていることを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成膜装置において、前記揺動機構は、前記固定部材に固定的に設けられている第1のピンと、前記ステージに固定的に設けられている第2のピンと、連結バーとからなり、前記連結バーの一方の端部は前記第1のピンに、他方の端部は前記第2のピンにそれぞれ回動自在に接続されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの項に記載の成膜装置において、前記傾斜部と前記ステージはベアリングを介して接続されていることを特徴とする成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等の物理的蒸着法により薄膜を形成する成膜装置に関するものであり、被成膜品を載置するステージに特徴を有する成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品の表面に数百nm〜数μmオーダの薄膜が成膜されている成形品として、例えば車両に装備されているドアレバーやランプ、あるいは化粧品容器や家具の装飾部品等を挙げることがきる。このような成膜された成形品は、軽量であり、金属光沢によって高級感を感じさせるので適用分野が増えている。
【0003】
被成膜品は、従来周知のように射出成形によって得られ、これに成膜する成膜方法も周知であるが、色々な方法がある。例えば成膜しようとする被成膜品をステージに載せてステンレス、アルミニウム等のターゲットに対向させておき、数Pa〜数十Pa程度のアルゴンガス雰囲気中でターゲットには数kVの負の電圧を、ステージには正の電圧を印加して、放電によってプラズマを発生させてアルゴン正イオンをターゲットにスパッタリングさせ、ターゲットから飛び出したターゲット分子によって薄膜を形成するスパッタリング方法が知られている。この他に、真空容器の中に基板と蒸発源とを収納して成膜する真空成膜法、基板に数kVの負の電圧を印加し数Paのアルゴンガスの圧力下で真空成膜をするイオンプレーティング方法等も知られており、これらはいずれも物理的蒸着法と言うことができる。
【0004】
このような成膜方法は、チャンバを備えた成膜装置で実施する。ターゲットから飛び出すターゲット分子は直線状に飛ぶので、凹凸のある被成膜品の場合、ターゲットから陰になる部分についてはターゲット分子が到達できない。実際にはチャンバ内にわずかな気体分子が残存していて、所定の割合のターゲット分子はこれらに散乱されるので、ターゲットから陰になる部分についてもある程度ターゲット分子は到達して成膜はされる。しかしながら成膜は不十分になって、ムラが生じてしまう。そこで、凹凸のある被成膜品であってもムラ無く成膜できる成膜装置が色々提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−121237号公報
【特許文献2】特開2006−104514号公報
【0006】
特許文献1には、半導体ウエハを製造するための成膜装置が記載されている。この成膜装置は、第1、2のモータによって被成膜品を載置するステージが駆動されるようになっている。詳しく説明すると第2のモータはチャンバの底面中央部に設けられ、その回転軸はチャンバの底面に対して垂直に立っている。そして円柱状の支持具がこの回転軸に固定され回転されるようになっている。このような支持具の先端部には、支持具に対して所定の角度で支持部が固定されており、この支持部に第1のモータが埋め込まれている。そして第1のモータの回転軸に、被成膜品を載置する基板ホルダつまりステージが設けられている。このような機構によって、ステージは水平面に対して所定の角度で傾いた状態で第1のモータによって回転されるようになっており、さらに第2のモータによって回転されるようになっている。従ってステージは回転軸が首振りするいわゆる歳差運動のように駆動される。これによってステージに載置された被成膜品は傾斜角が変化するとともに、チャンバ内における水平位置も変化する複雑な運動をすることになり、被成膜品がターゲットを見込む角度が変化する。従って被成膜品に凹凸があっても、成膜時に陰になる部分を無くす、あるいは減少させることができ、均一な薄膜を形成することができる。なお、支持具に対する支持部の固定角度は、調整できるようになっている。
【0007】
特許文献2にも、被成膜品の傾斜角を変化させてターゲットを見込む角度を変化させ、それによって凹凸のある被成膜品であってもムラ無く成膜する成膜装置が記載されている。この成膜装置においては、被成膜品を載置するステージは、回転板と2個のモータによって駆動されるようになっている。概略的に説明すると、回転板は水平に回転するようになっており1個のモータによって駆動されるようになっている。この回転板の上面には、その回転軸から離間した位置に回転板に対して垂直に試料台軸が設けられている。この試料台軸にステージが設けられ、この試料台軸は別のモーターで回転するようになっている。従ってステージは、前者のモータによって公転し、後者のモータによって自転するようになっている。さらにステージは試料台軸にジンバル機構を介して設けられている。従って試料台軸に対して若干の揺動が許容されるようになっている。このようなステージは所定の傾斜支持台に接触するようになっており、これによってステージは水平面に対して所定の角度で傾斜した状態で自転及び公転することになる。従って被成膜品は複雑に駆動されることになり、ムラ無く成膜されることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
凹凸のある被成膜品であってもムラ無く成膜することができる、という点においては特許文献1に記載の成膜装置も特許文献2に記載の成膜装置も優れており問題はない。つまり成膜の品質については問題がない。しかしながら解決すべき課題も見受けられる。具体的にはコストの問題が見受けられる。コストの問題は2点あるが、第1の問題は成膜装置の製造・保守コストが嵩む点である。特許文献1、2に記載の装置においては、ステージに載置された被成膜品を傾斜角を変化させるだけでなくチャンバ内における水平位置も変化させるような複雑な運動をさせているが、被成膜品の陰になる部分を小さくするためには、チャンバ内における水平位置の変化は必要でなく、本来は被成膜品を歳差運動させれば十分であると言える。しかしながら特許文献1、2に記載の装置は、歳差運動に比してはるかに複雑な運動をさせるようになっていて、このために少なくとも2個のモータが必要であり構造も複雑になっている。従って装置の製造コストが嵩む。また構造が複雑で故障し易くなるので保守コストも嵩む。
【0009】
コストの第2の問題は、被成膜品の成膜コストが嵩む点である。特許文献1に記載の成膜装置はステージが回転するようになっているのでチャンバの平面形状に拘わらず、ステージは円盤状に形成しなければならない。ところで成膜装置のチャンバは円筒状に形成してもいいが、被成膜品の搬入口は装置の側方に設けることが好ましい。そうするとチャンバは直方体状に形成されることが多い。つまり多くの成膜装置においてチャンバの平面形状は長方形になる。このようなチャンバにおいて円盤状のステージを設けるようにすると、チャンバに無駄な空間が生じてしまう。従って、例えば複数個の被成膜品を同時に成膜したい場合には、被成膜品を置くことができない無駄なエリアが生じてしまう。仮にチャンバの形状に合わせた長方形状のホルダを用意して、このホルダに複数の被成膜品を載せ、ホルダをステージに固定するようにすればチャンバを有効利用することができるかも知れない。しかしながらこのようにするとホルダもステージも回転できない。特許文献2に記載の成膜装置は、ステージは自転だけでなく公転するようにもなっているので、チャンバに比してステージの大きさはさらに小さくならざるを得ない。被成膜品を載置する面積がさらに小さくなってしまう。つまり特許文献1、2に記載の装置においては、チャンバに無駄なエリアが生じてチャンバを効率よく利用できないので、一度に成膜できる被成形品の個数が制限されて成膜コストが高くなってしまう。
【0010】
他の問題も見受けられる。製造ラインにおいては射出成形機において成形された被成膜品を成膜装置に搬送したり、成膜装置において成膜された成膜品を他の装置に搬送するとき、ロボットアーム等によってハンドリングされることが多い。特許文献1、2に記載の装置においてはステージが回転するので、回転位置を正確に制御しないとステージ上に載置されている成膜品の回転位置が不定になる。そうするとロボットアームによって、成膜品を取り出すときにエラーが発生する可能性がある。回転位置を正確に制御しようとすると、回転角を検出するセンサ等が必要になりさらに製造コストが嵩んでしまう。
【0011】
したがって、本発明は、凹凸のある被成膜品であってもムラ無く成膜して品質の高い薄膜を形成できる成膜装置であり、構造がシンプルで製造コスト・保守コストが小さく、チャンバを効率よく利用して成膜コストを小さくすることができる成膜装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、被成膜品が載置されるステージに特徴を有する成膜装置として構成され、ステージは、チャンバの底部に設けられている回転体の上に設けられる。回転体は上部に傾斜部を備え、所定の駆動機構によって鉛直の回転軸周りに回転されるようにする。傾斜部は回転軸に対して所定の角度で傾斜している。ステージはこのような傾斜部に摺動自在に設ける。そしてステージは、チャンバ内の固定部材に所定の揺動機構を介して係合して回転が規制されるようにする。
【0013】
すなわち、請求項1に記載の発明は、前記目的を達成するために、チャンバの底部に回転体が設けられ、該回転体の上に被成膜品が載置されるステージが設けられている成膜装置であって、前記回転体は所定の駆動機構によって鉛直の回転軸周りに回転されるようになっていると共にその上部が前記回転軸に対して所定の角度で傾斜した傾斜部になっており、前記ステージは前記傾斜部に摺動自在に設けられ、そして前記チャンバ内の固定部材に所定の揺動機構を介して係合されて回転が規制されていることを特徴とする成膜装置として構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の成膜装置において、前記傾斜部の前記回転軸に対する角度は調整可能になっていることを特徴とする成膜装置として構成される。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の成膜装置において、前記揺動機構は、前記固定部材に固定的に設けられている第1のピンと、前記ステージに固定的に設けられている第2のピンと、連結バーとからなり、前記連結バーの一方の端部は前記第1のピンに、他方の端部は前記第2のピンにそれぞれ回動自在に接続されていることを特徴とする成膜装置として構成される。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかの項に記載の成膜装置において、前記傾斜部と前記ステージはベアリングを介して接続されていることを特徴とする成膜装置として構成される。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明によると、成膜装置は、チャンバの底部に回転体が設けられ、該回転体の上に被成膜品が載置されるステージが設けられている。そして回転体は所定の駆動機構によって鉛直の回転軸周りに回転されるようになっていると共にその上部が回転軸に対して所定の角度で傾斜した傾斜部になっており、ステージは傾斜部に摺動自在に設けられ、そしてチャンバ内の固定部材に所定の揺動機構を介して係合されて回転が規制されている。このようにステージが設けられているので、ステージは回転が規制された状態で首振り運動をするように揺動する。従って、ステージ上に載置された被成膜品は、ターゲットを見込む角度が変化して、ターゲットから陰になる部分が無くなる。あるいは減少する。従って被成膜品をムラ無く成膜することができる。そしてこのようにステージを揺動させるには回転体を回転させるだけで済む。つまり実質的にモータは1個で済む。従って構造がシンプルで故障し難く製造コストおよび保守コストが小さい。またステージはチャンバに対して回転しないので、円盤状に形成する必要がない。つまりチャンバの形状に合わせて形成することができる。もしくは被成膜品を支持するホルダをチャンバの形状に合わせるように形成してステージに固定することもできる。このようにステージまたはホルダをチャンバの形状に合わせるようにすれば、チャンバ全体を使って被成膜品を成膜することができるので、大きな被成膜品であっても成膜できるし、複数個の成膜品を成膜する場合には一度に成膜できる個数も多く、効率が高い。つまり成膜コストが小さくなる。そしてステージは回転しないので、被成膜品の水平位置は変化せず、成膜された後の成膜品も同じ位置に位置する。換言すると回転位置が不変である。従ってロボットアーム等で被成膜品や成膜品を出し入れするときにハンドリングが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係る成膜装置を模式的に示す正面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る成膜装置の一部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、真空蒸着法、イオンプレーティング法等のような色々な物理的蒸着法を実施する成膜装置に適用することができるが、以下において説明する本発明の実施の形態に係る成膜装置1は、いわゆるスパッタリング法によって成膜する成膜装置である。本実施の形態に係る成膜装置1は
図1に概略的に示されているが、従来の成膜装置と同様に、チャンバ2、このチャンバ2内から空気を吸引する真空源、空気が吸引されたチャンバ2内にアルゴンガスを供給するアルゴンガス供給源、ステンレスやアルミニウム等からなりチャンバ2の上部に設けられているターゲット4、被成膜品Hを載置するステージ6、ステージ6を含むチャンバ2とターゲット4との間に数kVの電圧を印加する電圧印加装置、等から構成されている。真空源、アルゴンガス供給源、電圧印加装置は、
図1には示されていない。
【0017】
本実施の形態に係る成膜装置1はステージ6に特徴があり、ステージ6は回転が規制された状態で揺動するようになっている。このような揺動を実現するためにステージ6は、次に説明するように所定の構造を備えた回転体7の上に設けられていると共に、チャンバ2内の固定部材に揺動機構8を介して係合されている。
【0018】
回転体7は、チャンバ2の底部に設けられており、所定の駆動機構によって鉛直の回転軸10まわりに回転されるようになっている。より詳しく説明すると、モータ11が成膜装置1の側部、つまりチャンバ2の外側に設けられており、モータ11の駆動軸12がチャンバ2内に水平に差し込まれている。この駆動軸12の回転は傘歯歯車等の回転伝達機構13を介して回転軸10に伝達されるようになっている。すなわち回転体7はモータを1個のみ備えた駆動機構によって回転されるようになっている。このように回転される回転体7は、回転軸10に垂直に固定されている水平板14と、傾斜板15とから構成されている。水平板14と傾斜板15は、それぞれの一方の端部において所定のヒンジ機構17によって接続されている。そしてそれぞれの他方の端部には角度調整用の機構が設けられている。すなわち水平板14の他方の端部には、垂直に立ち上がっている垂直片19が設けられ、傾斜板15の他方の端部には、下方に所定の長さ延びている結合片20が設けられ、ネジ垂直片19と結合片20はネジ22によって固定されている。なお、垂直片19には縦方向の長穴23が明けられており、ネジ22の軸部が挿通している。従ってネジ22を弛めると垂直片19に対する結合片20の固定位置を調整することができる。これによって傾斜板15の、水平板14に対する角度を調整することができる。このような傾斜板15は回転軸10に対して傾斜している傾斜部ということができる。
【0019】
ステージ6は、このような傾斜部すなわち傾斜板15に摺動自在に設けられている。具体的には傾斜板15とステージ6は、ベアリング24を介して接続され、相対的に滑らかに回転できるようになっている。なお、本実施の形態においては傾斜部はこのように板状の傾斜板15から構成され、傾斜部とステージ6はベアリング24によって接続されているが、必ずしもこのような構成を採る必要はない。例えば、傾斜部を枠体から構成してその上に環状に閉じたレールを設けてステージ6が傾斜部に対して相対的に滑らかに回転できるようにしてもよい。あるいは、回転体7を円柱として形成し、円柱の上部を回転軸10に対して所定の角度で斜めに切り落として斜面を形成し、これを傾斜部とし、この傾斜部に超高分子ポリエチレン等の自己潤滑性を備えたシートを貼付してもいい。そうすればステージ6は傾斜部の上で滑らかに摺動することになる。
【0020】
ステージ6を係合している揺動機構8について説明する。チャンバ2内には、
図2に示されているように、固定部材すなわち支柱25が設けられている。揺動機構8は、この支柱25とステージ6との間に設けられている。すなわち揺動機構8は、支柱25に固定されている第1のピン27と、ステージ6の側部に固定されている第2のピン28と、これら第1、2のピン27、28を連結している連結バー29とから構成されている。第1、2のピン27、28の先端部31、32は球状に形成され、連結バー29の両方の端部には球面受け座が形成されている。連結バー29はこの球面受け座によって第1、2のピン27、28の先端部31、32を回動自在に連結している。従ってステージ6はチャンバ2に対して回転が規制された状態で、矢印Y1、Y2のように揺動が許容される。
【0021】
本実施の形態に係る成膜装置1の作用を説明する。従来の成膜装置と同様に、ステージ6上に被成膜品Hを載置する。あるいは所定のホルダをステージ6上に固定して、ホルダ上に被成膜品Hを載置する。チャンバ2を閉鎖して真空源によりチャンバ2内の空気を吸引し、その後アルゴンガス源からガス圧が数Pa〜数10Pa程度になるようにアルゴンガスを供給する。ステージ6が陽極にターゲット4が陰極になるように数kVの電圧を印加してグロー放電を発生させると、アルゴンガスがプラズマ化して、アルゴン陽イオンがターゲット4に衝突しターゲット分子が飛び出す。飛び出したターゲット分子によって被成膜品Hが成膜される。このようにして成膜を実施しているときにモータ11を駆動する。回転伝達機構13によって回転が伝達されて回転体7が回転し、傾斜部すなわち傾斜板15が回転軸10に対して所定の角度で傾斜した状態で回転する。ステージ6は揺動機構8によってチャンバ2に対する回転が規制されているので傾斜板15に対して回転することになるが、傾斜板15が傾斜しているので揺動することになる。より正確に説明すると、
図2に示されているように、ステージ6に対して垂直な軸34は、矢印Y3で示されているように円弧を描くように首振りする。しかしながら、ステージ6は垂直な軸34周りに自転しないので、いわゆる歳差運動ではない。ステージ6がこのように駆動されるので、ステージ6に載置されている被成膜品Hはターゲット4に対する角度が変化する。従ってターゲット4から陰になる部分がなくなって、あるいは減少して、被成膜品Hはムラ無く成膜されることになる。所定の時間成膜を実施したら、モータ11を停止してチャンバ2を開く。成膜された製品を取り出す。
【0022】
本実施の形態に係る成膜装置1は、ステージ6がチャンバ2に対して回転しないので、成膜の前後において被成膜品Hはステージ6上の位置が変化しない。従ってロボットアーム等によって被成膜品Hや成膜された製品をハンドリングする場合に、ハンドリングが容易になる。また本実施の形態においては
図2に示されているように、ステージ6は円盤状に形成されているが、ステージ6がチャンバ2に対して回転しないので、チャンバ2の形状に合わせてステージ6を形成することができる。あるいは被成膜品Hを載せるホルダをチャンバ2の形状に合わせるように形成し、これをステージ6の上に固定してもよい。このようにすると、チャンバ2を効率よく使用することができ、複数個の被成膜品を成膜するとき、同時に成膜できる個数を多くすることができる。
【符号の説明】
【0023】
1 成膜装置 2 チャンバ
4 ターゲット 6 ステージ
7 回転体 8 揺動機構
10 回転軸 11 モータ
14 水平板 15 傾斜板
19 垂直片 20 結合片
24 ベアリング 25 支柱
27 第1のピン 28 第2のピン
29 連結バー
H 被成膜品