(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の突出部の前記奥行き方向に直交する断面形状及び前記複数の溝部の前記軸方向に直交する断面形状は、それぞれ円弧形に形成されることを特徴とする請求項4に記載のインプラント。
前記クランパピン、前記クランパ及び前記ロックナットが、チタンまたはチタン合金で形成されることを特徴とする請求項1から7のうちいずれか一項に記載のインプラント。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
特許文献1に記載の技術では、咬合圧を繰り返し受けると、インプラント体とアバットメント体の締結に緩みが発生するという問題がある。
【0008】
特許文献1に記載の技術では、耐圧機構(テーパー穴部、テーパー軸部)に咬合圧が集中するため、インプラント体のテーパー穴部の近傍等に亀裂が発生しやすい。最悪の場合には、インプラント体が割れてしまうという問題がある。
また、回転防止機構は、繰り返し咬合圧を受けると、六角形形状の頂点部分が磨耗して、徐々にガタが発生するという問題がある。
【0009】
また、従来のアバットメントの材料には純チタンが多く採用されているが、黒色のチタン色が人工骨表面に映ってしまうという問題がある。また、術後に歯茎が下がった場合、アバットメントが露出してチタン色が目立ってしまい、審美性に劣るという不都合もある。
このため、審美性に優れた白色のセラミックスを用いてアバットメントを形成することが検討されている。しかし、アバットメント自体にネジを形成する従来の固定構造を採用すると、非常に高硬度なジルコニア等のセラミックスでネジ締結を行うとネジが破損してしまうおそれがある。
【0010】
本発明は、咬合圧を繰り返し受けてもインプラント体とアバットメント体の締結に緩みが発生しづらいインプラント及びアバットメント体を提供することを目的とする。
また、本発明は、高い咬合圧を受けても亀裂等が発生しづらい構造を備えつつ、インプラント体に対するアバットメントの回転を長期間に亘って安定して防止することができるインプラント及びアバットメント体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
本発明に係るインプラントは、中心穴の一部に内径が奥行き方向にかけて縮小するテーパー形の嵌合穴部を有するインプラント体と、前記嵌合穴部に嵌合するテーパー形の嵌合軸部を有するアバットメントと、前記アバットメントの軸方向に沿って形成された貫通孔に挿通されると共に、前記インプラント体の前記中心穴に形成された連れ回り規制穴部に係合して軸周りの回転が規制される連れ回り規制軸部を有するクランパピンと、前記アバットメントの前記貫通孔に形成された段差部に当接する端面及び前記クランパピンの一部に形成された外ネジに螺合する内ネジを有し、前記クランパピンと前記アバットメントを相対移動させるロックナットと、前記クランパピンと前記インプラント体の前記中心穴の間に介在し、前記クランパピンと前記アバットメントの相対移動に伴って前記クランパピンの抜け止め軸部と前記インプラント体の抜け止め穴部に係合して、前記クランパピンと前記インプラント体の相対移動を規制するクランパと、を備えることを特徴とする。
【0012】
前記嵌合穴部及び前記嵌合軸部により耐圧機構が形成され、前記インプラント体に対する前記アバットメントの回転を防止する回転防止機構と前記耐圧機構が一体的に形成されることを特徴とする。
【0013】
前記耐圧機構の長さは、前記インプラント体の全長の1/2以上の長さに形成されることを特徴とする。
【0014】
前記回転防止機構は、前記嵌合穴部の内周面に前記奥行き方向に沿って形成された複数の突出部と、前記嵌合軸部の外周面に軸方向に沿って形成されて前記複数の突出部がそれぞれ差し込まれる複数の溝部と、からなることを特徴とする。
【0015】
前記複数の突出部の前記奥行き方向に直交する断面形状及び前記複数の溝部の前記軸方向に直交する断面形状は、それぞれ円弧形に形成されることを特徴とする。
【0016】
前記インプラント体及び前記アバットメントが、セラミックスで形成されることを特徴とする。
【0017】
前記インプラント体及び前記アバットメントが、ジルコニアで形成されることを特徴とする。
【0018】
前記クランパピン、前記クランパ及び前記ロックナットが、チタンまたはチタン合金で形成されることを特徴とする。
【0019】
本発明に係るアバットメント体は、インプラント体の中心穴に嵌合するアバットメント体において、テーパー軸部を有するアバットメントと、前記アバットメントの軸方向に沿って形成された貫通孔に挿通されると共に、前記インプラント体の前記中心穴に形成された連れ回り規制穴部に係合して軸周りの回転が規制される連れ回り規制軸部を有するクランパピンと、前記アバットメントの前記貫通孔に形成された段差部に当接する端面及び前記クランパピンの一部に形成された外ネジに螺合する内ネジを有し、前記クランパピンと前記アバットメントを相対移動させるロックナットと、前記クランパピンと前記インプラント体の前記中心穴の間に介在し、前記クランパピンと前記アバットメントの相対移動に伴って前記クランパピンの抜け止め軸部と前記インプラント体の抜け止め穴部に係合して、前記クランパピンと前記インプラント体の相対移動を規制するクランパと、を備えることを特徴とする。
【0020】
外径が軸方向にかけて縮小すると共に、外周面に前記軸に沿う複数の溝部が形成されたテーパー軸部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、咬合圧を繰り返し受けてもインプラント体とアバットメント体の締結に緩みが発生しづらいインプラント及びアバットメント体を実現できる。
また、本発明によれば、高い咬合圧を受けても亀裂等が発生しづらい構造を備えつつ、インプラント体に対するアバットメントの回転を長期間に亘って安定して防止することができるインプラント及びアバットメント体を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態につき図面を参照して説明する。なお、下記説明において示す各種寸法等は一例である。
【0024】
図1は、インプラント5の歯科分野における使用例の説明図である。
インプラント5は、歯槽骨2に固定されるインプラント体10と、インプラント体10に対して着脱可能なアバットメント体8と、を備えている。アバットメント体8には、人工歯冠6が装着される。
【0025】
インプラント体10の外周面には、雄ネジ12が形成される。雄ネジ12を歯槽骨2に形成した穴に螺合することで、インプラント体10が歯槽骨2に固定される。
アバットメント体8の外周面には接着剤等を用いて人工歯冠6が装着される。インプラント体10とアバットメント体8との当接部Sは、歯茎4または歯槽骨2によって覆われることになる。
当接部Sの当接面は精度良く仕上げられて、当接面が相互に密着して異物の侵入を防止する。
【0026】
図2は、本実施形態のインプラント5の分解斜視図である。
図3は、インプラント5の側面図である。
図4は、インプラント5の縦断面図である(
図3のIV−IV断面)。
図5は、インプラント5の横断面図である。(a)は
図3のVa−Va断面、(b)は
図3のVb−Vb断面、(c)は
図3のVc−Vc断面、(d)は
図3のVd−Vd断面、(e)は
図3のVe−Ve断面、(f)は
図3のVf−Vf断面である。
図6は、アバットメント体8を示す図である。
【0027】
上述したように、インプラント5は、インプラント体10とアバットメント体8を備える。
アバットメント体8は、アバットメント20、クランパピン30、クランパ40及びロックナット50を組み立てたものである。
アバットメント20は、人工歯冠6が装着される軸形部材である。クランパピン30は、アバットメント20の貫通孔24に挿通すると共に、インプラント体10に係合する軸形部材である。クランパ40は、クランパピン30に嵌め合わされるリング形部材である。ロックナット50は、アバットメント20の貫通孔24に挿入されると共に、クランパピン30に螺合するリング形部材である。
【0028】
以下の説明では、クランパピン30の中心軸をZ軸(Z方向、軸方向)とする。インプラント体10側を+Z側(+Z方向、奥行き方向)とする。アバットメント20側を−Z側(−Z方向)とする。
【0029】
図7は、インプラント体10を示す図である。(a)は上面図、(b)は側面及び縦断面を示す図(
図7(a)のVIIb−VIIb断面)、(c)は下面図である。
インプラント体10は、ジルコニア等のセラミックス材料で形成された円柱状(軸形)の部材である。インプラント体10は、フィクスチャーとも呼ばれる。インプラント体10のの外周面には、雄ネジ12が形成される。
【0030】
インプラント体10の−Z側端面の中心には、中心穴13が開口する。
中心穴13は、テーパー穴部14、逆テーパー穴部15及び係合穴部16が奥行き方向(+Z側)に向かって連続して形成されたものである。
テーパー穴部(嵌合穴部)14は、−Z側端面から+Z側に向かって内径が徐々に縮小(縮径)する。逆テーパー穴部15は、+Z側に向かって内径が徐々に拡大(拡径)する部位(逆テーパー部15B)などを有する。係合穴部16は、平行かつ対向する二つの内側面からなる平行二面16Aを有する。
【0031】
テーパー穴部14のテーパー角は、例えば4°である。テーパー穴部14の長さ(深さ)は、インプラント体10の全長(例えば10mm)の1/3以上の長さ(例えば4〜5mm)に形成される。好ましくは、テーパー穴部14の長さは、インプラント体10の全長(例えば12mm)の3/5程度の長さ(例えば8mm)に形成される。
テーパー穴部14の内周側面には、Z方向に沿う複数の突起17が形成される。複数の突起17(突出部)は、中心穴13の周方向において、等間隔(等角度)に配置される。本実施形態では、突起17は5本である。
突起17のZ軸に直交する断面の形状は、蒲鉾形である。つまり、断面の形状は、頂部側が円弧形に膨らむ。
【0032】
逆テーパー穴部15は、−Z側から+Z側に向かって、小径部15A、逆テーパー部15B及び大径部15Cが連続して形成されたものである。
小径部(抜け止め穴部)15Aの内径は、テーパー穴部14の最小内径よりも小さい。
逆テーパー部15Bは、+Z側に向かって内径が徐々に拡大(拡径)する。逆テーパー部15Bのテーパー角は、例えば10°である。逆テーパー穴部15Bの長さ(深さ)は、例えば0.25mmである。
大径部15Cの内径は、小径部15Aの内径よりも大きい。大径部15Cの長さ(深さ)は、例えば1.0mmである。
したがって、逆テーパー穴部15の小径部15Aは、中心穴13の内周側に突出する部位となる。
【0033】
係合穴部(連れ回り規制穴部)16は、対向する二つの円弧形内周側面と、平行かつ対向する二つの内側面(平行二面16A)とからなる。係合穴部16の長さ(深さ)は、例えば0.8mmである。二つの平行二面16Aの幅(二面幅)は、約0.7mmである。
【0034】
図8は、アバットメント20を示す図である。(a)は側面図、(b)は縦断面図(
図8(a)のVIIIb−VIIIb断面)、(c)は下面図である。
アバットメント20は、本体部21とテーパー軸部22とからなる。
本体部21は、人工歯冠6が装着される部位である。テーパー軸部22は、本体部21の一端側(+Z側)から延設してインプラント体10の中心穴13に内挿される部位である。
アバットメント20は、審美性に優れた白色のセラミックス材料により一体的に形成される。セラミックス材料として、例えばジルコニアが採用される。
【0035】
テーパー軸部(嵌合軸部)22のテーパー角は、例えば4°である。つまり、インプラント体10の中心穴13のテーパー穴部14の角度と同一である。
テーパー軸部22の長さは、テーパー穴部14と同一又は長く形成される。テーパー軸部22の長さは、例えば、8.1mmである。
【0036】
テーパー軸部22の外周側面には、Z方向に沿って、複数の溝部23が形成される。複数の溝部23は、テーパー軸部22の周方向において、等間隔(等角度)に配置される。本実施形態では、溝部23は5本である。つまり、テーパー穴部14の内周側面に形成される突起17と同数である。
また、溝部23のZ軸に直交する断面の形状は蒲鉾形である。断面の形状は、頂部側が円弧形に膨らむ。つまり、テーパー穴部14の内周側面に形成される突起17と同一形状である。
【0037】
インプラント体10の中心穴13にアバットメント20を挿入すると、アバットメント20のテーパー軸部22がインプラント体10の中心穴13のテーパー穴部14に嵌合する。この際、テーパー軸部22に形成された5本の突起17は、テーパー穴部14の5本の溝部23に差し込まれて密着する。
【0038】
アバットメント20の中心には、Z方向に貫通する貫通孔24が形成される。
貫通孔24のうち、本体部21に対応する部位(本体部側貫通孔24A)は、内径が約2.5mmに形成される。本体部側貫通孔24Aには、ロックナット50が挿入される。
また、貫通孔24のうち、テーパー軸部22に対応する部位(テーパー軸部側貫通孔24B)は、内径が約1mmに形成される。テーパー軸部側貫通孔24Bには、クランパピン30の本体部31がほぼ隙間なく挿通される。
本体部側貫通孔24Aとテーパー軸部側貫通孔24Bの境には、Z方向に垂直な段差面(段差部)25が形成される。
【0039】
図9は、クランパピン30を示す図である。(a)は側面図、(b)は下面図である。
クランパピン30は、チタンまたはチタン合金により形成された細長い軸形部材である。クランパピン30の本体部31の直径は、約1mmである。
クランパピン30の一端側(+Z側)には、テーパー部32及び係合軸部33が設けられる。
【0040】
テーパー部(抜け止め軸部)32は、+Z側に向けて外径が徐々に拡大(拡径)する部位である。テーパー部32の角度は、約40°である。テーパー部32は、インプラント体10の中心穴13に形成された逆テーパー穴部15に収容される。
係合軸部(連れ回り規制軸部)33は、円柱軸に平行かつ背向する二つ外側面(平行二面33A)を形成した部位である。平行二面33Aの幅(二面幅)は、約0.8mmである。係合軸部33は、中心穴13の最深部に形成された係合穴部16に嵌め込まれる。
【0041】
クランパピン30の他端側(−Z側)には、M1サイズの右ネジである外ネジ34が設けられる。外ネジ34のネジ寸法などは、本体部31の直径等に応じて、適宜変更可能である。
クランパピン30の長さは、インプラント5を組み立てた際に、外ネジ34がアバットメント20の貫通孔24の本体部側貫通孔24Aに露出する(位置する)ような長さである。
【0042】
図10は、クランパ40を示す図である。(a)は側面図、(b)は下面図、(c)は縦断面図(
図10(a)のXc−Xc断面)である。
クランパ40は、チタンまたはチタン合金により形成されたリング形部材である。クランパ40の外径は、インプラント体10の中心穴13の逆テーパー穴部15の最小内径(小径部15Aの内径)より僅かに小径である。クランパ40の外径は、例えば約1.4mmである。
クランパ40の内径は、約1mmである。クランパ40は、クランパピン30に外嵌して用いられる。クランパ40は、クランパピン30のテーパー部32に引っ掛かる位置に配置される。クランパ40は、インプラント5を組み立てた際に、インプラント体10の中心穴13の逆テーパー穴部15に収容される。
なお、クランパ40の外径を逆テーパー穴部15の最小内径より僅かに大径として、逆テーパー穴部15にこじ入れてもよい。
【0043】
クランパ40は、一端側(+Z側)に、8本の櫛歯41が形成される。櫛歯41は、クランパ40がクランパピン30のテーパー部32の乗り上がった際に、外周側に向けて弾性変形して広がる部位である。
クランパ40の櫛歯41は、いわゆるコレットチャックと同様な動作をする。クランパ40の櫛歯41が外周側に向けて広がると、クランパ40の最大外径は、テーパー穴部14の最小内径(小径部15Bの内径)よりも大径になる。したがって、クランパ40は、逆テーパー穴部15の小径部15Bに引っ掛かる(介在する)。このため、クランパ40が外嵌されたクランパピン30は、−Z側への移動が規制される。
【0044】
図11は、ロックナット50を示す図である。(a)は上面図、(b)は縦断面図(
図11(a)のXIb−XIb断面)である。
ロックナット50は、チタンまたはチタン合金により形成されたリング形(円筒形)部材である。
ロックナット50の内周面には、M1サイズの右ネジである内ネジ52が設けられる。内ネジ52のネジ寸法などは、外ネジ34に対応して適宜変更可能である。
ロックナット50の+Z側の端面(当接面)50Aは、アバットメント20の貫通孔24の段差面25に当接しつつ、中心軸(中心穴)回りに回転可能に形成される。
ロックナット50の−Z側の端面50Bには、マイナスドライバ(不図示)が挿入される直線溝53が設けられる。つまり、この直線溝53にマイナスドライバを係合して、ロックナット50は、を回転させることが可能である。
【0045】
ロックナット50は、アバットメント20の貫通孔24(本体部側貫通孔24A)に挿入される。ロックナット50の外周面50Sと本体部側貫通孔24Aとの間には、僅かな隙間が設けられる。ロックナット50の内ネジ52は、本体部側貫通孔24Aに露出するクランパピン30の外ネジ34に螺合する。
したがって、インプラント5を組み立てた状態で、ロックナット50を右回転させると、ロックナット50の端面50Aがアバットメント20の貫通孔24の段差面25に当接しつ摺動する。これと同時に、内ネジ52に螺合するクランパピン30をアバットメント20に対して−Z側に移動させることができる。
【0046】
インプラント5の組み立ては、以下の手順に従って行われる(インプラント治療の二回法)。
まず、予めインプラント体10を患者の歯槽骨2に埋入した後、歯茎4を縫い合わせる。個人差があるが、歯槽骨2とインプラント体10を3〜6ヶ月程度かけて骨密着させる。
【0047】
インプラント体10とは別に、アバットメント20側を組み立てる(
図6参照)。アバットメント20、クランパピン30、クランパ40及びロックナット50により、アバットメント体8を組み立てる。なお、アバットメント体8は、組み立てた形態で販売(譲渡)され、流通する。
【0048】
まず、クランパ40をクランパピン30に外嵌する。そして、クランパピン30をアバットメント20の貫通孔24の+Z側から挿入して、クランパピン30の他端側(−Z側)を本体部側貫通孔24Aに配置する(露出させる)。
また、アバットメント20の貫通孔24にロックナット50を挿入する。
【0049】
次に、クランパピン30の外ネジ34にロックナット50の内ネジ52を螺合する。
具体的には、ロックナット50を不図示のマイナスドライバで右回転させる。ロックナット50の端面50Aがアバットメント20の貫通孔24の段差面25に触れる(軽く当接する)まで右回転させて、クランパピン30の外ネジ34にロックナット50の内ネジ52を螺合させる。
これにより、アバットメント体8の組み立てが完了する。
【0050】
そして、患者の歯槽骨2に埋入したインプラント体10の中心穴13にアバットメント体8を挿入する。これにより、アバットメント20のテーパー軸部22は、インプラント体10の中心穴13のテーパー穴部14に楔状に嵌め込まれる。
また、クランパピン30の一端側(−Z側)の係合軸部33がインプラント体10の中心穴13の最底部(+Z側)の係合穴部16に差し込まれる。つまり、クランパピン30の係合軸部33の平行二面33Aとインプラント体10の係合穴部16の平行二面16Aが密着(嵌合)する。
【0051】
次に、不図示のマイナスドライバをロックナット50の直線溝53に嵌めて右回転させる。これにより、ロックナット50は、端面50Aがアバットメント20の貫通孔24の段差面25に当接しつつ摺動するので、Z方向に移動せずに回転する。これと同時に、クランパピン30の外ネジ34がロックナット50の内ネジ52に更に螺合するので、クランパピン30が−Z方向に移動する。
【0052】
この際、クランパピン30の係合軸部33がインプラント体10の係合穴部16に差し込まれて、係合軸部33の平行二面33Aと係合穴部16の平行二面16Aが密着(嵌合)している。このため、クランパピン30の回転が規制されて、ロックナット50と共に連れ回ることがない。したがって、クランパピン30は、−Z方向に移動する。
【0053】
そして、クランパピン30が−Z方向に移動すると、クランパピン30に外嵌したクランパ40の他端側(−Z側)がアバットメント20の+Z側の端部に当接して、クランパ40の+Z方向への移動が規制される。
さらにクランパピン30を+Z方向に移動させると、クランパ40の内周側にクランパピン30のテーパー部32が差し込まれる(クランパ40がテーパー部32に乗り上がる)。これにより、クランパ40の+Z側の8本の櫛歯41が外周側に向けて弾性変形して広がる。
したがって、クランパ40がインプラント体10の中心穴13の小径部15Aに引っ掛かり、クランパ40及びクランパピン30の−Z側への移動が規制される。
【0054】
そして、クランパ40及びクランパピン30の−Z側への移動が規制された状態で、ロックナット50を更に右回転させる。これにより、アバットメント20が+Z方向に移動する。つまり、アバットメント20がインプラント体10に向けて更に移動して、アバットメント20のテーパー軸部22がインプラント体10の中心穴13のテーパー穴部14に更に楔状に食い込む。
このようにして、インプラント5がガタツキなく強靭に組み立てられる。
【0055】
その後に、インプラント5のアバットメント20の−Z側の外周面に接着剤等を用いて人工歯冠6を装着する。
これにより、インプラント5の組み立てが完了する。
【0056】
インプラント5では、アバットメント20に作用する外力(咬合圧F)を繰り返し受けたとしても、インプラント体10とアバットメント20の締結に緩みは殆ど発生しない。
インプラント体10とアバットメント20の締結の緩みは、ネジ締結の緩みが原因となりうる。しかし、インプラント5では、クランパピン30とロックナット50の締結にのみにネジ締結が用いられる。つまり、インプラント5では、ネジ締結をアバットメント20側に設けているため、インプラント体10とアバットメント20の締結の緩みの可能性が極めて低い。
特に、アバットメント20とロックナット50をネジ締結していないので、アバットメント20に作用する外力がロックナット50に伝わりづらい。このため、クランパピン30とロックナット50のネジ締結が緩みづらい。
【0057】
また、インプラント5では、テーパー軸部22とテーパー穴部14を嵌合する(差し込む)ことで、アバットメント20に作用する外力(咬合圧F)を受け止める耐圧機構60として機能させている(
図1参照)。
特に、耐圧機構60は、テーパー軸部22とテーパー穴部14のZ方向の長さが従来よりも十分に長いので、咬合圧Fを受け止める面積が大きくなり、高い耐圧性能を備える。したがって、アバットメント20に対して、Z軸方向に対して交差する方向から咬合圧Fを受ける場合(インプラント5を前歯に使用する場合)においても、咬合圧Fを確実に受け止めるので、アバットメント20やインプラント体10に亀裂が発生したり、欠けたりすることがない。
【0058】
また、アバットメント20をインプラント体10の中心穴13に挿入する際に、インプラント体10の中心穴13のテーパー穴部14の内周側面に形成された5本の突起17が、アバットメント20のテーパー軸部22の外周側面に形成された5本の溝部23に差し込まれる。
このように、テーパー穴部14の内周側面の突起17とテーパー軸部22の外周側面の溝部23が噛合うので、インプラント体10に対するアバットメント20の回転が規制される。つまり、テーパー穴部14の突起17とテーパー軸部22の溝部23が回転防止機構70として機能する。
【0059】
言い換えれば、インプラント5では、咬合圧Fを受け止める耐圧機構60(テーパー軸部22とテーパー穴部14)と回転防止機構70(突起17と溝部23)を一体的に形成しているので、従来よりも咬合圧Fを受け止める耐圧機構60を長く(深く)形成することができる。具体的には、耐圧機構60(テーパー軸部22とテーパー穴部14)の長さを、インプラント体10の全長の1/3以上の長さにする。
したがって、インプラント5は、アバットメント20やインプラント体10に亀裂や欠けが発生することなく、強い咬合圧Fを確実に受け止めることができる。
【0060】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な材料や層構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
【0061】
例えば、実施形態では、インプラント体10、アバットメント20を構成する生体適合性セラミックス材料としてジルコニア(酸化ジルコニウム)を採用したが、アルミナ(酸化アルミニウム)や酸化イットリウム、酸化ハフニウム、酸化シリコーン、酸化マグネシウム、酸化セリウム等を採用してもよい。
なお、インプラント体10、アバットメント20は、チタンやチタン合金等の金属材料で形成してもよい。
【0062】
また、実施形態では、クランパ40を構成する金属材料として生体親和性に優れたチタンを採用したが、チタン合金を採用してもよい。チタン合金として、例えばチタンとアルミニウムとの合金を採用することができる。クランパ40を形状記憶合金で形成してもよい。また、クランパ40を、樹脂(ゴム)などの弾性体材料で形成してもよい。
また、クランパの櫛歯41の本数は8本の場合に限らない。櫛歯41の本数は、少なくとも2本以上であればよい。
【0063】
インプラント体10の係合穴部16とクランパピン30の係合軸部33にそれぞれ平行二面16A,31Bを形成して嵌合させる場合について説明したが、これに限らない。平行二面16A,31Bに代えて、多角形穴部と多角形軸部にしてもよい。
【0064】
また、本発明のインプラント5は、歯科治療に用いる場合に限らない。インプラント5を使用した骨折治療方法や、インプラント5を人工関節に使用してもよい。