(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5816961
(24)【登録日】2015年10月9日
(45)【発行日】2015年11月18日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池添加剤および鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/08 20060101AFI20151029BHJP
【FI】
H01M10/08
【請求項の数】14
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-201137(P2011-201137)
(22)【出願日】2011年8月29日
(65)【公開番号】特開2013-48074(P2013-48074A)
(43)【公開日】2013年3月7日
【審査請求日】2014年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】596115953
【氏名又は名称】間瀬 俊三
(73)【特許権者】
【識別番号】596062772
【氏名又は名称】小沢 昭弥
(73)【特許権者】
【識別番号】515265293
【氏名又は名称】川邉 剛
(72)【発明者】
【氏名】小沢 昭弥
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 俊三
【審査官】
市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−292649(JP,A)
【文献】
特開2004−292648(JP,A)
【文献】
特開2001−313064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化鉛の正極と、金属鉛の負極と、希硫酸の電解液からなる鉛蓄電池の前記電解液に加える添加剤において、下記の化学式1ないし化学式6で表される構造単位の一種類以上を含む重合体または共重合体であって、該重合体または共重合体中には化学式1ないし化学式6に由来するカルボキシル基とスルホ基が含まれていることを特徴とする鉛電池添加剤。
【化1】
(式中、Mは水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)
【化2】
(式中、Mは水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)
【化3】
(式中、M、M
*は水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)
【化4】
(式中、M、M
*は水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)
【化5】
(式中、M、M
*は水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)
【化6】
(式中、M、M
*は水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)
【請求項2】
請求項1において、該重合体または共重合体中の該カルボキシル基と該スルホ基のモル比が1対9ないし8対2の範囲である鉛電池添加剤。
【請求項3】
請求項1および請求項2において、該重合体または共重合体の平均分子量が、100万ないし1000万である鉛電池添加剤。
【請求項4】
過酸化鉛の正極と、金属鉛の負極と、希硫酸の電解液からなる鉛蓄電池の前記電解液に加える添加剤において、スルホン化アクリル酸重合体を含むことを特徴とする鉛電池添加剤。
【請求項5】
請求項4において、該重合体中のカルボキシル基とスルホ基のモル比が1対9ないし8対2の範囲である鉛電池添加剤。
【請求項6】
請求項4および請求項5において、該重合体の平均分子量が、100万ないし1000万である鉛電池添加剤。
【請求項7】
過酸化鉛の正極と、金属鉛の負極と、希硫酸の電解液からなる鉛蓄電池において、前記の化学式1ないし化学式6で表される構造単位の一種類以上を含む重合体または共重合体であって、該重合体または共重合体中には前記の化学式1ないし化学式6に由来するカルボキシル基とスルホ基が含まれている添加剤を、該電解液中に含有することを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項8】
請求項7において、該重合体または共重合体中の該カルボキシル基と該スルホ基のモル比が1対9ないし8対2の範囲である鉛蓄電池。
【請求項9】
請求項7および請求項8において、該重合体または共重合体の平均分子量が、100万ないし1000万である鉛蓄電池。
【請求項10】
請求項7ないし請求項9において、該重合体または共重合体の電解液中の濃度が0.02ないし1重量%である鉛蓄電池。
【請求項11】
過酸化鉛の正極と、金属鉛の負極と、希硫酸の電解液からなる鉛蓄電池において、スルホン化アクリル酸重合体を、該電解液中に含有することを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項12】
請求項11において、該スルホン化アクリル酸重合体中のカルボキシル基とスルホ基のモル比が1対9ないし8対2の範囲である鉛蓄電池。
【請求項13】
請求項11および請求項12において、該スルホン化アクリル酸重合体の平均分子量が、100万ないし1000万である鉛蓄電池。
【請求項14】
請求項11ないし請求項13において、該スルホン化アクリル酸重合体の電解液中の濃度が0.02ないし1重量%である鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間にわたり鉛蓄電池を活性化する長寿命の鉛蓄電池添加剤、およびこれを用いた鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、本発明者等は、希硫酸中で電極の水素過電圧を大きくする作用を持つポリビニルアルコールやポリアクリル酸が劣化電池のサルフェーションの解消や、新電池の長寿命化に有効であることを発見し、特許出願した(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。しかしながら、ポリビニルアルコールを含む電解液は、充電中に水の電解によって電極表面に気泡が生ずると、その気泡が消えにくく、大量の泡が発生して電解液の注入口から溢れ出て周囲の金属を腐食する欠点があった。また、ポリビニルアルコールは正極表面で徐々に酸化されて効力を失うので、長期間その効力を維持するためには、毎年または数年毎にポリビニルアルコールを電解液に添加する作業が必要であり、作業が煩雑であった。
【0003】
また、ポリアクリル酸やそのアルカリ塩を添加剤として用いる場合は、ポリビニルアルコールに比べて耐酸化性に勝るものの、これらの化合物の水溶液は粘性が非常に高く、電解液との混合が困難であり、また粉末として添加した場合は、電解液中に均一に溶解分散させるのに長時間を要し、作業性が劣る欠点が有った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特許3431438号 公報
【特許文献2】 特開2000−149981号 公報
【特許文献3】 特開2001−313064号 公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来のポリビニルアルコールやポリアクリル酸に比べて、より長期間にわたり鉛蓄電池を活性化し、且つ鉛蓄電池の充電中に発泡が少なく、電解液中への添加が極めて容易な鉛蓄電池添加剤、およびそれを用いた鉛蓄電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
過酸化鉛の正極と、金属鉛の負極と、希硫酸の電解液からなる鉛蓄電池の前記電解液に加える添加剤において、下記の化学式1ないし化学式6で表される構造単位の一種類以上を含む重合体または共重合体であって、該重合体または共重合体中には化学式1ないし化学式6に由来するカルボキシル基(−COOM)とスルホ基(−SO
3M)が含まれている鉛電池添加剤であり、望ましくは、該重合体または共重合体中の該カルボキシル基と該スルホ基のモル比が1対9ないし8対2、好ましくは2対8ないし6対4の範囲であり、更に望ましくは、該重合体または共重合体の平均分子量が、100万ないし1000万、好ましくは300万ないし700万である鉛電池添加剤である。まお、式中MとM
*は同一種類の原子であっても良く、別の種類の原子であっても良い。
【化1】
(式中、Mは水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)
【化2】
(式中、Mは水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)
【化3】
(式中、M、M
*は水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)
【化4】
(式中、M、M
*は水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)
【化5】
(式中、M、M
*は水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)
【化6】
(式中、M、M
*は水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)
【0007】
また本発明は、
過酸化鉛の正極と、金属鉛の負極と、希硫酸の電解液からなる鉛蓄電池の前記電解液に加える添加剤において、スルホン化アクリル酸重合体(化学式1ないし化学式3のいずれかを構造単位として含む重合体)を含む鉛電池添加剤であり、該重合体中のカルボキシル基とスルホ基のモル比が1対9ないし8対2、好ましくは2対8ないし6対4の範囲でり、望ましくは、該重合体の平均分子量が、100万ないし1000万、好ましくは300万ないし700万である鉛電池添加剤である。
【0008】
また本発明は、過酸化鉛の正極と、金属鉛の負極と、希硫酸の電解液からなる鉛蓄電池において、前記の化学式1ないし化学式6で表される構造単位の一種類以上を含む重合体または共重合体であって、該重合体または共重合体中には前記の化学式1ないし化学式6に由来するカルボキシル基とスルホ基が含まれている添加剤を、該電解液中に含有する鉛蓄電池であり、望ましくは、該重合体または共重合体中の該カルボキシル基と該スルホ基のモル比が1対9ないし8対2、好ましくは2対8ないし6対4の範囲であり、該重合体または共重合体の平均分子量が、100万ないし1000万、好ましくは300万ないし700万である鉛蓄電池であり、該重合体または共重合体の電解液中の濃度が0.02ないし1重量%、好ましくは0.1ないし0.5重量%である鉛蓄電池である。
【0009】
更に本発明は、過酸化鉛の正極と、金属鉛の負極と、希硫酸の電解液からなる鉛蓄電池において、スルホン化アクリル酸重合体(化学式1ないし化学式3のいずれかを構造単位として含む重合体)を、該電解液中に含有する鉛蓄電池であり、望ましくは、該スルホン化アクリル酸重合体中のカルボキシル基とスルホ基のモル比が1対9ないし8対2、好ましくは2対8ないし6対4の範囲であり、該スルホン化アクリル酸重合体の平均分子量が、100万ないし1000万、好ましくは300万ないし700万であり、該スルホン化アクリル酸重合体の電解液中の濃度が0.02ないし1重量%、好ましくは0.1ないし0.5重量%である鉛蓄電池である。
【0010】
本発明の添加剤の作用は次の通りである。すなわち、本発明の重合体または共重合体の構造単位であるアクリル酸やフマル酸、マレイン酸のカルボキシル基は、鉛蓄電池の負極表面に作用して、負極の水素過電圧を高め、硫酸鉛の電解還元を促進することにより、鉛電池の劣化の最大要因であるサルフェーションを防止し、回復させることができる。その際、これらの重合体または共重合体は分子量が大きいものほど正極で酸化されにくく長寿命であるが、電解液中への溶解速度は、分子量が大きいものほど小さく、且つ粘性が大きくなり実用化の障害となっていた。本発明で新たに導入したスルホ基は、添加剤の電解液中への溶解を極めて容易にし、溶液の粘性を下げ、更に電池の充放電サイクルによる分解が少なく、電池を長寿命とする作用がある。本発明では、このスルホ基の導入によりアクリル系重合体の優れた耐酸化性、低発泡性を損なうことなく、電解液への溶解速度を格段に向上し、溶液の粘性を下げ、且つ、耐久性も一層向上したものである。
【0011】
本発明の添加剤において、カルボキシル基とスルホ基の量は、負極の水素過電圧を上げる効果と添加剤の溶解性を高める効果との兼ね合いで任意に選択できるが、カルボキシル基とスルホ基のモル比が1対9ないし8対2、好ましくは2対8ないし6対4の範囲が望ましい。カルボキシル基の割合がこれより小さい場合は、水素過電圧を上げる効果が不足し、スルホ基の割合がこれより小さい場合は、溶解性の向上が不十分になる。また、その平均分子量は、100万ないし1000万、好ましくは300万ないし700万の範囲が望ましい。分子量がこれより小さい場合は、正極での酸化を受けやすく、効果が短期間で消滅する。分子量がこれよりも大きい場合は、粘性が高くなり、添加作業が困難になる。更に、重合体としては、製造法が確立されており品質が安定なスルホン化アクリル酸重合体が好適に使用できる。
【0012】
本発明の電池では、電解液中に本発明の添加剤を0.02ないし1重量%、好ましくは0.1ないし0.5重量%加えて用いる。添加剤の量がこれより少ない場合は、添加剤が正極での酸化により、短期間で分解され尽くすので、添加剤の効果が短期間で消滅する。添加剤の量がこれより多い場合は、悪影響は認められないが、電池の寿命は飽和する傾向にある。
【0013】
なお、本発明の添加剤は、従来から用いられているポリビニルアルコールやポリアクリル酸との混合物として用いることも可能である。例えば、サルフェーションで劣化した電極を、これらのポリビニルアルコールやポリアクリル酸を添加した電解液中で短時間で再生し、再生した電池について長期間の寿命を得るために電解液中に本発明のスルホン化アクリル酸重合体を添加するのが有効である。
【発明の効果】
【0014】
上述したように、本発明の添加剤は、充電の際の発泡が少なく、電解液や水に容易に溶け、更に多数回の充放電サイクルの後でも電池の容量を維持する効果があり、この添加剤を電解液中に含む鉛蓄電池は従来の鉛蓄電池に比べて約2倍の寿命とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】 本発明の添加剤の効果を従来品と比較したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0017】
公称電圧12V、容量が12Ahの鉛蓄電池を用いて、放電電流5A、放電終止電圧9Vの条件で、従来技術の例として、(1)添加剤無添加、(2)ポリビニルアルコール1g/リットル、(3)ポリアクリル酸1g/リットル、本発明の例として、(4)スルホン化ポリアクリル酸1g/リットルを電池の各セルの電解液中に添加した場合の充放電サイクルによる放電容量の変化を測定した。その結果、
図1に示すように、カーブ1の添加剤無添加の場合は、200サイクル程度で放電容量が大きく低下した。カーブ2のポリビニルアルコールを添加した場合では、30サイクル程度寿命が延びた。カーブ3のポリアクリル酸を添加した場合では、70サイクル程度の寿命延長効果が認められた。本発明であるカーブ4のスルホン化ポリアクリル酸では、120サイクル程度の寿命延長効果が認められた。この寿命延長効果は、充放電を200サイクル行なった後に再度スルホン化ポリアクリル酸を添加すると、更に寿命が延び、合計400サイクル程度まで延びることを確認した。なお、この実施例で使用したポリビニルアルコールの分子量は12万、ポリアクリル酸の分子量は500万、スルホン化ポリアクリル酸は、化学式1および化学式2の構造単位からなる重合体であり、分子量は500万、カルボキシル基とスルホ基のモル比は3対7である。
【実施例2】
【0018】
実施例1で使用した鉛蓄電池と同一仕様の鉛蓄電池について、化学式1ないし化学式6の重合体または共重合体からなる添加剤を該電池の電解液中に添加し、実施例1と同一条件で充放電を行ない、放電量が8Ahに低下する充放電サイクル数を求めた。その結果を表1に示す。
【表1】
【符号の説明】
【0019】
1 添加剤無添加の場合の充放電サイクルに伴う放電量の変化
2 ポリビニルアルコール添加の場合の充放電サイクルに伴う放電量の変化
3 ポリアクリル酸添加の場合の充放電サイクルに伴う放電量の変化
4 スルホン化ポリアクリル酸添加の場合の充放電サイクルに伴う放電量の変化