特許第5817621号(P5817621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5817621
(24)【登録日】2015年10月9日
(45)【発行日】2015年11月18日
(54)【発明の名称】強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20151029BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20151029BHJP
   H01L 41/18 20060101ALI20151029BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20151029BHJP
   H01L 41/318 20130101ALI20151029BHJP
   H01L 41/37 20130101ALI20151029BHJP
   H01L 21/8246 20060101ALI20151029BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20151029BHJP
   H01G 4/33 20060101ALI20151029BHJP
   C01G 25/00 20060101ALN20151029BHJP
【FI】
   H01L21/316 G
   H01L21/31 A
   H01L41/18 101Z
   H01L41/08 L
   H01L41/318
   H01L41/37
   H01L27/10 444C
   H01G4/06 102
   !C01G25/00
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-78920(P2012-78920)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-211309(P2013-211309A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2014年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】土井 利浩
(72)【発明者】
【氏名】桜井 英章
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 敏昭
(72)【発明者】
【氏名】曽山 信幸
【審査官】 正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−134768(JP,A)
【文献】 国際公開第98/011613(WO,A1)
【文献】 特開2008−214185(JP,A)
【文献】 特開平01−171633(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0129918(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
H01G 4/33
H01L 21/31
H01L 21/8246
H01L 27/105
H01L 41/09
H01L 41/18
H01L 41/318
H01L 41/37
C01G 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液において、当該ゾルゲル液が、PZT系化合物と、ポリビニルピロリドンを含む粘度調整用の高分子化合物と、ホルムアミド系溶剤を含む有機ドーパントとを含有し、PZT系化合物が酸化物換算で17質量%以上含まれ、前記PZT系化合物に対するポリビニルピロリドンのモル比がモノマー換算でPZT系化合物:ポリビニルピロリドン=1:0.1〜0.5であり、ホルムアミド系溶剤がゾルゲル液の3質量%〜13質量%含まれることを特徴とする強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液。
【請求項2】
前記ホルムアミド系溶剤が、ホルムアミド、n−ホルムアミド又はN,Nージメチルホルムアミドである請求項1記載の強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液。
【請求項3】
前記ポリビニルピロリドンのk値が30〜90の範囲内にある請求項1記載の強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1項に記載の強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液を用いて強誘電体薄膜を形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CSD(Chemical Solution Deposition)法によって塗布される強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液の塗布1回による一層を数100nmを超える厚さにした場合も、仮焼、焼成後に、クラックレスかつ緻密な強誘電体薄膜を得ることができる強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、CSD法、例えばゾルゲル法では、基板上にPZT系強誘電体薄膜(「PZT膜」と略す)を形成する場合、PZT系強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液(「ゾルゲル液」と略す)で塗布1回で一層を形成し成膜するときに100nm程度が限界とされてきた。これは100nmを超える厚さの膜を仮焼、焼成すると、PZT膜中に発生する引張応力が同膜中に不均一に発生する結果、膜中にクラックがしばしば生じるからである。よって、数μmの厚膜のPZT膜を得るには一層をより薄くし数10回塗布を行いながら、仮焼、焼成を繰り返さざるを得ないのが現状である。しかし、係る方法では生産効率を低下させるため成膜コストを向上させることになる。
【0003】
そこで、上記不具合に対し、ゾルゲル液の調製に用いる有機溶媒にプロピレングリコールを使用し、ゾルゲル液の塗布1回で一層が200nm以上の厚膜を得ることが可能なゾルゲル液が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、高濃度のゾルゲル液に高分子を添加することにより、成膜中に発生する引張応力を緩和して、ゾルゲル液の塗布1回による一層を厚く塗布することができる方法も提案されている(例えば、非特許文献J Sol-Gel Sci Technol (2008) 47:316-325参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−261338号公報(請求項1、段落[0016]〜[0024]、表1)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J Sol-Gel Sci Technol (2008) 47:316-325
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記提案されているゾルゲル液を用いても、クラックレスで緻密な膜構造を有しかつ実用上十分な特性を備えるPZT膜を製造することは困難であることを発明者らは知見した。
【0007】
本発明の目的は、ゾルゲル液の塗布1回による一層を数100nmを超える層厚にした場合であっても仮焼、焼成後にクラックレスで緻密なPZT膜を成膜することができるPZT系強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液であって、前記ゾルゲル液が、PZT系化合物と、ポリビニルピロリドンを含む粘度調整用の高分子化合物と、ホルムアミド系溶剤を含む有機ドーパントとを含有し、前記PZT系化合物が酸化物換算で17質量%以上含まれ、前記PZT系化合物に対する前記ポリビニルピロリドンのモル比がモノマー換算でPZT系化合物:ポリビニルピロリドン=1:0.1〜0.5であり、前記ホルムアミド系溶剤が前記ゾルゲル液の3質量%〜13質量%含まれることを特徴とする。
【0009】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に前記ホルムアミド系溶剤が、ホルムアミド、n−ホルムアミド又はN,Nージメチルホルムアミドである強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液であることを特徴とする。
【0010】
本発明の第3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に前記ポリビニルピロリドンのk値が15〜90の範囲内にある請求項1記載の強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液であることを特徴とする。ここでk値は、分子量と相関する粘性特性値で、毛細管粘度計により測定される相対粘度値(25℃)を下記のFikentscherの式によって計算される値である。
k値=(1.5 logηrel −1)/(0.15+0.003c)
+(300clogηrel +(c+1.5clogηrel)21/2/(0.15c+0.003c2
(ηrel;ポリビニルピロリドン水溶液の水に対する相対粘度。c;ポリビニルピロリドン水溶液中のポリビニルピロリドン濃度(%))
本発明の第4の観点は、第1の観点ないし第3の観点に基づく強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液を用いて強誘電体薄膜を形成する方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の観点の強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液が、PZT系化合物と、ポリビニルピロリドンを含む粘度調整用の高分子化合物と、極性溶媒であるホルムアミド系溶剤を含む有機ドーパントとを含有し、前記PZT系化合物が酸化物換算で17質量%以上含まれ、前記PZT系化合物に対する前記ポリビニルピロリドンのモル比がモノマー換算でPZT系化合物:ポリビニルピロリドン=1:0.1〜0.5であり、前記ホルムアミド系溶剤が前記ゾルゲル液の3質量%〜13質量%含まれるようにしたことにより、当該ゾルゲル液をPZT系強誘電体薄膜の製造に使用すると、クラックレスで緻密な膜を有しかつ実用上十分な特性を備えるPZT膜を製造することができる。
【0012】
本発明の第2の観点の強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液では、第1の観点に基づく発明であって、更に前記ホルムアミド系溶剤が、ホルムアミド、n−ホルムアミド又はN,Nージメチルホルムアミドである強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液にしたため、当該ゾルゲル液をPZT系強誘電体薄膜の製造に使用すると、クラックレスで緻密な膜構造を有しかつ実用上十分な特性を備える更によいPZT膜を製造することができる。
【0013】
本発明の第3の観点の強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液では、第1の観点に基づく発明であって、更に前記ポリビニルピロリドンのk値を15〜90の範囲内にしたため、当該ゾルゲル液をPZT系強誘電体薄膜の製造に使用すると、クラックレスで緻密な膜構造を有しかつ実用上十分な特性を備える更によいPZT膜を製造することができる。
【0014】
本発明の第4の観点の強誘電体薄膜の形成方法では、クラックレスで緻密な膜構造を有しかつ実用上十分な特性を備える更によいPZT膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例2に係るPZT系強誘電体薄膜のSEM写真による断面の観察像である。
図2】本発明の実施例4に係るPZT系強誘電体薄膜のSEM写真による断面の観察像である。
図3】従来の比較例2に係るPZT系強誘電体薄膜のSEM写真による断面の観察像である。
図4】本発明の実施例2に係るPZT系強誘電体薄膜のSEM写真による表面の観察像である。
図5】本発明の実施例4に係るPZT系強誘電体薄膜のSEM写真による表面の観察像である。
図6】従来の比較例2に係るPZT系強誘電体薄膜のSEM写真による表面の観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態に係る強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液を、PZT系強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液(以下「PZTゾルゲル液」と略す)を代表例にして以下説明する。
【0017】
本実施形態に係るPZTゾルゲル液は、PZT系化合物と、ポリビニルピロリドン(PVP)を含む粘度調整用の高分子化合物と、ホルムアミド系溶剤を含む有機ドーパントと、を含有し、前記PZT系化合物が酸化物換算で17質量%以上含まれ、前記PZT系化合物に対する前記ポリビニルピロリドンのモル比がモノマー換算でPZT系化合物:ポリビニルピロリドン=1:0.1〜0.5であり、前記ホルムアミド系溶剤が前記ゾルゲル液の3質量%〜13質量%含むものである。
【0018】
まず、PZTゾルゲル液の基本含有物であるPZT化合物、ポリビニルピロリドンを含む粘度調整用の高分子化合物、ホルムアミド系溶剤を含む有機ドーパントについて説明する。
【0019】
PZT系化合物は、PLZT、PMnZT、PNbZT等のPZT以外の化合物を含む。PZT系化合物の原料は、Pb、La、Zr及びTiの各金属元素に、有機基がその酸素又は窒素原子を介して結合している化合物が好適である。例えば、金属アルコキシド、金属ジオール錯体、金属トリオール錯体、金属カルボン酸塩、金属β−ジケトネート錯体、金属β−ジケトエステル錯体、金属β−イミノケト錯体、及び金属アミノ錯体からなる群より選ばれた1種又は2種以上が例示される。特に好適な化合物は、金属アルコキシド、その部分加水分解物、有機酸塩である。
【0020】
このうち、Pb化合物、La化合物としては、酢酸塩(酢酸鉛:Pb(OAc)2、酢酸ランタン:La(OAc)3)、鉛ジイソプロポキシド:Pb(OiPr)2、ランタントリイソプロポキシド:La(OiPr)3などが挙げられる。Ti化合物としては、チタンテトラエトキシド:Ti(OEt)4、チタンテトライソプロポキシド:Ti(OiPr)4、チタンテトラn−ブトキシド:Ti(OiBu)4、チタンテトライソブトキシド:Ti(OiBu)4、チタンテトラt−ブトキシド:Ti(OtBu))4、チタンジメトキシジイソプロポキシド:Ti(OMe)2(OiPr)2などのアルコキシドが挙げられる。Zr化合物としては、上記Ti化合物と同様なアルコキシド類が好ましい。金属アルコキシドはそのまま使用しても良いが、分解を促進させるためにその部分加水分解物を使用しても良い。
【0021】
ポリビニルピロリドン(PVP)は、液粘度を調整することができる化合物である。より具体的には上述したk値によって相対粘度を決定し調製することができる。本実施形態では、k値が15〜90の範囲内のものが好ましい。k値が15未満では厚い膜を得るための十分な粘度を得るのに不十分であるため不具合があり、90より超えると粘度が高すぎるため、均一に塗布することが困難になるという不具合があるからである。高分子化合物は、重合度100〜1000のポリエチレングリコール等を使用する。重合度が100未満では十分な粘度が得られないため不具合があり、重合度が1000を超えると粘度が高すぎるため、均一に塗布するのが困難となる不具合があるからである。
【0022】
ホルムアミド系溶剤を含む有機ドーパントは、ホルムアミド、n-メチルホルムアミド又はN,Nジメチルアミドのいずれかを用いることが好ましい。上記ポリビニルピロリドンとの組み合わせによって、本発明の目的であるゾルゲル液の塗布1回による一層を数100nmを超える層厚にした場合であっても仮焼、焼成後にクラックレスで緻密なPZT膜を成膜することができるPZTゾルゲル液を製造することができる。有機ドーパントは、モノエタノールアミンやジエタノールアミン等のエタノールアミン類とすることが好ましい。金属アルコキシドに配位して溶液の保存安定性を高める効果があるためである。
【0023】
次に、上記基本含有物のPZTゾルゲル液への処方について説明する。
【0024】
先ず、上記PZT化合物は、PZTゾルゲル液において酸化物換算で17質量%含まれるようにする。これは17質量%未満であると前駆物質の濃度が低く十分な膜厚が得られない不具合があるためである。好適には23質量%以下とする。これは23質量%を超えると希釈剤である低級アルコールの割合が下がり、塗膜性や保存安定性の悪化を招く恐れがあるという不具合があるためである。
【0025】
次に、上記PZT系化合物に対する上記ポリビニルピロリドンのモル比がモノマー換算でPZT系化合物:ポリビニルピロリドン=1:0.1〜0.5になるようにする。
【0026】
これは、当該モル比が1:0.1未満では十分な粘度が得られない上、応力緩和も行えず、クラック発生の不具合があり、1:0.5を超えると膜中にボイドが多発するという不具合があるからである。更に好適には、PZT系化合物:ポリビニルピロリドン=1:0.2〜0.45とすることができる。これは、当該モル比が1:0.2未満ではプロセス温度の幅が狭く、クラックが発生し易くなる不具合があり、1:0.45を超えると僅かにボイドが発生することがある不具合があるからである。
【0027】
そして、ホルムアミド系溶剤は、PZT系ゾルゲル液の3質量%〜13質量%含まれるようにする。これは、3質量%未満であると添加量が不十分でありクラック発生を抑制できない不具合があり、13質量%を超えると溶液が希釈されすぎて一層当たりの塗布膜厚が薄くなる不具合があるからである。更に好適には、6.5質量%〜10質量%とすることができる。これは、6.5質量%未満であるとクラックが発生し易い不具合があり、10質量%を超えると一層当たりの塗布膜厚が薄くなる不具合があるからである。
【0028】
更に、上記基本含有物と上記処方に従い、PZT系化合物を含有するPZTゾルゲル液の原料液の調製方法を説明する。
【0029】
PZTゾルゲル液の原料液の調製は以下の液合成フローによる。先ず、反応容器に、Zr源と、Ti源と、安定化剤を入れて、窒素雰囲気中で還流する。その次に還流後の化合物にPb源とを添加するとともに、溶剤を添加し、窒素雰囲気中で還流し、減圧蒸留して副生成物を除去した後、この溶液に更にプロピレングリコールを添加して濃度を調節し、更に、この溶液にエタノールを添加する。より典型的には、PZT系化合物の組成比Pb/Zr/Tiが115/52/48(酸化物換算で17質量%以上)となるように、Pb(CH3COO)3)・3H2O、Zr(Oi−Pr)4、Ti(Oi−Pr)4をそれぞれ所定重量秤量し、それらをエタノール等の溶媒に溶解し原料溶液を得る。必要に応じ安定化剤を原料溶液に添加するがこれについては下述する。
【0030】
次に、原料溶液に含有される添加物の添加、混合について説明する。
【0031】
本実施形態に係るPZTゾルゲル液では、上記のようにして得られる原料溶液にモル比がモノマー換算でPZT:ポリビニルピロリドン=1:0.1〜0.5となるようにポリビニルピロリドンを含む粘度調整用の高分子化合物を添加する。当該モル比の根拠は上述した通りである。原料溶液にポリビニルピロリドンを上記のモル比で添加した後、当該溶液を24時間室温で撹拌する。そして、ホルムアミド、n-メチルホルムアミド又はN,Nジメチルアミドのいずれかのホルムアミド系溶剤を含む有機ドーパントを、PZT系ゾルゲル液の3質量%〜13質量%の濃度になるように添加し、2時間撹拌後、24時間室温で安定化させる。
【0032】
また、含有すべき安定化剤や用いる溶媒は以下の通りである。このPZT系ゾルゲル液の中には、必要に応じて安定化剤として、β−ジケトン類(例えば、アセチルアセトン、ヘプタフルオロブタノイルピバロイルメタン、ジピバロイルメタン、トリフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等)、β−ケトン酸類(例えば、アセト酢酸、プロピオニル酢酸、ベンゾイル酢酸等)、β−ケトエステル類(例えば、上記ケトン酸のメチル、プロピル、ブチル等の低級アルキルエステル類)、オキシ酸類(例えば、乳酸、グリコール酸、α−オキシ酪酸、サリチル酸等)、上記オキシ酸の低級アルキルエステル類、オキシケトン類(例えば、ジアセトンアルコール、アセトイン等)、ジオール、トリオール、高級カルボン酸、アルカノールアミン類(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン)、多価アミン等を、(安定化剤分子数)/(金属原子数)で0.2〜3程度添加してもよい。
【0033】
本実施形態で用いる溶媒はエタノールを使用すればよいが、使用する原料に応じて適宜決定する。一般的には、カルボン酸、アルコール(例えば、多価アルコールであるプロピレングリコール)、エステル、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル類(例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル)、シクロアルカン類(例えば、シクロヘキサン、シクロヘキサノール)、芳香族系(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン)、その他テトラヒドロフランなど、或いはこれらの2種以上の混合溶媒を用いることができる。
【0034】
上記のカルボン酸としては、具体的には、n−酪酸、α−メチル酪酸、i−吉草酸、2−エチル酪酸、2,2−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸,3−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2−エチルペンタン酸、3−エチルペンタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、3,3−ジメチルペンタン酸、2,3−ジメチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3−エチルヘキサン酸を用いるのが好ましい。
【0035】
また、上記のエステルとしては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、酢酸sec−アミル、酢酸tert−アミル、酢酸イソアミルを用いるのが好ましく、アルコールとしては、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソ−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2−メトキシエタノールを用いるのが好適である。
【0036】
また、PZTゾルゲル液はβ−ジケトン類及び多価アルコール類を含むようにしてもよい。このうち、β−ジケトン類としてはアセチルアセトンが、多価アルコール類としてはプロピレングリコールが特に好ましい。
【0037】
以上のようにして作製されたPZTゾルゲル液は、スピンコート法、ディップコート法、LSMCD(Liquid Source Misted Chemical Deposition)法等のCSD(Chemical Solution Deposition)法を用いて基板上に塗布され、所定温度、時間で残留溶剤や水などを除去してゲル膜とされた後、仮焼、焼成してPZT系強誘電体薄膜が製造される。
【0038】
以上の本実施形態よるPZTゾルゲル液によれば、高分子の添加により粘性を高め、ホルムアルデヒド系溶媒の添加によりクラックを抑制出来たため、例えばスピンコート法によるスピンコート1回による一層で100nm以上の比較的厚い膜を形成できると共に仮焼、焼成後のPZT膜がクラックレスで緻密となりかつ十分高い強誘電特性をもたらすことが可能となり、生産効率の向上が図れる。
【実施例】
【0039】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0040】
比較試験及び評価は、以下に従った。
【0041】
実施例1〜6及び比較例1、2で得られたPZT膜について、以下の手法により、当該薄膜の仮焼後及び焼成後の層厚及び屈折率を求めた。その結果を表1に示す。また、実施例1及び4並びに比較例2で得られたPZT膜の断面観察及び表面観察を行った。その結果を図1〜6に示す。
(1)層厚測定:得られたPZT膜の層厚を、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製;M−2000)によって測定し、測定結果を表1にまとめた。
(2)屈折率測定:PZT膜の屈折率は、上記分光エリプソメーターによって測定し、測定結果を表1にまとめた。
(3)断面観察:得られたPZT膜の断面を、SEM(日立製作所製;S-4300SE)によって撮影された写真(倍率100,000倍)によって観察した。図1、2は実施例2、4のPZT膜の断面写真であり、図3は比較例2の断面写真である。
(4)表面観察:得られたPZT膜の表面を、SEM(日立製作所製;S-4300SE)によって撮影された写真(倍率25,000倍)によって観察した。図4、5は実施例2、4のPZT膜の表面写真であり、図6は比較例2の断面写真である。
【0042】
<実施例1>
酸化物としてPZTを25wt%含むエタノール溶媒のPZTゾルゲル液50gにポリビニルピロリドン(以下PVPという)(k=30)を,PZT:PVP=1:0.2となるように0.73g添加し、2時間撹拌し、冷蔵庫(5℃)で24時間安定化させた。このようにして得られた溶液にn-メチルホルムアミドを当該溶液の6.5質量%となるように加え、2時間撹拌した。得られた液をSi基板上にSiO2膜、TiO2膜及びPt膜がこの順に形成された基板(以下「Pt/TiOX/SiO2/Si基板」とする)のPt膜上に滴下し、2000rpmで60秒間スピンコーティングを行った。この基板を150℃のホットプレート上で3分間保持し、膜中の残留溶剤や水などを除去した。得られた基板をRTA(Rapid Thermal Annealing、以下同様)処理で仮焼した。仮焼は2.5℃/秒で275℃まで昇温した後、3分間保持し、10℃/秒で460℃まで昇温して8分間保持した。得られた膜の632.8nmにおける屈折率を測定すると2.45であった。この基板をRTA処理で昇温速度10℃/秒、700℃で1分間保持することにより焼成した。得られたPZT膜の屈折率を測定すると2.51であった。得られたPZT膜にスパッタリングによりPt上部電極(200nm)を形成し、電気特性を測定したところ、0Vにおける誘電率が1320を示し高い誘電率を有することが確認できた。また、SEMによる観察から膜厚が250nmであり緻密なPZT膜であることが分かった。
【0043】
<実施例2>
酸化物としてPZTを25wt%含むエタノール溶媒のPZTゾルゲル液50gにPVP(k=30)を,PZT:PVP=1:0.25となるように0.91g添加し、2時間撹拌し、冷蔵庫(5℃)で24時間安定化させた。このようにして得られた溶液にn-メチルホルムアミドを当該溶液の3.0質量%となるように加え、2時間撹拌した。得られた液をPt膜上に滴下し、2000rpmで60秒間スピンコーティングを行った。この基板を150℃のホットプレート上で3分間保持し、膜中の残留溶剤や水などを除去した。得られた基板をRTA処理で仮焼した。仮焼は2.5℃/秒で275℃まで昇温した後、3分間保持し、10℃/秒で460℃まで昇温して8分間保持した。得られたPZT膜の632.8nmにおける屈折率を測定すると2.43であった。この基板をRTA処理で昇温速度10℃/秒、700℃で1分間保持することにより焼成した。得られたPZT膜の屈折率を測定すると2.52であった。
【0044】
得られたPZT膜にスパッタリングによりPt上部電極(200nm)を形成し、電気特性を測定したところ、0Vにおける誘電率が1380を示し高い誘電率を有することが確認できた。また、SEMによる観察から膜厚が330nmであり緻密な柱状組織を有するPZT膜であることが分かった。
【0045】
<実施例3>
酸化物としてPZTを25wt%含むエタノール溶媒のPZTゾルゲル液50gにPVP(k=30)を,PZT:PVP=1:0.45となるように1.64g添加し、2時間撹拌し、冷蔵庫(5℃)で24時間安定化させた。このようにして得られた溶液にn-メチルホルムアミドを当該溶液の3.0質量%となるように加え、2時間撹拌した。得られた液をPt膜上に滴下し、2000rpmで60秒間スピンコーティングを行った。この基板を150℃のホットプレート上で3分間保持し、膜中の残留溶剤や水などを除去した。得られた基板をRTA処理で仮焼した。仮焼は2.5℃/秒で275℃まで昇温した後、3分間保持し、10℃/秒で460℃まで昇温して8分間保持した。得られたPZT膜の632.8nmにおける屈折率を測定すると2.45であった。この基板をRTA処理で昇温速度10℃/秒、700℃で1分間保持することにより焼成した。得られたPZT膜の屈折率を測定すると2.45であった。
【0046】
得られたPZT膜にスパッタリングによりPt上部電極(200nm)を形成し、電気特性を測定したところ、0Vにおける誘電率が1540を示し十分高い誘電率を有することが確認できた。また、SEMによる観察から膜厚が343nmであり、緻密なPZT膜であることが分かった。
【0047】
<実施例4>
酸化物としてPZTを25wt%含むエタノール溶媒のPZTゾルゲル液50gにPVP(k=30)を,PZT:PVP=1:0.45となるように1.64g添加し、2時間撹拌し、冷蔵庫(5℃)で24時間安定化させた。このようにして得られた溶液にn-メチルホルムアミドを当該溶液の6.5質量%となるように加え、2時間撹拌した。得られた液をPt膜上に滴下し、2000rpmで60秒間スピンコーティングを行った。この基板を150℃のホットプレート上で3分間保持し、膜中の残留溶剤や水などを除去した。得られた基板をRTA処理で仮焼した。仮焼は2.5℃/秒で275℃まで昇温した後、3分間保持し、10℃/秒で460℃まで昇温して8分間保持した。得られたPZT膜の632.8nmにおける屈折率を測定すると2.40であった。この基板をRTA処理で昇温速度10℃/秒、700℃で1分間保持することにより焼成した。得られたPZT膜の屈折率を測定すると2.52であった。
【0048】
得られたPZT膜にスパッタリングによりPt上部電極(200nm)を形成し、電気特性を測定したところ、0Vにおける誘電率が1560を示し十分高い誘電率を有することが確認できた。また、SEMによる観察から膜厚が300nmでありかなり緻密化したPZT膜であることがわかった。
【0049】
<実施例5>
酸化物としてPZTを25wt%含むエタノール溶媒のPZTゾルゲル液50gにPVP(k=30)を,PZT:PVP=1:0.45となるように1.64g添加し、2時間撹拌し、冷蔵庫(5℃)で24時間安定化させた。このようにして得られた溶液にn-メチルホルムアミドを当該溶液の13.0質量%となるように加え、2時間撹拌した。得られた液をPt膜上滴下し、2000rpmで60秒間スピンコーティングを行った。この基板を150℃のホットプレート上で3分間保持し、膜中の残留溶剤や水などを除去した。得られた基板をRTA処理で仮焼した。仮焼は2.5℃/秒で275℃まで昇温した後、3分間保持し、10℃/秒で460℃まで昇温して8分間保持した。得られたPZT膜の632.8nmにおける屈折率を測定すると2.43であった。この基板をRTA処理で昇温速度10℃/秒、700℃で1分間保持することにより焼成した。
【0050】
得られたPZT膜の屈折率を測定すると2.43であった。得られたPZT膜にスパッタリングによりPt上部電極(200nm)を形成し、電気特性を測定したところ、0Vにおける誘電率が1530を示し十分高い誘電率を有することが確認できた。また、SEMによる観察から膜厚が270nmであり緻密なPZT膜であることがわかった。
【0051】
<実施例6>
酸化物としてPZTを25wt%含むエタノール溶媒のPZTゾルゲル液50gにPVP(k=30)を,PZT:PVP=1:0.5となるように1.82g添加し、2時間撹拌し、冷蔵庫(5℃)で24時間安定化させた。このようにして得られた溶液にn-メチルホルムアミドを当該溶液の6.5質量%となるように加え、2時間撹拌した。得られた液をPt膜上に滴下し、2000rpmで60秒間スピンコーティングを行った。この基板を150℃のホットプレート上で3分間保持し、膜中の残留溶剤や水などを除去した。得られた基板をRTA処理で仮焼した。仮焼は2.5℃/秒で275℃まで昇温した後、3分間保持し、10℃/秒で460℃まで昇温して8分間保持した。得られたPZT膜の632.8nmにおける屈折率を測定すると2.49であった。この基板をRTA処理で昇温速度10℃/秒、700℃で1分間保持することにより焼成した。
【0052】
得られたPZT膜の屈折率を測定すると2.49であった。得られたPZT膜にスパッタリングによりPt上部電極(200nm)を形成し、電気特性を測定したところ、0Vにおける誘電率が1510を示し高い誘電率を有することが確認できた。また、SEMによる観察から膜厚が314nmであり緻密な膜であることがわかった。
【0053】
<比較例1>
酸化物としてPZTを25wt%含むエタノール溶媒のPZTゾルゲル液50gにPVP(k=30)を,PZT:PVP=1:0.05となるように0.18g添加し、2時間撹拌し、冷蔵庫(5℃)で24時間安定化させた。このようにして得られた溶液にn-メチルホルムアミドを当該溶液の6.5質量%となるように加え、2時間撹拌した。得られた液をPt膜上に滴下し、2000rpmで60秒間スピンコーティングを行った。この基板を150℃のホットプレート上で3分間保持し、膜中の残留溶剤や水などを除去した。得られた基板をRTA処理で仮焼した。仮焼は2.5℃/秒で275℃まで昇温した後、3分間保持し、10℃/秒で460℃まで昇温して8分間保持した。得られたPZT膜の632.8nmにおける屈折率を測定すると2.43であった。この基板をRTA処理で昇温速度10℃/秒、700℃で1分間保持することにより焼成した。
【0054】
得られたPZT膜の屈折率を測定すると2.43であった。得られたPZT膜にスパッタリングによりPt上部電極(200nm)を形成し、電気特性を測定したところ、0Vにおける誘電率は1250を示した。また、SEMによる観察から膜厚が250nmであり、膜中にクラックが存在することが分かった。
【0055】
<比較例2>
酸化物としてPZTを25wt%含むエタノール溶媒のPZTゾルゲル液50gにPVP(k=30)を,PZT:PVP=1:0.75となるように2.73g添加し、2時間撹拌し、冷蔵庫(5℃)で24時間安定化させた。このようにして得られた溶液にn-メチルホルムアミドを当該溶液の6.5質量%となるように加え、2時間撹拌した。得られた液をPt膜上に滴下し、2000rpmで60秒間スピンコーティングを行ったところ、液の粘度が高すぎて均一に塗布するのが困難であった。この基板を150℃のホットプレート上で3分間保持し、膜中の残留溶剤や水などを除去した。得られた基板をRTA処理で仮焼した。仮焼は2.5℃/秒で275℃まで昇温した後、3分間保持し、10℃/秒で460℃まで昇温して8分間保持した。
得られたPZT膜の632.8nmにおける屈折率を測定すると2.12であった。この基板をRTA処理で昇温速度10℃/秒、700℃で1分間保持することにより焼成した。得られたPZT膜の屈折率を測定すると2.12であった。得られたPZT膜にスパッタリングによりPt上部電極(200nm)を形成し、電気特性を測定したところ、0Vにおける誘電率が890を示した。また、SEMによる観察から膜厚が480nmであり、膜中にクラックが存在することが分かった。
【0056】
<総合評価>
表1から、本発明に係る実施例1〜6のPZT膜はいずれも比較例1及び2に係るPZT膜よりも、屈折率が優れていた(表1参照)。また、図1、2と図3との比較並びに図4、5と図6との比較から、本発明に係る実施例2、4のPZT膜は緻密な膜であったが、比較例2に係るPZT膜は緻密さに欠ける膜であった。また、図1、2と図3とを比較すると本発明に係る実施例2のPZT膜はクラックの発生がなかったが、比較例2に係るPZT膜はクラックが発生していた。以上より本発明の強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液をPZT膜の原料に用いることでクラックレスで緻密な膜を有しかつ実用上十分な特性を備えるPZT膜を製造することができることが分かった。
【0057】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の強誘電体薄膜形成用ゾルゲル液は、比較的厚い強誘電体薄膜が要求される薄膜圧電デバイスや薄膜キャパシタ等の強誘電体を含む電子デバイス、電子部品を製造するための前駆体溶液に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6