(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5818013
(24)【登録日】2015年10月9日
(45)【発行日】2015年11月18日
(54)【発明の名称】シリカスラリーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/141 20060101AFI20151029BHJP
B01F 3/12 20060101ALI20151029BHJP
B01F 7/26 20060101ALI20151029BHJP
【FI】
C01B33/141
B01F3/12
B01F7/26 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-81664(P2012-81664)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-209258(P2013-209258A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2014年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】植田 稔晃
(72)【発明者】
【氏名】小泉 博道
【審査官】
西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−210621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
B01F 3/12
B01F 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に突片が設けられている回転盤を備えた混合槽に石英粉と液体を供給し、回転盤と共に回動する突片によって石英粉と液体を撹拌混合してシリカスラリーを製造する方法において、石英粉と液体に接触する回転盤表面および突片表面の動摩擦係数を0.05〜0.4の範囲に設定し、回転盤を500rpm〜2000rpmの回転数で回転することによって、供給した液体中の石英粉の二次粒子径よりも粒径の大きい石英粉凝集体の量が2wt%以下であって、粘度160mPa・S以下のシリカスラリーを製造することを特徴とするシリカスラリーの製造方法。
【請求項2】
製造されたシリカスラリーの温度が30℃〜34℃である請求項1に記載する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英粉と液体を混合してシリカスラリーを製造する方法において、凝集物が少なく低粘度のスラリーを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石英粉と液体を混合してシリカスラリーを製造する方法として、高圧ポンプを用いて石英粉をオリフィスに流通させて分散する方法(特許文献1)、石英粉の噴流を対向衝突させて分散する方法(特許文献2)、多種の混合装置を用いる方法(特許文献3)などが知られている。
【0003】
また、水平な固定壁に向き合うように回転板を設置し、この固定壁と回転板の表面にそれぞれ突片を同心円状に立設し、これら上側の突片と下側の突片とが互いに噛み合うように固定壁と回転板を上下に対向して設置し、固定壁と回転板の間に石英粉と液体を供給して回転板を回転させることによって、石英粉と液体を突片によって撹拌混合してシリカスラリーを製造する装置が知られている(特許文献4)。
【0004】
また、混練盤を上下二段に設け、上段の混練盤の径を小さくし、下段の混練盤の径を大きく形成した混練装置が知られている(特許文献5)。さらに、混合室の内面部に摩擦熱の低い樹脂製スリーブを設けた混練装置が知られている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−70825公報
【特許文献2】特開2003−176123号公報
【特許文献3】特許第4500380号公報
【特許文献4】特公昭53−38828号公報
【特許文献5】特開2002−191953号公報
【特許文献6】特開2004−290908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の混練装置はスラリーに接触する回転体表面に石英粉などが接触し、サブミクロン以下の微細粒子を用いると、十分に混練することができないため凝集物が多くなり、サブミクロン粒子が均一に分散したスラリーを得ることが難しい。またスラリーの粘性が高くなると云う問題がある。
【0007】
本発明は、スラリーの製造における従来の上記問題を解決したものであり、石英粉と液体を混合してシリカスラリーを製造する方法において、凝集物が少なく低粘度のスラリーを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の構成を有するシリカスラリーの製造方法に関する。
〔1〕表面に突片が設けられている回転盤を備えた混合槽に石英粉と液体を供給し、回転盤と共に回動する突片によって石英粉と液体を撹拌混合してシリカスラリーを製造する方法において、石英粉と液体に接触する回転盤表面および突片表面の動摩擦係数を0.05〜0.4の範囲に設定し、回転盤を500rpm〜
2000rpmの回転数で回転することによって、供給した液体中の石英粉の二次粒子径よりも粒径の大きい
石英粉凝集体の量が
2wt%以下であって、粘度
160mPa・S以下のシリカスラリーを製造することを特徴とするシリカスラリーの製造方法。
〔2〕
製造されたシリカスラリーの温度が30℃〜34℃である上記[1]に記載する製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、凝集体の量が大幅に少ないシリカスラリーを製造することができる。具体的には、回転盤表面および突片表面の動摩擦係数を0.05〜0.4の範囲に設定し、回転盤を500rpm〜4000rpm未満の回転数で回転することによって、シリカスラリーに含まれる石英粒子の凝集体(混練で生じる三次粒子)の量が10wt%以下のシリカスラリーを製造することができる。
【0010】
また、本発明の製造方法では、回転盤表面および突片表面の動摩擦係数が上記範囲内であるときに、回転盤の回転数を制御することによって、凝集物の少ないシリカスラリーを製造することができる。例えば、2000rpm〜3250rpmの回転数にすることによって凝集体の量が6wt%以下のシリカスラリーを製造することができ、500rpm〜2000rpmの回転数にすることによって凝集体の量が2wt%以下のシリカスラリーを製造することができる。
【0011】
また、本発明の製造方法によれば、スラリーの温度が低く、かつ低粘度のシリカスラリーを製造することができる。具体的には、温度35℃以下であって粘度250mPa・S以下のシリカスラリーを製造することができる。また、スラリーの粘度は回転盤の回転数を制御することによってさらに低減することができる。例えば、2000rpm〜3250rpmの回転数にすることによって粘度240mPa・S以下のシリカスラリーを製造することができ、500rpm〜2000rpmの回転数にすることによって、粘度160mPa・S以下のシリカスラリーを製造することができる。
【0012】
なお、スラリーの温度が35℃を超えて高くなると、スラリーの粘度が上昇することになり、スラリーの粘度が250mPa・Sを超えて高くなると、スラリーの輸送に支障をきたすようになるため、シリカスラリーは温度35℃以下であって粘度250mPa・S以下であることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の製造方法は、表面に突片が設けられている回転盤を備えた混合槽に石英粉と液体を供給し、回転盤と共に回動する突片によって石英粉と液体を撹拌混合してシリカスラリーを製造する方法において、石英粉と液体に接触する回転盤表面および突片表面の動摩擦係数を0.05〜0.4の範囲に設定し、回転盤を500rpm〜
2000rpmの回転数で回転することによって、供給した液体中の石英粉の二次粒子径よりも粒径の大きい
石英粉凝集体の量が
2wt%以下であって、粘度
160mPa・S以下のシリカスラリーを製造することを特徴とするシリカスラリーの製造方法である。
【0015】
本発明の製造方法に用いる混練装置の一例を
図1に示す。水平な混合槽10の内部に回転盤11が回転軸14によって回転自在に設置されており、該回転盤11の表面に混合槽10の底面に向かって複数の突片12が同心円状に突き出している。突片12の大きさは高さ2〜3cm、および表面積7〜16cm
2の円柱であり、突片12の個数は回転盤直径20〜30cmの円形に対して20〜40個であればよい。また、混合槽10の深さは回転盤10の突片12が混合槽底部から1〜5cm離れる程度であれば良い。なお、本発明の製造方法に用いる混練装置は
図1の装置に限らない。表面に突片が設けられている回転盤を備えた混合槽であれば良い。
【0016】
石英粉と液体(主に水)、あるいは石英粉を含む液体は回転盤11の上面に供給され、回転盤11の遠心力によって回転盤11の外周に送り出され、回転盤11と混合槽10の隙間から回転盤11の下側に流れて混合槽10の内部に溜まる。混合槽内部の石英粉と液体は回転盤11と共に回動する突片12によって撹拌混合されて石英粉が分散したスラリーになり、取り出し口13より外部に流出される。
【0017】
本発明の製造方法は、
図1に示す混練装置のように、表面に突片が設けられている回転盤を備えた混合槽に石英粉と液体を供給し、回転盤と共に回動する突片によって石英粉と液体を撹拌混合してシリカスラリーを製造する場合に、石英粉と液体に接触する回転盤表面および突片表面の動摩擦係数と、回転盤の回転数を所定の範囲に制御することによって、凝集体が少なく、かつ粘性の低いシリカスラリーを製造する。
【0018】
例えば、平均一次粒子径が10nm〜20nmの石英粉を、
図1の混練装置のように、表面に突片が設けられている回転盤を備えた混合槽に供給して撹拌混練すると、混練初期には平均粒子径10〜30μmの凝集体(三次粒子)が多数生じる。
【0019】
この凝集体は撹拌混練が進行すると次第に減少するが、従来の混練方法では、石英粉の60wt%前後が凝集体として残り、石英粉が供給時の粒子径を維持して均一に分散したスラリーを得るのが難しい。従来の混練方法ではシリカスラリーの粘度は500mPa・S以上になり、粘性の低いスラリーを製造するのが難しい。さらに、混合する液体(水)の温度が室温(約10℃〜約20℃)ののときにスラリーの温度は60℃以上になる。
【0020】
本発明の製造方法は、石英粉と液体に接触する回転盤表面および突片表面の動摩擦係数と、回転盤の回転数を所定の範囲に制御することによって、凝集体が少なく、かつ粘性の低いシリカスラリーを製造する。
例えば、上記動摩擦係数を0.05〜0.4の範囲に設定し、回転盤を500rpm〜4000rpm未満の回転数で回転することによって、供給した液体中の石英粉の二次粒子径よりも粒径の大きい凝集体の量が10wt%以下であって、粘度250mPa・S以下のシリカスラリーを製造することができ、
回転盤を500rpm〜2000rpmの回転数で回転することによって、石英粉凝集体の量が2wt%以下であって、粘度160mPa・S以下のシリカスラリーを製造することができる。
【0021】
回転盤および突片の動摩擦係数が0.4より大きいと凝集体が多くなる。具体的には、上記動摩擦係数が0.5〜0.6のとき、回転盤の回転数を3250rpmにしても35wt%以上の凝集体が残り、回転数を2000rpmにおいては40wt%以上の凝集体が残る。なお、動摩擦係数が0.05より小さい材料は見つけ難いので動摩擦係数0.05〜0.4の範囲が適当である。
【0022】
回転盤および突片の動摩擦係数を上記範囲にするには、動摩擦係数が上記範囲になるように表面をコーテングした材料を用いれば良い。動摩擦係数の小さいコーテング材として窒化チタン、炭窒化チタン、DLC、PEEK、PTFEなどが知られている。
【0023】
回転盤表面および突片表面の動摩擦係数が上記範囲内であるときに、回転盤の回転数を制御することによって、凝集物の少ないシリカスラリーを製造することができる。例えば、2000rpm〜3250rpmの回転数にすれば、凝集体の量が6wt%以下のシリカスラリーになる。また、500rpm〜2000rpmの回転数にすれば、凝集体の量が2wt%以下のシリカスラリーを製造することができる。
【0024】
本発明の製造方法は、上記動摩擦係数を0.05〜0.4の範囲に設定し、回転盤を500rpm〜
2000rpmの回転数で回転することによって、粘度
160mPa・S以下のシリカスラリーを製造する
方法である。
【0025】
動摩擦係数が0.4より大きいと、回転盤の回転数を
2000rpmにしてもスラリーの粘度が500mPa・S以上になり、スラリー温度も高くなる。具体的には、上記動摩擦係数が0.5〜0.6のとき、回転盤の回転数を
2000rpmにすると、スラリーの粘度は
780〜820mPa・Sになり、スラリー温度は
60℃になる。
【実施例】
【0026】
本発明の実施例を比較例と共に以下に示す。
〔
実施例1〜15、参考例B1〜B5、比較例1〜4〕
石英粉(フュームドシリカ、平均一次粒子径17nm〜20nm)と純水を
図1に示す混練措置を用いて石英粉の濃度50wt%のスラリーを調製した。回転盤の回転数を表1に示すように設定し、10分間撹拌混練してシリカスラリーを製造した。このシリカスラリーの粘度、凝集体の含有量、および温度を測定した。この結果を回転盤表面および突片表面の動摩擦係数と共に表1〜表3に示した。
なお、スラリーの粘度は東機産業株式会社製のB型粘度計BMII型によって測定した。また、スラリー中の石英粉の粒子径を堀場製作所製のレーザ回折式粒度分布計LA−950で計測し、粒子径が0.2μmを上回るものを凝集体としてその量を測定した。
【0027】
表1に示すように、本発明の製造方法に係るものは、スラリー粘度が粘度250mPa・S以下であり、凝集体の量が10wt%以下である。具体的には、動摩擦係数を0.05〜0.4の範囲において、回転盤の回転数が3250rpmのとき、凝集体の量は4.6〜5.7wt%であり、スラリーの粘度は210〜220mPa・Sである。また、回転盤の回転数が2000rpmのとき、凝集体の量は0.8〜1.9wt%であり、凝集体の量が格段に少なく、またスラリーの粘度は150〜160mPa・Sであり、スラリーの粘度も格段に小さい。さらにスラリーの温度は何れの場合にも30℃〜34℃である。
【0028】
また、表2に示すように、回転盤の回転数が1000rpmのとき、凝集体量1.2〜1.8wt%、スラリー粘度150〜160mPa・S、スラリー温度32℃〜34℃であり、回転数2000rpmの場合とほぼ同じである。また、回転盤の回転数が500rpmの低速では、凝集体量1.6〜1.9wt%、スラリー粘度150〜160mPa・S、スラリー温度30℃〜32℃であり、スラリー粘度と凝集体量は回転数1000rpmの場合とほぼ同じであるが、スラリー温度はやや低い。
【0029】
一方、表3に示すように、動摩擦係数が0.5〜0.6の比較例では、回転盤の回転数が3250rpmのとき、凝集体の量は35.8〜36.5wt%であり、凝集体の量が本発明の製造方法の約10倍であり、また、スラリーの粘度は580〜600mPa・Sであり、スラリーの粘度が本発明の製造方法より約4倍高い。また、回転盤の回転数が2000rpmのとき、凝集体の量は41.8〜42.2wt%であるが、スラリーの粘度は780〜820mPa・Sであり、粘度が大幅に高くなる。また、スラリーの温度は何れも60℃〜66℃であり、本発明の製造方法の約2倍である。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【符号の説明】
【0033】
10−混練槽、11−回転盤、12−突片、13−取り出し口、14−回転軸。