特許第5818053号(P5818053)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 清水建設株式会社の特許一覧
<>
  • 特許5818053-ホウ素含有地下水の処理方法 図000004
  • 特許5818053-ホウ素含有地下水の処理方法 図000005
  • 特許5818053-ホウ素含有地下水の処理方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5818053
(24)【登録日】2015年10月9日
(45)【発行日】2015年11月18日
(54)【発明の名称】ホウ素含有地下水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20060101AFI20151029BHJP
   C02F 1/463 20060101ALI20151029BHJP
   C02F 1/465 20060101ALI20151029BHJP
【FI】
   C02F1/58 H
   C02F1/46 102
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-148460(P2010-148460)
(22)【出願日】2010年6月30日
(65)【公開番号】特開2012-11289(P2012-11289A)
(43)【公開日】2012年1月19日
【審査請求日】2013年1月31日
【審判番号】不服-11291(P-11291/J1)
【審判請求日】2014年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 聡
(72)【発明者】
【氏名】堀内 澄夫
(72)【発明者】
【氏名】川口 正人
(72)【発明者】
【氏名】大崎 雄作
【合議体】
【審判長】 大橋 賢一
【審判官】 河原 英雄
【審判官】 中澤 登
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−160257(JP,A)
【文献】 特開2005−219001(JP,A)
【文献】 特開平9−174058(JP,A)
【文献】 特開2010−46580(JP,A)
【文献】 G.Sayiner,F.Kandemirli,A.Dimoglo,Evaluation of boron removal by electrocoagulation using iron and aluminum electrodes,DESALINATION,2008年 9月30日,Vol.230,issues 1−3,Page.205−212
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58 - 1/64
C02F 1/46 - 1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶存ホウ素を含有する地下水を、鉄を成分として含む電極を陽極、炭素を成分として含む電極を陰極として使用して通電処理し、凝集物を地下水から分離する、ホウ素含有地下水の処理方法。
【請求項2】
通電処理後の地下水のpHが7.5〜10.5である、請求項1に記載されたホウ素含有地下水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶存ホウ素を含有する地下水を通電処理し、凝集物を地下水から分離するホウ素含有地下水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多量のホウ素の摂取は食欲不振、嘔吐等の健康被害を起こす可能性がある。そこで、1999年2月、「ホウ素 1mg/L以下」が水の環境基準(水質汚濁に係る環境基準)に追加され、その後、「ホウ素」が土壌の環境基準(土壌の汚染に係る環境基準)の項目に追加された。更に、2004年7月からのホウ素及びその化合物の排水基準は海域で230mg/L以下、海域以外で10mg/L以下とされている。
溶存ホウ素を含有する被処理水からホウ素を除去する主な方法は次のとおりである。
(1)薬剤を、溶存ホウ素を含有する被処理水に添加し、溶存ホウ素を難溶性物質として沈殿させ分離させる。例えば、多価陰イオン性物質と希土類元素イオンを、溶存ホウ素を含有する被処理水に存在させ、pHを9〜13にして溶存ホウ素を難溶性物質として沈殿させ分離させるホウ素含有排水の処理方法が、当該方法の1つとして検討された(例えば、特許文献1参照)。
(2)逆浸透膜を使用して、溶存ホウ素を含有する被処理水から溶存ホウ素を膜分離する(例えば、特許文献2参照)。
(3)溶存ホウ素を含有する被処理水を木材粉に接触させ、溶存ホウ素を木材粉に吸着させる(例えば、非特許文献1参照)。
(4)溶存ホウ素を含有する被処理水をアルミニウム電極を使用して電気分解し、溶存ホウ素を凝集物として分離する(例えば、非特許文献2参照)。
(5)溶存ホウ素を含有する被処理水を樹脂に接触させ、溶存ホウ素を除去する。溶存ホウ素を含有する被処理水をホウ素濃度30mg/L以下、pH7.0〜9.5に調整し、ホウ素選択吸着樹脂塔に通水してホウ素を除去する方法が、当該方法の1つとして検討された(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−963号公報
【特許文献2】特開2006−102624号公報
【特許文献3】特開2001−340851号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】化学工学論文集、第35巻第1号、2009、第55頁〜第59頁
【非特許文献2】J.-Q.Jiang et al., Environ. Chem. 3, 2006, 第350頁〜第354頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
種々のイオンを含有する地下水を上記(3)〜(4)の方法で処理しても、当該地下水から溶存ホウ素を有効に除去できず、相当量のホウ素が当該地下水中に残存した。上記(1)の方法は、多量の薬剤が必要となり、また、残渣が大量に発生するため、実用的ではなかった。上記(2)の方法は、飲料水用に開発されている方法であり、膜分離の効率を高めるために様々な前処理が必要であるほか、高濃度ホウ素排水の処理が必要となるなどの課題がある。更に、上記(4)の方法は、アルミニウム電極から溶出する被処理水中のアルミニウムイオンの濃度が700mg/L以上(消費電流値が1000A・hr/m以上)になると、被処理水の粘度が大きくなり、凝集物の濾過が困難になるほか、本発明者の実験的検討結果によれば、除去効果が共存成分により著しく失われる。上記(5)の方法は、種々のイオンを含有する地下水から比較的有効に溶存ホウ素を除去できたが、溶存ホウ素を除去する樹脂はかなり高価であり、樹脂再生等で発生する残渣を別途処理しなければならない。従って、上記(5)の方法による種々のイオンを含有する地下水からの溶存ホウ素除去のランニングコストは高価である。
近年、種々のイオンを含有する地下水から溶存ホウ素を有効に除去できる安価な方法が希求されていたが、有効な方法は見出されていなかった。本発明が解決しようとする課題は、種々のイオンを含有する地下水から溶存ホウ素を有効に除去できる安価な方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、溶存ホウ素を含有する地下水を鉄を成分として含む電極を陽極、炭素を成分として含む電極を陰極として使用して通電処理し、凝集物を地下水から分離するホウ素含有地下水の処理方法が、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明のホウ素含有地下水の処理方法は、溶存ホウ素を含有する地下水を、鉄を成分として含む電極を陽極として使用して通電処理する。上記処理方法における通電処理後の地下水の好ましいpHは7.5〜10.5である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のホウ素含有地下水の処理方法は、種々のイオンを含有する地下水から低電流で有効に溶存ホウ素を除去でき、また、残渣量が少ないため、そのランニングコストは安価である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】通電処理槽を示す図
図2】地下水を通電処理した後の溶存ホウ素濃度とpHの関係を示す図
図3】別の地下水を通電処理した後の溶存ホウ素濃度とpHの関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のホウ素含有地下水の処理方法で処理される溶存ホウ素を含有する地下水は、ホウ素イオン以外のイオンを含有し得る。ホウ素イオン以外の当該イオンの具体例は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン、フッ素イオン、塩素イオン、硫酸イオンである。これらのイオンは、地下水に含有されている。
【0010】
本発明のホウ素含有地下水の処理方法で使用される装置の陽極の少なくとも1つは鉄を成分として含む電極である。鉄を成分として含む電極からFe2+が溶出し、Fe2+とOHが反応してFe(OH)が生成する。本発明のホウ素含有地下水の処理方法で処理される地下水から溶存ホウ素が除去される機構は未解明であるが、Fe2+、Fe(OH)を主成分とする凝集体とホウ素との相互作用で、ホウ素が当該凝集体に吸着してくると推察される。鉄以外の金属で構成される電極が陽極の一部として併用されていてもよいが、あくまでも主体は鉄で構成される。鉄以外の金属の具体例は、アルミニウム、アルミニウム/マグネシウム合金(ジュラルミン)である。
【0011】
本発明のホウ素含有地下水の処理方法で使用される装置の陰極は、炭素を使用して構成する。
【0012】
地下水中の溶存ホウ素濃度は、通電処理後の地下水のpHに影響される。地下水の成分によって影響を受けるが、好ましい当該pHは7.5〜10.5であり、更に好ましい当該pHは7.7〜9.0である。通電処理後の地下水のpHは、地下水の初期pH、電流、通電処理時間等により調整される。
通電処理後、凝集物は濾過、遠心分離等の分別手段で地下水から分離される。
【実施例】
【0013】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
水中の各種イオンの定性分析及び定量分析は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)法により行われた。
図1は、通電処理槽を示す図である。地下水2が通電処理槽1中に貯えられており、2つのカーボン電極3が陰極とされ、2つの金属電極が陽極とされている。一方の金属電極4aは1つのカーボン電極3と面している。他方の金属電極は2つの金属電極4bと4cが溶接されており、2つのカーボン電極3と面している。
【0014】
2種類の地下水が準備された。それらの地下水に含まれるイオンの種類と濃度を表1に示す。
【0015】
【表1】
【0016】
実施例1
図1に示される通電処理槽の3つの金属電極4a、4b及び4cを鉄電極とし、地下水中のFe2+濃度を一定にするために電流を12Aで一定にして地下水Aの通電処理を1分間行い、地下水中の溶存ホウ素濃度を測定した。結果を表2に示す。なお、表2中の陽極の面数とは陰極に相対する陽極の表面の数であり、例えば、陽極と陰極が1本づつある場合、陽極の面数は1であり、陽極1、陰極1、陽極2、陰極2の順に電極が並んでいる場合、陽極1の面数は1であり、陽極2の面数は2である。
【0017】
実施例2〜5及び比較例1〜4
図1に示される通電処理槽の3つの金属電極4a、4b及び4cを表2に示される種類と数の金属電極とし、実施例1と同じ条件で地下水Aの通電処理を行い、地下水中の溶存ホウ素濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0018】
【表2】
【0019】
少なくとも1つの鉄電極を陽極として使用した実施例1〜5の通電処理の結果得られた地下水中の溶存ホウ素濃度は、鉄電極を陽極として使用しなかった比較例1〜4の通電処理の結果得られた地下水中の溶存ホウ素濃度より小さかった。なお、実施例1〜5の地下水Aの通電処理の結果は、鉄電極のみを使用した通電処理の優位性を示していないが、別の地下水を通電処理した結果、鉄電極のみを使用した通電処理のホウ素除去率は62〜70%であったのに対し、鉄電極とアルミニウム電極を組み合わせた通電処理のホウ素除去率は19〜44%と相対的に低かった。
【0020】
実施例6
地下水Aの初期pHが1.6〜3.6となるように1M−HClで調整し、図1に示される通電処理槽の3つの金属電極4a、4b及び4cを鉄電極とし、地下水中の鉄濃度が一定となるように消費電流値を755A・hr/mで一定にして通電処理を行い、通電処理後の地下水のpHと地下水中の溶存ホウ素濃度の関係を調べた。結果を図2に示す。通電処理後の地下水のpHが7.5〜10.5のとき、地下水中の溶存ホウ素濃度が相対的に低かった。
実施例7
地下水Bの初期pHが2.5〜7.4となるように1M−HClで調整し、図1に示される通電処理槽の3つの金属電極4a、4b及び4cを鉄電極とし、地下水中の鉄濃度が一定となるように消費電流値を252A・hr/m又は377A・hr/mで一定にして通電処理を行い、通電処理後の地下水のpHと地下水中の溶存ホウ素濃度の関係を調べた。結果を図3に示す。地下水中の鉄濃度によらず、通電処理後の地下水のpHが7.5〜10.5のとき、地下水中の溶存ホウ素濃度が相対的に低かった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明のホウ素含有地下水の処理方法は、種々のイオンを含有する地下水からの有効でかつ安価な溶存ホウ素除去に好適である。本発明のホウ素含有地下水の処理方法でホウ素をはじめとする種々のイオンを含有する地下水からホウ素を除去する際に必要とされる電圧は12V以下、通常5V程度であるから、太陽電池で得られる電力で本発明のホウ素含有地下水の処理方法を実施できる。更に、本発明のホウ素含有地下水の処理方法は、大量の薬剤及び大規模な設備を必要としない。従って、本発明のホウ素含有地下水の処理方法を僻地で実施できる。
【符号の説明】
【0022】
1…通電処理槽、2…地下水、3…カーボン電極、4…金属電極
図1
図2
図3